ウクライナ危機後の世界 大野和基編
7名(ユヴァル・ノア・ハラリ、ジャック・アタリ、ポール・クルーグマン、ジョセフ・ナイ、ティモシー・スナイダー、ラリー・ダイアモンド、エリオット・ヒギンズ)が、ウクライナ戦争およびその後について書いている。
ウクライナ危機後の世界 大野和基編 宝島社新書 2022年6月 224頁 |
プーチンが勝てば、このやり方が「ニューノーマル」になってしまう。各国の軍事費は急増するし、核を保有しようとする国が増える。プーチンを勝たせてはいけない。他国に侵略しても特にならないことを知らしめるべきだというのが西側諸国の共通の認識である。
平和の色合いは国防費を見ればわかるという。ここ数年の世界の国々の軍事費は国家予算の平均5〜6%。EU加盟国では3%に下がった。ロシアは国の予算の20%を軍事費に費やしていた。ちなみに、日本はGDP比1.24%(2022年)だった。
ウクライナ戦争がもたらすプラスの面は、西側諸国の文化的分断が回避される。特に西欧の国々に広がっていたナショナリズムとリベラリズムの間にある溝が埋まる。もうひとつは、ロシアの化石燃料をあてにすることなく、クリーン・エネルギーための新マンハッタン計画がスタートすることとなる。(ユヴァル・ノア・ハラリ)
権威主義国家は民主主義国家を貶めることで、自国民が民主主義に感化されないように、民主主義国の人種差別や経済格差を強調したり、国家元首を貶めたりする。
ロシアをボイコットすることは最も愚かで非生産的な決定であり、ロシアはヨーロッパであるべき。世界の平和はロシアの民主化が絶対条件である。(ジャック・アタリ)
脱グローバリゼーションで世界経済はブロック化される。(ポール・クルーグマン)
プーチンは今やいかなる倫理観も持ち合わせていない。(ジョセフ・ナイ)
プーチンは三流のファシスト哲学者イヴァン・イリインの思想を取り入れた。
イリインは、レーニンの赤軍によるボルシェヴィキ革命から祖国を守るには、ファシズムになることによってのみ可能であると考えた。その救世主は国家元首であり、独裁者であるべきで、一党独裁すら不十分であるとする。プーチンとその取り巻きの振興財団(オリガルヒ)は、イリインの思想を悪用して少数の富裕層による寡頭政治を正当化した。
2012年に書かれたプーチンの論文には、ロシアとはカルパチア山脈からカムチャッカ半島までの広大な土地に広がるロシアという文化を共有する人々のことであり、ロシアは国家を超えた偉大な文明である。文化を共有するものは友であり、そうでないものは敵である。
このような帝国主義的な考えによれば、ウクライナ人もウクライナという国も存在しないことになる。(ティモシー・スナイダー)
権威主義国の「シャープパワー」とは?
ロシアの権威主義をハードパワー、ソフトパワー、シャープパワーという観点で見ると、ハードパワーとは軍事力や経済的強制力、ソフトパワーとは文化活動や独立メディア、市民団体への助成金などを通じて得られる影響力のことである。
シャープパワーとは、ソーシャルメディアなどを利用した介入操作によって、民主主義に分裂をもたらす力のこと。
クリントン対トランプの大統領選で、ロシアが民主党の全国委員会のファイルに侵入して、民主党員の15万通に及ぶメールを漏洩させた。クリントン候補の信用失墜に影響を与えた。
イギリスのブクレジットにも影響を与えた。
賄賂はシャープパワーの重要な道具である。つまり民主主義国家を陥れる手段として使われている。21世紀になって民主主義が後退したのは、シャープパワーのせいもある。
1990年の初頭、ソ連が解体し東西冷戦が終焉を迎えて、専制国家の43%が民主主義国家に移行した。2000年代に入るとその割合は20%に減少し、2010年代には17.3%まで落ちた。民主主義体制の国は少数派になりつつあるのだ。
2019年、世界の人口の52%は非民主主義国に住んでいる。
ウクライナ戦争は、もはや二国間の戦争ではない。民主主義と権威主義のいずれかが世界を担うのかを賭けた戦いである。(ラリー・ダイアモンド)
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