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2022年10月

2022年10月29日 (土)

風と行く者 守り人外伝 上橋菜穂子

バルサは旅芸人の一団サダン・タラム(風の楽人)の用心棒(護衛士)を引き受けた。
いま、サダン・タラムを率いているのはエオナである。かつてはエオナの母親サリが率いていた。20年前、バルサが16歳のときに、バルサは養父ジグロとともにサリが率いるサダン・タラムの用心棒を引き受けたことがあった。ジグロに用心棒家業のすべてを仕込まれている頃のことだ。 その頃のことは、短篇「十五の我には」(『炎路を行く者: 守り人作品集』/新潮文庫/2017年に収録)にも、書かれている。
Photo_20221029182701風と行く者 守り人外伝
上橋菜穂子
新潮文庫
2022年8月 467頁

ロタ王国のラクル地方にはターサ氏族のアール家とロタ氏族のマグア家の間で、古来、争いが絶えなかった。そんな、反目する氏族がともに女神に感謝する「ハンマの星祭り」では、両氏族の若者に一夜限りの恋が許された。そして「ハンマの星祭り」で、両氏族の間にできた子どもは〈楽しみの子〉と呼ばれ、それがサダン・タラムの祖先である。サダン・タラムは両氏族間の抗争で命を落とした人々のもとを訪れ、鎮魂の歌や舞を披露することを生業としてきた。

数百年前、氏族間の争いを終結させようとマグア領にひとりで乗り込んだアール家の当主ラガロは、マグア領内で謎の死を遂げた。しかし、その後は表だった争いは影を潜めていた。

ロタでは祭儀場の建て替えに高価なマハラン材を使うという。ターサ氏族の名門アール家がマハランの木が生えている森林地帯を所有している。アール家は貧しいが気位が高く、ターサ氏族の育てた神聖な木をロタ氏族に使わせるなどとんでもないという態度だった。ところがアール家の長男がロタのマグア家の娘オリアに恋をして結婚にこぎつけたことで、祭儀場の建て替えが行われたのである。

第2章では、20年前、ジグロとバルサがサダン・タラムの護衛士として雇われたときの話が回顧される。サダン・タラムの頭サリの命が狙われるが、その理由はわからない。バルサが斥候に出て、襲われそうな場所を特定した。ジグロが囮になってバルサが3人の射手を弓で狙うということになった。その作戦は見事に成功し、サダン・タラム一行はアール家にたどり着いた。斥候の情報集めの正確さ、射手を向かえうつバルサの身の置き方の絶妙さをジグロは褒める。そして、護衛士の役目が終わると、ジグロは情を交わす関係になったサリと、縁を切って姿を消した。

現在、バルサが護衛するサダム・タラムは病に臥すサリの代わりに、娘のエオナが率いている。サダム・タラムはアール領にあるエウロカ・ターン(森の王の谷間)に向かっている。エウロカ・ターンにはサダム・タラムの頭と領主しか足を踏み入れることがない禁域である。そこには、何か重要な秘密が隠されているに違いない。またしてもサダム・タラムの頭エオナの命が狙われるのである。

アール家の若き女当主ルミナの母親オリアは何かを隠したまま、最近、夫とともに事故で亡くなった。20年前に、バルサはオリアやサリやジグロとともに、エウロカ・ターンに入ってオリアたちの行動の一部を目撃していたのである。

もう少しでアール家に着くというときに2人の射手に襲われた。バルサは相手の血飛沫を浴びながら2人を殺した。ジグロの教えはバルサの身に染み込んでいるのだ。
そして数百年来の謎の全貌が明らかにされる。
本書は二世代に渡る物語である。人が年老いて死ぬ。そして次の世代に引き継がれていく。それは連綿と繋がっていくことだ。そうした時代の移り変わりのなかに物語が描かれている。→人気ブログランキング
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精霊の守り人
闇の守り人
夢の守り人
虚空の旅人
神の守り人来訪編
神の守り人帰還編
蒼路の旅人
天地の守り人 第1部 ロタ王国編
天地の守り人 第2部 カンバル王国編
天地の守り人 第3部 新ヨゴ皇国編
獣の奏者1 闘蛇編
獣の奏者2 王獣編
獣の奏者3 探求編
獣の奏者 外伝 刹那
流れ行く者 守り人短編集
炎路を行く者 守り人作品集
風と行く者 守り人外伝
バルサの食卓
孤笛のかなた
鹿の王
水底の橋 鹿の王 

2022年10月23日 (日)

『燃えよ剣 下』司馬遼太郎

七里剣之介は歳三殺しを引き受けると伊東甲子太郎にいう。伊東は歳三を殺せば、近藤勇を勤王派にしてみせるという。
飲み屋で歳三と七里は出くわし、二条河原で一対一の決闘をすることになった。
七里は歳三に斬られるが、助っ人が歳三に襲いかかった。そこに飲み屋の親父から 通報を得た沖田総士が馬で駆けつけ歳三を助けた。
伊東は脱退し薩摩藩と手を結んだ。組員は動揺しさらに脱退者が出た。送別の日、斎藤一は脱退者を斬った。

Photo_20221023115801『燃えよ剣 下』
司馬遼太郎
新潮文庫 
1972年 553頁

新選組は幕臣に取り立てられた。
歳三は江戸に隊員を募りに戻った。歳三が江戸で隊員の募集を行っているうちに、大政奉還(1867年慶応3年11月10日)が行われた。
近藤は政治家になりすぎた。一界の武人に過ぎない近藤が分不相応の名誉と地位を得て、政治と思想に首をつっこんだ。近藤の滑稽さはそこにあったという。

新選組は壬生から伏見に陣を移した。近藤が伏見の陣から二条城に出向いたとき、待ち伏せにあい、馬上で肩を撃たれた。幕府御典医・松本良順が、近藤と結核の沖田総士の治療にあたった。伏見に新選組は引っ越す。なぜか松本良順は新撰組と深い関わりがある。
鳥羽・伏見の戦いに始まる戊辰戦争になった。戦いが終わると、慶喜(将軍)と容保(会津中将)は大坂城の裏口から逃げた。

新選組ほか幕府軍は富士山丸に乗って江戸に舞い戻った。新選組43名は品川で降りて、釜谷という旅籠に泊まった。

鳥羽・伏見の戦い以降、それまで中立を保っていた諸侯は、薩長を代表とする時流の流れに乗ってほとんどが官軍になった。紀州、尾州、水戸の御三家はおろか、親藩、さらに譜代筆頭の井伊家さえ官軍になった。

甲府勤番支配佐藤駿河守が近藤勇に、官軍にとられる前に甲府百石をを奪還すれば50万石を当てるという。ところが兵は200人しか集まらない。甲府に入って兵を募れば何とかなると、近藤は言う。

しかし駿府に走った歳三の要請に援軍が得られず、江戸に舞い戻った。
そして下総流山に行く、そこで近藤勇は官軍の本陣に行って、新選組は錦の御旗にはむかわないと釈明するというう。「馬鹿か」と歳三は言う。
近藤のその決意は変わらなかった。そして近藤は官軍に捕縛され板橋で斬首の刑にあった。
沖田はその1ヶ月後千駄木の植木屋の離れで息を引きとった。
そして慶喜は江戸城を明け渡した(1868年3月〜4月)。
歳三は伝習隊を率いて新選組に合流した大鳥圭介が気に食わない。流山から宇都宮城を攻めた。仙台へ向かうが、伊達は歓迎していない。

榎本武揚と大鳥圭介、歳三は幕艦開陽丸で函館に向かっている。
維新政府の大官になった旧幕臣の中で、新選組を情熱的に愛したのは初代軍医総監の松本良順、次いで榎本武揚である。
船を寄せて敵の船に接近し舷側をくっつけて乗り移り、軍艦を丸ごと乗っ取るという海賊の発想は歳三にとって突拍子もない戦術ではなかった。榎本武揚はそのような状況を想像するだにできなかった。
本書には小姓市村鉄之助について記述があるが、『一刀斎夢録』にも、最後まで生き残った若い隊士として描かれている。

1868年(明治元年)10月20日、歳三たちは北海道松前の鷲ノ木に上陸した。上陸後10日で函館を占領した。函館郊外にある五稜郭に本営をおいた。松前城を攻略し、そこにいた松前藩主の正室が身重でいた。歳三は斎藤一と松本捨助に正室を江戸までお供するように命じた。
北海道全域を支配下においた歳三たちは榎本武揚を総裁とする蝦夷共和国を樹立させた。
しかし、既に旧幕艦隊は主力艦を失っていた。一方官軍は最新鋭の装甲艦を購入していた。歳三は天賦の才能で寡兵をもって官軍を押しとどめ続けた。しかし官軍の援軍部隊が次第に増え、ついには函館と五稜郭の防衛に徹することとなった。
歳三はもはや敗戦は避けられないと悟り、己の最期を戦い抜いて死ぬことに決めた。長引けば捕縛され生きながらえることになる。新選組として戦い亡くなった同志たちに顔向けができない。歳三は新選組の残党とともに突喊攻撃を仕掛けるも、寡兵の不利を覆すことはできなかった。覚悟を決めた歳三は参謀府に斬り込みをかけるが、官軍の一斉射撃を浴びた。→人気ブログランキング
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燃えよ剣 上 司馬遼太郎 新潮文庫 1972年
燃えよ剣 下 司馬遼太郎 新潮文庫 1972年

2022年10月20日 (木)

“少女神”第9号 フランチェスカ・リア・ブロック

主人公の少女たちは、サブカルチャーの中で、思春期の勘をたよりに、傷つきやすく感じやすく、あるいは、破天荒に、生きている。そんな9篇の短篇が収録されている。
著者のブロック・フランチェスカ・リアは、1962年ロサンゼルスのハリウッド生まれ。カリフォルニア大学バークリー校在籍時に初めて書いた小説『ウィーツィー・バット』とそのシリーズで、新しいヤングアダルトの書き手として一躍注目を集め、その後発表した作品も軒並み高評価を得る。2005年には、ヤングアダルトの執筆活動がアメリカ図書館協会に認められて“Margaret Edwards Award”を受賞した (著者紹介情報より)。

本書は、『娼婦の本棚』(鈴木涼美/中公新書ラクレ/2022年)で紹介されていた。〈オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間を、パステルカラーのジーンズやヒョウ柄のソファーや M&Mの緑色のチョコやダイエットソーダで彩りながら、9篇の物語にしたのがフランチェスカ・リア・ブロックの『”少女神“第9号』です〉と紹介されている。
E74908b9e9c14f5c94a2a1057fc283c9“少女神”第9号
フランチェスカ・リア・ブロック/金原瑞人
ちくま文庫
2015年  247頁

「ブルー」ラーという名前はママがつけた。バスルームでママが自殺した。パパは酒ばかり飲んでいる。ママが大好きな詩人の名前をつけた人形たちが2人掛けのソファーに座っている。夢にママが誰かといて、あなたの名前はブルーよと言った。その日からブルーはラーの話し相手になった。先生が自分の好きな人のことを書きなさいと宿題を出した。先生はよく書けているから、みんなの前で朗読しなさいと言った。初めはうまくいかなかったが、だんだん調子にのってきた。読み終えると、友達がラーのママって素敵な人だったのねと言ってくれた。

「マンハッタンのドラゴン」タックには2人の芸術家のママ、イジーとアナスタシャーとマンハッタンで暮らしている。クラスの男の子からママが2人いてパパがいないのかと大声で言われた。パパを探しにいくことにした。そしてサンフランシスコに着いた。勘が冴え、パパとママが泊まったホテルに泊まり、パパの過去に近づいていく。

「”少女神“9号」
2人の少女が同人誌『少女神』を発刊し、大好きな作家に送った。作家は、歌手のニックに紹介したいからもう1部送るようにとの返事がきた。さらにニックのマネージャーからの封書には2枚のコンサート招待券と、雑誌にインタヴュー記事を掲載するからニックの私邸に来るようにとの手紙が同封されていた。2人は舞い上がる。

「レイヴ」
レイヴは顔のスタイルもフランスのスーパーモデルのようで、毎朝リムジンで登校する。ぼくは母親から可愛かった子ども時代にロックバンドのボーカルとして稼がされた。レイヴは昔ぼくに夢中だった。それで打ち解けた。レイヴの美容法はロックスターの体液だという。
そんな15歳のレイヴの成績はオール5だった。その後レイヴとは疎遠になった。ぼくは20代になり、レイヴのその後のことを聞いた。17歳でヘロインの過剰摂取で亡くなったという。

その他、「トゥイーティー・スイートピー」「キャニオン」「ピクシーとポニー」「ウィニーとカビー」「オルフェウス」が収録されている。
解説の山崎まどかによれば、〈アメリカの女性たちにとって、フランチェスカ・リア・ブロックと彼女の書く物語がいかに特別な存在なのか、よく分かる。〉という。→人気ブログランキング
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2022年10月15日 (土)

娼婦の本棚 鈴木涼美

著者は、大学生時代にAVに出演し、そのあとキャバクラ嬢をしながら東大の大学院を卒業して、フリーのライターになった。本書は書評でありエッセイでもある。性風俗で働きクスリもやって気づいたら30歳代後半になっていた。知り合いには自殺をしたり、行くへ不明になった者もいる。そういう人生を送ってきたもののまともでいられたのは、読書のおかげだという。
本書のメインテーマは、オンナノコからオンナになるまでの精神的に不安定な時期の葛藤である。思春期の自身を分析し見つめ直す、そのような内容の書籍が多く取りあげられている。
迫力満点の表紙カバーは「娼婦だったけど、文句ある」と言わんばかりである。
3c60afbeb80d41fe80529da381aa501a娼婦の本棚
鈴木涼美
中公新書ラクレ
2022年 253頁

著者が紹介する本は以下の20冊。
『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル/『”少女神“第9号』フランチェスカ・リア・ブロック/『悲しみよ こんにちは』サガン/『いつだってティータイム』鈴木いずみ/『Pink』岡崎京子/『性的唯幻論序説 改訂版「やられる」セックスはもういらない』岸田秀/『蝶々の纏足』山田詠美/『わが悲しき娼婦たちの思い出』ガルシア・マルケス/大胯びらき』ジャン・コクトー/『遊女の対話』ルーキアーノス/『ぼくんち』西原理恵子/『大貧帳』内田百聞/『シズコさん』佐野洋子/『夜になっても遊びつづけろ』金井美恵子/『私家版 日本語文法』井上ひさし/『モダンガール論』/『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』鷲田清一/『桃尻娘』橋本治/『モモ』ミヒャエル・エンデ/風の谷のナウシカ』宮崎駿

これらのなかで、特に気にかかるのは以下の2冊。
『”少女神“第9号』の項には、「オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間を、パステルカラーのジーンズやヒョウ柄のソファーや M&Mの緑色のチョコやダイエットソーダで彩りながら、9篇の物語にしたのがフランチェスカ・リア・ブロックの『”少女神“第9号』です」と書いている。→『“少女神“第9号』

もうひとつは、『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』である。ファッションついての哲学的な論考の書である。
本項では、「ファッションにはそういう意味で、初めから不良性が、いかがわしさがつきまとう。もともと等身大のファッションなんてありえないのであって、つねに背伸びするか、萎縮するか、つまりサイズがずれてしまうのが人間だ」という鷲田清一の文章で結んでいる。→人気ブログランキング
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娼婦の本棚/鈴木涼美/中公新書ラクレ/2022年 
AV女優、のち/安田理央/角川新書/2018年
職業としての地下アイドル/姫乃たま/朝日新書/2017年

2022年10月 1日 (土)

超訳 芭蕉百句 嵐山光三郎 

硬軟織り交ぜて芭蕉を語らせたら、著者ほどの優れた書き手はいない。なにしろ高校生の頃から芭蕉を追いかけてきた。本書は芭蕉に関する著者の集大成といえる作品だ。本書はどこか不穏な雰囲気を含んでいる。それは『おくの細道』の旅は、芭蕉の諜報活動を兼ねているという前提で書いていることによる。
もともと芭蕉は自分の句を何度も改訂して、ああでもないこうでもないと推敲を重ねるたちだという。『おくの細道』は、旅を終えてから5年をかけて推敲した。その間、諜報活動の痕跡を消す作業も行われたという。『おくの細道』は膨大な部分をそぎおとして、原稿用紙で30枚程度のものになった。
Photo_20221001195201超訳 芭蕉百句
嵐山光三郎
ちくま新書
2022年9月 318頁

寛永21年(1644年)に、伊賀上野の無人足の家に生まれた芭蕉は、藤堂家若君蟬吟の伽役として召し抱えられた。芭蕉は衆道好みであった。蟬吟が亡くなると、江戸に出て日本橋に居を構えた。芭蕉の仕事はは水道工事の元締めだった。

犬将軍と呼ばれた五代綱吉(在位1680年 〜1709年)は125センチほどしかない小男で、マザコンだったという。四代家綱時代に権勢を奮っていた大老を罷免することで威力を示すようなところがあり、粛清の嵐が吹き荒れた。
日本橋に居を構えていた芭蕉は、『桃青門弟独吟二十歌仙』を刊行して目立っていた。深川の芭蕉庵に姿を隠して、桃青という俳号も捨てた。深川へ隠棲した理由は身の危険を感じたからである。

『おくのほそ道』の2番目の句「行く春や鳥啼き魚の目は泪」は、前途3千里の旅を前にして、親しい人たちに別れを告げて詠んだ句である。
『おくの細道』の旅の目的は、伊達藩の動向を探ることであった。日光東照宮の改築を命ぜられた伊達藩は大赤字であったが、その命に応じなければならなかった。そこで、芭蕉と同行した曾良は伊達藩に不穏な動きがないかと探る諜報の旅に出た。
曾良は前もって調べていた。通常、蜂起は寺に集まって行われる。したがって、生垣を高くした寺はなかったのかを曾良は探っていた。

日光では「あらたうと青葉若葉の日の光」と詠み「日の光」をたたえ、平泉では「五月雨の降のこしてや光堂」と五月雨の光堂を拝した。月山では「月光」の擬死を体験した。曾良の「旅日記」によると芭蕉は弥陀ヶ原で昼食をとり、一気に月山を登った。「難所なり」とある月山は標高1984メートルで、芭蕉が生涯登った山の中で一番高い。決死の覚悟であっただろうという。

芭蕉は北上して秋田、津軽行きを望んでいたことは、江戸の弟子に出した手紙でわかる。それを曾良が止めたのは象潟以北は幕府調査官としての曾良には、さして意味がない地であったからだ。曾良には日光以外にも各地の動向を探る職務があった。ひとつは寺社であり、もうひとつは港である。北前船の航路ある日本海の港の様子は重要な機密事項である。さしずめ酒田、瀬波、新潟、出雲崎、直江津、金沢、敦賀は調査する港であった。『おくの細道』の旅は、風雅を求める芭蕉と調査官である曾良との折り合いの上に成り立っているという。
出雲崎で詠んだ句「荒海や佐渡によこたふ天の川」は、フィクションである。その日の曾良の記述によれば夜半から雨が降ったという。

「秋深き隣は何をする人ぞ」は、芭蕉が亡くなる15日前に詠んだ句である。辞世の句といっていいという。この頃弟子たちの不仲で句会は荒れ、芭蕉の手に追えないこともあった。芭蕉は予定の句会には出席できず、病床に臥した発句としてを句会に送った。
著者が100番目に挙げた句「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」は、芭蕉はただ病中の吟であると言ったという。芭蕉は、元禄7年(1694年)に亡くなった。享年51歳であった。
芭蕉没後、蕉門は激しく分裂したという。→人気ブログランキング
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