風と行く者 守り人外伝 上橋菜穂子
バルサは旅芸人の一団サダン・タラム(風の楽人)の用心棒(護衛士)を引き受けた。
いま、サダン・タラムを率いているのはエオナである。かつてはエオナの母親サリが率いていた。20年前、バルサが16歳のときに、バルサは養父ジグロとともにサリが率いるサダン・タラムの用心棒を引き受けたことがあった。ジグロに用心棒家業のすべてを仕込まれている頃のことだ。 その頃のことは、短篇「十五の我には」(『炎路を行く者: 守り人作品集』/新潮文庫/2017年に収録)にも、書かれている。
風と行く者 守り人外伝 上橋菜穂子 新潮文庫 2022年8月 467頁 |
ロタ王国のラクル地方にはターサ氏族のアール家とロタ氏族のマグア家の間で、古来、争いが絶えなかった。そんな、反目する氏族がともに女神に感謝する「ハンマの星祭り」では、両氏族の若者に一夜限りの恋が許された。そして「ハンマの星祭り」で、両氏族の間にできた子どもは〈楽しみの子〉と呼ばれ、それがサダン・タラムの祖先である。サダン・タラムは両氏族間の抗争で命を落とした人々のもとを訪れ、鎮魂の歌や舞を披露することを生業としてきた。
数百年前、氏族間の争いを終結させようとマグア領にひとりで乗り込んだアール家の当主ラガロは、マグア領内で謎の死を遂げた。しかし、その後は表だった争いは影を潜めていた。
ロタでは祭儀場の建て替えに高価なマハラン材を使うという。ターサ氏族の名門アール家がマハランの木が生えている森林地帯を所有している。アール家は貧しいが気位が高く、ターサ氏族の育てた神聖な木をロタ氏族に使わせるなどとんでもないという態度だった。ところがアール家の長男がロタのマグア家の娘オリアに恋をして結婚にこぎつけたことで、祭儀場の建て替えが行われたのである。
第2章では、20年前、ジグロとバルサがサダン・タラムの護衛士として雇われたときの話が回顧される。サダン・タラムの頭サリの命が狙われるが、その理由はわからない。バルサが斥候に出て、襲われそうな場所を特定した。ジグロが囮になってバルサが3人の射手を弓で狙うということになった。その作戦は見事に成功し、サダン・タラム一行はアール家にたどり着いた。斥候の情報集めの正確さ、射手を向かえうつバルサの身の置き方の絶妙さをジグロは褒める。そして、護衛士の役目が終わると、ジグロは情を交わす関係になったサリと、縁を切って姿を消した。
現在、バルサが護衛するサダム・タラムは病に臥すサリの代わりに、娘のエオナが率いている。サダム・タラムはアール領にあるエウロカ・ターン(森の王の谷間)に向かっている。エウロカ・ターンにはサダム・タラムの頭と領主しか足を踏み入れることがない禁域である。そこには、何か重要な秘密が隠されているに違いない。またしてもサダム・タラムの頭エオナの命が狙われるのである。
アール家の若き女当主ルミナの母親オリアは何かを隠したまま、最近、夫とともに事故で亡くなった。20年前に、バルサはオリアやサリやジグロとともに、エウロカ・ターンに入ってオリアたちの行動の一部を目撃していたのである。
もう少しでアール家に着くというときに2人の射手に襲われた。バルサは相手の血飛沫を浴びながら2人を殺した。ジグロの教えはバルサの身に染み込んでいるのだ。
そして数百年来の謎の全貌が明らかにされる。
本書は二世代に渡る物語である。人が年老いて死ぬ。そして次の世代に引き継がれていく。それは連綿と繋がっていくことだ。そうした時代の移り変わりのなかに物語が描かれている。→人気ブログランキング
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