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2023年1月

2023年1月25日 (水)

文にあたる 牟田都子

著者は独立して校正の仕事を請け負っている人気校正者である。
著者の校正のやり方は、3回、目を通す。誤字・脱字・衍字を直し、書かれていることの正誤を確認する。例えば、猫の前足に肉球は5つあると書かれていれば、それを確かめるために本を調べる。
9ded5c3cca084137b72efb3b638aec2c 文にあたる
牟田都子
亜紀書房
2022年8月 256頁

校正の仕事の醍醐味、苦労話と奮闘ぶり、そして反省が綴られている。著者は校正の仕事に真摯に誠実に取り組んでいる。その姿勢に感銘を受ける。

校正では、カンナをかけすぎるということがある。著者はその点を次のように書いている。
〈気がついたことはすべてゲラに書き込むものだと思っていましたから、鉛筆を絞るという発想にそのとき初めて接したのです。別の先輩は迷ったら入れないと断言していました。迷うのはたいてい入れなくても問題ないときで、入れたいというのはそのほうが良くなるはずという自分のエゴだからと。〉

〈本を読んでいて誤植があると、散歩をしていて小石に躓いたような気持ちになる、といわれたことがあります。転ぶまでにはいたらなくてもひやりとして、それまでの静けさは消えてしまい、容易には戻ってこない。〉
この意見に大いに賛同する。誤植はあってはならないことなのだ。

英語圏に目を向けると、世界でもっとも著名な校正者のひとりとして、メアリ・ノリスの名前が挙がるのは間違いないという。『ニューヨーカー』で、30年近くにわたって校正係(コピーエディター)務める女性である。2016年には「ニューヨーカー誌が誇るカンマ・クイーンの重箱の隅をつつく栄光」と題して、TEDでトークプレゼンテーションを行った。

歴代の『ニューヨーカー』の校正者の中で伝統的な二人はいずれも女性である。サリンジャーとデートしたことがあるルー・バークは、「ゲラは誰でも読めるわけではない」。と言った。この言葉を、二人の前でいうほどの自信はないと著者はいう。

著者はさまざまな本を引用しているが、校正に携わる人が書いた本が驚くほど多数あること知った。→人気ブログランキング
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2023年1月20日 (金)

バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課 松嶋智左

文庫書き下ろしの作品。
主人公の明堂薫はバツイチ、社会人の息子がいる。
薫は、県警本部に新設された「事件課」に配属された。事件課は女性4名男性2名で構成されている。最近の広範囲にわたる事件に対応して、部課の垣根を超えて慣習に縛られることなく捜査活動というのが、作られた主旨だ。
T_20230120144301 バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課
松嶋智左
小学館文庫 
2022年11月 316頁

事件課が開設して早々に、別の警察署のトイレで首吊り遺体が発見された。遺体は入署2年目の交番に勤務する静谷永人巡査24歳だった。
薫たちが署内を調べまわることに署員たちはいい顔をしない。自殺の捜査を行うのは、今後同じようなことが起きないようにという意味と、上から命令された仕事だからという理由だと言って聞き取りを行った。

県警本部の音楽隊に所属する姉の静谷朱里から聞き取りをする。朱里は弟の死にほとんど感情を表さなかったが、音楽隊という言葉に反応して、「音楽隊ではありません。カラーガード隊です」と強く言ったという。そこに薫は疑問をもった。そこには姉弟の複雑な事情があった。
カラーガード隊とは、マーチングバンドにおいて、フラッグ、サーベルなどの手具を用いて、視覚的表現を行うパートである。朱里が属するカラーガード隊は日本一の実力があり、国際大会への出場が確実視されている。

栄人の警察学校からの同僚に話を聞くと、チクったとわかったらその人間も栄人の二の前になるという。パワハラがあったのだ。永人は警察官になってはじめての交番勤務で失態があった。半年で別の交番に移されたが、その後も執拗ないじめが続いた。

自殺の捜査に加え、ふたりの女の2件の窃盗事件の誤認逮捕が発覚した。ふたりにはアリバイがあるとの証言者が現れたのだ。伝説の刑事と謳われ若い警察官の憧れとなっている人物が課長を務める署で、失態はなぜ起きたのか。ふたりは何かを隠している。
薫たちが調べを進め謎が解明されるにつれ、署内に驚天動地の闇が潜んでいることがわかってくる。

「バタフライ・エフェクト」というタイトルが示唆するように、ふたつの一見なんの関係がない事件であるが、実は背景で繋がっていた。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年1月14日 (土)

女副署長 祭礼 松嶋智左

松嶋智左の女副署長シリーズ第3弾。
主人公の田添杏美は、1作目の『女副署長』で、日見坂署に県内初の女性副署長として赴任する。大型台風が接近する暴風雨の中、署内の駐車場で胸をナイフで刺されて警察官が殺される。この不祥事のせいで、2作目『女副署長 緊急配備』では、県北の佐紋署に左遷される。高齢者の荷物をバイクに乗って強奪する事件や山中の女性撲殺死体、警察官が頭部を殴られ重傷を負う事件が起こる。
そして、今回は、署員300人を抱える県内最大の旭中央署に転勤となった。
Ca4ce4081c284fa2a8f8066d6891a15c 女副署長 祭礼
松嶋智左
新潮文庫
2022年10月 335頁

杏美が赴任してまもなく、旭中央署にはキャリアの俵貴美佳が署長として赴任した。独身の貴美佳は副署長の杏美の日見坂や佐門での活躍を耳にしているという。杏美のいる中央署に来られてラッキーだといった。58歳の杏美は副署長になって3年になる。   

旭中央署の所轄では、6年前に、両親とともに祭に来た5才の女児が行方不明になった。事件は未解決のまま6年が経ち、祭の時期になると市民に事件への協力を呼びかけるキャンペーンが行われている。
また、2年前に男が強盗傷害事件を起こして逃走し、最近、旭中央市に舞い戻ってきているらしい。そして、男の内縁の妻が雑居ビルの屋上から転落し死亡する事件が起こる。さらに、署長がクラブを経営するハーフの男と付き合いはじめ、大事にならないうちに手を打ってくれと、杏美は同僚から進言される。キャリアには任期をまっとうして何事もなく帰ってもらわなければならない。さらにこともあろうか、事件の捜査にあたる警察官がボツリヌス菌による食中毒で倒れるという不祥事までが起こる。
そこで、杏実は県警本部に応援を頼んだ。杏美が指名したのは花野司朗警部だ。杏美が副署長として初めて赴任した日見坂署で刑事課長をしていた。「グリズリー」と杏美が密かに呼んでいる体躯も態度もでかい辣腕刑事である。

キャリアの不祥事を治め、行方不明事件を解決し、強盗傷害犯を検挙すれば、県内初のノンキャリアの女性署長が誕生すると同僚は杏美を励ます。
そして祭礼の日が近づいてくる。一向に解決しない硬直した状況に、杏美は一芝居打って出るのだった。

前2作もそうだったが、本作も同時多発的に起きた複数の事件の捜査が並行して進行するタイプのモジュラー型警察小説である。代表的な作品にR・D・ウィングフィールドの「フロスト警部シリーズ」がある。→人気ブログランキング
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女副署長 祭礼/松嶋智左/新潮文庫/2022年10月
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年6月
開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

フロスト始末
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
冬のフロスト
フロスト気質
夜明けのフロスト

2023年1月11日 (水)

アメリカの教会 キリスト教国家の歴史と本質 橋爪大三郎

なぜアメリカは宗教国家なのか?本書はこの疑問に答えてくれるという。
カトリックを除外すると、一番多いのは、バプティスト、次がメソジスト。アメリカは移民国家だから、それぞれの出身国の宗教を持ち込む。それにアメリカで生まれた宗派もある。モルモン教、エホバの証人、クリスチャン・サイエンス、アドヴェンティストと、多数だ。
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アメリカの教会 キリスト教国家の歴史と本質
橋爪大三郎
光文社新書 
2022年10月 476頁

 本書は、ケンブリッジ版『アメリカの宗教の歴史』から引用してまとめたもので、『アメリカの宗教の歴史』のダイジェスト版といったところだ。それに著者の見解が添えられている。

最終的にはカソリック教徒が一番多くなるが、そうはさせじとアメリカに上陸し続けたのはプロテスタントだった。だからカソリックは阻害され続ける。一方、プロテスタントは分派していく。新宗教も生まれる。各国からの移民たちがそれぞれ祖国の宗派を持ち込む。
たどり着いた約束の地アメリカに、伝統的な風習や規範がないからキリスト教が拠り所なる。そして教会同士の切磋琢磨というかバトルというかが繰り返され、宗教国家アメリカが出来上がるというわけだ。

ヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントの宗教戦争が起きた。ウェストファリア条約(1648年)で、住民の信仰は、君主と一致すべきと決められた。君主はプロテスタントかカソリックのいずれかを選択し、お互いを尊敬する。ヨーロッパの人々はそれぞれ生まれた国によって信仰する宗教が決まる。アメリカとは大きく違う。

イングランドは、1534年にヘンリー8世が国教会を樹立してカトリックから分かれた。イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス、ベルギー、ドイツの一部、ポーランド、アイルランドがカトリック。ドイツの大部分と北欧がルター派。イングランドが国教会、スコットランドが長老派。スイスとオランダが改革派(カルヴィン派)、のように地域ごとに分かれることになった。
ドイツや北欧では唯一の正式な教会はルター派と決め政府が税を徴収して、教会を維持したり、牧師の給料を払ったりする。政教分離ではない。ルター派以外は信徒から金を集める。

カトリックは人びとが自由に教会を設立できない。教皇庁のコントロール下にある。
イングランド国教会もイングランド国王が取り仕切っているので、人びとが自由に教会を造ることはできない。

アメリカでは教会同士が競争する。新しい教会ができたり、潰れたり合併したり、信者を取り合いする。宗派間の争いにより、土地から追い出したり、追い出されたりして、宗派は生き残っていった。アメリカは教会が作った国だ。アメリカには伝統的な地域社会は存在しない。そのかわりにいくつもの教会がある。

大部分の人びとが教会の日曜礼拝に出席した。義務ではないが安息日が厳格だったので、ほかにすることがなかった。牧師たちは、皆さんの祖先は大西洋を渡ってやってきて、世界で最も純粋な教会を立ち上げた。旧約聖書の約束の地イスラエルのようなこの地に生まれたことは幸運だと、説教した。だからこそ、改革を怠ると神の怒りに触れると。

ローマ・カトリックはアメリカの植民地で憎まれた。残忍な外国の圧政者とみられ、ほとんどの植民地で非合法だった。ニューヨークにカトリックが入ったのは南北戦争の後だ。独立戦争のとき、カトリックはわずか1%だった。合衆国の成立後、カトリック教徒の移民が増え、今ではいちばん人数が多くなった。
カトリックとモルモン教は異質で恐れられた存在だった。
ヨーロッパのユダヤ人おおよそ3/1がアメリカに渡った。

メソジストは1784年に教会として旗揚げした。バプティストは個人の集まりなので、会衆を超えた組織を作りにくい。長老派の福音主義者ライマン・ビーチャーが牧師として活躍した。ぐずぐずしていると、西部はカトリックの手に落ちてしまう。そうなればキリスト教国家は成り立たなくなると訴えた。

一般に、キリスト教は植民地時代の初期が黄金時代でその後世俗化が進んで下火になると思われていた。アメリカに関しては誤解である。どれかの宗派に属する人は1776年には19%、1980年位は62%である。過去200年間教会のメンバーは増え続けている。ヨーロッパとは逆である。

トランプの支持者は福音派である。福音派はもとをたどれば敬虔主義である。大学の神学教育や知的な権威、教会の組織、牧師の決まり切った説教などどうでよいと思う。村から村、町から町を説教をして回る説教こそ本物だと思う。トランプはこの巡回説教司のにおいがする。素性が怪しく、いかがわしく、人間の弱さと悪さが透けてみえる。でも憎み切れない人懐っこさも併せ持っている。田舎の敬虔主義の人びとがかつて巡回説教師に惹かれたように、福音派の人びとがトランプに惹かれた。
福音派は、プロテスタントのほぼすべての教派に存在し、特に改革・長老派教会、バプティスト教会、メソジスト教会、ホーリネス教会、ペンテコステ派、カリスマ派の教会に多くみられる。

アメリカの特徴は、政府と無関係ないくつもの教会の組み合わせだ。イングランドは政府+国教会。ドイツは政府+ルター派。ロシアは政府+ロシア正教。フランスは政府+哲学。日本は政府+国家神道。ソ連は政府+共産党。中国は政府+中国共産党。政府と「無関係ないくつもの教会」が組になっているアメリカのような国は、どこにもない。→人気ブログランキング
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