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2023年2月

2023年2月28日 (火)

23分間の奇跡 ジェームス・クラベル

本書は『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 』(花田菜々子/河出文庫/2020年)のなかで、紹介されている。
D1b3a6906a514302a89b681d2ff74f7423分間の奇跡
ジェームス・クラベル/青島幸男
集英社文庫
1988年

ちょうど9時に、子供たちの教室に新しい若い女教師が現れる。女教師は子供たちに国旗を切り刻ませ、その布切れを持って帰るように言う。国旗の竿を窓の外に捨てさせる。なにを質問してもいいと女教師は言うが、子供たちはいぶかる。
父親が連れ去られたことで新しい女教師に反感を持つジョニーが不満をいうと、女教師は「父親は間違った考えを抱いていたので、大人のための学校へ行っている」と教える。
女教師は子供たちに目をつぶって「キャンディーが欲しい」と神様の代わりに自分たちの指導者に祈るようにと言う。ジョニーはみんなが目を閉じている隙に、女教師がキャンディーをそれぞれの机に置いたことを見ていて教師を難詰する。しかし、女教師はジョニーの機智を褒め、キャンディーをくれるのは神ではない誰かであり、神に祈っても無意味であることを子供たちに教える。
自分の教えたことを子供たちがほぼ受け入れたと判断した女教師が時計を見ると、9時23分であった。

体制が変わった。民主的を装っているが、不満分子は投獄され、宗教は否定され、子供たちに信用させるためキャンディという富が新しい支配者から分配された。→人気ブログランキング
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2023年2月22日 (水)

カンマの女王「ニューヨーカー」校正係のここだけの話 メアリ・ノリス/有好宏文訳

著者は『ニューヨーカー』のカリスマ校正者メアリ・ノリス。
2016年に、「ニューヨーカー誌が誇るカンマ・クイーンの重箱の隅をつつく栄光」と題して、TEDで講演を行なっている。

本書には、『ニューヨーカー』で採用される生きた英文法が語られている。『ニューヨーカー』の校正者が、英文法でAかBか悩んでいることに、日本人のなかでどうこういう感想をもてるのは、英文法の専門家くらいだろう。しかし、そこに興味がもてなくとも、本書を読み進むことができる。
著者の言い回しや比喩が非凡であるから、饒舌で話があちこちに飛ぶから、本書はおもしろい。
9f04e7bbfa564d3bb072be168e21a5aeカンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話
メアリ・ノリス/有好宏文訳
柏書房
2021年 288頁

著者が『ニューヨーカー』に勤めることになった経緯は次のようなものだ。
奨学金を得て、ヴァーモント大学の英文科に入学した。『ニューヨーカー』を読み出したのは、ヴァーモント大学の大学院にいた頃だ。いろいろ仕事をしたけれど長続きしなかった。
そこで、弟が美術学校に通っていて、同じ学校に通う友達の夫のピーターが『ニューヨーカー』の取締役会長で、ピーターの勧めで、面接を受け編集資料室で職を得たのだ。
この仕事で求められるのは人となりだ。文法、外国語、文学の知識、さまざま経験が生きてくる。

アメリカ英語の手ごわさについて著者は次のように述べている。
〈英語という言語には、スペルを間違わせようと手ぐすね引いて待ち構えている単語がごまんとあるし、世界にはやかましい方々がたくさんいて、いまにも飛びかかろうとしている。われらが英語は、イタリア語やスペイン語や現代ギリシャ語のように、一定の文字や文字の組み合わせが一定に発音できるとはかぎらない。英語には発音しない「黙字」が多い。そして、起源がごちゃ混ぜだから、解きほぐすのが恐ろしく難しい。アングロ・サクソン言語のゲルマン系のルーツに、ラテン語(ハドリアヌス帝)とフランス語(ノルマン・コンクエスト)が影響し、ギリシャ語やイタリア語やポルトガル語やさらにはバスク語からも単語を借用しているうえ、アメリカ英語はオランダ語を初期の東部植民者からたっぷり、スペイン語を西部を探検したコンキスタドールや宣教師からどっさり、地名の語彙をネイティブ・アメリカンの言語から、しかもフランス語をブレンドしながら山ほどもらっているから、ますますややこしい。やかましい方々の親玉のノア・ウェブスターが1783年の指摘したように、「われわれの母音のいくつかには4、5とおりの発音があるし、1つの音はたいてい5、6、7とおりの文字で書ける。子音も似たり寄ったりだ。」〉

「使うなら*正しく使おう*Fワード」の章では、悪態語の乱用について触れている。
今や、英語の汚い言葉は、かつてないほど気楽にどっさり使われていると前置きした上で、自らが悪態を口にするようになったのは、高校の頃だという。ロッカーを閉めるとき「crap(うんこ)」と発したことがあった。それよりどきつい言葉は、後までとっておいた。メアリが罵り欲を完全に解放したのは、精神分析をやめた1996年だったという。その頃メアリは、『ニューヨーカー』の校正係を始めてから20年近く経っていて、思いつく限りのあらゆる楽しい悪態をまきちらし、すごくいい気分になった。幼年期と青年期を取り囲んでいた上品さの殻がパカッと割れ、蝶となって羽ばたいたという。

ラッパーにつて書かれた悪態まみれの原稿を前にすると、感覚が麻痺して、ささいな間違いはどうでもいいと思ったという。メアリは校正することに消極的になったもうひとつの例を紹介している。その原稿にはある有力なグループの取締役が、自分を批判する相手に対して「ファック・ユー!」と言ったことが書かれていた。校正係として疑問を付すチャンスは2回あったが、そのままにした。最終的には削除された。そこでメアリは苦悩する。わたしは判断力の欠如をさらしてしまったのか?誰が疑問を付したのか?疑問を付した人はわたしが仕事をしていないと思っただろうか?執筆者も編集者もわたしが削るのを待っていただけなのだろうか?と悔やみながらも、あの悪態が消えたことに安堵している。

「ファック・ユー!」を削除してくれと言ったのは、当の取締役だった。編集者は取締役の言った言葉どおりに引用し、もう引っ込めることはできない。それをずっと抱えて生きていけばいいと思ったという。取締役はその場で言い直したと釈明した。この経験は「ファック・ユー!」を活字にしてきたすべての例よりも、ためになったという。
 メアリは、〈言語を法で縛ることはできない。禁酒法もうまくいかなかったでしょう?酒もセックスも言葉も止められない。(中略)使うなら楽しく使おう。悪態は楽しくなくてはならない。〉と結ぶ。

You and me は古くなりつつある、今はmeではなくIが優勢になりつつある。英語も日本語も揺らぎがある。ちょっとずつ変わっている。→人気ブログランキング
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文にあたる/牟田都子/亜紀書房/2022年
カンマの女王「ニューヨーカー」校正係のここだけの話/メアリ・ノリス/有好宏文訳/柏書房/2021年

2023年2月18日 (土)

人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 篠田謙一

次世代シークエンサーの実用化により、古代DNA研究は新しい知見が次々と明らかになっている。2022年にはこの分野で、スバンテー・ペーボ博士(スウェーデン)がノーベル生理学・医学賞を受賞した。
人類の進化は、ゴリラとチンパンジーの共通の祖先から約700万年前に別れ、猿人・原人(ホモ・エレクトス)・旧人(ホモ・ハイデルベルゲンシス、ネアンデルタール人)・新人という段階を経て進んできた。

ホモ・サピエンスは、30万年前アフリカで誕生した。現代人のゲノムの解析からホモ・サピエンスの世界展開は6万年前以降のことであると推察される。
ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人は数10万年にわたって共存して、互いに交雑してきた。ホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人やデニソワ人から受け取った遺伝子と排除した遺伝子がある。 
Photo_20230217134701人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
篠田謙一 
中公新書 
2022年2月 294頁

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先との分岐は64万年前と考えられている。分岐してから30万年の間どのような進化の道筋を辿ったかは、化石証拠からは全くわかっていない。

デニソワ洞窟にはデニソワ人が20万年前から5万年前、ネアンデルタール人が住んでいたのは19万3000年前から9万7000年前と推定されている。デニソワ洞窟で、デニソワ人とネアンデルタール人の混血の少女の骨が見つかった。
複数のホモ属が存在し、互いの間で交雑が起こっていた。ネアンデルタール人は4万年前まで、デニソワ人は1万1千年前まで生存していた可能性がある。
ちなみに、デニソワ人は、前期・中期旧石器時代にアジア全域に分布していた旧人類である。デニソワ洞窟は、シベリアの南、アルタイ山脈のバシェラスキー山脈にある洞窟。

デニソワ人のDNAはパプアニューギニアの人々に受け継がれている。パプアニューギニア人のDNAの3〜6%はデニソワ人に由来していた。
南アジアや東アジア、アメリカ先住民にもデニソワ人のDNAが共有されていることから、ホモ・サピエンスはデニソワ人と2回、別の機会に交雑している。

ホモ・サピエンスはアフリカを出たあと、中東に1万年におよぶ停滞を経て、5万年前よりヨーロッパからシベリアまでの広い地域に拡散した。ユーラシア東部への拡散は北ルートと南ルートがあったと考えられている。南ルートは洞窟で発見されたデニソワ人とは別のグループと交雑した可能性があり、そのグループがパプアニューギニアやオーストラリアに展開することとなった。

日本列島にホモ・サピエンスが到達したのは、4万年ほど前のことである。この時代は旧石器時代に括られる。およそ1万6000万年前から土器を作るようになる。3000年前に北九州で稲作が始まる。それまでを縄文時代と呼ぶ。
縄文人は4万年前以降に、東アジアに展開した異なる2つの系統が合流することで形成された。それぞれの系統が日本列島で合流したのか、大陸沿岸で混合したのち日本列島に流入したのかは不明である。

弥生時代になると朝鮮半島を経由して北九州に稲作をもたらす集団が現れて、それが渡来系弥生人と呼ばれる人々になった。弥生時代は、稲作と弥生式土器と青銅器の3つが特徴的である。稲作は中国の長江中流付近から伝えられ、青銅器は北東アジアから入ってきた。

縄文時代の人骨と弥生時代の人骨には明確な違いがある。
現代の日本列島には形質の異なる集団が存在している。北海道のアイヌ集団と琉球列島集団、そして本州四国九州を中心とした集団。この3つの集団には姿形に区別しうる特徴がある。二重構造モデルとは大陸からの稲作文化を受け入れた中央と、それが遅れた周辺で集団の形質に違いがあるというもの。
稲作が入らなかった北海道と2000年遅れて10世紀ごろに稲作が始まった琉球列島では、縄文人の遺伝的な影響が強く残ることになり、それが見た目の類似性を生んだ。
現代日本人に占める縄文人由来の遺伝子は、本土日本人10%、琉球列島現代人30%、北海道アイヌ集団で70%である。→人気ブログランキング
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人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」篠田謙一/中公新書/2022年2月
アフリカで誕生した人類が日本人になるまで/溝口優司 /SB新書/2020年
サピエンス異変-新たな時代人新世の衝撃/ヴァイバー・クリガン=リード/ 水谷淳・鍛原多惠子/飛鳥新社/2018年
絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたか/更科功/NHK出版新書/2018年
爆発的進化論 1%の奇跡がヒトを作った/更科功/新潮新書/2016年
サピエンスはどこへ行く

2023年2月15日 (水)

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 花田菜々子 

主人公は33歳の女性。別居中の夫と、月に1回会って話し合いをしている。
大学時代からサブカルチャーにどっぷりと浸かり、卒後は水商売で金を稼いだ。10年前から下北沢の「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードに勤め、やがて店長になった。ヴィレッジヴァンガードは入社当時の魅力がなくなっている。
尊敬する上司に対面で本を紹介する機会があり、そのときの興奮と面白さが忘れられず、人に会ってその人に合った本を紹介するという目的で、出会い系サイト「X」に登録した。それを著者は修業と呼んでいる。
作為的な発想だが、それでも引き込まれるのは、著者の攻める姿勢だろう。
0a24e5908f7f4a15b42a8cb5c63081c2 出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと
花田菜々子 
河出文庫 
2020年 248頁

4人目まではろくでもないやつばかりだった。
とりあえずセックスって言ってみるやつ。結婚しているけど、俺はセックスしても問題ないと言ってくるやつ。30分の時間いっぱい手品とポエムを発表するやつ。年収5千万と嘘をつくやつ。メチャクチャなやつばかりだった。このあたりは予測どおりだ。

5人目は巨人の松井のような体格のいい男性。本をすすめているならコメント欄に推奨した本の紹介と理由を書いた方がいいと、アドバイスされた。松井のような男は「X」の創立からのメンバーで、「Xポリス」のようなことをやっているという。マルチ商法とかネットワークビジネスや宗教の勧誘を摘発するという。
最近は、おとなしい新規登録者ばかりで盛り上がりに欠けるという。個性的な著者は期待される有望株だという。

次は遊び回ってる女性と会った。話が弾み、また会おうと約束したが、その後会っていない。
医大生に会った。世界を旅するのが夢で、沢木耕太郎の『深夜特急』『荒野へ』が愛読書だという。ケルアックの『オン・ザ・ロード』を紹介した。

そして、サイト「X」のランキングで、有名企業家や古株に混じって著者が人気ベストテン入りするようになった。

カリスマ書店ガケ書房のオーナーに会いたいと思った。
20歳代の中頃に、京都のガケ書房を訪れたときの感激が忘れられない。その後年に2〜3回、ガケ書房を訪れていた。思いの丈をメールに書いて、ガケ書房の店長に送った。そして店長に会う。

ビブリオバトルのようなイベントを企画した。主催者の3人がゲストに本を紹介し合うイベントである。その日、祖父の通夜と重なってしまった。家族の中で不良なのは祖父と著者だった。2択で悩んだら自由な生き方の方を選択しろと言っていた祖父の教えにしたがって、通夜はすっぽかした。イベントは大成功だった。

紹介する本には、ひと言の紹介文やちょっとしたサマリがつけられているところがいい。
著者は、2022年9月に高円寺に書店「蟹ブックス」をオープンさせた。→人気ブログランキング  
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2023年2月10日 (金)

黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 松嶋智左

ぶっ飛んだストーリーだ。
運転免許センターに異動して間もない野路明良は、新設された黒バイ捜査隊の訓練を指導していた。黒バイ隊は所轄や部署の垣根を超えた活動であるから、臨機応変に効率よく素早く動くことができる。白バイ隊は交通違反の取締りが主な仕事だが、黒バイ隊は犯罪を扱う。
その黒バイ隊が追跡した不審車両が事故を起こし、運転していた男が死亡した。
死亡した人物は手配犯で、持っていた免許証は偽造されたものだった。免許証は野路の所属する免許センターで作られた。
751d5bf07a9942adb858505fb86f450e 黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 
松嶋智左
祥伝社文庫 
2022年9月 347頁

かつて、白バイ隊員であった野路明良は、Y県の白バイ隊を全国一に導いた。しかし交通事故に遭い右手に軽い後遺症を負った。二輪車への思いは消えることなく、ボランティアで古巣の白バイ隊員を指導することを続けていた。それが黒バイ隊まで広がった。

免許センターの2階から転落して重症となったセンター長のロッカーから、他人の免許証が数枚出てきた。
不正免許証のデータを調べはじめた白根深雪巡査長の身の安全を気遣い、野路は深雪をバイクの後部に乗せて家まで送ることを続けた。野路と深雪の間に恋が芽生えはじめる。
深雪がパソコンで調べると、免許証作成課の誰かが不正に関わっていることを掴んだ。

不正免許証で海外に出た男を調べたところ、Y大学の元留学生だった。留学生は公安委員長の大里綾子と繋がりがあった。そんなおり大里綾子が何者かに拉致される事件が起こる。

そして新しいセンター長が就任する日、センターに勤務する全員が集合し、知事や新しい公安委員長が列席する挨拶の場に、モトクロス集団が襲来し、知事が狙われ白根深雪巡査長が銃撃されるという、あり得ない事件が起こり、しかも狙撃犯を取り逃すという失態を負う。
野路は狙撃された白根の仇をとろうと捜査に加わろうとするが、免許センターに勤める者にそのような資格はない。
しかし野路は動かずにはいられない。
バイク走行の技術から、犯人像が絞られていく。
そして、ぶっ飛んだ結末が待っている。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年2月 1日 (水)

すべてのことはメッセージ 小説ユーミン 山内マリコ

3歳の由実が女中の里帰りについて行った山形県左沢の夏から始まり、シンガーソングライターのユーミンとして本格的にデビューするまでが描かれている。女性の可能性を広げていったユーミンの才能がどのように培われたのかを、フェミニンな視点で綴っている。
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山内マリコ
マガジンハウス
2022年10月 368頁

大正元年に創業した八王子の荒井呉服屋の次女として、1959年に荒井由実は生まれた。
両親が営む呉服屋には、近県も含め周りの呉服屋の二代目が大勢奉公していた。その数30人ほど、やがて80人に膨らむ。
由実は小学生になってしばらくすると、母親の芳枝のお供を務め、東京宝塚劇場、日生劇場、帝国劇場、歌舞伎座、さらには文学座のアトリエ公演まで、都内のあちこちの劇場へ出向くようになる。

由実の「由」は歌舞伎好きな芳枝が『仮名手本忠臣蔵』の由良之助からとった。由実は何者かになりそうな予感を秘めた、オーラのある子供だった。そのことは、芳枝も認めていたから、あえて様々なところに連れて行ったという。

小学生の由実はピアノを習い、三味線を習った。勉強しなくとも成績は良く、足は速く絵も上手い、やることなすことそつがなかった。
そして立教女学院に入学する。由実は人と同じであることを嫌い群れるのを嫌った。中1の3学期にそのころ流行り始めたグループサウンズのタイガーズにのめり込み、2年になると新宿のACBに通うようになる。もちろん校則違反だ。不良少女と学校から思われないように気を配った。

早熟の由美は、国内外の文化人が集まるサロン的存在だった西麻布のイタリアンレストラン「キャンティ」に出入りしていた。そこでは音楽に異常に詳しい女の子で通っていた。
常に本物を求め物おじしない由実はプロのミュージシャンにまで知り合いを広げていき、立川基地で手に入れた米国のレコードを、彼らに紹介したりするのだった。好奇心の赴くまま越境していった。ユーミンと名付けたのは、由実が追っかけをしていたフィンガーズのベイシストであったシー・ユー・チェンである。
そして、3年生になると生徒委員長に選ばれた。

立教女子学院高校に進学し、プロコル・ハルムの「青い影」が「G線上のアリア」を下敷きにしていると気づいたときに、自分でも作曲ができると確信したという。1971年、ユーミンが17歳のときに、タイガーズを脱退した加橋かつみに「愛は突然に...」を提供し、作曲家としてデビューした。

大学受験に際し、芳枝は勝負は1回こっきり、浪人はさせないと言い渡した。由実は家業に少しでも役立とうと、多摩美術大学の日本画科に進んだ。

もともと、由実は歌には自信がなく作曲家志望だった。しかし、周囲の勧めで、かまやつひろしがプロヂュースした「返事はいらない」で歌手デビューしたが、数百枚しか売れなかった。
そして、小学生時代の同級生の死をモチーフにした「ひこうき曇」を含む同名のアルバムを発売して、シンガーソングライターとして、本格的にデビューした。
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本書の内容とは関係ないことだか、本書の校正者に牟田都子の名が記載されている。ということは本書は最高の校正が行われた本だということだ。→人気ブログランキング
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