野獣死すべし 伊達邦彦全集1 大藪春彦
1958年に発表された、大藪春彦のデビュー作。
「野獣死すべし」の他に、「復讐篇」「渡米篇」が収録されている。
勧善懲悪の要素なく、金を手に入れる目的のために人殺しを行う。このようなただただバイオレンスの物語が早稲田大学の同人誌に載った。それを江戸川乱歩が新感覚のハードボイルド小説として雑誌『宝石』に掲載した。
〈「野獣死すべし」は、フランク・ケーンの「特ダネは俺に任せろ」の盗作〉と指摘されている。
野獣死すべし 伊達邦彦全集1 大藪春彦 光文社文庫 1997年 362頁 |
主人公の伊達邦彦はハルピンで生まれた。父は製油会社を経営。ところが会社を乗っ取られ、建設関係の官吏となった。一家は、北京、奉天、新京と移り住み、戦争が始まった頃は平壌にいた。その後、父は兵士として駆り出され、南方の戦地に向かった。
敗戰となると、ロシア兵がやってきて狼藉の限りを尽くした。邦彦は母と妹と仁川に向かい、帰国しようとする。
日本に着いてからは、大阪の名門高校に入る。マルクス・エンゲルス全集を貪り読む。し ょっちゅう職員室に呼びだされ教師から脅される。天皇批判する学生新聞を発行し、新聞は焼かれる。父が死に金庫には株券と現金があった。
私立大学に入り、ボクシング部射撃部に加わる。
防衛大学からコルトの自動拳銃を盗み出す。翻訳の仕事をしたりして大学生活を送りながら、犯罪に手を染めているようになる。
最初は、警視庁捜査一課の警部の額を撃ち抜いて殺した。身元につながるものをはぎ取り、拳銃を奪う。やり終えて自宅に戻り、ウィスキーのトリスを3杯あおる。トリスはサントリー・ウィスキーの格付で最低のもの。
次は、警察官を装って夜の繁華街で幅を効かせる陳と徹を職務質問して、殴り倒し金を奪う。さらに、タクシーを襲ってタクシーを操り、現金輸送車を襲い、2人を銃で殺して金を奪う。タクシー運転手はブラックジャックで撲殺する。
彼の野望は一般に「悪」とされていることをやってのけ、うまく逃げ通す事にあった。
彼にとって悪とは己の行手を阻む障害物でしかなかったし、悪を行うことは追い詰められた人間の行う必然であった。
その秋、修士論文を書き上げた。ハーバード大学の大学院から9月から入学を許可する旨の通知が届いた。
そして大学入学金強奪計画を、余命いくばくもない同級生に持ちかける。→人気ブログランキング
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