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2023年5月

2023年5月23日 (火)

半導体有事 湯乃上隆 

有事は2つある。
一つは、台湾有事。中国は台湾の半導体企業TSMCを喉から手が出るほど欲しい。
もう一つは、2021年の半導体不足によって誘発された、常軌を逸した各国各社の半導体への投資である。世界中で狂気的な半導体製造能力構築競争が起きている。その反動で半導体不況がやってくるのではないか。
Photo_20230523143001半導体有事 
湯乃上隆 
文春新書 
2023年 255頁

2022年10月7日、米国商務省は、先端半導体や半導体製造装置の中国への輸出規制を発表した。この輸出規制は、中国半導体産業の息の根が止めるような厳しいものだ。

それ以前の、2020年5月14日、米国はTSMCの5nmの最先端製造技術を手に入れることになったばかりでなく、5G通信基地局で世界を制覇しかけていたファーウェイの野望を叩き潰すことに成功した。TSMCが中国ではなくアメリカ側についた日である。
米国は、台湾有事の際は、台湾自らがTSMCの半導体工場を破壊すべきであると提案しているという。

TSMCは10.7が発表されると、米国・日本・ドイツ・シンガポールの4か国にファウンドリー工場を建設することにした。

また、2022年8月に日本の主要企業8社が出資してロジック半導体などの国産化に向けて「ラピダス」が設立された。2027年までに2nmのチップを作るという。著者は逆立ちしたって無理だという。

半導体はトランジスタという素子を集積することにより形成されている。そのトランジスタを微細化すると高速に動作するなど高性能になる。半導体とは半導体集積回路のことを指している。半導体集積回路はシリコンという半導体基盤上に形成したトランジスタという素子を集積して電子回路を構成したものである。トランジスタとは電流が流れたり流れなかったりするスイッチのようなものである。流れる流れないを2進法としてとらえ、コンピュータの演算になる。トランジスタを微細化すればトランジスタが高速で動き、消費する電力が削減できる。結果的にコストが削減できる。

2019年に、ASMLはEUV(極端紫外線)を使った半導体製造装置リソブラフィを完成させた。TSMCは1年間で100万回の練習を行なって、2019年に7nmの生産にロジック半導体の量産にEVUを使った。

日本の日立や東芝が伸びなかったのは設計から完成まで垂直統合型だったからだ。そのため両社の製品には互換性がない。

ASMLの出荷する1台100億円するEUVリソグラフィは生産が間に合わない。TSMCは毎年20〜30台購入している。ASMLとTSMCの売り上げグラフは共進している。

アメリカのクリスマス商戦は凄まじい。
TSMCはアップルの受注に照準を合わせて高速化を強いられている。
アップルは毎年春から夏に新型アイフォンを発表し12月のクリスマス商戦にターゲットを合わせて約1億台の大量生産を行う。これに合わせてTSMCは最低1億個のアプリケーションプロセッサを製造しなくてはならない。

2021年から、各地域各社の半導体投資は常軌を逸しているという。半導体不況がやってくるのではないか。なぜこのような、ことが起きているのか。7nm以降の半導体の製造がTSMCに偏在しているからだという。

2014年から中国が世界最大の半導体市場であることが確認された。
中国は世界の1/3の半導体を必要としているにもかかわらず、自給率が低い。中国において原油を抜いて貿易赤字の元凶が半導体になっている。
2015年5月に「中国製造2025」を制定し、半導体自給率を2020年に40%、2025年に70%に引き上げる目標を立てた。しかし、米国の調査会社の予測では、2026年でも中国の半導体自給率は21 .2%にとどまるとしている。
中国のファウンドリーSMICが7nm開発に成功した。そして、米国は「10.7」の規制を課すことになった。インテルは10〜7nm以上に進めていない。
紫光集団はM&Aによって半導体会社を買いまくろうとしたが、うまくいかなかった。
爆買いに失敗した中国は、自国に半導体ファウンドリーを爆建設するようになった。

米国も韓国も政府主導で半導体工場を建てようとしている。、半導体工場をどんどん立てている2021年初頭に起きた半導体不足がきっかけとなって、世界中で狂気的な半導体製造能力構築競争が起きている。

日本の半導体産業はなぜ凋落したのか。「過剰技術で過剰品質を作ってしまう」
メインフレーム(汎用の大型コンピュータ)からPCの時代にパラダイムシフトが起きた。DRAMは25年持つ必要はない。そこで、韓国に負けた。

2022年12月末の時点で、TSMCが3nmに到達し、サムソンは3nmの歩留まりが上がらず、5/4nmに留まっており、インテルが10nm〜7nmから先に進めずにいる。そして日本は40nmレベルで停滞したままだ。

日本の半導体産業は挽回不能である。日本のメーカーは2010年頃40nmあたりで止まり脱落してしまった。いったん微細化競争から脱落すると、先頭に追いつくのは不可能である。
①日本の希望の光は、ウエハ、レジスト、スラリ(研磨剤)、薬液半導体材料。
②前工程で10数種類のある製造装置のうち、5〜7種類において日本がトップ。
③製造装置の数千〜十万のうち、6〜8割が日本製である。
日本は半導体製造装置、半導体材料の7〜8割が日本製である。これらの日本優位は徐々に脅かされている。

半道程製造に欠かせない希ガスの供給に暗雲が立ち込めている。ウクライナはネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスの供給国である。
ロシアはC4F6の供給国であり、アメリカは年間8トン消費しているという。
希ガスもC4F6も半導体の微細加工に必要不可欠なガスである。
2025年に3M社のPFAS製造から撤退してしまう。(環境問題や訴訟の問題から)
代替冷媒を探さなくてはならない。

インテルの共同創業者のゴードン・ムーアが1965年に、トランジスタの集積回路は2年で2倍になると発表した。この経験則は「ムーアの法則」と呼ばれている。
ムーアの法則の本質。①トランジスタを微細化することにより、より高性能な半導体が安く実現できる。②微細化により、利潤をうることができる。③その利潤を微細化の研究開発や設備投資に使う。ムーアの法則の本質はこのサイクルを循環させることであり、循環させることによって、ムーアの法則は60年以上続いてきた。このサイクルを守ることが重要。→人気ブログランキング
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半導体有事/湯乃上隆/文春新書/2023年
半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防/クリス・ミラー/千葉敏生/ダイヤモンド社/2023年

 

2023年5月10日 (水)

半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 クリス・ミラー

チップウォー(半導体戦争)はどのような状況なのか? 現在、最先端の半導体を大量に生産することができる企業は、台湾積体電路製造(TSMC)、サムソン、インテルの3社である。そのうち、先端ロジック製品の90%をTSMCが押さえている。なぜこのような偏った状況にあるのか?
本書には、1940年代の真空管から始まり現在に至る半導体の歴史を詳細に描かれていて、それらの疑問に答えてくれる。ちなみにロジック半導体は、スマートフォンやパソコンに搭載され電子機器の頭脳の役割を担う。
51psz2v9pl_sx351_bo1204203200_ 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防
クリス・ミラー/千葉敏生
ダイヤモンド社
2023年 552頁

半導体産業の初期、米国の半導体を使った電化製品を日本が作り米国に売るという構図のうちは、競合関係はなかった。日本は半導体産業に力を入れ、半導体の生産が急速に伸びていった。その後、データの一時的な保持に使われるDRAM (Dynamic Random Access Memory ディーラム)の生産をめぐって、日米は半導体戦争に突入する。その結果日本は厳しい制裁を課され、さらに日本の金融危機と相まって、1992年にDRAMの生産で日本はトップの座から引きずり下ろされた。敵の敵は友という考え方のもとに、米国は韓国のサムソンを支援した。

インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアは、1965年に自らの論文に「半導体の集積率は18か月で2倍になる」と書いた。この経験則は「ムーアの法則」として、2010年代まで通用し、半導体の性能は目覚ましい進歩を遂げることになる。1990年代以降、半導体の製造だけを専門に行う企業の「ファウンドリ」と、工場を持たずに設計だけを行い生産を完全に他社にアウトソーシングする企業の「ファブレス」が、隆盛するようになる。ムーアの法則を成し遂げるには、微細な形状をチップに刻み込めるより高い精度のリソグラフィ装置がもとめられた。米国企業はオランダのリソグラフィ装置メーカー のASMLを、ニコンやキャノンに変わる信頼できる取引先として扱った。今や、世界の主な半導体製造会社の80%がASML社のリソグラフィ装置を使っている。半導体の設計や製造には莫大な資金とイノベーションが必要であるため、半導体の水平分業化が進みサプライチェーンは複雑化していった。

米国の半導体会社テキサス・インスツルメンツでキャリアを積んだモリス・チャンは、1985年に台湾政府から招聘され、TSMCを設立した。TSMCは中国と価格で競争しても勝ち目がないので、最先端の半導体を製造する選択肢しかなかった。ファウンドリとしてのTSMCの成功は、米国の半導体産業とのつながりが決定的な要因であった。

最先端の半導体を設計するだけでも、コストは1億ドルを超えることがある。最先端のロジック半導体の製造工場を建築するには200億ドルの費用がかかるが、数年で時代遅れになってしまう。

中国の半導体は、その大半が別の国でも製造できる。ロジック半導体などの先進的な半導体に関していえば、中国は米国のソフトウェアや設計、米国・オランダ・日本の装置、韓国や台湾の製造にまるまる依存している。中国政府は「中国製造2025」を打ち出した。中国の半導体輸入率を、2015年の85%から2025年までに30%まで減らす構想だ。つまり中国は半導体の自給自足を目標に掲げた。オバマ政権は、半導体産業を私物化するために、1500億ドル(およそ20兆円)の産業政策を認めないと中国指導部に主張するといった。しかし、そんな苦言が通用するはずもない。多国籍で複雑なサプライチェーンで成り立っている産業において、技術的な自立を実現することは、世界最大の半導体大国である米国にとってさえ、絵に描いた餅である。しかし中国はそれを達成しようと目論んでいる。

今やチップウォーは、中国対、米国・台湾・韓国・日本・オランダなどの自由主義国家という構図になっている。中国は技術的にも生産設備にも、設計に必要なソフト面でも大いに遅れをとっている。中国が追いつこうにも非常に厳しい道のりが待っている。劣勢を一挙に覆すために、中国は喉から手が出るほど台湾の半導体産業を手に入れたい。最悪のシナリオであるが、台湾有事についても本書は触れている。

本書は言及していないが、2022年8月に日本の主要企業8社が出資してロジック半導体などの国産化に向けて「ラピダス」が設立された。TSMC、サムソン、インテルに割って入ろうとしている。→人気ブログランキング
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