木挽町のあだ討ち 永井紗耶子
第169回直木賞、第36回山本周五郎賞をW受賞。
江戸っ子の話し言葉の小気味良いリズムに乗って、すらすら読むことができる。
木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 新潮社 2023年1月 267頁 |
2年前の睦月の晦日、雪の降る夜、元服前の美少年の菊之助は、父親を殺めた下男を討った。その仇討ちの現場を見ていた何人かの人物から、菊之助の縁者を名乗る武家が仇討ちの様子を聞き出す。
まず武家が芝居小屋森田屋の木戸芸者一八から話を聞く。木戸芸者とは芝居小屋の入り口にいる客引きのこと。
一八が木戸芸者が板についた頃、菊之助が森田屋に現れてしばらく黒子として働いていたという。仇討ちを果たして、無事に本国に帰り家督を継いで母上も大層喜んでいらっしゃると、手紙がきたという。
次は、森田屋で殺陣の指南をしている与三郎もという人物も仇討ちの一部始終を見ていたという。菊之助さんに木刀で指南申し上げた。そして雪の降るの夜、仇討ちを成し遂げられたと言った。
女形の芳澤ほたるは端役の連中の衣装を整える仕事をしている。菊之助には凛とした美しさがあった。ある日、菊之助が古い赤い着物をもらいにきた。
仇討ちとはいうけれど、菊之助は仇を探している様子もない。敵がどこにいるか知っているし、あちらも菊之助に見つかっていることを知っているというのだ。この辺りで訳ありの仇討ちだということがわかる。
小道具の久蔵は無口を通り越して「ああ、うん」しか言わないが、内儀お与根さんがよく喋る。菊之助は久蔵のところで寝泊まりしていた。
歌舞伎役者の團蔵丈は、子供を亡くした久蔵に『菅原伝授手習鑑』に出てくる松王丸の子の首を作るよう命じたという。
仇討ちを見たと武家に語る人物たちは、睦月の晦日の雪の降る夜に、赤い着物を纏った菊之助が相手の首を持った手を掲げたのを見たという。そんな、いかにもの所作で完結した仇討ちの裏側が語られる。
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