スタイルズ荘の怪事件 アガサ・クリスティー
アガサ・クリスティーの初の長編であり、エルキュール・ポアロが初めて登場する記念すべき作品である。1920年、クリスティーが30歳の時に発表された。クリスティーは作家として活躍する前に薬局に勤めていたことがある。この経験がクリスティーの作品に生きていると言われている。
イギリスの法律では、一度無罪になると同じ犯罪で二度と裁かれることはないダブルジョパティの法規があり、本作はそれを狙った殺人事件である。ダブルジョパディをテーマにした映画『ダブルジョパディ』(ブルース・ペレスフォード監督、1999年)は、アシュレイ・ジャドとトミー・リー・ジョーンズが出演した。
スタイルズ荘の怪事件 アガサ・クリスティー/矢沢聖子 ハヤカワ文庫 2003年 361頁 |
舞台は1920年代のイギリス。
戦傷を負ったヘイスティングズが居候しているスタイルズ荘の老資産家エミリーが、ストリキニーネで毒殺された。ヘイスティングズは友人のベルギーから亡命して間もないエルキュール・ポアロに助けを求める。ポアロは「灰色の脳細胞を働かせて」が口癖である。
スタイルズ荘には、最近エミリーと結婚した20歳も年下の夫アルフレッド、前夫の連れ子ジョンとロレンス、ジョンの妻、エミリーの友人の娘、エミリーの友人のエヴリンがいる。はじめにあらかたの登場人物が登場する。
エミリーの最新の遺言書では遺産をアルフレッドが相続することになっていた。アルフレッドは事件の夜、屋敷を出て村に一泊した。一方、エミリーは夕食をほとんど食べず、文書箱を持って早々に自室に引きこもった。彼女の遺体が発見された時、文書箱は無理やり開けられた状態だった。
捜査担当のジャップ警部は、妻の死で利益を得るアルフレッドを第一容疑者と考えた。しかし、ポアロはあまりにも疑わし過ぎるアルフレッドの行動に疑問を抱く。アルフレッドは当夜の宿泊先を明かすのを拒み、村でストリキニーネを購入したのは自分ではないと答える。ポアロはアルフレッドが毒を購入したはずがないこと、購入時の署名が彼の筆跡でないことから、警察のアルフレッド逮捕を思いとどまらせる。警察はアリバイがないジョンを逮捕する。毒薬購入時の署名はジョンの筆跡であり、毒薬の入った小瓶が彼の部屋で見つかり、付け髭と鼻眼鏡がジョンの持ち物の中から出てきたのである。
【ここからネタバレ】
しかし、ポアロは真犯人がアルフレッドであり、彼のいとこのエヴリンが手伝っていたことを明らかにする。二人は、アルフレッドが逮捕されるための偽の証拠をわざと残し、裁判になってから無罪を証明するつもりでいた。イギリスの法律では、一度無罪になると同じ犯罪で二度と裁かれることはないダブルジョパディの条項があった。
エヴリンは男に変装しジョンの筆跡を真似てサインした。ポアロがジャップ警部がアルフレッドを逮捕するのを阻止したのは、アルフレッドが逮捕されたがっていることに気づいたからである。ポアロはエミリーの部屋でアルフレッドのエミリーに対する殺意を記した手紙を発見する。殺人のあった日の午後、エミリーは切手を探していた時にアルフレッドの机の中からこの手紙を見つけた。エミリーはその手紙を自分の書類ケースにしまい、それに気づいたアルフレッドは彼女の死後に書類ケースをこじ開けて手紙を取り戻し、見つからないように部屋の別の場所に隠していたのだった。
解説で、ミステリ作家の数藤康雄が、アガサが小説家としての出発した頃のことを紹介している。〈彼女が18歳の頃に母の勧めで書いた習作を、隣人の作家イーデン・フィルポッツに読んでもらい、批評を受けたことだ。フルポッツと言えば、日本では江戸川乱歩が激賞した『赤毛のレドメイン家』を書いたミステリ作家として知られているが、その当時はミステリより普通小説の書き手として高名な作家であった。その彼が娘のようなアガサの原稿を読み、「あなたは会話にたいしたすぐれた感覚を持っている・・・・・・」と励ましの手紙を送るとともに、著作代理人の紹介までしたのである。残念ながらその時の原稿はボツになったが、1932年に刊行された『邪悪の家』の冒頭には、(中略)フィルポッツへの献辞が記されている。〉とある。そしてフィルポッツが紹介してくれた著作代理人と契約して仕事を任せた。フィルポッツから受けた忠告がアガサの作家人生に大きな影響を与えたことは間違いないと書いている。→人気ブログランキング
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