ストーリーがきめ細かくサマリーが膨大な量になった。★5つ。
スズキタゴサクと名乗るその男(佐藤二朗)は、等々力功(染谷将太)刑事からの取り調べの最中に「自分には霊感がある。10時ぴったりに秋葉原で爆発がある」と予言し、その言葉通り秋葉原のビルで爆発が起きる。
さらにスズキは「ここから3度、次は1時間後に爆発します」と告げた。等々力はなんとか第2の爆発が起こるまで、爆弾の在りかを聞き出そうとするが、のらりくらりとかわされてしまう。スズキの不気味さ底知れない狂気は本作の見どころである。
そして時間通り、東京ドームのそばで2回目の爆発が発生する。そこで等々力に代わり、重大事件として本庁の清宮輝次(渡部篤郎)と類家(山田裕貴)が取り調べを行うことになったが、スズキは勝手な持論や屁理屈やクイズを展開して彼らを翻弄していく。
爆弾
2025年10月30日公開
監督:永井聡
配給:ワーナーブラザーズ映画
原作:呉勝浩 2024年7月 講談社文庫
清
宮は取り調べ室でスズキと対峙し、この得体の知れない男のパズルを問こうとするが、徐々に彼のペースにはまっていく。スズキは清宮に交互に質問をし、その答えから「心の形を当てる」というゲームを提案する。清宮それを受けて立つ。スズキは禅問答のような会話のなかに爆弾についての地名や想定される被害者などの情報を忍ばせる。しかしスズキの徹底した自己卑下は執拗で、清宮の苛立ちを増幅させ心理的に追い詰めていく。
スズキは質問のなかで「長谷部有孔」という辞職した警察官の名を出した。長谷部は、4年前に捜査のあとに事件現場で自慰行為をする醜聞を週刊誌に報じられ、その後 阿佐ヶ谷駅のホームで自殺した警部補だった。
一方、スズキの言葉遊びのなかから九段下の新聞配達店が2度目の爆発だと気づいた清宮たちは すぐに現場に伝え、交番勤務の倖田沙良(伊藤沙莉)の機転により被害者を出さずに済んだ。
そしてスズキは次の爆発を予言しながら、清宮や類家がいない隙に取り調べの記録係の伊勢勇気に取り入り、重要な情報を与える。
実は長谷部が不祥事を起こすまえ、等々力は捜査中に彼が現場で自慰行為をするところを見てしまい、精神科クリニックを紹介していた。しかし、そのクリニックの医師の守秘義務意識は低く、長谷部の行為を周囲にバラしてしまい週刊誌が目を付けたという経緯があった。等々力は、自分が紹介した病院がきっかけになったことから、長谷部と彼の家族に対して少なからず罪悪感を抱いていたのだった。
等々力とその上司の鶴久は、不祥事を起こして警察を辞めた長谷部の妻・石川明日香にあう。長谷部は明日香に離婚を切り出したあと電車に身を投げた。鉄道会社から多額の賠償請求を請求されたため、生活は困窮し一家は離散した。父が命を絶った後、息子の辰馬は人が変わったようにふさぎ込み、仕事も辞めて引きこもった。そんな兄を妹の美海は責め、家族の仲も冷え切ってしまった。等々力は、スズキに関する情報を何も得ることがないまま、明日香のアパートを後にした。
3度目のスズキのヒントで清宮は、子どもたちが危ないと近隣の幼稚園や小学校から子どもたちを非難させ、爆発物も発見した。しかし、類家はスズキが言ったヒントの答えとしては十分ではないと感じていた。そんななか代々木公園の南口で大きな爆発が起き、炊き出しに並んでいたホームレスを含む60名が犠牲となった。
スズキは言葉遊びのなかで命の平等、段ボールハウスなど、爆弾のもう一つの場所を匂わせていたが、清宮はそれらを無視して、子どもたちの方のヒントを優先してしまった。
清宮が犯してしまった「命の選択」を、醜く笑うスズキ。思わず清宮は、スズキが立てた指を力いっぱい曲げようとしたが、類家に制止されてしまう。
スズキの罠にはまり「心の形」をさらけ出されてしまった清宮は腰砕けとなり、次のゲームの参加は難しくなった。
スズキがあと3度と言っていたのは、東京ドームシティ、九段下、代々木。つまり一回戦が終わっただけということだった。まだまだ仕掛けられた爆発物は残っており、二回戦からは類家が担当することになった。
スズキから忘れた携帯電話の場所をこっそり教えられた伊勢勇気は、署から交番勤務の同期・矢吹泰斗に連絡を取った。矢吹は後輩の倖田と共に喫茶店に向かい、店主からスズキの携帯電話を預かったが、スマホカバーの裏に住所が記されたシールを見つけた。
住所にあったシェアハウスにたどり着いた矢吹と倖田が中に入ると誰もおらず、一室にはなんと長谷部の姿がスクリーンに映し出されていた。さらに奥に進むと、椅子にテープでぐるぐる巻きにされた長谷部の息子の辰馬の姿があった。
散らばった物の状況から、恐らくここで辰馬は爆弾を製造していたと思われ、スズキがわざと携帯を忘れて警察をおびき寄せたのだった。そして矢吹が辰馬に「大丈夫か」と駆け寄った瞬間に爆発が起こり、倖田をかばった矢吹は脚が吹っ飛ばされてしまう。
倖田はスズキを許すことができず、野方署の取調室に乗り込み拳銃を抜いた。類家に羽交い絞めにされる倖田を見ながら、スズキは腹を抱えて笑い、その後射精した。
清宮の代わりスズキの相手をすることになった類家は、スズキに取り込まれることなく少しずつ事件の輪郭を掴んでいくが、肝心の真相まではたどり着けずにいた。野方署の前には、スズキが流した動画を見た人々が集まり「犯人を出せ」「非難させろ」叫ぶなどして混乱していた。そんななかスズキは「次の爆発は、東京の、丸ごと駅ぜんぶです」と告げた。
一方、辰馬の遺体が爆破されたシェアハウスには、辰馬、梶、山脇、そして50歳位のホームレスが住んでいたことが判明する。辰馬は腹を刺された後爆死させられ、爆弾計画のメンバーだった梶、山脇も2階で遺体となって発見された。類家は長谷部が自殺した阿佐ヶ谷駅の爆発を予測して、人々を非難させるが爆発物はどこからも見つからない。
そうこうしているうちに、山手線の駅が次々と爆発し始めた。丸ごとというのは山手線の円内のことで、先に爆発があった東京ドームも九段も円のなか、秋葉原と代々木も山手線内だった。しかし爆弾の推定数10個のうちまだ9個しか爆発しておらず、あと1個残っている。類家は、この爆弾計画をひとつの「作品」に見立てているスズキが最後を飾る爆発はどのように仕立てるか考えた。
そして類家はある仮説を立て、スズキに「辰馬たちは、あんたを利用しただけで仲間とは思っていなかった。使い走りだったんだ」と挑発してみた。すると、スズキは石川啄木の詩の一篇を唐突に暗唱し始めた。類家は「石川」という苗字にピンときた。スズキは最後の爆弾を長谷部の妻・石川明日香(夏川結衣)に仕込んでいたのだった。
その頃 倖田は、警察署の医務室でケガ人の救護にあたっていたが、そのなかに長谷部の妻明日香を見つける。以前、倖田は警察署内の豚汁の炊き出しで一緒になったことがあり、顔見知りだったのだ。スズキのことが赦せずここにやって来たという明日香は、プリペイド携帯の番号にコールするとリュックが爆発すると明かした。
実は明日香は、夫が亡くなったあとホームレスとなり、スズキと知り合いになった。シェアハウスに住んでいた50代のホームレスというのは、スズキではなく明日香だったのだ。そして辰馬が連続爆弾計画を立てており、仲間にも手をかけたと知った明日香は、スズキに相談した。
つまりスズキは辰馬と面識はなく、彼が亡くなったあとにホームレス時代の仲間の明日香から、この爆弾の計画を知らされたのだった。スズキは真犯人という栄光を掴むため、辰馬の罪をすべて引き受けるかわりに、爆弾計画を乗っ取ることを明日香に提案した。それからスズキは、辰馬たちが計画したものを自分好みに書き変え、数日で段取りとシナリオを考えたのだった。
取り調べ室の前まで明日香を案内した倖田は、「やっぱりあなたに人殺しはさせたくない」と明日香を抱きしめるが、もうすでにプリペイド携帯はコールされていた。しかし、何も起こらなかった。
その頃 取調室のなかでは類家は、スズキが明日香に送った爆弾がフェイクであることを見抜いていた。スズキは最後の爆弾を爆発させないことで、事件を風化させないようにした。つまり最後の爆弾の存在がないと証明されるまで、警察の恐怖は続いていくということだ。
一方で事件のからくりを暴いた類家は、スズキに取り込まれることなく、彼の「作品」の完全な完成を阻んだ唯一の人物だった。スズキは移送の際に等々力を見つけ「今回は引き分けです。と類家さんに伝えてもらえますか」と話した。
爆発を防げず甚大な被害を出してしまった清宮、類家、そしてスズキに拳銃を向け、明日香を取調室まで連れて来た倖田は上からの処分を静かに待つほかなかった。
1か月後
明日香は息子の殺害容疑を認めず、すべては辰馬を洗脳したスズキタゴサク仕業だと主張した。
未だに本籍の確認が取れないスズキタゴサクは、一貫して霊感、記憶喪失、催眠を主張したが、多くの状況証拠、精神鑑定もパスしたことから極刑は免れないとみられている。
世間は、スズキのこと、最後の爆弾の存在を忘れ、日常に戻っていった。