鍵のない夢を見る 辻村深月
2012年、第147回直木賞受賞作。さすが辻村深月だ、深みもキレもある。
仁志野町の泥棒
観光バスツアーで、りっちゃんと口をついて出た。いまの立場はバスガイドと教師。
りっちゃんは成績はぱっとしないが運動神経がいい。りっちゃんに弟ができたとき、親戚の子、いとこみたいなものと言っていた。小学校5年生になったとき、りっちゃんのおばちゃんは泥棒なんだよと噂がたった。
ピアノの先生をしている優美子ちゃんのおばさんから、ミチルちゃん、生理きたと聞かれたとき、まだと答えた。泥棒は生理のせいだと教えてもらった。
6年生になってもりっちゃんは転校しなかった。他の学校では1年程度で引っ越していたと聞いていた。りっちゃんのおばさんが私の家に入って泥棒していることを母と私が目撃した。母はりっちゃんとずっと仲良くしなさいと言った。
優美子と律子と私で卒業制作に取り掛かった。文房具屋で律子が消しゴムを万引きする現場を見て、私はお金払いなよと言った。それから卒業まで口を聞かなかった。
高校生になって、商業高校に進んだ律子が友だちといるところに出くわした。おしゃれで髪が長く歌が好きな、私が知る律子のままだった。優美子と一緒にいたよねと言われたが、最後まで私の名前は言わなかった。
石蕗南地区の放火
笙子が出社すると実家の近くの消防団から不審火が出たという。笙子の2階の部屋の向かいだった。私は短大を卒業して16年が経つ、36歳。
災害共済の者ですが、と焼けた消防署を訪れた。写真を撮って社に帰ると退社していいという。母は放火だという。
母親は私が一人でいることを心配していて、何かにつけ口出しするから、当然のことながら煙たい。一番熱心に謝りに来た人は役場の大林だという。
私は大林と横浜に出かけたことは誰にも言っていない。今年の初めに職場に出入りする石蕗町役場の職員に持ちかけられた合コンを断ることはできなった。 パートの朋絵に頼み込んで2人で出ることにした。役場の飲み会は、合コンとは名ばかりの彼らの無礼講だった。大林にメールアドレスを教える羽目になってしまった。その後、メールがたびたび送られてくるようになり、断り続けたのも関わらず、仕方なく誘いを受けることにした。横浜でデートをしたが、大林といることが耐えられなくなって、祖母を急病になったという理由で帰ってきた。そのあとメールアドレスと電話番号を変えた。
なんと、大林が放火で捕まった。ヒーローになりたかったという。記事には私のことも身勝手な恋のことも一言も載っていなかった。ふざけるなと叫んだ。
美弥谷団地の逃亡者
11時過ぎ、美衣は房総のラブホテルで陽次に起こされた。美衣の服装といえばオレンジのキャミソール、白のショートパンツ、サンダル。着替えがないから下着を履いていない。陽次は旅支度をしていた。マクドナルドでバーガーを食べる。そのあとタクシーで海に向かった。陽次とは携帯のご近所サイトで知り合った。高校で小百合と会った時、変わったねと言われた。母には、年相応に清潔感がないからだと言われた。
陽次にあいだみつをの詩を教えてもらって、日めくりカレンダーを買って母に渡した。母は、美衣もこういうものがわかるようになったと目を潤ませていた。
母に陽次のDVの話をしてアザを見せると、警察に行こうという。あの家のお母さん怖いと、二度と近づけなくしてやると言った。そして、私は被害届を書き始めた。
母は陽次に腹を刺された。食堂で陽次はラーメン、私はカレーを頼む。陽次は警察に取り囲まれた。家に帰っても死んだ母はいないのだ。
芹葉大學の夢と殺人
二木未玖は坂下先生が殺されたと聞いたとき、雄大の仕業と思った。坂下先生の遺体は工学部研究棟にある研究室から発見された。製図表をしまうために使っていた研究室のロッカーに押し込まれていた。遺体の発見から数日後雄大の名前が容疑者として報道された。
芹葉大学の工学部デザイン学科の学生たちは、2年になると同時に研究室に振り分けられる。私たち坂下研究室は男子12名女子3名。出版社にバイトをして、名の知れられた女性誌に自分の描いた絵が載った。デザイン学科だけれど、雄大の夢は医者になりたいだった。雄大とは肉体関係の間柄になった。医者になってサッカーをするという。
私は坂下教授に気に入られている。酒のタバコもやるし男とも対等に議論すると、坂下先生は私を褒めた。あるとき坂下先生から電話があり、授業開始時に遅れることを注意された。
翌日、雄大は坂下先生に学生に平等でないと意見をした。
雄大は卒業できなかった。そのことで親と揉めた。
私は教育実習をとって高校の教員試験に受かった。雄大はサッカーの授業で足関節を骨折した。雄大と坂下先生の関係が険悪になったのは、その頃だ。なぜ卒業させてもらえないのかと大喧嘩をした。訴えるとも言った。
私は雄大から別れを切り出された。しかし別れは名ばかりだった。雄大は、4年の間医学部に受からなかった。来年工学部を卒業できなければ放校になる。
雄大が坂下先生を殺した。指紋も拭き取ったし証拠はないと叫んだ。雄大にはこの世には生きる場所がないのだ。
君本家の誘拐
良枝が大型ショッピングモールのショップを見て回っているとき、ベビーカーごと咲良が行方不明になった。数時間ごとに夜泣きで起こされていた。一昨日も昨日も今日も咲良から離れたいと思っていた。ふたりの警備員に警察に届けましょうかと言われた。夫の携帯の番号は家に帰らないとわからない。空っぽのチャイルドシートを後部座席に積んだ軽自動車を家に向けて走らせた。
高校時代の友人ら始まって、君江の結婚に至るまでのヒストリーが語られ、妊娠まで苦悩が披露され、妊娠してから悪阻に苦しんだことが綴られる。
生まれて2か月が経って予防接種のとき、泣き止まない咲良にうるさいと言って頬をぺしんと叩いたこと思い出した。
エレベーターで6階に上がると、部屋のドアの前にベビーカーがあった。急いでドアを開けると、咲良はベビーベッドで眠っていた。寝不足で頭が混乱していたのだ。咲良をベビーカーに乗せて警備員に、見せるために今度は立体駐車場の3階に車を停めた。画策しようとして、男子トイレの近くにベビーカーをおいた。警備員がベビーカーの中を覗き、お母さん、見つかって本当に良かったと言った。
« 嘘つきジェンカ 辻村深月 | トップページ | HELP/復讐島 »
「短篇」カテゴリの記事
- 鍵のない夢を見る 辻村深月(2026.02.07)
- 鍵のない夢を見る 辻村深月(2025.11.22)
- “少女神”第9号 フランチェスカ・リア・ブロック(2022.10.20)
- 脂肪の塊・テリエ館 モーパッサン(2022.09.24)
- 雨・赤毛 モーム短編集Ⅰ サマセット・モーム(2022.08.17)



コメント