シンプル アクシデン
悲惨だがなぜか乾いたユーモアに包まれた作品である。 ある日、車の不具合でワヒドの働く整備工場にある家族が立ち寄る。その一家の男の記憶がよみがえってくる。それはかつてワヒドが反体制的であるという理由で不当に逮捕され、そこで拷問を受けたあの人物がだす音と同じだった。復讐心が沸き上がり、強引な手段で男を拘束するが、本当にこの男なのか確証は得られない。イランの巨匠ジャファル・パナヒが手がけ、映画祭金獅子賞、「人生タクシー」でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しているパナヒ監督は、本作でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したことから、3大映画祭すべてで最高賞を受賞する快挙を成し遂げる。巨匠と呼ぶに相応しい。
【予告編】にリンク
2025年製作/103分/G/フランス・イラン・ルクセンブルク合作
原題:Un simple accident
配給:セテラ・インターナショナル
公開日:2026年5月8日

ワヒドは序盤こそ復讐心に駆られ、かつての拷問者「義足のエグバル」らしき男を衝動的に拉致し、土に埋めて殺害を試みる。かと思えば理性を取り戻し、男が本当にエグバルかどうかを冷静に検証するなど、混乱した内面を露呈させる。しかし、同行者が増えるにつれロードムービーの様相を呈するに至って、彼は状況を俯瞰するような態度へと移る。

女性カメラマンのシヴァは「義足のエグバル」らしき男に執拗に関わりを持とうする。花嫁のゴリは性暴力で負った深い悲しみと怒りに囚われ、その婚約者アリは一歩引いた視点でゴリに寄り添う優しさを見せる。シヴァの元恋人であるハミドは直情的で常に激しく怒り、暴力的な解決に走りがちだ。警察が目をつけたワヒドから賄賂を頂戴する場面では、なんとハンディキャッシャーが活躍する。そんなに取るのかと無念のことばをもらす。

同乗者たちは、捕らえた男を「復讐のために殺すべきか」「罪を認めさせて裁くべきか」と議論するが結論は出ない。かわりに同乗者は、「義足のエグバル」らしき男を、木の幹に縛りつけ、シヴァはじめ同乗者がいたぶって、謝罪をさせようとする。
最後のシーンは、家の中で後ろ向きのワヒドに片脚が義足のゆっくりした足音が迫ってきて、その足音がまたゆっくりと立ち去っていく。「義足のエグバル」が何かを置いっていったに違いない。
哲学的なテイストが漂う作品である。
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