グルメ・クッキング

『男のチャーハン道』土屋 敦

パラパラチャーハンを家庭で作るという至上命題のもとに、文献を渉猟し、プロに教えを請い、創意工夫のもとに試行錯誤を繰り返す。パラパラチャーハンに対する批判にも丁寧に反証しながら、鍋の種類、鍋の温度、ご飯の量、ご飯の状態、油の量、卵の量、混ぜ方、ネギの量、炒める時間などを徹底的に検証する。

そもそもパラパラがもてはやされたのは、食漫画『美味しんぼ』(第4巻1985年)からだという。1990年代のテレビ番組『料理の鉄人』に出演した周富徳がきっかけとなり、チャーハンは中華鍋をあおって作るというイメージが定着していった。中華鍋でご飯を空中に上げたときに、業務用ガスコンロの炎が直接ご飯を包み、水分を飛ばすといわれた。

男のチャーハン道 (日経プレミアシリーズ)
男のチャーハン道
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土屋 敦
日本経済新聞出版社(日経プレミアシリーズ)
2018年4月

では、業務用のコンロの火力がなければ、パラパラチャーハンは作れないという「強火神話」は本当か?
家庭用コンロでは、ご飯を投入すると鍋の中の温度が急激に下がる。これを解消すれば、なんとかなると著者は考えた。鍋の温度を230度から250度以下に落とさなければいいことに気づく。ちなみに温度は赤外線センサー付き温度計で計る。

次は玉子コーティングについて。著者が調理関係の書籍を調べた限りでは、1980年代より前つまり1990年代になるまで、玉子コーティングの記述はないという。
あらかじめご飯と卵を混ぜてから炒めるというやり方もあるが、食感はパラパラというよりポソポソ。パラパラチャーハンに卵は必要だが、卵コーティングは重要な要素ではない。

ご飯は、炊きたてはだめで、硬めに炊く必要はない。炊いてから5時間保温したものがいい。前もって、ご飯230gを600W2分20秒電子レンジにかけ温め、かつ水分を飛ばしておく。217gになり水分が5%減った。
インディカ米を使えば苦労せずパラパラになるが、あくまでジャポニカ米にこだわる。
卵も40度のお湯に8分つけて温めておく。

たどり着いた調理の手順は、まず、中華鉄鍋が350℃になったところで、大さじ1杯の太白ごま油を入れ、卵を投入する。ご飯を入れ鍋はあおらない。中華おたまと中華ヘラを使ってまぜる。中華ヘラでフライパンの壁にご飯を押し付ける方法がいい。塩2.1〜2.6gを入れる。粗みじんの白ネギ20gを火を止める寸前に入れる。炒め時間は2分20秒。→人気ブログランキング

男のチャーハン道/日経プレミアシリーズ /2018年
男のパスタ道/日経プレミアシリーズ(日本経済新聞出版社)/2014年

『やきとりと日本人 屋台から星付きまで』 土屋美登世

かつて、やきとり屋には煙とおじさんとビールか焼酎かコップ酒がつきものだった。ごちゃごちゃ感と一体感が入り混じっていた。ところがやきとり屋でワインが出てくるようになり、柔らかい間接照明の下でBGMはジャズが流れ、女性客が珍しくなくなった。素材はブロイラーから地鶏や銘柄鶏になり、野菜焼きが加わりパテやサラダが登場し、やきとりのコースも一般化した。やがて、『ミシュラン・ガイド』にもやきとり屋が載るようになり、さらに外国人の好きな日本料理の第1位にも選ばれた。

まずは歴史。そもそも、やきとりに関する資料が乏しいという。ここ50年くらいの動きについてすら資料があまり見当たらない。やきとり屋の店主や鶏卸業者の証言を拾い、畜産史や食に関する随筆などで裏付けながらつなげていったという。

やきとりと日本人~屋台から星付きまで~ (光文社新書)
光文社新書
2014年12月
売り上げランキング: 120,670

文献に鶏が現れるのは『古事記』のなかで天岩戸に天照大神が隠れたときに、尾長鶏が鳴いたというシーンが出てくる、これが最初。
江戸時代後半には軍鶏鍋や鶏鍋が流行った。
やきとりは江戸後期から明治初期にかけて屋台の商売として確立していった。
明治時代までは鶏はもっぱら採卵が目的だったので、廃鶏になってから肉を食べた。
日本橋牡蠣町の「伊勢廣」という鶏肉卸問屋に勤めていた人物が、1921年、のれん分けのかたちで京橋で「伊勢廣」を開業した。開業当時からコース仕立てのメニューだったという。
大正から昭和初期、東京の屋台系はもつ焼きを出していた。鶏もあるが焼き豚ともつ焼きがメインだった。
戦後、やきとりともつ焼きが混沌としていた時代のなかで、やきとりといえば鶏と決定づけた出来事は、1960年頃のブロイラーの登場である。
それまでは、鶏といえば相変わらず採卵のための鶏か、鍋に使われる軍鶏が多かった。

著者はやきとりブームを3期に分ける。
ブロイラーが普及した1960年前後から1970年代までを「第1次やきとりブーム」とする。
バブル期と一致する80年代からの10年間を、「第2次やきとりブーム」と位置づける。地鶏や銘柄鶏が使われるようになり、野菜焼きが一般的になった。『ミシュラン・ガイド東京版・2010年度版』に5店舗が星1つで掲載された。
「第3次やきとりブーム」は、2010年代から。オリジナリティ豊かなメニュー、ワインが取り揃えてあって、カフェ風あるいはビストロ風のおしゃれな店が現れた。→人気ブログランキング

「99分、世界美食めぐり」

5人の美食ブロガーが、世界各地の星つきレストランをめぐるドキュメンタリー。主人公はレストランや作り手ではなく、あくまで食べ手のブロガーである。
有名ブロガーの食べることに対する考え方や、一流シェフたちの仕事へのこだわりが語られる。食ブロガー必見の映画

99分,世界美味めぐり [DVD]
原題:FOODIES
監督:トーマス・ジャクソン  シャーロット・ランデリウス  ヘンリック・ストッカレ
製作:スウェーデン 2014年  99分  ✳︎✳︎✳︎✳︎

スティーヴ・プロトニキ ブログ
音楽のレーベルの元オーナー。
インタビューで店に対し辛口のコメントを発するのは、料理の世界を変えてやるという野心を持っているからだと、大言壮語する。料理は芸術だと力説する。
ニューヨークを拠点にしている。シェフ泣かせの辛口ブロガー。

アンディ・ヘイラー  ブログ
コンピュータのソフトウェア開発で財をなした。ロンドン在住。
ミシュランの三ツ星レストラン109店すべてを食べ尽くした人物。
世界一のカレー料理を求めて、ムンバイの店を探索する。

アイステ・ミセヴィチューテ ブログ
エストニア出身。パリを本拠地にモデルとして活躍している。
日本では、菊乃井(京都)、寿司はせがわ(六本木)を紹介した。
料理を口にする彼女には、修行僧のような鋭利で静謐な雰囲気が漂う。

パーム・パイタヤワット ブログ
シェークスピアを研究しているという。タイのぼんぼん。
ハーフパンツで軽やかに動き回り、日食生活を十分に堪能している感じがする。
食への説得力は今ひとつだ。

ケイティ・ケイコ・タム ブログ
普通のOLと紹介されている。
香港で両親と暮らしていて、自分の給料だけでやっているという。
ニューヨークでは、タイトなスケデュールで1日に複数の店を回る。厨房の中を案内されVIP扱いにご満悦のようである。まだ美食生活に慣れていない様子。

登場するレストランは以下の29店舗、✳︎はミシュランの格付け。

マエモ(オスロ)✳︎✳︎、 ピエール・ガニェール(パリ)✳︎✳︎✳︎、フェ―ヴィケン(エステルスンド スウェーデン)、41°(バルセロナ)、アルサック(サンセバスチャン)✳︎✳︎✳︎、ノーマ(コペンハーゲン)✳︎✳︎、ゼラニウム(コペンハーゲン)✳︎✳︎、イレヴン・マディソン・パーク(ニューヨーク)✳︎✳︎、鮨さいとう(東京)✳︎✳︎✳︎、都寿司(東京)、神保町 傳(東京)✳︎✳︎、菊乃井(京都)✳︎✳︎✳︎、フロコンド・セル(ムジューヴ)✳︎✳︎✳︎、響○軒(マカオ)、アンバー(香港)✳︎✳︎、ボー・イノベーション(香港)✳︎✳︎、龍井草堂(中国 杭州)、ヘドネ(ロンドン)✳︎、サチュルヌ(パリ)、ジヤ(ムンバイ)、シェリー・ターカル・ボージナーラヤ(ムンバイ)、ボラン(バンコク)、ダニエル(ニューヨーク)✳︎✳︎、バー・セ(ニューヨーク)✳︎✳︎✳︎、ル・バーナディン(ニューヨーク)✳︎✳︎✳︎、マレア(ニューヨーク)✳︎✳︎、モモフク・コー(ニューヨーク)、ムガリッツ(サンセバスチャン)✳︎✳︎、 マルティン・ベラサテギ(サンセバスチャン)✳︎✳︎✳︎

食ブロガーに対して、店側の本音は宣伝になるから取り上げて欲しい、ただし悪評は書いては困るという単純なもの。
店は有名ブロガーに対してその影響力を恐れ、他の客とは別格の扱いをすることになる。無料での料理の提供や厨房の中を案内したり、シェフにインタービューしたりする特権が与えられる。そうした扱いを、拒否しようとするブロガーもいれば、受け入れるブロガーもいるだろう。そのあたりのことは、『グルメの嘘』(友里征耶 新潮新書)に詳しい。

最後に、登場したフーディーズたちの体型であるが、3人の若者たちは問題ないが、ふたりの中年男の二重顎とだぶついた腰回りは、複数の生活習慣病を抱えていそうだ。今や、美食家が肥っているというのは説得力に欠ける。→人気ブログランキング

99分、世界美食めぐり』DVD  2014年
美食の世界地図 料理の最新潮流を訪ねて』山本益博  竹書房新書 2014年
二郎は鮨の夢を見る』DVD
エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』DVD  2011年
グルメの嘘』友里征耶  新潮新書 2009年

『ずるずる、ラーメン』

ラーメンに関するのエッセイ31作と漫画1作が収録されている。
筆者たちが、ラーメンに求めているのはタイトルから感じ取れるように、ジャンクさである。粗野で正統でないもの、悲哀や懐かしさを感じさせるもの。それゆえ、悲しいかな毒のような扱いをされても、決して栄養のバランスがいいとは論じられない食べ物が、ラーメンである。
それは、中華料理店のラーメンであろうと、ラーメン屋のラーメンであろうと、インスタントラーメンであろうと同じである。

ずるずる、ラーメン (おいしい文藝)

河出書房新社
2014年6月

・「なんだ、コレハ」のラーメンを食べた話。「駅路地裏裏ラーメンの謎」椎名誠
・ついラーメン3杯を食べてしまった。「度を越す人」宮沢章夫
・なじみのラーメン屋の一時閉店の事情。「相撲とラーメン」川本三郎
・山形の冷やしラーメン。「はっこいラーメン」角田光代
・親父と水商売系の若い女がやっている店。「麗しの愛人ラーメン」池上永一
・旨い味噌ラーメンを出した札幌のラーメン屋が閉店。「幻のラーメン」吉村昭
・天下一品でこってりラーメンと唐揚げ定食をつい食べてしまう。「すべてはこってりのために」津島記久子
・花粉症の原因であるぶた草を探そうと自転車で出かけて、たどり着いたとんでもないラーメン屋。「悪魔のマダム」久住昌之
・天願屋でラーメンを食べる。「静謐なラーメン」町田康
・ラーメンを食べる女性が増えることを願う。「ラーメン女子の実態」島本理生
・外国での取材旅行から帰ったら、絶対ラーメン屋に直行する。「ソウルフードか、ラーメンか?」内澤旬子
・中国で仕事をする弟が日本に帰国したときに食べたがるのはラーメン。「ラーメン」内館牧子
・午後2時のラーメン屋にてラーメンが出てくるまで。「午後2時のラーメン屋」東海林さだお
・札幌のラーメンは帰るための儀式。村松友視
・酒を飲んだ後にラーメンを食べることは、死の欲動(タナトス)としての塩漬けになる、という御高説。「タナトスのラーメン」千葉雅也
・母親と食べた屋台のラーメンにはじまり、冷やし中華は安物にかぎると結ぶ。「屋台のラーメン」林静一
・高校の寮住まいのころの、ラーメン屋と焼肉屋の思い出。「仙台のラーメンとホルモン焼き」丸山健二
・タンメンと焼き餃子は大田区が発祥。「焼き餃子とタンメンの発見」片岡義男
・小津安二郎監督の話。「支那そば大会」池部良
・『にっぽんラーメン物語』に書かれている、日本で最初にラーメンを食べた人物が水戸光圀という説は根拠が希薄である。「日本ラーメン史の大問題」丸谷才一
・真夜中にインスタントラーメンを作って食べる話。「真夜中のラーメン」北杜夫
・日本のラーメン、ワンタンはさっぱり旨くないが、シュウマイはちらほらいいのができるようになった。「ラーメンワンタンシューマイヤーイ」開高健
・台湾で食べた絶品のラーメンと小籠包。「元盅土鷄麺という名のソバ」古波蔵保好
・ニンニクたっぷりのベトナムラーメンを食べさせる店で、エロ写真展を開いた話。「カルロ・パンティとベトナムラーメン」荒木経惟
・行きつけの店で、〆に食べたヨーグルト入りトルコ風ラーメン。「トルコ風ラーメン」馳周
・ラーメン大好き小池さんのお嫁さんが3食手料理を作ってくれるのはいいが、インスタントラーメンを食べたいと言い出せない小池さんの葛藤。「あこがれのラーメン」藤子・F・不二雄/藤子不二雄A
・サッポロ一番みそラーメン歴37年。「わが人生のサッポロ一番みそラーメン」森下典子
・試食したチキンラーメンに始まるインスタントラーメンとの付き合い。「ラーメン時代」曽野綾子
・ビルマでカップヌードルを食べた話。「仏陀のラーメン」沢木耕太郎
・カップラーメンは容器の形が絶妙で量もちょうどいいが、カップ焼きそばは多すぎて持て余すといったようなことが書かれている。「ラーメンに風情はあるか」吉本隆明
・カップラーメンの雲呑麺に書かれている「至福の一杯」という言葉に惹かれる。「最近の至福」江國香織
・節約してラーメンを食べるのは健康という高い代価を払うこと。「ラーメン」石垣りん→ブログランキングへ

『美食の世界地図   料理の最新潮流を訪ねて』山本益博

かつて、世界の料理をフランスが牽引していた。その伝統はポール・ボキューズ、ジョエル・ロブション、アラン・デュカスと引き継がれていたが、フェラン・アドリアのエル・ブリ(あるいはエル・ジブ)が閉店したあとは、求心力のある料理人がいなくなったという。
今や、エル・ブリで修行したアドリアの弟子たちが、ヨーロッパやアメリカの各地で活躍している。著者はそれらの料理店を食べ歩いて最新情報をレポートしている。

美食の世界地図 料理の最新潮流を訪ねて (竹書房新書)
山本益博(Yamamoto Masuhiro
竹書房新書
2014年1月 ★★★★★

食はファッションと似たようなところがある。
最先端では、ある意味で実験的で斬新な料理が提供されるし、驚くほど高価な料理がある。一方、家庭では普段着を着るように、日常の食卓にのるありふれた料理がある。
パリコレで絶賛されたファッションが庶民におよそ縁がないように、最先端をいく料理店や超高級店は庶民には全く縁がない。ただし、ユニクロを代表とする低価格帯のファッションブランがあるように、料理にはB級グルメの愛すべき世界がある。
料理界のトレンドは、最先端を食べ歩く著者のような人物たちに任せておけばいい。そこからこぼれてくる情報で庶民は十分である。

本書の中盤では、日本料理の最先端の店に触れ、すきやばし次郎を誉め、ミシュランガイドの不可解な採点基準に疑問を投げかけている。
参考までに、すし飯がの良し悪しはかんぴょう巻を食べると一番わかるという。

最後は、日本の食に関しての説教めいたことを書いている。かつては鼻持ちならない自慢こきの美食おやじとレッテルを貼っていたのだが、本物を追求して洗練されてきたのか、説教が的を射ているように思う。
そんなわけで、著者の食に関する集大成といえる本である。→ブログランキングへ

【食に関する本】
とことん!とんかつ道/今柊二/中公新書ラクレ/2014年
美食の世界地図 料理の最新潮流を訪ねて/山本益博/竹書房新書/2014年
クスクスの謎―人と人をつなげる粒パスタの魅力/にむらじゅんこ/平凡社 新書/2012年
冬うどん 料理人季蔵捕物控/和田はつ子/ハルキ文庫 2012年
ラーメンと愛国/速水健朗/講談社現代新書/2011年
高級ショコラのすべて小椋三嘉/PHP新書/2010年
チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石/武田尚子/中公新書/2010年
グルメの嘘/友里征耶/新潮新書/2009年
吉田類の酒場放浪記/TBSサービス/2009年
古きよきアメリカン・スイーツ/岡部史/平凡社新書/2004年
食べるアメリカ人/加藤 裕子 /大修館書店/2003年
至福のすし「すきやばし次郎」の職人芸術/山本益博/新潮新書/2003年
フグが食いたい!―死ぬほどうまい至福の食べ方/塩田丸男/講談社プラスアルファ新書/2003年
カラ-完全版 日本食材百科事典/講談社プラスα文庫/1999年
インスタントラーメン読本/嵐山光三郎/新潮文庫/1985年
アメリカの食卓/本間千枝子/文春文庫/1984年

『至福のすし「すきやばし次郎」の職人芸術』山本益博

至福のすし―「すきやばし次郎」の職人芸術 (新潮新書)
山本益博 (Yamamoto Masuhiro
新潮新書 
2003年12月

銀座の高級寿司店「すきやばし次郎」の主人・小野二郎は、78歳(2003年当時)である。普通ならすでに引退している年齢であるが、第一線の職人として寿司を握っている。寿司職人として円熟の極みに達しているというのは、人が考えること。二郎はまだまだ成長しようの日々努力を重ねているという。

「掃除をしていてしすぎるということはない。汚れたらすぐに拭けばいい。それが半日もたてば洗わなくてはならない。1日置いたら磨かなくてはならない」と、小野二郎は弟子たちに言う。

フランス料理の天才ジョエル・ロビュションが飛行機に乗っても食べに出かけたい店は、スペインの「エル・ブリ」、「すきやばし次郎」と言っている。
著者は、『東京味のグランプリ』(1984年)に、寿司を食べる順番について、フレンチのコース料理のように、初めはあっさりとした白身、メインデッシュにマグロ、最後にデザートとして玉子焼き、と書いた。これが今では受け入れられている。
この本のテーマ、「すきやばし次郎」の礼賛、著者の推奨する寿司を食べる順序、ジョエル・ロビュションと著者および小野二郎との交流である。

ところで、本名が小野二郎であるのに、店名を『次郎』としたわけは、
「すし屋で二郎じゃ、なんだか間が抜けているでしょ。それで『次郎』としたんです。でも『次郎』と看板を出してから、小野次郎と思う方がずいぶんといらっしゃいます」とのこと(p50)。
気になっていたことだけれど、まあそうだろうなという答えで納得した。

ちなみに、巻末には、「すきやばし次郎」で寿司を食べるノウハウが書かれていて、予算は2万5千円。(2003/4/24) →ブログランキングへ

→【2014.01.27】『二郎は鮨の夢を見る』/2011年/Jiro Dreams of Sushi/米/デヴィッド・ゲルブ

『グルメの嘘』 by 友里征耶

グルメの嘘 (新潮新書)
友里 征耶
新潮社
2009年11月20日

雑誌や本の飲食店を紹介する記事に、店をけなす内容が書かれているのを目にしたことがない。歯の浮くような誉め言葉が並んでいるのが常である。その理由は、店の欠点が載っている本や雑誌は売れないからだ。
テレビも同じだ。出演者が不味そうに食べたり、「旨くない」と評価したりするグルメ番組は、番組として成り立たない。
こうして批評のないグルメの世界が形作られているという。

著者は飲食店を覆面取材し、辛口の評価をブログに載せ雑誌や本に書いている。著者は業界内で恐れられあるいは目の敵にされているライターである。
本書は、今の日本のグルメ界を切って切って切りまくる、超辛口のグルメ論である。

美味しいとしか書かないフード・ライターを、著者はヨイショ・ライターと呼ぶ。グルメの世界は、このヨイショ・ライターでもっている世界だ。
雑誌に連載コラムを持つグルメ界の大御所は「私はこういうものです」と名乗って店に入る。店側は一番いい部屋を用意し、素材をえりすぐり、調理は手を抜かずにもてなす。さらに「御代は結構です」ということになる。こうなれば、大御所はその店を賛美する文章を書くことになる。

料理人の半生を書いた本に対して、著者は次のように切る。
ヨイショ・ライターは、エピソードをでっち上げ、あるいは誇大に膨らませ、料理人を努力の人や天才などと褒め称えるのだ。

グルメ関連ブログについても、手厳しい。
氾濫するブロガーの一番の問題点は、賞賛するだけで、まったく検証や疑問を書き綴っていないことであると指摘する。
身につまされる指摘だが、店の悪口はなかなか書けない。
せいぜい、旨くないと思った料理を旨いとは書かないことだろう。

グルメの世界に喧嘩を売るような過激な内容です。
要は、グルメを語るなら顔を洗って出直せってことでしょうか。

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『インスタントラーメン読本』 嵐山光三郎

Photo

嵐山光三郎 編著
1985年

あくなき食の追及者嵐山光三郎が、編者かつ著者。
実体験食日記「5泊6日インスタントラーメン101食」は壮絶な試みだ。
101÷6≒16.83だから、一日にインスタントラーメン約17食を食べることになる。
食べるのは嵐山光三郎。
最近のテレビ番組には、ゲーム仕様の暴飲暴食番組があるが、今どきのそんな出演者の食べっぷりを凌駕する凄さだ。
対談陣、論文執筆陣は、いまでは各界の重鎮として輝く人たちであり、充実している。
松村友視、中沢新一、渡辺えり子、中村えい子、橋本治、糸井重里の顔ぶれ。
下積み時代、インスタントラーメンで生き延びた面々だろうね、多分。
20年以上前に発刊された本なので、インスタントラーメンの銘柄に今とのギャップはあるが、ユーモアと機知に富んだ内容である。
ラーメン界の古典と呼ぶに相応しい名著である。
本書はすでに絶版になっているが、ネットで古書が手に入る。

メヌードを作る

象 (村上春樹翻訳ライブラリー)
レイモンド カーヴァー
中央公論新社

レイモンドカーヴァーの短編集『象』に収録されている『メヌード』には、パーティが終わったあとにメヌードを作る友人の様子が次のように描かれている。

<メヌード、牛の胃(トライプ)。トライプと1ガロンの水で始まった。それから彼は玉葱を刻んで、それを沸騰しはじめていた湯の中に放り込んだ。チョリソ・ソーセージを鍋の中にいれた。そのあとで干した胡椒の実を沸騰した湯の中にいれ、チリ・パウダーをさっさっと振った。次はオリーブ・オイルだ。大きなトマトソースの缶を開け、それをどぼどぼと注ぎ入れた。にんにくのかたまりと、ホワイト・ブレッドのスライスと、塩と、レモン・ジュースを加えた。彼は別の缶を開けー皮むきとうもろこしだーそれも鍋の中にいれた。それを全部入れてしまうと彼は火を弱め、鍋に蓋をした。>

パーティに集まった客たちがメヌードすべて食べてしまい、主人公は食べそびれてしまう。
そのことを主人公は悔やむ。
読んでいてたいそう旨そうに思えたので、ぜひ作ってみようという気になった。
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さて、ハチノス(牛の胃)はどこで売っているのだろう。
古町の肉屋で訊いたら
「牛と豚は扱っていますが、蜂の巣はないですよ」と、とぼけた答えが返ってきた。
前途多難だ。

スーパーの肉コーナーにいくと、白コロホルモン、センマイ、ハツ、モツなどがあったが、ハチノスはなかった。
譲歩して、これらをハチノスの代用として使うことにした。
欧米では内蔵肉のことをバラエティミートというそうだ。
そのバラエティミートのうちハチノスが一番おいしいとどこかに書いてあったが、ないのだからしょうがない。
さらに、レモン、セロリ、にんにく、ピュア・レモン汁、トマト・ピュレ、ホール・トマトの缶詰、乾燥オレガノ、粒胡椒も購入した。
これで買い忘れたものはないだろう。

大鍋のたっぷりの湯に内蔵を入れセロリの葉の部分も入れて、吹きこぼす。
そのあと内臓をザルにあげで洗ったのち適当な大きさに切る。
切った内蔵どもを再び沸騰した湯の中にいれ、玉葱みじん切り、セロリみじん切り、にんにくふたかけら、鷹の爪5本、粒胡椒を適量いれ、こっそりローリエも2枚いれ、じっくり煮込む。
そのあと、水に浸しておいたレンズ豆をぶち込んで、ホール・トマトの缶詰をひと缶いれ、トマト・ピュレ、レモン汁、塩を加えて、さらにグツグツ煮込んだ。

さて、味見だ。
ヒリヒリするほど辛いが、予想通りさっぱり旨味がない。
おまけに油が層をなしてたっぷり浮かんでいる。
ローリエと鷹の爪を取り出し、油の元凶の白コロホルモンも取り出し、表面の油をすくいとって捨て、固形のコンソメを4個入れた。
3日間は食べ続けなければならない量を作ってしまった。
食べるときは、レモンを絞り、乾燥オレガノをふりかける。

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家族の評価は良好だったが、コンソメを入れた時点で、このメキシコ風煮込みスープは敗北だと思った。SBの固形コンソメの投入は、化学調味料に頼ったということで、わが料理規範に反する行為なのだ。
ところで、メキシコではメヌードは宿酔の朝にはもってこいの料理とされ、男性にはそこそこ人気だが、女性にはさっぱりだそうだ。