映画・テレビ

『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』 藤えりか

本書は、朝日新聞の別刷り『GLOBE』に連載されたコラムをまとめたもの。
コラムが執筆された期間に、アメリカ大統領選挙戦があったため、トランプ政権とハリウッドについて所々で触れている。政治、宗教、戦争、人種差別、移民問題、ジェンダーやマイノリティーの問題、貧困問題など、世界が抱える諸問題を映画を通じて浮かび上がらせ、世の不条理を読者に問いかける。饒舌で硬派な内容だ。

ゴールデン・グローブ賞授賞式(2017年1月8日)で、メリル・ストリープは、トランプの人種差別発言や身障者のしぐさを真似したこと批判した。これに対してトランプはツイッターで「ハリウッドで最も過大評価された女優のひとり」「大敗したヒラリーのおべっか使いだ」と中傷した。このあたりのことはニュースで伝えられた。
ところが、トランプを擁護する発言こそなかったが、メリルの発言には賛否が巻き起こったという。さらに、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員の娘で、FOXニュースの番組ホスト、メーガン・マケインは、 次のようにツイートした。
「メリル・ストリープのこのスピーチこそ、トランプを勝たせた要因。それがなぜなのかハリウッドが認識できなければ、彼の再選を助けることになる」と、意味深長なことをつぶやいたという。

『スノーデン』(2016年)を製作したオリバー・ストーン監督のインタビューで、監督は、ヒラリー・クリントンの介入主義の危うさ、トランプへの期待(ビジネスマンは戦争を好まないとオリバーは言っている)、CIAの腐敗や堕落を嘆いている。

2014年、2015年、2016年に公開された映画を中心に語っている。
ハリウッド映画にとどまらず、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、日本、ニュージーランドなど映画にも言及している。
著者は監督やプロデューサーや出演者に、いとも簡単に、電話でスカイプであるい直接インタービューをすることができる。著者の人脈の広さ、交渉能力の巧みさはどこからくるのだろう。ネットでは、著者は「朝日新聞の噂の女」などと揶揄されていて、フットワークの軽い凄腕ジャーナリストに対する、同業者のやっかみともとれる内容の記事が投稿されている。 →人気ブログランキング

取り上げられている映画は、以下。
『沈黙ーサイレンス』(16年)、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)、『ニュースの真相』(15年)、『ハドソン川の軌跡』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年)、『バース・オブ・ネイション』(16年)、『タンジェリン』(15年)、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)、『スノーデン』(16年)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年)、『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』(14年)、『ジャングル・ブック』(16年)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14年)、『ジャック・リーチャー  NEBER GO BACK』(16年)、『ダム・キーパー』(14年)、『ブルーに生まれついて』(15年)、『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』(15年)、『ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男』(16年)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16年)、『帰ってきたヒトラー』(15年)、『裸足の季節』(15年)、『ストリート・オーケストラ』(15年)、『健さん』(16年)、『はじまりはヒップホップ』(14年)『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15年)、「将軍様、あなたのために映画を撮ります』(16年)、『ダゲレオタイプの女」(16年)、『彷徨える河』(15年)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)、『太陽の下で―真実の北朝鮮』(15年)、『未来を花束にして』(15年)、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14年)

『映画365本 DVDで世界を読む』宮崎哲弥

映画を教養を得る手段という視点から解説した映画ガイド。シネフィルを意識したものではないという。シネフィルとは映画を浴びるように見ている映画通や映画狂のこと。
著者は劇場で映画を見るのはどうにも時間の無駄という考えをしている。DVDなら途中で止めて別のことができるし、画面を戻して見直してもいいので気楽だと、まあその通りなのだけれど、映画紹介本にあるまじき姿勢なのだ。

映画365本 DVDで世界を読む (朝日新書)
宮崎哲弥(Miyazaki Tetsuya
朝日新書 2009年 ★★★★

日本の映画評論家の草分け的存在の淀川長治が生きていたら、「映画は劇場で見るもの」と眉をヒクヒクさせたと思う。さらに「映画は頭で見たらつまらないね。もっと感覚的に見てほしい」とも言うだろう。映画の目指すところが娯楽であることは揺るぎないが、本書では楽しくてためになる映画を選んだという。

各作品を人生星、思考星、社会星、仕事星、恋愛星、家庭星という項目について、星の数で評価しているが、アイディアが空回りして意図するところが伝わってこない。
そうはいっても本書の綿密度はなかなかのもので、各作品の解説は縦横無尽にいきわたり見たい気持ちにさせてくれる。あるいは見た映画であればなるほどという新たな発見がある。
見ていない映画の紹介はしっくり伝わってこないものだが、本書はそれを薀蓄でカバーしていて、見ようという気にさせてくれる。
本書はとにかく情報量が多いことに特徴がある。→ブログランキングへ

『語りあかそう』ナンシー関

対談集『無差別級』『超弩級』『超高校級』(いずれも河出書房から出版されたペーパーブック)に収録されたものから、9つの対談がピックアップされている。
どのような形であれ、ナンシー関連本がときどき出版されるのは、ファンとしては、彼女の爽やかな天才的毒舌にあらためて触れることができて 嬉しい。

9編のなかでも、with 林真理子『吉川十和子の婚約騒動では膝抜けるほど打っちゃった』は、両者がっぷり四つの丁々発止ぶりが抜群に面白い。

語りあかそう (河出文庫)
語りあかそう
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ナンシー関
河出書房文庫
2014年5月 ⭐5つ

消しゴム版画、キレのある文章、ナンシー関という人をなめたペンネーム、ナンシーに関する三つの秘密について、次のように書かれている。

棟方志功の出身地というお国柄(?)もあって、ナンシーが通う高校の授業には、版画が取り入れられていた。そんな風土だから、クラスで消しゴムスタンプが流行ったことがあって、ナンシーは断然うまかったという。

ナンシーの書く文章は、本人の分析によれば、テープに録音してなども聞き直した、オールナイトニッポンのビートたけしのしゃべりが、影響しているという。

ナンシー関というペンネームは、本名の関直美から、いとうせいこうがつけたもの。消しゴム版画家って変なのに、ナンシーという名前で、もっと変にしたいと思ったからつけたとのこと。

このあたりのことは、『評伝 ナンシー関』(横田増生著  朝日新聞出版 2012年)に、詳しく書かれている。→ブログランキングへ

レッドカーペットで繰り広げられていたこと

今年の米アカデミー賞授賞式のTV放送を見ていて感じたことがあった。
会場に向かうレッドカーペットのところで、4人のインタビュアーが、着飾ったスターたちを待ち構えていてマイクを向ける。インタビュアーが早口に質問を浴びせると、スターはこれまた早口でジョークを交えて陽気に応える。それからお約束の衣装やアクセサリーのブランドを訊ね、終わりというのがインタビューの流れ。このやりとりをどこかで見たことがあるなと思ったら、ゲイ諸氏が出演するTVのバラエティ番組だった。

大げさな身振りや手振りといい、しゃべるテンポといい、気の利いたシャレといい、似ている。洗練されているようでどこか泥臭い、わざとらしくて、約束ごとで流れていくようなやりとりである。スターに上り詰めるには茨の道であっただろう。そこはゲイ諸氏とて同じ、艱難辛苦を乗り越えて手に入れたのが、フルメイクの術と立て板に水の話術だった。引き出しにはジョークがふんだんに入っていて、話の成り行きには臨機応変に対応できる。ゲイ諸氏はいつの間にかハリウッドを身につけていた。

スターたちのファッションは庶民とは何の関係もない事象のように思われがちだが、そうではない。蝶が羽ばたくとはるか彼方で竜巻が起こるバタフライエ・フェクトのように、有形無形でじわじわと庶民にたどり着き、流行となるのだ。

さて、授賞式の司会を務めた俳優でありコメディアンの女性には驚嘆させられた。彼女は、絶対にスカートをはかないという硬い意志がにじみ出たボーイッシュでシックな上下のスーツに身を包み、機転の効いた早口の話術で並み居る大物スターたちをからたったり持ち上げたりして、その度に場内には爆笑が起こった。50歳を少し超えたくらいのその女性をネットで調べると、同性の配偶者が明記されていた。

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式の合間には宅配ピザ配達人がピザを届けるオーマイゴッドの演出もあって、蝶たちがてんでばらばらに羽ばたくようなハリウッドの放つものすごいエネルギーに、ただただ脱帽してしまいました。→ブログランキングへ

『ラム・ダイアリー』 ハンター・S・トンプソン

ゴンゾ(無頼派)ジャーナリスト、ハンター・トンプソンの自伝的小説。
1958年のプエルトリコ、サンファンが舞台。
ニューヨークから、30歳の新聞記者ポール・ケンプがサンファンの『デイリー・ニューズ』社にやってくる。
『デイリー・ニューズ』社はいつ潰れてもおかしくないような経営状況にある。
外国人のポールたちは、所詮は住民に受け入れられないアウトサイダー。
その孤独感や疎外感を紛らわすため、昼間から酒を飲み、喧嘩をして、警察沙汰になる、というような無軌道な生活を送っている。
飲む酒はほとんどがラム。蒸留酒の中でもアルコール度数の高いラムを、登場人物たちがオンザロックでしょっちゅう飲む。
紙面からラムの匂いがプンプン漂うような感覚になる。
そんな年がら年中素面でない生活を送っていれば、当然良いからぬことが次々と起こる。
ポールたちの生活も新聞社の経営状況も、悪い方向に転がっていく。
カリブ海の眩しい太陽と青い海、南国の気だるさのなかで繰り広げられるスリリングな日々が、みずみずしい文体で描かれている。

ラム・ダイアリー
ラム・ダイアリー
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ハンター・S・トンプソン/中江昌彦 訳
朝日新聞出版社
2012年4月30日
ISBN 987-4-02-331077-3

無軌道な生活をみずみずしい文体で表現しているところは、ビート世代のケルアックの『オン・ザ・ロード』を彷彿させる。

2012年6月末、ジョニー・デップ製作・主演の『ラム・ダイアリー』が公開される。

『酒場放浪記』 吉田 類/親子丼@喜ぐち

10月26日(水)  cloud

隣のテーブルでは男女のカップルと店主が、テレビの取材の話題で盛り上がっていた。
BSで放映している吉田類の『酒場放浪記』の取材を受けたそうだ。
取材を報じる新聞記事が壁に貼ってあって、すでに7月に放送されたとのこと。

取材は1時間半ほどかかり、いつも通りの店内の雰囲気を出したいとのことで、リハーサルらしきものはなし。
店主の手があくと店主にインタビューし、適当なところで仕事に戻り、しばらくしてまた話しかけられるという取材だったそうだ。
「吉田さんが途中でどこかにいなくなったと思ったら、別のテーブルに遠征していて、客からつまみを分けてもらっていた」とのこと。
いつものテレビの調子だったらしい。
店主の話に、周りのテーブルから吉田類のファンという客が数人現れて、結構人気があるんだなと思った。

以前から、『酒場放浪記』のファンで、番組を見ながらビールを飲むのが楽しみだった。
衛星放送の宿命で放映時間がたびたび変わり、最近は午後9時から4回分をまとめて放送しているので、飲み始める時間としては遅すぎる。
酒場放浪記についての本は、まずは新書の『酒場歳時記 (生活人新書)』が出版されて、そのあと単行本の『酒場放浪記』が4冊、DVDも出ている。
人気があるなあ。

吉田類の酒場放浪記
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さて、たのんだ、親子丼630円、味噌汁なめこ210円のことだが、親子丼にはタマネギ、たけのこ、シイタケ、ほうれん草が入っていて、「うちの親子丼は、栄養のバランスを考えていますんで。。」というような家庭的な味だった。

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コアな「酒場放浪記」フアンだった者としては、7月の放映を見逃したのも、喜ぐちに取材にきたことも知らなかったのは、返す返すも不覚だ。
放送のあとに、番組をみたと愛媛から客がきたとのこと。
テレビの影響力はすごい。
「喜ぐち」のF2動画はこちら1~4

喜ぐち
新潟市中央区古町通10番町1720 
025-224-9075
18:00~翌4:00
定休日 日

『キングの身代金』 エド・マクベイン

エド・マクベインの87分署シリーズを読んでみようと思い立った。
前に数冊を読んでいたけれど、なにしろ50冊あまりもあるシリーズなので、どういう順番で読むか迷う。
まずは第1作の『警官嫌い 』を読んだところで、『ミステリ・ハンドブック 』(1991年)をめくって、次の候補を探した。
黒澤明が『天国と地獄 』のヒントにしたのが、エド・マクベインの『キングの身代金』であることがわかった。
ミステリファンなら、誰もが知っていることらしい。
アメリカのB級ミステリからヒントをえて、『天国と地獄』が作られたと聞いたか読んだことがあって、なんという本なのか長い間解決されないままになっていた。それが、ここへきて胸のつかえが下りた。
そうなると次は『キングの身代金』だな。
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キングの身代金 (ハヤカワ・ミステリ文庫 13-11)
エド・マクベイン
早川書房
1977年9月

主人公のダグラス・キングは、自らが重役を務めるグレンジャー製靴会社の社長に就任しようと企み、自社株の買い占めを画策している。
キングは全財産をかき集め、75万ドルを株買い占めに投入しようとしている。
キングとお抱え運転手の息子はどちらも8歳で、双子と見紛うくらいに似ている。
二人がインデイアンごっこをして家の周りで遊んでいるときにひとりが誘拐され、50万ドルの身代金を要求される。
しかし、誘拐されたのは運転手の子供だった。
キングは葛藤する、自分の子供でないのだから身代金を払わないと言い出した。
キングの会社乗っ取りの企みは、敵対する取締役たちの知るところとなり、身代金を払えば資金が足りなくなりキングが失脚することが目に見える状況になった。
最終的には犯人の指示に従おうとする。
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『キングの身代金』は、血縁関係でなくとも誘拐が成り立つことを、世間に知らしめたのである。
ひょっとすると誘拐の対象は人間である必要もない。

『天国と地獄』では、特急こだまのトイレの窓から、現金の詰まったカバンを河川敷に投下させ、誘拐犯は身代金を手にする。
大学病院のインターンが主犯の設定である。
警察はカバンに発煙剤を仕込んでいた。
カバンを焼却炉で燃やしたさいに、特殊な煙が出るしかけである。
黒澤監督は誘拐犯を厳罰にすべきであるという考えで、罠をしかけて逮捕するという結末を用意した。

原作は、身代金の引き渡しのあたりから話が失速した感がある。
誘拐犯にハッピーエンドはどうかと思うが、それは今の感覚だからである。
その頃までは、誘拐はそれほど思い罪には問われなかったという。
先進国では、誘拐犯は厳罰に処すべきという考え方が広まっていった頃だった。

時代を先取りした『天国と地獄』と比較すると『キングの身代金』は見劣りするが、アイデアに満ちていて決してB級などというものではない。
むしろ黒澤明の先見の明を賞賛すべきだと思う。