経済・政治・国際

『ヒルビリー・エレジー』 J.D.ヴァンス

アメリカの白人のうち、WAPS(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)と呼ばれる人々は、誇り高き白人という自負がある。一方、白人貧困層は、レッドネック(首筋が日焼けした白人)、ホワイトラッシュ(白人のゴミ)、ヒルビリー(田舎者)などと呼ばれている。
ヒルビリー出身の著者は、自らの半生を描くことで、大統領選でトランプ勝利の原動力となった白人肉体労働者の悲惨な状況を明らかにしている。

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
J.D.ヴァンス/関根光宏・山田文 訳
光文社
2017年3月

18世紀に移民としてアメリカにやってきたスコッツ=アイリッシュ(アイルランド島北東部のアルスター地方から移住してきた人々のこと)は、アパラチア山脈周辺に住み着いたという。その人たちにとって、貧困は代々伝わる伝統であった。先祖は南部の奴隷経済時代には日雇い労働者として働き、その後はシェアクロッパー(物納小作人)、続いて炭鉱労働者になった。近年では、機械工や工場労働者になったという。ヒルビリーは閉鎖的な独特の文化を築いてきたという。他人とのいざこざ、場合によっては親戚同士のいざこざに、容易に銃が持ち出される。銃規制とは程遠い世界である。
ケンタッキー州東部、アパラチアの丘陵地帯ジャクソン出身の著者の家族は、自らをヒルビリーと呼んでいる。

著者は、子どものころ、勉強していい成績をとるのは、「お姫様」か「オカマ」のやることだと思っていたという。男らしさとは強さや闘いを恐れない心と、教えられた。もう少し成長してからは、女の子にモテるという項目がそこの加わった。ヒルビリーには反知性主義が浸み込んでいることがわかる。
そんな著者だったが、あるとき目覚め、高校を優秀な成績で卒業後、アメリカ海兵隊に4年間所属しイラクに派遣された。帰国後、オハイオ州立大学を1年11ヶ月で卒業した。次にイエール大学のロースクールに2年間在籍し弁護士の資格を得た。現在は、シリコンバレーの投資会社の社長を務める。

ジャクソンは、著者と姉と祖母のために存在するような場所だったという。ジャクソンにいるときは、町の誰もが知っているたくましい女性の孫であり、町でもっともいい車修理をする祖父の孫だった。一方、引っ越したオハイオでの著者の立場は、父に捨てられ、離婚と結婚を繰り返す薬物中毒の母親の子どもだったという。

世論調査の結果、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は、白人労働階層である。また、アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている。さらに、アメリカでは地域により成功の可能性に偏りがあるという。貧しい子どもたちが苦境にあえぐ、南部やラストベルト(さびついた工業地帯)、そしてアパラチアでは、アメリカンドリームの実現は困難だという。

著者は次のようにヒルビリーの病理を説明する。
〈何年も後になってようやくわかったのは、どんな本も、どんな専門家も、どんな専門分野も、それだけでは現代のヒルビリーの抱える問題を、完全には説明できないということだ。私たちの哀歌は社会学的なものである、それは間違いない。ただし同時に心理学やコミュニティや文化や信仰の問題でもあるのだ。〉→人気ブログランキング

ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く /金成隆一/岩波新書/2017年

『スノーデン 日本への警告』エドワード・スノーデンほか

2016年6月、東大の講堂で行われたスノーデンの講演と、それに引き続いて行われたパネル・ディスカッションを本に起こしたもの。

まずは、「スノーデン・リーク」とはなにか。
CIAに所属していたエドワード・スノーデンはイラクに対するスパイ活動ののち、NSA(アメリカ国家安全保障局、National Security Agency、アメリカ国防総省の諜報機関)の下請け会社の職員となった。スノーデンがアメリカ政府の内部資料をマスコミにリークし、これを受けて2013年6月からイギリスの「ガーディアン紙」、アメリカの「ワシントン・ポスト紙」などに一連の調査報道が掲載された。アメリカ政府による想像を超える情報収集の実態が明らかにされた。
とりわけ衝撃的なプログラムは次の3つ。
まずは電話の「バルク・コレクション」と呼ばれるもの。NSAがアメリカの電話会社に命じ、国際通信のみならず国内通信を含むすべてのメタデータを毎日提出させるプログラム。メタデータとは「誰がいつどこに電話をかけたか」というもの。通話内容は含まれない。
次はプリズム(PRIZM)と呼ばれるもので、フェイスブック、グーグル、アップルなどアメリカに本社を置く9社のテクノロジー会社に命じ、電子メールやSNSによる通信内容などを提出させるプログラム。
3つ目はアップストリーム(Upstream)と呼ばれるもので、アメリカ本土につながる海底光ファイバーなどにアクセスして、通信情報を直接入手するプログラム。

スノーデン 日本への警告 (集英社新書)
エドワード・スノーデン
青木 理 井桁大介 金昌浩 ベン・ワイズナー 宮下紘 マリコ・ヒロセ
集英社新書   2017年4月

監視が爆発的に拡大したのは、技術的に簡単になり、経済的に格安になったからである。
ホワイトハウスは、独立委員会にNSAのマスサーベイランス・プログラムを検証するように指示した。結果はプログラムは違法であって、終わらせるべきものだというものだった。
10年近くにわたり、3億3000万人の全アメリカ国民と世界中の人々の通信情報を、法的手続きを経ずに収集しながら、テロ捜査にとって有意義な情報はひとつもなかった。膨大な情報を集めてもまったく意味がないことが明らかになった。

2016年5月に、1年前に辞任したアメリカの司法長官、リーク当時、政府の司法部のトップにいた人が、スノーデンのリークは公共のためになったと述べている。
パネル・ディスカッションに参加したスノーデンの顧問弁護士ベン・ワーズナーの言葉が、いまのアメリカの危うさを表している。「トランプ政権前にスノーデン事件があったのは幸運でした」。

では日本の状況はどうかというと、日本のマスコミは危機的状況にあるという。
たとえば政府高官は次のように言う。「この報道は公平ではないように思われます。報道が公平でないからといって具体的に政府として何かをするわけではありませんが、公平でない報道は報道規制に反する可能性があります」とほのめかすだけで、マスコミは尻込みするのだ。

アメリカの内部通報制度は現在うまく機能していないとスノーデンは指摘する。内部通報制度が機能しているとすれば、それは民主主義国家としてきわめて公正だということだ。
スノーデンのリークから見えてくるのは政府は何でもやるということ。日本の共謀罪法案の論議など空論に思えてくる。→人気ブログランキング

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』井上智洋

著者はマクロ経済学者。
2030年ごろから、先進国では深刻な雇用崩壊が始まると予測している。

シンギュラリティとは、コンピュータが全人類の知性を超える未来のある時点のことをいう。日本語では、技術的特異点や特異点と訳されている。
人工知能(AI)は、2020年代には人間ひとりの脳に、2045年には全人類のすべての脳に比肩するようになるという。つまり1台のパソコンで全人類分の脳と同等の情報処理ができるようになる。
これは、今までにいくつかの未来予測を的中させてきた、アメリカの著名な発明家レイ・カーツワイルが、著書『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』(2005年)で論じていることである。

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書)
井上 智洋
文春新書 2016年7月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

現在、世の中に存在する人工知能はすべて「特化型人工知能」であり、一つの特化された課題しかこなすことができない。一方、将来開発される人間のように様々な知的作業をこなすことができる人工知能は「汎用型人工知能」である。

では、社会はどうなるのか。汎用型AIに不向きな仕事の従事者と資本家以外は、職を失うことになる。職業を奪われる人の割合は90%と試算している。
資本家は効率の悪い人間を雇うより、効率の良いAIに仕事を回すだろう。汎用型AIを導入することで人件費はゼロに近づき、生産効率は飛躍的に良くなり、経済は成長すると予測している。もはや資本主義は終焉を向かえる。いわゆる「2045年問題」である。

著者はAIに奪われにくい仕事として、次の3系統の仕事を挙げている。
「クリエイティヴィティ系」は、小説を書く、映画を撮る、発明する、新しい商品の企画を考える、研究をして論文を書く、といった仕事。
「マネージメント系」は、工場・店舗・プロジェクトの管理、会社の経営者など。
「ホスピタリティ系」は、介護士、看護師、保育園、インストラクタなど。

では、職を奪われた人びとはどうやって暮らしていけばいいのか。著者はベーシック・インカム(BI)の導入を提案している。BIとは、政府がすべての国民に一定の金額を給付する制度のことである。財源は、莫大な利益を得るだろう資本家からの税金で賄う。

シンギュラリティは人類の進化の通過点なのか、それとも破滅への一歩となるのか。人類を待ち受けるのはユートピアなのかそれともデストピアなのか。そもそも著者が描く未来予想図の通りにことは運ぶのか。いずれにせよ、これまでの法則が通用しない時代が迫ってきているのは確かなことのようだ。→人気ブログランキング

→『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』井上智洋 文春新書 2016年
→『未来型サバイバル音楽論』津田大介×牧村 憲 中公新書ラクレ 2010年
→『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』梅田望夫 ちくま新書 2006年

『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』 藤えりか

本書は、朝日新聞の別刷り『GLOBE』に連載されたコラムをまとめたもの。
コラムが執筆された期間に、アメリカ大統領選挙戦があったため、トランプ政権とハリウッドについて所々で触れている。政治、宗教、戦争、人種差別、移民問題、ジェンダーやマイノリティーの問題、貧困問題など、世界が抱える諸問題を映画を通じて浮かび上がらせ、世の不条理を読者に問いかける。饒舌で硬派な内容だ。

ゴールデン・グローブ賞授賞式(2017年1月8日)で、メリル・ストリープは、トランプの人種差別発言や身障者のしぐさを真似したこと批判した。これに対してトランプはツイッターで「ハリウッドで最も過大評価された女優のひとり」「大敗したヒラリーのおべっか使いだ」と中傷した。このあたりのことはニュースで伝えられた。
ところが、トランプを擁護する発言こそなかったが、メリルの発言には賛否が巻き起こったという。さらに、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員の娘で、FOXニュースの番組ホスト、メーガン・マケインは、 次のようにツイートした。
「メリル・ストリープのこのスピーチこそ、トランプを勝たせた要因。それがなぜなのかハリウッドが認識できなければ、彼の再選を助けることになる」と、意味深長なことをつぶやいたという。

『スノーデン』(2016年)を製作したオリバー・ストーン監督のインタビューで、監督は、ヒラリー・クリントンの介入主義の危うさ、トランプへの期待(ビジネスマンは戦争を好まないとオリバーは言っている)、CIAの腐敗や堕落を嘆いている。

2014年、2015年、2016年に公開された映画を中心に語っている。
ハリウッド映画にとどまらず、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、日本、ニュージーランドなど映画にも言及している。
著者は監督やプロデューサーや出演者に、いとも簡単に、電話でスカイプであるい直接インタービューをすることができる。著者の人脈の広さ、交渉能力の巧みさはどこからくるのだろう。ネットでは、著者は「朝日新聞の噂の女」などと揶揄されていて、フットワークの軽い凄腕ジャーナリストに対する、同業者のやっかみともとれる内容の記事が投稿されている。 →人気ブログランキング

取り上げられている映画は、以下。
『沈黙ーサイレンス』(16年)、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)、『ニュースの真相』(15年)、『ハドソン川の軌跡』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年)、『バース・オブ・ネイション』(16年)、『タンジェリン』(15年)、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)、『スノーデン』(16年)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年)、『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』(14年)、『ジャングル・ブック』(16年)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14年)、『ジャック・リーチャー  NEBER GO BACK』(16年)、『ダム・キーパー』(14年)、『ブルーに生まれついて』(15年)、『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』(15年)、『ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男』(16年)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16年)、『帰ってきたヒトラー』(15年)、『裸足の季節』(15年)、『ストリート・オーケストラ』(15年)、『健さん』(16年)、『はじまりはヒップホップ』(14年)『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15年)、「将軍様、あなたのために映画を撮ります』(16年)、『ダゲレオタイプの女」(16年)、『彷徨える河』(15年)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)、『太陽の下で―真実の北朝鮮』(15年)、『未来を花束にして』(15年)、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14年)

『ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く』 金成隆一

著者は朝日新聞社ニューヨーク支局の特派員。2015年から1年間かけて、14州150人にインタビューを行って書き上げた。

トランプは発言がめちゃくちゃで、見ている分にはおもしろい。アメリカの識者やメディアが指摘したように、年内には人気が陰って選挙戦から脱落するというのが、大方の識者というか世界中の見方だった。それが、蓋を開けたら下馬評を覆したのだ。

インタビューの中でペンシルベニア州のフェンス工場で働くシングル・ファーザー(38)の言葉が、トランプに投票した人たちの本音を表わしている。
彼はオバマとは正反対で下品なやつだ。でも思っていることを正直に言う。これが魅力なんだ。・・・あいつは権威のあるやつにもひるまず、やりかえすカウボーイ。本音むき出し。エリートが支配するワシントンを壊すには、それぐらいの大バカ野郎が必要だ。1期4年だけやらせてみたい。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
金成 隆一
岩波新書 2017年2月
売り上げランキング: 1,976

2016年と2012年の大統領選挙の選挙結果を比較すると、前回民主党が勝利し、今回トランプが勝った州が6つある。オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオア、フロリダ、である。このうちフロリダ以外の5州は、5大湖周辺の通称「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に全体もしくは部分的に含まれる州である。
従来型の製鉄業や製造業が栄え、高卒のブルーカラー労働者たちが、ミドルクラスの生活ができたエリアである。なにも考えず、民主党を支持してきた人たちだったが、今回トランプ支持に回った。これがトランプ勝利の原動力となった。

真面目に働いてもミドルクラスから滑り落ちる。そんな不安や不満は、ラストベルトだけのものではない。NAFTA(北米自由貿易協定)により企業が工場を外国に移す。
学歴がなくとも真面目に働けば食べていけた社会であるはずなのに、後からやってきたヒスパニックが低賃金を武器に仕事を奪っていく。さらに製造業では、不法労働者に職を奪われる。

トランプの公約は、イスラム圏からの入国規制、TPPからの離脱、オバマケアの撤廃、メキシコ国境の壁建設、大規模減税やインフラ投資である。このうち、イスラム国からの入国禁止は裁判所が差し止めし係争中である。オバマケアの撤廃は身内の共和党員の反対で実現不可能となった。メキシコとの壁、減税・インフラ整備は予算の問題で実現は難しいとみられている。唯一、TTPからの離脱だけが実現している。

トランプは選挙期間中、人種だけでなく、イスラム教や女性、身体障害者など、自分と異なるあらゆる属性の人々を侮辱する言動を繰り返した。さらにKKKに対する非難を拒否した。

著者はトランプ政権の政策の行き詰まりによって支持者離れが起こったときに、トランプのこの反知性主義や白人至上主義により、アメリカが危うい方向に進むのではないかと危惧している。最悪の場合、どこかの国と戦争を始めるということもありうるとしている。このことは世界中が密かに懸念していることだ。→人気ブログランキング

ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く 金成隆一 岩波新書 2017年2月
沈みゆく大国アメリカ 堤 未果 集英社新書 2014年
レーガンーいかにして「アメリカの偶像」となったか 村田 晃嗣 中公新書 2011年
アメリカン・デモクラシーの逆説 渡辺 靖 岩波新書 2010年
ルポ 貧困大陸アメリカⅡ 堤 未果 岩波新書 2010年
現代アメリカ宗教地図 藤原聖子 平凡社新書 2009年
ルート66をゆく アメリカの「保守」を訪ねて 松尾理也 新潮社新書 2006年

『巨大化する現代アートビジネス』ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール

緻密なフィールド・スタディと何人かのキーパーソンに対するインタビューをもとに、現代アートビジネスの現状をおよそ余すところなく伝えている。

1998年に、クリスティーズが、それまで戦後からとされていた現代アートの境界線を、1960年代から現代までと定義した。これにより、若手のアーティストを前面に押し出すことができ、市場が活性化したという。ある意味で、この定義付けが現代アートビジネスを象徴している。市場が活性化するなら、定義すら変えてしまうという姿勢である。ビジネスから見た現代アートは、もはや投機の対象や資産の隠し場所でしかないのかもしれない。
作品を買い上げ倉庫に保管しておいて、高値が付きそうな頃合いを見計らってオークションにかける。アーティストを無視したことが、平然と行われているのが現状である。

巨大化する現代アートビジネス
ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール/鳥取絹子 訳
紀伊國屋書店  2015年7月

名のあるアーティストのまわりには彼を支える星雲のような一群がいて、それはギャラリーであり、コレクターであり、一部の美術館やメディアからなっているという。
つまり互助機能が働く集団ということであろう。

変化し続けるアートの世界を、先頭集団の100人が牽引している。
彼らはメガコレクターであり、大画商であり、中には美術館の学芸員やアートフェアのディレクターや展覧会のコミッショナー、アートアドバイザーや批評家もいる。重要なのは「彼らはアートの世界で力を持っている」ことであるという。
イギリスの『アート・レヴュー』誌ではアート業界で最も影響力のある100人「パワー100」を、アメリカの『アート・ニューズ』誌では200人のトップコレクターの人名録を発表している。

社会学者アランクマンは次のように語っている。
評価を守るためには、幻想を維持しなければならない。売れなくなれば、下支えする。何をするのかはさておき、先頭を走るアーティストの凋落は阻止しなければならないのだ。

ニューヨーク・メトロポリタン美術館の元館長の現代アートを取り巻く環境を危惧するインタビューが、切実である。
美術館がだせる金額では、 いまのトップアーティストの作品を買うことは不可能である。それほど値段が釣りあがっているということなのだ。

中国市場が活発な理由は、中国人アーティストの作品を、中国人が評価し購入するという内向きの流れが出来上がっているからである。
また、芸術大国フランスの凋落について解説している。原因は国の政策の立ち遅れにあった。

こうしたアートの世界を、すでに1世紀も前に、マルセル・デュシャンが指摘している。つまり、「我々には貨幣に代わるものが沢山ある。貨幣としての金、貨幣としてのプラチナ、そして今や貨幣としてのアートだ!」→人気ブログランキングへ

『なぜ、習近平は激怒したのか』高口康太

中国政権を痛烈に批判する風刺漫画を描いたことで、辣椒(ラージャオ 「唐辛子」という意味)は、運営するネットショップを閉鎖せざるを得なくなり生活の糧を奪われた。
さらに、身の危険を感じるようになり、2014年日本に亡命する形となった。
辣椒の中国版ツイッターのカウントは100回以上削除され、もはや中国で風刺漫画をネットに流すことに力尽きたという。

なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由(祥伝社新書)
高口康太 (Takaguchi Kota
祥伝社新書 2015年9月

左は、オバマ大統領と安倍首相のベッドに入ろうとしている朴槿惠大統領を、習近平が札束をチラつかせて自分のベッド誘っていて、ベッドの外には足蹴にされた金正恩がミサイルのオモチャを手にして転がっているという、まさに東アジアの政治状況を捕らえたもの。ドアの陰から部屋の様子を伺う馬英九総統を加えれば、旬の状況になる。
右は2012年の台湾総督選挙を、ネット検閲システム「グレート・ファイヤー・ウォール」越しに羨ましそうに見つめる中国人を描いている。

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近年の中国情勢を振り返ると、2011年から12年にかけてネット抗議運動や環境デモが集中し、民主化が急速に進むかに見えた。
2012年11月に、習近平に政権交代となると、父親が改革派の習仲勲であり、習近平自身が文化大革命時代に7年間にわたり下放されたこともあって、国民は習近平が民主化に踏み切ると期待した。ところが、習近平は期待を裏切る方向に舵取りを始めたのだった。

まず、汚職の徹底した追求が行われ、習近平体制になってから18万人超の幹部・党員に処分が下されたという。この政策は大いに国民に支持された。

グレート・ファイヤー・ウォールが強化され、政府に不利な発言をしたブロガーは事情徴収されたり収監されたりし、思想統制、言論統制が行われた。いまや、1000万人がネットの監視に参加してるという。
御用ブロガーが要請され、共産党がプロデュースさせたダンスがネットに流れ、勧善懲悪のドラマが流行し、習近平が主人公のアニメが作成され、人民解放軍のアイドルグループがデビューし、ネットという「陣地」を、改革を夢見ていた国民から共産党が奪ってしまった。

教育現場では、大学の講義で話してはならない7項目が通達された。
その内容は、〈普遍的価値を語るべからず。報道の自由を語るべからず。市民社会について語るべからず。市民の権利について語るべからず。中国共産党の歴史的過ちを語るべからず。権力者・資産階級について語るべからず。司法の独立について語るべからず。〉
これでは、文科系の学部では教えることがなくなったも同然である。

著者は、中国人の多くが現状に満足し楽観しているという。明日、すべてが奪われてもおかしくない社会に生きながら、今の小さな幸福に満足し、本当のリスクを見ようとしていないという。もはや民主化の芽は完全に摘み取られてしまった。
さらに、習近平には政敵を蹴落とし、10年と決められている書記長の任期をどうにかして延長し、毛沢東と同等の、いわば「皇帝」の座に就く野望を抱いていると分析している。→人気ブログランキングへ

『美貌格差』ダニエル・S.ハマーメッシュ

美貌は人にどの程度の利益をもたらすのか。経済学者が検討した。
まずは、主観が入り込む美貌を統計処理できるかどうかを論じなければならない。様々な点から検討した結果、美醜を5点から1点の5段階に採点する方法は、統計学的に正当性があるという結論に達する。この点をクリアしなければ、本書は成り立たない。

美貌格差: 生まれつき不平等の経済学
ダニエル・S. ハマーメッシュ 望月 衛 訳
東洋経済新報社
2015年3月

各点数が占める割合は、「容姿の評価、アメリカにおける生活と雇用の調査(1970年代における18歳から64歳のアメリカ人、女性1495人、男性1279人のデータ)」によると、次のようになる。

素晴らしくハンサムか美人(5点)
容姿がよい(4点)
平均的な容姿(3点)
見るべきものなし(2点)
醜悪(1点)
女性 3% 
女性 31%
女性 51% 
女性 13% 
女性 2%
男性 2% 
男性 27% 
男性 59% 
男性 11% 
男性 1%

収入に関する結果は、男女の平均でみると、美貌のグループ(4点・5点)は平均(3点)より収入が5%高く、見た目の悪いグループ(1点・2点)は平均より10%低かった。
生涯の所得では、美しい人と醜い人では、23万ドルの差がつくという露骨な結果がでた。

弁護士も大学教授も美貌は有利である。政治家の人気は明らかに美醜が関係する。
売春婦も美しい人が稼ぐ。COEがいけてる会社の成績はいい。
融資を受けるさいも美貌は得である。
現代社会には、美人プレミアムと醜人ペナルティがはびこっているのだ。

事故により顔面をケガした人の補償問題にかかわっている著者は、美貌だけに目を向けてはいない。ブサイクな1~2%の人たちの不遇は、有色人種たちが受けている差別と変わらないとし、政治的に保護されうるとしている。→人気ブログランキングへ

『服従』ミチェル・ウェルベック

分裂に向かう欧州連合を再結束させるには、いかなる方策があるのか。本書の答はイスラム教への服従である。
本書にはイスラム原理主義者にとって、バラ色の未来予想図が描かれているにもかかわらず、2015年1月7日にフランスで本書が出版されると、著者のミチェル・ウェルベックはイスラム過激派に命を狙われ、警察の保護下におかれたという。
それまで再三イスラム教を批判していながら、預言者を気取るのは許せないということなのだろう。
ウェルベックは1998年に『素粒子』を発表して以来、いくつもの問題作を手がけてきた。

服従
服従
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ミシェル ウエルベック  大塚 桃 訳
河出書房新社
2015年9月 ★★★★★
売り上げランキング: 612

2022年のフランス大統領選挙で、移民排斥を訴える右派の候補がトップになり、イスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベスは僅差で2位となった。決選投票で、ファシストかイスラムのどちらと組むかを迫られた左派と中道派は、イスラムの方がマシと判断した。
この結果、ベン・アッベスが圧倒的な勝利を収めフランスはイスラム化への道を進んでいくことになった。

主人公のフランソワは、ソルボンヌ=パリ第3大学の教授。19世末のフランスの代表的なデカダン作家ジョリス=カルル・ユイスマンスの研究者である。日常に流されて生きている独身の中年男。
大学は封鎖されフランソワは職を失うが、暮らすに困らない額の年金を手にすることになる。政権のバックには巨額のオイルマネーがあるのだ。

連合政府は好意的に評価された。
変わったことといえば、女性の肌の露出が極端に少なくなり、体の線が目立つ服は見られなくなったこと。テレビからはエロティックな要素が消えた。
また犯罪は激減した。
女性が労働市場から姿を消し、家族手当が大幅に引き上げられた。失業率は低下した。
そして義務教育は12歳までになった。
欧州連合に、トルコを加える交渉が始まり、モロッコも加える構想が出てきた。
ベン・アッベスの野望はオスマン帝国を築くことである。

フランソワは、大学の同僚だったスティーブに出会う。
スティーブは、大学管轄の広い宿舎に住み、給料はかつての3倍、すでに結婚し来月には2番目の妻を娶ることになっている。ランボーがイスラム教に改宗したという不確かな史実を教えているのだろう。

フランソワにも古典叢書編纂の仕事が舞い込んできた。ユイスマンスを担当することになった。
フランソワはユイスマンス研究の第一人者として丁重に応対されるようになるだろう。
そして、改宗すれば裕福な暮らしが待っている。複数の若い妻を娶ることもできるだろう。フランソワはそれも悪くはないと思うようになっていた。→人気ブログランキングへ

『変見自在 オバマ大統領は黒人か』高山正之

現在も、『週刊新潮』で連載中の超辛口コラム「変見自在」を単行本に収録したものの文庫化。
収録されているのは、2007年7月8日から2008年9月25日までの記事。
筆者は元毎日新聞記者。右寄りだから話は回りくどくない。

変見自在 オバマ大統領は黒人か (新潮文庫)
高山 正之(Takayama Masayuki
新潮文庫
2015年5月 ★★★★

日本が間違っていて、中国や韓国が正しいと主張する朝日新聞のいくつかの記事を取り上げ、論理的な不備や誤謬をを指摘し、新聞社としての資質がないと痛烈に批判している。
南京大虐殺も従軍慰安婦もでっち上げが一人歩きしているとする。

著者は、未だにひとつの国家に戻れず内輪もめを繰り返す隣の国に、ことさら手厳しい。劣等民族だと言っている。それと、中国人は嘘はつくし非道なことを平気でやる民族だと言ってはばからない。
ロシアもオーストラリアもアメリカについても、日本や世界に対してやってきた理不尽なことを暴いている。

本書のタイトルである「オバマ大統領は黒人か」の答は「否」である。
白黄黒の順に肌の色で人間を序列する白人たちは、一滴でも自分たちの血が入っていれば、半分家畜が2階級特進して準白人になるとしている。オバマは母方が白人だから、黒人ではないという。→人気ブログランキングへ

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