経済・政治・国際

『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』 藤えりか

本書は、朝日新聞の別刷り『GLOBE』に連載されたコラムをまとめたもの。
コラムが執筆された期間に、アメリカ大統領選挙戦があったため、トランプ政権とハリウッドについて所々で触れている。政治、宗教、戦争、人種差別、移民問題、ジェンダーやマイノリティーの問題、貧困問題など、世界が抱える諸問題を映画を通じて浮かび上がらせ、世の不条理を読者に問いかける。饒舌で硬派な内容だ。

ゴールデン・グローブ賞授賞式(2017年1月8日)で、メリル・ストリープは、トランプの人種差別発言や身障者のしぐさを真似したこと批判した。これに対してトランプはツイッターで「ハリウッドで最も過大評価された女優のひとり」「大敗したヒラリーのおべっか使いだ」と中傷した。このあたりのことはニュースで伝えられた。
ところが、トランプを擁護する発言こそなかったが、メリルの発言には賛否が巻き起こったという。さらに、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員の娘で、FOXニュースの番組ホスト、メーガン・マケインは、 次のようにツイートした。
「メリル・ストリープのこのスピーチこそ、トランプを勝たせた要因。それがなぜなのかハリウッドが認識できなければ、彼の再選を助けることになる」と、意味深長なことをつぶやいたという。

『スノーデン』(2016年)を製作したオリバー・ストーン監督のインタビューで、監督は、ヒラリー・クリントンの介入主義の危うさ、トランプへの期待(ビジネスマンは戦争を好まないとオリバーは言っている)、CIAの腐敗や堕落を嘆いている。

2014年、2015年、2016年に公開された映画を中心に語っている。
ハリウッド映画にとどまらず、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、日本、ニュージーランドなど映画にも言及している。
著者は監督やプロデューサーや出演者に、いとも簡単に、電話でスカイプであるい直接インタービューをすることができる。著者の人脈の広さ、交渉能力の巧みさはどこからくるのだろう。ネットでは、著者は「朝日新聞の噂の女」などと揶揄されていて、フットワークの軽い凄腕ジャーナリストに対する、同業者のやっかみともとれる内容の記事が投稿されている。 →人気ブログランキング

取り上げられている映画は、以下。
『沈黙ーサイレンス』(16年)、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)、『ニュースの真相』(15年)、『ハドソン川の軌跡』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年)、『バース・オブ・ネイション』(16年)、『タンジェリン』(15年)、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)、『スノーデン』(16年)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年)、『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』(14年)、『ジャングル・ブック』(16年)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14年)、『ジャック・リーチャー  NEBER GO BACK』(16年)、『ダム・キーパー』(14年)、『ブルーに生まれついて』(15年)、『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』(15年)、『ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男』(16年)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16年)、『帰ってきたヒトラー』(15年)、『裸足の季節』(15年)、『ストリート・オーケストラ』(15年)、『健さん』(16年)、『はじまりはヒップホップ』(14年)『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15年)、「将軍様、あなたのために映画を撮ります』(16年)、『ダゲレオタイプの女」(16年)、『彷徨える河』(15年)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)、『太陽の下で―真実の北朝鮮』(15年)、『未来を花束にして』(15年)、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14年)

『ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く』 金成隆一

著者は朝日新聞社ニューヨーク支局の特派員。2015年から1年間かけて、14州150人にインタビューを行って書き上げた。

トランプは発言がめちゃくちゃで、見ている分にはおもしろい。アメリカの識者やメディアが指摘したように、年内には人気が陰って選挙戦から脱落するというのが、大方の識者というか世界中の見方だった。それが、蓋を開けたら下馬評を覆したのだ。

インタビューの中でペンシルベニア州のフェンス工場で働くシングル・ファーザー(38)の言葉が、トランプに投票した人たちの本音を表わしている。
彼はオバマとは正反対で下品なやつだ。でも思っていることを正直に言う。これが魅力なんだ。・・・あいつは権威のあるやつにもひるまず、やりかえすカウボーイ。本音むき出し。エリートが支配するワシントンを壊すには、それぐらいの大バカ野郎が必要だ。1期4年だけやらせてみたい。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
金成 隆一
岩波新書 2017年2月
売り上げランキング: 1,976

2016年と2012年の大統領選挙の選挙結果を比較すると、前回民主党が勝利し、今回トランプが勝った州が6つある。オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオア、フロリダ、である。このうちフロリダ以外の5州は、5大湖周辺の通称「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に全体もしくは部分的に含まれる州である。
従来型の製鉄業や製造業が栄え、高卒のブルーカラー労働者たちが、ミドルクラスの生活ができたエリアである。なにも考えず、民主党を支持してきた人たちだったが、今回トランプ支持に回った。これがトランプ勝利の原動力となった。

真面目に働いてもミドルクラスから滑り落ちる。そんな不安や不満は、ラストベルトだけのものではない。NAFTA(北米自由貿易協定)により企業が工場を外国に移す。
学歴がなくとも真面目に働けば食べていけた社会であるはずなのに、後からやってきたヒスパニックが低賃金を武器に仕事を奪っていく。さらに製造業では、不法労働者に職を奪われる。

トランプの公約は、イスラム圏からの入国規制、TPPからの離脱、オバマケアの撤廃、メキシコ国境の壁建設、大規模減税やインフラ投資である。このうち、イスラム国からの入国禁止は裁判所が差し止めし係争中である。オバマケアの撤廃は身内の共和党員の反対で実現不可能となった。メキシコとの壁、減税・インフラ整備は予算の問題で実現は難しいとみられている。唯一、TTPからの離脱だけが実現している。

トランプは選挙期間中、人種だけでなく、イスラム教や女性、身体障害者など、自分と異なるあらゆる属性の人々を侮辱する言動を繰り返した。さらにKKKに対する非難を拒否した。

著者はトランプ政権の政策の行き詰まりによって支持者離れが起こったときに、トランプのこの反知性主義や白人至上主義により、アメリカが危うい方向に進むのではないかと危惧している。最悪の場合、どこかの国と戦争を始めるということもありうるとしている。このことは世界中が密かに懸念していることだ。→人気ブログランキング

ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く 金成隆一 岩波新書 2017年2月
沈みゆく大国アメリカ 堤 未果 集英社新書 2014年
レーガンーいかにして「アメリカの偶像」となったか 村田 晃嗣 中公新書 2011年
アメリカン・デモクラシーの逆説 渡辺 靖 岩波新書 2010年
ルポ 貧困大陸アメリカⅡ 堤 未果 岩波新書 2010年
現代アメリカ宗教地図 藤原聖子 平凡社新書 2009年
ルート66をゆく アメリカの「保守」を訪ねて 松尾理也 新潮社新書 2006年

『巨大化する現代アートビジネス』ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール

緻密なフィールド・スタディと何人かのキーパーソンに対するインタビューをもとに、現代アートビジネスの現状をおよそ余すところなく伝えている。

1998年に、クリスティーズが、それまで戦後からとされていた現代アートの境界線を、1960年代から現代までと定義した。これにより、若手のアーティストを前面に押し出すことができ、市場が活性化したという。ある意味で、この定義付けが現代アートビジネスを象徴している。市場が活性化するなら、定義すら変えてしまうという姿勢である。ビジネスから見た現代アートは、もはや投機の対象や資産の隠し場所でしかないのかもしれない。
作品を買い上げ倉庫に保管しておいて、高値が付きそうな頃合いを見計らってオークションにかける。アーティストを無視したことが、平然と行われているのが現状である。

巨大化する現代アートビジネス
ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール/鳥取絹子 訳
紀伊國屋書店  2015年7月

名のあるアーティストのまわりには彼を支える星雲のような一群がいて、それはギャラリーであり、コレクターであり、一部の美術館やメディアからなっているという。
つまり互助機能が働く集団ということであろう。

変化し続けるアートの世界を、先頭集団の100人が牽引している。
彼らはメガコレクターであり、大画商であり、中には美術館の学芸員やアートフェアのディレクターや展覧会のコミッショナー、アートアドバイザーや批評家もいる。重要なのは「彼らはアートの世界で力を持っている」ことであるという。
イギリスの『アート・レヴュー』誌ではアート業界で最も影響力のある100人「パワー100」を、アメリカの『アート・ニューズ』誌では200人のトップコレクターの人名録を発表している。

社会学者アランクマンは次のように語っている。
評価を守るためには、幻想を維持しなければならない。売れなくなれば、下支えする。何をするのかはさておき、先頭を走るアーティストの凋落は阻止しなければならないのだ。

ニューヨーク・メトロポリタン美術館の元館長の現代アートを取り巻く環境を危惧するインタビューが、切実である。
美術館がだせる金額では、 いまのトップアーティストの作品を買うことは不可能である。それほど値段が釣りあがっているということなのだ。

中国市場が活発な理由は、中国人アーティストの作品を、中国人が評価し購入するという内向きの流れが出来上がっているからである。
また、芸術大国フランスの凋落について解説している。原因は国の政策の立ち遅れにあった。

こうしたアートの世界を、すでに1世紀も前に、マルセル・デュシャンが指摘している。つまり、「我々には貨幣に代わるものが沢山ある。貨幣としての金、貨幣としてのプラチナ、そして今や貨幣としてのアートだ!」→人気ブログランキングへ

『なぜ、習近平は激怒したのか』高口康太

中国政権を痛烈に批判する風刺漫画を描いたことで、辣椒(ラージャオ 「唐辛子」という意味)は、運営するネットショップを閉鎖せざるを得なくなり生活の糧を奪われた。
さらに、身の危険を感じるようになり、2014年日本に亡命する形となった。
辣椒の中国版ツイッターのカウントは100回以上削除され、もはや中国で風刺漫画をネットに流すことに力尽きたという。

なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由(祥伝社新書)
高口康太 (Takaguchi Kota
祥伝社新書 2015年9月

左は、オバマ大統領と安倍首相のベッドに入ろうとしている朴槿惠大統領を、習近平が札束をチラつかせて自分のベッド誘っていて、ベッドの外には足蹴にされた金正恩がミサイルのオモチャを手にして転がっているという、まさに東アジアの政治状況を捕らえたもの。ドアの陰から部屋の様子を伺う馬英九総統を加えれば、旬の状況になる。
右は2012年の台湾総督選挙を、ネット検閲システム「グレート・ファイヤー・ウォール」越しに羨ましそうに見つめる中国人を描いている。

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近年の中国情勢を振り返ると、2011年から12年にかけてネット抗議運動や環境デモが集中し、民主化が急速に進むかに見えた。
2012年11月に、習近平に政権交代となると、父親が改革派の習仲勲であり、習近平自身が文化大革命時代に7年間にわたり下放されたこともあって、国民は習近平が民主化に踏み切ると期待した。ところが、習近平は期待を裏切る方向に舵取りを始めたのだった。

まず、汚職の徹底した追求が行われ、習近平体制になってから18万人超の幹部・党員に処分が下されたという。この政策は大いに国民に支持された。

グレート・ファイヤー・ウォールが強化され、政府に不利な発言をしたブロガーは事情徴収されたり収監されたりし、思想統制、言論統制が行われた。いまや、1000万人がネットの監視に参加してるという。
御用ブロガーが要請され、共産党がプロデュースさせたダンスがネットに流れ、勧善懲悪のドラマが流行し、習近平が主人公のアニメが作成され、人民解放軍のアイドルグループがデビューし、ネットという「陣地」を、改革を夢見ていた国民から共産党が奪ってしまった。

教育現場では、大学の講義で話してはならない7項目が通達された。
その内容は、〈普遍的価値を語るべからず。報道の自由を語るべからず。市民社会について語るべからず。市民の権利について語るべからず。中国共産党の歴史的過ちを語るべからず。権力者・資産階級について語るべからず。司法の独立について語るべからず。〉
これでは、文科系の学部では教えることがなくなったも同然である。

著者は、中国人の多くが現状に満足し楽観しているという。明日、すべてが奪われてもおかしくない社会に生きながら、今の小さな幸福に満足し、本当のリスクを見ようとしていないという。もはや民主化の芽は完全に摘み取られてしまった。
さらに、習近平には政敵を蹴落とし、10年と決められている書記長の任期をどうにかして延長し、毛沢東と同等の、いわば「皇帝」の座に就く野望を抱いていると分析している。→人気ブログランキングへ

『美貌格差』ダニエル・S.ハマーメッシュ

美貌は人にどの程度の利益をもたらすのか。経済学者が検討した。
まずは、主観が入り込む美貌を統計処理できるかどうかを論じなければならない。様々な点から検討した結果、美醜を5点から1点の5段階に採点する方法は、統計学的に正当性があるという結論に達する。この点をクリアしなければ、本書は成り立たない。

美貌格差: 生まれつき不平等の経済学
ダニエル・S. ハマーメッシュ 望月 衛 訳
東洋経済新報社
2015年3月

各点数が占める割合は、「容姿の評価、アメリカにおける生活と雇用の調査(1970年代における18歳から64歳のアメリカ人、女性1495人、男性1279人のデータ)」によると、次のようになる。

素晴らしくハンサムか美人(5点)
容姿がよい(4点)
平均的な容姿(3点)
見るべきものなし(2点)
醜悪(1点)
女性 3% 
女性 31%
女性 51% 
女性 13% 
女性 2%
男性 2% 
男性 27% 
男性 59% 
男性 11% 
男性 1%

収入に関する結果は、男女の平均でみると、美貌のグループ(4点・5点)は平均(3点)より収入が5%高く、見た目の悪いグループ(1点・2点)は平均より10%低かった。
生涯の所得では、美しい人と醜い人では、23万ドルの差がつくという露骨な結果がでた。

弁護士も大学教授も美貌は有利である。政治家の人気は明らかに美醜が関係する。
売春婦も美しい人が稼ぐ。COEがいけてる会社の成績はいい。
融資を受けるさいも美貌は得である。
現代社会には、美人プレミアムと醜人ペナルティがはびこっているのだ。

事故により顔面をケガした人の補償問題にかかわっている著者は、美貌だけに目を向けてはいない。ブサイクな1~2%の人たちの不遇は、有色人種たちが受けている差別と変わらないとし、政治的に保護されうるとしている。→人気ブログランキングへ

『服従』ミチェル・ウェルベック

分裂に向かう欧州連合を再結束させるには、いかなる方策があるのか。本書の答はイスラム教への服従である。
本書にはイスラム原理主義者にとって、バラ色の未来予想図が描かれているにもかかわらず、2015年1月7日にフランスで本書が出版されると、著者のミチェル・ウェルベックはイスラム過激派に命を狙われ、警察の保護下におかれたという。
それまで再三イスラム教を批判していながら、預言者を気取るのは許せないということなのだろう。
ウェルベックは1998年に『素粒子』を発表して以来、いくつもの問題作を手がけてきた。

服従
服従
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ミシェル ウエルベック  大塚 桃 訳
河出書房新社
2015年9月 ★★★★★
売り上げランキング: 612

2022年のフランス大統領選挙で、移民排斥を訴える右派の候補がトップになり、イスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベスは僅差で2位となった。決選投票で、ファシストかイスラムのどちらと組むかを迫られた左派と中道派は、イスラムの方がマシと判断した。
この結果、ベン・アッベスが圧倒的な勝利を収めフランスはイスラム化への道を進んでいくことになった。

主人公のフランソワは、ソルボンヌ=パリ第3大学の教授。19世末のフランスの代表的なデカダン作家ジョリス=カルル・ユイスマンスの研究者である。日常に流されて生きている独身の中年男。
大学は封鎖されフランソワは職を失うが、暮らすに困らない額の年金を手にすることになる。政権のバックには巨額のオイルマネーがあるのだ。

連合政府は好意的に評価された。
変わったことといえば、女性の肌の露出が極端に少なくなり、体の線が目立つ服は見られなくなったこと。テレビからはエロティックな要素が消えた。
また犯罪は激減した。
女性が労働市場から姿を消し、家族手当が大幅に引き上げられた。失業率は低下した。
そして義務教育は12歳までになった。
欧州連合に、トルコを加える交渉が始まり、モロッコも加える構想が出てきた。
ベン・アッベスの野望はオスマン帝国を築くことである。

フランソワは、大学の同僚だったスティーブに出会う。
スティーブは、大学管轄の広い宿舎に住み、給料はかつての3倍、すでに結婚し来月には2番目の妻を娶ることになっている。ランボーがイスラム教に改宗したという不確かな史実を教えているのだろう。

フランソワにも古典叢書編纂の仕事が舞い込んできた。ユイスマンスを担当することになった。
フランソワはユイスマンス研究の第一人者として丁重に応対されるようになるだろう。
そして、改宗すれば裕福な暮らしが待っている。複数の若い妻を娶ることもできるだろう。フランソワはそれも悪くはないと思うようになっていた。→人気ブログランキングへ

『変見自在 オバマ大統領は黒人か』高山正之

現在も、『週刊新潮』で連載中の超辛口コラム「変見自在」を単行本に収録したものの文庫化。
収録されているのは、2007年7月8日から2008年9月25日までの記事。
筆者は元毎日新聞記者。右寄りだから話は回りくどくない。

変見自在 オバマ大統領は黒人か (新潮文庫)
高山 正之(Takayama Masayuki
新潮文庫
2015年5月 ★★★★

日本が間違っていて、中国や韓国が正しいと主張する朝日新聞のいくつかの記事を取り上げ、論理的な不備や誤謬をを指摘し、新聞社としての資質がないと痛烈に批判している。
南京大虐殺も従軍慰安婦もでっち上げが一人歩きしているとする。

著者は、未だにひとつの国家に戻れず内輪もめを繰り返す隣の国に、ことさら手厳しい。劣等民族だと言っている。それと、中国人は嘘はつくし非道なことを平気でやる民族だと言ってはばからない。
ロシアもオーストラリアもアメリカについても、日本や世界に対してやってきた理不尽なことを暴いている。

本書のタイトルである「オバマ大統領は黒人か」の答は「否」である。
白黄黒の順に肌の色で人間を序列する白人たちは、一滴でも自分たちの血が入っていれば、半分家畜が2階級特進して準白人になるとしている。オバマは母方が白人だから、黒人ではないという。→人気ブログランキングへ

『沈みゆく大国アメリカ』堤 未果

国民皆保険制度は、かつてヒラリー・クリントンが手がけたが、保険業界の猛烈な反発で潰された。
しかしオバマ大統領は成し遂げたのだ。
アメリカ国民全員に医療保険の加入を義務づける「医療保険制度改革法」通称オバマケアは、2014年に施行された。多くの人々はオバマに賛辞を送った。

沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)
堤 未果(Tsutsumi Mika
2014年11月
売り上げランキング: 206

アメリカには、もともと65歳以上の高齢者と障害者・末期腎疾患患者のための「メディケア」と、低所得者のための「メディケイド」という公的保険制度があるが、それ以外の人はオバマケアに入ることになった。
保険会社は保険に入ろうとする者に持病があっても拒否できない。
こうして国民皆保険制度が始まったのだが、蓋を開けてみれば矛盾だらけ、企業が儲かるシステムになっていた。
保険会社や投資会社からの人材が、政府のブレインとしてオバマケアを設計し、まるで回転ドアをくぐるように、もとの会社に戻っていった。投資会社と薬剤会社と保険会社に金が流れるシステムを作ったのだ。

政府が薬価交渉権を持たないアメリカでは薬は薬剤会社の言い値で売らる。
今も、一度の病気で医療費が支払えず破産するケースは珍しくないという。
株式会社は医療保険であろうと何であろうと、利益を貪欲に追求する。医療や介護は社会主義的なシステムにすべきなのだ。

オバマケアはリーマンショックと同じ、富が少数の大企業に集中する仕組みであるという。この点が著者が最も危惧することである。
リーマンショックの発信源ゴードマンサックス社は、大きすぎて潰せない(Too big to fail)という理由で生き残り、今も膨大な利益を上げている。それを習うかのように、オバマケアが承認されて以来、保険業界では合併につぐ合併が繰り返されているという。

医者サイドにはなにが起こったか?
オバマケアの患者を診療すると、医師は複雑で膨大な量の書類を作らなければならない。書類に少しでも不備があると支払いを拒否される。したがって、オバマケアの患者を診療拒否する医師が急増している。
過剰労働と睡眠不足、訴訟に備える高額の保険料、抱える訴訟などのストレスで医師の自殺率は高い。

日本の医療は国民皆保険制度に支えられ、誰もがどの医療機関にも自由に受診することができるフリーアクセスが建て前となっている。薬剤と診療報酬の値段は政府が決めている。
欠点はあるとしても、世界に冠たる医療保険制度であると著者は讃えている。→ブログランキングへ
→【2011.10.11】『ルポ 貧困大国アメリカ II 』堤 未果

『おどろきの中国』  橋爪大三郎×大澤真幸×宮台真司  

おどろきの中国 (講談社現代新書)
橋爪 大三郎×大澤 真×宮台 真司
2013年2月
売り上げランキング: 2,166

  本書は3人の社会学者による鼎談の形をとっている。昨年ベストセラーになった『不思議なキリスト教』(講談社現代新書)は、本書の著者である橋爪大三郎と大澤真幸の対談で構成されている。本書はそのやり方を踏襲した。対談や鼎談では、複数の視点から語られるので話が膨らむ。また往々にして大胆な切り口になるので面白い。本書は「中国とはそもそも何か」、「近代中国と毛沢東の謎」、「日中の歴史問題をどう考えるか」、「中国のいま・日本のこれから」の4部で構成されている。中国を根本から理解させてくれそうな、またベストセラーになりそうな本である。

 まず、中国をヨーロッパ社会のものさしで測ることはできないという。中国は領土が広大で多数の異民族が暮らし、とてつもなく人口が多い。同じ中国語といえども離れた場所では通じない。中国を考えるとき比べるべきモデルはEUであり、その意味で中国は国家の概念から外れているという。ではEUが統合されて間もないのに、中国が2200年も前に秦の始皇帝により統一されたのはなぜか。これが中国の謎を解く重要な鍵である。
 理由のひとつは中国人のエゴセントリックな性癖にあるという。5車線道路に車線を無視して8台の車が並んで走り、ギリギリのタイミングで事故を回避するということが、現在の中国の大都市において日常的に行われているという。いわば毎日チキンレースをしているようなものだ。しかし、こうした争いが絶えない社会は疲弊する。中国人は、なによりも政治的な安定を優先するようになったという。
   ふたつ目は、儒教を取り入れたことである。儒教は伝統を大切にし、年長者の教えを尊び道徳を守ろうとする考え方であり、統治する側に都合がいい。
  3番目は漢字である。表意文字の漢字を理解できるのは一握りの人々で、大多数の民衆は漢字を理解できない。税を徴収される農民たちに不満が募って政府に抵抗しようと思っても、中国語の方言は生易しいものではなく、まるでそれぞれが外国語のようなもので、漢字があるからこそ通じる。漢字を理解できない農民は団結できないから大きな暴動にはならなかったという。
   さらに官僚の序列を決める科挙試験がある。中国人はランキングに異常にこだわることで、争いが起きない仕組みを作ってきた。これが中国社会の文法であって、中国人の骨身にしみついているというのだ。また古来、中国では政治と軍事では政治が優先されてきた。官僚と軍人では官僚の方が偉いとランキングされている。中国で軍事クーデターが起こらない理由はここにあるという。
   
 中国の大いなる謎のひとつは毛沢東である。毛沢東が推し進めた大躍進政策と文化大革命により、数千万人が亡くなったと言われている。これらの政策は、その当時から多くの人々が失敗と思っていたはずなのに、なぜ毛沢東は失脚しなかったのか。さらに毛沢東は人間性に問題があったと指摘されているにもかかわらず、いまもって優れた指導者と崇拝されているのはなぜか。毛沢東だけは失脚しないことが前提になっているとしか思われないと分析する。毛沢東をたたえることが、今の中国の政治が安定することにつながるからだということになる。
  中国のいささか奇妙に見える現象は、歴史をたどれば大抵ある程度説明できる。ところが文化大革命だけは突飛であり不思議さが残るという。文化大革命の意図しなかった効果は、市場経済に適さない中国特有の伝統や習慣、行動様式を一掃したことであろう。つまり、ヨーロッパ社会のものさしでは測りえない社会主義市場経済という奇妙なシステムが、成功している所以であるという。

    有史以来、日本は中国から多くのことを学び、中国をリスペクトしてきた。日本が中国より優位に立ったかに見えるのは、せいぜいここ100年くらいであるが、現在日本が中国をリスペクトしている気配はない。これは由々しいことだという。極東の国の関係を例えると、中国はクラスの担任の先生、韓国がそのクラスの優等生、日本と台湾は劣等生だったという。日本は朝鮮にも台湾にも占領政策を行ったが、朝鮮が反発し台湾が親日的なのは、クラスにおける上下関係によるという。中国も韓国も、劣等生の日本が近年力をつけてきて生意気な態度をとっていると見ている。日本側に多少の中国コンプレックスがあると日中関係は安定するという。
   明治維新のあと、日本は列強の端くれに加わりたいという願望があった。日本は亜細亜主義を唱えて末期の清国を助ける目的で、列強が植民地化しようとする中国に進出した。最初は中国も頼れる助っ人ととらえたが、いつの頃からか日本が変容し侵略者になった。南京事件は何が問題なのかを日本人が正しく認識しなければ、今後も相入れない両国の関係が続くという。中国が一番許せないのは、日本人が歴史を忘れていることである。

  中国国内の格差に目を向けてみる。所得分配の不公平さを測る指標としてジニ係数がある。 0が平等で1に近いほど不平等の程度が大きくなる。一般に0.4を超えると暴動が起こる警戒領域だと言われている。日本は0.3、中国は0.6という報告もあるが、少なくとも0.5は超えているとみられている。すでに中国各地で暴動は起きているが、格差の割に比較的文句をいう人が少ない印象であるという。ジニ係数からするともっと大きな暴動が起きて、体制が危機的になっても不思議でないように思えるが、そうなっていなのはなぜか。ひとつは、国民が高度経済成長の恩恵に浴しているからであり、実際、所得が5年で2倍になっている。もうひとつは、一人っ子政策をやめるのではないか、あるいは、差別制度である農民戸籍がなくなるのではないかという期待があるからだという。また党や政府の幹部が汚職で摘発されると、すぐに死刑になる。これが国民に対しての申し開きのようになって、バランスをとっているように思えるという。しかし、いずれ行き詰まることは目に見えているが、そのときどんな問題が起こるか予測するのは困難だという。

   21世紀は、衰退するアメリカをヨーロッパ諸国や日本がテコ入れして支え、躍進する中国と覇権を争うことになるだろう。しかし説明責任を果たそうとせず行動を予測できない中国は、覇権国家として認められることはないだろうという。そうした時に、日本の取るべき立場はインターフェイスの役目、つまり中国とアメリカの窓口になるというものである。米中が直接交渉できない、その間に入って活路を見出せという。所詮、日本は米中関係の付属物に過ぎないことを認識すべであるという。日本の選択肢が、うまく立ち回ってせこく生きるしかないというのは情けない。しかし、歴史も踏まえた冷静な目で見れば、これが日本のおかれた立場なのだろうと思う。→ブログランキングへ

『アルゴ』 アントニオ・メンデス×マット・バグリオ 

アルゴ (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) (ハヤカワノンフィクション文庫)
アントニオ・メンデス マット・バグリオ
真崎義博 訳
2012年10月

本書は、2012年度のアカデミー賞作品賞を受賞した、ベン・アフレック監督の同名映画『アルゴ』の原作である。
通称トニーと呼ばれる著者のアントニオ・メンデスは、CIAの偽装工作のスペシャリストである。
ノンフィクションではあるが、偽装工作のノウハウがところどころに差し込まれて描かれていて、上質のスパイ小説として読むことができる。
まさに「事実は小説より奇なり」を地で行く奇想天外な話である。

1979年、テヘランのアメリカ大使館が暴徒化した学生たちに選挙され、その後444日にわたり大使館員が拘束された事件が起こった。
この時、アメリカ大使館から逃れてカナダ大使公邸に、逃げ込んだ男女6名のアメリカ大使館員がいた。
彼らは過激派に見つかれば、アメリカ人スパイとして処刑されることは間違いがない。

1980年1月、この6名をイラン国外に脱出させるための作戦が行われた。それがアルゴ作戦である。
カナダ政府が、アメリカ大使館員6名(本書では、このあと客人と記載される)をカナダ国籍とするパスポートの偽造を承諾した。
これには、トニーは巨大化したアメリカ政府はこんな粋な決断は出来ないだろう。カナダは小回りの効く政府だと賞賛している。
トニーが思いついたシナリオは、客人をカナダ人映画ロケハンとして、脱出の前日にイラン入りしたものの、イラン当局の撮影許可が下りず、翌日にはスイスに向け出国するというもの。映画はアルゴというタイトルのSF映画である。
ハリウッドにはアルゴ用の事務所が開設された。事務所には出演希望者の問い合わせがあり、雑誌の取材を受けアルゴの記事が掲載された。こうして偽装工作は着々と進んでいく。

なぜ、映画のロケハンが選ばれたのか。ロケハンがどのようなことを行うか、普通の人は見当もつかない。しかも、「アルゴは、中東の神話と、宇宙船と、遥か彼方の世界をミックスした話」、こんな話はイラン人でなくとも理解できない。客人が自らの役割を頭に叩き込んでおけば、問い詰められて思いつきで答えてもボロは出ない。
かくして、客人プラス、トニーはチューリッヒ行きの旅客機に乗り込みイランからの脱出に成功する。

後日談は、6名がイランにいた時に思い描いたものとは異なっていた。
アメリカ国務省は、6名が脱出したことがイランに知られないように、アメリカ大使館に拘束されている人質が解放されるまで、6名の身柄をフロリダ海軍基地に拘束することにした。
しかし、モントリオールの新聞がこの事件を嗅ぎつけて公表してしまう。こうなれば隠しても無駄である。
アメリカは大統領をはじめマスコミがカナダに対して、感謝の意を繰り返し表すことになる。
しかし、CIAの関与やアルゴ作戦については、18年間、極秘事項として封印された。

アルゴ作戦が成功した理由を、著者は次のように書いている。
嘘にしてもあまりにもクレージーな話なので、チェックのしようがなかった。正気の諜報員なら誰も選択しないような架空の話だったのだ。そこにこそ、この作戦の美しさがあった。→ブログランキングへ

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