経済・政治・国際

2022年3月23日 (水)

グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす 森川潤 

著者は、新たにエネルギー業界の盟主に躍り出てきた企業を「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼ぶ。いずれも10〜20年前に、再エネへと舵を切った企業である。そして今、時代が追いつき、彼らは世界のエネルギー変革の主役となっている。
日本ではグリーンジャイアントは生まれていない。
5a4ced4fd5a54eb28e70d81ef783f9d4グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす
森川潤 
文春新書 2021年

世界の石油会社大手が、再生可能エネルギーを扱う会社に株価で抜かれている。欧米では、政治、エネルギー、金融システム、イノベーション、若者のライフスタイルから資本主義の再構築まで、気候変動をめぐる一つの物語として共有されているという。

日本は先進国に10年遅れ、それを追いかけている状況。京都議定書の再調印を拒否したこと(1998年)、東日本大震災(2011年)さらに太陽光発電バブル(2019年)が遅れを引き起こした。
2012年、野田政権下で再生可能エネルギー特措法が施行された。2019年、異様に高価格で買取が行われることとなり、参入すれば誰でも稼げる太陽光バブルをもたらした。
そもそも、日本政府には地球温暖化を他人事と捉えているような姿勢が感じられるという。

中国は2060年までにカーボンニュートラルを宣言しているが、最大のCO2排出国であり、逆に再生エネルギーでも世界最大の規模を兼ね備え、原発も建設をし続けている。

デンマークのオーステッド社は、もともと石油会社だったが、2008年に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を宣言した。オーステッド社は世界の洋上風力事業者のトップであり続けている。デンマークは、2025年までにカーボンニュートラルを宣言しており、2023年までに石炭火力を全廃することも明言している。約7兆円に上る時価総額は、日本の電力10社を足した額を上回る。

アップルは2030年までにカーボンニュートラルを目指す。サプライヤーは再エネ100%で部品や素材を製造しないと、アップルに使ってもらえない。
さらに踏み込んだのがマイクロソフトである。1975年創業以来、電力をはじめ排出してきたすべてのCO2をゼロにするという。CO2除去技術に10億ドルを4年間にわたって投資するという。ミレニアム世代やZ世代は、『エシカル(Ethical)消費』という環境や社会に良いことをして企業しか応援しなくなり始めている。

欧州メーカーはこぞって電気自動車(EV)への移行を宣言している。フォルクスワーゲンは2030年までに7割を、欧州販売のスウェーデンのボルボは2030年までに、イギリスのランドローパーは2036年までに、メルセデス・ベンツは今後すべての新型車をEVとするとしている。
しかし、充電池を製造する際に排出されるCO2はかなりの量になる。EVであるテスラのモデル3の方がガソリン車であるトヨタのRAV4と比べて、製造段階で2倍近くのCO2を排出している。CO2排出量は、モデル3が3万3000キロ走行した時点でRAV4と並ぶという。
中国はガソリン車では性能の良い車を作ることができないから、EV車の開発を国家戦略としている。年間2500万台の新車売上台数を誇る、世界最大の自動車市場である。

インポッシブル・バーガーとビヨンド・ミートはアメリカの代替肉の会社。牛のゲップのメタンガスは二酸化炭素よりも温室効果をもたらす度合いが遥かに強い。ミレミアム世代以下の若者は自分達にも気候変動の責任があるとして、代替肉を食べている。

スウェーデン発の代替乳製品生産会社オートリーは、植物性のオーツミルク(燕麦性ミルク)」を展開するメーカである。オートリー社によると、牛乳に比べ1リットルあたりで温室効果ガス排出量を80%、土地使用を79%、エネルギー消費を60%削減することができるとしている。オートリーはコーヒーとの相性が良い。米国ではスターバックスがオートリー製品を全店で展開することとなった。
牛肉も食べるけれど、できるだけ量を減らして植物肉を食べるというフレキシタリアンが増加している。

ビル・ゲイツは気候変動をめぐるあらゆる分野のイノベーションに投資をしている。
ゲイツの原発ベンチャー「テラパワー」では、ナトリウム(水素ではなくナトリウムを用いる小型原子炉)の開発が行われている。ナトリウムとはテラパワーが手がける新型原発の名前であり、ワイオミング州での建設が決まった。
ナトリウムの発電能力は従来の100万キロワットと比べ35万キロワットと少ない。さらにウランの濃縮濃度が5〜20%と従来の5%より高いものを用いる。ウランの濃縮度が低いほど使用後の放射性廃棄物が増える。ナトリウムでは原子炉の冷却に水を使わずナトリウムを使う。ゲイツは複雑さがヒューマン・エラーを起こす原因と考えている。

世界のトレンドはSMR(Small Modular Reactor)と呼ばれる小型原発だ。SMRは工場で作られ、現地での備え付けは簡単な工事だけで済むという。

日本は、2030年までにCO2の削減を50%を目指し、実際には46%の削減を公言した。原発を最大限活用していくことになるだろう。コンパクト原発の建設の議論も出てきている。
日本は原発に対する議論を避けてきたせいで、著者はこの目標は達成困難とみている。目的を達するには2030年30基ある原発を80%稼働させなければ不可能であるという。

著者は日本の体質の弱点をこう分析する。日本は1990年前後の成功体験から抜け出せず、その仕組みを変えたくない、という意識が根底にある。気候変動をめぐる議論も同じである。→人気ブログランキング
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2021年10月10日 (日)

グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ 明日香壽川

著者は、東北大学教授。エネルギー・温暖化問題の科学・技術や政治経済的な側面を研究している。
「グリーンニューディール」とは、再エネと省エネの導入による景気の回復及び雇用拡大と温暖化防止である。「グリーンリカバリー」とは、「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済停滞からの復興を、気候変動対策とともに進める」というような意味合いで使われる。
本書は、2050年までに、本気でカーボンニュートラルにするにはどうしたらよいかについて書かれている。
01e8504bfe0d44999718447f00b6ab58グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ
明日香壽川(Asuka Jusen)
岩波新書 
2021年6月 260頁

気候変動に伴うジャスティス(正義)という言葉にも説明がいる。
環境正義とは、⑴一人当たりの温室効果ガス排出量が少ない途上国の人々が、一人当たりの排出量の多い先進国の人々よりも、気候変動によって大きな被害を受ける(途上国は気候変動の影響を受けやすい第一次産業が主要産業である)。⑵先進国の中でも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが、より大きな被害を受ける。⑶今の政治に関わることができない未来世代がより大きな被害を受ける。どれも定量的な事実である。

温暖化対策を阻害しているのが、温暖化懐疑論。
つまり、温暖化していない。CO2排出は温暖化と関係がない、温暖化してなにが悪いというもの。こうした人たちは、⑴化石燃料会社の関係者⑵情報リテラシーが低い人⑶反対することで経済的利益をうる人などである。

多くの人々が、1.5℃以下の気温上昇を抑制する場合は2030年までに世界全体で50%、ジャスティスを考えれば先進国は100%近くCO2排出量を減らす必要があることを知らない。温暖化対策に関心がある人でも知らない人は多い。

多くの研究者にとって京都議定書(1997年)は、大きな期待であり希望であった。京都議定書の第一約束期間が終わる直前の2010年、アメリカ、カナダ、ロシア、日本は京都議定書の延長に反対した。
日本政府が反対したのは、東京電力を代表とする電気産業、新日鉄(現日本製鉄)に代表される製鉄業界、トヨタを代表する自動車産業が温暖化対策に消極的だったからである。
環境立国になりえた日本は、あえてリーダーシップを取らない普通の国になった。

日本は省エネの先進国だというのは間違いである。1990年ごろまでは確かに省エネの先進国であったが、その後は先進国で最低レベルである。もうひとつ温暖化対策先進国というのも間違いである。世界56カ国と比べると、日本は最下位グループに属している。
さらに、日本は2050年カーボンニュートラルを宣言したものの、現行の目標や政策の大きな変更は認められず、政治家も官僚も企業も、2050年のカーボンニュートラルはどうでもいいと思っている感がある。
こういう誤解は政府が抱える御用学者が政府につごのいい情報を流布するから起こる。

米国エネルギー情報局によると、既に多くの国や地域で、太陽光や風力が最も安い発電技術であり、国によっては既存の火力発電所の運転コストよりも安くなっている。原発の競争力は著しく低下する。
米国で新しい原発の発電の平均コスト(初期建設コストと運転コスト)は、新しい風力や太陽光による発電設備の平均コストの4倍である。
さらに、原発にとって問題なのは、運転コストが再エネの平均コストと同レベルになりつつあることだ。

IEA(国際エネルギー機関)の2020年の報告書によれば、「原子力と石炭火力よりも再エネや省エネの方が、温暖化対策としてのコストは小さく、雇用創出効果は大きい」という。
これは、「原発が経済という意味でも温暖化対策という意味でもベスト」という日本政府の議論を真っ向から否定するものである。

日本で原子力発電や火力発電が廃れない理由は、原子力ムラ、火力発電ムラを潰さないための政策がとられているからだ。
10年間も稼働しない原子力発電所を抱えている電力会社が危機に陥らないのはなぜか?原発が温暖化のためでないとしたら、何のためか。それは中国が途上国の原子力発電所の建設を目論んでいる。対中技術覇権維持である。

欧州や米国では、産業界にエネルギー転換は避けられないものという覚悟がある。企業は政府との条件闘争に入っている。日本ではそのような状況にない。どうせ政府はいつものように口先だけだろうと思っている。ゆえに真剣な議論をしない。それが日本の現状である。

パリ協定の2050年にカーボンニュートラルを達成するとは、地球全体での目標であり、途上国も早期に温室効果ガスの排出をピークアウトする必要がある。 
温室効果ガスの排出削減問題は、突き詰めると「現世代と将来世代との間で、有限の温室効果ガス排出量を、何らかのルールのもとで正義や公平性を考慮しながら分配する」という命題に帰結する。
このようなジャスティスの問題を解決するためには、個人の努力だけでは不可能で、社会システムの変革が必要である。

今の社会システムを維持したい人々は、「個人のライフスタイルを変えよう」という耳あたりの良いフレーズをメディアなどで流す。個人が変わるのは重要なものの、多くの場合、このようなフレーズは、個人の問題に転嫁するすることで、社会システムのチェンジを阻止することを目的とした目眩し戦術でしかない。そのことに気づかず、無意識に騙されている人は非常に多い。

社会システムを変えるパイロットスタディがウェールズで行われている。
2015年ウェールズで制定された「未来世代の豊かさと幸せに関する法」は、政府や地方自治体などのすべての公的機関での意思決定において、未来世代の利益が十分に考慮されているかの検討を義務づけた法律である。
この法律は、社会、環境、経済そして文化という四つの側面から「豊かさと幸せ」を考え直し、より良い意思決定によって、未来世代だけでなく現代の貧困、教育、失業などの複雑な問題を解決することを目的としている。→人気ブログランキング
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グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ/明日香壽川/岩波新書/2021年
ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳・江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

2021年9月 5日 (日)

タリバン 田中 宇

2021年8月31日、アメリカ軍がアフガニスタンから完全 撤退した。アフガニスタンとタリバンは、旬の話題だ。
現在、Amazonで新書『アフガニスタンー戦乱の現代史』(岩波書店 2003年)には、9000円以上の値がついている。ならば本書はどうかというと、8月31日は1439円で、9月1日には1800円、日が経つにつれ値が上がっている。本書を手に入れたのは値が上がる前だ。本書は、2001年9月11日の同時多発テロの1ヶ月後に発刊されている。
タリバンを理解するには、アフガニスタンの近代史を理解しなければならない。
F3b4031bbd514a16a4ba748ef9369f93タリバン
田中 宇(Tanaka Sakai
光文社新書 
2001年 214頁

「グレートゲーム」とは、中央アジアの覇権を巡るイギリス帝国とロシア帝国の情報戦をチェスになぞらえて名づけられた。
17世紀以来、インドへの関与を強めていたイギリスが、19世紀半ばにムガール帝国を滅ぼしインドを植民地とした。同時期、イギリスはアフガニスタンに対しても侵略の手を伸ばした。1838年、イギリスはアフガニスタンに侵攻した。イギリス軍は難なくカブールを占領し、アフガニスタンをインドと同じように支配しようとした。しかし、イスラムの聖職者たちはジハード(聖戦)を宣言した。ジハードとは、あらゆるイスラム教徒の男性が参戦しなければならないという国民皆兵の布告である。ジハードの最中に戦死すると、どんな人も天国に行けることになっている。特に若者や子どもたちはこの教えを信じ、戦場で死ぬことを少なくとも表向きは喜びと考えている。
それに呼応してゲリラ戦が始まり、イギリスの支配が始まって2年後の冬に、イギリス軍は1万6千人が全滅したが、ただ一人、医師のウイリアム・ブライドンだけがアフガニスタンを脱出した。この医師が、シャーロックホームズの相手のワトソンのモデルとなったというのは有名な話である。

1978年、アフガニスタンでは共産主義政党による政権が成立したが、これに対抗するムジャヘディン(聖戦士)の蜂起が始まった。ほぼ全土が抵抗運動の支配下に落ちたため、共産主義政権はソ連に軍事介入を要請した。1979年12月にソ連軍が軍事介入した。ソ連軍にもジハードが宣告された。

オサマ・ビンラディンは、ソ連軍と戦うゲリラを支援するためアフガニスタンに赴いた。ビンラディンはサウジアラビア最大の建築会社、サウジ・ビンラディン・グループのオーナー一族の息子である。

宗教信仰をすべて迷信として弾圧するソ連が、アフガニスタンに侵攻したことは、イスラム教徒の怒りをかっていた。アメリカの同盟国のパキスタンやサウジアラビアは率先して、アフガニスタンのイスラム同胞を救えというキャンペーンを張った。アフガニスタンやパキスタンにある軍事訓練センターに志願兵となった若者が運ばれたが、訓練センターを運営しているのはCIAだった。ビンラディンは一族が持つ豊富な資金を使いそのプロジェクトに参加した。
アフガニスタンのイスラム聖戦への志願兵を募るための事務所を、中東諸国やパキスタン、アメリカなどイスラム教徒が多い国に設立し、数千人の若者をアフガニスタンに集めムジャヘディンとして軍事訓練を行った。CIAが武器を供与し、ビンラディンが給料を支払っていた。

1989年、ソ連がアフガニスタンから撤退し戦争は終結したが、アフガニスタン側でこの戦争を戦っていたゲリラの内部で内戦が起こった。ソ連の侵攻を受けていた10年間、アフガンのゲリラを支援していたのはパキスタンであり、その背後にいたのがアメリカだった。

パキスタンの難民キャンプで育ち神学校に通っていた若者たちは、こうした醜い戦いをする腐敗したムジャヘディンから祖国を解放しようとする運動を始めていた。それがタリバンである。タリバンとはアラビア語で「学生たち」という意味である。

タリバンは腐敗したムジャヘディンと戦い、アフガニスタンの国土の9割を支配するようになった。このドラマはパキスタンによって周到に準備されたものだった。
アメリカはアフガニスタンからパキスタンを通って石油と天然ガスのパイプラインを敷設する計画を、タリバン侵攻当初から目論んでいた。タリバンは住民に対し、厳格なイスラム教信仰に基づいた生活を送るよう強制した。
そのタリバンの政策に対し、アメリカは人権侵害と非難しなかった。アメリカがタリバンを非難するようになったのは、オサマ・ビンラディンが対米テロを強めた1998年以降である。

ビンラディンは、ゲリラ組織同士の争い失望し、母国サウジアラビアに帰り一族の会社経営の場に復帰した。翌年1990年イラク軍がクエートに侵攻して、サウジアラビアは自国の中に米軍(多国籍軍)の駐留を許し、イラクを攻撃させることとなった。ビンラディンはアフガン帰りの兵士を率いて祖国のためにイラク軍と戦うことを計画し、サウジ政府の国防相に持ちかけた。ビンラディンの計画ではイラク軍に勝てないと提案を断った。
米軍がイラク軍を撃退した。ビンラディンは、聖地メッカを擁するサウジアラビアの王室が異教徒であるアメリカ軍に頼ったことを、モスクでの演説で非難した。

ビンラディンはスーダン亡命した。サウジアラビアだけではなく中東諸国の多くは軍事的、あるいは経済的にアメリカに頼る国になっていたが、これらの国の政府は転覆されるべきだとした。1991年、サウジアラビア政府はビンラディンを国外追放した。ビンラディンはアブガニスタンに身を寄せるようになった。ビンラディンはアフガニスタンに移って間もなくアメリカに宣戦布告を発している。

アフガン戦争時代志願兵募集のため世界各地に作られたビンラディンの事務所は、アラビア語でアルカイダ(拠点)と呼ばれるようになり、アルカイダのネットワークは、アメリカを攻撃するテロのネットワークとして再編されていった。

1997年オルブライト国務長官がタリバンの女性差別を明確に非難した。この頃からアメリカのトーンが変化した。タリバンは国際社会の敵としての立場に追い込まれた。
1998年8月、ケニアとタンザニアにあるアメリカ大使館が爆破され、多数の死傷者が出た。アメリカ政府は、この事件の背後にビンラディンがいると主張し、タリバン政権にビンラディンを引き渡すよう要求したが拒否されたため、1999年10月に国連を動かしタリバン政権に対する経済制裁を発動した。

2001年9月11日、大規模テロ事件が起こると、アメリカはビンラディンの引き渡しに応じなかったタリバンを攻撃し始めた。アフガニスタンを民主的な国にする目的で、アメリカ軍はアフガニスタンに駐留した。→人気ブログランキング
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2021年8月25日 (水)

SDGsー危機の時代の羅針盤 南 博・稲葉雅紀

SDGs (持続可能な開発目標)は、2015年9月、国連で193カ国の首脳の合意のもと採択された「2030アジェンダ」の主要部分を占める。「危機の時代の羅針盤」としてのSDGsにじっくり目を通してみようというのが本書の主旨である。著者は日本の主席交渉官としてSDGs交渉を担当した南博と、市民社会からSDGsに関わってきた稲葉雅紀。
Fae85e24c0b0460088e055b17f435c29SDGsー危機の時代の羅針盤
南 博・稲葉雅紀
岩波新書
2020年 220頁

SDGsとは、〈①世界から貧困をなくすことと「持続可能な社会・経済・環境」へと変革することの二本の柱とする目標。②2030年を期限として、17のゴール169のターゲット、232の指標により世界の社会・経済・環境のあらゆる課題を取りまとめる、相互に不可分の目標。③条約のように、国連加盟国を法的に縛る者ではないが、先進国、新興国、途上国がともに取り組むものであり、実現にあたっては、「誰一人取り残さない」ことがうたわれている目標。〉である。

SDGsは持続可能なという概念と、MDG s(ミレニアム開発目標)への批判を土台にして作られた。まず、MDGsは途上国の開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置付けであったのに対し、SDGsは、開発だけでなく経済・社会・環境の3側面すべてに対応し、先進国にも共通の課題として設定している。それに伴い目標の数も8から17に増えてより包括的となった。
さらに、SDGsでは、課題を解決するために、企業の創造性とイノベーションに期待を寄せており、企業の役割が重視されている。
「持続可能な開発」とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすような開発」と定義されている。

SDGsは気候変動や経済格差の拡大等の慢性的な危機に直面した国際社会が、3年をかけて策定した危機時代の羅針盤である。外交官をはじめ、国際機関、民間企業、民間財団、市民社会、そして当事者たちが、対立や分断を乗り越えて、力を合わせて合意に達することができた。
SDGsには法的な拘束力がない、それゆえにゴールとターゲットのうち、自国に都合の悪いものは無視して、いいとこ取りができる。それにしても、すべての国連加盟国が合意に達したことは、多国間外交史上稀有なことだという。

SDGsの内容を列記すると、飢餓や貧困をなくして、すべての人に健康と福祉を、質の高い教育を受けて、ジェンダーを平等にする。安全な水とトイレを世界中に普及させ、クリーンなエネルギーを行き渡らせる。あらゆる人に働きがいのある仕事を。産業と技術革新の基盤を作り、人や国の不平等をなくす。住み続けられる街づくりを、持続可能な消費と生産パターンを確保する。気候変動対策、海の豊かさを守る。陸の豊かさを守る、平和で包摂的な社会を推進し、パートナシップで目標を達成しよう。

2019年に、SDGsの進捗状況を評価する「SDGサミット」が開かれた。国内、国家間で、富や収入を得る不平等が拡大しており、飢餓人口が増え、貧困をなくすことはおぼつかない。ジェンダー平等実現はままならない。そして国連がSDGs達成に黄信号を投げかけ、今後の10年で取り返すとなりふり構わず、2030年までの「行動の10年」を提起した。

現在、人類は地球の資源再生能力の1.69倍を使っているという。資源再生能力とは化石燃料や金属あるいは森林などのことである。持続可能な開発を続けるためには、資源の消費を1以下にしなければならない。満身創痍の地球をなんとか回復基調にもっていき、その状態を次の世代さらにその次の世代へと引き継ぐことが、SDGsのキーワード 「持続可能な」の意味するところである。
2020年から新型コロナウイルスが世界を席巻した。COVIV-19が落ち着いたあと、経済損失を急速に挽回しようと非常手段として再び安易に化石燃料に依存することにつながりかねない懸念がある。→人気ブログランキング
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グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ/明日香壽川/岩波新書/2021年
ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳・江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

2021年8月12日 (木)

ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法 ポール・ホーケン編著

世界の気温上昇を産業革命前の水準と比較して2℃未満に抑えるという国際的な公約がある。2015年、国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)で合意され、「パリ協定」と呼ばれる。それにはCO2を2030年には半減、2050年にはゼロにしなければならいとされている。しかし排出を止めるロードマップは今のところない。
A417ba5d5c924a51b93a0dc0242775aaドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法
ポール・ホーケン編著
東出顕子訳、江守正多監訳 
山と渓谷社 
2021年
431頁

タイトルのドローダウンとは、温室効果ガスがピークに達し、年々減少し始める時点を指す。編著者のポール・ホーケン は、アメリカの環境保護活動家、 起業家 、作家、活動家。
プロジェクト・ドローダウンは22カ国70名のドローダウン・フェローで構成されている。40%は女性で、半数近くが博士号取得者である。

これらすべての温暖化対策を実施すると、2050年までに少なくとも1000ギガトンのCO2を削減できるという。ちなみに、1ギガトンはオリンピックサイズのプール40万個分。2016年に排出されたCO2の総量は36ギガトンである。
本書の特徴は、100の技術や戦略についてランキンが示され、より実効性がある方法はなにか、なにを優先すべきなのか、削減CO2量のほかそれにかかるコスト、そして課題に言及しているところである。本書によって温暖化阻止に明るい兆し見えたような気がする。

紹介されている技術や戦略は、エネルギー、食、女性と女児、建物と都市、土地利用、輸送、資材、今後注目の解決策、の8項目に大きく分かれている。
ランキングの1位は、「冷媒の管理」で2050年までに90ギガトンを減らすことができる。冷蔵庫、スーパーマーケットのショーケース、エアコンなどに使われている冷媒は、地球規模の問題を起こし続けている。ハイドロフルオロカーボン(HFC)に代表される代替フロンは、オゾン層には有害な影響を与えないが、温室効果はCO2の1000〜9000倍もあるという。2028年までにHFCの使用を段階的に削減することを取り決めた2016年のモントリオール議定書キガリ改正には、最終的に197カ国が採択したという。

食料廃棄の削減で70ギガトン、屋上ソーラーで24ギガトン、植林で18ギガトン、電気自動車で11ギガトン、のCO2を削減できる。電気自動車の普及が思いのほか効果が少ない。また意外に思えるが女児の教育が60ギガトンとなっている。なぜ女児の教育がCO2削減につながるのか。それは教育を受けることにより女性の出産数が減ることによる。

本書はアメリカで2018年2月に発刊された。『ニューヨークタイムズ』でベストセラーに選ばれ、すでに世界12カ国の言語に翻訳されているという。→人気ブログランキング
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グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ/明日香壽川/岩波新書/2021年
ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳、江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

2021年2月26日 (金)

チョンキンマンションのボスは知っている

著者は立命館大学教授、文化人類学者。
著者のフィールドワーク「力」は凄い。武器は旺盛な好奇心と行動力そしてスワヒリ語だ。女だてらに(差別語か?)、魔窟と呼ばれる香港のチョンキンマンションにひとりで長期間滞在して、調査を進めた。
著者は、本書で2020年度の大矢壮一ノンフィクション賞と河合隼雄学芸賞を受賞した。
Photo_20210226082201チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学
小川さやか
春秋社
2019年 ✳︎10

著者は、幸運にもスワヒリ語を話せるということで、カラマというチョンキンマンションのボスに出会うことができた。
カラマは51歳、中古車ディーラーである。2000年代初頭にタンザニアから香港にやってきた。香港ではビザなしで3ヶ月滞在できるから、中国本土やマカオに出て香港に再入国することを繰り返し、香港に長期滞在した。
タラマは儲けた金で、郷里で様々な事業に投資した。農地を購入し農産物加工工場を建設し、親族経営のガソリンスタンドを経営し、スーパーマーケットを建設中である。地元の子ども達に服を贈ったり慈善活動もしている。

カラマのスマホのアドレス帳には、タンザニアの上場企業の社長や政府高官からドラッグディーラーから売春婦、元囚人まで多種多様な知人・友人が登録されている。
カラマのところには毎日のようにタンザニア人が相談にくる。カラマはこれまで見ず知らずの若者を含め膨大な数の人間を世話してきたが、「ついでに」適当にやっているからできるのだという。

チョンキンマンションは5棟で構成されていて、1、2階は店がひしめき合い、3階から17階までは安宿が入っている。刑期を終えた人物や、難民や亡命者、不法滞在者、売春婦たちが住んでいる。彼らは何か起きたときに正規のルートを頼ることは難しい。タンザニア香港組合が結成されるきっかけとなったのは、タンザニア人の死だった。
遺体を母国に送ろうにも、家族に経済的な力がない。そこでカラマが代表を務め、書記官と5人の委員を選出した。彼らは中国と香港に滞在していたタンザニア人たちに寄付を募り1万1000ドルを集めることに成功し、遺体を無事家族の元に届けた。その後定期的に会合を持つようになり、タンザニア香港組合が発足した。
やがてタンザニア人だけではなく、ケニア人、ウガンダ人も加えた東アフリカ共同体香港組合が設立された。

脛にキズをもつ者が商売をして行くには、通常社会とは違ったルールが存在して当然だろう。彼らはフェイスブックやインスタッグラムなどの複数のSNSのプラットフォームを活用して「TRUST」という仕組みを構築した。ブローカーが商品を購入する資金が足りないときは、「TRUST」を通じクラウドファンディングから資金を調達して顧客に商品を売る。その儲け分はファウンディングの出資者にも分配される。専用のサイトがあるわけではない。顧客は「THRUST」を通じて購入する場合もあるし、香港まで来てブロカーが同行して購入することもある。

航空会社の優待メンバーになれば手荷物や受託荷物の制限重量も増える。スーツケースの空きスペースに、「ついでに」売ろうとする携帯電話を入れてもらうのである。
「ついでに」いかに便乗するかが重要なのだ。コンテナの隙間に鉄筋を積んでもらい、それがたまり、ビルを建てるしかないなということになって、ホテルを立てることにしたと、カラマはいう。相手は「ついでに」の見返りは求めない。

商売のためにSNSで、羽振りの良さを喧伝していることもあって、香港のタンザニア人多くは、実態はどうあれ母国の人々には、海外でぼろ儲けしていると思われている。
インスタグラムの写真や動画によって築かれるのは、「見せかけ」「まやかし」による信頼である。少なくとも星印や点数と違い、自己顕示力や承認要求、趣味や個人的な好き嫌い、心情や主義、日々変化する喜びや悲しみなど全てを盛り込んだ、より生々しい姿を通じ、すなわち数値化できない個人に対する人格的な理解や関心を基本として、商売を動かしている。
香港のタンザニア人たちは他者への支援に関わる細かなルールを明確化していない。彼らは効率性や便宜性をともに生きることを、より優位に置いたり信頼の格付けを目指すのとは違う回路で商売を実践している。

そして、私たちは必ずしも危険な他者や異質な他者を排除しなくともシェアできるということを考える一歩になれば幸いだという。→人気ブログランキング

2021年2月 1日 (月)

人新世の「資本論」

人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいとして、オランダのノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、産業革命以降を「人新世」(Anthropocene アントロポセン)と名付けた。人新世は人類が地球を破壊し尽くす時代だという。著者は、人新世の危機を乗りきる手段を『資本論』をテキストにして考察する。資本主義を止め脱成長コミュニズムに移行しなければ、気候変動は止められないという。世界の注目を集めたトマ・ピケティの論理を超える処方箋を提案した。
Image_20210201102501人新世の「資本論」
斎藤幸平
集英社新書
2020年

スウェーデンの当時15歳のグレタ・トゥーンベリは、2018年にポーランドで開かれた第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)に集まった190か国の大人たちを前にして、蛇蝎のごとく訴えた。「あなたたちが科学に耳を傾けないのは、これまでの暮らし方を続ける解決策しか興味がないからです。そんな答えはもうありません。あなたたち大人がまだ間に合うときに行動しなかったからです」と核心をついた。あなたたちとは、ドイツの社会学者ウルリッヒ・プラトンとマルクス・ヴィッセンが「帝国的生活様式」と呼んだライフ・スタイルを送る先進国に住む私たちのことだ。グレタはZ世代の象徴的な人物の一人である。1990年後半から2000年に生まれたZ世代はデジタル・ネイティブであり、最新のテクノロジーを自在に操りながら世界中の仲間と繋がっている。この世代は新自由主義が規制緩和や民営化を推し進めてきた結果、格差や環境破壊が深刻化していく様を体験しながら育った。このまま資本主義を続けていってもなんら明るい展望はないと実感している。今まで人類が使用した化石燃料の約半分が、冷戦が終わった1989年以降のものだ。ベルリンの壁が崩壊し、さらにソ連が崩壊したことによって、アメリカ型の新自由主義が旧共産圏の廉価な労働力や市場に目を向けたのだ。

気候変動はどの程度の危機的状況なのか。2020年6月にシベリアで気温が36℃に達した。永久凍土が融解すれば多量のメタンガスが放出され、気候変動は加速される。北極圏の永久凍土から大量の水銀が流出したり、炭疽菌のような細菌やウイルスが解き放たれるリスクもある。科学者たちは、2100年までの気候上昇を産業革命前の1.5℃未満に抑え込むことを求めている。すでに1℃上昇しているから、すぐに行動しなくてはならない。具体的には2030年までに二酸化炭素排出量をほぼ半減させ、2050年までに0にしなければならない。もし現在のまま排出し続ければ2030年までに気温の上昇は1.5℃を超え、2100年には4℃上昇すると予測されている。このままであれば、地球は人類が生きられない環境になってしまうという。
昨年11月、菅首相が所信表面演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」にすると表明したのは、COPの試算に基づくものだ

資本主義は人間だけでなく、自然環境からも掠奪するシステムである。そして限度を知らない。資本主義は負荷を外部に転嫁することで経済成長を続けていく。そうした「外部化」がうまくいっていたあいだは、先進国に住む私たちは環境危機に苦しむこともなく豊かな生活を送ることができた。矛盾をどこか遠いところに転嫁し、問題解決の先送りを繰り返してきたのだ。「グローバル・サウス」とは、グローバル化によって被害を受ける領域ならびにその住民を指す。

国連は、国際目標として17のグローバル目標と169のターゲットからなる「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」を掲げている。後戻りできなくなるまでの時間なかで、大胆な政策が先進国で議論されるようになった。「グリーン・ニューデール政策」は再生可能エネルギーや電気自動車を普及させ、大型財政出動や公共投資を行う。そうして安定した雇用を作り出し、景気を刺激することを目指す。果たしてこんなうまい話があるのだろうか。著者は実例を挙げてグリーン・ニューデール政策は、二酸化炭素排出量を下げることができないとする。電気自動車によって削減される世界の二酸化炭素量はわずか1%である。バッテリーの大型化による製造過程で二酸化炭素を多く発生するからだ。グリーン技術はその生産過程までみると決してグリーンではない。「脱成長」の選択肢を取らない限り、解決はありえないという。資本主義の歴史を振り返れば、国家や大企業が十分な規模の気候変動対策を打ち出す見込みは薄い。SDGsもグリーン・ニューデール政策も、気候を人工的に操作するジオエンジニアリングも、気候変動を止めることができない。SDGsは、気候変動に対して何かいいことをしていると免罪符を与える現代のアヘンであると断言する。脱成長を選択せざるをえないときに、資本主義の仕組みはいくら修正しても立ち行かないのだ。

著者はトマ・ピケティの考えとの違いを明確に示している。ピケティは行きすぎた経済格差の解決策として累進性の高い課税を提唱した。その後、労働者たちが生産を自主管理・協同管理する参加型社会主義を訴えている。しかし脱成長を受け入れていないことと、租税という国家権力に依存するところが問題であると指摘している。著者は解決策をカール・マルクスの『資本論』に求めている。マルクスは晩年、地質学、植物学、鉱物学などの自然科学を研究して膨大な研究ノートを残している。過剰な森林伐採、化石燃料の乱費、種の絶滅などのエコロジカルなテーマを、資本主義の矛盾として扱うようになっていった。最終的には100巻に及ぶメガ(MEGA)と呼ばれる新しい『マルクス・エンゲルス全集』( Marx-Engels-Gesamtausgabe)の刊行が進んでいる。そこにはマルクスの研究ノート、図書館での書き抜き、アイデアや葛藤も含まれている。『MEGA』を丹念に読み解くことが、現代の気候危機に立ち向かう武器になるという。

『資本論』を、脱成長コミュニズムという立場から読み直すことが必要であるという。コミュニズムの「コモン」とは社会的に人々に共有され管理されるべき富のことである。コモンは、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財産として自分たちで民主的に管理することを目指す。脱成長コミュニズムへの変換項目として、⑴使用価値経済への転換、⑵労働時間の短縮、⑶画一的な分業の廃止、⑷生産過程の民主化、⑸エッセンシャル・ワークの重視を挙げている。資本主義の虚の部分を削ぎ落とさなくてはならない。具体的な目安は1970年代の生活レベルである。
脱成長コミュニズムの5本の柱について説明する。⑴使用価値経済への転換:マルクスは「価値」と「使用価値」という商品の属性を区別した。資本主義は価値を求めるが、必ずしも使用価値(有用性)を求めるわけではない。希少性の増大が商品としての価値を増やす。希少性を人工的に生み出すのは、ブランド化や広告である。有用性を重視する使用価値経済への転換しなければならない。
⑵労働時間の短縮:使用価値の経済に向けた転換のためには、労働時間の短縮が根本条件である。GDPには現れないQOLの上昇を目指す。
⑶画一的な分業の廃止:労働者や消費者を支配しやすい閉鎖的技術中心の経済、すなわち利益優先の経済から脱却して、使用価値の生産に重点をおいた経済に転換しなくてはならない。
⑷生産過程の民主化:知識や情報は社会全体のコモンであるべきなのだ。
⑸エッセンシャル・ワーキングの重視:現在高給を取っている職業として、マーケティングや広告、コンサルティングそして金融や保険業などがあるが、こうした職業は重要そうに見えるものの、社会の再生産にはほとんど役に立っていない。
エッセンシャル・ワーキングとは、主に医療・福祉、農業、小売・販売、通信、公共交通機関など、社会生活を支える仕事をいう。

2020年1月にバルセロナが発表した「気候非常事態宣言」は野心的であるという。2050年までの脱炭素化という目標をしっかりと掲げている。自治体職員の作文でも、シンクタンクが作成したものでもなく、この宣言は市民の力の結集である。行動計画には包括的かつ具体的な項目が240以上並ぶ。二酸化炭素排出量削減のために、都市公共空間の緑化、電力や食の地産地消、公共交通機関の拡充、自動車・飛行機・船舶の制限、エネルギー貧困の解消、ゴミの削減・リサイクルなどの全面的な改革プランを掲げている。

先送りするだけの国連のSDGsは批判されなくてはならい。トップ・ダウンではなく、バルセロナのようにボトム・アップでなければだめだ。そして著者は読者に行動を起こすようにと呼びかける。3.5%の人々が動けば何かがが起こるという。→人気ブログランキング

2020年9月10日 (木)

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL 町山智浩

『週刊文春』に連載されている「言霊USA」(2018年3月〜2019年7月)の69本のコラムを収録。
コアなUSAウォッチャーの著者は、トランプが大統領になって話題が尽きないので、書くことに困らないという。トランプは、平気で嘘をつくが本音を言い、自らの行いは過剰に褒め、敵は徹底的に腐す。利用価値があると思えば、危険な人物であろうと近ずいていく。よく言えば、わかりやすくて邪気がない。悪く言えば子どもで、自己愛性人格障害ともいわれている。
一部のエキセントリックな白人だけがトランプを支持しているわけではない。そもそも白人はアメリカは自分たちの国だと思っている。自分たちは選ばれた人間だと信じている。これ以上有色人種が増えると白人優位のアメリカを維持できなくなるという焦燥感が、トランプ支持する。なにも手を打たなければ、共和党は選挙に勝てなくなる。そこで、顔写真付きの身分証明書なしには投票できない、有権者ID法を取り入れる州がでてきている。黒人をはじめとする有色人種は、免許証を持っている割合が圧倒的に低い。
トランプはもちろんだが、今の共和党には賢さが皆無だ。
ピックアップした「Qanon」「Uninged」「Very Close To Complete Victory.」「Busing」について抄記する。

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町山智浩
文藝春秋 2019年

QAnon(Qアノン=トランプ支持者が信じる匿名ネット投稿者 2018年9月6日)
Qという匿名(Qアノニマス=匿名者Q)のネット投稿からはじまった陰謀論で、アメリカはディープ・ステートという闇の組織に支配されているという。ヒラリー・クリントンや政府高官が絡んでいて、政財界には小児性愛者ののネットワークがあり、ワシントンのピザ屋で、子どもを売買しているという。2016年にはQAnon信者がそのピザ屋を銃で襲う事件が発生した。
トランプ支持者にはQAnon信者が多い。QAnon信者はそれと戦う正義の味方がトランプだと信じている。

Uninged(タガが外れて 2018年10月4日)
トランプの閣僚で唯一の黒人女性だったオマローサ・マニゴールドが解雇され、オマローサは回顧録『UNHINGED(アンヒンジド)』を出版した。
トランプと著者は、出演していた人気テレビ番組『アプレンティス』以来のつき合いがある。オマローサは大統領制出馬以来、広報を担当してきた。
トランプは極度の健忘症で、前日に言ったことすら覚えていない。「精神的に問題がある」と強調している。 
また、大統領選の遊説で黒人教会に行ったとき、トランプが「ニガー、ニガー」と差別用語を多発し、「(黒人に何をされるかわからないから)俺をひとりにしないでくれ」と懇願したなど、黒人への差別意識を丸出しにする姿も暴露されている。
一方、トランプは「彼女を雇ったのは涙目で哀願してきたからだ」と言っている。まるで小学生だ。

Very Close To Complete Victory.(ほとんど完璧な勝利 2018年11月29日)
アンドリュー・ジャクソン(第7代大統領)は、テネシー州や南部に住んでいた先住民をオクラホマに強制移住させて彼らの土地を白人入植者に与え、絶大な人気を誇った。トランプはジャクソンを尊敬しているという。
テネシー州はバイブルベルトの一部で、キリスト教福音派が全米で最も多い。彼らにとっては、1973年に人工中絶が違憲だとした最高裁判決を覆すことが悲願。トランプによって最高裁判事9人のうち5人が保守派判事が占めることとなった。中絶の再禁止が実現し、同性婚も風前の灯だ。

Busing(公立学校地域格差是正のためのバス通学 2019年7月18日)
民主党の大統領候補レースが始まった。今回は24名が出馬している。
トップはジョー・バイデン、2番がバーニー・サンダース、3番手がエリザベス・ウォーレン、以上4人は70歳以上の年齢。トップ3が70歳代だとは、なんという人材不足。
4番手はカーマラ・ハリスで54歳。6月27日マイアミで行われたディベートの勝者は、カーマラ・ハリスだ。父はアフリカ系のジャマイカ人。母はタミル系のインド人。父は経済学、母は医学、それぞれが博士号を取るためにカリフォルニア大学バークレー校に学んでいる間に出会って結婚した。そして生まれたのがカーマラ。そのご夫婦は離婚、カーマラは母の手で育てられた。
バシングとは、学童が通う学校をシャッフルすることで、貧困地域の子を富裕層の多い地区の学校に通わせ、その逆も行い、格差をなくすこと。
ハリスが小学生だった1973年、バイデンは上院議員として、議会でバシングに反対票を投じたのだ。それを、ハリスは追求した。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

2020年9月 3日 (木)

アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2 町山智浩

2012年の8月から2016年3月まで、『週刊文春』の「言霊USA」に掲載された 74本のコラムを掲載している。おりしも、オバマ大統領の2期目の年から、2016年の初めトランプがいまだ泡沫候補であった頃まである。
アメリカでは、人種差別は永遠のテーマであり、相変わらず銃乱射事件は頻発するし、レイプの件数は驚くべき数字である。女性差別も貧富の差も一向によい方向に向かっていない。著者はそれをローアングルからとらえている。。
巻末の解説は、東京大学とハーバード大に合格したことをウリにしているモーリー・ロバートソン。自分はあまたいる日本の外人タレントの中で本物であり、町山のアメリカ情報も本物であると婉曲にいう。
トランプの白人至上主義について冷静な見解を述べている。つまり、2040年頃には白人が少数派に転じる。いずれ大統領は非白人に寄り添った政治しか許されなくなる。いまアメリカは最後の悪あがきをしているというもの。これは定説ともいえる見解だ。

Photo_20200903124201 アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2
町山智浩
文春文庫 2016年 ✳10

Three Cups of Deceit(偽りのスリーカップス)
いやーショックだ。400万部以上を売り上げ、2006年の全米ベストセラーとなった『スリーカップス・オブ・ティ』が作り話で、著者が詐欺をはたらいていたとは。日本では2010年3月に出版され、早速読んで大いに感激した。
ヒマラヤ山脈のK2峰登頂にを途中で断念したモーテンソンが道に迷って遭難し、パキスタンのコンフェという村の人々に助けられる。モーテンソンは看護師で、後産で死の淵を彷徨う村の女性を救い村人の信頼を得る。村に学校を作ると言ってアメリカに戻り、寄付を集めてコンフェに戻って学校を建てた。9.11で分断されたアラブと西側の架け橋になろうと、その後の学校を建てようとする感動ものだった。
著者が主催する団体に全米の慈善事業家、教育機関、市民団体から巨額の寄付が集まった。しかし膨大の額の使途不明金が指摘されたが、著者は沈黙しているという。

Kids Vote(子供投票)
大統領選の予想のあれこれ。
もっとも当たっている予想は、1940年から続いている「Kids Vote」。過去2回しか外していないという。絵本や教科書を出版するスコラスティック社が主催し、18歳以下の25万人が参加する。親の投票行動が反映するからだろうと言われている。

Taste worth dying for(死ぬ価値のある味)
アメリカでは年間12万人が肥満で死ぬという。
2011年、ラスヴェガスにオープンしたレストラン「ハートアタック・グリル」の店の入り口には、「この店は健康に有害です」と警告文が出ている。ウェートレスは看護婦のコスプレ、客は手術の時に患者が着る服を着せられ、車椅子で店内に案内される。
全部で9900キロカロリーのハンバーガーがメインで、付け合わせはラードで揚げたフライ。ドリンクはメキシコから取り寄せた砂糖たっぷりのコーラ、またはバターたっぷりのミルクセーキ。156キロ以上の人はいくら食べても無料だという。常連客が心臓麻痺で救急車で運ばれたが死んだ。
この店の客が死ぬのは初めてではない。ラスヴェガスの前は店がアリゾナにあったが、29歳の常連客が店の中で心停止した。
「オーナーは言う。たとえ死のうが、好きなものを食べる自由がある!」いかにも、自由を重んじるアメリカだ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

2020年8月29日 (土)

トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4 町山智浩

2016年、共和党の大統領候補指名選は、最終的にトランプとフロリダの上院議員テッド・クルーズの戦いになった。お互い「お前の母ちゃん出べそ」的な中学生レベルのネガティブキャンペーンを行った。が、相手の弱点をつくことにおいては、トランプに一日の長があった。その悪口の発信を追求されると、PAD(政治活動委員会)という団体が勝手にやったことだと、それぞれの陣営が責任逃れをした。PADは政治家を勝手に応援する後援会で、個人や企業からの献金で潤っている。潤沢な資金で下品なCMが多量に流されることになった。とういうのが前置き。
本書に収録されているのは、『週間文春』の「言霊USA」に、2015年3月19日号〜2016年間3月17日号の間に掲載されたコラム。
本書のタイトルは、トランプ陣営が支持者集会でローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』を流したところからきている。歌詞の中でサタンはこう繰り返す。「私がやっているこのゲームの正体がわからなくて、あなた方は困惑しているでしょう?」これは、支持者集会に流す曲じゃない、そんなことはどうでもいいという精神構造が、ヤバイ。
Image_20200829162401 トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4
町山智浩
文春文庫 2018年 ✳︎10

Opioid(オピオイド=アヘン類似物質)
2015年7月、日本でトヨタのアメリカ人元常務役員ジェリー・ハンプが麻薬の密輸で逮捕された。彼女が持ち込んだオキシドコンという鎮痛剤は、アメリカでは処方箋があれば手に入る。日本でも同じ方法で手に入るが、処方の条件が厳格である。日本で多く処方されているのは「非麻薬性」オピオイドと呼ばれるヤワなやつだ。
オキシドコンは、オピオイドと呼ばれる強力な鎮痛剤で抑うつ効果がある。ハッピーな気分になる。「-oid」は「〜に見える」「それっぽい」という意味だ。麻薬類似物質の常用者は940万人、総売上2億ドル以上の一大産業なのだ。オピオイド中毒は深刻な問題である。いずれ、ヘロインに手を出すことになる。

Black people can't swim?(黒人は泳げない?)
アメリカでは水泳は義務教育の必修科目ではない。貧乏だったり、共稼ぎや片親の忙しい家庭の子は泳ぐ機会がない。
『アメリカのプールの社会史』は、モンタナ大学のジェフ・ウィルツ准教授がプールにおける人種差別を研究したものだ。奴隷制度の時代、白人たちは黒人が川に入ることを固く禁じた。逃げられてしまうからだ。1920年代、全米各地にプールが作られたが、黒人は入ることができなかった。
現在、市民プールにおける差別は「いちおう」なくなったが、「水泳格差」は存在する。実際、USA水泳連盟とメンフィス大学が2010年に発表したデータによると、黒人の7割は泳げない。白人の少年に比べて溺死事故は3倍も多い。

Don't get ahead of the news,It will run you over.(ニュースの先を走ってはならない。後ろから轢かれることになる。by FOXニュースのキャスター)
全米警官組合はタランティーノの映画を「反警官的」としている、新作西部劇『ヘイトフル・エイト』のプレミアム試写会の、警備や交通整理を一切行わないよう呼びかけた。
デビュー作の『レザボア・ドッグス』(92年)ではギャング同士の次のような会話がある。「人を殺したことがあるか?ポリ公じゃなくて、本物の人間を」。タランティーノは警官が嫌いだってことは明らかだ。

メディア王ルパート・マードック傘下のFOXニュースは、黒人射殺が続く昨今は警察官の味方についている。横領がばれそうになり殉職したように見せかけ自殺した警官を、FOXニュースは英雄と祭り上げてしまった。タイトルはFOXニュースのキャスターが、戒めに言った言葉。

Snitch (密告者、チクリ屋)
麻薬王エル・チャポのアジトに海兵隊が踏み込み、一味はほとんど射殺され、エル・チャポは拘束された。エル・チャポは麻薬密売組織シナロア・カルテルのボス。資産10億ドルといわれアメリカ経済誌『フォーブス』の富豪ランキングに入る。エル・チャポは今まで何回も逮捕と脱獄を繰り返していた。
そのエル・チャポに、素人記者としてたびたび記事を書いてきたショーン・ペンがインタビューした。ペンの記事は当たり障りのない内容で、なんのツッコミも入っていない。
ところがこのダメ記事が役に立った。インタビューの交渉に会話を暗号化する携帯電話を使ったが、アメリカ政府の監視システムに引っかかった。密告者になってしまったショーン・ペンは、命がヤバイんじゃないか?→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年

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