経済・政治・国際

新型コロナVS中国14億人 浦上早苗

中国は、民主主義国家では到底できない人権無視の政策を断行してきた。1月24日からの春節の前に武漢をロックダウンし、中国全土で人の集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、コロナの封じ込めに成功した。中国を「隠蔽で初動が遅れ、ウイルスをばらまいた国」という一面のみでとらえるべきではないという。

中国が感染の中心だった頃は、中国の強権的なロックダウン、テクノロジーを駆使した行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、今や多くの国で中国方式を取り入れている。この強権的な対策は、政治家ではなく医師らの提案によるものだという。

Vs14 新型コロナVS中国14億人

浦上早苗
小学館新書
2020年6月 10✳

突貫工事でコンテナ病院が建設された。5Gを用いた通信システムにより、遠隔診断し治療法が指示された。医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。スピーカーを搭載した5Gドローンが住宅地を巡回し、おしゃべりしている人やマスクをつけていない人を家に追い返した。
PCR検査なしでもCT画像からコロナを診断してもよいとされた。アリババ・グループのAI技術が、CT画像から20秒で診断する。その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。

2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「健康コード」が杭州で導入された。赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が要請される。このアプリにより、身元を隠して暮らしていた人たちが行き場がなくなり指名手配者が自首してきたという。また不正給与支払いが発覚した。

日本の厚労省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは、6月19日。なんだか腹立たしいくらい遅い。こうしたアプリは60%の人々が登録しないと、有効ではないというから、日本でこの接触アプリがまともに機能することはないだろう。

新型コロナウイルスの存在は12月31日に確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、7日に国連にも提供されている。
2月27日に、初動の遅れを新型コロナ対策ハイレベル専門チームの鐘南山氏(83歳)が批判している。SRASで陣頭指揮をとった鐘氏は、政府を批判したことで人々に支持され、精神的支柱となった。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。

企業がコロナ対策に寄与した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が追加された。
出前アプリのEle、me、ハイテクスーパーのHema、オンライン旅行のFliggy(飛猪)、口コミサイトのKoubei(口碑)が、武漢の医療関係者に食料や生活用品を手配した。
Fliggyが武漢の宿泊施設に無料で宿泊できるように呼びかけ、3000以上が協力した。
地図アプリ会社は医師たちの無料送迎を行った。

中国の新型コロナ累計死者数は4632人と、従来の3342人から修正された。4月16日時点の累計確認症例数は8万2692件となっている。
例えば、広東省は1億2千万の人口だが、感染者は1600人、死者は8人で、同じ規模の東京よりはるかに少ない。
情報が透明でなかろうと、中国は新型コロナの封じ込めに今のところ成功してるといえるだろう。

ヨーロッパ、中東やアフリカ諸国にマスクや防護服、PCR検査機器、人工呼吸器などを援助物資として送ったが、多量の粗悪品が含まれていて中国に送り返されたという。政府は製品検査を厳格化して、劣悪な製品をつくる企業を淘汰する。中国は恥をかいても前へ進んでいく。恐ろしい国だ。

著者は経済ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。1998年から西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年に中国大連の東北財経大学に国費留学した。その後大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に翻訳や執筆を手がける。法政大学イノベーションマネジメント研究科講師。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『コロナの時代の僕ら』パオロ・ジョルダーノ

著者は25歳の若さでイタリア最高峰の文学賞とされるストレーガ賞を受賞した気鋭の小説家で、大学では物理学を専攻していたという。

本書は27篇のエッセイと著者のあとがきからなる。
COVIT-19の感染について書いた時によって、感じ方は変わっただろう。27篇のエッセイは2月29日から3月4日まで『コリエーレ』紙に掲載された。2月25日に323人だったイタリアの感染者数は、2月29日1129人、3月4日には3089人になった。感染者数が爆発的に増えたのはそのあとである。

Photo_20200428173501コロナの時代の僕ら

パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介
早川書房
2020年 ✳︎9

 

 

そして、著者あとがきの「コロナウイルスがすぎた後も僕が忘れたくないこと」が掲載されたのが3月20日。イタリアでCOVIT-19の流行が始まってから1ヶ月間を振り返った内容になる。3月20日の感染者数は47,021人、死者数は4,032人。この時点でイタリアの医療は完全に崩壊していた。
最近(4月27日)の状況は、感染者数197,675人、死亡者数26,644人で、感染者数は頭打ちになっているとされている。

イタリアが最悪の事態になる前に書かれた文章は、余裕がありユーモアすら感じられる。
<いったん終息すれば過去に流行した多くの感染症を犠牲者の数で上回ることはないだろう>との予測を述べている。しかし、その予測は必ずしも当たっていなかったことがわかる。
物理学を専攻した著者ならではのテーマを扱ったのが「感染症の数学」「アールノート」である。数学的に感染を減らすにはどのように考えるべきなのかをクリアカットに論じている。いま日本で実践を推奨されている「接触を80%減らす」につながる理論的根拠が示されている。

あとがきの「コロナウイルスがすぎたあとも、僕が忘れたくないこと」は、爆発的に感染が拡大した頃に書かれたもので、説得力があり感動させられる。〈すべてが終わった時、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか。もとに戻ってしまわぬように、この苦しい時間が無駄にならぬように、元に戻って欲しくないもののリストを作っておく〉ことを提案している。

本書は世界27カ国で発売されたという。間違いなく世界的ベストセラーになるだろう。著者は印税の一部を医療機関および感染者の医療に従事する人々に寄附するという。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『ハーレクイン・ロマンス』尾崎俊介

ハーレクイン・ロマンスはカナダ産の恋愛小説叢書である。
現在、毎月2回それぞれ15冊程度、月に30冊、年間では400冊の翻訳本が日本の読者に向けて出版されている。
ハ-レクイン・ブックスは、1949年、カナダで生まれた。隣国アメリカで廉価なペーパーバックがブームとなり、リーチャード・ポニー・キャッスルは「ハーレクイン(道化師)」という名前をつけて、ペーパバックを出版しはじめた。経営の才能があった妻のメアリーはロマンス関係の本しか売れていないことに気づき、ロマンス関連本だけを出版するようにした。秘書に図書館でロマンス小説を読ませ、気に入ったものがあればメアリーに推薦するよう指示。メアリーが読んで面白いとなれば再販権を獲得して出版するようにした。


ハーレクイン・ロマンス (平凡社新書0930)

尾崎俊介
平凡社 2019年 ✳9
売り上げランキング: 45,295

それらのロマンス小説は、ほとんどがイギリスのミルズ&ブーン社のハードカバーだった。イギリスが舞台で、ときに英連邦王国の一部であるオーストラリアやニュージーランドが舞台となる。つまりカナダ人やアメリカ人とってはエキゾチックな要素を備えていた。

1960年代以前、アメリカのペーパーバック市場は男性がターゲットだった。1964年ハーレクイン・ロマンスという女性向けの叢書が入ってきて、1965年の時点ですでに600万部、毎年35%ずつ伸び続け、1977年位は1億部の大台に乗るところまで急成長を遂げた。1975年以降ハーレクイン社の出版物の7割がアメリカ向けだった。
ハーレクイン・ロマンスは本の厚さが一定である。製本の都合で32ページの倍数192ページに収まるように組版されている。

ハーレクイン社がアメリカで多大な成功を収めたのはマーケティング戦略による。売れるロマンスの公式を完成させた。それは、「ヒロインがヒーローに出会い、二人は障害を乗り越えて恋に落ち、そして結婚する」ということに尽きる。ハーレクイン・ロマンスは、すべてヒロインの視点から語られる。読者はヒロインに感情移入して読み進むのだからその視点は欠かせない。
読者は30歳代40歳代の既婚者であり、恋を成就させた経験者である。主人公は20歳そこそこの若い女性と相場は決まっている。ヒロインは絶世の美女ではなく、かわいい女の子。金髪碧眼小柄で華奢な体躯。お相手は185センチから195センチと長身で、もちろんハンサムでどちらかといえばラテン系の濃いめの顔である。会社を経営しているか、弁護士あるいは医者などであり、そもそも働かなくとも食べていけるくらいの資産家である。

ハーレクイン社は独自の配本ネットワークの構築に乗り出し、それまで配本を一手に引き受けていたサイモン&シュスター社との契約を打ち切った。サイモン&シュスター社は、ハーレクレイ・ロマンスのノウハウをそのまま使って、しかも、人気作家を引き、シルエット・ロマンスというシリーズを売り出したのだった。
そして、シルエット・ロマンス社は、それまでハーレクイン社がいわばタブーとしてきたアメリカ人作家を登用し、アメリカ人を主人公とし、ラブシーン描写を積極的に取り入れたのである。しかし、ハーレクイン対シークレットの対決はハーレクレイのシークレット買収で決着を見た。

新たな市場として、性モラルが厳しい国、中国、東南アジア、イスラム諸国、アフリカ諸国に、ハーレクインは販路を拡大しているという。→人気ブログランキング

『変見自在 習近平と朝日、どちらが本当の反日か』高山正之

『週刊新潮』の辛口コラム「変見自在」(2014年6月〜2015年6月)の文庫化。
産経新聞OBである著者は朝日新聞を目の敵にする。
「朝日にあらずんば新聞にあらず」と思い上がっていた朝日新聞は、批判されても仕方がないことをやってきた。
朝日新聞は、昭和30年代半ば北朝鮮は地上の楽園と報じ続け、日本在住の朝鮮人20万人が地獄の北朝鮮に帰った。
中国での煙幕を毒ガスだと報道したり、サンゴに落書きして「日本人KYがやった」と書いたり、挙句は韓国人義母の入れ知恵で植村隆が従軍慰安婦の嘘をでっち上げた。

変見自在 習近平と朝日、どちらが本当の反日か (新潮文庫)
〓山 正之
新潮社 (2019-08-28)
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収録されているコラムのひとつ「キリスト教徒を締め出した日本の叡智」の要旨は次のようだ。
〈16世紀、キリスト教が日本にやってきた。日本には八百万の神がいるから、一人増えても日本人は気にしなかった。ところが、キリシタン大名高山右近は城下の神社仏閣を壊していった。彼らは信徒以外は人間扱いしなかった。キリシタン大名は硝石1樽を女50人と引き換え、イエズス会はその女たちを奴隷に売って大金を稼いだ。
秀吉は宣教師に神社仏閣と仲良くするように、奴隷売買をやめるように説得した。10年待ったが、改めなかったので26人の教徒を処刑した。
徳川幕府もこの狭量の宗教を諌めた。道を外れた民には踏み絵を踏むだけで許した。異教徒を皆殺しにするキリスト教では考えられない寛容さだ。
しかし懲りないキリスト教は「島原の乱」を起こす。この経緯を踏まえ、日本はキリスト教を邪教として禁じた。ローマ帝国すらできなかった世界で初めてのことを日本はやった。
おかげで、日本は宗教戦争に巻き込まれることがなかった。明治憲法発布まで邪教への入信を戒めた。〉
著者は、キリスト教排除は先人の叡智であるとする。キリスト教が世界中でひき起こした凄惨な歴史を見るにつけ、一神教のもつ危うさに気づかされる。秀吉や徳川幕府のとったキリスト教排除は「日本を救った叡智」と評価されていい。

本書では解説にも注目したい。
担当するのは産経新聞の著者の後輩である福島香織である。それまで、『変見自在』の文庫版の解説は、保守の言論界を代表する評論家や作家が担当してきた。彼女が選ばれたのは、著者に目をかけられ、著者を「高山先輩」と呼んで尊敬し、自身も保守系のスタンスをとる気骨ある書き手であるからだろう。

変見自在 習近平と朝日、どちらが本当の反日か/新潮文庫/2019年
変見自在 オバマ大統領は黒人か/新潮文庫/2015年

『さいはての中国』安田峰俊

著者は中国国内外の中国らしいあるいは中国的な毒を含んだ場所で取材を行った。
アメリカに対抗する大国になりつつある中国は、王朝時代のDNAを引き継いだ国家主席が君臨している。外交では、アジア・アフリカの小国にインフラを整備する代わりに、金でがんじがらめにしている。著者の現地取材は右派雑誌『SAPIO』の企画で行われた。


さいはての中国 (小学館新書)

さいはての中国
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安田 峰俊(Yasuda Minetoshi
小学館新書 2018年
売り上げランキング: 6,989

中国のシリコンバレーと呼ばれる広東省深圳。ここにはネトゲ廃人たちがネットカフェで生活する。ネトゲ廃人たちは、土木・建築系の工事現場、スマホやタブレットPCを製造するデジタル工場がで働き、稼いだ金はネトゲやスマホのアプリ課金、オンラインカジノといったサイバーな娯楽につぎ込んでいる。

アフリカ系外国人たちが住む広州市。公的に確認されているだけで2万人、不法滞在者を含めると10万から30万人いるという。親アフリカ政策を取ってきた中国に、アフリカ諸国の人々は好意的な考えを持っている。
ショッピングモールの中国人ガードマンが言う。「連中は声が大きくて態度が傲慢だ。文化的な水準も低い。自国のルールだけで生きている。中国の文化を尊重しないんだ」。中国人が感じるアフリカの人々は、日本人が感じる中国人そのままだ。

習近平政権の特徴は、習近平やその一族と個人的な縁があったり、習近平に露骨にすり寄ってくる人間に厚遇を与えることだ。習近平は自分の仲間以外に対しては恐ろしく冷淡だ。習近平は王朝時代のDNAを引き継ごうとしている。
上海は江沢民がテコ入れした。深圳は鄧小平の肝入り。前任の為政者たちを上回る権威を身に付けたい習近平は、上海や深圳と同格の経済都市を自分の手で作りたいと考えている。新首都候補の雄安新区開発は「国家、千年の大計」とされている。

国家主席が変われば、政策が変わり、法律で投資が凍結される。それまで建設ラッシュの都市が、瞬く間にゴーストタウンになる。そんな内モンゴルの都市オルドスは、鬼城(ダイチェン)と呼ばれる。

カンボジアはポルポト時代に社会が破壊されてしまい、知識人の数が少ない。国税局員なのに帳簿をつけていない。政治家なのに政策立案の方法をしたない。だからこそ日本が発揮できる役割がある。
日本は無償資金協力であるが、中国は有償。カンボジア政府に援助の形をとりつつ、ツケ払いで巨額のハード・インフラを売りつけている。国民は中国を嫌っているが、政府が勝手に彼らを誘致する。中国からの有償資金は高官の懐に入る。
フンセン国王は野党カンボジア救国党の党首を反逆罪で逮捕し、救国党を解散させた。野党不在のままで総選挙が行われ、フンセンの党であるカンボジア人民党が全議席を獲得した。1993年にUNTACが作った議会制民主主義の枠組みがなくなってしまった。欧米諸国が手を引いた総選挙で、選挙を管理したのはまともな選挙が行われれいない中国である。

カナダの中華系住民は多い。人口3515万に177万人がいる。中華系活動家により、トロント州の高校の教科書に南京問題が掲載されるようになった。カナダから日本批判の狼煙を上げている。

『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』水島治郎

ラテンアメリカの国々やヨーロッパ各国を席巻し、ついにはトランプをアメリカ大統領に押し上げてしまったポピュリズムとは何か。本書では、ポピュリズムを「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」と定義している。

ポピュリズムの特徴は、「主張の中心は人民」「人民重視の裏返しとしてエリート批判」「カリスマリーダーの存在」、もうひとつ「イデオロギーの薄さ」である。ポピュリズムは具体的な政策内容で特徴づけることはできないという。

ラテンアメリカでポピュリズムが席巻したのは、社会経済上の圧倒的な不平等が理由である。1930年以降、大地主や鉱山主などの寡頭支配に対抗し、中間層や労働者、農民など多様な支持層を背景にポピュリズム政党が躍進した。
〈デモクラシーが固定していないラテンアメリカのポピュリズムの場合には、権力を濫用しデモクラシーの妨げとなった。〉

現在、なぜ西ヨーロッパでポピュリズムが広がっているのか。
2015年、ヨーロッパでイスラム過激派のテロ事件が続発した。この機会をとらえて、反イスラムの旗を掲げて支持を集めているのがヨーロッパのポピュリズム政党である。
当初は極右だったポピュリズム政党が転向し、グローバル化やEU統合に反対し、エリート批判と移民排除を進めようとしている。移民や難民、外国人を福祉の乱用者と位置づけ福祉排除の考え方を打ち出す。

EU離脱をめぐるイギリスの国民投票では、「置き去りにされた」人びと、2016年のアメリカ大統領選挙では、「ラストベルト(旧工業地帯)」の人びとがクローズアップされた。二つの共通性が注目され、勝利を収めた経過も似ている。

デモクラシーから生まれたポピュリズムであるのに、なぜデモクラシーと正反対の解釈が成り立つのか。
その訳は、デモクラシーの背景には「立憲主義的解釈」と「ポピュリズム的解釈」がある。「立憲主義的解釈」は、法の支配、個人の自由の尊重、議会制などを通じた権力抑制を重視する立場であり、「自由主義」的な解釈といえる。「ポピュリズム的解釈」は、人民の意思の実現を重視し、統治者と被治者の一致、直接民主主義の導入など、「民主主義」的要素を前面に出す。

ポピュリズムは、デモクラシーを民主化することで重要な意義を持つが、他方デモクラシーの発展を阻害する。多数は原則を重視するあまり少数意見が無視される。敵味方を峻別する傾向が強いから対立を生みやすい。非政治的機関の権限を制約しがちなどのマイナスの要素がある。
野党としてのポピュリズム政党は、既成政党に緊張感を与えることでデモクラシーの質を高める。デモクラシーの固定していない国でポピュリズム政党が政権を握ると、デモクラシーの脅威となる。一方、デモクラシーが固定した国の場合はポピュリズム政党が与党になった場合でも、デモクラシーの危機に陥るとはいえない。

ポピュリズムは「ディナー・パーティの泥酔客」のような存在だという。上品なディナー・パーティに現れて、なりふり構わず振る舞う。ずかずかとタブーに踏み込んで隠された欺瞞を暴く。実にうまい比喩だ。

『リバタリアニズム』渡辺靖

リバタリアニズムとは、個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的、社会的、経済的に自由を求める思想。政府の介入を極力排除し、自由と市場主義を徹底する。

自由至上主義や自由尊重主義と訳され、日本ではリバタリアンは「保守の一部」とみなされがちだが、湾岸戦争やイラク戦争には反対した。人工中絶や同性婚については国家が口を挟むべきことではないとする。
さらにレイシズムや(人種差別)ナショナリズムは個人を矮小化するとして否定し、マイノリティやLGBTへの差別に反対する。しかし、リバタリアニズムが裕福な白人男性の思想だというイメージは、人種差別に結びつきやすいことも事実であるとする。

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)
渡辺 靖
中公新書
2019年1月 ✳︎9
売り上げランキング: 3,672

著者は、アメリカのリバタリアニズムの学生サークル、理論的支柱である学者やシンクタンクやリバタリアンの集会で取材を行っている。
リバタリアニズムといっても多種多様で、政府を必要としないとするアナキズムに近い考えや、果ては政府によるベーシックインカムの支給を支持する考えもある。
きわどいところでは、自己所有権の見地から、成人間の合意に基づく身体売買、売春や自己奴隷契約、臓器売買などを容認する傾向にある。

ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、アメリカの独立こそは、社会のルールをめぐる権威づけを、王や宗教でなく、個人の契約に委ねることに成功した近代史上、唯一の事例としている。
君主や貴族による統治(保守主義)も、巨大な政府権力による統治(社会主義)もともに否定するのがアメリカの特徴である。ヨーロッパでは、保守主義、自由主義、社会主義という三すくみの対立軸によって政治空間が織りなされているが、アメリカでは保守もリベラルも自由主義を前提としている。
ピルグリムファーザーによるアメリカ建国の考え方が、リバタリアンに繋がるとする。
リバタリアンはアメリカだからこそ生まれた考え方だ。

政治的には、共和党と民主党の間にリバタリアン党が存在するが、リバタリアン党は大統領選挙のたびに得票率を伸ばしている。
リバタリアンから見たら、保護貿易主義をふりかざし、人種差別を助長する言動などをくり返すトランプ大統領はお話にならないが、アメリカ軍の派兵に反対の立場をとるトランプの方針はリバタリアンに受け入れられている。

中国にもリバタリアニズムを研究するグループが存在するが、日本にはまだないようだという。リバタリアニズムは保守や革新にとらわれない新しい政治思想である。
この考えがGAFAの暴走を許したのは間違いないだろう。

『未来を読む』AIと格差は世界を滅ぼすか

世界の知の巨人たちが未来を語る。聞き手は国際ジャーナリスト大野和基。
近未来は、トランプと北朝鮮の動向、イギリスのブレクジット、ロシアや中国の覇権主義、難民、テロなど、問題山積である。一方、遠未来は多くの人びとにとって過酷だ。科学技術の進歩が人間に明るい未来をもたらすというのは幻想であることがわかった。

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)
ジャレド・ダイアモンド ユヴァル・ノア・ハラリ リンダ・グラットン ダニエル・コーエン ニック・ボストロム ウィリアム・J・ペリー ネル・アーヴィン・ペインター ジョーン・C・ウィリアムズ
PHP新書   2018年6月
売り上げランキング: 13,902

ジャレッド・ダイアモンド(1937年〜、進化生物学者、『銃・病原菌・鉄』)
「資源を巡り、文明の崩壊が起きる」
格差によってもたらされるのは、感染症のリスク、テロリズム、移民。それらが先進国に深刻なダメージをもたらすと予見する。
ダメージを回避するには、持続可能な経済を作れるか、世界の生活水準が一定レベルの平等を達成できるかにかかっている。

ユヴェル・ノア・ハラリ(1976年〜、歴史学者、『サピエンス全史』『ホモデウス』)
「近い将来、役立たず階級が大量発生する」
今日存在する多くの職業が30年以内に消える。
今後数10年の間に核戦争のリスク、気候変動、テクノロジーによる破壊という3つの脅威に直面する。

リンダ・グラットン(1955年〜、ロンドン・ビジネススクール教授、『LIFE SHIFT』)
「人生100年時代の到来」を予見する。生き方改革を提示する。

ニック・ボストロム(1973年〜、オクッスフォード大学教授、「人類未来研究所」所長、『スーパー・インテリジェンス』)
「AI万能時代が訪れ、働き方は根本的に変革する」
AIが人間と同等あるいはそれ以上の知能を持った時に何が起こるか。

ダニエル・コーエン(1953年〜、フランスを代表する経済学者、『経済成長という呪い』)
1870年から1970年に起きたテクノロジーは中産階級にも恩恵を広くもたらした。新しいテクノロジーの恩恵を受ける人はわずか。それは経営者や投資家。テクノロジーこそが格差を生み出す根元になっている。

ウィリアム・J・ペリー(1927年〜、クリントン政権の国防長官、『核戦争の瀬戸際で』)
北朝鮮の非核化は実現しない。偶発核戦争は起こり得る。

ジョーン・C・ウィリアムズ(カリフォルニア学労働生活法センター初代所長、『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 』)
アメリカ人の53%を占める中流階級を、「ホワイト・ワーキング・クラス」と定義する。その中産階級にいる白人が不満をもった。トランプが大統領になって、アメリカ人は社会的階級の影響についてその重要性にやっと気づいた。

ネル・アーヴィン・ペインター(プリンストン大学名誉教授、『白人の歴史』)
「アメリカは分極化の波にさらされる」
オバマが大統領になったことで、白人中間層は差別される側になったと感じた。
その考え方がトランプを大統領にした。→人気ブログランキング

『人類の未来 AI、経済、民主主義』 吉成真由美(インタビューアー)

対談に登場するのは、ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンという顔ぶれ。世界をグローバルな観点から見つめ直すための必読の書。なお吉成真由美の夫はノーベル賞受賞者の利根川進。

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)
ノーム・チョムスキー レイ・カーツワイル マーティン・ウルフ ビャルケ・インゲルス フリーマン・ダイソン
NHK出版新書  2017年4月
売り上げランキング: 3,898

【第1章 トランプ政権と民主主義のゆくえ】ノーム・チョムスキー(アメリカの哲学者、言語学者、1928年)

トランプ政権に対しての評価はただ一言、予測不能だということ。
アメリカは国内由来の理由によって後退している。鉄道網が前時代のものである。金融セクターは伸びているが、経済にとって貢献してるか疑問、おそらくほぼ有害となっているだろうという。
健康保険は非効率的で、他の先進国に比べてコストが一人当り2倍になっている。この無駄を是正することでアメリカの赤字は解決すると指摘する。

ちなみに、シンギュラリティは空想、単なるファンタジー。〈われわれは他の生物のことを考える場合は、非常に理性的だけれども、人間のこととなると突如として非理性的になる傾向がある。〉と批判する。

今や「人新世(Anthropocene)」の時代、すなわち人間が地球環境に影響を及ぼす時代。人類が地球を滅ぼす力を備えた時代である。

【第2章 シンギュラリティは本当に近いのか?】レイ・カールワイツ(アメリカの発明家、未来学者、グーグルAI部門の責任者、1948年)

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人工知能が人間の知性を超える時点をさす。
カーツワイルが最も強調するのは、「指数関数的な成長の力」である。つまり想像をはるかに超えるスピードで、情報テクノロジーの分野は進歩するということ。

カーツワイルの予測は、2030年頃には、スマートフォン程度のコンピュータ・デバイスは、血球サイズになり、血液中に入り、免疫システムを補助するようになる。医療用のナノロボットがすべての病気と老化を治療する。これらは基本的にはワクチンと同じ働きをする。などの大胆な予測をしている。
インタビューアーは、「細胞一つ、ミトコンドリア一つ光合成も再現されていない」と突っ込む。

人間はポストヒューマンと呼ばれる存在になる。では、具体的にどのようになるのか。『オリジン』(ダン・ブラウン著)に登場する未来学者カーシュは、カーツワイルと進化生物学者のドーキンスが一緒になったような人物である。カーシュの演説に具体的なポストヒューマン像が語られている。
〈「われわれは混合種になろうとしているーバイオロジーとテクノロジーの融合です。いま体外にあるツールースマートフォン、補聴器、読書用眼鏡、たいがいの医薬品ーと同じものが、50年後には体内に組み込まれ、われわれはもはやホモサピエンスとは呼べない存在になっているでしょう」〉

【第3章 グローバリゼーションと世界経済のゆくえ】マーティン・ウルフ(英国の経済ジャーナリスト、1946年)

中国はこれから5年後政治システムがどうなっているかわからない。
自由にトレードできる確信が持てなければ、交換不能通貨ということになる。これでは世界通貨としてのスタートラインにすら立てない。
ユーロはこれから5年後存続しているかわからない。米ドルは少なくとも存続している。米ドルが世界通貨としてしばらく使われるだろう。

日本の借金体質はいつまで続くのかという問いに対して、国民が負債を負う意欲がある限り続けられる。20年くらいは続くだろう。
国は破産することがあるかについては、定義によるが、破産を免れるためには領土を売却すればいいとする。
日本企業は巨大な余剰資金貯蓄庫であ。過剰債務の返済が終わったあとも、慢性的に内部留保を続けている。その割合はGDPの8〜10%という。日本の政府の課題はいかにしてこの余剰金を取り出すかということ。その手段として、内部留保を吸い上げる、法人税をあげる。

EUの通貨統合は間違いだった。通貨統合したのならもっと政治的に連携を深めるべきだ。お金と移民という問題がヨーロッパの結束を脆くし、繁栄を妨げヨーロッパ全体を弱くすることになった。
ユーロ圏では、政治的な統合なしに通貨の統合を行ったことが、民主主義を蝕む結果になっているように見える。金が民主的なチェック&バランスの規制を受けないからである。権力は欧州トロイカの執行部に集中しているのに、かれらは選挙で選ばれていないため、その決定に責任をとる必要もない。

【第4章  都市とライフスタイルのゆくえ】ビャルケ・インゲルス(デンマークの建築家、1974年)

「コペンハーゲン・ハーバー・バス」の発想は、港を海水浴できるところ変える
ゴミからエネルギーを生み出すテクノロジーはとてもクリーンなものとなってきてる。
建築は人間を感動させ、意識を変える。
制約こそクリエティビティの基である。

【第5章 気候変動モデルの懐疑論】フリーマン・ダイソン(数学者、理論物理学者、宇宙物理学者、1923年、アインシュタインの後継者と呼ばれる)

気候問題にあまりにも多くの時間と労力が使われすぎた。大気中の炭素削減のために巨額の金を使うべきではない。
気候科学は宗教の様相を呈してきている。気候変動を信じない者は、いかなる研究もできないようになってきている。(アイヴァー・ジェーバー)
科学的コミュニティのコンセンサスは変わる。1930年代、優生学が科学コミュニティのコンセンサスだった。気候変動に関しても同じ種類の疑問が持たれている。
宗教と科学については、人びとは事実を確認するより、物語を信じる傾向がある。
その他教育、いじめ、神童、について語る。→人気ブログランキング

『セブンーイレブン 黄金の法則』 吉岡秀子

今やコンビニは全国で5万5千店舗、飽和状態にあるという。
9割の店舗を、セブン・イレブン、ファミリーマート、ローソンで占めている。2016年度、セブン・イレブンは2万店舗あり、コンビニ市場の総売上の40%を越え、チェーン全店売上は約4兆3000億円、1店舗の平均売上げは66万円/日、ファミリーマートやローソンより10万円以上も多い。
創業からトップを走り続けている秘訣はなにか。過去に成功したものを人はなかなか変えることができないが、セブン・イレブンは逆である。ヒット商品こそ変えなければならないという危機感を持っているという。
ちなみに、本書の値段は、711円+税。

本書は書き手の溢れるばかりのエネルギーを感じる。それは取りも直さず、セブン・イレブンという企業の姿勢なのだと思う。

セブン-イレブン 金の法則  ヒット商品は「ど真ん中」をねらえ (朝日新書)
吉岡秀子
朝日新書  2018年1月
売り上げランキング: 48,977

まずは、商品開発担当・MD(マーチャンダイザー)の仕事の紹介している。MDの資質は次のように定義されている。好奇心、徹底力・継続力、謙虚さ、コミニュケーション力、誠実さ、責任感、リーダーシップ。これらが揃っていれば、どんな企業でも出世するだろう。
セブン・イレブンのものづくりは仮説と検証によるという。仮説を検証して前に進むという方針である。

各章は、「セブンカフェ開発による革命」「おにぎりの見直し・麺革命」「スイーツ、コスメ開発」「サンドイッチとカット野菜の鮮度」「和菓子のチルド化」「セブン・プレミアム」について、商品開発の奮闘の軌跡が綴られている。

ほぼ毎日、セブン・イレブンで買い物をする。やむおえない場合は、ファミリーマートやローソンに行くこともあるが、結局セブン・イレブンのレベルの高さを再認識することになる。→人気ブログランキング

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