芸能・アイドル

『AV女優、のち』安田理央

AV女優になるきっかけは、身を持ち崩してとか、騙されてとか、借金を返すためとか、を想像するが、信じがたいことだが、最近はAV女優に憧れて自ら志願するケースが多いという。つまり大金を稼ぐやタレントの足がかりとかが、志願の理由となる。

最初は露出が少ない精神的にストレスの少ないものから始め、やがて擬似本番に進み、徐々にエスカレートし、ついには本番にいきつくという。まずはレンタルメーカーでデビューし、その後露出の多いセルメーカーに移籍する。レンタルとセルはAVビデオの販売形式をいう。
著者が7人のAV女優にインタヴューしている。著者名から女性が書いていると思ったが、男だった。

AV女優、のち (角川新書)
AV女優、のち
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安田 理央
角川新書 2018年 ✳︎7
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登場する元AV女優は、1名を除きプロフィール写真を公開している。
7名の現在の状況は、①結婚して、女優としてテレビドラマ・映画・舞台で活躍、②介護職、③タレント・歌手、④バー経営、⑤ソープ嬢・ライター・小説も手がける、⑥AV女優現役・ヘアメイク、⑦AV監督、である。
元AV女優たちは、表向きは後悔することなく暮らしていると答えている。

ところで、本書には「恵比寿マスカッツ」という固有名詞が、ひっきりなしに出てくる。
「恵比寿マスカッツ」は、AV女優やグラビアアイドル・モデルなどの多業種のタレントで構成された女性アイドルグループで、2008年、テレビ東京の深夜番組『おねがい!マスカッツ』で結成され、2013年に活動を停止している。
以前から、AV女優たちがテレビで活躍する場があったわけで、今後は、現であろうと元であろうとAV女優が活躍する場が、もっと拡大するということだ。AV女優に対する偏見は、タトゥーに対する偏見と同じだと主張しているのが、印象に残った。

AV女優、のち/安田理央/角川新書/2018年
職業としての地下アイドル/姫乃たま/朝日新書/2017年

 

『ナンシー関の耳大全 77』武田砂鉄 編

ナンシー関の芸能評論はもはや伝説である。
かなりきつめの芸能人評には、一言一言にごもっともとうなづいてしまう。切り口は鋭く独創的で、比喩は的確、神がかっているといってもいいくらいの説得力だ。時差はあっても古さはない。それだけキモを掴んでいたということだ。
もちろん現れるはずもないのだが、未だにをナンシー関に比肩するテレビ批評家は現れていない。芸能人を誰彼かまわず俎上にあげて切りまくり、見方によっては喧嘩を売っているという意味でだ。
ナンシー関の代名詞だった消しゴム版画は多色刷りになり、プチジャンルとして確立されつつあるようだが。。

ナンシー関の耳大全77 ザ・ベスト・オブ「小耳にはさもう」1993-2002 (朝日文庫)
ナンシー関
朝日文庫
2018年8月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
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本書は『週刊朝日』に掲載されたコラム「小耳にはさもう」の450編ほどから、選りすぐりの77編を、武田砂鉄が選んだ。武田砂鉄は何者なのか? 以下wikipediaより。
〈フリーライター。……2015年4月、初の著作『紋切型社会』を上梓。同書で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2016年3月には第9回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞した。〉
巻末には、編者が本書を編むに至った経緯が、「わたしたちの大切な公文書」というタイトルで、長めに書かれている。〈半永久的な(ナンシー関の)文書の賞味期限を更に先延ばしにしたいと思った。〉というのが動機だ。

ナンシー関らしさが横溢する文章を以下にピックアップする。
1993年に、川崎麻世との不倫が発覚したときに、斉藤由貴の記者会見について書いたもの。
〈こういう言い方はどうかと思うのだが、(斉藤由貴)は「目がイッてしまっている人になっていたのである。
今回の記者会見でも、斉藤由貴は「イッた目」をしていた。何か質問をされると、斉藤由貴は視線を虚空にさまよわせたまま、どことなくポエジーな言葉つきの答えを「イッた目」のまま発するのだ。……
芝居の役を演じたときに、"人が変わる""何かが憑く""トランス状態になる"というようなことを、特に舞台役者においては「天賦の才」と尊ぶようである。……
斉藤由貴の目のイキ方はそうゆう職業病のレベルではなく、もっと大変なものだ。何つったらいいのか、自己を過剰に認識するあまりに、とでも言おうか。それは演劇部の女子高生なんかにもいるタイプである。技術がないから臭い新劇じみた表現になってしまったりするのと同じように、斉藤由貴も器量がないから目にばかりが出ちゃうんだろう。〉そして、斉藤由貴に詩を書くことを勧めてコラムは結ばれる。
このコラムの行間には、〈こいつまたやるぞ、きっと。〉というニュアンスが隠れているように思う。 →人気ブログランキング

ナンシー関の耳大全 77/武田砂鉄編/朝日文庫/2018年
語りあかそう/ナンシー関/河出書房文庫/2014年

『西城秀樹のおかげです』森 奈津子

表紙カバーの椅子に腰掛けたセーラー服の少女とその右手に持っている器具を見れば、本書の内容はおよそ想像がつく。性倒錯や同性愛をテーマに、あっけらかんとした陽気な内容のSF短編集である。第21回(2000年)日本SF大賞にノミネートされた。
著者はクィア理論の実践者だという。クィア理論とは、性的マイノリティ(LGBT)から見て、性的マジョリティの考え方が正しいかを疑ったり、歴史上、クィアがどのように扱われてきたかを分析したりする理論のことである。クィアとは「queen」のことで、「奇妙な」という意味。
本書はそのクィア理論をまさに実践する内容である。

西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫JA)
森 奈津子
ハヤカワ文庫JA
2004年

「西城秀樹のおかげです」
地球が殺人ウイルスに襲われ、残されたのは日本人の男女2人だけ。
なぜ2人だけが生き残ったのか?当時日本で流行っていた「YMCA」を歌っていたからだという。元の楽曲は米国で男性ゲイを鼓舞する歌だという。そして、2人は人類の未来を決める選択を迫られる。
「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」
地球行きシャトルの事故で亡くなった兄夫婦から、時子が受け継いだのはいくばくかの財産とアンドロイドのハンナ。10歳の遺児・絵美里を慰めるようとハンナに命ずるが、ハンナは兄夫婦に寵愛されたセクサロイドだった。
「 天国発ゴミ箱行き」
若い男は死後の世界にいる。人生プランナーが3通りの来世を男にプレゼンテーションするが、その中に、本書の著者・森奈津子の人生が含まれたという、自虐ネタ。
「悶絶!バナナワニ園!」
苦痛こそが快楽のマゾヒストの囚人の話。
「地球娘による地球外クッキング」
庭に洗面器ほどのUFOが落ちてきた。親指ほどの緑色の宇宙人の死体が2体。宇宙人をテンプラにして食べようとする。
「タタミ・マットとゲイシャ・ガール」
地球で最後の金髪の女吸血鬼が罠にはまり、電脳空間で蚊にされてしまう。蚊は山田家に忍び込み若い娘の血を吸い、もとの姿に戻ろうとする。
「テーブル物語」
天板の四角に女性器、脚に男性器が彫刻されたテーブルの物語。
「エロチカ79」
「後生だから」とは、呪縛プレイのはじまりの言葉であった。→人気ブログランキング

『キラキラネームの大研究』伊東ひとみ

本書は、現代の軽佻浮薄な風潮のひとつと捉えることのできるキラキラネームを、日本語の歴史から解き明かそうとしている。
キラキラネームから見えるのは、「漢字」が過去の歴史とのつながりを断ち切られ、イメージやフィーリングだけで捉える「感字」になりかけていることであるという。
「漢字」を「感字」にしてはならないというのが著者の主張。

キラキラネームの大研究 (新潮新書)
伊東ひとみ (Itoh Hitomi
新潮新書  2015年5月

キラキラネームは、1990年代中頃、団塊ジュニア世代の子どもたちから始まった。
団塊ジュニア世代以降(当用漢字第三世代)は、カジュアルに漢字を捉えていて、漢字の捉え方にそれ以前の世代と違いがあるという。
キラキラネームの共通項は、奔放な漢字の選択と日本語離れした音の響きゆえに他人が読めないところにある。
人に読まれたら負けという「俺様化」が「真性キラキラネーム」で、読みにくいけれどなんとかギリギリセーフ、名付けた親にはキラキラネームのつもりはないというのが「偽性キラキラネーム」である。ほとんどの親はギリギリセーフの感覚でつけているという。

キラキラネームの根底には、「国語国字問題」による世代間の断層があるという。
戦前戦中派は「国語国字問題」とともに歩んできた「当用漢字第一世代」であり、その子どもたち、特にベビーブーマーは当用漢字によって制限された漢字表記で育った「第二世代」であるとする。団塊ジュニア世代以降の「第三世代」になると、祖父母父母世代の頃まであった漢和辞典的な規範の引力が弱まったという。

1947年(昭和22年)に交付された戸籍法により「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」と定められた。これによって子供の名前には当用漢字表にある1850字しか用いられなくなった。その後、1981年に当用漢字に95字が加えられて、常用漢字(2136字)となった。
現在、名前に使える漢字は、常用漢字と名前用漢字299字(1952年に52字が定められ、その後削除されたり追加されたりしている)と決まっている。ただし読み方は定められていない。この曖昧さがキラキラネームが生まれる素地なのである。

「国語国字問題」は、文字をもたなかった日本語に、「漢字」を取り入れたことから始まった「漢字」と「やまとことば」の融合とせめぎ合いにより醸成されてきたハイブリッド言語ゆえの運命であるという。→人気ブログランキングへ

『ヘルタースケルター』

ヘルタースケルター スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]
ヘルタースケルター
posted with amazlet at 13.02.21
監督:蜷川実花
脚本:金子ありさ
原作:岡崎京子
主題歌:浜崎あゆみ「evolution」
公開:2012年 127分

原作は岡崎京子の同名のコミック。
全身に美容手術を施してトップアイドルに昇りつめたりりこ(沢尻エリカ)は、過去をひたすら隠している。
クリニックで行われた手術には、違法に入手された胎児の皮膚や筋肉が使われたため、りりこは免疫抑制剤を内服し続けなければならず、悪徳美容外科医(原田美恵子)から逃れられない運命にある。
りりこはわがままで気まぐれ、マネージャーの羽田(寺島しのぶ)に当たり散らして憂さを晴らしているが、羽田は「私がいないとりりこさんは何もできない」と信じていて、りりこに盲目的に尽している。
プロダクションの社長(桃井かおり)は、りりこの全てを知る人物。いずれりりこの体が変調をきたすことも計算に入れている。

 

2

 

美容クリニックの違法な医療行為を捜査している検事(大森南朋)は、りりこの秘密に感づいていて彼女を追い詰めていく。
やがて、ライバルの新人(水原希子)がデビューして、りりこの人気を脅かしはじめるのと期を同じくして、りりこの体にはシミが現れ、幻覚発作が起こるようになる。このあたりから、りりこの転落の運命が始まる。

 

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叫んで、笑って泣いて、きれて暴れて、セックスしてというという演技は、ゴシップがつきまとう沢尻エリカならではの迫力がある。映画のりりことマスコミに報道されてきた沢尻エリカがダブって見える。蜷川監督は、りりこ役は沢尻エリカしかいないと確信していたとのこと。
それにしても、複数の男と関係を持ち、レスビアンあり、3Pありで、いささか食傷気味になる。

 

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りりこの部屋の調度品の多くが、監督自身の家から運び込まれたものだという。監督らしいカラフルでポップなロココ調の画面が、りりこの生き様にマッチしている。

 

 

ヘルタースケルター(helter skelter)は、「狼狽」や「混乱」の意味。もともとも意味は「螺旋状の滑り台」。
ビートルズの楽曲に『Helter Skelter』(1968年)があり、日本盤では『しっちゃかめっちゃか』と訳されている。1969年にシャロン・テート事件を引き起こしたチャールズ・マンソンに多大な影響を与えた曲だという。