翻訳

『マザリング・サンデー』グレアム・スウィフト

一糸まとわぬ姿で、おれの部屋だから好きなようにさせてもらうと言わんばかりに歩く23歳のポールと、ベッドに横たわる22歳のジェーンの描写から物語は始まる。
その日は、1924年3月30日、マザリング・サンデイ、3月だというのに初夏のような陽気の日だった。著者がいうように、〈現在の「母の日」と呼んでるくだらない行事とは別物〉の、メイドたちが主人から半日の暇をもらい母のもとに帰る日のことである。
シュリンガム家の御曹司であるポールとニヴン家のメイドであるジェーンは、7年も前から、〈ありとあらゆる秘密の場所で、ありとあらゆることをする〉関係が続いている。

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)
グレアム・スウィフト/真野泰
新潮社  ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
2018年3月

2週間後に、半ば金目当ての政略結婚が控えていて、今日はこの後、婚約者と昼食を約束している。ポールはシャワーを浴びて、ワイシャツを着てズボンを履いて、車で出て行った。ポールは「きみに人生の裏道を歩かせるつもりはないから」と一度だけ耳に残る誠実な声で言ったことがあった。
ひとり残されたジェーンは裸で屋敷を探索してあれこれ感慨にふける。電話が鳴ったが、もちろん出ないで、ふたりの体液のシミのついたシーツをそのままにして館を去った。
そして事件が起こったことを知る。

ジェーンは生まれた日が定かでなく名前すらも確証が持てない孤児であった。主人のニヴン氏は、利発なジェーンの申し出に書斎の本を読むことを許可してくれた。
ジェーンはメイドの職を辞したあと、ニヴン氏の紹介で書店員になり、やがて作家となった。そしてこの日のことを何度も何度も繰り返し思い出すことになる。
〈一筋縄ではいかない〉高名な作家になったジェーン・フェアチャイルドは、70歳、80歳、90歳のときのインタヴューで記者たちの質問に答える。
しかし、あの日に起こったことはいっさい口にしない。
ジェーンは、仕事では意見を述べることができないメイドだから、細かく観察し深く考える。そうした習慣がジェーンを小説家にならしめたのだ。

文章には凝縮された表現が用いられ含蓄のある言葉が溢れているので、中編だが長編に匹敵する読後感が得られる。
また、秘密の裏道を自転車で移動するジェーンを包むイングランド南部の、ゆったりとした穏やかな自然の描写も魅力的だ。
カズオ・イシグロが本書を絶賛するのは、メイドという種族の視点から描かれた本書が、執事が主人公の『日の名残り』(ブッカー賞受賞1989年)と相通じるものがあるからだろう。

『最後の注文』でブッカー賞(1996年)を受賞したグレアム・スウィフトの最新訳本。「最良の想像的文学作品」に与えられるイギリスのホーソーンデン賞受賞作(2017年)。→人気ブログランキング

『世界のすべての七月』 ティム・オブライエン

1960年代後半のベトナム反戦運動に国が揺れる時代に、大学生活を送った若者たちは、今や50代前半になっている。ダートン・ホール大学1969年卒業生の30年目の同窓会が、2000年7月にミネアポリスにある母校の体育館で開かれている。翌日は物故者の追悼式が予定されている。実は幹事がうっかりしていて30年ではなく31年目になってしまった。アポロ11号が月に向かっている暑い7月の頃だ。
登場人物は、男3女7名、そして亡くなった男女1名ずつと、それぞれの人物に関わりのあった人たち、いわゆるベビーブーマーである。

ロバート・アルトマンの映画のような群像劇の手法で物語は進行する。つまり、複数の人物が同じ時間に別のシークエンスで行動する。時間軸は過去と現在を行ったり来たりして、卒業生たちの人生の転機となったエピソードが描かれる。形としては連作短編になっている。

世界のすべての七月 (文春文庫)
世界のすべての七月
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ティム オブライエン/村上春樹
文春文庫
2009年 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

50歳を過ぎた男女が、久しぶりの再会に心躍らせ、呑んだくれて、歌ったり踊ったり、話し込んだり大声で笑ったり泣いたりする。女同士は男との出会いや別れを打ち明けあい、境遇を嘆いたりうらやんだり、目の前で夫が溺れて死んでしまった女は涙を流して悲嘆にくれたり、あるいは離婚や再婚が話題にのぼる。かつて振られた男は未練がましくねちねちと振った女に絡んだり、ベトナム戦争で片脚を失った男がいたり、乳がんで片方の乳房をなくした女がいたりする。肥満で心臓病がいつ爆発するかわからない状況で呑んだくれ踊ろうとする男は、果たせなかった性的関係をまたしても成就できなかったり、その対象の女は相変わらず男たちに笑顔を振りまいてそこらじゅうを飛び回っている。LSDでラリった者や、あるいは隠れてセックスをするカップルを、周りは見て見ぬ振りをする。

なにしろ50歳を超えて人生の黄昏にさしかかっているのだ。若いとはいえず、さりとて年寄りともいえない卒業生たちの「いったい私たちに何が起こったんだ」みたいなことばかりをぐだぐだと言っている往生際の悪さは、同世代として共感できる。

二日酔いの男女が参列する追悼式では不規則な言動がまかりとおった。
町のバーでは、鼻に銀をつけた青白い若い男から、「60年代のめそめそしたゴミみたいな音楽」をジュークボックスでかけまくるのはやめてくれないかと苦情を言われたりした。
そして呑んだくれた2日間もいよいよ別れの時が訪れようとしている。
最後は、卒業生たちが、三三五五、車であるいはジェット機であるいは歩いて日常に戻っていく姿が、スライドショーのように描き出される。→人気ブログランキング

『ならずものがやってくる』 ジェニファー・イーガン

元パンク・ロッカーの音楽プロデューサー・ベニーと、その部下である35歳のサーシャという盗癖のある女性が登場し物語がはじまる。ふたりに関わる多くの人たちに焦点があたる12章からなっていて、すべての章に別の主人公が当てられている群像劇である。
およそ50年という時間軸のなかを行きつ戻りつしながら、ニューヨーク、サンフランシスコ、アフリカ、ナポリと舞台が変わる。そして、視点も三人称だったり、一人称だったり、あえて二人称だったりして、さらに、サーシャの娘がパワーポイントのスライドだけで書いた日記の章や、ページを上下に分けて下に長い注釈を載せた章のように実験的な試みもなされている。音楽を通して見える現代社会の人間模様が多彩な切り口で語られている。
横溢せんばかりの著者の才能が感じられる短篇集である。

ならずものがやってくる (ハヤカワepi文庫)
ジェニファー・イーガン/谷崎由依
ハヤカワepi文庫  2015年✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 462,927

べニーは、高校生の頃、モヒカン・ヘアーのパンク・ロッかーだった。その後、辣腕の音楽プロデューサーになっている。ベニーの下で働くサーシャは、盗癖があり心理治療を受けている。今は、ベニーには息子がいて、妻はベニーの浮気の気配を察知している。
17歳の頃家出してナポリにたどり着いたサーシャは、買春して泥棒して生き延びてきた。今は、外科系の医師と結婚してふたりの子供の母親として暮らしている。
若い頃ベニーの面倒をみていたルーは、いざこざを生み出し続ける種類の男であり、幾度かの結婚に失敗し、今は2度目の脳卒中を患い病床に臥している。

波乱の日々を送った者にとって、時間はならずものだという。それがタイトルの由来だ。
本書は、2011年のピューリッツアー賞を受賞している。→人気ブログランキング

『ミスター・マジェスティック』エルモア・レナード

『オンブレ』(エルモア・レナード著)の訳者解説のなかで、村上春樹が本書を勧めていた。
マジェスティックという名前は、日本語ならば三文字の漢字で表される由緒正しい公家の名前に相当するのではなかろうか。そんなマジェスティックはカリフォルニアのメロン生産者で、ガソリンを3リットルしか入れないくらい、金回りが悪い。さぞや、ショボくれたオヤジかと思いきや、ページが進むうちにそれが見込み違いだったことがわかる。ベトナム戦争も刑務所暮らしも経験している怖いもの知らずの男だ。

ミスター・マジェスティック (文春文庫)
エルモア・レナード/高見浩
文春文庫 1994年 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 492,268

メロン収穫期の農場ではメロン摘みの労働者が大勢必要である。幸い、マジェスティックは、渡り労働者のナンシーたちを雇うことができた。
マジェスティックが警察に検挙されたのは、飲んだくれの白人たちを売り込もうとする悪徳手配師コスパを銃で脅した容疑だという。拘置所には、これまでに7人を殺していて一度も有罪になったことのない黒人の殺し屋レンダがいた。

裁判所への護送途中に、マジェスティックたちを乗せたバスをレンダの手下が襲い、レンダとマジェスティックは逃走した。撃たれた保安官補のポケットから手に入れた鍵でマジェスティックは手錠を外し、手錠をつけたままのレンダを警察に引き渡そうとした。
そこへ、レンダの情婦・白人のワイリーがジャガーで現れ、マジェスティックはワイリーとレンダを銃で牽制しなから警察署に連れて行こうとしたが、逃げられてしまった。

プライドが傷ついたレンダは、手下とともにマジェスティックの命を奪おうと、家とメロン集積所を囲んでいる。警察は今度こそレンダをとらえて有罪にしようと、躍起になって遠まきに監視する。一方、迎え撃つマジェスティックはナンシーと家の中で息を潜めている。

先手の攻撃を仕掛けようと、ナンシーが運転するピックアップの荷台にマジェスティックを乗せて敷地から飛び出す。まんまとレンダたちを山岳地帯に誘い込んだマジェスティックは、レンダの手下を次々に射殺していく。鹿撃ちで山岳地帯の地形は頭の中に入っているのだ。
レンダが逃げ帰った別荘に、ピックアップで乗り付ける。そして、銃撃戦がはじまる。
カリフォルニアの陽光の中で、個性あふれる登場人物たちが躍動する極上のノワール・サスペンス。→人気ブログランキング

オンブレ/新潮文庫/2018年3月
ラブラバ/ハヤカワ・ミステリ/2017年
ラム・パンチ/角川文庫/1998年(『ジャッキー・ブラウン』DVD)
ミスター・マジェスティック/文春文庫/1994年

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『ラム・パンチ』エルモア・レナード

エルモア・レナード(1925〜2013年)は、味のある悪党を書かせたら右に出る者はいないとされる大御所。最近『ラブラバ』の新訳版(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2017年12月)が出たと思ったら、出版社は違うが、『オンブレ』の訳本(新潮文庫、2018年1月)が突然出版され、レナードのリバイバル・ブームがやってきそうな気配だ。
本書は、映画『ジャッキー・ブラウン』(クエンティン・タランティーノ監督、1998年)の原作である。タランティーノが惚れ込んだ小説というから、面白くないはずがない。カクテルの名前である「ラム・パンチ」は、フロリダからバハマ諸島あたりで「取引」のことを指す。

ラム・パンチ (角川文庫)
ラム・パンチ
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エルモア レナード/高見浩
角川文庫 1998年 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 410,526

オーディルのマシンガン・トークからはじまる。
武器売買で荒稼ぎしているあまり黒くない黒人のオーディルと、刑務所から出所したばかりの白人のルイスは、デトロイト出身ということで意気投合した。信用のおける相棒が欲しいオディールは、マックスの保釈金立替会社で、取り立ての仕事をはじめたばかりのルイスを、仲間に引き入れたいのだ。

一方、パームビーチ空港では、バハマ往復便から降りてきた三流航空会社のキャビン・アテンダント、ジャッキー・パーク44歳が颯爽と歩いていく。10歳は若く見える、スタイルも悪くない、かなりいい女だなどと言って、当局のニコレットとタイラーが、ミズ・パークを待ち構えている。ジャッキーはふたりに呼び止められ、持っていたトランクから現金5万ドルと42gのコカインが出てきた。高額な現金の運搬には届出が必要だ。オーディルが1万ドルの保釈金を出して、マックスがジャッキーをむかえに行った。

オーディルは銃を売って儲けた金を、すべてバハマのフリーポートにある貸し金庫に預けている。その金を国境を越えてアメリカに持ち込む役をジャッキーに頼んでいたのだ。それが今回はコカインが紛れ込んでいた。

ところで、オーディルには愛人が3人いて、別々の家に住まわせている。若くて料理の上手い黒人のシェロンダと、セックスの技に長けている熟年の黒人シモーヌ、グラマーな白人女のメラニーだ。

ジャッキーはマックスと組んでオーディルの金をすべていただく計画を立てた。
ジャッキーは、金の運搬は今回で最後にしようとオーディルを丸め込み、ニコレットにはオディールの武器販売の現場を押さえさせると話す。
ジャッキーのシナリオは、オーディルが当局に射殺されることである。そうなればジャッキーとマックスは金の行方についてしらを切り通すことができるのだ。
そして、ジャッキーとマックスの一世一代の芝居がはじまる。

用意周到そうだけれど詰めが甘いオーディル、ムショ暮らしで頭が回らなくなったルイス、手柄を立てようと功を焦りジャッキーに出し抜かれてしまう若いニコレットとタイラー、妻と別れジャッキーに心寄せるマックス、画廊を経営するマックスの妻ルネー、オーディルの3人の女たち、そして冷静沈着で魅力いっぱいのジャッキー。南国フロリダを舞台に個性豊かな面々が繰り広げる極上のクライムサスペンスだ。→人気ブログランキング

オンブレ/新潮文庫/2018年3月
ラブラバ/ハヤカワ・ミステリ/2017年
ラム・パンチ/角川文庫/1998年(『ジャッキー・ブラウン』DVD)
ミスター・マジェスティック/文春文庫/1994年

『書店主フィクリーの物語』ガブリエル・セヴィン

1ページに1冊くらいの割合で本について触れられている。主人公のセリフだったり、比喩に使われたり、本書の中の書店での売れ筋の本だったり、怪獣のことだったり、子供用の本だったり、ともかく本が多く登場する。書店員が選ぶ本屋大賞を受賞するにふさわしい本だ。

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)
ガブリエル ゼヴィン/小尾芙佐 訳 
ハヤカワepi文庫
2017年12月 ****
売り上げランキング: 27,647

島に1軒しかない本屋の店主A・J フィクリーは偏屈な男やもめである。1年半前に妻を交通事故で亡くした。
そんなA・Jに、稀覯本が盗まれる事件と、マヤという2歳の赤ん坊が書店に置き去りにされる事件が起こった。翌日海岸に黒人女性の死体が打ち上げられ、IDカードからマヤの母親と判明した。自殺と断定された。
稀覯本の盗難は警察に届け、手続き上困難なこともあったが、マヤはA・Jが育てることになった。

マヤは人懐っこくって利発。マヤを見に島の人が本屋を訪れ、訪れる口実に本を買う。マヤのおかげで店は繁盛し、さらに、A・Jは本の営業で店をしばしば訪れていたアメリアと結婚にこぎつけた。警察署長のように、それまであまり本を読まなかった人が、本を読むようになった。

やがて、マヤの母親が自殺した理由や父親の正体が明らかになる。
それとは関係なく、マヤはすくすくと育っていく。郡の短編小説コンテストで、20の高校から40の作品が集まり、マヤの作品は上位3編に選ばれた。
母親の望みどおり本好きの少女に育ったのだ。

電子書籍の普及による本屋存続の危機という出版界が抱える問題にも、さりげなく触れている。
クリスマスにA・Jの母親がアリゾナから遊びに来て、3人にプレゼントを渡す。電子図書リーダーだった。A・Jはたちどころに不機嫌になる。アメリアは、母親に感謝の言葉をかけ、A・Jの立腹をなだめ、ふたりの間をとりなそうとする。

物語はハッピーエンドでは終わらない。
やがて、A・Jの持病である、気を失う回数が多くなって、言葉を間違うようになった。島の医者は本土の専門医に、A・Jを紹介した。A・Jの手術にはかなりの金がかかるのだった。
悲しい出来事もユーモアを交えて淡々と描いていて、落ち着いたストーリーになっている。→人気ブログランキング

『オンブレ』エルモア・レナード

「オンブレ」のほか、「三時十分発ユマ行き」が収録されている。
「オンブレ」は、危機に瀕した登場人物たちの切羽詰まった様子が「私」の目を通して淡々と描かれている。舞台は乾燥しきった灼熱の荒野。もちろん西部劇の見所である銃撃戦も堪能できる。傑作だ。
村上春樹の「掘り出し物を翻訳したぞ、どうだ」というニュアンスの長い解説つき。

オンブレ (新潮文庫)
オンブレ
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エルモア・レナード/村上春樹訳
新潮文庫 2018年2月 ✴✳✳✳✳
売り上げランキング: 5,120

「オンブレ」
鉄道の発達で、駅馬車の路線が廃止される状況の中での話。
駅馬車に乗り合わせるのは、まずは、ジョン・ラッセル、別名「オンブレ」、メキシコ人だ。
3/4は白人の血が入っていて、あとはメキシコ人の血、目は青い。6歳から12歳までアパッチと一緒に暮らしていた。その後ラッセル氏と暮らし、学校に通った。
かつて、第3騎兵隊の補給ラバ隊と行動を共にしたラッセルは、アパッチに襲われたが、3人分の働きをしてアパッチを撃退したという武勇伝の持ち主。そして「オンブレ(男)」と呼ばれるようになった。
次は、アパッチに連れ去られて1か月以上アパッチと暮らしていた美しく芯の強い17歳の白人娘マクラレン。好奇心の的になる存在だ。
あとは、ドクター夫妻、除隊兵、御者メンデスと助手の「私」アレンの計6人。
ドクターといっても医学を極めたわけではない。いわばインディアン管理官、神学博士だという。金儲けのために聖職についた男だ。政府からだまし取った巨額の金を持参している。妻は夫より15歳ほど若く30歳ぐらい。ふたりの関係は冷え切っているようだ。強盗が狙うのはドクターの金だ。

出発直前に、無頼漢のブレデンが現れ、除隊兵に席を譲れと迫る。アレンがメンデスを呼んでこようとすると、ブレデンは2人の問題だから、他人が割り込むなという。結局、除隊兵はブレデンに脅され駅馬車から降りた。
こんなメンバーだから、何が起こっても不思議ではない。
そして近道をしたばっかりに、がけ崩れで道をふさがれたところで立ち往生してしまい、強盗に襲われる。

「三時十分発ユマ行き」
囚人の仲間が見守る中、保安官補佐がひとりで囚人をホテルから連行し、街中を通り、駅にたどり着くまでを描く。
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オンブレ/新潮文庫/2018年3月
ラブラバ/ハヤカワ・ミステリ/2017年
ラム・パンチ/角川文庫/1998年(『ジャッキー・ブラウン』DVD)
ミスター・マジェスティック/文春文庫/1994年

『その犬の歩むところ』ボストン・テラン

犬は主人のピンチに身を呈して助けようとする忠誠心がある。物語は犬の鑑ともいうべきギヴとともに、アメリカを縦横に旅する。犬の視点は抑え気味にして、ギヴにかかわる人びとを描くことで、ギヴの愛らしさや善意や忠誠心が描き出されている。

アンナは交通事故に遭い脳が損傷され嗅覚が過敏になってしまった(カリフォルニア)。
ある雨の夜に老犬がアンナのモーテルに現れた、首輪から名前はギヴとわかった。アンナは生まれてきたギヴの息子にもギヴと名付けた。

その犬の歩むところ (文春文庫)
その犬の歩むところ
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ボストン テラン/田口俊樹 訳
文春文庫 2017年6月 ✴✳✳✳
売り上げランキング: 28,684

モーテルにタトゥーだらけの兄弟が訪れた。ハードロッカーの兄弟は父親から盗みを教えられていた。そして兄はギヴを盗んだ。

タトゥー・アーティストのルーシーは、弟のイアンと意気投合し、ニューオリンズで一緒に生活をすることにした(ダラス)。ルーシーはギヴを連れて車でニューオリンズに向かい、ミズ・エルの家で暮らし始めたが、後から来るはずのイアンは行方不明となった。
ハリケーン・カトリーヌがニューオリンズを襲ったとき、ギヴはルーシーを助けよう身を呈したが、ルーシーは洪水に流され命を落とした。

イラクで片方の腎臓を失ったディーンは、シルバー・スター(銀星賞)を授与された戦争ヒーローであった。
ディーンがケンタッキーの暗闇を車で走っていると突然ギヴが現れた。
どのような3年間を送ったか不明でだが、プラスチックの檻から脱出したばかりのギヴは瀕死の状態であった。ギヴにはマイクロチップが埋め込まれていて、住所はニューオリンズ、名前はギヴ、飼い主はルーシーと判明した。

ディーンはニューオリンズに向かった。ミズ・エルの家に近づくと、ギヴは車から飛び降りて、カトリーナの爪痕が残る家に突進した。
ミズ・エルの息子で警察官のレイファーからギヴの過去を聞かされ、ディーンはギヴに関わった人物に会って、本を書くことを決意する。
イアンは兄に殺されたのではないかとレイファーはいう。ディーンはオクラホマ刑務所にいる兄に面会した。

ディーンは、退役軍人たちのトレーラーハウスが集合しているカリフォルニアのキャンピング・カー・パークに向かった。イラクで亡くなった仲間の兵士の父親に逢うためだ。ディーンはイラク戦争の英雄として歓待を受けた。
その公園で火事が起こり、軍人の体の不自由な息子が巻き込まれ、収拾がつかなくなった。
テレビで火事に立ちむかうディーンとギヴのことを知ったアンナは駆けつけた。ギヴは行方が分からなくなっていた。ここでアンナの異常なほど過敏な嗅覚が頼りになる。
そして、物語は大団円にむかう。→人気ブログランキング

『神秘大通り 上下』ジョン・アーヴィング

メキシコ・オアハカでの少年時代、アイオワシティでの高校生から小説家として大成するまで、そして雪のケネディ空港から香港を経由してフィリピンに行き繰り広げられる現在のこと、これらの3つのシチュエーションが、シームレスに幾度も変わりながら語られる。
主人公の半生がマイノリティに対する優しい視点で描かれている。

フワン・ディエゴは友人の女医からベータ遮断薬とバイアグラを処方されていて、ベータ遮断剤を飲むか飲まないか、あるいは半錠を飲むか2錠かは、彼の行動と精神状態に深く関わると思っている。

彼はメキシコのオアハカのゴミ捨て場で育った。教育を受けたことがなかったが、ゴミの山から本を見付け出しては片っ端から読み漁り、スペイン語はもちろん英語も読み書きし話すことができる。
妹のルペは声帯に異常があり、話す内容を理解できるのは兄だけである。人の心を読むことができて、未来が見える。母親はイエズス会教会の掃除婦であり、夜は娼婦として働いている。3人はイエズス会教会の一室を住居として与えられている。
アイオワからやってきたイエズス会の神学生が兄妹と深く関わり合いをもつようになる。
14歳のときにトラックに脚を轢かれ、フワン・ディエゴは足を引きずるようになった。

神秘大通り(上)
神秘大通り(上)
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ジョン・アーヴィング
小竹由美子訳
新潮社 2017年7月

フワン・ディエゴはアイオワンの宣教師と男娼の夫婦の養子になり、大学町のアイオワシティに移り住んだ。高校では母親が女でないという理由でいじめの洗礼を受けた。
そこから話は飛んで、フワン・ディエゴは名の通った小説家になり、有名作家を多く輩出した創作クラスで教える立場になった。彼はその後の人生の大半を、アイオワシティでひとりで暮らしてきた。

フワン・ディエゴがフィリピンに滞在する目的は、ルペの片思い男、アメリカ人徴兵忌避者のたっての願いを実行するためだった。太平洋戦争で戦死したその男の父親の墓に墓参することを約束したのだ。
フィリピンで小説家として成功した、創作クラスの教え子が、親戚総出で鬱陶しいくらい大々的にフワン・ディエゴを歓待してくれる。彼は行く先々で出没する謎の母娘と、バイアグラの力を借りて性的関係をもってしまうが、母娘とのことが夢なのか現なのかはっきりしない。

フワン・ディエゴは、繰り返し過去に引き戻されてしまうことを不思議に思うようになり、深い眠りに襲われるようになる。→人気ブログランキング

『パット・ホビー物語』F.スコット.フィッツジェラルド

「ロスト・ジェネレーションの旗手」、あるいは、「ジャズ・エイジの象徴」と呼ばれたF.スコット.フィッツジェラルド(1896〜1940年)の最晩年の作品。1940〜42年に雑誌『エスクァイア』に連載された連作短篇。

トーキー時代に引っ張りだこの脚本家だった49歳のパット・ホビーは、ここ5年間は仕事が少なくなるばかりだ。パットは、企画書もまともに読まないくらいでいい加減で通してきた。自分には、まだそれなりの力があるかのような態度を、ことあるたびにとるが、ほとんどの場合無視される。金の無心をしなければならないほど素寒貧である。いつもジンかウィスキーのパイント瓶を尻ポケットに忍ばせてアルコール臭い。
落ち目のパット・ホビーがヘマをしでかす話がオチがついて並んでいる。
本書に収録されている短篇は、ほとんどが本邦初訳だという。

主人公と同じように、1920年代に名声をほしいままにした著者だが、本作品の執筆の頃は、妻エルダは精神病院に収容され、自身はアルコールに蝕まれどん底の状況にあった。著者はパット・ホビーに自身をダブらせていたのだろう。

パット・ホビー物語
パット・ホビー物語
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F.スコット・フィッツジェラルド
風濤社 (2016
2016年12月

「パット・ホビーのクリスマスイブ」第1話
パットはクリスマスイブだというのに重役に命じられた仕事をしている。新任秘書のヘレンから重役の弱みを握っていると聞かされた。パットは重役をゆすってプロジューサーにしてもらおうと企てるが。。

「パット・ホビーとオーソン・ウェルズ」第5話
撮影所には入構書がなければ出入りできなくなった。警備員に屁理屈を並べてなんとか入ろうとするパットだが、警備員は「たとえオーソン・ウェルズだとおたくが言ったとしても入れるわけにはいかない」と返す。
パットは、映画界の重鎮の車に乗り込み、入構書の発行をお願いする。しぶとく食い下がるパットに、重鎮は新顔のオーソン・ウェルズと会うことになっていると言って、面倒臭そうに名刺入れに手を伸ばした。
金を無心した相手に強要されて、パットはオーソン・ウェルズに変装させられた。急に心臓発作で倒れた重鎮をパットが乗っている車で病院に運ぶことになった。パットは変装がばれてはまずいと、バーに駆け込みカウンターの髭面のエキストラたちに紛れ込んだ。

「パット・ホビーの学生時代」第17話
秘書はパットに机の中のものの廃棄を命じられ、袋に詰めて車で捨てる場所を探していた。大学を舞台とした映画を作ることになって、パットはアイデアを探りに大学を訪れた。教授会の席でとっさに浮かんだ学生の窃盗事件のストーリーを語った。そこに捨てる場所が見つからなかったと、秘書が袋に入った大量の空の酒瓶を持って現れた。→人気ブログランキング

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