翻訳

ボビーZの気怠く優雅な人生 ドン・ウィンズロウ

ティムは自制心のなさで、盗んでは捕まり、出所すればまた盗みを働き捕まるという体たらくだった。判事はティムを海兵隊に入れて鍛え直すのが得策だと考えた。そしてサダム・フセインのクウェート侵攻で、サウジアラビアに送り込まれた。そんなティムだが、判事の当ては外れた。アメリカに舞い戻ってきて、再び盗みを働いて捕まったのである。
ティムは、刑務所でかっとなってヘルズエンジェルのメンバーの喉をかき切って殺してしまい、ヘルズエンジェルに命をねらわれる身となった。そんなおり、伝説のサーファー、ボビーZに似ていることで、ボビーZになり切ることを条件に釈放された。
808975e922bf4152ba220052962aa067 ボビーZの気怠く優雅な人生
ドン・ウィンズロウ/東江一紀
角川文庫
1999年

一方、カリフォルニアのラグーナビーチで育ったロバート・ジェームス・ザカリア(別名ボビーZ)は、高校2年のときから一目置かれるサーファーであり、麻薬の元締めであった。ボビーZは高級マリファナしか扱わない。ボビーZは大金を残してタイで心臓発作で死んだという。

当局の企みは、麻薬王ドン・ウェルテーロに捕らえられた麻薬捜査官と、偽のボビーZを交換しようというもの。取引の日、相手が発砲して国境一帯が滅茶苦茶になって サファリパ-ク化した。そして、ティムは砂漠に建てられた城の、どでかいベッドで目を覚ますことになる。女が朝食はどうか訊ねると、ボビーZが菜食主義者だったことを思い出す。

城の持ち主の、だぼだぼに肥ったゲイのブライアンは、ドン・ウェルテーロの手下である。ウェルテーロがアメリカ南部一帯にメタ(アンフェタミン)の製造工場を建て、ブライアントが人員を供給し、ボビーZにはマーケットを提供してもらうという。
ティムは子供の前で女をナンパするドイツ男を、プールに顔の色が悪くなるまで沈めた。
ティムは一度頭に血が昇ると収拾がつかなくなる。刑務所のカウンセラーに指摘されたことを思い出す。
エリザベスが、その子ども・キットは、エリザベスの友人のオリヴィアとボビーZの子どもだという。僧侶(ザ・モンク)と呼ばれる男が、ボビーZの信頼のおける部下であり金庫番であることがエリザベスの話からわかった。

ウェルテーロがボビーZを捕まえようとする理由は、ウェルテーロのタイ産の麻薬の代金300万ドルを、ザ・モンクがちょまかしたのだ。ティムは、ウェルテーロがボビーZを生かしておかないということを知って、砂漠の城からトラックをかっぱらって6歳のキットを連れて城から脱出した。

ボビーZの命を狙う人物がもうひとりいる。東ロサンゼルスの顔役ルイス・エスコバールだ。兄のホルヘを殺したのは、ボビーZが手を回したからだと吹き込まれていた。

一方、ボビーZの味方も動き出す。伝説の語り部アル中のワンウェイは、精神病院に出たり入ったりだが、ボビーZが帰還したと大声で喚いている。さらに、ボビーZの金庫番のザ・モンクも動き出す。

ティムの命を狙うのはヘルズエンジェルとエスコバールの手下、そしてウェルテーロは生捕にせよという命令を出している。ティムはウェルテーロに300万ドルを返して誤解を解くことにした。ティムはエリザベスとキットを連れて奮闘する。→人気ブログランキング

壊れた世界の者たち/ハーパーブックス/2020年
ボビーZの気怠く優雅な人生/角川文庫/1999年
ストリート・キッズ/創元推理文庫/1993年

大聖堂 レイモンド・カーヴァー

訳者は、巻末に「解題」というタイトルで、各短編のあらすじと解説を書いている。レイモンド・カーヴァーという作家を掘り出して、日本に紹介するのだからという意気込みで。。
カーヴァーが描くのは、決して着実な人生を送っている人々ではない。虐げられた人々だ。カーヴァーはちゃんとしたくても、ちゃんとできない人の苦悩を描いている。
本書は全米批評家協会賞およびピューリッツアー賞候補となった。訳者は「大聖堂」が大傑作とするが、「熱」も劣らず傑作である。
Be30496f95b940d2a084b61c5934fcad大聖堂
レイモンド・カーヴァー/村上春樹
中央公論新社
2007年

「熱」
妻のアイリーンが同僚の教師と駆け落ちした。途方に暮れたカーライルは幼いに2人の子どもを抱え奮闘した。ベビーシッターの当たりが悪くさんざんな目にあった。夏休み中は子どもの面倒をみることで手がいっぱいだった。3か月経って、アイリーンが電話をかけてきた。スピリチュアルな言葉を口にし、駆け落ち相手の男の母親ミセス・ウェブスターをベビーシッターに雇ってはどうかという。翌朝、カーライルが勤めに出る前に、ミセス・ウェブスターが現れた。ミセス・フェブスターは家事も子どもたちの面倒も完璧にこなした。カーライルは気持ちが落ち着き授業に身が入るようになった。
この後カーライルは高熱を出す。ミセス・ウェブスターの看病のおかげでカーライルは回復する。
ところが、ウェブスター夫妻は引っ越さなければならないことになった。止むに止まれぬ事情に、カーライルは納得せざるを得なかった。

「羽根」
夫婦は夫の同僚の家に招待された。クジャクがいて赤ん坊がいた。赤ん坊はひどく不細工で、食事が終わると臭いクジャクを家の中に入れることになった。帰りにクジャクの羽根を何本かもらった。その後、夫婦は同僚の家を訪れていない。

「シェフの家」
夏、アル中だった夫が戻ってきてくれという。夫はシェフの家に住んでいた。マス釣りをしたりして夏を過ごした。シェフの娘と子どもが帰ってきて住むから、出て行ってくれという。夫の計画は台無しになった。

「保存されたもの」
サンディーの夫は解雇されたあと、ソファーで過ごすようになった。
そんなとき冷蔵庫が壊れた。サンディーは競売で冷蔵庫を手に入れようと思い立ち、新聞の広告を夫と2人で目を通した。その夜の7時から近くで納屋競売があることがわかった。サンディーは父と競売に行ったことを思い出していた。あわてて調理したポークチョップを食べようとテーブルに着こうとしたとき、テーブルから水が滴り落ちていた。

「コンパートメント」
マイヤーズはフランスのストラスバーグの大学にいる息子に会いに行く。息子と暴力沙汰になり、そのことが妻との離婚に拍車をかけたとマイヤーズは思っている。マイヤーズがいるコンパートメントに男が乗ってきて、何を話しているかわからなかった。男は眠った。用を足しにトイレに行って帰ってくると、コートのポケットに入れておいた息子への土産の時計がなくなった。男かそれとも誰かが入ってきて盗んでいったのか。躊躇していると、男は停車した駅で降りた。こんなコンパートメントにはいたくないとコートを着て列車の端に行った。帰ってくるとコンパートメントが見つからない。停まっている間に切り離されたのかもしれない。小柄で浅黒い肌の人たちでほぼ満員のコンパートメントの男が、マイヤーズに入れと手招きする。男たちは席を開けてくれた。マイヤーズはそこに座った。ストラスバーグに向かっていないかもしれないと思いながら、眠りに落ちた。

「ささやかだけれど、役に立つこと」
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、一時夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。パン屋から電話がくる。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ビタミン」
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて、金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄った。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「注意深く」
アル中から脱却しようと、ロイドはひとり暮らしできる住まいに移った。朝食にドーナッツを食べシャンペンを飲んだ。2週間経って11時頃妻が訪ねてきた。朝から耳の穴が耳垢が詰まって気になっていた。妻がハンドバックから出てきた爪切りをふたつに分解して、ナイフのような部分にティッシュを巻きつけて、耳垢をとろうした。トイレに行かせてくれと頼んで、便器の後ろに隠したシャンパンを飲んだ。妻は大家からサラダオイルをもらうという。妻は大家からベビーオイルを借りてきた。それを温めて、横に寝転んで耳の穴にベビーオイルを入れて十分経って、耳からオイルが出てきてそれをタオルで押さえていた。聞こえるようになった。
妻は帰っていった。シャンパンを抜いて、反対の耳が耳垢で詰まるのではないかという不安に襲われた。ベビーオイルを入れたコップを洗いシャンパンを注ぎ、飲むと脂っぽかった。表面に油が浮いていた。それを捨てて、瓶に口をつけて飲んだ。大して異様なことと思われなかった。窓の外を覗くと、光線の角度から3時ごろだろうと見当をつけた。

「ぼくが電話をかけている場所」
フランク・マーティン・アルコール中毒療養所に入って、JPと近しくなった。
JPは取り止めもなく話し続けている。煙突掃除のロキシーが好きになり、ロキシーと結婚し掃除一家の一員となった。子どもが生まれて、望み通りだったが、酒の量が増えていった。ビールがジントニックになった。水筒にウォッカを詰めて仕事に出た。
大晦日に妻に電話したが誰も出なかった。ガールフレンドに電話をかけようとして途中でやめた。悪態をつく男の子との間に何か悪いことが起こってるのは聞きたくないと思った。
元旦になると、JPの妻が面会にやってきた。2人は仲がいい。JPがロキシーと初めて会ったとき、JPがロキシーに頼んだように、わたしはロキシーにキスをしてくれないかと頼んだ。ロキシーは快くやってくれた。
わたしは電話をしようと小銭をポケットから引っ張り出した。まずガールフレンドに電話しよう。

「列車」
夜遅くミス・デントは無人の駅舎にたどり着いた。這いつくばった男の頭に銃を突きつけたばかりだった。そこから逃げるように駅舎に向かったのだ。やがて靴を履いていない白髪の老人と厚化粧の女が駅舎に入ってきた。女は不満をぶつけている。老人は煙草を取り出したがマッチが見つからず、ミス・デントに目を向けたがミス・デントは首を横に振った。女が話しかけてきたので、ミス・デントは銃を持っていることから話を始めようかと思った。そこに列車がやってきた。数人の客は、乗り込んでくる3人に目をやった。老人と女は並んで座り、ミス・デントはその後方の席に座った。そして列車は走り出した。

「轡」
アパートと美容院をやっている私のところへ、一家4人がミネソタから引っ越してきた。農家だったという。夫はどこかに勤め妻は近くのレストランに勤めた。美容院にやってきて、農業をやめなければならなかった理由を話す。それは夫が馬を飼い、競馬レースに手を出したからだという。
数ヶ月して一家がアパートから出て行った。部屋には馬具が残されていた。
馬具は否応なく家族を自分の思う方向に向かせるという。

「大聖堂」
妻の古い友人の男が家に泊まる。男は盲人だ。妻が酔い潰れてしまい、不貞腐れている夫と盲人はテレビを前にしている。TVは大聖堂を映し出している。夫は盲人に大聖堂がどんな形をしているか、説明する。そしてふたりで、大聖堂の絵を描き始めるのだった。→人気ブログランキング

/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

月と六ペンス

本作品はゴーギャンの生涯を参考にしているが、ゴーギャンそのものではない。ゴーギャンを忘れて読んだほうがいいと、訳者があとがきで述べている。
Photo_20200812082301 月と6ペンス
サマセット・モーム/ 金原瑞人 訳
新潮文庫
2014年

若手の小説家が、今や天才画家と評価されるチャールズ・ストリックランドについて、本人に会って知り得たことや人づてに聞き及んだことをもとに、その半生を描いたという仕立て。

懇意にしている女流小説家に、ストリックランド夫人を紹介された。作家たちを招いてのパーティを開くことが多い夫人は、わたしの小説のファンだという。

夫のストリックランドは証券取引会社の仲買人をしていた。彼は奥さんと子供をおいて家を出ていった。結婚して17年だった。
夫人はわたしにパリに行って夫を取り戻して欲しいという。
ストリックランドには、一緒にいると噂された女性はおらず、家族を捨てたのは絵を描くためだけだという。妻子のことなど知ったことかと切り捨てた。そのことを夫人に伝えると悲しんだが、やがて夫人はタイピストの仕事で自立した。

それから5年経って、わたしはパリに住むことにした。以前、ローマで知り合った画家のストルーヴェにストリックランドのアパートに案内してもらった。をたずね、ストリックランドは相変わらず貧乏暮らしをして、絵を描いていた。ストルーヴェはストリックランドは天才だという。
ストリットランドがクリスマスを前にして病気になった。
ストルーヴェは自分の家で看病すると宣言したが、妻のブランチが強く反対した。なんとか妻を説得して、家に連れてきた。病気が治るまでに6週間かかった。

あれほどストリットランドを嫌っていたブランチが、彼と一緒に暮らすと家を出て行った。ところがストリットランドに愛情を受け入れてもらえないことで、ブランチは服毒自殺してしまう。ストルーヴは、ストリットランドが描いた妻の裸婦像を目にし、逆上した。しかし、その出来栄えはまごうかたなく本物だった。

ストリットランドと最後にあってから15年がすぎ、彼が死んでから9年も経っていた。ここからはタヒチで聞いた話だ。

ストリックランドは各地を転々としたあとに、タヒチにたどり着いた。タヒチの人にとって彼はいつも金に困っている港の労働者だった。
ホテルの女主人は、彼にアタという妻を斡旋した。ストリックランドは人里離れた奥地で暮らし、創作活動に励んだという。
ストリックランドはハンセン病に感染し、最期は医師のクートラが見届けた。彼の遺作は遺言によって燃やされたという。わたしは、クートラ医師の所有するストリックランドの果物の絵を見て恐ろしさを感じた。

ロンドンに帰ったわたしはストリックランド夫人に再会し、タヒチでのストリックランドのことを夫人とその息子に話した。アタとの息子の話は省略したが、その他すべてを伝えた。
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高校の英語の副読本にサマセット・モームの作品が使われたことがあった。レストランで支払いするときに、照明が暗く、紙に書かれた数字が見えるか見えないかであると書かれていた。爪の形についても触れられていた。そのふたつの場面が、頭に残っている。副読本は『月と六ペンス』から採用したと思っていたが、本書にそのような場面はなかった。『人間の絆』だったろうか。

月と6ペンス/サマセット・モーム/金原瑞人/新潮文庫/2014年
ジゴロとジゴレット/サマセット・モーム/金原瑞人/新潮文庫/2015年

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

1969年、海辺に立つ櫓からチェイスが転落死した。チェイスは村一番の美人と結婚したばかりだった。チェイスの死と湿地に住むカイアの成長の話が、時間を行きつ戻りつしながら語られる。
著者は動物学と動物行動学の博士号をもつ動物学者である。69歳のときに本書を書き上げた。本書は、湿地帯の地形や気候そこに生息する生物の生態を背景に、差別問題、少女の成長の物語、恋愛小説、フーダニットのミステリと多彩な要素をもっている。2019年にアメリカで一番売れた本だという。

カイアはノースカロライナの湿地帯バークリー・コーヴにひとりで暮らしている。家族に暴力を振るう飲んだくれの夫に耐えかねて母親が家を出ていき、姉と兄が出ていった。相変わらず父親は不機嫌で、カイアは父親の顔色をうかがいながら生活している。父親の機嫌のいいときに、ボートの操り方を教えてもらった。そして父親も家に帰ってこなくなった。

Photo_20200801120201 ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ/友廣 純
早川書房
2020年 

村の人びとは、カイアを「湿地の少女」と呼び、嘲りあるいは怖がり、差別した。カイアは1日だけ学校に通ったが、そのあと無断欠席補導員がくると姿を隠すようになった。

カイアはボートを器用に操り、魚を獲って燻製にして、黒人のジャンピンに売って金を手にした。カイアは、ジャンピン妻メイべルから畑で野菜を育てる方法を訊き、種をもらった。メイベルが服や食べ物など生活に必要なの物を用意してくれた。

カイアは漁師の息子であり兄の親友であったテイトと親しくなり、読み書きを教えてもらう。聡明なカイアはテイトが持ってくる本を読み、知識を身につけていった。もともとカイアは貝殻を集めたり、鳥の羽を集めたりするのが好きだった。カモメに餌をやり、生物の生態を観察し、自然の法則を理解していった。
時には隣町の図書館に出向き、テイトが紹介してくれた生物学の専門書を読むこともあった。カイアの味方はテイトとジャンピンとメイベル、それと湿地の生物たちだった。

湿地の研究をする生物学者になる目的で、テイトはノースカロライナ大学に入学し町を離れた。約束した翌年の7月4日に、テイトは現れなかった。カイアは絶望しケイトに捨てられたと思った。
そんなカイアにチェイスは近づき、なんとかものにしようとした。結婚を餌にカイアを騙したのだ。

湿地帯の近くに連邦政府の研究所が建設され、大学を卒業したテイトはそこの常勤の科学員として雇われた。カイアとチェイスのやりとりを見て、テイトは身を引くことにした。

カイアはテイトの勧めで、バークリー・コーヴの湿地帯に生息する貝の生態に関する本を書いた。本は好評を博した。カイアは出版社の要請で、グリーンヴィルにバスで出かけ、担当者と次に出版する本の打ち合わせをすることになった。
カイアがグリーンヴィルのモーテルに一泊した夜に、チェイスが転落死したのだった。

警察はカイアを第1級殺人の容疑者として拘束し、検察側は状況証拠だけでカイアの犯行と断定するのだった。バークリー・コーヴの住民である陪審人たちは、カイアにどのような判決を下すのか。

「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く生き物たちが自然のままの姿で生きているところという意味である。→人気ブログランキング

ジゴロとジゴレット サマセット・モーム

モームは通俗小説家というレッテルが貼られている。あえてそう呼ばれる作家はモーム以外にそうはいないだろう。通俗小説は、日本でいえば純文学、つまり哲学的な要素をもつ小説より下に見られがちである。最近はそういう考え方が少数派になってきているが、モームが活躍した20世紀前半は、その傾向が強かった。モームは、人間の深層心理を難しい言い回しを使わずにさらりと書いてしまう、その筆さばきに驚くばかりだ。
モームの人物をたたみかけるように表現する。まるでそこに人物がいるようだ。「マウントドラーゴ卿」で、卿を診察する医師について、その見た目を書いている。死神のようではあるが信頼がおける医師が、今まさに診察しようとする姿が浮かんでくる。
ストーリーは二転三転し、思わぬ結末に到達する。まさに通俗作家と呼ばれるにふさわしい。本書はぶっ飛ぶくらい面白い。

Image_20200704112201 ジゴロとジゴレット
サマセット・モーム/金原瑞人
新潮文庫
2015年 10✳︎

「アンティーブの三人の太った女」The Three Fat Women of Antibes
未婚と寡婦と独身の三人の女はアンティーブで痩せようと努力をしているが、経過は思わしくなかった。そこに寡婦となったリサが加わった。リサはブリッジがうまく決してゲームに貪欲ではないという、三人の女の条件をクリアした。ところが、リサはいくら食べても太らない体質で、バター、生クリーム、フライドポテト、フォアグラ、シャンペンと、三人の前で遠慮することなく食べる。しかもブリッジが強い。ついに、三人はやけ食いに走るのだった。

「征服されざる者」The Unconquered
アネットは道を聞きにきたドイツ軍人のハンスに犯され身籠ってしまう。3か月後、ハンスは絹の靴下を買ってアネットの家を訪れたが、アネットに罵られた。ハンスはチーズと豚肉を持って再び訪れる。父母はハンスを信頼し、ハンスは父母に歓待されるようになる。ハンスはアネットが身ごもったことを知ると、旗色が変わり、アネットを思慕するようになる。アネットはハンスを拒否し続ける。

「キジバトのような声」The Voice of The Turtle
新人小説家と会う羽目になった。無礼で、自己主張が強く、仲間の作家を軽蔑していた。社交辞令でリヴィエラの別荘に誘ったところ、実際にやってきた。イギリスを離れるのは初めてだという。プリマドンナの恋物語を書きたいという。そこで、プリマドンナとの晩餐をセッティングした。出来上がった本を読んでプリマドンナが怒る。罵詈雑言を口にするが目は怒ってない。

「マウントドラーゴ卿」Lord Mountdrago
精神科のオードリン医師には、噂が噂を呼び治療費が高いにもかかわらず、患者が押しよせるようになった。
保守党のマウントドラーゴ卿は40歳前に外務大臣になり3年が経っている。欠点は家柄の伯爵位を鼻にかけることだった。
マウントドラーゴ卿は、公式のパーティでズボンを履いていなかった夢を見たという。翌日、下院のロビーで労働党のグリフィス議員が卿の下半身に目をやり笑ったのだという。次の夢は、議場で演説を始めると、舌を出して歌を歌うグリフィス議員がいたという。
医師は、一連の夢はマウントドラーゴ卿がグリフィス議員を莫迦にし続けたことが原因であるとし、グリフィス議員に謝罪するようにいう。それはできないとマウントドラーゴ卿は医師の要求を突っぱねた。

「良心の問題」A Man with a Conscience
流刑地の中心、フランス領ギニアのサン・ローラン・デュ・マロニは美しい町だ。ここに送られる受刑者のうち2/3は殺人犯である。受刑者に話を聞く。
殺人を冒したことを対して悪いと思ってない。こんなところに送られたと、殺した相手を恨んでいる始末だ。妻殺しの男の述懐がはじまる。

「サナトリウム」Sanatorium
サナトリウムは残酷なところだ。いずれ出てこられる人、死期が間近い人、長年白黒がつかずに暮らす人が、長期にわたって日常を共にする。患者同士が結婚することで、患者たちの死生観に変化をもたらす。

「ジェイン」Jane
ミセス・タワーの義理の妹・ジェインが27歳年下の青年と結婚した。夫のデザインする服を着て髪を切り見違えるようになったジェインのパーティには、有名人が集まってくるようになった。その魅力は奇抜なデザイン洋服の着こなしと話が面白いことだった。その話の中身とは。

「ジゴロとジゴレット」Gigolo and Gigolette
リヴィエラのカジノの出し物で、18メートルの飛び込み台から火を放ったプールに飛び込む技を披露していたステラは、その昔、弾丸娘と呼ばれてサーカスで危険な技を得意としていた老女の言葉を聞いて、怖気づく。→人気ブログランキング

月と6ペンス/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2014年
ジゴロとジゴレット/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2015年

ガットショット・ストレート ルー・バーニー

主人公は40歳を超えたシェイク。シェイクは若い娘ジーナに引っ張られて大金を手にしようとするが、ジーナは自由気ままな予測をはぐらかす行動をとる。

刑務所を出たばかりのシェイクは、300キロ先のロサンジェルス行きのバスに乗った。LAに着くと、アレクサンドラがリムジンで迎えに来ていた。
アルメニアで生まれたアレクサンドラは、山岳地帯の部族軍の棟梁に嫁入りしたのが16歳の時。20歳の頃には夫を殺して、近隣の競合部族全員を崩壊させた。その後アメリカに移住し、10年後にはLA中のアルメニア人ギャングを手中にした、美貌の女傑である。

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ガットショット・ストレート

ルー・バーニー/細美遥子
イースト・プレス
2014年 ✳︎8

 

 

シェイクはアレクサンドラに仕事をもらう。車でヴェガスに行って、相手に車を渡しブリーフケースを受け取り、飛行機でLAに戻ってくるという運び屋の仕事だ。ヴェガスへの途中でトランクに人が詰め込まれていることに気づく。ジーナが手錠をはめられてトランクにいた。
シェイクは相手に車を渡しブリーフケースを受け取るが、悪党の〈クジラ〉は女がいないことに気づき手下にシェイクを探させる。

ブリーフケースの中身が金になる切手らしいと知ったジーナは、シェイクを出し抜いてブリーフケースを持ち出し、金に替えようとする。ジーナが古物商にブリーフケースを持っていくと、中身は切手ではなく包皮だという。価値は最低でも500万ドル、しかし買い手はいないという。

ところで包皮とはなんだ?男性器の皮のミイラ化したものとのことだが、なんでそんなものに価値があるのだろう。マニアにとってはキリスト教にまつわる垂涎の聖遺物で、パナマに住むローランド・ジーグラーなら高額で買うはずだという。

ジーグラーは亡命者で、アルメニア人マフィアに詐欺用の会社作りに手を貸している。大勢の老人を騙して金を奪い取った犯罪者である。連邦捜査官が一旦は捕まえたが、不渡りの小切手を書いて保釈されそれ以降は、見た者も話を聞いた者もいないというお尋ね者である。

そして、場面はパナマ・シティに代わる。パナマ行きの飛行機に搭乗するのは、ジーナから包皮入りのブリーフケースをだまし取った古物商のマーヴィン・オーツ。そしてタッグを組んだシェイクとジーナ。さらにアレクサンドラと〈クジラ〉とその取り巻きの3組だ。そこにパナマ・シティの安いレストランでお見合いの合コンに出席するテッドというオタク男も紛れ込む。

パナマでの包皮入りブリーフケースの争奪戦に加え、偏屈で大金持ちの犯罪者ジーグラーと、誰がどう接触するかが見ものである。

悪党どもが非道の暴力沙汰を繰り広げると思いきや、南国の陽気と大らかさに包まれて暴力はなりを潜め、どういうわけか勧善懲悪の方向でこじんまりとまとまってしまうのは、どうにも期待が外れた。→人気ブログランキング

11月に去りし者/ルー・バーニー/加賀山卓朗/ハーパーBOOKS/2019年
ガットショット・ストレート/ルー・バーニー/細美遥子/イースト・プレス/2014年

11月に去りし者 ルー・バーニー

本作は、『このミステリがすごい 2020年度版』』では6位、『週刊文春』では20位と評価が大きく分かれている。エルモア・レナードを彷彿とさせるノアール小説であり、恋愛小説でもある。ノアール小説は好みが別れるのかもしれない。
1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された。
ニューオリンズの暗黒街のボス、カルロス・マルチェロは、自身とケネディ暗殺を結ぶすべての糸を断ち切るために、暗殺に少しでも関わった人物を次々と殺していく。
実在したカルロス・マルチェロは、ケネディ大統領暗殺の黒幕との疑いがある。
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ルー・バーニー/加賀山卓朗
ハーパーBOOKS
2019年

ケイジャン人のギドリーはダラスで狙撃犯の逃走用の車を手配しただけだった。その車を処分した男が殺された。ギドリーは自分にも魔の手が及ぶと読んで、テキサスを脱出しカリフォルニアに向かおうとする。

一方、オクラホマの田舎町でふたりの幼い娘を抱え、飲んだくれの夫に悩まされているシャーロットは、ある日決断した。義父母と夫を捨てて、娘たちと病気の犬を車に乗せ、ロサンジェルスのおばの家に向かったのだ。
国道66号線のニューメキシコ州に入ったところで、雨に濡れた路面でスリップしてしまい、側溝にタイヤがはまってしまう。
ギドリーは、事故に遭い途方にくれているシャーロットたちの脇を車で通り過ぎるときに、アイディアが浮かんだ。チャーロットたちと一緒に行動すれば、殺し屋の目を欺けるかもしれない。

本来なら絶対に接点を持つことのないふたり、ニューオリンズのマフィアの幹部候補生とオクラホマの主婦が出会い、そこに非情の殺し屋が追跡をするという構図である。殺し屋は、ギドリーに専念する前に、不覚にも手をナイフで貫通させられる創を負ってしまい、その創が治りきらないハンディを抱える。

シャーロットの利発でチャーミングな幼い娘たちの存在が、一服の清涼剤となっている。

本作はアンソニー賞、バリー賞、マカヴィティ賞、ハメット賞の4冠に輝いた。
読後の評価は、20位ではなくて、6位あるいはそれ以上だ。→人気ブログランキング

11月に去りし者/ルー・バーニー/加賀山卓朗/ハーパーBOOKS/2019年
ガットショット・ストレート/ルー・バーニー/細美遥子/イースト・プレス/2014年

なにかが首のまわりに チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ

アフリカ人の視点で、日常の瑣末な出来事や心の襞を巧みに描く。鋭い感性で綴られた知性あふれる文章は読む者を引き込む。ストーリー・テラーと呼ばれるにふさわしい。デビュー以来、旺盛に生み出された作品は、数々の文学賞〈O・ヘンリー賞(2003年)、コモンウェルス賞(2005年)、オレンジ賞(2007年)、米国批評家協会賞(2013年)〉などを受賞している。
本書は、2009年に出版された短編集の翻訳であると同時に、訳者が日本で独自に組んだ短編集『アメリカにいる、きみ』『明日は遠すぎて』から6編ずつを選び加筆修正した上で文庫化したものである。どの作品も複数回読んで、その度に新しい発見がある。
著者は、TEDトークの『男も女もみんなフェミニストじゃなきゃ』と題する講演で、「ジェンダーのことはいまも問題があるから改善しなればと思うすべての人がフェミニストだ」と述べて、「フェミニスト」という言葉のイメージを塗り替えた。
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チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ
くぼたのぞみ
河出文庫 2019年

「セル・ワン」
はじめは母親のジュエリーを盗んだ。犯罪者となっていく美形の兄を妹の目線で語る。

「イミテーション」
夫が浮気していると電話で伝えられた。夫はナイジェリアのラゴスにいて、妻はフィラデルフィアで二人の子どもと暮らしている。夫はクリスマスシーズンにフィラデルフィアにくる。妻はラゴスに戻ると夫にいう。新しいハウスボーイが雇われるとき、家にいたいからと理由をいう。

「ひそかな経験」(「スカーフ」を改題)
ラゴス大学の医学部に通うチカが、市場で暴動に遭遇し、異教徒の女と一緒に逃げ込んだのが廃屋。女は暴動を「悪魔のしわざ」という。
外の騒ぎが落ち着くと、乳飲み子がいる女は乳首が乾燥してひび割れるという。ココナツバターを塗るといいとチカは伝える。
チカが外に出ようと窓によじ登ったときに腿に創を負った。女のスカーフを借りて縛った。暴動が収まって別れしなに、スカーフをもらった。

「ゴースト」
71歳の元大学教授が年金のことを訊ねるために大学に行ったときに、かつての同僚に出会った。戦争に巻き込まれて死んだと思われていた。
色あせた大学町で、支給されることのない年金を待ちながら、どのような生活を営んでいるのかと、かつての同僚は訊く。

「先週の月曜日に」
夫がユダヤ人で妻がアフリカン・アメリカンの息子のベッビー・シッターになった主人公の、微妙な女心が描かれる。アメリカ留学時のベビー・シッターの実体験をもとに描いたという。

「ジャンピング・モンキー・ヒル」
アフリカ出身の若手作家のワークショップに参加するため、ウジュンワはケープタウン郊外のジャンピング・モンキー・ヒルに来ている。8人の参加者は短編を最初の1週間で仕上げ、2週目はそれぞれの作品を合評するというスケジュールだ。
主催者のエドワードが、ウジュンワを色目で見ているとみんなが気付いているという。
ウジュンワの作品が論評される。高学歴の女性の話だ。パワハラに対抗して職場を去るという結末に現実味がないというエドワードは言う。
そのサジェッションにウジュンワは憤慨したが、結末を訂正してもいいかなと思ったというのが結末。
幾重にも仕掛けがある傑作だ。実際に、著者はアフリカ出身の作家を集めたワークショップを毎年開催しているという。

「なにかが首のまわりに」(「アメリカにいる、きみ」を改題)
アメリカに渡ったナイジェリアの女性が白人の学生とつきあう。
首に何かが巻きつくような感じがしてそれが薄れる頃、家に手紙を書いた。父親が5か月前に亡くなったことを知った。学生は6ヵ月以内に戻らなければグリーンカードの権利をなくすからと、何度も念を押す。

「アメリカ大使館」
難民ヴィザを発行してもらうために、ラゴスにあるアメリカ大使館の列に何時間も並んでいる。
女性は、昨日子どもを埋葬し、一昨日ジャーナリストの夫を国外に逃走させた。その前の日、彼女の生活はいつもと変わりなく、車で勤め先の小学校から帰宅した。その夜、男3人が夫を探して家に乱入してきた。帰り際に息子を銃で撃った。
列のすぐ後ろの若い男から、面接官の目をまっすぐ見ること、口ごもらないこととアドバイスを受けた。息子が殺されたことを何度も訴えるが、面接官は自分の命が狙われている証拠を示すようにという。O・ヘンリー賞受賞作。

「震え」
部屋のドアを大きな音で叩いたのはナイジェリア人の男だった。ナイジェリアで航空機が墜落し、ナイジェリアのファーストレディが死んだ。で、一緒に祈りたいという。男がウカマカの手をとって祈ると、彼女は自分が震えるのがわかった。ウカマナがつき合っていた男がその飛行機に乗っているかもしれない。
ドアを叩いた男はペンテコステ派で、ウカマカはカソリック。男はゲイだと告白した。ユーモアとペーソスが感じられる作品。

「結婚の世話人」(「新しい夫」を改題)
ナイジェリア人の医者と結婚し、ニューヨークに着いた。翌朝キスをされて市場のゴミの山の臭いがした。両親が死んでおじさんに育ててもらい、数週前におじさんに紹介された相手だ。アメリカに住むナイジェリア人で医者だぞと、掘り出し物のような言い方だった。
前に結婚していたことを知らされて嫌になったが、行くところがない。

「明日は遠すぎて」
18年前に、アメリカに住む兄妹がナイジェリアの祖母の家で過ごした夏の悲劇を綴る。〈おばあちゃんが、蛇ってのは「エチ・エテカ(明日は遠すぎて)」っていわれてるんだ、ひと咬みで10分後には、お陀仏だからね、といった。〉というのがタイトルの出どころ。

「がんこな歴史家」
近代化するナイジェリアをひとりの女性を通して綴る。
ンワムバはひとりっ子のオビエリカと結婚した。流産をくりかえすンワムバは夫にに第2夫人をもつことを勧めたが、夫は意に介さなかった。ンワムバは男の子を産みアニクウェンワと名づけた。オビエリカが突然死んだ。葬儀のあいだにオビエリカの従姉妹たちが、象牙を持ち去った。その後も従姉妹たちがオビエリカの土地を奪おうとした。
ウワムバは従姉妹たちとの訴訟に勝てるようにと、息子を教会に通わせ英語を習得させた。息子は英語が話せるようになり、英語力のおかげで土地を取り戻せた。ところが息子は異教徒のキリスト教徒になってマイケルと名乗るようになった。息子はンワムバに胸を隠すように言った。
息子が選んだ嫁にンワムバは決して優しくしないと決意したが、人懐っこい優しい嫁に目をかけるようになった。ムワンバはイボ族の女たちがするように陶器を作った。男と女の孫が授かった。ンワムバはグレイスと名づけられた赤ん坊を抱いたときに、目をきらきらさせて、ンワムバの目をじっと見たので、夫のスピリットが戻ってきたと思った。ンワムバはグレイスをアファメナフと名づけた。「わたしの名前は失われることはないだろう」という意味だ。グレイスは歴史家となって本を書き、数々の賞を受賞した。グレイスは祖母がつけてくれた名前に改名することにした。アファメナフは暮れなずむ光の中、祖母のベッドの傍に座りながら、陶器づくりで肥厚した祖母の掌を握っていた。
本作で「アメリカ大使館」(2003年)に続き、2度目のO・ヘンリー賞(2010年)を受賞している→人気ブログランキング

なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

渇きと偽り ジェイン・ハーパー

猛暑に見舞われるオーストラリアの田舎町で起きたショットガンによる一家心中事件と、20年前に起こった少女の自殺の真相が解明される。小細工のないストーリー展開に引き込まれる。卓絶な筆力に拍手を送りたい。
2017年、ゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会賞)受賞作。

Photo_20210104082701渇きと偽り
ジェイン・ハーパー/青木創
ハヤカワ・ミステリ文庫
2018年

メルボルンから500キロ離れた田舎町のキエワラは100年に一度の干ばつに襲われている。住民たちはほとんど限界に達している。
主人公のアーロン ・フォークはメルボルンの財務情報局に所属する連邦警察官である。幼馴染のルークがショットガンで一家心中したと報じられる。
ルークの父親から、葬式の出席を促す手紙がアーロンに届く。そこには「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた。葬式で会おう」と書かれていた。この言葉は物語の最後まで、とれないトゲのようにアーロンを苦しめる。

20年前、同じ高校に通うアーロンとルーク、エリーとグレッチェンは行動を共にする間柄だった。ある日、エリーが川の底に沈んで死んでいるのが発見された。アーロンとルークは警察の事情聴取に、兎撃ちをして一緒にいたと口裏を合わせた。アーロンは川の下流で釣りをしていたのだ。
町を暴力で支配するエリーの父親マル・ディーゴンは、父子家庭のアーロンと父親に嫌がらせを繰り返した。アーロンと父親は町に居づらくなりメルボルンに引っ越さざるを得なかった。

20年ぶりに、葬式でアーロンはグレッチェンに会い、町の近況を教えてもらう。葬式が終わったらすぐに帰るつもりだったが、ルークの死に疑問を抱く。
アーロンはレイコー巡査部長とともに非公式な操作をはじめ、住民から情報を得ようとする。
しかし、町の嫌われ者・アルと甥グラウト・ダウの嫌がらせが執拗に繰り返されるが、アーロンは引き下がらない。

灼熱地獄が続くなか、アーロンたちに対し住民がいつ牙を向くかもしれないと、グレッチェンは警告する。それほど、キエワラの町は飽和点に達しているのだ。
そんななか、アーロンはふとしたことから、ルーク事件の真犯人が思い浮かぶ。→人気ブログランキング

カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ

上巻には、世界各国でベストセラーになった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第9作目という設定で、作中ミステリの『カササギ殺人事件』(アラン・コンウェイ著)が描かれている。

そのあらすじは、1955年、英国のサンクスビー・オン・エイヴォン村で、パイ屋敷の家政婦ブラキストン夫人が亡くなった。掃除機のコードが足に絡まり階段から落下し、首の骨を折った。警察は事故死と断定したが、住民たちは納得していない。
それは住民同士のしがらみが、住民たちに事故死ではなく殺人事件のはずだと確信させるからだ。
ブラキストン夫人が亡くなってから2週間後、パイ屋敷の持ち主サー・マグナスが飾り物の甲冑の剣で首を切断され殺された。

アティカス・ピュントは65歳、手術不能の脳腫瘍をわずらっている。ピュントの捜査により、村中の誰もが犯人でもありうる村の黒歴史が明らかにされる。

Photo_20201110082501カササギ殺人事件〈上〉
アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭
Photo_20201110082601カササギ殺人事件〈下〉
創元推理文庫
2018年 ✳︎10

下巻は、時制が現在となり、アティカス・ピュント・シリーズの担当編集者のスーザン・ライランドの視線で描かれる。
スーザンは、『カササギ殺人事件』の原稿を手にするが、最終の2〜3章が抜き取られていた。実際に本書の上巻では、事件は解決しておらず中途半端なままになっている。
冒頭で、スーザンが、まとめの形でマグナス殺害の犯人を推論する。各人物の犯人としてのとしての可能性をあげつらう。
そこで、「よーし、下巻を読むぞ」と俄然モチベーションが上がるのだ。

最後の数章が抜きとられた『カササギ殺人事件』の著者アラン・コンウェイが自筆の遺書を残して、自宅の塔から飛び降り自殺をする。
自殺するはずがないアランがなぜ遺書を残したのか。スーザンの犯人探しが始まる。
そしてスーザンは、最終作とされる『カササギ殺人事件』を書くアランの真の目的を知ることになる。

作中ミステリの犯人探しと、アラン殺しの犯人探しという、フーダニットが別のフーダニットを包み込むダブル・フーダニットの設定で、話は進んでいく。ふたつのストーリーは、絡み合いながら見事に整理され、齟齬はもちろんなく強引さもない。さらに最終の2〜3章が消えた理由はなんなのか。
本書が、数々の賞に輝き、大傑作と評価されていることに納得させられた。星10。

著者のアンソニー・ホロヴィッツは、シャーロック・ホームズ財団公認を受け、ホームズ・シリーズの長編作品『モリアティー』と『絹の家』を執筆している。さらに、イアン・フレミング財団にも公認され、『007 逆襲のトリガー』を書いている。
テレビの脚本も数多く手がける英国エンターテーメント界の至宝である。→人気ブログランキング

その裁きは死/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元社文庫/2020年
メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 創元社推理文庫 2019年
007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年

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