医学

新型コロナVS中国14億人 浦上早苗

中国は、民主主義国家では到底できない人権無視の政策を断行してきた。1月24日からの春節の前に武漢をロックダウンし、中国全土で人の集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、コロナの封じ込めに成功した。中国を「隠蔽で初動が遅れ、ウイルスをばらまいた国」という一面のみでとらえるべきではないという。

中国が感染の中心だった頃は、中国の強権的なロックダウン、テクノロジーを駆使した行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、今や多くの国で中国方式を取り入れている。この強権的な対策は、政治家ではなく医師らの提案によるものだという。

Vs14 新型コロナVS中国14億人

浦上早苗
小学館新書
2020年6月 10✳

突貫工事でコンテナ病院が建設された。5Gを用いた通信システムにより、遠隔診断し治療法が指示された。医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。スピーカーを搭載した5Gドローンが住宅地を巡回し、おしゃべりしている人やマスクをつけていない人を家に追い返した。
PCR検査なしでもCT画像からコロナを診断してもよいとされた。アリババ・グループのAI技術が、CT画像から20秒で診断する。その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。

2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「健康コード」が杭州で導入された。赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が要請される。このアプリにより、身元を隠して暮らしていた人たちが行き場がなくなり指名手配者が自首してきたという。また不正給与支払いが発覚した。

日本の厚労省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは、6月19日。なんだか腹立たしいくらい遅い。こうしたアプリは60%の人々が登録しないと、有効ではないというから、日本でこの接触アプリがまともに機能することはないだろう。

新型コロナウイルスの存在は12月31日に確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、7日に国連にも提供されている。
2月27日に、初動の遅れを新型コロナ対策ハイレベル専門チームの鐘南山氏(83歳)が批判している。SRASで陣頭指揮をとった鐘氏は、政府を批判したことで人々に支持され、精神的支柱となった。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。

企業がコロナ対策に寄与した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が追加された。
出前アプリのEle、me、ハイテクスーパーのHema、オンライン旅行のFliggy(飛猪)、口コミサイトのKoubei(口碑)が、武漢の医療関係者に食料や生活用品を手配した。
Fliggyが武漢の宿泊施設に無料で宿泊できるように呼びかけ、3000以上が協力した。
地図アプリ会社は医師たちの無料送迎を行った。

中国の新型コロナ累計死者数は4632人と、従来の3342人から修正された。4月16日時点の累計確認症例数は8万2692件となっている。
例えば、広東省は1億2千万の人口だが、感染者は1600人、死者は8人で、同じ規模の東京よりはるかに少ない。
情報が透明でなかろうと、中国は新型コロナの封じ込めに今のところ成功してるといえるだろう。

ヨーロッパ、中東やアフリカ諸国にマスクや防護服、PCR検査機器、人工呼吸器などを援助物資として送ったが、多量の粗悪品が含まれていて中国に送り返されたという。政府は製品検査を厳格化して、劣悪な製品をつくる企業を淘汰する。中国は恥をかいても前へ進んでいく。恐ろしい国だ。

著者は経済ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。1998年から西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年に中国大連の東北財経大学に国費留学した。その後大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に翻訳や執筆を手がける。法政大学イノベーションマネジメント研究科講師。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ウイルスは生きている 中屋敷 均

妊婦にとって異物である胎児は妊婦の免疫システムの攻撃対象とはならない。それを可能にしているのが、胎盤の絨毛を取り囲むように存在する合法体性栄養膜という特殊な膜構造である。合胞体性栄養膜の形成に重要な役割を果たすシンシチンというタンパク質が、人のゲノムに潜むウイルスが持つ遺伝子に由来するという。
そうした例は他の生物にもみられる。

人の遺伝子に入り込んだウイルスに触れる。インフルエンザ・ウイルスついて語り、ウイルスの基本構造や転写のメカニズム、さらに生物に有利に働くウイルスについて触れる。最後は、結晶化するウイルスが生きているかどうかについての著者の見解が示される。
Image_20200617111201 ウイルスは生きている

中屋敷 均
講談社現代新書
2016年

ウイルスの形態については、ウイルス粒子を包むエンベロープを含めて「ウイルス粒子」と呼ぶ。エンベロープタンパク質がエンベロープに突き刺さるように配置されている。これが宿主のレセプターと結合し、エンベロープは細胞膜と同じ構造であり、宿主細胞にスムーズに侵入することができる。エンベロープはリン脂質からなる細胞膜でできているから、石鹸が効果がある。
インフルエンザ・ウイルスに石鹸が効果があり、胃腸炎を起こすノロウイルスはエンベロープを持たないため石鹸の効果がない。

世界はウイルスだらけだ。地上も海中も、生物の中にも生物のゲノムの中にもウイルスの遺伝子が潜んでいる。
巨大化したウイルスも、ウイルスと呼んでいいのか迷う半端なものまで、ウイルスのスペクトラムは広い。

最後に、ウイルスが生きているかどうかについて、「ガイア仮説」と絡めて考察する。ガイア理論は、ジェームズ・ラブロックにより1960年代に提唱された。地球全体を地球と生物が相互に関係しあうある種の巨大な生命体とみなす。
結晶化するウイルスが提示されて以来、ウイルスには生きていないとされる論調が多数派を占めるようになった。
DNA情報からなる「ヒト」としての「生」と、脳情報からなる人格を有した「人」としての「生」を分けて考えるべきだという。ふたつは密接な関係にあるが別のものだという論理を展開する。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ナニワ・モンスター 海堂 尊

第1部では、キャメル・インフルエンザ・ウイルスによる感染症の広がりをあおり、浪速地区の経済に打撃を与えようとする動きに、難波府知事が敢然と立ち向かう。
第2部は、検察庁の覇権争いを描く。キャメル・インフルエンザ騒動の1年前である。
第3部は、著者の持論であるAi(Autopsy imaging、死亡時画像病理診断)を普及させることがテーマ。死後の解剖は遺族にとって簡単に承諾できるものではない。それが、CTやMRIであれば、同意のハードルは低くなる。死亡時にCTもしくはMRIで、死亡原因を特定すれば、医療事故も医療訴訟も激減するという。Aiを主導するのは医療側であって司法側ではないというのがキーワード。
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ナニワ・モンスター
海堂 尊
新潮文庫
2014年 ✳︎8

中東で、ラクダ由来のキャメル・インフルエンザが流行の兆しをみせ、厚生労働省は空港での水際作戦を展開した。
病気が日本に入ってきていないのに、「キャメル・ファインダー」という検査キットが、浪速診療所に配布されていた。
浪速大学公衆衛生学教室の本田苗子准教授は、浪速医師会の講演会でキャメル・インフルエンザについて講演し、テレビのワイドショーではこの新しいインフルエンザの脅威を強調した。感染力は強いが致死率は0.002%ときわめて低い。そんな弱毒のウイルスに警戒態勢をとる政策はやりすぎではないか。さらに本田准教授の経歴は簡素すぎて胡散臭い。

発熱患者が浪速診療所を受診し、キャメル・ファインダーで陽性を示した。PCR検査を行うと陽性であった。マスコミは過剰に反応し、ゴールデンウィークの海外渡航を控え、関西地区への観光を控えるようにと呼びかけた。
全国のキャメル発生患者が報告された地区と、サンザシ薬品が迅速検体キットを配布した地区と一致していた。
テレビでは、本田准教授はキャメル・インフルエンザ・ウイルスによる、パンディミックの発生を警告すると訴えた。浪速の町は人の行き来が少なくなり観光客の足が途絶えた。この浪速の危機に辣腕の村雨弘毅府知事が動き出す。

本書で著者が取り上げたのは膠着する日本の現状である。3部のそれぞれのエピソードは裏でつながっており、そこには霞が関コングロマリットの闇がある。著者は道州制をを論じ、霞が関主導の官僚体制を壊すことに話が及ぶ。→人気ブログランキング

チーム・バチスタの栄光/海堂 尊/宝島文庫/2005年

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『感染症の世界史』石井弘之

人類の歴史は感染症との戦いの歴史でもあり、各世紀にはそれぞれの時代を背景にして世界的に流行した感染症があった。13世紀のハンセン病、14世紀の「黒死病」と呼ばれたペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20~21世紀のインフルエンザとエイズである。

新型コロナウイルスが世界を席巻するなか、本書は急遽増版されベストセラーになった。コンパクトな文庫ながら感染症の歴史を網羅的に言及し、ある程度深くまで掘り下げている。オマケとして、各項で取り上げられた感染症に罹患した著名人のリストが載っている。

Photo_20200523123501感染症の世界史

石井弘之
角川ソフィア文庫
2018年 ✳10

歴史上、戦争で死亡した将兵の少なくとも1/3から半数は、病死だったと推定されるという。その中で感染症の占める割合は圧倒的に多い。
日本では、日露戦争で戦死した5万6千人のうち約半数は病死だった。第一次世界大戦中の総死者数972万人中589万人つまり60%が、戦病死者だった。特に連合国軍、同盟国軍の双方にスペインかぜの感染が爆発的に発生した。戦死者の1/3はスペインかぜによるものだった。第二次世界大戦中、日本軍はルソン島で5万人以上、インパール作戦では4万人、ガタルカナルでは1万5千人がマラリアで死亡している。

今後の人類と感染症との戦いを予想する上で、最も激戦が予想されるのは、中国とアフリカであろう。いずれも公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
新興感染症(エマージング感染症)といわれる新たな感染症が、次々に出現している。マールブルグ、リフトレバー熱 、ラッサ、エボラ出血熱、西ナイル熱、エイズ、SARSなど、新興の感染症は1950年代末から約40種類知られている。

これらのウイルスは豚、牛などの家畜や、ネズミ、コウモリ、野鳥などの野生動物が保有するウイルスに由来するものが多い。ウイルスは何回も変異を繰り返しているうちに、宿主から飛び出して他の種に乗り移り、うまく定着できるものが現れる。SARSの原因になったコロナウイルスの仲間が、人間にこれほど恐ろしい病気を引き起こすという認識は全くなかった。動物から人間に移ったときに凶悪化した。

スペインかぜのゼロ号患者には、アメリカ・カンザスシティ説が有力であった。そのほか、フランス説、中国説がある。2013年、カナダのメモリアル大学、マーク・ハンフリー教授は、第一次世界大戦中に英仏軍が西部戦線で9万6000人の中国人労働者を使っていた史実を発掘した。米国の基地で流行する前に、スペインかぜとみられる呼吸器病が中国国内で流行っていた記録があった。
第一次世界大戦の中立国のスペインは、800万人が感染した。他の多くの国が情報を統制していたが、スペインだけは流行が大々的に報じられ、スペインかぜと呼ばれるようになった。
当時の世界の人口は18億人だが、少なくとのその半数から1/3が感染し、世界の人口の3~5%が死亡した。日本は2300万人が感染し、38万6千人が死亡した。
第一次世界大戦はスペインかぜにより終結を早めたといわれている。

熱帯や亜熱帯の森林が伐採され、野生動物と家畜や人間が近づきあるいは接触し、ウイルスによる感染症が家畜や人間に広がり、そして家畜から人間に感染が広がるようになる。ウイルスは変異し感染力が強くなり致死率も上がる。
こうした、パンデミックに至るウイルス感染症は自然災害であるとする。

日本と他の先進地域とのワクチン行政の差は「ワクチン・ギャップ」と呼ばれている。「ワクチンで防げる感染症」の予防についての日本の国際的評価は、先進地域の中で最低レベルにある。はしか、水ぼうそう、おたふくかぜ、結核などが流行するのは、先進国で日本くらいのものだ。→人気ブログランキング

 

コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症 増補版/井上栄/中公新書/2020
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『首都感染』高嶋哲夫

新型コロナウイルス禍に世界中が見舞われている今を見通していたかのような内容である。その著者の先見の明にはただただ驚嘆するばかりだ。
世界がインフルエンザのパンデミック・クライシスに陥るなか、日本は東京を封鎖するという前代未聞の政策により、最悪の事態を免れようとした。その政策断行の先頭に立つ政治家や諮問委員会のメンバー、そして医師や最前線の医療機関で奮闘する人びとを描いた力作である。
なお本書は2010年12月書き下ろし作品として出版されたものの文庫化である。

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首都感染

高嶋哲夫
講談社文庫
2013年 ✳︎10

 

病原体は感染性と致死性が極めて高い新型インフルエンザ・ウイルスである。致死率は60%、サイトカイン・ストームを引き起こし、多臓器不全に陥り死に至る。感染症の専門家たちが、いずれH5N1型による高毒性の新型インフルエンザが猛威を振るうと予測していた矢先の出来事だった。

20✳︎✳︎年6月、北京でW杯サッカーが開かれており、世界のサッカーファンが北京に集まっている。中国チームは怒涛の勢いでイタリアとの決勝にまで進んでいる。
一方、中国雲南省で発生したインフルエンザにより、すでに10の村が全滅し、軍隊が出動し死体の処理を行っている。中国政府はW杯が終わるまで隠蔽しようとしたが、死者数の爆発的な増加により決勝戦を中止する決断に至った。

主人公の瀬戸崎優司は、WHOでインフルエンザの研究をしていたが、今は都内の黒木総合病院に勤務している内科医である。優司の父親は首相の瀬戸崎雄一郎、厚労大臣の高城は優司の元妻の父親である。優司の元妻・里美は現在もWHOに勤務している。さらに優司の同級生の黒木は医学部を卒業した後、基礎分野に進みインフルエンザ・ワクチンの研究をしている。優司の人脈は、インフルエンザを向かえ撃つ体制として万全である。
WHOに勤務していたとき優司はインフルエンザのパンデミックを想定した「都市封鎖」の論文を書いた。感染症対策のプロフェッショナルだ。

優司は新型インフルエンザ対策本部に招聘された。
中国政府が公表する前に、情報を掴んでいた日本は中国からの航空便の乗客を機内で検疫し、帰国後5日の間ホテルに缶詰とし、感染が疑われる人は入院させる方針をとった。
翌朝、新聞は政府が騒ぎすぎと書き立てる。また中国は日本の措置に遺憾の意を表明した。

北京から感染者が自国に帰っていく。案の定、各国でまたたく間に感染者と死者が爆発的に増加するなか、まだ日本では感染者が出ていない。
優司は空港閉鎖、新幹線などによる長距離の移動の禁止を進言した。
そうこうしているうちに、WHOは世界を震撼させる感染者数と死亡者数の発表を行った。
優司は東京封鎖という前代未聞の政策を提案する。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
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ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『コロナの時代の僕ら』パオロ・ジョルダーノ

著者は25歳の若さでイタリア最高峰の文学賞とされるストレーガ賞を受賞した気鋭の小説家で、大学では物理学を専攻していたという。

本書は27篇のエッセイと著者のあとがきからなる。
COVIT-19の感染について書いた時によって、感じ方は変わっただろう。27篇のエッセイは2月29日から3月4日まで『コリエーレ』紙に掲載された。2月25日に323人だったイタリアの感染者数は、2月29日1129人、3月4日には3089人になった。感染者数が爆発的に増えたのはそのあとである。

Photo_20200428173501コロナの時代の僕ら

パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介
早川書房
2020年 ✳︎9

 

 

そして、著者あとがきの「コロナウイルスがすぎた後も僕が忘れたくないこと」が掲載されたのが3月20日。イタリアでCOVIT-19の流行が始まってから1ヶ月間を振り返った内容になる。3月20日の感染者数は47,021人、死者数は4,032人。この時点でイタリアの医療は完全に崩壊していた。
最近(4月27日)の状況は、感染者数197,675人、死亡者数26,644人で、感染者数は頭打ちになっているとされている。

イタリアが最悪の事態になる前に書かれた文章は、余裕がありユーモアすら感じられる。
<いったん終息すれば過去に流行した多くの感染症を犠牲者の数で上回ることはないだろう>との予測を述べている。しかし、その予測は必ずしも当たっていなかったことがわかる。
物理学を専攻した著者ならではのテーマを扱ったのが「感染症の数学」「アールノート」である。数学的に感染を減らすにはどのように考えるべきなのかをクリアカットに論じている。いま日本で実践を推奨されている「接触を80%減らす」につながる理論的根拠が示されている。

あとがきの「コロナウイルスがすぎたあとも、僕が忘れたくないこと」は、爆発的に感染が拡大した頃に書かれたもので、説得力があり感動させられる。〈すべてが終わった時、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか。もとに戻ってしまわぬように、この苦しい時間が無駄にならぬように、元に戻って欲しくないもののリストを作っておく〉ことを提案している。

本書は世界27カ国で発売されたという。間違いなく世界的ベストセラーになるだろう。著者は印税の一部を医療機関および感染者の医療に従事する人々に寄附するという。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『ヒトの発達の謎を解く 胎児期から人類の未来まで』明和政子

著者は京都大学霊長類研究所研究員を経て、現在は同大学院教授。
本書のポイントは、次の3点である。霊長類と比較してヒトの子育てのあるべき姿を探り、成長期の脳と心の発達を科学的に解説し、今を生きる世代として人類の未来に果たすべき責任を考察する。


ヒトの発達の謎を解く (ちくま新書)

明和 政子(Myohwa Masako
ちくま新書
2019年10月 ✳︎10

養育者(普通は母親)が授乳や抱くことで乳児の「内需要感覚」が心地よい状態となり、母親から微笑みかけられる(視覚)、声をかけられる(聴覚)などの「外需要感覚」を与えられる。こうした経験をくり返すことで、乳児の脳には記憶が生じる。母親の顔や声、匂い、肌触り、を感じるだけで母親の存在が概念として浮かび上がる。

外需要感覚(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)、自己需要感覚(荕・骨格・関節から生じる運動感覚、前庭器官により生じる平衡感覚)、内需要感覚(自律神経の感覚を含めた内臓状態の感覚)の三つの身体感覚を、環境と相互作用する過程で同期的・連続的に経験していくことで、自分の身体が自分のものであるという認識が生まれてくるという。

他者の身体なくしてヒトは育たない。幼少期に養育者との間でアタッチメント(母子間の結びつき)形成がうまくいかないと、心身の発達に遅れや問題が生じたり病気に対する抵抗力や免疫の働きが低下することがわかっている。幼児期に母親とのアタッチメントが剥奪されたケースでは思春期以降に、うつ病や多動障害、解離性障害などが現れやすくなる。母子のアタッチメント障害が子育てにまつわるさまざまな問題や、若年層の精神疾患を引き起こしている可能性がある。

人間は「予測ー照合ー誤差修正」という神経システムを持っている。人間は対人関係の中で、予測を行ない、予測誤差を検出し、予測を随時修正し、予測を常に更新していく。
自分の身体を自分でくすぐってもくすぐったく感じないのは、くすぐるというという予測と同時にくすぐられるという感覚もあらかじめ予測されているため、実際に生じる誤差が最小になるからであるという。

わずか数十年という短時間に劇的に変化し続けてきた環境に、数百万年という長い時間をかけて獲得してきた身体が直ちに適応できるはずはない。短期間で激変し続ける環境の中で育っていく次世代の脳や心の発達に、何かしらの影響が生じる可能性は無視できないという。

著者は、ホモ・サピエンスの進化のひとつのパターンを提示する。
今の社会に起こっている子育てにまつわる深刻な問題は、社会が喫緊に取り組むべきである。こうした問題を、技術の力(AI)に頼って解消しようとしがちな今の風潮には疑問が残るとする。
今を生きるヒトが、特に子育てにおいてこれまでとは異なる方法を選択していくとしたらどうなるだろう。進化とは合目的ではなく、その時代に生きた個体のうち、環境にたまたま適応的であった個体が生き残っているだけである。その生き残った個体が、ホモ・サピエンスであり続けるかどうかはわからない、とする。

 

『がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う』広津崇亮

線虫によるがん検査が2020年1月から実用化される。線虫にはカイチュウやギョウチュウやアニサキスが含まれ、地球上に1億種いるという。検査に使われる線虫は体長がたった1mmのシー・エレガンス(C.elegans)である。シー・エレガンスは雌雄同体で、生まれてくるのはクローンだから遺伝的な個体差がなく、凍結保存しておくと10年先20年先でも生き返る。


がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う (光文社新書)

広津崇亮(Hirotsu Takaaki
光文社新書 ✳10
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シャーレに健常者の尿をたらすとシー・エレガンスは尿を避けるが、がん患者の尿には寄っていく。ほぼ全身のがんを調べることができる。ステージ0〜1の早期がんも、9割の確率で検知できるという驚異の精度である。しかも尿1滴で検査が可能である。

著者は20年間に及ぶ線虫研究から、線虫にがんの分泌物質を嗅ぎ分ける能力があることを発見した。犬にがんの匂いを嗅ぎ分けられるなら線虫にも嗅ぎ分けられるはずだと思ったことがきっかけだという。
2015年、九州大学の助教だった著者は、線虫がん検査「N-NOSE」を実用化するため、大学を辞めベンチャー企業の実業家に転身した。

従来のがん検診は、時間がかかる、苦痛を伴う、場合によっては危険を伴うこともある、ニ次スクリーニング検査や精密検査しかなかった。心身の負担が大きく、自覚症状のない段階で受ける気にはなれないような検査だ。

「N-NOSE」は、「簡便・高精度・安価・早期発見が可能・苦痛がない・全身網羅的」という一次がん検診の理想的な条件を備えもつ。検査率が低迷する日本のがん検診に、風穴をあける画期的な検査法である。

著者の目は日本だけに向けられているわけではない。実用化の7年後の2027年には日本国内6000万人、東アジアと東南アジアで2億人、インドで1億人、北米で1億5千万人、合計8億1千万人に、「N-NOSE」が普及することを目指している。さらに、がん以外の疾病の早期発見の可能性を追求している。

線虫がん検査の開発にまつわる話だけでなく、起業してからの経緯にも惹きつけられる。起業を目指す若い人たちに示唆に富むアドバイスが書かれている。進取の気性をもつ著者の力強いエネルギーが感じられる。

がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う/広津崇亮/光文社新書/2019年
ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
がん免疫療法とはなにか/本庶 佑/岩波新書/2019年
がん光免疫治療の登場/永山悦子 小林久隆(協力) /青灯社/2017年
がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
ケトン食ががんを消す/古川健司/光文社新書/2016年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016年
がん幹細胞の謎にせまる/山崎裕人/ちくま新書/2015年

『ケトン食ががんを消す』古川健司

極端な糖質制限による、がん細胞の「兵糧攻め」がケトン食である。
がん細胞が栄養源としているのは、主にブドウ糖(グルコース)である。それも、正常細胞よりも3〜8倍ものブドウ糖を取り入れなければならない。
一方、正常細胞は、ブドウ糖の供給が途絶えても、緊急用のエネルギーを皮下脂肪からのケトン体でまかなうことができる。
著者は、がんに対する食による治療が長年軽視されてきたと力説する。


ケトン食ががんを消す (光文社新書)

ケトン食ががんを消す
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古川 健司
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がん細胞のエネルギー産生は、細胞質内に酸素がない状態で糖を分解し乳酸を放出する効率の悪い「嫌気性解糖」が行われている。このエネルギー産生経路では、ブドウ糖1分子あたり2分子のATPを作るだけ(正常細胞が1分子のブドウ糖で36分子のATPを作る) 。がん細胞は十分な酸素存在下でも、嫌気的な糖利用を行う。

がん細胞にはケトン体をエネルギーに変える酵素がない。がん患者の糖質摂取量を極端に少なくすることで、がん細胞の分裂が抑制され、がんを縮小、場合によっては死滅させることも可能になる。

ケトン体のアセト酢酸とβ-ヒドロキシン酪酸の増加で、血液や体液の濃度が酸性になった場合をケトアシドーシスという。糖質制限で、医師たちが懸念するのはこのケトアシドーシスである。これは1型糖尿病に多くみられ、嘔吐や頭痛、頻脈、意識障害や昏睡を引き起こす。
インシュリンが正常である限り、ケトン体がいくら増えてもケトアシドーシスには陥らない。

胎児はケトン体で生きている。胎児のケトン体量は1600μmol/L以上ある。がんの細胞分裂のスピードは、胎児の細胞分裂のそれに匹敵するといわれる。たとえ胎児の遺伝子にコピーミスがあっても、ケトン体と低血糖ががん化を抑制していると考えられる。ケトン体1600μmol/L以上が、がん細胞が正常細胞へリセットされる目安になるにではないか。
総ケトン体指数が一定以上の数値まで上昇すると、なんらかのがん抑制遺伝子のスイッチ入り、がんが縮小するのではないかと著者は考える。

「免疫栄養ケトン食」によるがん治療は、ケトン食+EPA(エイコサペンタエン酸)+タンパク質の組み合わせである。
【セミケトジェニック免疫栄養療法 】糖質摂取量80g以下(主食は通常食の1/3、野菜などから糖質を摂るほうが望ましい):がん予防、がん再発予防の食事療法で、がん治療ではない。
【ケトジェニック免疫栄養療法】40g以下:がん治療の維持療法である。
【スーパーケトジェニック免疫栄養療法】20g 以下(95%カット)が治療食である。

「膵癌の末期患者に著効したスタチン製剤と牛蒡子(ごぼうし・牛蒡の種)」
ケトン体をエネルギー源にするがん細胞も現れる。コレステロール血症の治療薬であるスタチン製剤には、糖質耐性を持ったがん細胞が乳酸やケトン体を栄養にすることをブロックする働きがある。
牛蒡子に含まれるアルクチゲニンには、膵臓癌に対し強い抗腫瘍性の作用があることが、国立がんセンターの研究によって明らかにされているという。
TS-1の治療を受けるも、余命1ヶ月の宣告を受けた膵癌の末期患者に、スタチン製剤を処方し、サプリメントとして牛蒡子を摂取するよう勧めたところ、腹水が消え著効を示したという。

ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
がん免疫療法とはなにか/本庶 佑/岩波新書/2019年
がん光免疫治療の登場/永山悦子 小林久隆(協力) /青灯社/2017年
がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
ケトン食ががんを消す/古川健司/光文社新書/2016年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016年
がん幹細胞の謎にせまる/山崎裕人/ちくま新書/2015年

『ビタミンDとケトン食 最強のがん治療』古川健司

本書に記載されていることがこの通りだとすれば、非活性型ビタミンDの多量摂取はがん治療の補助療法として大いに推奨される。

日本人女性のビタミンD不足は顕著であり、世界的にも現代人はビタミンDが不足がちだという。著者が勤務する病院の看護師50名のビタミンD濃度を計測したところ、正常値は1人もおらず、3人が不足、47人が欠乏症という惨憺たる結果だったという。
ちなみに、「ビタミンD充足状態」30μg以上、「不足」20〜29.9、「欠乏」20.0未満である。


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がん患者のビタミンD濃度は、統計学的に有意に低値であるとするデーターが示される。がん細胞に暴走を許している大きな要因が、ビタミンDの欠乏であるとする。
また、ビタミンDが高い場合がんにかかりにくいというデータが示される。

では、ビタミンDががん治療に効く働きとはどのようなものか。
1)がん細胞の増殖の抑制。
2)がん細胞のアポトーシスの促進。(アポトーシスとは体内に組み込まれているプログラムされた細胞死)
3)がん細胞の血管新生の抑制
4)オートファジーの抑制。(オートファジーとは、細胞それ自体が細胞内の異常なタンパク質を分解し、リサイクルする働き。生存のための「自食」とも呼ばれる)

大腸がんはビタミンDが最も強力に作用するがんの一つであることが、諸外国の報告で明らかにされている。ビタミンDの血中濃度が、大腸がんや乳がんをはじめとする多くのがんの発生やその抑制に関わっていることが、多数の研究から明らかになっている。

著者は、がん治療では、1日に最低でもビタミンDを50μg、症状によっては100〜150μgのビタミンDを摂取する必要があると結論づけた。ただし、摂取するのは非活性型ビタミンD(サプリメント)である。
非活性型ビタミンDは肝臓に一旦蓄えられ、必要に応じて腎臓で活性化される。医師が処方する活性型ビタミンDは、副甲状腺ホルモンのコントロールを受けないため、高カルシウム血症や腎障害などの副作用がある。非活性型は副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によってコントロールされているため安全性が高い。

様々な病気に関与するビタミンD。
がん、心・血管疾患(不整脈、心筋梗塞、虚血性心疾患、動脈硬化、大動脈瘤)。生活習慣病(2型糖尿病)、高血圧、脂質異常症など)。自己免疫疾患(関節リウマチ、アトピーや花粉症などのアレルギー、1型糖尿病、甲状腺機能障害など)。感染症(インフルエンザ、肺炎など)。精神疾患(うつ病など)。

巻末のケース・スタディでは、「ビタミンD 免疫栄養ケトン食」で治療を行った末期がん患者の驚異的な回復ぶりが記載されている。がん腫が消え寛解に至ったケースも何例かある。ケトン食が受け入れられないケースでは、ビタミンDだけでも著しい効果があがっている。

ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
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