医学

藍染袴お匙帖 藁一本 藤原緋沙子

シーボルトに師事した外科医・桂千鶴は評判がすこぶる良い。亡くなった父・桂東湖から桂治療院を継いで、治療に犯罪捜査に奮闘している。千鶴は藍染めの袴をはいて往診するので「藍染先生」と呼ばれている。
ストーリーは、ちょっと待ってくれと言いたいくらいスピーディに進む。

7851fc8d2a2b45c0849b0c0fe9d7c8f8藍染袴お匙帖 藁一本
藤原緋沙子
双葉文庫
2019年 ✳︎7

「藁一本」
両親を亡くした姉弟の姉が働いて金を稼ぎ、京で医学の勉強に励む弟・梅之助に仕送りをしていた。梅之助が師事する医者は金の亡者で評判が著しく悪い。梅之助はこっそり江戸に舞い戻って、姉からの仕送りの金を博打に注ぎ込んでいた。千鶴は梅之助を桂治療院で仕事をさせようとしたが、半日で姿を消した。
呉服屋の桑島屋徳兵衛が寄り合いの帰り道に、附子(トリカブト)を飲まされて毒殺された。附子の出所をたどると、桂診療所の名を語って梅之助が手に入れていた。姉弟の父親は、若い時に徳兵衛と一緒に働いていたが、徳兵衛の罠にはまり10両を盗んだ犯人に仕立て上げられた。父親は解雇され、酒浸りになり流行病にかかり亡くなった。母親も間もなく亡くなった。
徳兵衛は賭場に出入りしていて、賭場の人間を脅し借金を帳消しにさせたのだった。徳兵衛は賭場の者によって無理やり附子を飲ませ殺された。
南町奉行の与力と同心20名が賭場に入り、一味を一網打尽に捕縛した。梅之助は弱みに漬け込まれて加担したが、直接手を下したわけではないことがわかった。

「桜狩」
御目見(おめみえ)医師の候補が辻斬りで殺された。御目見医師は町医者でありながら必要なときにお城に呼ばれる。末は役高をいただけるような医者になれるという。牢医である千鶴も候補に上がっている。
お初という娘が田楽の屋台を出す巳之助を好きになって、所帯持ちか訊いてくれと千鶴に頼んだ。巳之助は兄を殺した相手を追って江戸に出てきた武士だった。
御目見医師候補の島田祥助は腕が悪いが、山城屋の娘と婚姻が決まっていて、診療所を建設中だという。山城屋は幕府御用達だ。娘婿になる男に大金を使って御目見医師に推挙することは簡単だ。そして御目見医師候補がまたも殺された。次は千鶴が狙われる。
お初が手伝うようになって巳之助の屋台は繁盛するようになった。そこに千鶴とお道が田楽を買いに現れると、浪人に斬りつけられた。浪人は巳之助が追う仇であった。巳之助によって浪人は自害に追い込まれた。
かくして桜の花びらが舞うなか、巳之助はお初に、菊池求馬は千鶴にプロポーズするのだった。→人気ブログランキング

藁一本 藍染袴お匙帖/2019年
風光る 藍染袴お匙帖/2005年

風光る 藍染袴お匙帖 藤原緋紗子

千鶴は、医学館の教授方であった父・桂東湖の遺志を継いで江戸府内でも珍しい女医となって3年が経つ。藍染川沿いにある200坪ばかりの土地に、住居を兼ねた治療院が建っていて、裏庭は薬園になっている。西陣の平織りの生地を近くの紺屋で染めた袴をはいて往診する。人は千鶴を藍染先生と呼ぶ。

主な登場人物を紹介する。千鶴は父の時代から女中として桂家に奉仕するお竹、医師を目指す助手のお道の3人で住んでいる。おじの酔楽は千鶴を娘のように可愛がる医者。南町奉行の同心、浦島亀之助はなにかにつけ治療院に顔を出し千鶴の気を引こうとする。岡っ引きの猫八こと猫目の甚八は、頼りない亀之助の代わりにこまめに動く。菊池求馬は200石旗本の当主だが仕事がない。治療院に顔を出して千鶴を助け、事件を解決に導く。千鶴とは相思相愛の仲である。
『藍染袴お匙帖』シリーズは、2010年にNHK土曜時代劇で『桂ちづる診療日録』のタイトルでドラマ化された。桂千鶴を市川由衣が演じた。

82a36d6db4be4e639989d1fdb1337a39風光る 藍染袴お匙帖
藤原緋紗子
双葉文庫
2005年

「蜻火(かげろひ)」
新しい建物を建てようと土を掘り返したところ、人骨が出てきた。南町奉行所同心定中役の浦島亀之助は千鶴の知恵を借りようと治療院にやってきた。妻に逃げられた亀之助は千鶴にぞっこんで、何かと治療院にやってくる。
徳蔵が相模屋の番頭を辞して、人骨が出た土地に店を出したのが3年前。2年前に、徳蔵一家が神隠しにあった。
千鶴はおじの酔楽先生から届いた粘土を使って、頭蓋骨にスーパーインポーズを施す。すると、それは明らかに徳蔵の顔であった。
徳蔵の妻だったおきちは、巳之助という悪徳高利貸しと一緒にいることがわかった。巳之助は徳蔵を殺して縁の下に埋め、おきちと娘をさらった。そして、阿漕な取り立てをする金貸として羽振りが良くなっていたのだ。
亀之助と大勢の小者で、巳之助一味の根城である向島の一軒家に踏み込んだ。

「花蝋燭」
やくざ者を殺したお栄が牢の中で子どもを産んだ。産後の肥立ちが思わしくなく、お栄は息を引き取った。千鶴はことの真相を明らかにしてくれるよう女囚たちに哀願された。
女中として蝋燭屋の三国屋に入ったお栄は絵心があり、お栄が絵を施した花蝋燭は三国屋に客を呼び寄せた。養子であった与茂助は店の繁盛で三国屋の跡取りになれたのだ。千鶴は仕入れで西国巡りから帰ってきた与茂助に直接真相を訊く。
殺された銀六から与茂助は強請られていた。銀六がお栄に匕首を突き付けると、お栄は銀六の手首に噛みついた。与茂助は銀六目がけて材木を振り下ろすと、避けた銀六の上に材木が倒れてきて頭に当たりそのまま銀六は死んだ。お栄は自分が手込めにされそうになって、材木で殴ったと奉行所に申し出たのである。
与茂助はお栄を妻に迎えようと思っていた。お栄が産んだ子どもは与茂助の子どもだったのだ。
 
「春落葉」
賊は裸にして後ろ手に縛り口と目に鳥もちを塗った有森藩の中間に、「これで思い知ったか」と捨て台詞をして立ち去ったという。両国橋の西詰で小鳥に芸をさせている痩せた老人・宇吉が、桂治療院に運ばれてきた。宇吉の腹には手の施しようのない腫瘤があった。
宇吉は鳥刺しである。鳥刺しとは御鷹匠の差配で鷹の餌をとる者だ。おおかたは町人が請け負うが帯刀を許されている。鷹には1日雀10羽を必要とする。そんな宇吉がなぜ江戸にいるのか。
そして、またもや鳥もち事件が起こった。おふさという長唄の師匠で、有森藩の御留守居役の須崎源之丞の妾だった。
その昔、有森藩の城下で呉服商を営んでいた井筒屋の息子兄弟が、傷ついた雉を助けようと捕まえた。兄弟は、国家老の三男坊・須崎源之丞に御鷹場で禁止されている鳥を捕獲したと、鳥もちで追い回され、弟の顔を鳥もちが覆い殺された。井筒屋は藩に事の次第を訴えたが、兄・儀一の作り話と退けられ井筒屋は追放になった。その一部始終を見ていた宇吉は、源之丞の仕業だと言い出せなかったことを後悔した。
鳥もち事件の犯人は儀一の仕業と分かった。源之丞は酒宴の席で庭に出て、鳥もちを口に放り込まれて死んだ。源之丞の隣には年老いた男の小さな骸が転がっていた。

「走り雨」
弟子のお道を人質に取られた千鶴は、ある町家まで目隠しで駕籠で連れていかれ、人質解放と引き換えに若い侍の肩の創を縫合した。
おじの酔楽が風邪をひいたから、代わりに、大目付の下妻の子どもを往診しろという。子どもはよくある便通の支障であった。下妻の妻が一昨日5人の覆面武士が侵入してきて、警護の武士が、そのうちのひとりに肩に傷を負わせたという。
千鶴は、駕籠の中で橋を渡って坂を登り鐘を聴き、石段を登り、琵琶の音を聞いたことを頼りに、連れていかれた町屋の場所を突き止め、菊池求馬とともにその家に乗り込んだ。そこには肩を切られ治療を受けた順之助がいた。
本山藩は藩主が贅沢をして農民の食い扶持までも税として納めさせた。下妻は疲弊した18ヶ村を幕領として取り上げ、石高を下げ農民たちを救ったのだ。下妻を襲った順之助たちは自分たちの藩主が正しいと誤解していたのだ。血気盛んな5人の前に、千鶴、求馬、酔楽、下妻が現れて、下妻が真実を切々と伝えるのだった。結末は泣ける。→人気ブログランキング

藁一本 藍染袴お匙帖/2019年
風光る 藍染袴お匙帖/2005年

感染症の日本史 磯田道史

これまで人間に感染するコロナウイルスは4種類だったが、SARSとMERSが加わり、そこに新型コロナが入り、7種類になった。
ヒト・コロナウイルスがはじめて出現したのは、紀元前8000年という説が有力。農耕革命と定住化により、西アジアで、羊や山羊、豚の飼育がはじまった頃である。異種間伝播によると考えられる。

パンデミックはマクロとミクロの視点でアプローチしてこそ、本当の姿がわかるという。そこで著者は日記に目をつけた。
Photo_20201104141901 感染症の日本史
磯田道史 (Isoda Michihumi
文春新書
2020年9月 ✳8

著者は、スペイン風邪と当時の政局を克明に綴った『原敬日記』で読み解く。
スペイン風邪は3波まであった。第1波は、1918年(大正7年)5月から7月にかけて。死者は出ていない。原敬は、同年9月に第19代内閣総理大臣になった。第2波は、同年10月から翌年5月まで、26.6万人の死者が出た。原敬は第2波の流行感冒に罹った。第3波は、1919年の12月から翌年5月ごろまで、死者は18.7万人。
ここから得られる教訓は、ウイルスによるパンデミックは、年単位で再流行する可能性があるということ。戦争よりもパンデミックによる死者の数の方が圧倒的に多いことがわかる。
『原敬日記』は、1975年(明治8年)から死の1921年(大正10年)11月4日まで書かれている。大正天皇が風邪をひいたという記載があり原敬の盟友・山県有朋は重体になった。皇太子(昭和天皇)も秩父宮もスペイン風邪に罹った。

続いて、スペイン風邪に翻弄された、歌人や小説家のエピソード。
与謝野晶子は11人の子供がいたが、その全員がスペイン風邪に罹患した。晶子は政府の後手に回った無策ぶりを、1918年11月10日付の『横浜貿易新報』で批判している。

永井荷風は、2度インフルエンザに罹ったことを『断腸亭日乗』に書いている。2度目の感染で亡くなった。

志賀直哉はインフルエンザ小説『流行感冒』を書いた。
1919年3月、36歳の志賀は3年前に生れたばかりの長女を亡くし、2年前に次女が生まれ、その年に生まれた長男も出生直後に亡くした。千葉県の我孫子に住んでいた志賀親子の女中が、嘘をついて夜芝居に出かけてしまう。志賀自身がインフルエンザにかかり、家にきた植木屋にうつされたものだった。志賀は、女中に夜芝居に出かけてはいけないと言い渡し自粛警察めいた行動をとったことを反省している。

宮沢賢治の妹トシが東京でインフルエンザに罹り、帰郷して花巻女子高等学校で教鞭をとった。その後、結核で倒れ、24歳の若さでで永眠する。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」というフレーズが有名な「永訣の朝」は、トシの死の日に書かれた。

歌人で医師の斎藤茂吉が長崎医学専門学校教授に就任したときに、スペイン風邪に罹かり、1か月以上床に伏したという。→人気ブログランキング

感染症の日本史/磯田道史/文春新書/2020年
新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃  小林雅一

遺伝子工学や生命科学の分野で、過去に類を見ない驚異的な技術革新が進んでいる。
その技術革新とは、「クリスパー(正確には、クリスパー・キャス9遺伝子改変技術)」。クリスパーは遺伝子をピンポイントで切断したり改変したりを容易にできる。
従来の遺伝子組み換え技術は、100万回に1回という途方もなく低い成功率であったため、膨大なコストと時間を要した。
著者は、ここ数年間のうちにクリスパー技術にノーベル賞が与えられると予言した。それが見事に的中したのである。

 

クリスパー(CRISPR)とは「Clustered Reguraly Interspaced Short Palindromic Repeats」、日本語に訳せば「規則的に間隔を置いた短い回文の反復」である。クリスパーは、数10文字の短い回文が、一定の間隔を置いて繰り返し出現する塩基配列を指す。その間隔(スペーサー)の部分には、回文とはまったく関係がない塩基配列が存在する。
クリスパーは、過去のウイルス攻撃の爪痕であり、次に同じウイルスと接触したときに自分の敵であることを知らせるための情報である。スペーサーが、過去に攻撃を受けたウイルスのDNAの文字列である。
このスペーサーの塩基配列に食らいつき切断してしまう「分子のハサミ」Csn1遺伝子を、エマニエル・シャルパンティエ博士(スウェーデン・ウメオ大学教授)とジェニファー・ダウドナ博士(カリフォルニア大バークレー校教授)の共同チームが見つけ出し、2012年6月に『サイエンス』に発表した。
ところがクリスパーの特許を手にしたのは、フェン・チャン博士(ブロード研究所)だった。クリスパー技術の特許に関して、シャルパンティエ氏・ダウドナ氏とチャン氏の研究チームが法廷闘争を繰り広げている。
いずれにせよ、ここ数年間のうちにクリスパー技術で、ノーベル賞をこの3人が獲得するのは間違いないと、著者は予測している。

遺伝子編集の技術によって、農畜産分野では、「肉量の豊富な家畜や魚」や「腐りにくい野菜」などが開発されている。
一方、医療分野では、筋ジストロフィー、細胞移植療法、エイズ、アルツハイマー病などに対する応用、ダウン症あるいは全ゲノムが解明しているメンデル遺伝病などに対する基礎研究が始まっている。

アマゾンやグーグルなどの世界的なハイテク企業は、無数の患者から集めたゲノムデータを集積している。こうしたビッグデータを最先端AIで分析することにより、複雑な病気の原因遺伝子や発症メカニズムを解析することができる。

臓器移植の分野では、豚の臓器を人間に移植する際、問題になるのは豚のDNAに62カ所にレトロウイルスの塩基配列が組み込まれていること。これをクリスパーで除くことに、2015年10月、ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授が成功した。
チャーチ教授はクリスパー研究の第一人者で、センセーショナルな行動で有名。「骨を強化する」「心臓病にかかりにくくする」など10項目に上がる候補遺伝子を特定し、人類を強化するという計画を明らかにしている。
それは技術的に可能でも、倫理的に許されるのか?
優生学的な思想の復活につながるのではないかという危惧がある。
なお、2016年5月、日本では厚生労働省研究班は移植患者を生涯にわたって定期検査することなどの条件付きで、異種移植の実施を許可した。

遺伝子組み換え作物(GOM Genetically Modified Orgasnisms)の定義は、「バクテリア由来の外来遺伝子を、同じくバクテリア(アグロバクテリウム)の力を使って食物に組み込んだもの」。外来遺伝子には、Bt(バチルス・チュリンゲンシス)と呼ばれる殺虫性バクテリアの遺伝子や、あるいは除草剤への耐性を備えた細菌の遺伝子などがある。「感染力」や「毒性」など、ある種の危険性を持つバクテリアがGMO栽培には関与しているので規制が必要と考えられた。
ゲノム編集クリスパーを使って作成された30種類の農作物は、GMOではないとされアメリカでは規制の対象にはなっていない。

「遺伝子ドライブ」という問題がある。遺伝子工学を使ってマラリアを媒体する蚊などを駆逐してしまう技術のことだが、蚊を駆逐することで、長い目で見て生態系に思わぬダメージを与える恐れがある。一旦、破壊された生態系は元に戻らない。このため米国科学アカデミーなどが、遺伝子ドライブにモラトリアム(一時停止)をかけようとしている。しかし、ジカ熱の流行で遺伝子ドライブを行うべきだとする意見は強力である。

生殖細胞と体細胞で研究のスタンスが異なる。
体細胞をクリスパーで治療することはさしたる問題がないが、現時点で生殖細胞のゲノムを編集することは、デザイナー・ベービー(頭の良い、背の高い、容姿端麗な子)を作ることにつながる。まさに映画『ガタカ』の世界である。

遺伝子治療は、「生体外」と「生体内」がある。
ヒトの病気を動物に発症させて薬の効果や病気のメカニズムを解明する。
「生体内」は正常な遺伝子を組み込んだウイルスを異常な遺伝子を有する細胞に侵入・感染させることにより、正常な遺伝子に置き換わることを期待する。
生殖細胞の、体外受精で得た受精卵を調べ、メンデル遺伝病がないことを確認して子宮に着床させる。

生殖細胞へのゲノム編集は当面慎むべきである。体細胞へのゲノム編集は基本的に行って構わない。ただし、その際にはすでにある医療規制の枠内で行わなければならない。
「人遺伝子編集についての国際サミット」(2015年12月)での結論は、研究は「しかるべき法的倫理的な監督下に置かなければならない」。
しかし、こうした自主規制が破られるのは時間の問題だろうという見方が強い。→人気ブログランキング

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新型コロナVS中国14億人 浦上早苗

中国は、民主主義国家では到底できない人権無視の政策を断行してきた。1月24日からの春節の前に武漢をロックダウンし、中国全土で人の集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、コロナの封じ込めに成功した。中国を「隠蔽で初動が遅れ、ウイルスをばらまいた国」という一面のみでとらえるべきではないという。

中国が感染の中心だった頃は、中国の強権的なロックダウン、テクノロジーを駆使した行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、今や多くの国で中国方式を取り入れている。この強権的な対策は、政治家ではなく医師らの提案によるものだという。

Vs14 新型コロナVS中国14億人

浦上早苗
小学館新書
2020年6月 10✳

突貫工事でコンテナ病院が建設された。5Gを用いた通信システムにより、遠隔診断し治療法が指示された。医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。スピーカーを搭載した5Gドローンが住宅地を巡回し、おしゃべりしている人やマスクをつけていない人を家に追い返した。
PCR検査なしでもCT画像からコロナを診断してもよいとされた。アリババ・グループのAI技術が、CT画像から20秒で診断する。その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。

2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「健康コード」が杭州で導入された。赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が要請される。このアプリにより、身元を隠して暮らしていた人たちが行き場がなくなり指名手配者が自首してきたという。また不正給与支払いが発覚した。

日本の厚労省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは、6月19日。なんだか腹立たしいくらい遅い。こうしたアプリは60%の人々が登録しないと、有効ではないというから、日本でこの接触アプリがまともに機能することはないだろう。

新型コロナウイルスの存在は12月31日に確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、7日に国連にも提供されている。
2月27日に、初動の遅れを新型コロナ対策ハイレベル専門チームの鐘南山氏(83歳)が批判している。SRASで陣頭指揮をとった鐘氏は、政府を批判したことで人々に支持され、精神的支柱となった。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。

企業がコロナ対策に寄与した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が追加された。
出前アプリのEle、me、ハイテクスーパーのHema、オンライン旅行のFliggy(飛猪)、口コミサイトのKoubei(口碑)が、武漢の医療関係者に食料や生活用品を手配した。
Fliggyが武漢の宿泊施設に無料で宿泊できるように呼びかけ、3000以上が協力した。
地図アプリ会社は医師たちの無料送迎を行った。

中国の新型コロナ累計死者数は4632人と、従来の3342人から修正された。4月16日時点の累計確認症例数は8万2692件となっている。
例えば、広東省は1億2千万の人口だが、感染者は1600人、死者は8人で、同じ規模の東京よりはるかに少ない。
情報が透明でなかろうと、中国は新型コロナの封じ込めに今のところ成功してるといえるだろう。

ヨーロッパ、中東やアフリカ諸国にマスクや防護服、PCR検査機器、人工呼吸器などを援助物資として送ったが、多量の粗悪品が含まれていて中国に送り返されたという。政府は製品検査を厳格化して、劣悪な製品をつくる企業を淘汰する。中国は恥をかいても前へ進んでいく。恐ろしい国だ。

著者は経済ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。1998年から西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年に中国大連の東北財経大学に国費留学した。その後大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に翻訳や執筆を手がける。法政大学イノベーションマネジメント研究科講師。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ウイルスは生きている 中屋敷 均

妊婦にとって異物である胎児は妊婦の免疫システムの攻撃対象とはならない。それを可能にしているのが、胎盤の絨毛を取り囲むように存在する合法体性栄養膜という特殊な膜構造である。合胞体性栄養膜の形成に重要な役割を果たすシンシチンというタンパク質が、人のゲノムに潜むウイルスが持つ遺伝子に由来するという。
そうした例は他の生物にもみられる。

人の遺伝子に入り込んだウイルスに触れる。インフルエンザ・ウイルスついて語り、ウイルスの基本構造や転写のメカニズム、さらに生物に有利に働くウイルスについて触れる。最後は、結晶化するウイルスが生きているかどうかについての著者の見解が示される。
Image_20200617111201 ウイルスは生きている

中屋敷 均
講談社現代新書
2016年

ウイルスの形態については、ウイルス粒子を包むエンベロープを含めて「ウイルス粒子」と呼ぶ。エンベロープタンパク質がエンベロープに突き刺さるように配置されている。これが宿主のレセプターと結合し、エンベロープは細胞膜と同じ構造であり、宿主細胞にスムーズに侵入することができる。エンベロープはリン脂質からなる細胞膜でできているから、石鹸が効果がある。
インフルエンザ・ウイルスに石鹸が効果があり、胃腸炎を起こすノロウイルスはエンベロープを持たないため石鹸の効果がない。

世界はウイルスだらけだ。地上も海中も、生物の中にも生物のゲノムの中にもウイルスの遺伝子が潜んでいる。
巨大化したウイルスも、ウイルスと呼んでいいのか迷う半端なものまで、ウイルスのスペクトラムは広い。

最後に、ウイルスが生きているかどうかについて、「ガイア仮説」と絡めて考察する。ガイア理論は、ジェームズ・ラブロックにより1960年代に提唱された。地球全体を地球と生物が相互に関係しあうある種の巨大な生命体とみなす。
結晶化するウイルスが提示されて以来、ウイルスには生きていないとされる論調が多数派を占めるようになった。
DNA情報からなる「ヒト」としての「生」と、脳情報からなる人格を有した「人」としての「生」を分けて考えるべきだという。ふたつは密接な関係にあるが別のものだという論理を展開する。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ナニワ・モンスター 海堂 尊

第1部では、キャメル・インフルエンザ・ウイルスによる感染症の広がりをあおり、浪速地区の経済に打撃を与えようとする動きに、難波府知事が敢然と立ち向かう。
第2部は、検察庁の覇権争いを描く。キャメル・インフルエンザ騒動の1年前である。
第3部は、著者の持論であるAi(Autopsy imaging、死亡時画像病理診断)を普及させることがテーマ。死後の解剖は遺族にとって簡単に承諾できるものではない。それが、CTやMRIであれば、同意のハードルは低くなる。死亡時にCTもしくはMRIで、死亡原因を特定すれば、医療事故も医療訴訟も激減するという。Aiを主導するのは医療側であって司法側ではないというのがキーワード。
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ナニワ・モンスター
海堂 尊
新潮文庫
2014年 ✳︎8

中東で、ラクダ由来のキャメル・インフルエンザが流行の兆しをみせ、厚生労働省は空港での水際作戦を展開した。
病気が日本に入ってきていないのに、「キャメル・ファインダー」という検査キットが、浪速診療所に配布されていた。
浪速大学公衆衛生学教室の本田苗子准教授は、浪速医師会の講演会でキャメル・インフルエンザについて講演し、テレビのワイドショーではこの新しいインフルエンザの脅威を強調した。感染力は強いが致死率は0.002%ときわめて低い。そんな弱毒のウイルスに警戒態勢をとる政策はやりすぎではないか。さらに本田准教授の経歴は簡素すぎて胡散臭い。

発熱患者が浪速診療所を受診し、キャメル・ファインダーで陽性を示した。PCR検査を行うと陽性であった。マスコミは過剰に反応し、ゴールデンウィークの海外渡航を控え、関西地区への観光を控えるようにと呼びかけた。
全国のキャメル発生患者が報告された地区と、サンザシ薬品が迅速検体キットを配布した地区と一致していた。
テレビでは、本田准教授はキャメル・インフルエンザ・ウイルスによる、パンディミックの発生を警告すると訴えた。浪速の町は人の行き来が少なくなり観光客の足が途絶えた。この浪速の危機に辣腕の村雨弘毅府知事が動き出す。

本書で著者が取り上げたのは膠着する日本の現状である。3部のそれぞれのエピソードは裏でつながっており、そこには霞が関コングロマリットの闇がある。著者は道州制をを論じ、霞が関主導の官僚体制を壊すことに話が及ぶ。→人気ブログランキング

チーム・バチスタの栄光/海堂 尊/宝島文庫/2005年

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

感染症の世界史 石井弘之

人類の歴史は感染症との戦いの歴史でもあり、各世紀にはそれぞれの時代を背景にして世界的に流行した感染症があった。13世紀のハンセン病、14世紀の「黒死病」と呼ばれたペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20~21世紀のインフルエンザとエイズである。

新型コロナウイルスが世界を席巻するなか、本書は急遽増版されベストセラーになった。コンパクトな文庫ながら感染症の歴史を網羅的に言及し、ある程度深くまで掘り下げている。オマケとして、各項で取り上げられた感染症に罹患した著名人のリストが載っている。

Photo_20200523123501感染症の世界史

石井弘之
角川ソフィア文庫
2018年 ✳10

歴史上、戦争で死亡した将兵の少なくとも1/3から半数は、病死だったと推定されるという。その中で感染症の占める割合は圧倒的に多い。
日本では、日露戦争で戦死した5万6千人のうち約半数は病死だった。第一次世界大戦中の総死者数972万人中589万人つまり60%が、戦病死者だった。特に連合国軍、同盟国軍の双方にスペインかぜの感染が爆発的に発生した。戦死者の1/3はスペインかぜによるものだった。第二次世界大戦中、日本軍はルソン島で5万人以上、インパール作戦では4万人、ガタルカナルでは1万5千人がマラリアで死亡している。

今後の人類と感染症との戦いを予想する上で、最も激戦が予想されるのは、中国とアフリカであろう。いずれも公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
新興感染症(エマージング感染症)といわれる新たな感染症が、次々に出現している。マールブルグ、リフトレバー熱 、ラッサ、エボラ出血熱、西ナイル熱、エイズ、SARSなど、新興の感染症は1950年代末から約40種類知られている。

これらのウイルスは豚、牛などの家畜や、ネズミ、コウモリ、野鳥などの野生動物が保有するウイルスに由来するものが多い。ウイルスは何回も変異を繰り返しているうちに、宿主から飛び出して他の種に乗り移り、うまく定着できるものが現れる。SARSの原因になったコロナウイルスの仲間が、人間にこれほど恐ろしい病気を引き起こすという認識は全くなかった。動物から人間に移ったときに凶悪化した。

スペインかぜのゼロ号患者には、アメリカ・カンザスシティ説が有力であった。そのほか、フランス説、中国説がある。2013年、カナダのメモリアル大学、マーク・ハンフリー教授は、第一次世界大戦中に英仏軍が西部戦線で9万6000人の中国人労働者を使っていた史実を発掘した。米国の基地で流行する前に、スペインかぜとみられる呼吸器病が中国国内で流行っていた記録があった。
第一次世界大戦の中立国のスペインは、800万人が感染した。他の多くの国が情報を統制していたが、スペインだけは流行が大々的に報じられ、スペインかぜと呼ばれるようになった。
当時の世界の人口は18億人だが、少なくとのその半数から1/3が感染し、世界の人口の3~5%が死亡した。日本は2300万人が感染し、38万6千人が死亡した。
第一次世界大戦はスペインかぜにより終結を早めたといわれている。

熱帯や亜熱帯の森林が伐採され、野生動物と家畜や人間が近づきあるいは接触し、ウイルスによる感染症が家畜や人間に広がり、そして家畜から人間に感染が広がるようになる。ウイルスは変異し感染力が強くなり致死率も上がる。
こうした、パンデミックに至るウイルス感染症は自然災害であるとする。

日本と他の先進地域とのワクチン行政の差は「ワクチン・ギャップ」と呼ばれている。「ワクチンで防げる感染症」の予防についての日本の国際的評価は、先進地域の中で最低レベルにある。はしか、水ぼうそう、おたふくかぜ、結核などが流行するのは、先進国で日本くらいのものだ。→人気ブログランキング

感染症の日本史/磯田道史/文春新書/2020年
新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

首都感染 高嶋哲夫

新型コロナウイルス禍に世界中が見舞われている今を見通していたかのような内容である。その著者の先見の明にはただただ驚嘆するばかりだ。
世界がインフルエンザのパンデミック・クライシスに陥るなか、日本は東京を封鎖するという前代未聞の政策により、最悪の事態を免れようとした。その政策断行の先頭に立つ政治家や諮問委員会のメンバー、そして医師や最前線の医療機関で奮闘する人びとを描いた力作である。
なお本書は2010年12月書き下ろし作品として出版されたものの文庫化である。

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首都感染

高嶋哲夫
講談社文庫
2013年 ✳︎10

病原体は感染性と致死性が極めて高い新型インフルエンザ・ウイルスである。致死率は60%、サイトカイン・ストームを引き起こし、多臓器不全に陥り死に至る。感染症の専門家たちが、いずれH5N1型による高毒性の新型インフルエンザが猛威を振るうと予測していた矢先の出来事だった。

20✳︎✳︎年6月、北京でW杯サッカーが開かれており、世界のサッカーファンが北京に集まっている。中国チームは怒涛の勢いでイタリアとの決勝にまで進んでいる。
一方、中国雲南省で発生したインフルエンザにより、すでに10の村が全滅し、軍隊が出動し死体の処理を行っている。中国政府はW杯が終わるまで隠蔽しようとしたが、死者数の爆発的な増加により決勝戦を中止する決断に至った。

主人公の瀬戸崎優司は、WHOでインフルエンザの研究をしていたが、今は都内の黒木総合病院に勤務している内科医である。優司の父親は首相の瀬戸崎雄一郎、厚労大臣の高城は優司の元妻の父親である。優司の元妻・里美は現在もWHOに勤務している。さらに優司の同級生の黒木は医学部を卒業した後、基礎分野に進みインフルエンザ・ワクチンの研究をしている。優司の人脈は、インフルエンザを向かえ撃つ体制として万全である。
WHOに勤務していたとき優司はインフルエンザのパンデミックを想定した「都市封鎖」の論文を書いた。感染症対策のプロフェッショナルだ。

優司は新型インフルエンザ対策本部に招聘された。
中国政府が公表する前に、情報を掴んでいた日本は中国からの航空便の乗客を機内で検疫し、帰国後5日の間ホテルに缶詰とし、感染が疑われる人は入院させる方針をとった。
翌朝、新聞は政府が騒ぎすぎと書き立てる。また中国は日本の措置に遺憾の意を表明した。

北京から感染者が自国に帰っていく。案の定、各国でまたたく間に感染者と死者が爆発的に増加するなか、まだ日本では感染者が出ていない。
優司は空港閉鎖、新幹線などによる長距離の移動の禁止を進言した。
そうこうしているうちに、WHOは世界を震撼させる感染者数と死亡者数の発表を行った。
優司は東京封鎖という前代未聞の政策を提案する。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

コロナの時代の僕ら

著者は25歳の若さでイタリア最高峰の文学賞とされるストレーガ賞を受賞した気鋭の小説家で、大学では物理学を専攻していたという。本書は27篇のエッセイと著者のあとがきからなる。
COVIT-19の感染について書いた時によって、感じ方は変わっただろう。27篇のエッセイは2月29日から3月4日まで『コリエーレ』紙に掲載された。2月25日に323人だったイタリアの感染者数は、2月29日1129人、3月4日には3089人になった。感染者数が爆発的に増えたのはそのあとである。
Photo_20200428173501コロナの時代の僕ら
パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介
早川書房
2020年

そして、著者あとがきの「コロナウイルスがすぎた後も僕が忘れたくないこと」が掲載されたのが3月20日。イタリアでCOVIT-19の流行が始まってから1ヶ月間を振り返った内容になる。3月20日の感染者数は47,021人、死者数は4,032人。この時点でイタリアの医療は完全に崩壊していた。
最近(4月27日)の状況は、感染者数197,675人、死亡者数26,644人で、感染者数は頭打ちになっているとされている。

イタリアが最悪の事態になる前に書かれた文章は、余裕がありユーモアすら感じられる。
<いったん終息すれば過去に流行した多くの感染症を犠牲者の数で上回ることはないだろう>との予測を述べている。しかし、その予測は必ずしも当たっていなかったことがわかる。
物理学を専攻した著者ならではのテーマを扱ったのが「感染症の数学」「アールノート」である。数学的に感染を減らすにはどのように考えるべきなのかをクリアカットに論じている。いま日本で実践を推奨されている「接触を80%減らす」につながる理論的根拠が示されている。

あとがきの「コロナウイルスがすぎたあとも、僕が忘れたくないこと」は、爆発的に感染が拡大した頃に書かれたもので、説得力があり感動させられる。〈すべてが終わった時、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか。もとに戻ってしまわぬように、この苦しい時間が無駄にならぬように、元に戻って欲しくないもののリストを作っておく〉ことを提案している。

本書は世界27カ国で発売されたという。間違いなく世界的ベストセラーになるだろう。著者は印税の一部を医療機関および感染者の医療に従事する人々に寄附するという。→人気ブログランキング

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