アメリカ

公園に行かないか?火曜日に 柴崎友香

著者は、アイオワ大学で催されたインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。期間は2016年8月20日から10週間、参加した作家は33か国から37人。その約3か月間の滞在記を、エッセイ風の連作短編に仕上げた。
英語が堪能でない著者は、英語しか通用しない世界で、生活するだけで相当のエネルギーを費やす。ことさら言葉に思いがいき、英語と日本語の意味のギャップを掘り下げて考察する。

今までにIWPに参加した日本人は、中上健次(1982年、『アメリカ・アメリカ』)、水村美苗(2003年、『日本語が滅びる時』)、中島京子(2009年)、藤野可織(2017年)、そして著者。2018年には、滝口悠生が招聘され、『やがて忘れる過程の途中』というエッセイ集を書いている。(『』内はIWPについての著作)。
中上健次のなんでも吸収しようとする渇望感や、何かを発信しようするエネルギーは、本書にはない。そういう時代はとっくに終わったのだということを知らしめる。

Photo_20200623143801公園に行かないか?火曜日に

柴崎友香
新潮社
2018年

「公園に行かないか?火曜日に」
アメリカの町は自然に従うよりも合理性をとって碁盤の目のように道を通す。アイオワシティもその例に漏れず、急に登りになって直角に曲がったりする。
公園にいかないかと、ラインで誘いがあった。
ぬかるみもありけっこう長く歩いて森を抜けると、スキー場のようななだらかでのっぺりとした斜面に出た。終わりは見えないほど広かった。

「ホラー映画教室」
アイオワ大学は敷地の境界がない。大学が民間の家を買い上げて、町の中に大学の施設があったりする。デイ・ハウスの地下で『シャイニング』を上映するというので、香港から来たヴァージニアと出かけた。会場にたどり着く様子や、女性が夜道を歩くこと、ドアを開ける音など、タイトルらしい出来事が綴られる。

「It would be great!」
アイオワシティには鉄道の駅がないから町の中心をいつまでもつかめないという。
greatは、文脈によって微妙にニュアンスが違う。つまりgreatだけれど、ぜんぜんgreatじゃないことがある。

「とうもろこし畑の七面鳥」「ニューヨーク、2016年11月」「小さな町での暮らし/ここと、そこ」「1969年 1977年 1981年 1985年そして2016年」「ニューオリンズの幽霊たち」「わたしを野球に連れてって」「生存者たちと死者たちの名前」

「言葉 音楽 言葉」
ボブ・ディランのノーベル賞受賞が発表された。なんでボブ・ディラン? ほかにとるべき人がいるのにと、少し議論になった。
何かをするたびに、グレイト! パーフェクト! 大げさだと思っても、英語での生活に苦労している身にとっては、励まされるという奇妙な心境になる。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

『アメリカ・アメリカ』 中上健次

1982年秋、著者は、世界の36カ国から作家が集まって3か月を過ごすアイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。
レガノミックスの時代である。レバノンで大量虐殺があり、フォークランド紛争が勃発し、コロンビアのガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞した。
Photo_20200612081101アメリカ・アメリカ 
中上健次
角川文庫
1992年

著者は、IWPのプログラムは大した実りがないと判断し、ブルドーザーのようにまわりを巻き込んで突き進む。
文学の討論をするわけでもなく、病院のようなアパートでなまった英語て取り止めのないことを話すのが目的だと知れた。ペチャクチャしゃべるだけだ。
著者は、意欲的に自ら朗読会を催すと、ペチャクチャグループも参加するという。

著者はIWP参加者にインタヴューをはじめた。
インタヴューには、ヨイショのインタヴューと相手を怒らせて腹の中を覗くという方法があるという。インタヴューが5人目になるころには、インタヴューを待ち受けるようになった。
ちょうど、ガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞したニュースが飛び込んできて、ラテン・アメリカの参加者たちは、マルケスの受賞に戸惑ったようだった。大家ボルヘスが受賞しないのはなぜかと訝った。

プログラムの最後には、IWPが用意した旅費付きの国内旅行を、車でやってみようと著者は思いつき、中南部アメリカを一人で駆け抜けた。

後半は、20世紀文学の巨匠ホルヘ・ルイス・ボルヘス、ジャマイカ出身のレゲエの先駆者ボブ・マーリーらへのインタビューが掲載されている。
ボルヘスとの対談は、著者がボルヘスを持ち上げたり、何かを引き出そうとしたり、懸命に立ち向かうのだが、ボルヘスは核心をジョークで受け流す。ボルヘスが著者を軽くあしらっているという印象である。

「書くこと」に真正面から取り組もうとするエネルギッシュな中上の本領が垣間見える。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

『炎の中の図書館』スーザン・オーリアン

ロサンゼルス中央図書館が火事で焼け落ちた。7時間以上燃え続け、110万冊の本が燃えるか損傷した。幸い死者は出なかった。
以前より、中央図書館は消防署から20箇所もの不備の指摘を受けていた。その日(1986年4月29日)も火事が起きる前に火災報知機が誤作動し消防署に連絡している。
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炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火

スーザン・オーリアン/羽田詩津子
早川書房
2019年 ✳︎10

火事が起こった日に、年配の女性は図書館内で金髪で口ひげを生やした青年が足早に歩いてきてぶつかり、青年は動揺しているように見えたが、彼女が起き上がるのに手を貸してくれた。それから大急ぎでドアに向かったと証言した。
その男ハリー・ピークは、火事の後口髭を剃り落とし、友人に放火をほのめかす話をした。ハリーはハリウッド・スターを夢見る虚言癖が著しい人物だった。ハリーは供述をころころ変え捜査を翻弄した。状況証拠からハリーが放火犯であることは間違いないとみられたが、ふたりの宗教家がハリーと一緒にいたと証言した。この宗教者たちの証言もハリーの証言に呼応するように変わったが、起訴はされなかった。

本書は単なる火事の記録ではない。
出火原因の調査の記録、アメリカにおける図書館の歴史、ロサンゼルス市と中央図書館の黎明期から現在に至る歴史、アメリカで公立図書館が果たしている役割、世界の焚書の歴史などが、鋭い分析と明快な文章で綴られている。
著者が直接インタビューした人もしなかった人も、そしてすでに亡くなった人も、多くの人々がいきいきと登場する。
図書館がどれだけ魅力的で希望が満ち溢れている場所かを余すことなく伝え、著者の図書館への愛が行間から滲み出ている好著である。

日本とは違い地域における図書館の役割は多い。
地域で問題が起こると、図書館が利用される。工場からメタンガスが流れたとき、自宅を追い出された住民の集まる場所となった。鉛汚染が起きたとき、住民の血液検査の場所となった。
移民国家アメリカでは図書館が、福祉や教育に大きく踏み込んでいる。外国人たちの会話クラスや識字クラスが運営されている。教えるのはボランティア。電話の請求書、学校からの通知、税金関係の申請書が理解できるように手を貸し、読み書きを知らない人には個人的な手紙を読んであげ、返事を書くのを手伝うこともあるという。市民権を得る方法を週に2時間指導している。
今は、ホームレスの溜まり場になっているという。

〈図書館では時間がせき止められている。ただ止まっているのではなくて、蓄えられている。図書館は物語と、それを探しに来る人々の貯蔵庫なのだ。そこでは永遠を垣間見られる。だから図書館では永遠に生きることができるのだ。〉という言葉が印象的だ。→人気ブログランキング

『インディアンとカジノ アメリカの光と影』野口久美子

本書のキーワードは「国家の良心」である。アメリカが、アメリカ全土を所有していたインディアンとの約束(契約)を、どう履行しようとしてきたかである。

インディアンとカジノ (ちくま新書)
野口 久美子(Noguchi Kumiko
ちくま新書
2019年11月 ✳︎10

1990年代以降、カジノを建設するインディアン部族が急増した。現在240の部族が、500以上のインディアン・カジノを経営しており、およそ20年で総収益がアメリカの商業カジノの収益を上回った。インディアン・カジノは、保留地内では州の税制や法制度の適用が制限されるという経済活動上のメリットを生かした、保留地ビジネスである。
インディアン・カジノ時代は、部族がその当然の権利を行使することによって出現した、インデアン史の新しい時代であるという。真に見えてくるのは、それまでに解決されてこなかった、インディアンの圧倒的な貧困であるという。

アメリカはインディアン部族という主権国家群の土地の上に建国された国である。アメリカには、個々の部族を一つの主権国家と承認したうえで、部族から土地の譲渡を受け、その見返りに部族自治を保護するという約束がある。この方針を、インディアン史の権威ウィルコム・ウォッシュバーンは、「国家の良心」と呼んだ。

アメリカ憲法では、部族は国内依存国家という固有の政治的地位を持ち、部族に州法は適応されないこと、連邦政府が部族の政治的地位を保護する責任があることの3点が明確になった。しかし、現実は保留地に閉じ込めただけで、十分な補償は望むべくもなかったのが実情である。

国家を頼りにすることを諦めたインディアンが、貧困から抜け出そうとして考え出されたのが、タバコ産業であり、その次がビンゴ、そしてカジノである。
1977年、フロリダ南部のセミノール部族の保留地にビンゴ場の建設が予定された。1979年、ビンゴ場は予定通りにオープンした。大盛況で6ヵ月で融資を返済する大成功のビジネスとなった。
1980年、カリフォルニア州南部の部族カバゾンが、保留地内にカジノを開いた。州はカバゾン・カジノに営業停止を命じた。しかし最終的にアメリカ最高裁判所に持ち込まれ、1987年、「保留地における部族カジノは州に規制されない経済行為である」との判決が下った。
カバゾン判決以後、カジノ産業に乗り出す部族が急増した。部族は経済的自活の手段を獲得したのである。
1988年、レーガン大統領によって、「インディアン・ゲーミング規制法(カジノ法)」制定された。同法は、インディアン・カジノ産業に連邦と州がどこまで介入できるのか、どこからが介入できないかという点を明確化した。これが「アメリカ(国家)の良心」の今日的な姿であるという。

インディアン・カジノは、連邦政府の責任回避の結果である。アメリカは建国期から部族自治を尊重し、保留地を保護する責任を負ってきたはずである。この「良心」は過去200年以上もの間、司法、行政、立法の指針とされながらも、その元来の意味は有名無実化されてきた。そして、強制移住政策行われ、抵抗する部族を虐殺し、そして保留地政策が行われた。アメリカが保護責任を放棄してきた結果が、インディアン部族に圧倒的な貧困をもたらしたのは間違いないとする。

インディアンとカジノ アメリカの光と影/野口久美子/ちくま新書/2019年
インディアンの夢のあと:北米大陸に神話と遺跡を訪ねて/徳田いつこ/平凡社新書/2000年

『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』カート・アンダーセン

なぜ、アメリカはドナルド・トランプを大統領に選出するようなとんでもない国になってしまったのか。本書はそれを解き明かすアメリカの精神文化史である。
 
2016年の大統領選が始まったときに、著者は本書を書き出して2年が経っていて、トランプが共和党の予備選で先頭に立ったのには驚きかつぞっとしたが、満足感を覚えたという。それは著者の理論が正しかったことが政治の場で証明されたからだ。大統領になるとトランプは、自分にとって不都合な報道を、すべて「フェイク・ニュース」と呼ぶようになった。大統領就任式の観衆数がメディアの発表と大幅に違った際には、オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)という言葉を使った。このような政治を「ポスト真実」の政治と呼ぶ。ポストには「脱」という意味があり、客観的な事実よりも個人的信条や感情が重視される政治である。


ファンタジーランド(上): 狂気と幻想のアメリカ500年史
ファンタジーランド(上): 
カート アンダーセン /山田美明・山田文


ファンタジーランド(下): 狂気と幻想のアメリカ500年史
ファンタジーランド(下): 
東洋経済新報社
2019年✳10

著者は、アメリカではトゥルーシネス(本当らしく聞こえる嘘)、つまり直感的に物事を真実だと信じることが1960年代に爆発的に広まったと見ている。エリートを嫌悪し、科学的事実を否定し、主観的に物事を判断する傾向である。やがて、この傾向は数世紀にわたって形成されてきたことに気づいたという。
 
ピルグリム・ファーザーズは、プロテスタントのうちの急進派であるピューリタンのそのまた過激な分離派ピューリタンである。著者は、アメリカは常軌を逸したカルト教団によって建設された国であると諧謔的な言い方をする。
 
アメリカは宗教国家である。アメリカ人の70%以上がキリスト教徒で、そのうち70%はプロテスタントである。アメリカ人のうち、天国の存在を信じる人は85%、地獄の存在を信じる人は75%いるという。天国や地獄を信じるということは、取りも直さず悪魔を信じることであり、その他の摩訶不思議な出来事も信じるということである。アメリカ人はどの先進国に暮らす人びとより、はるかに強く超自然現象や奇跡を信じている。

神と進化について、アメリカ人は大体、三つに区分できるという。進化論を信じている人が1/3、神が長い時間をかけ、おそらくは進化を利用して生物を創造したと考えている人が1/3弱、そして人間やそのほかの生物はこの世が始まって以来、現在の形で存在していると確信している人が1/3以上である。
 
アメリカは熱狂的なキリスト教信者と夢想家、あるいは詐欺師とそのカモによって、まるでファンタジーランドのようになってしまったという。アメリカの狂気と幻想は次のような人びとや現象によって作り上げられていったとする。それは、セイラムの魔女裁判(1692年)、モルモン教を創始した(1830年)ジョセフ・スミス、「バーナム効果」で有名な興行師のP・T・バーナム、超越主義を主張したヘンリー・デヴィット・ソロー、異言(学んだことのない異国の言葉を話すこと)、ハリウッド、サイエントロジー、陰謀論、ウォルト・デズニー、伝道師のビリー・グラハム、ロナルド・レーガン(選挙演説でハルマゲドンという言葉を繰り返し使い、政治日程を妻のナンシーが占星術で決めていた)、絶大な人気を誇るトーク番組の司会者オプラ・ウィンフリー、トランプなどである。さらに、ワクチン不要論やホメオパシー。礼賛、銃へのこだわりやドラッグ依存、カルト的プロテスタント教団の隆盛などがある。インターネットの登場は、はびこる狂気と幻想により一層の拍車をかけた。

アメリカ人が一時的に道を外しただけならいずれ正しい道に戻ってくるが、もはやこの傾向はアメリカ国民のDNAに深く刻み込まれているという。現在、トランプの支持率はおよそ40%、共和党内では9割に達する。矛盾が持つ力で最も恐ろしいのは、繰り返し矛盾に接すると、真実を重視する感覚が鈍ることだ。次もトランプだろうか?

ちなみに、トランプはドイツ系移民の子孫であり、著者の祖先はピルグリム・ファーザーズの次にアメリカにたどり着いた清教徒であるという。

ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史/カート・アンダーセン/山田美明・山田文/東洋経済新報社/2019年
食の実験場アメリカーファーストフード帝国のゆくえ/鈴木透 /中公新書/2019年
ノマド― 漂流する高齢労働者たち/ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子/春秋社/2018年
アメリカ/橋爪大三郎×大澤真幸/河出新書/2018年
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち/J.D.ヴァンス/関根光宏・山田文/光文社/2017
ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く/金成隆一/岩波新書/2017年
沈みゆく大国アメリカ/堤未果/集英社新書/2014年
ルポ 貧困大国アメリカII/堤未果/岩波新書/2010年
沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択/サラ・パレツキー/山本やよい/早川書房/2010年
アメリカン・デモクラシーの逆説/渡辺靖/岩波新書/2010年
現代アメリカ宗教地図/藤原聖子/平凡社新書/2009年
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて/松尾理也/新潮社新書/2006年
小説のアメリカ 52講ーこんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山南/平凡社ライブラリー/2006年
古きよきアメリカン・スイーツ/岡部史/平凡社/2004年
インディアンの夢のあと―北米大陸に神話と遺跡を訪ねて/徳井いつこ/平凡社新書/2000年

『食の実験場 アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』 鈴木透

著者はアメリカの食の歴史を3期に分けている。
第1は、イギリスの植民地時代から独立革命までのアメリカの形成期。白人入植者の食を支えたのは先住インディアンと黒人であった。第2は、19世紀後半から20世紀半ばにかけての産業社会の形成と工業国化の時期。食事に時間をかけないという発想がファーストフードの誕生につながった。第3は、1960年代以降の産業社会のあり方に対する抵抗と反省。ヒッピー文化や菜食主義者たちの影響によるオーガニックへ向かう動き。

イギリスの植民地時代、北部の白人入植者は先住インディアンの影響を受け、パンプキンパイ、コーンブレッドや七面鳥料理が生まれた。南部では黒人の影響を受けた米を使う料理が出現する。南部の家庭料理であるフライドチキンは、スパイスによる味付けは黒人から、揚げるという料理法は白人から受け継いでいる。
フランス人はミシシッピー川河口近くのニューオリンズを中心に住み着き、クレオールと呼ばれるフランス人と黒人の混血の人口が増えていった。
クレオール料理の代表はガンボーと呼ばれる雑炊のようなスープ。海産物、肉やソーセージ、トマトや玉ねぎ、豆など、あり合わせの材料で作ることが多いが、オクラでとろみをつけることが特徴的だ。米やオクラはアフリカ的だし、トマトやスパイスは先住民の影響があり、海産物を加えることはブイヤベースからきていてフランス的でもある。ガンボーは、アフリカ、先住インディアン、フランスの混血創作料理なのである。
クレオール料理のもう一つの代表ジャンバラヤは、トマト味のスパイシーなピラフで、具材はガンボー同様決まりはない。

食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書)
鈴木 透 ✳︎10
中公新書 2019年4月
売り上げランキング: 2,385

工業国となっていくアメリカには、1890年代から1910年にかけて、主としてヨーロッパの低開発地域から移民が大量に流入した。イタリア系やユダヤ系、北欧系などが 中心で、エスニックフードの多様性が増した。
ドイツの惣菜を扱う店デリカテッセンが普及し、ハインツ社がケチャップを開発した。
ハンバーグはドイツの港ハンブルグから名付けられた。それをパンに挟んだハンバーガーは、1904年のセントルイスでの万国博覧会で誕生したいわれている。
ドイツのフランクフルトから持ち込まれたソーセージをパンに挟んだホットドッグは、コニーアイランドの遊園地で売られた。こうしてドイツの食が野外の手軽なフィンガーフードに応用されアメリカ独自の食文化へと発展していった。
自動車時代の本格的な幕開けとともに、本来食事を取ることができない場所や時間帯に食事を可能にする新たなタイプの外食産業・ファーストフードをアメリカに作り出した。

飲み物についてもアメリカならではの特徴がある。独立革命期に生じた紅茶離れは19世紀に入っても続いた。ラム酒と紅茶を飲むことは反愛国的行為とみなされた。現在、アメリカの一流ホテルで紅茶を頼むとティーパックが出てくるという。

飲料水の確保が困難だったため、植物の根で作ったアルコール分の低いルートビアが飲まれた。医薬品であった炭酸水を瓶に詰めることに成功したのはコカコーラ社である。アメリカにおける炭酸飲料は、病人の飲み物であったことや製造に薬剤師が関わっていたこと、ドラッグストアで売られていたことから、飲む薬としての性格をもっていた。ちなみにペプシコーラの名称はペプシンという消化酵素からきている。

ヒッピーたちは、効率優先からの脱却と多様性の復権を実現する、有機農業や自然食品を追い求めた。さらにヒッピーたちは有機栽培やヘルシーからエスニックにつながっていった。そこから生まれてきたのがカリフォルニアロールである。
いまアメリカの食が向かっているのは有機栽培の野菜を使った健康食だ。創作料理の最前線ではビーガンの影響がある。

『ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』ジェラルディン・ブルックス

アメリカ北東部マサチューセッツの小島に生まれた先住民ワンパノアグ族のケイレブ・チェーシャトゥーモークが、ハーバード大学に入学し卒業したという史実にアイデアを得て、著者は本書を書き上げた。

信仰の自由を求めて、清教徒がメイフラワー号でアメリカ大陸に到達したのは、1620年11月。舞台は、それから数10年が経過したマーサズ・ヴィニアード島である。島のインディアンの中にはキリスト教の洗礼を受ける者も出てきた。

主人公のベサイアの父はインディアンへの布教に尽力するキリスト教の牧師。
父がベサイヤに勉強を教えてくれたのは9歳までだった。それ以降は亡くなった母の代わりに家事をこなしながら、父が兄にラテン語やギリシャ語やヘブライ語を教えるのを、聞くことで知識を吸収していった。兄よりベサイアの方が覚えるのが圧倒的に早かった。聡明なベサイアはインディアンの言葉ワンパノアグ語を理解できたし話すこともできた。


ケイレブ: ハーバードのネイティブ・アメリカン

ジェラルディン ブルックス
平凡社
2018年 ✳10

ある日、ベサイアは愛馬に乗り海岸まで出かけて、インディアンの男の子と出会った。のちに、ベサイアがクレイブと名づけたそのインディアンは、ハマグリのたくさん採れるところや大きなグランベリーの実の成る木に案内してくれ、いろいろなことを教えてくれた。ベサイアはケイレブに英語を教えた。
ケイレブの男らしい屈託のない性格に惹かれ、ふたりは親友になった。

そのケイレブが家に住み込んで父親からラテン語やギリシャ語を習うことになった。
ケイレブの理解力と記憶力は抜群だった。
しかし、ベサイア一家を不幸が襲う。イギリスに渡ろうとした父の乗った船が嵐に襲われ、父は帰らぬ人となった。

ベサイアは選択を迫られる。兼ねてから求婚されている島の有力者の息子と結婚し島に残るか、兄やケイレブたちとボストンに出ていくかである。ベサイアは兄たちが通うラテン語学校を経営するコールレット先生の家で、小間使いとして年季奉公することになった。

小間使いの仕事をはじめて間もなく、総督の推薦でアンというインディアンの娘が寄宿することになった。利発なアンはラテン語の本をスラスラ読んだ。
ところが、妊娠していたアンは流産してしまう。ベサイアは島で助産婦について訓練していたので的確に行動した。アンの相手が誰かが問題となりケイレブたちが疑われたが、ベサイアはアンがここにくる前に妊娠していたことを確信していた。
アンは審問を受けることになり、ケイレブたちが相手とされ、さらにベサイアさえも災難が降りかかることになるだろう。
島に連れて行き、イギリス人と友好の深くないインディアンのグループに預かってもらうことにした。

ケイレブは順調に勉学に勤しみ、ハーバード大学の学長の口頭試問を難なくパスし、晴れて入学が許可される。
その後、差別やいじめで苦境に立たされるケレイブだが、毅然とした態度を貫きやがて級友たちの信頼を得るに至るのだった。

物語の最終章は、70歳のベサイアが自らの波瀾に満ちた半生を振り返る構成になっている。本書はケイレブの物語というよりも、それを見届けたベサイアの物語である。
現在、著者は本書の舞台であるマーサズ・ヴィニアード島に暮らしているという。→人気ブログランキング

ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』ジェラルディン・ブルックス/柴田ひさ子/平凡社/2018年
『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』ジュラルディン・ブルックス/高山真由美/RHブックス・プラス/2012年

『リバタリアニズム』渡辺靖

リバタリアニズムとは、個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的、社会的、経済的に自由を求める思想。政府の介入を極力排除し、自由と市場主義を徹底する。

自由至上主義や自由尊重主義と訳され、日本ではリバタリアンは「保守の一部」とみなされがちだが、湾岸戦争やイラク戦争には反対した。人工中絶や同性婚については国家が口を挟むべきことではないとする。
さらにレイシズムや(人種差別)ナショナリズムは個人を矮小化するとして否定し、マイノリティやLGBTへの差別に反対する。しかし、リバタリアニズムが裕福な白人男性の思想だというイメージは、人種差別に結びつきやすいことも事実であるとする。

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)
渡辺 靖
中公新書
2019年1月 ✳︎9
売り上げランキング: 3,672

著者は、アメリカのリバタリアニズムの学生サークル、理論的支柱である学者やシンクタンクやリバタリアンの集会で取材を行っている。
リバタリアニズムといっても多種多様で、政府を必要としないとするアナキズムに近い考えや、果ては政府によるベーシックインカムの支給を支持する考えもある。
きわどいところでは、自己所有権の見地から、成人間の合意に基づく身体売買、売春や自己奴隷契約、臓器売買などを容認する傾向にある。

ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、アメリカの独立こそは、社会のルールをめぐる権威づけを、王や宗教でなく、個人の契約に委ねることに成功した近代史上、唯一の事例としている。
君主や貴族による統治(保守主義)も、巨大な政府権力による統治(社会主義)もともに否定するのがアメリカの特徴である。ヨーロッパでは、保守主義、自由主義、社会主義という三すくみの対立軸によって政治空間が織りなされているが、アメリカでは保守もリベラルも自由主義を前提としている。
ピルグリムファーザーによるアメリカ建国の考え方が、リバタリアンに繋がるとする。
リバタリアンはアメリカだからこそ生まれた考え方だ。

政治的には、共和党と民主党の間にリバタリアン党が存在するが、リバタリアン党は大統領選挙のたびに得票率を伸ばしている。
リバタリアンから見たら、保護貿易主義をふりかざし、人種差別を助長する言動などをくり返すトランプ大統領はお話にならないが、アメリカ軍の派兵に反対の立場をとるトランプの方針はリバタリアンに受け入れられている。

中国にもリバタリアニズムを研究するグループが存在するが、日本にはまだないようだという。リバタリアニズムは保守や革新にとらわれない新しい政治思想である。
この考えがGAFAの暴走を許したのは間違いないだろう。

『ニックス』ネイサン・ヒル

本書はネイサン・ヒルのデビュー作、上下二段組で700余ページというボリューム。
2016年のロサンゼルス・タイムズ文学賞(新人部門)を受賞し、全米批評家協会賞最優秀新人賞の最終候補に残った作品である。メルリ・ストリープ主演でドラマ化が企画されているという。

シカゴの北西にある小さな大学で、文学を教えているサミュエル・アンダーソン助教授は、10年前に書いた短編により新人賞を獲って大々的にデビューした。ところが出版社と長編執筆の契約を交わしたにも関わらず、その後作品を書けないでいた。
サミュエルは、できの悪い学生に文学の講義をしつつ、週に40時間以上もオンラインゲームにうつつを抜かしている。

ニックス
ニックス
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ネイサン ヒル /佐々田雅子
早川書房
2019年2月 ✴8

ある日、サミュエルの母親フェイが大統領候補のワイオミング州知事シェルドン・パッカーに石を投げた嫌疑で拘留されていると、弁護士から電話がかかってきた。石を投げたシーンはテレビで繰り返し放送され、フェイは「パッカー・アタッカー」というあだ名までついた有名人になっている。
サミュエルはここ20年間フェイと話したことがない。なぜならフェイはサミュエルが11歳のときに、父親とサミュエルを残して家から姿を消し、その後音信不通となっていた。

サミュエルは同時にいくつかの問題を抱えることになる。
母親の逮捕は解決しなければならない。
サミュエルの生徒ローラ・ポツダムがレポートをコピペしたと、ソフトウェアが判定した。単位はあげられないとするサミュエルに、ローラは諦めない。父親の力を使ってサミュエルを大学から追い出そうとする。
さらに出版社から契約不履行で賠償金を請求されるかもしれないという窮地に立たされる。編集担当者はサミュエルにフェイの伝記を書くようにもちかける。今ならベストセラーになること間違いないと、執筆を迫る。

そこでサミュエルはフェイに会いに行くが、フェイは家を去った理由も、その後の20年間のブランクについても、口を閉ざして何も語ろうとしない。

物語の、時間軸は1968年から2011年まで、場所は母子の生まれ故郷から、シカゴ、ニューヨーク、ノルウェーまで広がっていく。サミュエルの幼い日のフェイとのことや、親友や初恋のこと、フェイの高校時代の事件や大学時代のことが、現在と過去を行きつ戻りつ綴られる。
サミュエルは、父親や介護施設にいる祖父や、フェイが大学時代に同室であったアリスから様々なことを聞き出す。フェイは大学時代に学生運動に関わり逮捕されていた。フェイにとっては身に覚えのない売春の罪で逮捕されたことを知る。

やがて母子は和解し助け合うようになる。しかし、フェイが大学時代に接触があったサイコパスがふたりの前に立ちふさがり、物語はサイコミステリの様相を呈してくる。
本書の主人公はサミュエルとフェイのふたり、家族愛の物語である。

ところでニックスとは、フェイの父親をノルウェーから追ってきた幽霊のこと。フェイはニックスに取り憑かれたと思っていた。→人気ブログランキング

『ノマド』ジェシカ・ブルーダー

アメリカでは、季節労働者として重労働に従事し、キャンピングカーで移動する「ノマド」と呼ばれる高齢者が増えている。ノマドとは遊牧民という意味だ。
著者はノマドの生活を体験する目的でキャンピングカーを購入し、ビーツ(砂糖大根)の収穫やアマゾンの倉庫で働き、3年間にわたるフィールド・スタディーを行って本書を書き上げた。著者が出会ったのは60歳代から70歳代の高齢者たちだ。
リタイアした高齢者やリーマンショックで被害を被った中産階級や、離婚や病気・ケガなどの危機を乗り越えられなかった人たちや、解雇されたり事業がうまくいかなかった人たちが、住宅ローンや家賃や公共料金の支払いができなくなり、車上生活に望みをかけたのだ。

ノマド: 漂流する高齢労働者たち
ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子
春秋社
2018年10月 ✳︎10
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仕事を求めてキャンピングカーを走らせる季節労働者は、自らをワーキャンパー(Workamper)と呼ぶ。
ワーキャンパーを採用する企業や官公庁のなかで、最も過激な求人を行ってきたのはアマゾンのキャンパーフォースだ。秋からクリスマスかけての繁忙期に、各地の倉庫でワーキャンパーを雇う。アマゾンの仕事は、時給(11.5ドル、約1300円)が高い分かなりきつい。仕事の内容は商品の梱包と仕分けだが、広い倉庫の中を毎日ハーフマラソンの距離を歩き、3か月で10キロも痩せるという。関節痛や筋肉痛に苦しむ者にはジェネリックの鎮痛剤が無料で支給される。

クリスマスが終わると、ワーキャンパーたちは次の仕事場に移動する。仕事は、農場での果物やビーツの収穫、キャンプ地の清掃、球場でのハンバーガーやビール売りなど、いずれも長時間にわたる低賃金の肉体労働だ。

ワーキャンパーは季節的な人材確保を求める雇用側にとって、きわめて便利な即戦力である。必要とする場所に、必要とするタイミングで集まってくれる。住居と一緒にやってきて、つかの間駐車パークに企業町を作るが、その町は仕事が終わればなくなる。組合が結成されるほど長時間止まることはない。また福利厚生や社会保障を要求しない。
こうした地下経済を生み出しているのは、ウェブサイトに求人広告を載せているアマゾンをはじめとする何百という数の企業だ。
企業は「雇用機会上のハンディを持つ」労働者を雇うことで、賃金の25%〜40%の連邦税控除を受けることができるのだ。

ワーキャンパーたちは、まるでスタインベックの『怒りの葡萄』のオーキーと呼ばれるオクラホマ出身の主人公たちと同じだ。『怒りの葡萄』と異なるのは、オーキーたちが目標としたのは普通の家に住むことだが、ワーキャンパーはノマド生活をその場しのぎと考えていないことだ。

高齢になれば新しい仕事を見つけることが困難になるが、キャンピングカーとスマホがあれば、簡単に仕事が見つかるとワーキャンパーは言う。
しかし、現実は様々な困難な問題が待ち受けている。例えば仕事をしていないときの駐車スペースの確保、特に住宅地では厳しい。さらに入浴の問題、水の確保など、あるいは車の老朽化や故障、自らのケガや病気など、悩みの種は尽きない。
ノマドは非白人がほとんどいない。ここにもアメリカの人種差別が顔を出す。→人気ブログランキング

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