アメリカ

ショート・カッツ

  Short-cutsショート・カッツ
映画公開のあとに出版されたペーパーバック(1994年)
Short-cutscinemaレイモンド・カーヴァーの作品をもとに描いたオムニバス映画
監督:ロバート・アルトマン
アメリカ 1993年 187分

「隣人」(Neighbors『頼むから静かにしてくれ』より)
夫婦には、隣に住む夫婦が自分たちよりも充実した輝かしい生活を送っているように思えた。隣の夫婦が旅行に出かけるので、家の鍵を渡され猫の世話と芝生の水撒きを頼まれた。他人の家庭生活の現場を目の当たりにすると性的に興奮するのか、夫は妻を求める。夫は隣の家の戸棚を開けたり、ウィスキーを飲んだり、夫の服を着たり、その妻の下着を身につけたりしていた。
妻が猫に餌をやりに家に入り、引き出しの写真をまじまじと見てる。そして、妻は鍵を燐家のなかに置き忘れたまま扉を閉めてしまう。

「そいつらはお前の亭主じゃない /ダイエット騒動」(They're Not Your Husband『頼むから静かにしてくれ』より)
男は、妻がウェートレスとして働いている24時間営業のコーヒーショップに寄ってみた。ふたりの男が妻の後ろ姿を見て太りすぎだと言っている。帰えってきた妻に痩せたらどうかと提案してみた。妻は4キロ減らした。急に痩せたのはどこか悪いのじゃないかと言われたと妻が言う。そいつらはお前の亭主じゃないんだ、余計なことをいうなと男はいう。
ある夜、妻の働くコーヒーショップにより、別のウェートレスにもう一人のウェートレスな感じが変わったと男はいう。隣の男にどう思うと妻のことを尋ねる。そのうちに別のウェートレスが、あの男は変だと言い出す。妻は亭主なのと明かす。

「ビタミン」(Vitamins『大聖堂』より)
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄る。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「頼むから静かにしてくれ」(Will You Please Be Quiet, Please?『頼むから静かにしてくれ』より)
ふたりは大学の同級生でふたりとも教師の職を得、それまでは、順風満帆といっていい暮らしだった。
2年前のパーティーのときだ。妻が男と消えた。
夫はそのことについてそのあと何度も問い詰めた。怒らないから本当に、あの夜何があったのか言ってくれと。
本当のことを話したら、破局がくることを妻は感じている。

「足もとに流れる深い川」(『愛について語るときに我々の語ること』)
夫と友人ふたりは、釣りに出かけた。そこで若い娘の全裸死体を発見したものの、引き返すことなくテントを張り2日間そこで釣りをしたりポーカーをしたりウィスキーを飲んだりして過ごした。
3人は事情聴取を受ける。それ以来夫は不機嫌のままだ。
私は葬式に出る。そこで犯人が捕まったことを知らされる。この町の子どもだという。
家に帰ると夫がウィスキーを飲んでいた。息子はまだ帰ってきていない。ふたりは息子が帰ってくるまでの間に急いでことを済ませることで意見が一致する。

「何か役に立つこと」 (A Small, Good Thing『大聖堂』より)
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。
パン屋から電話がかかってきた。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ジェリーとモリーとサム /犬を捨てる」(Jerry and Molly and Sam『頼むから静かにしてくれ』より)
勤めている会社がレイオフを発表する前に、月200ドルの家賃の家を借りてしまった。
男は浮気をしていた。彼はすべてこのとについて自分でコントロールする力を失いつつあった。
犬を捨てなければならない。小便は垂れるし、そこら中を噛む。秩序を取り戻すためには、犬をこの家から追い出さなければならない。

「収集」(Collectors『頼むから静かにしてくれ』より)
雨の降る日、前に住んでいた夫人がアンケートに答えて、懸賞に当選したので景品を届けにきたと男が訪ねてきた。男は家に強引に入ってきて、バッグを開けその景品を組み立て始めた。なんのかんのと言いながら、帰った方がいいのではないかという忠告を無視して、出来上がったのは真空掃除機。そして、吸塵の性能を証明するかのように、掃除を始める。カーペットに液体を撒き散らし吸引する。
1ドルも払えない、金がないと男に伝えた頃には、掃除機をバッグの中にしまいこんでいた。男は、この掃除機は要りませんかという。

「出かけるって女たちに言ってくるよ」(Tell the Women We're Going『愛について語るときに我々の語ること』より)
ビルとジェリーは子供の頃からの無二の親友だった。ジェリーは高校を中退してスーパーマーケットに勤めた。ビルは卒業後、工場に勤め州軍に入った。ビルは22歳の時に結婚した。ビルとジェリーは
休日になるとホッとドッグを焼き、子供達を簡易プールで遊ばせビールを飲んだ。ジェリーは「出かけると女たちにいってくるよ」と言って玉突きに二人で出た。娯楽センターにつき、ビールを飲んで玉突きをした。
帰りに自転車に乗っている二人の娘を見かけ、ジェリーは声をかける。はじめは相手にされないがそのうちに名前を聞き出す。自転車を降りて小山を登り始めた。ジェリーとビルは追いかけるように娘に近づく。
ジェリーの姿が消え、石で片をつけた。

「レモネード」(Lemonade)
散文のような詩。
ジム・シアーズは本棚を作るために壁のサイズを測りにきた。半年ばかり経って本棚が届けられ、設置されたあとで、ジムの代役で父親のハワードがうちのペンキを塗りにきた。ジムは息子を川で亡くし、そのことで自分を責めていて、立ち直れないでいる。レモネードを入れた魔法瓶を車まで取りに行かせなければよかったと、何百回となく何千回となく口にした。息子の死体はヘリコプターに吊り上げられ、だらんと両手を広げて水滴を周りに飛び散らせていた。子供は父親の前に運ばれ、優しくそっと置かれた。→人気ブログランキング
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/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか 朝日順子

シカゴからロサンゼルスに至るルート66に関連したブルース、カントリー、ロックンロールの楽曲のそれらが生まれた背景と歌詞の意味、果たした役割を探る。「アメリカの真ん中の道」ルート66には、語るべき数多のエピソードがある。
著者は子どもの頃から洋楽に親しみアメリカ在住経験が何回かある。職業は翻訳家、音楽ライター。イベント出演や執筆の仕事に携わってきた。ロックの歌詞を解説するトークイベントを行なっている。
本書では日本であまり知られていない、アメリカ中西部と南部の風土や文化、そこに住む人々が何を考えているかを歌詞から紐解き、著者自身の体験も記したという。本書の情報は幅広く深くマッシブだ。著者の音楽を語る熱量は凄まじい。
66ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか
朝日順子(Junko Asahi
青土社 
2021年 234頁

第1曲目は、『On the Road Again』(ウィリー・ネルソン)を紹介する。本書のテーマ「アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか」を表す象徴的な曲だ。
オン・ザ・ロードの生活とは、音楽家が主に車両で長距離を移動する状態を示す。一番の稼ぎ時である夏は、フェスティバルでのライヴに出演するためにアメリカ全土を移動する。真冬以外は、ライヴハウスだけでなくグリルのような大きめのレストランからホテルのラウンジまで、文字通りドサ回りをする。
ローリング・ストーンズのようにスタジアム級のコンサートをやるバンド、小さな会場でのツアーを何年も続けるバンド、昔は大規模なコンサートをやっていて、今は小規模なギグを地道に続けるバンドとさまざまだが、いずれにしても彼らのロードは果てしなく続く。 

スタインベックの『怒りの葡萄』は、30年代にオクラホマ、テキサス、アーカンソーなどの中西部の州の人々(オクラホマの人が多かったためオーキーと呼ばれる)が、砂嵐で耕作不能となった土地を捨てて、ルート66を進行しカリフォルニアに向かう物語である。
ボブ・ディランに影響を与えたウッディ・ガスリーはオクラホマの出身で、オーキーたちと共にカリフォルニアを目指す旅に同行した。そのあとニューヨークに戻ったウッディはスタインベックと友達になり、『怒りの葡萄』についての曲をアルバムに載せたという。

ブルースはミシシッピー州を中心にしたディープサウスで生まれ、北上しシカゴで花開いた。一方、ロッックンロールは、それほど単純ではない。
アメリカンロックの源泉は路地裏だという。どんなに成功して金持ちになっても、ルーサー精神を失ったら、もうそれはロックではない。エルヴィス・プレスリーに代表される音楽ジャンル「ロカビリー」は、白人を蔑視する言葉「ヒルビリー」とロックンロールを合体して名づけられた。

自由であるからこそ逆に不自由であることが、反抗の文化であるロックがアメリカで発展した理由の一つだと思っているというのは示唆的だ。日本では世間体を大事にする親が多いが、アメリカでは自分の嗜好や思考を押しつける親が多いことが、反抗を生み出しているという。

“motor (車)”と“hotel (ホテル)”を組合せた造語「Motel」と呼ばれる世界初のモーテルがカリフォルニアに誕生したのは1925年。これはルート66が開通した翌年というトリビアが楽しい。→人気ブログランキング

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか/朝日順子/青土社/2021年
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて/松尾理也/新潮新書/2006年

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL 町山智浩

『週刊文春』に連載されている「言霊USA」(2018年3月〜2019年7月)の69本のコラムを収録。
コアなUSAウォッチャーの著者は、トランプが大統領になって話題が尽きないので、書くことに困らないという。トランプは、平気で嘘をつくが本音を言い、自らの行いは過剰に褒め、敵は徹底的に腐す。利用価値があると思えば、危険な人物であろうと近ずいていく。よく言えば、わかりやすくて邪気がない。悪く言えば子どもで、自己愛性人格障害ともいわれている。
一部のエキセントリックな白人だけがトランプを支持しているわけではない。そもそも白人はアメリカは自分たちの国だと思っている。自分たちは選ばれた人間だと信じている。これ以上有色人種が増えると白人優位のアメリカを維持できなくなるという焦燥感が、トランプ支持する。なにも手を打たなければ、共和党は選挙に勝てなくなる。そこで、顔写真付きの身分証明書なしには投票できない、有権者ID法を取り入れる州がでてきている。黒人をはじめとする有色人種は、免許証を持っている割合が圧倒的に低い。
トランプはもちろんだが、今の共和党には賢さが皆無だ。
ピックアップした「Qanon」「Uninged」「Very Close To Complete Victory.」「Busing」について抄記する。

Image_20200910143501 アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

町山智浩
文藝春秋 2019年

QAnon(Qアノン=トランプ支持者が信じる匿名ネット投稿者 2018年9月6日)
Qという匿名(Qアノニマス=匿名者Q)のネット投稿からはじまった陰謀論で、アメリカはディープ・ステートという闇の組織に支配されているという。ヒラリー・クリントンや政府高官が絡んでいて、政財界には小児性愛者ののネットワークがあり、ワシントンのピザ屋で、子どもを売買しているという。2016年にはQAnon信者がそのピザ屋を銃で襲う事件が発生した。
トランプ支持者にはQAnon信者が多い。QAnon信者はそれと戦う正義の味方がトランプだと信じている。

Uninged(タガが外れて 2018年10月4日)
トランプの閣僚で唯一の黒人女性だったオマローサ・マニゴールドが解雇され、オマローサは回顧録『UNHINGED(アンヒンジド)』を出版した。
トランプと著者は、出演していた人気テレビ番組『アプレンティス』以来のつき合いがある。オマローサは大統領制出馬以来、広報を担当してきた。
トランプは極度の健忘症で、前日に言ったことすら覚えていない。「精神的に問題がある」と強調している。 
また、大統領選の遊説で黒人教会に行ったとき、トランプが「ニガー、ニガー」と差別用語を多発し、「(黒人に何をされるかわからないから)俺をひとりにしないでくれ」と懇願したなど、黒人への差別意識を丸出しにする姿も暴露されている。
一方、トランプは「彼女を雇ったのは涙目で哀願してきたからだ」と言っている。まるで小学生だ。

Very Close To Complete Victory.(ほとんど完璧な勝利 2018年11月29日)
アンドリュー・ジャクソン(第7代大統領)は、テネシー州や南部に住んでいた先住民をオクラホマに強制移住させて彼らの土地を白人入植者に与え、絶大な人気を誇った。トランプはジャクソンを尊敬しているという。
テネシー州はバイブルベルトの一部で、キリスト教福音派が全米で最も多い。彼らにとっては、1973年に人工中絶が違憲だとした最高裁判決を覆すことが悲願。トランプによって最高裁判事9人のうち5人が保守派判事が占めることとなった。中絶の再禁止が実現し、同性婚も風前の灯だ。

Busing(公立学校地域格差是正のためのバス通学 2019年7月18日)
民主党の大統領候補レースが始まった。今回は24名が出馬している。
トップはジョー・バイデン、2番がバーニー・サンダース、3番手がエリザベス・ウォーレン、以上4人は70歳以上の年齢。トップ3が70歳代だとは、なんという人材不足。
4番手はカーマラ・ハリスで54歳。6月27日マイアミで行われたディベートの勝者は、カーマラ・ハリスだ。父はアフリカ系のジャマイカ人。母はタミル系のインド人。父は経済学、母は医学、それぞれが博士号を取るためにカリフォルニア大学バークレー校に学んでいる間に出会って結婚した。そして生まれたのがカーマラ。そのご夫婦は離婚、カーマラは母の手で育てられた。
バシングとは、学童が通う学校をシャッフルすることで、貧困地域の子を富裕層の多い地区の学校に通わせ、その逆も行い、格差をなくすこと。
ハリスが小学生だった1973年、バイデンは上院議員として、議会でバシングに反対票を投じたのだ。それを、ハリスは追求した。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2 町山智浩

2012年の8月から2016年3月まで、『週刊文春』の「言霊USA」に掲載された 74本のコラムを掲載している。おりしも、オバマ大統領の2期目の年から、2016年の初めトランプがいまだ泡沫候補であった頃まである。
アメリカでは、人種差別は永遠のテーマであり、相変わらず銃乱射事件は頻発するし、レイプの件数は驚くべき数字である。女性差別も貧富の差も一向によい方向に向かっていない。著者はそれをローアングルからとらえている。。
巻末の解説は、東京大学とハーバード大に合格したことをウリにしているモーリー・ロバートソン。自分はあまたいる日本の外人タレントの中で本物であり、町山のアメリカ情報も本物であると婉曲にいう。
トランプの白人至上主義について冷静な見解を述べている。つまり、2040年頃には白人が少数派に転じる。いずれ大統領は非白人に寄り添った政治しか許されなくなる。いまアメリカは最後の悪あがきをしているというもの。これは定説ともいえる見解だ。

Photo_20200903124201 アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2
町山智浩
文春文庫 2016年 ✳10

Three Cups of Deceit(偽りのスリーカップス)
いやーショックだ。400万部以上を売り上げ、2006年の全米ベストセラーとなった『スリーカップス・オブ・ティ』が作り話で、著者が詐欺をはたらいていたとは。日本では2010年3月に出版され、早速読んで大いに感激した。
ヒマラヤ山脈のK2峰登頂にを途中で断念したモーテンソンが道に迷って遭難し、パキスタンのコンフェという村の人々に助けられる。モーテンソンは看護師で、後産で死の淵を彷徨う村の女性を救い村人の信頼を得る。村に学校を作ると言ってアメリカに戻り、寄付を集めてコンフェに戻って学校を建てた。9.11で分断されたアラブと西側の架け橋になろうと、その後の学校を建てようとする感動ものだった。
著者が主催する団体に全米の慈善事業家、教育機関、市民団体から巨額の寄付が集まった。しかし膨大の額の使途不明金が指摘されたが、著者は沈黙しているという。

Kids Vote(子供投票)
大統領選の予想のあれこれ。
もっとも当たっている予想は、1940年から続いている「Kids Vote」。過去2回しか外していないという。絵本や教科書を出版するスコラスティック社が主催し、18歳以下の25万人が参加する。親の投票行動が反映するからだろうと言われている。

Taste worth dying for(死ぬ価値のある味)
アメリカでは年間12万人が肥満で死ぬという。
2011年、ラスヴェガスにオープンしたレストラン「ハートアタック・グリル」の店の入り口には、「この店は健康に有害です」と警告文が出ている。ウェートレスは看護婦のコスプレ、客は手術の時に患者が着る服を着せられ、車椅子で店内に案内される。
全部で9900キロカロリーのハンバーガーがメインで、付け合わせはラードで揚げたフライ。ドリンクはメキシコから取り寄せた砂糖たっぷりのコーラ、またはバターたっぷりのミルクセーキ。156キロ以上の人はいくら食べても無料だという。常連客が心臓麻痺で救急車で運ばれたが死んだ。
この店の客が死ぬのは初めてではない。ラスヴェガスの前は店がアリゾナにあったが、29歳の常連客が店の中で心停止した。
「オーナーは言う。たとえ死のうが、好きなものを食べる自由がある!」いかにも、自由を重んじるアメリカだ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4 町山智浩

2016年、共和党の大統領候補指名選は、最終的にトランプとフロリダの上院議員テッド・クルーズの戦いになった。お互い「お前の母ちゃん出べそ」的な中学生レベルのネガティブキャンペーンを行った。が、相手の弱点をつくことにおいては、トランプに一日の長があった。その悪口の発信を追求されると、PAD(政治活動委員会)という団体が勝手にやったことだと、それぞれの陣営が責任逃れをした。PADは政治家を勝手に応援する後援会で、個人や企業からの献金で潤っている。潤沢な資金で下品なCMが多量に流されることになった。とういうのが前置き。
本書に収録されているのは、『週間文春』の「言霊USA」に、2015年3月19日号〜2016年間3月17日号の間に掲載されたコラム。
本書のタイトルは、トランプ陣営が支持者集会でローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』を流したところからきている。歌詞の中でサタンはこう繰り返す。「私がやっているこのゲームの正体がわからなくて、あなた方は困惑しているでしょう?」これは、支持者集会に流す曲じゃない、そんなことはどうでもいいという精神構造が、ヤバイ。
Image_20200829162401 トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4
町山智浩
文春文庫 2018年 ✳︎10

Opioid(オピオイド=アヘン類似物質)
2015年7月、日本でトヨタのアメリカ人元常務役員ジェリー・ハンプが麻薬の密輸で逮捕された。彼女が持ち込んだオキシドコンという鎮痛剤は、アメリカでは処方箋があれば手に入る。日本でも同じ方法で手に入るが、処方の条件が厳格である。日本で多く処方されているのは「非麻薬性」オピオイドと呼ばれるヤワなやつだ。
オキシドコンは、オピオイドと呼ばれる強力な鎮痛剤で抑うつ効果がある。ハッピーな気分になる。「-oid」は「〜に見える」「それっぽい」という意味だ。麻薬類似物質の常用者は940万人、総売上2億ドル以上の一大産業なのだ。オピオイド中毒は深刻な問題である。いずれ、ヘロインに手を出すことになる。

Black people can't swim?(黒人は泳げない?)
アメリカでは水泳は義務教育の必修科目ではない。貧乏だったり、共稼ぎや片親の忙しい家庭の子は泳ぐ機会がない。
『アメリカのプールの社会史』は、モンタナ大学のジェフ・ウィルツ准教授がプールにおける人種差別を研究したものだ。奴隷制度の時代、白人たちは黒人が川に入ることを固く禁じた。逃げられてしまうからだ。1920年代、全米各地にプールが作られたが、黒人は入ることができなかった。
現在、市民プールにおける差別は「いちおう」なくなったが、「水泳格差」は存在する。実際、USA水泳連盟とメンフィス大学が2010年に発表したデータによると、黒人の7割は泳げない。白人の少年に比べて溺死事故は3倍も多い。

Don't get ahead of the news,It will run you over.(ニュースの先を走ってはならない。後ろから轢かれることになる。by FOXニュースのキャスター)
全米警官組合はタランティーノの映画を「反警官的」としている、新作西部劇『ヘイトフル・エイト』のプレミアム試写会の、警備や交通整理を一切行わないよう呼びかけた。
デビュー作の『レザボア・ドッグス』(92年)ではギャング同士の次のような会話がある。「人を殺したことがあるか?ポリ公じゃなくて、本物の人間を」。タランティーノは警官が嫌いだってことは明らかだ。

メディア王ルパート・マードック傘下のFOXニュースは、黒人射殺が続く昨今は警察官の味方についている。横領がばれそうになり殉職したように見せかけ自殺した警官を、FOXニュースは英雄と祭り上げてしまった。タイトルはFOXニュースのキャスターが、戒めに言った言葉。

Snitch (密告者、チクリ屋)
麻薬王エル・チャポのアジトに海兵隊が踏み込み、一味はほとんど射殺され、エル・チャポは拘束された。エル・チャポは麻薬密売組織シナロア・カルテルのボス。資産10億ドルといわれアメリカ経済誌『フォーブス』の富豪ランキングに入る。エル・チャポは今まで何回も逮捕と脱獄を繰り返していた。
そのエル・チャポに、素人記者としてたびたび記事を書いてきたショーン・ペンがインタビューした。ペンの記事は当たり障りのない内容で、なんのツッコミも入っていない。
ところがこのダメ記事が役に立った。インタビューの交渉に会話を暗号化する携帯電話を使ったが、アメリカ政府の監視システムに引っかかった。密告者になってしまったショーン・ペンは、命がヤバイんじゃないか?→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 町山智浩

著者は「リアル・アメリカの伝道師」と呼ばれ、アメリカに関する圧倒的な量の情報を日本に発信し続けている。本書は『週刊現代』の連載コラム『アメリカで味噌汁』を中心に、『サイゾー』『TVプロレス』『クロスビート』などのコラム102編を集めたものである。
文庫版あとがきで、著者は、「アメリカに住むということは、サーカスの見世物を最前列で見るようなもんだ」という、コメディアンのジョージ・カーリンの言葉を紹介している。サンフランシスコの湾を渡った向かいのバークレーに在住。
Photo_20200821142501キャプテン・アメリカはなぜ死んだか

町山智浩
文春文庫
2011年 10✳

アメリカは、ハチャメチャなことが日常的に起こっている国だ。両極端の考えの人がそれぞれ派手な動きをする。白人至上主義が引き起こす人種がらみの事件は尽きないし、宗教は暴走するし、何でもかんでも訴訟を起こす。精神の変調をきたしているやからが銃をぶっ放す。クスリやセックス絡みで暴力事件が起こる。アメリカにはカルト集団がうようよいて、それらが信じられない事件を引き起こす。本書では、そんなサーカスの出し物が次から次へと繰り出される。
本書の特徴は、事の発端となった背景や歴史など、一つのコラムにテンコ盛の情報が詰め込まれていることだ。さらに著者の一見軽いが痛烈な皮肉が込められる。

キャプテン・アメリカは日本人に馴染みが薄いが、コラム「キャプテン・アメリカはなぜ死んだか」で、著者はなにを語っているのか。
アメリカン・コミックのスーパーヒーローであるキャプテン・アメリカの死は、『USAトゥデイ』紙など全米各紙で事件として報じられた。その理由は、キャプテン・アメリカが政治的な存在だからだという。
1941年、真珠湾攻撃が始まると主人公のスティーヴン・ロジャースは軍に志願するが、ひ弱な体で不適格とされる。そこで、超兵士を作る人体実験のモルモットとなる。超兵士となったスティーヴは星条旗を身につけ、キャプテン・アメリカとして、ナチスや日本軍と戦う。大戦後、共産主義と戦うが、すぐにシリーズは休刊する。
1964年、20年間北極の氷の中に閉じ込められていたという設定で現代に蘇る。しかし1974年ニクソンが辞任すると、キャプテン・アメリカもコスチュームを脱いだ。そればかりかヒッピーのように髪を伸ばしノマド(祖国なき者)と名乗ってアメリカを放浪し始める。
結局、再びコスチュームを着たが、アメリカを愛するため政府と対決する。新米のスーパーヒーローと悪漢たちの戦いに一般人が巻き込まれて大惨事が起こり、連邦議会は「超人登録法」を可決した。2007年、スーパーヒーローをすべて政府の管理下に置く法律である。「超人登録法」は、ブッシュ政権のテロ取り締まりのため盗聴や拘束を合法化した「愛国法」のメタファーだ。体制側についたアイアンマンたちに敗れたキャプテンは反政府活動家として逮捕された上に、裁判所の階段で何者かに狙撃され死んでしまう。(07年9月)

真珠湾攻撃がキャプテンが生まれるきっかけだから、日本には受けが悪いわけだ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年

公園に行かないか?火曜日に 柴崎友香

著者は、アイオワ大学で催されたインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。期間は2016年8月20日から10週間、参加した作家は33か国から37人。その約3か月間の滞在記を、エッセイ風の連作短編に仕上げた。
英語が堪能でない著者は、英語しか通用しない世界で、生活するだけで相当のエネルギーを費やす。ことさら言葉に思いがいき、英語と日本語の意味のギャップを掘り下げて考察する。

今までにIWPに参加した日本人は、中上健次(1982年、『アメリカ・アメリカ』)、水村美苗(2003年、『日本語が滅びる時』)、中島京子(2009年)、藤野可織(2017年)、そして著者。2018年には、滝口悠生が招聘され、『やがて忘れる過程の途中』というエッセイ集を書いている。(『』内はIWPについての著作)。
中上健次のなんでも吸収しようとする渇望感や、何かを発信しようするエネルギーは、本書にはない。そういう時代はとっくに終わったのだということを知らしめる。

Photo_20200623143801公園に行かないか?火曜日に

柴崎友香
新潮社
2018年

「公園に行かないか?火曜日に」
アメリカの町は自然に従うよりも合理性をとって碁盤の目のように道を通す。アイオワシティもその例に漏れず、急に登りになって直角に曲がったりする。
公園にいかないかと、ラインで誘いがあった。
ぬかるみもありけっこう長く歩いて森を抜けると、スキー場のようななだらかでのっぺりとした斜面に出た。終わりは見えないほど広かった。

「ホラー映画教室」
アイオワ大学は敷地の境界がない。大学が民間の家を買い上げて、町の中に大学の施設があったりする。デイ・ハウスの地下で『シャイニング』を上映するというので、香港から来たヴァージニアと出かけた。会場にたどり着く様子や、女性が夜道を歩くこと、ドアを開ける音など、タイトルらしい出来事が綴られる。

「It would be great!」
アイオワシティには鉄道の駅がないから町の中心をいつまでもつかめないという。
greatは、文脈によって微妙にニュアンスが違う。つまりgreatだけれど、ぜんぜんgreatじゃないことがある。

「とうもろこし畑の七面鳥」「ニューヨーク、2016年11月」「小さな町での暮らし/ここと、そこ」「1969年 1977年 1981年 1985年そして2016年」「ニューオリンズの幽霊たち」「わたしを野球に連れてって」「生存者たちと死者たちの名前」

「言葉 音楽 言葉」
ボブ・ディランのノーベル賞受賞が発表された。なんでボブ・ディラン? ほかにとるべき人がいるのにと、少し議論になった。
何かをするたびに、グレイト! パーフェクト! 大げさだと思っても、英語での生活に苦労している身にとっては、励まされるという奇妙な心境になる。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

アメリカ・アメリカ 中上健次

1982年秋、著者は、世界の36カ国から作家が集まって3か月を過ごすアイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。
レガノミックスの時代である。レバノンで大量虐殺があり、フォークランド紛争が勃発し、コロンビアのガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞した。
Photo_20200612081101アメリカ・アメリカ 
中上健次
角川文庫
1992年

著者は、IWPのプログラムは大した実りがないと判断し、ブルドーザーのようにまわりを巻き込んで突き進む。
文学の討論をするわけでもなく、病院のようなアパートでなまった英語て取り止めのないことを話すのが目的だと知れた。ペチャクチャしゃべるだけだ。
著者は、意欲的に自ら朗読会を催すと、ペチャクチャグループも参加するという。

著者はIWP参加者にインタヴューをはじめた。
インタヴューには、ヨイショのインタヴューと相手を怒らせて腹の中を覗くという方法があるという。インタヴューが5人目になるころには、インタヴューを待ち受けるようになった。
ちょうど、ガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞したニュースが飛び込んできて、ラテン・アメリカの参加者たちは、マルケスの受賞に戸惑ったようだった。大家ボルヘスが受賞しないのはなぜかと訝った。

プログラムの最後には、IWPが用意した旅費付きの国内旅行を、車でやってみようと著者は思いつき、中南部アメリカを一人で駆け抜けた。

後半は、20世紀文学の巨匠ホルヘ・ルイス・ボルヘス、ジャマイカ出身のレゲエの先駆者ボブ・マーリーらへのインタビューが掲載されている。
ボルヘスとの対談は、著者がボルヘスを持ち上げたり、何かを引き出そうとしたり、懸命に立ち向かうのだが、ボルヘスは核心をジョークで受け流す。ボルヘスが著者を軽くあしらっているという印象である。

「書くこと」に真正面から取り組もうとするエネルギッシュな中上の本領が垣間見える。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

炎の中の図書館 スーザン・オーリアン

ロサンゼルス中央図書館が火事で焼け落ちた。7時間以上燃え続け、110万冊の本が燃えるか損傷した。幸い死者は出なかった。
以前より、中央図書館は消防署から20箇所もの不備の指摘を受けていた。その日(1986年4月29日)も火事が起きる前に火災報知機が誤作動し消防署に連絡している。
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炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火

スーザン・オーリアン/羽田詩津子
早川書房
2019年 ✳︎10

火事が起こった日に、年配の女性は図書館内で金髪で口ひげを生やした青年が足早に歩いてきてぶつかり、青年は動揺しているように見えたが、彼女が起き上がるのに手を貸してくれた。それから大急ぎでドアに向かったと証言した。
その男ハリー・ピークは、火事の後口髭を剃り落とし、友人に放火をほのめかす話をした。ハリーはハリウッド・スターを夢見る虚言癖が著しい人物だった。ハリーは供述をころころ変え捜査を翻弄した。状況証拠からハリーが放火犯であることは間違いないとみられたが、ふたりの宗教家がハリーと一緒にいたと証言した。この宗教者たちの証言もハリーの証言に呼応するように変わったが、起訴はされなかった。

本書は単なる火事の記録ではない。
出火原因の調査の記録、アメリカにおける図書館の歴史、ロサンゼルス市と中央図書館の黎明期から現在に至る歴史、アメリカで公立図書館が果たしている役割、世界の焚書の歴史などが、鋭い分析と明快な文章で綴られている。
著者が直接インタビューした人もしなかった人も、そしてすでに亡くなった人も、多くの人々がいきいきと登場する。
図書館がどれだけ魅力的で希望が満ち溢れている場所かを余すことなく伝え、著者の図書館への愛が行間から滲み出ている好著である。

日本とは違い地域における図書館の役割は多い。
地域で問題が起こると、図書館が利用される。工場からメタンガスが流れたとき、自宅を追い出された住民の集まる場所となった。鉛汚染が起きたとき、住民の血液検査の場所となった。
移民国家アメリカでは図書館が、福祉や教育に大きく踏み込んでいる。外国人たちの会話クラスや識字クラスが運営されている。教えるのはボランティア。電話の請求書、学校からの通知、税金関係の申請書が理解できるように手を貸し、読み書きを知らない人には個人的な手紙を読んであげ、返事を書くのを手伝うこともあるという。市民権を得る方法を週に2時間指導している。
今は、ホームレスの溜まり場になっているという。

〈図書館では時間がせき止められている。ただ止まっているのではなくて、蓄えられている。図書館は物語と、それを探しに来る人々の貯蔵庫なのだ。そこでは永遠を垣間見られる。だから図書館では永遠に生きることができるのだ。〉という言葉が印象的だ。→人気ブログランキング

インディアンとカジノ アメリカの光と影 野口久美子

本書のキーワードは「国家の良心」である。アメリカが、アメリカ全土を所有していたインディアンとの約束(契約)を、どう履行しようとしてきたかである。
Image_20201203155501インディアンとカジノ アメリカの光と影
野口 久美子(Noguchi Kumiko
ちくま新書
2019年

1990年代以降、カジノを建設するインディアン部族が急増した。現在240の部族が、500以上のインディアン・カジノを経営しており、およそ20年で総収益がアメリカの商業カジノの収益を上回った。インディアン・カジノは、保留地内では州の税制や法制度の適用が制限されるという経済活動上のメリットを生かした、保留地ビジネスである。
インディアン・カジノ時代は、部族がその当然の権利を行使することによって出現した、インデアン史の新しい時代であるという。真に見えてくるのは、それまでに解決されてこなかった、インディアンの圧倒的な貧困であるという。

アメリカはインディアン部族という主権国家群の土地の上に建国された国である。アメリカには、個々の部族を一つの主権国家と承認したうえで、部族から土地の譲渡を受け、その見返りに部族自治を保護するという約束がある。この方針を、インディアン史の権威ウィルコム・ウォッシュバーンは、「国家の良心」と呼んだ。

アメリカ憲法では、部族は国内依存国家という固有の政治的地位を持ち、部族に州法は適応されないこと、連邦政府が部族の政治的地位を保護する責任があることの3点が明確になった。しかし、現実は保留地に閉じ込めただけで、十分な補償は望むべくもなかったのが実情である。

国家を頼りにすることを諦めたインディアンが、貧困から抜け出そうとして考え出されたのが、タバコ産業であり、その次がビンゴ、そしてカジノである。
1977年、フロリダ南部のセミノール部族の保留地にビンゴ場の建設が予定された。1979年、ビンゴ場は予定通りにオープンした。大盛況で6ヵ月で融資を返済する大成功のビジネスとなった。
1980年、カリフォルニア州南部の部族カバゾンが、保留地内にカジノを開いた。州はカバゾン・カジノに営業停止を命じた。しかし最終的にアメリカ最高裁判所に持ち込まれ、1987年、「保留地における部族カジノは州に規制されない経済行為である」との判決が下った。
カバゾン判決以後、カジノ産業に乗り出す部族が急増した。部族は経済的自活の手段を獲得したのである。
1988年、レーガン大統領によって、「インディアン・ゲーミング規制法(カジノ法)」制定された。同法は、インディアン・カジノ産業に連邦と州がどこまで介入できるのか、どこからが介入できないかという点を明確化した。これが「アメリカ(国家)の良心」の今日的な姿であるという。

インディアン・カジノは、連邦政府の責任回避の結果である。アメリカは建国期から部族自治を尊重し、保留地を保護する責任を負ってきたはずである。この「良心」は過去200年以上もの間、司法、行政、立法の指針とされながらも、その元来の意味は有名無実化されてきた。そして、強制移住政策行われ、抵抗する部族を虐殺し、そして保留地政策が行われた。アメリカが保護責任を放棄してきた結果が、インディアン部族に圧倒的な貧困をもたらしたのは間違いないとする。→人気ブログランキング

インディアンとカジノ アメリカの光と影/野口久美子/ちくま新書/2019年
インディアンの夢のあと:北米大陸に神話と遺跡を訪ねて/徳田いつこ/平凡社新書/2000年

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