アメリカ

2023年10月14日 (土)

その昔,ハリウッドで クエンティン・タランティーノ/田口俊樹 

1969年、ハリウッドの黄金時代が終わりを迎えようとしていた頃、落ち目の俳優リック・ダルトンと彼のスタントマン兼付き人のクリフ・ブースが、再び輝きを放とうと奮闘する姿を描いた作品。なお同名の映画『ワンス・アポナタイム・イン・ハリウッド』では、リックをレオナルド・デカプリオが、クリフをブラッド・ピットが演じている。
Img_0307 その昔、ハリウッドで
クエンティン・タランティーノ/田口俊樹 
文藝春秋 
2023年5月 464頁 

膨大な数の映画のタイトルがそこらじゅうで挙げられ、それらを片っ端から歯に衣着せぬ厳しい評価をくだす。偏執狂の視点がタランティーノのタランティーノたらしめるところなのだ。
戦争に勝利したアメリカのハリウッドの映画はお気楽なものだった。一方、戦争で敗れた欧州や日本の映画はその内容に含意があったし、最後まで見ないと意味がわからないものもあった。と映画を評価している。

リックはイタリア映画に出演することになるが、それが、落ち目になる曲がり角だと思っている。その思いをクリフが払拭させる。リックはかつてテレビの西部劇で人気を博した俳優だが、時代の変化に伴い出演のオファーは激減。現在は、ドラマの悪役やゲスト出演などの単発の仕事で食いつなぐような状態である。

そしてある日、リックの隣にロマン・ポランスキーと女優のシャロン・テート夫妻が越してきた。紛れもなくポランスキーは若手のポーランド人監督として、もっとも成功しているひとりだ。そしてアイラ・レヴィン作の『ローズマリーの赤ちゃん』の監督を任せられる。
リックは、シャロンに興味を持ち、彼女に近づこうとする。
 
一方、ハリウッドはヒッピーのカルト団体「マンソン・ファミリー」の影響を受けつつあり、1969年8月9日に実際に起きたシャロン・テート殺人事件へと導線が敷かれていく。→人気ブログランキング
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2023年1月11日 (水)

アメリカの教会 キリスト教国家の歴史と本質 橋爪大三郎

なぜアメリカは宗教国家なのか?本書はこの疑問に答えてくれるという。
カトリックを除外すると、一番多いのは、バプティスト、次がメソジスト。アメリカは移民国家だから、それぞれの出身国の宗教を持ち込む。それにアメリカで生まれた宗派もある。モルモン教、エホバの証人、クリスチャン・サイエンス、アドヴェンティストと、多数だ。
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アメリカの教会 キリスト教国家の歴史と本質
橋爪大三郎
光文社新書 
2022年10月 476頁

 本書は、ケンブリッジ版『アメリカの宗教の歴史』から引用してまとめたもので、『アメリカの宗教の歴史』のダイジェスト版といったところだ。それに著者の見解が添えられている。

最終的にはカソリック教徒が一番多くなるが、そうはさせじとアメリカに上陸し続けたのはプロテスタントだった。だからカソリックは阻害され続ける。一方、プロテスタントは分派していく。新宗教も生まれる。各国からの移民たちがそれぞれ祖国の宗派を持ち込む。
たどり着いた約束の地アメリカに、伝統的な風習や規範がないからキリスト教が拠り所なる。そして教会同士の切磋琢磨というかバトルというかが繰り返され、宗教国家アメリカが出来上がるというわけだ。

ヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントの宗教戦争が起きた。ウェストファリア条約(1648年)で、住民の信仰は、君主と一致すべきと決められた。君主はプロテスタントかカソリックのいずれかを選択し、お互いを尊敬する。ヨーロッパの人々はそれぞれ生まれた国によって信仰する宗教が決まる。アメリカとは大きく違う。

イングランドは、1534年にヘンリー8世が国教会を樹立してカトリックから分かれた。イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス、ベルギー、ドイツの一部、ポーランド、アイルランドがカトリック。ドイツの大部分と北欧がルター派。イングランドが国教会、スコットランドが長老派。スイスとオランダが改革派(カルヴィン派)、のように地域ごとに分かれることになった。
ドイツや北欧では唯一の正式な教会はルター派と決め政府が税を徴収して、教会を維持したり、牧師の給料を払ったりする。政教分離ではない。ルター派以外は信徒から金を集める。

カトリックは人びとが自由に教会を設立できない。教皇庁のコントロール下にある。
イングランド国教会もイングランド国王が取り仕切っているので、人びとが自由に教会を造ることはできない。

アメリカでは教会同士が競争する。新しい教会ができたり、潰れたり合併したり、信者を取り合いする。宗派間の争いにより、土地から追い出したり、追い出されたりして、宗派は生き残っていった。アメリカは教会が作った国だ。アメリカには伝統的な地域社会は存在しない。そのかわりにいくつもの教会がある。

大部分の人びとが教会の日曜礼拝に出席した。義務ではないが安息日が厳格だったので、ほかにすることがなかった。牧師たちは、皆さんの祖先は大西洋を渡ってやってきて、世界で最も純粋な教会を立ち上げた。旧約聖書の約束の地イスラエルのようなこの地に生まれたことは幸運だと、説教した。だからこそ、改革を怠ると神の怒りに触れると。

ローマ・カトリックはアメリカの植民地で憎まれた。残忍な外国の圧政者とみられ、ほとんどの植民地で非合法だった。ニューヨークにカトリックが入ったのは南北戦争の後だ。独立戦争のとき、カトリックはわずか1%だった。合衆国の成立後、カトリック教徒の移民が増え、今ではいちばん人数が多くなった。
カトリックとモルモン教は異質で恐れられた存在だった。
ヨーロッパのユダヤ人おおよそ3/1がアメリカに渡った。

メソジストは1784年に教会として旗揚げした。バプティストは個人の集まりなので、会衆を超えた組織を作りにくい。長老派の福音主義者ライマン・ビーチャーが牧師として活躍した。ぐずぐずしていると、西部はカトリックの手に落ちてしまう。そうなればキリスト教国家は成り立たなくなると訴えた。

一般に、キリスト教は植民地時代の初期が黄金時代でその後世俗化が進んで下火になると思われていた。アメリカに関しては誤解である。どれかの宗派に属する人は1776年には19%、1980年位は62%である。過去200年間教会のメンバーは増え続けている。ヨーロッパとは逆である。

トランプの支持者は福音派である。福音派はもとをたどれば敬虔主義である。大学の神学教育や知的な権威、教会の組織、牧師の決まり切った説教などどうでよいと思う。村から村、町から町を説教をして回る説教こそ本物だと思う。トランプはこの巡回説教司のにおいがする。素性が怪しく、いかがわしく、人間の弱さと悪さが透けてみえる。でも憎み切れない人懐っこさも併せ持っている。田舎の敬虔主義の人びとがかつて巡回説教師に惹かれたように、福音派の人びとがトランプに惹かれた。
福音派は、プロテスタントのほぼすべての教派に存在し、特に改革・長老派教会、バプティスト教会、メソジスト教会、ホーリネス教会、ペンテコステ派、カリスマ派の教会に多くみられる。

アメリカの特徴は、政府と無関係ないくつもの教会の組み合わせだ。イングランドは政府+国教会。ドイツは政府+ルター派。ロシアは政府+ロシア正教。フランスは政府+哲学。日本は政府+国家神道。ソ連は政府+共産党。中国は政府+中国共産党。政府と「無関係ないくつもの教会」が組になっているアメリカのような国は、どこにもない。→人気ブログランキング
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2022年6月17日 (金)

あなたの知らない卑語の歴史 ネットフリックス

他国の言葉に違和感を抱くのは、余計なお世話だといわれそうだが、以前から、アメリカ人はなぜ卑語を多用するのかという疑問を持っていた。アメリカ映画では会話の中に「シット」や「ファック」や「ビッチ」という卑語が、ちょっと待ってくれというくらい頻発する。
ところで、卑語の連発で思い浮かぶ俳優はサミエル・ジャクソンというのは、衆目の一致するところだろう。『パルプ・フィクション』で、ダイナーでのジョン・トラボルタと向きあってのやりとりには「ファック」「ファッキン」が、洪水のように使われている。

卑語についてネット検索していて、『あなたの知らない卑語の歴史』というネットフリックス・コメディ・シリーズの番組に行き当たった。ニコラス・ケイジが進行役を務め、卑語の誕生から意味の変遷、そしてその卑語が現在どのように使われているかを紹介している。
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その内容をかいつまんで紹介する。
FUCKは中世のオランダの「叩く」という動詞に由来する。1200年頃初めて記載され、1500年代の書籍には稀だった。1500年以降は名前に使われることがあったが理由は不明。

1960年代、ジェー・フォンダたちにより、徴兵反対運動で「Fuck the Draft」が使われた。
映画では、ロバート・アルトマン監督の1970年に公開された『マッシュ』で初めて「ファック」が使われた。
アメリカ映画協会はファックが2回以上出てくる映画をR指定にしている。
辞書にあたると、間投詞として用いる「ザ・ファック」「ファッキング」には、いずれも「性交する」の意味はなく、自分が言わんとしていることを強調しているだけであるとされる。

SHIT
中世では排泄物という意味。シットはクオリティが低いという意味になっているが、ザ・シットは最高という意味だという。

BITCH
もともとは雌犬の意味。女性を見下す軽蔑語になり、わがままで主張の強い女性に使われる。男から言われたら軽蔑語になる。男に向けて使われると女々しいという意味が加わる
。ヘミングウェイは特異な使い方をした自らの母親をビッチな女神と呼んだのだ。
ビッチはフェミニズムと共に発展してきた言葉だという。
今や凄腕の女という意味をもつ。女性同士で使うと、女性の強さや団結を表す語として使われるようになった。

DICK
ディックはリチャードのあだ名。あだ名はそもそも韻を踏んでいる。RichardがRichになりDickになった。
まずは、男性を指す言葉になり、性的に厳しいビクトリア時代には、男性性器を指す言葉になった。そしてニクソンの時代にクソ野郎という意味だ加わり、ニクソンはDickと罵られた。

PUSSY
もともとは猫を表す俗語。時代の流れとともに女性性器を表す言葉になり、その後男性を軽蔑する意味が加わった。

DAMN
地獄に落とすという呪いの言葉が次第に不敬な卑語として広まっていった。卑語としては刺激に欠けるが、唯一聖書に登場する。ガッテム(GOD DAMN)は、DAMNにGODがついた。

卑語に嫌悪を抱く人は自分の方がモラルが高いと思っているが、そうとはいえない。
卑語は脳の感情に関係する進化的に古い場所からきているという。卑語が出るのは条件反射である。卑語を使うとアドレナリンが出る。アドレナリンが出ると痛みに耐えられるようになるという。
番組では実際に実験が行われた。氷水に手を入れ、卑語を連発するグループと卑語を発しないグループに分けて比較した。卑語を連発するグループの方が氷風呂に5割増で長く浸かっていることができた。アドレナリンが分泌され冷たさに耐えることができたというわけだ。
さらに、卑語を使うと、握力が5%上がるという。

言葉は意味が変化していくことがあり、卑語はその典型である。ファッキンは「性交」の意味から「すばらしい」という意味に変化し、ビッチは「発情したメス犬」であったものが「いかした姐御」になった。

下ネタ用語の多用には黒人文化が影響を及ぼしていることは明らかだ。もうひとつ、反知性主義が根っこにあるのも事実だろう。反知性は「エビデンスよりも、肉体感覚や感情を基準に物事を判断する」ことである。反知性主義が否定するのは「知性」自体ではなく「知性主義」である。反知性の動向はアメリカでは強い。
何しろトランプ時代、肉体感覚や感情を基準に物事を判断することが幅を利かせた。そもそもアメリカには、反知性の蔓延る土壌が根強くあるということだろう。虐げられてきた黒人の存在も大いに影響しているだろう。説教がましいことは、ごめんだということだ、
今は、息抜きと発散のため卑語が必要とされる時代だという。ちゃんと意味を込めて使うべきと『あなたの知らない卑語の歴史』の出演者はアドバイスしている。→人気ブログランキング
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2022年6月 2日 (木)

その名を暴け ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー

『ニューヨーク・タイムズ紙』の女性記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが、ミラマックスの創始者でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラと性暴行を調査して、それを記事として公表する過程が描かれている。ドナルド・トランプ、ハーヴェイ・ワインスタイン、ブレッド・カバノー最高裁判所判事の3人の性暴力が主に取り上げられているが、そのなかで最も多くのページが割かれているのは、ワインスタインだ。
038e3d2466bf4016a38c49e87ba54934その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い
ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー
古屋美登里 
新潮文庫 
2022年5月 603頁

2016年、『ニューヨーク・タイムズ』に入社したミーガンが命じられたのは、大統領選の記事を書くこと。トランプは女性に対して性的暴力の常習犯だった。ワシントン・ポスト紙が2005年の「アクセス・ハリウッド」(NBCのエンターテイメント系情報番組)から録音テープを入手した。トランプの「なんだってやれる。あそこを掴むことも…」という録音テープが明るみに出たのだ。
トランプは男同士の与太話(ロッカールーム・トーク)であると弁明したものの、被害を受けた女性が名乗り出て記事になると、トランプは訴えると言い出し、被害者がトランプ支持者の嫌がらせを受けるようになった。

1979年、ミラマックス社を弟ボブと起こしたワインスタインは、ハリウッドで若手の監督や俳優を世に送り出し、アカデミー賞を獲得するような作品をいくつも手掛け、輝かしい実績を残していった。しかし、女性に対する酷い扱いが噂された。2015年、ニューヨーク市警に、イタリア人モデルからワインスタインに体を弄られたとの訴えがあったが、結局起訴されずに終わった。

ワインスタインは訴えられそうになると莫大な示談金を払い、示談書に黙秘義務を明記して被害者を沈黙させた。示談金を払った相手は8人から12人に上ることがわかってきた。
ミラマックス社に勤めていた女子職員が突然辞めるケースがいくつかあった。ワインスタインは、女子職員に対して暴言を吐き性的な要求をしていたのだった。

ジョディとミーガンは、被害者にメールを送り電話をかけ面会して、ワインスタインをの悪行を暴いていった。そして、ついに記事として掲載できるところまでに漕ぎ着けた。
記事を掲載すると通告されたワインスタインの狼狽ぶりが事細かく記載されている。

『ニューヨーク・タイムズ』の記事がネットに公開されると、続いて『ニューヨーカー誌』に、ローナン・ファローの告発記事が掲載された。これらの告発記事によって、『ニューヨー・タイムズ』をはじめ他の報道機関に、性的虐待を受けたという女性の告白が殺到した。ウェートレス、バレエ・ダンサー、家政婦やベビーシッターといった家庭内労働者、工場労働者、グーグルの従業員、モデル、看守などが声を上げた。そして#MeeToo 運動につながっていった。大物政治家や有名テレビ司会者、有名シェフ、コメディアンなど次々に告発され消えていった。
2020年3月、ワインスタインはニューヨーク最高裁判所にて禁錮23年の判決をけた

2018年9月、トランプ大統領が最高裁判事候補に任命したブレッド・カバノー判事が最高裁判所判事の候補になったとき、クリスチャン・ブレイジー・フォードは名乗り出ようと思った。高校生のときにレイプされかけたのだ。その後フォードはスタンフォード大学の心理学の教授となったが、PTSDに悩まされている。
しかし迂闊に名乗りを上げれば、共和党の猛攻撃を喰らうことになる。カバノーには他にも女性虐待を加えていたはずだとフォードの弁護団は推測していた。ところが、ひとりも被害者を見つけ出すことができなかった。フォードは告発するかどうかの選択に迫られた。公聴会の前に公開することはなかった。
ところが、公聴会の4日前にふたりがカバノーに性的虐待を受けたと名乗り出たが、結局、上院の採決で賛成50:反対48で、カバノーは最高裁判事になった。

最後の章では、本書に登場した被害者のうち12人が、カリフォルニア州の女優グウィネス・バルトローの自宅に集まり、集団インタビューが行われた。女優のアシュレイ・ジャド、トランプタワーで働いていたときにトランプに突然キスされた女性、ミラマックスのロンドン支社でワインスタインのアシスタントをしていたローラ・マッデン、同僚のゼルダ・パーキンス、マクドナルドの従業員、フォード教授など、そして弁護士たちが集まった。

本書を原作として、マリア・シュラダー監督が指揮をとり、レベッカ・レンキュビチ脚本で、ミーガンをキャリー・マリガン、ジョディをゾーイ・カザンが演じて映画化され、2022年11月に全米で公開予定である。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い/ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー/古屋美登里/新潮文庫/2022年5月

2022年5月21日 (土)

キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー

著者のローナン・ファローはウディ・アレンとミア・ファローの息子である。 ローナンはアメリカの3大ネットワークのひとつNBCの雇われ記者として、1952年から続く朝の番組『トゥデイ』に自らも出演し、放送する特集の取材もしていた。その中で、かつてメリル・ストリープが、神様と呼んだこともある大物プロデューサーの性犯罪を調べはじめた。その調査の過程を書いたのが本書である。
ちなみに、タイトルの「キャッチ・アンド・キル(捕まえて殺す)」は、タブロイド業界で使われるフレーズで、もみ消しのためにネタを買い入れることをいう。
Photo_20220521083901 キャッチ・アンド・キル
ローナン・ファロー 関美和 
文藝春秋 
2022年4月 493頁

ミラマックス社を設立したハーヴェイ・ワインスタインはいつも女性をを狙っていた。周りはワインスタインが女を食い物にしていることを知っていた。以前、何人もの記者がこのネタを追っていたが誰も尻尾を掴めなかったという。しかしなぜそのようなことになるのか。

ワインスタインは女性を金で黙らせ、騒ぎ立てたらキャリアはおしまいだと脅した。ワインスタインは女優志願やモデル志望の女の子たちとミーティングをしょっちゅう行なっていた。ホテルの部屋で、最初は女性重役やアシスタントを同席させ、女の子たちを安心させて、罠にかけていたという。つまり周りが協力していたのだ。有名女優にもそうでない女優にも、会社の事務員にも手を出していた。
「誰もハーヴェイを止められない。今回も握りつぶすでしょうね」というのが、ワインスタインと仕事をした者の声だった。

ワインスタインは、イスラエルの調査会社ブラック・キューブにセクハラ事件の対策を依頼していた。ブラック・キューブはイスラエルの諜報機関に所属していた人物が起こした会社である。そこのスパイたちが、相手を脅したり、警察に手を回したり、ローナンたちを尾行したり、工作活動をしていた。相手に恐怖を感じさせ追いつめるのだ。
ローナンの動きにワインスタイン・サイドが反応し、NBCに調査を止めさせるようにとのプレッシャーがかかり、著者のインスタメッセージに脅迫メールが届くようになる。銃を持つようにと周りから言われもした。
NBCの上層部から、ローナンたちの取材に待ったがかかり、ローナンは番組から降ろされ、解雇された形になった。

ウディ・アレンが7歳の義娘に性的虐待を加えたとミア・ファローが訴えた。アレンは10人の弁護士を雇い、証拠不十分で不起訴となった。アレンはワインスタインにセクハラで訴えられたときの対処法を伝授したという。アレンは、この性スキャンダルの一連の報道の煽りを受けて、ハリウッドを追われることとなった。

ついに、2017年10月、ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌がワインスタインの狼藉を報道した。報道の後、被害者が次々に名乗りを上げた。
ワインスタインは女優ら30人超と27億で和解し、上告したとはいえ懲役23年が言い渡され、刑務所に収監された。

そして驚いたことに、『トゥデイ』の人気キャスター、マット・ラウアーがワインスタインと同じようなセクハラを行なっていたのだ。疑惑が浮上した2017年11月に、NBCはラウアーを即刻解雇した。

NBC(大企業)は、「ウィキペディアの書き換え屋」を雇って、企業イメージをよくしようとうとしている。まるで、ワインスタイン報道などなかったような書かれ方に修正されていたという。

ニューヨーク・タイムズ紙やニューヨーカー誌の報道により、性スキャンダルが次々に明るみに出たことに連動し、「Me Too運動」につながっていった。著者は、ニューヨーカー誌に投稿した記事で、2018年のピューリッツアー賞を受賞した。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い/ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー/古屋美登里/新潮文庫/2022年5月

2021年8月 6日 (金)

ショート・カッツ

  Short-cutsショート・カッツ
映画公開のあとに出版されたペーパーバック(1994年)
Short-cutscinemaレイモンド・カーヴァーの作品をもとに描いたオムニバス映画
監督:ロバート・アルトマン
アメリカ 1993年 187分

「隣人」(Neighbors『頼むから静かにしてくれ』より)
夫婦には、隣に住む夫婦が自分たちよりも充実した輝かしい生活を送っているように思えた。隣の夫婦が旅行に出かけるので、家の鍵を渡され猫の世話と芝生の水撒きを頼まれた。他人の家庭生活の現場を目の当たりにすると性的に興奮するのか、夫は妻を求める。夫は隣の家の戸棚を開けたり、ウィスキーを飲んだり、夫の服を着たり、その妻の下着を身につけたりしていた。
妻が猫に餌をやりに家に入り、引き出しの写真をまじまじと見てる。そして、妻は鍵を燐家のなかに置き忘れたまま扉を閉めてしまう。

「そいつらはお前の亭主じゃない /ダイエット騒動」(They're Not Your Husband『頼むから静かにしてくれ』より)
男は、妻がウェートレスとして働いている24時間営業のコーヒーショップに寄ってみた。ふたりの男が妻の後ろ姿を見て太りすぎだと言っている。帰えってきた妻に痩せたらどうかと提案してみた。妻は4キロ減らした。急に痩せたのはどこか悪いのじゃないかと言われたと妻が言う。そいつらはお前の亭主じゃないんだ、余計なことをいうなと男はいう。
ある夜、妻の働くコーヒーショップにより、別のウェートレスにもう一人のウェートレスな感じが変わったと男はいう。隣の男にどう思うと妻のことを尋ねる。そのうちに別のウェートレスが、あの男は変だと言い出す。妻は亭主なのと明かす。

「ビタミン」(Vitamins『大聖堂』より)
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄る。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「頼むから静かにしてくれ」(Will You Please Be Quiet, Please?『頼むから静かにしてくれ』より)
ふたりは大学の同級生でふたりとも教師の職を得、それまでは、順風満帆といっていい暮らしだった。
2年前のパーティーのときだ。妻が男と消えた。
夫はそのことについてそのあと何度も問い詰めた。怒らないから本当に、あの夜何があったのか言ってくれと。
本当のことを話したら、破局がくることを妻は感じている。

「足もとに流れる深い川」(『愛について語るときに我々の語ること』)
夫と友人ふたりは、釣りに出かけた。そこで若い娘の全裸死体を発見したものの、引き返すことなくテントを張り2日間そこで釣りをしたりポーカーをしたりウィスキーを飲んだりして過ごした。
3人は事情聴取を受ける。それ以来夫は不機嫌のままだ。
私は葬式に出る。そこで犯人が捕まったことを知らされる。この町の子どもだという。
家に帰ると夫がウィスキーを飲んでいた。息子はまだ帰ってきていない。ふたりは息子が帰ってくるまでの間に急いでことを済ませることで意見が一致する。

「何か役に立つこと」 (A Small, Good Thing『大聖堂』より)
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。
パン屋から電話がかかってきた。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ジェリーとモリーとサム /犬を捨てる」(Jerry and Molly and Sam『頼むから静かにしてくれ』より)
勤めている会社がレイオフを発表する前に、月200ドルの家賃の家を借りてしまった。
男は浮気をしていた。彼はすべてこのとについて自分でコントロールする力を失いつつあった。
犬を捨てなければならない。小便は垂れるし、そこら中を噛む。秩序を取り戻すためには、犬をこの家から追い出さなければならない。

「収集」(Collectors『頼むから静かにしてくれ』より)
雨の降る日、前に住んでいた夫人がアンケートに答えて、懸賞に当選したので景品を届けにきたと男が訪ねてきた。男は家に強引に入ってきて、バッグを開けその景品を組み立て始めた。なんのかんのと言いながら、帰った方がいいのではないかという忠告を無視して、出来上がったのは真空掃除機。そして、吸塵の性能を証明するかのように、掃除を始める。カーペットに液体を撒き散らし吸引する。
1ドルも払えない、金がないと男に伝えた頃には、掃除機をバッグの中にしまいこんでいた。男は、この掃除機は要りませんかという。

「出かけるって女たちに言ってくるよ」(Tell the Women We're Going『愛について語るときに我々の語ること』より)
ビルとジェリーは子供の頃からの無二の親友だった。ジェリーは高校を中退してスーパーマーケットに勤めた。ビルは卒業後、工場に勤め州軍に入った。ビルは22歳の時に結婚した。ビルとジェリーは
休日になるとホッとドッグを焼き、子供達を簡易プールで遊ばせビールを飲んだ。ジェリーは「出かけると女たちにいってくるよ」と言って玉突きに二人で出た。娯楽センターにつき、ビールを飲んで玉突きをした。
帰りに自転車に乗っている二人の娘を見かけ、ジェリーは声をかける。はじめは相手にされないがそのうちに名前を聞き出す。自転車を降りて小山を登り始めた。ジェリーとビルは追いかけるように娘に近づく。
ジェリーの姿が消え、石で片をつけた。

「レモネード」(Lemonade)
散文のような詩。
ジム・シアーズは本棚を作るために壁のサイズを測りにきた。半年ばかり経って本棚が届けられ、設置されたあとで、ジムの代役で父親のハワードがうちのペンキを塗りにきた。ジムは息子を川で亡くし、そのことで自分を責めていて、立ち直れないでいる。レモネードを入れた魔法瓶を車まで取りに行かせなければよかったと、何百回となく何千回となく口にした。息子の死体はヘリコプターに吊り上げられ、だらんと両手を広げて水滴を周りに飛び散らせていた。子供は父親の前に運ばれ、優しくそっと置かれた。→人気ブログランキング
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/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

2021年7月23日 (金)

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか 朝日順子

シカゴからロサンゼルスに至るルート66に関連したブルース、カントリー、ロックンロールの楽曲のそれらが生まれた背景と歌詞の意味、果たした役割を探る。「アメリカの真ん中の道」ルート66には、語るべき数多のエピソードがある。
著者は子どもの頃から洋楽に親しみアメリカ在住経験が何回かある。職業は翻訳家、音楽ライター。イベント出演や執筆の仕事に携わってきた。ロックの歌詞を解説するトークイベントを行なっている。
本書では日本であまり知られていない、アメリカ中西部と南部の風土や文化、そこに住む人々が何を考えているかを歌詞から紐解き、著者自身の体験も記したという。本書の情報は幅広く深くマッシブだ。著者の音楽を語る熱量は凄まじい。
66ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか
朝日順子(Junko Asahi
青土社 
2021年 234頁

第1曲目は、『On the Road Again』(ウィリー・ネルソン)を紹介する。本書のテーマ「アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか」を表す象徴的な曲だ。
オン・ザ・ロードの生活とは、音楽家が主に車両で長距離を移動する状態を示す。一番の稼ぎ時である夏は、フェスティバルでのライヴに出演するためにアメリカ全土を移動する。真冬以外は、ライヴハウスだけでなくグリルのような大きめのレストランからホテルのラウンジまで、文字通りドサ回りをする。
ローリング・ストーンズのようにスタジアム級のコンサートをやるバンド、小さな会場でのツアーを何年も続けるバンド、昔は大規模なコンサートをやっていて、今は小規模なギグを地道に続けるバンドとさまざまだが、いずれにしても彼らのロードは果てしなく続く。 

スタインベックの『怒りの葡萄』は、30年代にオクラホマ、テキサス、アーカンソーなどの中西部の州の人々(オクラホマの人が多かったためオーキーと呼ばれる)が、砂嵐で耕作不能となった土地を捨てて、ルート66を進行しカリフォルニアに向かう物語である。
ボブ・ディランに影響を与えたウッディ・ガスリーはオクラホマの出身で、オーキーたちと共にカリフォルニアを目指す旅に同行した。そのあとニューヨークに戻ったウッディはスタインベックと友達になり、『怒りの葡萄』についての曲をアルバムに載せたという。

ブルースはミシシッピー州を中心にしたディープサウスで生まれ、北上しシカゴで花開いた。一方、ロッックンロールは、それほど単純ではない。
アメリカンロックの源泉は路地裏だという。どんなに成功して金持ちになっても、ルーサー精神を失ったら、もうそれはロックではない。エルヴィス・プレスリーに代表される音楽ジャンル「ロカビリー」は、白人を蔑視する言葉「ヒルビリー」とロックンロールを合体して名づけられた。

自由であるからこそ逆に不自由であることが、反抗の文化であるロックがアメリカで発展した理由の一つだと思っているというのは示唆的だ。日本では世間体を大事にする親が多いが、アメリカでは自分の嗜好や思考を押しつける親が多いことが、反抗を生み出しているという。

“motor (車)”と“hotel (ホテル)”を組合せた造語「Motel」と呼ばれる世界初のモーテルがカリフォルニアに誕生したのは1925年。これはルート66が開通した翌年というトリビアが楽しい。→人気ブログランキング

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか/朝日順子/青土社/2021年
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて/松尾理也/新潮新書/2006年

2020年9月10日 (木)

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL 町山智浩

『週刊文春』に連載されている「言霊USA」(2018年3月〜2019年7月)の69本のコラムを収録。
コアなUSAウォッチャーの著者は、トランプが大統領になって話題が尽きないので、書くことに困らないという。トランプは、平気で嘘をつくが本音を言い、自らの行いは過剰に褒め、敵は徹底的に腐す。利用価値があると思えば、危険な人物であろうと近ずいていく。よく言えば、わかりやすくて邪気がない。悪く言えば子どもで、自己愛性人格障害ともいわれている。
一部のエキセントリックな白人だけがトランプを支持しているわけではない。そもそも白人はアメリカは自分たちの国だと思っている。自分たちは選ばれた人間だと信じている。これ以上有色人種が増えると白人優位のアメリカを維持できなくなるという焦燥感が、トランプ支持する。なにも手を打たなければ、共和党は選挙に勝てなくなる。そこで、顔写真付きの身分証明書なしには投票できない、有権者ID法を取り入れる州がでてきている。黒人をはじめとする有色人種は、免許証を持っている割合が圧倒的に低い。
トランプはもちろんだが、今の共和党には賢さが皆無だ。
ピックアップした「Qanon」「Uninged」「Very Close To Complete Victory.」「Busing」について抄記する。

Image_20200910143501 アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

町山智浩
文藝春秋 2019年

QAnon(Qアノン=トランプ支持者が信じる匿名ネット投稿者 2018年9月6日)
Qという匿名(Qアノニマス=匿名者Q)のネット投稿からはじまった陰謀論で、アメリカはディープ・ステートという闇の組織に支配されているという。ヒラリー・クリントンや政府高官が絡んでいて、政財界には小児性愛者ののネットワークがあり、ワシントンのピザ屋で、子どもを売買しているという。2016年にはQAnon信者がそのピザ屋を銃で襲う事件が発生した。
トランプ支持者にはQAnon信者が多い。QAnon信者はそれと戦う正義の味方がトランプだと信じている。

Uninged(タガが外れて 2018年10月4日)
トランプの閣僚で唯一の黒人女性だったオマローサ・マニゴールドが解雇され、オマローサは回顧録『UNHINGED(アンヒンジド)』を出版した。
トランプと著者は、出演していた人気テレビ番組『アプレンティス』以来のつき合いがある。オマローサは大統領制出馬以来、広報を担当してきた。
トランプは極度の健忘症で、前日に言ったことすら覚えていない。「精神的に問題がある」と強調している。 
また、大統領選の遊説で黒人教会に行ったとき、トランプが「ニガー、ニガー」と差別用語を多発し、「(黒人に何をされるかわからないから)俺をひとりにしないでくれ」と懇願したなど、黒人への差別意識を丸出しにする姿も暴露されている。
一方、トランプは「彼女を雇ったのは涙目で哀願してきたからだ」と言っている。まるで小学生だ。

Very Close To Complete Victory.(ほとんど完璧な勝利 2018年11月29日)
アンドリュー・ジャクソン(第7代大統領)は、テネシー州や南部に住んでいた先住民をオクラホマに強制移住させて彼らの土地を白人入植者に与え、絶大な人気を誇った。トランプはジャクソンを尊敬しているという。
テネシー州はバイブルベルトの一部で、キリスト教福音派が全米で最も多い。彼らにとっては、1973年に人工中絶が違憲だとした最高裁判決を覆すことが悲願。トランプによって最高裁判事9人のうち5人が保守派判事が占めることとなった。中絶の再禁止が実現し、同性婚も風前の灯だ。

Busing(公立学校地域格差是正のためのバス通学 2019年7月18日)
民主党の大統領候補レースが始まった。今回は24名が出馬している。
トップはジョー・バイデン、2番がバーニー・サンダース、3番手がエリザベス・ウォーレン、以上4人は70歳以上の年齢。トップ3が70歳代だとは、なんという人材不足。
4番手はカーマラ・ハリスで54歳。6月27日マイアミで行われたディベートの勝者は、カーマラ・ハリスだ。父はアフリカ系のジャマイカ人。母はタミル系のインド人。父は経済学、母は医学、それぞれが博士号を取るためにカリフォルニア大学バークレー校に学んでいる間に出会って結婚した。そして生まれたのがカーマラ。そのご夫婦は離婚、カーマラは母の手で育てられた。
バシングとは、学童が通う学校をシャッフルすることで、貧困地域の子を富裕層の多い地区の学校に通わせ、その逆も行い、格差をなくすこと。
ハリスが小学生だった1973年、バイデンは上院議員として、議会でバシングに反対票を投じたのだ。それを、ハリスは追求した。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

2020年9月 3日 (木)

アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2 町山智浩

2012年の8月から2016年3月まで、『週刊文春』の「言霊USA」に掲載された 74本のコラムを掲載している。おりしも、オバマ大統領の2期目の年から、2016年の初めトランプがいまだ泡沫候補であった頃まである。
アメリカでは、人種差別は永遠のテーマであり、相変わらず銃乱射事件は頻発するし、レイプの件数は驚くべき数字である。女性差別も貧富の差も一向によい方向に向かっていない。著者はそれをローアングルからとらえている。。
巻末の解説は、東京大学とハーバード大に合格したことをウリにしているモーリー・ロバートソン。自分はあまたいる日本の外人タレントの中で本物であり、町山のアメリカ情報も本物であると婉曲にいう。
トランプの白人至上主義について冷静な見解を述べている。つまり、2040年頃には白人が少数派に転じる。いずれ大統領は非白人に寄り添った政治しか許されなくなる。いまアメリカは最後の悪あがきをしているというもの。これは定説ともいえる見解だ。

Photo_20200903124201 アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2
町山智浩
文春文庫 2016年 ✳10

Three Cups of Deceit(偽りのスリーカップス)
いやーショックだ。400万部以上を売り上げ、2006年の全米ベストセラーとなった『スリーカップス・オブ・ティ』が作り話で、著者が詐欺をはたらいていたとは。日本では2010年3月に出版され、早速読んで大いに感激した。
ヒマラヤ山脈のK2峰登頂にを途中で断念したモーテンソンが道に迷って遭難し、パキスタンのコンフェという村の人々に助けられる。モーテンソンは看護師で、後産で死の淵を彷徨う村の女性を救い村人の信頼を得る。村に学校を作ると言ってアメリカに戻り、寄付を集めてコンフェに戻って学校を建てた。9.11で分断されたアラブと西側の架け橋になろうと、その後の学校を建てようとする感動ものだった。
著者が主催する団体に全米の慈善事業家、教育機関、市民団体から巨額の寄付が集まった。しかし膨大の額の使途不明金が指摘されたが、著者は沈黙しているという。

Kids Vote(子供投票)
大統領選の予想のあれこれ。
もっとも当たっている予想は、1940年から続いている「Kids Vote」。過去2回しか外していないという。絵本や教科書を出版するスコラスティック社が主催し、18歳以下の25万人が参加する。親の投票行動が反映するからだろうと言われている。

Taste worth dying for(死ぬ価値のある味)
アメリカでは年間12万人が肥満で死ぬという。
2011年、ラスヴェガスにオープンしたレストラン「ハートアタック・グリル」の店の入り口には、「この店は健康に有害です」と警告文が出ている。ウェートレスは看護婦のコスプレ、客は手術の時に患者が着る服を着せられ、車椅子で店内に案内される。
全部で9900キロカロリーのハンバーガーがメインで、付け合わせはラードで揚げたフライ。ドリンクはメキシコから取り寄せた砂糖たっぷりのコーラ、またはバターたっぷりのミルクセーキ。156キロ以上の人はいくら食べても無料だという。常連客が心臓麻痺で救急車で運ばれたが死んだ。
この店の客が死ぬのは初めてではない。ラスヴェガスの前は店がアリゾナにあったが、29歳の常連客が店の中で心停止した。
「オーナーは言う。たとえ死のうが、好きなものを食べる自由がある!」いかにも、自由を重んじるアメリカだ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2/町山智浩 /文春文庫 2016年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年
アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩/文藝春秋/2019年

2020年8月29日 (土)

トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4 町山智浩

2016年、共和党の大統領候補指名選は、最終的にトランプとフロリダの上院議員テッド・クルーズの戦いになった。お互い「お前の母ちゃん出べそ」的な中学生レベルのネガティブキャンペーンを行った。が、相手の弱点をつくことにおいては、トランプに一日の長があった。その悪口の発信を追求されると、PAD(政治活動委員会)という団体が勝手にやったことだと、それぞれの陣営が責任逃れをした。PADは政治家を勝手に応援する後援会で、個人や企業からの献金で潤っている。潤沢な資金で下品なCMが多量に流されることになった。とういうのが前置き。
本書に収録されているのは、『週間文春』の「言霊USA」に、2015年3月19日号〜2016年間3月17日号の間に掲載されたコラム。
本書のタイトルは、トランプ陣営が支持者集会でローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』を流したところからきている。歌詞の中でサタンはこう繰り返す。「私がやっているこのゲームの正体がわからなくて、あなた方は困惑しているでしょう?」これは、支持者集会に流す曲じゃない、そんなことはどうでもいいという精神構造が、ヤバイ。
Image_20200829162401 トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4
町山智浩
文春文庫 2018年 ✳︎10

Opioid(オピオイド=アヘン類似物質)
2015年7月、日本でトヨタのアメリカ人元常務役員ジェリー・ハンプが麻薬の密輸で逮捕された。彼女が持ち込んだオキシドコンという鎮痛剤は、アメリカでは処方箋があれば手に入る。日本でも同じ方法で手に入るが、処方の条件が厳格である。日本で多く処方されているのは「非麻薬性」オピオイドと呼ばれるヤワなやつだ。
オキシドコンは、オピオイドと呼ばれる強力な鎮痛剤で抑うつ効果がある。ハッピーな気分になる。「-oid」は「〜に見える」「それっぽい」という意味だ。麻薬類似物質の常用者は940万人、総売上2億ドル以上の一大産業なのだ。オピオイド中毒は深刻な問題である。いずれ、ヘロインに手を出すことになる。

Black people can't swim?(黒人は泳げない?)
アメリカでは水泳は義務教育の必修科目ではない。貧乏だったり、共稼ぎや片親の忙しい家庭の子は泳ぐ機会がない。
『アメリカのプールの社会史』は、モンタナ大学のジェフ・ウィルツ准教授がプールにおける人種差別を研究したものだ。奴隷制度の時代、白人たちは黒人が川に入ることを固く禁じた。逃げられてしまうからだ。1920年代、全米各地にプールが作られたが、黒人は入ることができなかった。
現在、市民プールにおける差別は「いちおう」なくなったが、「水泳格差」は存在する。実際、USA水泳連盟とメンフィス大学が2010年に発表したデータによると、黒人の7割は泳げない。白人の少年に比べて溺死事故は3倍も多い。

Don't get ahead of the news,It will run you over.(ニュースの先を走ってはならない。後ろから轢かれることになる。by FOXニュースのキャスター)
全米警官組合はタランティーノの映画を「反警官的」としている、新作西部劇『ヘイトフル・エイト』のプレミアム試写会の、警備や交通整理を一切行わないよう呼びかけた。
デビュー作の『レザボア・ドッグス』(92年)ではギャング同士の次のような会話がある。「人を殺したことがあるか?ポリ公じゃなくて、本物の人間を」。タランティーノは警官が嫌いだってことは明らかだ。

メディア王ルパート・マードック傘下のFOXニュースは、黒人射殺が続く昨今は警察官の味方についている。横領がばれそうになり殉職したように見せかけ自殺した警官を、FOXニュースは英雄と祭り上げてしまった。タイトルはFOXニュースのキャスターが、戒めに言った言葉。

Snitch (密告者、チクリ屋)
麻薬王エル・チャポのアジトに海兵隊が踏み込み、一味はほとんど射殺され、エル・チャポは拘束された。エル・チャポは麻薬密売組織シナロア・カルテルのボス。資産10億ドルといわれアメリカ経済誌『フォーブス』の富豪ランキングに入る。エル・チャポは今まで何回も逮捕と脱獄を繰り返していた。
そのエル・チャポに、素人記者としてたびたび記事を書いてきたショーン・ペンがインタビューした。ペンの記事は当たり障りのない内容で、なんのツッコミも入っていない。
ところがこのダメ記事が役に立った。インタビューの交渉に会話を暗号化する携帯電話を使ったが、アメリカ政府の監視システムに引っかかった。密告者になってしまったショーン・ペンは、命がヤバイんじゃないか?→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年

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