アメリカ

『食の実験場 アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』 鈴木透

著者はアメリカの食の歴史を3期に分けている。
第1は、イギリスの植民地時代から独立革命までのアメリカの形成期。白人入植者の食を支えたのは先住インディアンと黒人であった。第2は、19世紀後半から20世紀半ばにかけての産業社会の形成と工業国化の時期。食事に時間をかけないという発想がファーストフードの誕生につながった。第3は、1960年代以降の産業社会のあり方に対する抵抗と反省。ヒッピー文化や菜食主義者たちの影響によるオーガニックへ向かう動き。

イギリスの植民地時代、北部の白人入植者は先住インディアンの影響を受け、パンプキンパイ、コーンブレッドや七面鳥料理が生まれた。南部では黒人の影響を受けた米を使う料理が出現する。南部の家庭料理であるフライドチキンは、スパイスによる味付けは黒人から、揚げるという料理法は白人から受け継いでいる。
フランス人はミシシッピー川河口近くのニューオリンズを中心に住み着き、クレオールと呼ばれるフランス人と黒人の混血の人口が増えていった。
クレオール料理の代表はガンボーと呼ばれる雑炊のようなスープ。海産物、肉やソーセージ、トマトや玉ねぎ、豆など、あり合わせの材料で作ることが多いが、オクラでとろみをつけることが特徴的だ。米やオクラはアフリカ的だし、トマトやスパイスは先住民の影響があり、海産物を加えることはブイヤベースからきていてフランス的でもある。ガンボーは、アフリカ、先住インディアン、フランスの混血創作料理なのである。
クレオール料理のもう一つの代表ジャンバラヤは、トマト味のスパイシーなピラフで、具材はガンボー同様決まりはない。

食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書)
鈴木 透 ✳︎10
中公新書 2019年4月
売り上げランキング: 2,385

工業国となっていくアメリカには、1890年代から1910年にかけて、主としてヨーロッパの低開発地域から移民が大量に流入した。イタリア系やユダヤ系、北欧系などが 中心で、エスニックフードの多様性が増した。
ドイツの惣菜を扱う店デリカテッセンが普及し、ハインツ社がケチャップを開発した。
ハンバーグはドイツの港ハンブルグから名付けられた。それをパンに挟んだハンバーガーは、1904年のセントルイスでの万国博覧会で誕生したいわれている。
ドイツのフランクフルトから持ち込まれたソーセージをパンに挟んだホットドッグは、コニーアイランドの遊園地で売られた。こうしてドイツの食が野外の手軽なフィンガーフードに応用されアメリカ独自の食文化へと発展していった。
自動車時代の本格的な幕開けとともに、本来食事を取ることができない場所や時間帯に食事を可能にする新たなタイプの外食産業・ファーストフードをアメリカに作り出した。

飲み物についてもアメリカならではの特徴がある。独立革命期に生じた紅茶離れは19世紀に入っても続いた。ラム酒と紅茶を飲むことは反愛国的行為とみなされた。現在、アメリカの一流ホテルで紅茶を頼むとティーパックが出てくるという。

飲料水の確保が困難だったため、植物の根で作ったアルコール分の低いルートビアが飲まれた。医薬品であった炭酸水を瓶に詰めることに成功したのはコカコーラ社である。アメリカにおける炭酸飲料は、病人の飲み物であったことや製造に薬剤師が関わっていたこと、ドラッグストアで売られていたことから、飲む薬としての性格をもっていた。ちなみにペプシコーラの名称はペプシンという消化酵素からきている。

ヒッピーたちは、効率優先からの脱却と多様性の復権を実現する、有機農業や自然食品を追い求めた。さらにヒッピーたちは有機栽培やヘルシーからエスニックにつながっていった。そこから生まれてきたのがカリフォルニアロールである。
いまアメリカの食が向かっているのは有機栽培の野菜を使った健康食だ。創作料理の最前線ではビーガンの影響がある。

『ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』ジェラルディン・ブルックス

アメリカ北東部マサチューセッツの小島に生まれた先住民ワンパノアグ族のケイレブ・チェーシャトゥーモークが、ハーバード大学に入学し卒業したという史実にアイデアを得て、著者は本書を書き上げた。

信仰の自由を求めて、清教徒がメイフラワー号でアメリカ大陸に到達したのは、1620年11月。舞台は、それから数10年が経過したマーサズ・ヴィニアード島である。島のインディアンの中にはキリスト教の洗礼を受ける者も出てきた。

主人公のベサイアの父はインディアンへの布教に尽力するキリスト教の牧師。
父がベサイヤに勉強を教えてくれたのは9歳までだった。それ以降は亡くなった母の代わりに家事をこなしながら、父が兄にラテン語やギリシャ語やヘブライ語を教えるのを、聞くことで知識を吸収していった。兄よりベサイアの方が覚えるのが圧倒的に早かった。聡明なベサイアはインディアンの言葉ワンパノアグ語を理解できたし話すこともできた。

ケイレブ: ハーバードのネイティブ・アメリカン
ジェラルディン ブルックス
平凡社
2018年 ✳10

ある日、ベサイアは愛馬に乗り海岸まで出かけて、インディアンの男の子と出会った。のちに、ベサイアがクレイブと名づけたそのインディアンは、ハマグリのたくさん採れるところや大きなグランベリーの実の成る木に案内してくれ、いろいろなことを教えてくれた。ベサイアはケイレブに英語を教えた。
ケイレブの男らしい屈託のない性格に惹かれ、ふたりは親友になった。

そのケイレブが家に住み込んで父親からラテン語やギリシャ語を習うことになった。
ケイレブの理解力と記憶力は抜群だった。
しかし、ベサイア一家を不幸が襲う。イギリスに渡ろうとした父の乗った船が嵐に襲われ、父は帰らぬ人となった。

ベサイアは選択を迫られる。兼ねてから求婚されている島の有力者の息子と結婚し島に残るか、兄やケイレブたちとボストンに出ていくかである。ベサイアは兄たちが通うラテン語学校を経営するコールレット先生の家で、小間使いとして年季奉公することになった。

小間使いの仕事をはじめて間もなく、総督の推薦でアンというインディアンの娘が寄宿することになった。利発なアンはラテン語の本をスラスラ読んだ。
ところが、妊娠していたアンは流産してしまう。ベサイアは島で助産婦について訓練していたので的確に行動した。アンの相手が誰かが問題となりケイレブたちが疑われたが、ベサイアはアンがここにくる前に妊娠していたことを確信していた。
アンは審問を受けることになり、ケイレブたちが相手とされ、さらにベサイアさえも災難が降りかかることになるだろう。
島に連れて行き、イギリス人と友好の深くないインディアンのグループに預かってもらうことにした。

ケイレブは順調に勉学に勤しみ、ハーバード大学の学長の口頭試問を難なくパスし、晴れて入学が許可される。
その後、差別やいじめで苦境に立たされるケレイブだが、毅然とした態度を貫きやがて級友たちの信頼を得るに至るのだった。

物語の最終章は、70歳のベサイアが自らの波瀾に満ちた半生を振り返る構成になっている。本書はケイレブの物語というよりも、それを見届けたベサイアの物語である。
現在、著者は本書の舞台であるマーサズ・ヴィニアード島に暮らしているという。

ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』ジェラルディン・ブルックス/柴田ひさ子/平凡社/2018年
『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』ジュラルディン・ブルックス/高山真由美/RHブックス・プラス/2012年

『リバタリアニズム』渡辺靖

リバタリアニズムとは、個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的、社会的、経済的に自由を求める思想。政府の介入を極力排除し、自由と市場主義を徹底する。

自由至上主義や自由尊重主義と訳され、日本ではリバタリアンは「保守の一部」とみなされがちだが、湾岸戦争やイラク戦争には反対した。人工中絶や同性婚については国家が口を挟むべきことではないとする。
さらにレイシズムや(人種差別)ナショナリズムは個人を矮小化するとして否定し、マイノリティやLGBTへの差別に反対する。しかし、リバタリアニズムが裕福な白人男性の思想だというイメージは、人種差別に結びつきやすいことも事実であるとする。

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)
渡辺 靖
中公新書
2019年1月 ✳︎9
売り上げランキング: 3,672

著者は、アメリカのリバタリアニズムの学生サークル、理論的支柱である学者やシンクタンクやリバタリアンの集会で取材を行っている。
リバタリアニズムといっても多種多様で、政府を必要としないとするアナキズムに近い考えや、果ては政府によるベーシックインカムの支給を支持する考えもある。
きわどいところでは、自己所有権の見地から、成人間の合意に基づく身体売買、売春や自己奴隷契約、臓器売買などを容認する傾向にある。

ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、アメリカの独立こそは、社会のルールをめぐる権威づけを、王や宗教でなく、個人の契約に委ねることに成功した近代史上、唯一の事例としている。
君主や貴族による統治(保守主義)も、巨大な政府権力による統治(社会主義)もともに否定するのがアメリカの特徴である。ヨーロッパでは、保守主義、自由主義、社会主義という三すくみの対立軸によって政治空間が織りなされているが、アメリカでは保守もリベラルも自由主義を前提としている。
ピルグリムファーザーによるアメリカ建国の考え方が、リバタリアンに繋がるとする。
リバタリアンはアメリカだからこそ生まれた考え方だ。

政治的には、共和党と民主党の間にリバタリアン党が存在するが、リバタリアン党は大統領選挙のたびに得票率を伸ばしている。
リバタリアンから見たら、保護貿易主義をふりかざし、人種差別を助長する言動などをくり返すトランプ大統領はお話にならないが、アメリカ軍の派兵に反対の立場をとるトランプの方針はリバタリアンに受け入れられている。

中国にもリバタリアニズムを研究するグループが存在するが、日本にはまだないようだという。リバタリアニズムは保守や革新にとらわれない新しい政治思想である。
この考えがGAFAの暴走を許したのは間違いないだろう。

『ニックス』ネイサン・ヒル

本書はネイサン・ヒルのデビュー作、上下二段組で700余ページというボリューム。
2016年のロサンゼルス・タイムズ文学賞(新人部門)を受賞し、全米批評家協会賞最優秀新人賞の最終候補に残った作品である。メルリ・ストリープ主演でドラマ化が企画されているという。

シカゴの北西にある小さな大学で、文学を教えているサミュエル・アンダーソン助教授は、10年前に書いた短編により新人賞を獲って大々的にデビューした。ところが出版社と長編執筆の契約を交わしたにも関わらず、その後作品を書けないでいた。
サミュエルは、できの悪い学生に文学の講義をしつつ、週に40時間以上もオンラインゲームにうつつを抜かしている。

ニックス
ニックス
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ネイサン ヒル /佐々田雅子
早川書房
2019年2月 ✴8

ある日、サミュエルの母親フェイが大統領候補のワイオミング州知事シェルドン・パッカーに石を投げた嫌疑で拘留されていると、弁護士から電話がかかってきた。石を投げたシーンはテレビで繰り返し放送され、フェイは「パッカー・アタッカー」というあだ名までついた有名人になっている。
サミュエルはここ20年間フェイと話したことがない。なぜならフェイはサミュエルが11歳のときに、父親とサミュエルを残して家から姿を消し、その後音信不通となっていた。

サミュエルは同時にいくつかの問題を抱えることになる。
母親の逮捕は解決しなければならない。
サミュエルの生徒ローラ・ポツダムがレポートをコピペしたと、ソフトウェアが判定した。単位はあげられないとするサミュエルに、ローラは諦めない。父親の力を使ってサミュエルを大学から追い出そうとする。
さらに出版社から契約不履行で賠償金を請求されるかもしれないという窮地に立たされる。編集担当者はサミュエルにフェイの伝記を書くようにもちかける。今ならベストセラーになること間違いないと、執筆を迫る。

そこでサミュエルはフェイに会いに行くが、フェイは家を去った理由も、その後の20年間のブランクについても、口を閉ざして何も語ろうとしない。

物語の、時間軸は1968年から2011年まで、場所は母子の生まれ故郷から、シカゴ、ニューヨーク、ノルウェーまで広がっていく。サミュエルの幼い日のフェイとのことや、親友や初恋のこと、フェイの高校時代の事件や大学時代のことが、現在と過去を行きつ戻りつ綴られる。
サミュエルは、父親や介護施設にいる祖父や、フェイが大学時代に同室であったアリスから様々なことを聞き出す。フェイは大学時代に学生運動に関わり逮捕されていた。フェイにとっては身に覚えのない売春の罪で逮捕されたことを知る。

やがて母子は和解し助け合うようになる。しかし、フェイが大学時代に接触があったサイコパスがふたりの前に立ちふさがり、物語はサイコミステリの様相を呈してくる。
本書の主人公はサミュエルとフェイのふたり、家族愛の物語である。

ところでニックスとは、フェイの父親をノルウェーから追ってきた幽霊のこと。フェイはニックスに取り憑かれたと思っていた。→人気ブログランキング

『ノマド』ジェシカ・ブルーダー

アメリカでは、季節労働者として重労働に従事し、キャンピングカーで移動する「ノマド」と呼ばれる高齢者が増えている。ノマドとは遊牧民という意味だ。
著者はノマドの生活を体験する目的でキャンピングカーを購入し、ビーツ(砂糖大根)の収穫やアマゾンの倉庫で働き、3年間にわたるフィールド・スタディーを行って本書を書き上げた。著者が出会ったのは60歳代から70歳代の高齢者たちだ。
リタイアした高齢者やリーマンショックで被害を被った中産階級や、離婚や病気・ケガなどの危機を乗り越えられなかった人たちや、解雇されたり事業がうまくいかなかった人たちが、住宅ローンや家賃や公共料金の支払いができなくなり、車上生活に望みをかけたのだ。

ノマド: 漂流する高齢労働者たち
ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子
春秋社
2018年10月 ✳︎10
売り上げランキング: 43,944

仕事を求めてキャンピングカーを走らせる季節労働者は、自らをワーキャンパー(Workamper)と呼ぶ。
ワーキャンパーを採用する企業や官公庁のなかで、最も過激な求人を行ってきたのはアマゾンのキャンパーフォースだ。秋からクリスマスかけての繁忙期に、各地の倉庫でワーキャンパーを雇う。アマゾンの仕事は、時給(11.5ドル、約1300円)が高い分かなりきつい。仕事の内容は商品の梱包と仕分けだが、広い倉庫の中を毎日ハーフマラソンの距離を歩き、3か月で10キロも痩せるという。関節痛や筋肉痛に苦しむ者にはジェネリックの鎮痛剤が無料で支給される。

クリスマスが終わると、ワーキャンパーたちは次の仕事場に移動する。仕事は、農場での果物やビーツの収穫、キャンプ地の清掃、球場でのハンバーガーやビール売りなど、いずれも長時間にわたる低賃金の肉体労働だ。

ワーキャンパーは季節的な人材確保を求める雇用側にとって、きわめて便利な即戦力である。必要とする場所に、必要とするタイミングで集まってくれる。住居と一緒にやってきて、つかの間駐車パークに企業町を作るが、その町は仕事が終わればなくなる。組合が結成されるほど長時間止まることはない。また福利厚生や社会保障を要求しない。
こうした地下経済を生み出しているのは、ウェブサイトに求人広告を載せているアマゾンをはじめとする何百という数の企業だ。
企業は「雇用機会上のハンディを持つ」労働者を雇うことで、賃金の25%〜40%の連邦税控除を受けることができるのだ。

ワーキャンパーたちは、まるでスタインベックの『怒りの葡萄』のオーキーと呼ばれるオクラホマ出身の主人公たちと同じだ。『怒りの葡萄』と異なるのは、オーキーたちが目標としたのは普通の家に住むことだが、ワーキャンパーはノマド生活をその場しのぎと考えていないことだ。

高齢になれば新しい仕事を見つけることが困難になるが、キャンピングカーとスマホがあれば、簡単に仕事が見つかるとワーキャンパーは言う。
しかし、現実は様々な困難な問題が待ち受けている。例えば仕事をしていないときの駐車スペースの確保、特に住宅地では厳しい。さらに入浴の問題、水の確保など、あるいは車の老朽化や故障、自らのケガや病気など、悩みの種は尽きない。
ノマドは非白人がほとんどいない。ここにもアメリカの人種差別が顔を出す。→人気ブログランキング

『アメリカ』 橋爪大三郎×大澤真幸

アメリカのキリスト教とプラグマティズムについて解説し、日本がアメリカを異常なまで忖度するのはなぜかを、ふたりの著名な社会学者が解き明かす。

罪のある人間を救うか救わないかは神が決めるという救済予定説のカルヴィン派こそ、アメリカ建国のベースを築いた人々であるという。
聖書には曖昧な部分があり、解釈によっては異なる読み方ができてしまう。聖書に忠実であるからプロテスタントには分派ができる。
実践的で人造的で新しいアメリカの性質はどこからきているのか。それはプロテスタントの信仰を源泉としているという。アメリカはあくまでプロテスタントの国である。
アメリカを考えるときに、本気で聖書を信じている人たちがいるという目で見て、初めてアメリカが見えてくるという。

アメリカ(河出新書)
アメリカ
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橋爪大三郎 大澤真幸
河出新書 2018年11月
✳︎7 売り上げランキング: 1,629

アメリカには、聖書が神の言葉と信じている5000万人の福音派(バプティスト)がいるからこそ、そうでない人はキリスト教と距離をとりながら啓蒙的な知識との両立をはかれる。
アメリカ人はまぎれもないキリスト教的な文化だが、同時にこれほど宗教からほど遠い世俗的な人々もいないように思える。宗教的な人とまったくそう出ない人の間を埋めるのがプラグマティズムであるという。

プラグマティズムとは、ある概念がその人の経験によい結果をもたらすのであれば、それは真であり、思うような結果をもたらさないのであれば偽であるという考え方。
なにか複数の真理があるらしいが、どっちが正しいか決着しないでよい。自分の生活にプラスならばそれを受け入れ、マイナスであれば受け入れない。

奴隷制度を除けば、アメリカはヨーロッパ諸国に比べ圧倒的に平等な国である。
奴隷制度は、アメリカのひ弱な産業が国際競争にさらされた結果である。北部は工業でやっていけそうだったが、南部は大農場経営で奴隷の労働力が必要だった。
なぜ奴隷制度になったかというと、カトリックではなくプロテスタントだったからだ。カソリックは教会がひとつしかないので、教会のメンバーは人種や社会階層を問わず同列に扱われる。プロテスタントでは教会がいくつもあるので、人種や社会階層ごとに別々の教会に行くことになる。
アメリカは自発的にアメリカを作ろうとした人々が国をつくり、移民もそれに加わった。このストーリーからはみ出す人々は、ネイティヴアメリカンとアフリカ系の人々で、これをアメリカは克服できない。アメリカにおける根深いブラックの独特の問題は日本人に理解しがたいという。

日本は福祉はいいことだと誰もが思っているが、その感覚はアメリカにはないという。
政府が税金をとって、人々の生活に必要なサービスを行う必要はない。政府がやらなくとも、自分たちが財団を作ってやるからそれで十分だという考え方をする。
アメリカ人には自分の主体性を他人に預けることを極力避けたいという意識構造がある。

アメリカのナショナリズムは、世界中の人々がアメリカ化すればいいと思っている。
いくら日本人が自国が魅力的だと信じているとしても、世界中の人々が日本人のようになるべきだと思ってはいない。ナショナリストはどんなに自分の国が素晴らしいと思っていても、それぞれだというのが特徴なのだが、アメリカは違う。

武士の伝統が途切れてから日本は迷走するようになった。武士は人の生き死にを踏まえて、人々が幸せに生きて行くことに知恵を尽くして考えるということをずっとやってきた。戦後、それをやろうとしないのは日本人の怠慢でしかないという。
アメリカへの精神的な依存度において日本は突出している。なぜこんな状況になったのか。アメリカを知ることが倒錯的なレベルから脱却する一歩である。そうすることで日本が何者であるか知ることになる。→人気ブログランキング

アメリカ/橋爪大三郎×大澤真幸/河出新書/2018年
おどろきの中国/橋爪大三郎×大澤真幸×宮台真司/講談社現代新書/2013年
ふしぎなキリスト教/橋爪大三郎×大澤真幸/講談社現代新書/2011年

『ネバーホーム』 レアード・ハンド

農場で暮らす主婦コンスタンスは、夫バーソロミューの代わりに北軍の兵士として南北戦争(1861〜1865年)に出征した。理由は夫の体が弱かったから。
女性が南北戦争に参加した記録はいくつもあり、そうした女性の手記を著者は片っ端から目を通したという。
コンスタンスが語るかたちで描かれていて、文法的には頼りないところもあるが、そのたどたどしさによって、かえって主人公の不安な胸の内や出口の見えない戦争の理不尽さが伝わってくるようだ。男の集団の中で、女であることを見破られてはならない、あるいは弱みは見せられないという状況が、特異な視点を生みだしている。

ネバーホーム
ネバーホーム
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レアード・ハンド/柴田元幸
朝日新聞出版 2017年12月
売り上げランキング: 145,384

コンスタンスはダーク郡出身のアッシュ・トムソンと名乗った。アッシュは射撃の腕前が優れていて、腕ずもうでは簡単に相手をやっつけた。

野営地の近くの沼の水を飲んで腹痛に見舞われ、10分に1回しゃがみこまなければならなくなったときに、バーソロミューから農場の土を送ってもらい、それを食べて治した。軍服を着た写真を送ったり、近況を報告したり、何度も書簡で夫とのやりとりをする余裕はある。
女性とバレはしまいかと気がかりで、2度にわたって同性に見破られはしたが、主人公の主観では男たちにはばれていない。
ある朝アッシュは人を撃った。まわりの男が撃たれて死んでいくことにも遭遇した。

戦闘で腕を負傷し腕がどんどん腫れた。意識が朦朧としたなか、もと看護婦の家にたどり着き。3週間たつと腕が使えるようになった。看護婦は一緒に暮らさないかと持ちかけた。そのレスビアン女の執拗な要求に従わなかったばかりにスパイに仕立て上げられ、瘋癲院での悲惨な生活を強いられた。

戦争は泥沼化し終わる気配がなかったので、コンスタンスは故郷に帰ることにした。
帰途の途中で、将軍のいとこが埋葬されている屋敷を尋ねると、品のいい女主人が手厚くもてなしてくれた。女主人の弟である中尉の手紙を見せてくれた。
「わが隊にには男に変装した若い女がいて、勇敢に戦い功績をあげていたが、女と発覚すると、いじめを受けた。その女がお前に会いに行く気がする」と書いてある。コンスタンスは高く評価してくれていたことに感激する。

郷里の牧場は無残に荒れ果て、ゴロツキの男たちがバーソロミューを顎で使っていた。コンスタンスはゴロツキどもを銃で撃とうと作戦をたてる。 →人気ブログランキング

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド

南北戦争を数10年後にひかえたアメリカの南部諸州が舞台。アメリカの暗黒の歴史を、SFの要素を加味して描き出す。

女奴隷のコーラは、シーザーに誘われてラヴィーとともにランドル農場を脱走した。途中で野豚狩りの白人たちに出くわしラヴィーが捕まった。コーラは逃げおおせたが、少年と格闘したさいに重傷を負わせ、白人殺しのお尋ね者として手配されることになった。
ランドル農場の主人は、シーザーとコーラの2人に高額の懸賞金をかけ、執拗に連れ戻そうとする。捕まれば、他の奴隷たちの見せしめに、とびきり派手な拷問と死が待っているのだ。コーラの想像を絶する過酷な逃亡劇が描かれていく。

地下鉄道
地下鉄道
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コルソン・ホワイトヘッド/谷崎由依 訳
早川書房  2018年12月
売り上げランキング: 6,294

 

 

コーラはアフリカから連れてこられて3代目の奴隷で、身寄りがない。母のメイベルが8歳のコーラを置き去りにして農園から脱走したからだ。メイベルは未だに捕まっていない。
コーラをはじめ、脱走を持ちかけたシーザー、サウス・カロライナでコーラに隠れ家を提供した白人の妻エセル、2メートル近くもある大男の奴隷狩り人リッジウェイの、ファミリー・ヒストリーが綴られている。ファミリー・ヒストリーが描かれることによって、物語に深みが出ている。
リッジウェイがコーラを執拗に追いかけるのは訳がある。ランドル農場で脱走を成功させた唯一の人間がコーラの母親である。コーラが引き継いでいる特別な血を、根絶やしにする必要があるのだ。

地下鉄道には、駅があり機関士と呼ばれる人物がいて、機関車が走っていることになっている。しかし、実際には鉄道があるわけではなく、地下鉄道は逃亡奴隷たちを逃がすためのネットワーク(秘密結社)のことである。ネットワークにかかわっていることが知られてしまえば、処刑される。
地下鉄道に乗ることができたからといって、奴隷州から脱出できるとは限らないが、地下鉄道は逃亡奴隷にとって北に逃れる唯一の手段なのだ。

ピューリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。さらに英ブッカー賞の候補でもあった。→人気ブログランキング

『インディアンの夢のあと:北米大陸に神話と遺跡を訪ねて』 徳田いつこ

著者はアメリカに在住していた頃、ロサンゼルスの歴史の浅さに馴染めなかったという。ロサンゼルスに住むことの収まりの悪さを、インディアンの遺跡に触れる旅で補っていたのかもしれないという。

アメリカの歴史を語るとき、よく言われることだが、西部開拓史の前は、一気に恐竜が跋扈する2億年前のジュラ紀・白亜紀までさかのぼり、故意にインディアンの歴史は抹消されている。

インディアンは太古からアメリカ大陸に暮らしていた。そこに、白人が新天地を求めてやってきた。黒人は白人の都合でアフリカから連れてこられた。一方、ヒスパニックは自分たちの意思でアメリカにやってきた。

にもかかわらず、インディアンは、黒人やヒスパニックよりも下、社会の最底辺に追いやられている。ネイティブ・アメリカンとしての誇りをズタズタにされている。
本書の目的は二つ。遺跡を通してインディアンが自然と共存していた過去に想いを馳せ、彼らのおおらかな生き方に触れることと、ネイティブ・アメリカンの友人たちの暮らしぶりを紹介することである。

訪れた遺跡は、〈1054年に起きた蟹座の超新星の爆発を描いた、ニューメキシコのチャコにある岩絵〉〈太陽の陽光と月の光を記録しするための壁に開けられた窓〉〈コロラド河畔に描かれている52メートルの大きさの人の地上絵〉〈サンタフェの岩絵に描かれた背中の曲がった笛吹き男ココペリ〉〈オハイオ南部ピーブルズにある全長410メートルの蛇の塚〉〈謎のピラミッドと呼ばれるモンクス・マウンド〉など。

遺跡を前にして、〈奇妙に懐かしい場所だった〉と書いているが、それは、あらゆる現代的なものをそぎ落とした、インディアンの素朴な生き様を目の当たりにすると、誰もが感じる懐かしさなのかもしれない。あるいは、著者がインディアンと同じモンゴル民族のDNAをもつ日本人だからかもしれない。

『ヒルビリー・エレジー』 J.D.ヴァンス

アメリカの白人のうち、WAPS(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)と呼ばれる人々は、誇り高き白人という自負がある。一方、白人貧困層は、レッドネック(首筋が日焼けした白人)、ホワイトラッシュ(白人のゴミ)、ヒルビリー(田舎者)などと呼ばれている。
ヒルビリー出身の著者は、自らの半生を描くことで、大統領選でトランプ勝利の原動力となった白人肉体労働者の悲惨な状況を明らかにしている。


ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

 


J.D.ヴァンス/関根光宏・山田文 訳
光文社
2017年3月

 

ケンタッキー州東部、アパラチアの丘陵地帯ジャクソン出身の著者の家族は、自らをヒルビリーと呼んでいる。

著者は、子どものころ、勉強していい成績をとるのは、「お姫様」か「オカマ」のやることだと思っていたという。男らしさとは強さや闘いを恐れない心と、教えられた。もう少し成長してからは、女の子にモテるという項目がそこの加わった。ヒルビリーには反知性主義が浸み込んでいることがわかる。
そんな著者だったが、あるとき目覚め、高校を優秀な成績で卒業後、アメリカ海兵隊に4年間所属しイラクに派遣された。帰国後、オハイオ州立大学を1年11ヶ月で卒業した。次にイエール大学のロースクールに2年間在籍し弁護士の資格を得た。現在は、シリコンバレーの投資会社の社長を務める。

ジャクソンは、著者と姉と祖母のために存在するような場所だったという。ジャクソンにいるときは、町の誰もが知っているたくましい女性の孫であり、町でもっともいい車修理をする祖父の孫だった。一方、引っ越したオハイオでの著者の立場は、父に捨てられ、離婚と結婚を繰り返す薬物中毒の母親の子どもだったという。

世論調査の結果、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は、白人労働階層である。また、アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている。さらに、アメリカでは地域により成功の可能性に偏りがあるという。貧しい子どもたちが苦境にあえぐ、南部やラストベルト(さびついた工業地帯)、そしてアパラチアでは、アメリカンドリームの実現は困難だという。

著者は次のようにヒルビリーの病理を説明する。
〈何年も後になってようやくわかったのは、どんな本も、どんな専門家も、どんな専門分野も、それだけでは現代のヒルビリーの抱える問題を、完全には説明できないということだ。私たちの哀歌は社会学的なものである、それは間違いない。ただし同時に心理学やコミュニティや文化や信仰の問題でもあるのだ。〉

ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く /金成隆一/岩波新書/2017年