ミステリ

逃げるアヒル ポーラ・ゴズリング

ポーラ・ゴズリングのデビュー作。
シルベスター・スタローンの映画『コブラ』(1986年)の原作。巻末の解説で温水かおりは、あまりにも原作とかけ離れた映画の出来に「台なし」と映画を酷評している。
本書にはテーマが2つある。ひとつは命を狙われる美人OLクレアと、クレアの身辺警護を担当するマルチェック警部補との恋の物語である。もうひとつは連続殺人犯の逮捕に翻弄される警察と殺人犯との熾烈な闘いである。

Image_20200917115101 逃げるアヒル

ポーラ・ゴズリング/山本俊子
ハヤカワ文庫 1990年 ✳︎9

サンフランシスコの広告代理店に勤める30歳のクレアは、公園で書類を落とした男に声をかけたことで、命を狙われることになる。クレアの命を狙うのは、かねてからマルチェック警部補が追いかけてきた連続殺人犯のエジソン。
クレアはライフルで狙撃され、アパートの冷蔵庫が爆破されたが、幸い軽症で済んだ。
警察が用意した隠れ家にクレアは連れていかれ、複数人で警護をすることになった。
命を狙われる理由が納得できず、マルチェックに対し高慢な態度を取ってきたクレアは、同じ屋根の下で暮らす機会が生まれたことで、態度を軟化させる。

エジソンは仲介人を介して仕事を受けている。仲介人はエジソンの顔を知らない。ところがクレアがエジソンの顔を見てしまったのだ。エジソンはクレアがニューヨークの広告会社に勤めていたときに、広告のレイアウトを担当する下請け業者だった。
エジソンは罠をしかけてクレアの命を奪おうとする。

警護するマルチェックはベトナムで狙撃兵だった。PTSDに悩まされ、おまけに軍病院では完治したとされたマラリアが再発するというハンディキャップを抱えている。

新聞に「連続殺人犯の起こす事件のやり口がずさんになってきている」という、エジソンを挑発する記事を載せる。さらに、マルチェックとクレアが結婚したという嘘の記事が新聞に載ると、マルチェックの予想どうり、エジソンが反撃に出た。それぞれの住まいを爆弾で爆破したのだ。

ふたりの新婚旅行を警護する複数の私服警察官がキャラバン隊を組織した。
エジソンをおびき出すという作戦が、いつの間にかマルチェックとクレアがエジソンに追い詰められる構図になってしまう。

そして、ラストは雨が降り冷たい風が吹く嵐の森で繰り広げられる、夜の銃撃戦だ。→人気ブログランキング

壊れた世界の者たちよ ドン・ウィンズロウ

ドン・ウィンズロウは、1991年『ストリート・キッズ』でデビューした。その後多くの賞を獲得し、映画やテレビドラマの原作として多数の作品が採用されている世界的ベストセラー作家である。最近はメキシコの麻薬戦争を描いた『犬の力』『ザ・カルテル』『ザ・ボーダー』の3部作を完成させた。
これまでの作品は長編であったが、本書には6編の中編が収録され、ウィンズロウの新しい魅力が詰まっている。 尊敬するスティーヴン・キングが長編ばかりでなく、短編や中編に数多くの作品を書いていることに触発されたという。
過去の作品(『野蛮なやつら』『キング・オブ・クール』『ボビーZの気怠く優雅な人生』)からのキャラクターが登場する作品があり、ウィンズロウ・ファンにとってはたまらない楽しさがある。

Photo_20200817142301 壊れた世界の者たち

ドン・ウィンズロウ/田辺俊樹
ハーパーブックス
2020年 ✳︎10

「壊れた世界の者たちよ」
舞台はニューオリンズ。新興の麻薬犯罪組織に弟を殺された麻薬取締班のジミーが復讐のため、組織のボスの隠れ住むコンドミニアムを襲撃しようとする。警察隊はコンドミニアムを包囲するが、動こうとはしない。ジミーたちに好きにやらせようとしているのだ。なおタイトルは、『武器よさらば』(アーネスト・ヘミングウェイ)〈この世では誰もが壊される。が、壊された場所でより強くなる者も少なくない。〉からきている。

「犯罪心得1の1」は「スティーブ・マックイーンに捧げる」としている。
カリフォルニアのハイウェー101号沿いで起こった11件の宝石強盗事件は、華麗な手口で行われた。サンジェゴの辣腕刑事が解決しようとする。

「サンジェゴ動物園」は、エルモア・レナードに捧げられている。
拳銃を持って逃走したチンパンジーの捕獲騒動が縁で、新米の警察官と博士号を持つ動物学者の女性の間に恋がめばえるという、なんともユーモアがあふれる作品。

「サンセット」は、レイモンド・チャンドラーに捧げられている。
麻薬中毒の伝説のサーファーが裁判をすっぽかし、女から宝石を盗み逃げている。保釈保証業者に依頼されて凄腕の私立探偵が動く。作品の中にはウエストコースト・ジャズが流れている。2018年9月、カリフォルニア州は保釈金制度を廃止することを州議会が決めた、物語にはその影響も組み込まれている。

「パラダイスー ベンとチョンとOの幕間的冒険」
ハワイのカウワイ島で大麻ビジネスを展開しようとしたグループが、地元マフィアから妨害され、壮絶な銃撃戦が繰り広げられる。

「ラスト・ライド」
国境警備隊員が不法移民の少女をメキシコに住む母親に引き渡そうとする話。
トランプ大統領の移民政策を批判する意味も込められている。→人気ブログランキング

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

1969年、海辺に立つ櫓からチェイスが転落死した。チェイスは村一番の美人と結婚したばかりだった。チェイスの死と湿地に住むカイアの成長の話が、時間を行きつ戻りつしながら語られる。そして驚きの結末が待っている。
著者は動物学と動物行動学の博士号をもつ動物学者である。69歳のときに本書を書き上げた。本書は、湿地帯の地形や気候そこに生息する生物の生態を背景に、差別問題、少女の成長の物語、恋愛小説、フーダニットのミステリと多彩な要素をもっている。2019年にアメリカで一番売れた本だという。

カイアはノースカロライナの湿地帯バークリー・コーヴにひとりで暮らしている。家族に暴力を振るう飲んだくれの夫に耐えかねて母親が家を出ていき、姉と兄が出ていった。相変わらず父親は不機嫌で、カイアは父親の顔色をうかがいながら生活している。父親の機嫌のいいときに、ボートの操り方を教えてもらった。そして父親も家に帰ってこなくなった。

Photo_20200801120201 ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ/友廣 純
早川書房
2020年 ✳︎9

村の人びとは、カイアを「湿地の少女」と呼び、嘲りあるいは怖がり、差別した。カイアは1日だけ学校に通ったが、そのあと無断欠席補導員がくると姿を隠すようになった。

カイアはボートを器用に操り、魚を獲って燻製にして、黒人のジャンピンに売って金を手にした。カイアは、ジャンピン妻メイべルから畑で野菜を育てる方法を訊き、種をもらった。メイベルが服や食べ物など生活に必要なの物を用意してくれた。

カイアは漁師の息子であり兄の親友であったテイトと親しくなり、読み書きを教えてもらう。聡明なカイアはテイトが持ってくる本を読み、知識を身につけていった。もともとカイアは貝殻を集めたり、鳥の羽を集めたりするのが好きだった。カモメに餌をやり、生物の生態を観察し、自然の法則を理解していった。
時には隣町の図書館に出向き、テイトが紹介してくれた生物学の専門書を読むこともあった。カイアの味方はテイトとジャンピンとメイベル、それと湿地の生物たちだった。

湿地の研究をする生物学者になる目的で、テイトはノースカロライナ大学に入学し町を離れた。約束した翌年の7月4日に、テイトは現れなかった。カイアは絶望しケイトに捨てられたと思った。
そんなカイアにチェイスは近づき、なんとかものにしようとした。結婚を餌にカイアを騙したのだ。

湿地帯の近くに連邦政府の研究所が建設され、大学を卒業したテイトはそこの常勤の科学員として雇われた。カイアとチェイスのやりとりを見て、テイトは身を引くことにした。

カイアはテイトの勧めで、バークリー・コーヴの湿地帯に生息する貝の生態に関する本を書いた。本は好評を博した。カイアは出版社の要請で、グリーンヴィルにバスで出かけ、担当者と次に出版する本の打ち合わせをすることになった。
カイアがグリーンヴィルのモーテルに一泊した夜に、チェイスが転落死したのだった。

警察はカイアを第1級殺人の容疑者として拘束し、検察側は状況証拠だけでカイアの犯行と断定するのだった。バークリー・コーヴの住民である陪審人たちは、カイアにどのような判決を下すのか。

「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く生き物たちが自然のままの姿で生きているところという意味である。→人気ブログランキング

ビール職人のレシピと推理 エリー・アレクザンダー

ビールの町ワシントン州レブンワースに映画クルーがやってきた。オクトーバー・フェストのドキュメンタリー映画を撮るという。オクトーバー・フェストには大勢の観光客が押し寄せる。およそ3週間にわたって、観光客は催し物に参加し、大いにビールを飲み、秋の恵みに舌鼓を打つのだ。
Photo_20200729145301ビール職人のレシピと推理

エリー・アレクザンダー/越智睦
創元社推理文庫
2020年

オクトーバー・フェストの前日、ビール製造場兼パブ〈ニトロ〉の新作ビールの開栓記念パーティがはじまった。主人公のスローンは客の応対に余念がない。
俳優のミッチェルがマイクを持って客にインタヴューし、それをカメラマンに撮るように指示している。暴君のごとき振る舞いのミッチェルに映画クルーも周りの客たちも辟易としている。

スローンは里親の間を転々として育った。高校を卒業した後、アルバイトで生計を立ながらコミュニティ・ガレッジに通った。アルバイト先で出会ったのがクラウス夫妻。夫妻はスローンの鋭い味覚を見抜き、ビール醸造場の〈デア・ケラー〉で働かないかと誘った。スローンは〈デア・ケラー〉でその才能をいかんなく発揮した。やがて長男のマックと結婚し息子を生んだ。
ところが、最近マックが尻軽女と浮気をしたために、スローンはマックを家から追い出し、新興のナノブリュワリー〈ニトロ〉で、ギャレットの元で働いている(『ビール職人の醸造と推理』)。

夜になって、カメラクルーが〈ニトロ〉に再び現れた。
飲みすぎたミッチェルがロッジのオーナーのリサにクレームをつけた。
〈ニトロ〉を後にしたミッチェルが道で倒れて急死した。ミッチェルのファンクラブ会長だと名乗る若い女性のカットが、リサが殺したと叫ぶ。
検死の結果、デートレイプによく使われる薬が検出され、頭を強く打ったことが死因だという。

ミッチェルが予約したリサ所有のロッジは、めちゃくちゃに荒らされ異様な匂いがしていた。ミッチェル殺しの犯人捜査はマイヤーズ警察署長の手に委ねられたものの、スローンは独自に調べを進める。

本書にはミッチェル殺害の犯人探しとは別に、スローンの実の親探しのテーマがある。スローンの担当だったソーシャルワーカーの女性が現れ、スローンに関する資料から数百ページが消えていたと伝えた。こちらは次作に持ち越されるテーマだ。

前作と同様に本書では、ビール作りのノウハウが披露されている。ビールの製造過程で風味づけに、ポップ以外にもサクランボやリンゴやその他の素材が使われることを知った。→人気ブログランキング

【コージー・ミステリ】
ビール職人の醸造と推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2019年
ビール職人のレシピと推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2020年
日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ(高山真由美)/創元推理文庫/2018年

ビール職人の醸造と推理 エリー・アレクザンダー

アメリカ・ワシントン州のレブンワースはビールの町。
1960年代に、レブンワースの主要な産業であった鉱業と材木産業が衰退したあと、町をクラフトビールの聖地にしようと町の人々が団結した。レブンワースを風光明媚な南ドイツのバイエルン地方の町に似せて再生するという考えを町民は受け入れた。

主人公のスローンは夫のマックとその両親とで、町で最大のビール製造場〈デア・ケラー〉を切盛りしていた。事務所のソファーで事務員の上に乗っかっているマックの裸の尻を目にしたスローンは、〈デア・ケラー〉の仕事から手を引き、夫を家から叩き出した。新規にオープンするビール製造所兼パブの〈ニトロ〉に勤めることにした。
〈ニトロ〉を始めようとするギャレットは、シアトルで会社勤めをしていて、大叔母からビール醸造所の建物を継いだばかりだった。レブンワースは人口2000人の小さな町だ。スローンの行動は町中の噂になる。

Image_20200720165501ビール職人の醸造と推理
エリー・アレクザンダー(越智睦)
創元社推理文庫
2019年 ✳︎9

〈ニトロ〉がオープンの日、レブンワースの町の多くの人々が訪れた。
マックが例の女を連れて現れた。そのせいで、〈ニトロ〉のグランドオープンは荒れた様相を呈した。
翌朝、スローンが、〈ニトロ〉に出向くと、マックのライターが床に落ちていた。発酵槽のタンクの中に〈ブルーインズ・ブルーイング〉のビール職人・エディが死体となって浮かんでいた。
エディは誰に殺され、なぜ遺体がタンクの中に投げ込まれたたのか?

犯人探しはさておいて、いろいろな種類のビールの醸造過程が詳細に書かれていて、ビール好きにはたまらない。読みながらついビールに手が伸びてしまう。ビールが2週間で出来上がるというのを知って、あまりの早さに驚いた。

本書は、「謎解き役が素人」、「容疑者が狭い範囲のコミュニティに属している」、「暴力表現を極力排除している」という、コージー・ミステリにぴったり当てはまる内容である。→人気ブログランキング

【コージー・ミステリ】
ビール職人の醸造と推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2019年
ビール職人のレシピと推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2020年
日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ(高山真由美)/創元推理文庫/2018年

 

パーキング・エリア テイラー・アダムス

読み出したら止まらない息つく暇がない本書のようなサスペンスを、和製英語でノンストップ・サスペンスというそうだ。本書は年末の翻訳ミステリ・ランキングでトップテンの上位にくい込むだろう。映画化も間違いなしだ。

クリスマスイブの前日、雪の降る中、母の膵臓癌の手術に駆けつけようと、女子大生のダービーが愛車のホンダ・シビックで、コロラドからユタに向った。途中、スリップしてボンネットから湯気が噴き出し、ワナパ・パーキング・エリアで足止めさせられた。パーキング・エリアの雪に埋もれたバンの中に、犬用ケージに少女が監禁されていた。ワナパとは小さい悪魔という意味だ。

Photo_20200715083801パーキング・エリア

テイラー・アダムス/東野さやか
ハヤカワ・ミステリ文庫
2020年6月 ✳10

パーキング・エリアのビジターセンターに居合わせたのは、50代後半の獣医だというエド、その妻サンディ、ソルトレーク工科大学の学生だというアシュリー、それとイタチのような顔をした口呼吸のラーズの4名。
間の悪いことに、ダービーのiPhoneはメモリがあとわずかで、しかも山の中で電波環境が著しく悪いときている。

誰が誘拐犯なのか。パーキング・エリアに、除雪車がたどり着くまで6~8時間かかると、ラジオから途切れ途切れに聞こえた。新しい情報ではトレーラーが雪で滑って道路を塞ぐという事故が起こった。一晩、ビジターセンターに閉じ込められるということだ。

ダービーは両親の離婚が決まってから生まれた。母親との間は必ずしもうまくいっていない。それはさておき、ダービーはこうと決めたらいてもたってもいられない性分だ。
早とちりや、ドジを踏んだりして窮地に追い込まれることがあるけれども、ダービーは決意した。今夜のうちに、この場で、雪に閉ざされた小さなパーキング・エリアで、夜が明けて除雪車が到着する前に、自分の力でなんとかすると。
誰が何の目的で少女を監禁しているのか。次々に驚愕の真実が明らかになっていく。

撒き餌または布石あるいはマクガフィンが散りばめられている。そういうことだったのか、そう繋がっていたのか、そことそこが結びつくのか、死んだと思ったら死んでいなかったとか、ジェットコースターのようにストーリーが展開する。星10の面白さだ。→人気ブログランキング

ナニワ・モンスター 海堂 尊

第1部では、キャメル・インフルエンザ・ウイルスによる感染症の広がりをあおり、浪速地区の経済に打撃を与えようとする動きに、難波府知事が敢然と立ち向かう。
第2部は、検察庁の覇権争いを描く。キャメル・インフルエンザ騒動の1年前である。
第3部は、著者の持論であるAi(Autopsy imaging、死亡時画像病理診断)を普及させることがテーマ。死後の解剖は遺族にとって簡単に承諾できるものではない。それが、CTやMRIであれば、同意のハードルは低くなる。死亡時にCTもしくはMRIで、死亡原因を特定すれば、医療事故も医療訴訟も激減するという。Aiを主導するのは医療側であって司法側ではないというのがキーワード。
Photo_20200606084501

ナニワ・モンスター
海堂 尊
新潮文庫
2014年 ✳︎8

中東で、ラクダ由来のキャメル・インフルエンザが流行の兆しをみせ、厚生労働省は空港での水際作戦を展開した。
病気が日本に入ってきていないのに、「キャメル・ファインダー」という検査キットが、浪速診療所に配布されていた。
浪速大学公衆衛生学教室の本田苗子准教授は、浪速医師会の講演会でキャメル・インフルエンザについて講演し、テレビのワイドショーではこの新しいインフルエンザの脅威を強調した。感染力は強いが致死率は0.002%ときわめて低い。そんな弱毒のウイルスに警戒態勢をとる政策はやりすぎではないか。さらに本田准教授の経歴は簡素すぎて胡散臭い。

発熱患者が浪速診療所を受診し、キャメル・ファインダーで陽性を示した。PCR検査を行うと陽性であった。マスコミは過剰に反応し、ゴールデンウィークの海外渡航を控え、関西地区への観光を控えるようにと呼びかけた。
全国のキャメル発生患者が報告された地区と、サンザシ薬品が迅速検体キットを配布した地区と一致していた。
テレビでは、本田准教授はキャメル・インフルエンザ・ウイルスによる、パンディミックの発生を警告すると訴えた。浪速の町は人の行き来が少なくなり観光客の足が途絶えた。この浪速の危機に辣腕の村雨弘毅府知事が動き出す。

本書で著者が取り上げたのは膠着する日本の現状である。3部のそれぞれのエピソードは裏でつながっており、そこには霞が関コングロマリットの闇がある。著者は道州制をを論じ、霞が関主導の官僚体制を壊すことに話が及ぶ。→人気ブログランキング

チーム・バチスタの栄光/海堂 尊/宝島文庫/2005年

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『悪女について』 有吉佐和子

一代で財を成した美貌の女性実業家の半生を、27人の証言で描く。それぞれの打明け話により、じわじわと女性の実像が明らかにされていくミステリ仕立ての傑作。  

富小路公子が亡くなった。週刊誌をはじめとするマスコミが、ある事ない事を面白おかしく報道する。なにしろ、公子が出演すれば視聴率が上がると、テレビのワイドショーでは引っ張りだこだった。謎に包まれた大金持ちは、週刊誌にとって格好のネタだ。ネグリジェ姿でマンションから転落した。自殺なのか他殺なのか

Photo_20200516124101  
悪女について 

有吉佐和子
新潮文庫
1983年 ✳︎10  

 

公子は小学生時代は「鈴木君子」という名前で八百屋の娘だった。中学3年の時に父親が進駐軍のジープにはねられて亡くなり。君子と母親は、同級生の女子の家に転がり込んだ。君子は女中としての仕事をこなし、中学を卒業するまでその家にいた。その間に同じ屋根の下で暮らす同級生の兄と親密になり、君子の母親が「娘に手を出した」と騒ぎ出した。

その後、君子は宝石店に勤め夜間は簿記の学校に通った。そこで知り合った学生と同棲し妊娠した。
6年後に同棲相手の男が別の女性と結婚しようと戸籍を取り寄せると、驚くことに男はふたりの男児の父親となっていた。
君子は男の実家に乗り込み、落ち着いた口調でそれとなく慰謝料を請求した。

君子は、その金を元手に不動産で儲け、宝石を扱う商売をして成功し、いつの間にか富小路公子と名乗るようになった。まわりには、華族のご落胤であるかのように思わせた。ゆっくりと落ち着いた口調と上品な所作、それに気配りが行き届いていて人との付き合いはそつがなく、そうした経歴であってもおかしくないと周りの人々に思わせた。公子を悪く言う人物はいない。

ふたりの息子たちは公子が建てた豪邸で祖母と暮らしている。公子は自分をもらいっ子だと息子たちに伝えていた。公子が人に話す生い立ちと真実は異なる。

公子の展開する事業は順調で、自社ビルの屋上階に女性相手の会員制美容クラブを立ち上げた。若いハンサムな男がマンツーマンでマッサージをすることを売りに、セレブ達がこぞって入会する人気のクラブになった。
そしてテレビのコメンテーターとしてマスコミに登場する。

ふたりの息子の述懐で、ことの真相が明らかになっていく。
はたして、公子は悪女なのか?→人気ブログランキング

女帝 小池百合子/石井妙子/文藝春秋/2020年
悪女について/有吉佐和子/新潮文庫/1983年
華岡青洲の妻/有吉佐和子/新潮文庫/1970年

『時の娘』ジョセフィン・ティ

1951年に発表されミステリの古典、安楽椅子探偵ものの名作である。
最悪の王と信じられた15世紀のイングランド王リチャード三世が、この小説によってそう信じるイギリス人の割合が大幅に減少したというのだから、人気小説の影響は侮れない(『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』門井慶喜)。
歴史は確かな証拠がないにもかかわらず、でっち上げられる可能性があるということをテーマにした作品である。
最初のトーマス・モアの『リチャード三世史』の下りは、読み飛ばしてもあるいは読まなくとも、なんら問題はない。

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

時の娘
posted with amazlet at 20.03.18
ジョセフィン・テイ/小泉喜美子
ハヤカワ・ミステリ文庫
1977年 ✳︎10

スコットランド・ヤードのグラント警部は犯人を追いかけた際に転んでしまい、大怪我をしてベッドの周りを歩くこともままならない寝たきりの状態にある。まずふたりの看護婦〈ちびすけ〉と〈アマゾン〉を紹介した後、女優のマータが気をまぎわらしてあげようと何枚もの顔写真を持って現れる。

グラントはリチャード三世の肖像画に惹きつけられる。
せむし男、片腕が不自由、罪もないふたりの甥を殺害した男。悪逆の代名詞。ふたりはリチャードがロンドンを留守にしているあいだに殺された。そして妻を捨て、甥たちの姉との結婚を目論んだ。王位に就くためだ。「ロンドン塔の王子たち」の話として有名だ。

マータの紹介でアメリカ人の若い歴史研究者キャラダインが、グラントの手足となって書籍や資料を手に入れるばかりでなく、資料を分析して推理する。
リチャード三世に関して全歴史の聖典になっているトーマス・モアの『リチャード三世史』に書かれていることはすべて伝聞でしかない。
モアという男はリチャード三世のことなど、一つも知っていなかったのだ。なぜならロンドン塔における劇的な会議のシーンが繰り広げられたとき、トーマス・モアはたったの5歳だった。つまり、トーマス・モアの『リチャード三世史』はゴシップで出来上がっているということだ。シェイクスピアはそこから材を得て戯曲『リチャード三世の悲劇』を書いた。
リチャード三世が悪人ではないらしいことがわかったが、ではどうして悪人にでっち上げられたのか。

まず第一にリチャードの短い治世下の出来事について、同時代人が書いた記録を手に入れなければならない。リチャード三世が活躍した同時代に生きた人々の活動を調べることによって、その全貌が明らかになっていく。

捜査の結果、すべてがひとりの王の「きたない」やり方によって事実が歪曲してしまった。それは、現米国政権のオルタナティヴ・ファクトを強引に認めさせるという政治姿勢と変わらない(『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』。という点で本書は今読むべきであると言える。リチャード三世は、シェイクスピアが描いたせむしでも片腕が不自由でもなかった(→しかし、2012年、リチャード三世の墓を暴いたところ、遺骨から脊柱後側弯が見つかったという。歴史は更新されることを示す格好の出来事である)。

本書が歴史上の人物を捜査するというテーマにも関わらず、とっつきにくい内容になっていない。そのひとつの理由は、グラントを取り囲む人たちとのざっくばらんな会話や、看護婦をはじめ一見関係のない人物、例えば美術館の隣にいたじいさんに、リチャード三世についての意見を求めるというような、砕けた状況を描いていることである。→人気ブログランキング

タイトルの「時の娘」とは本書のエピグラフにあるように、古い諺「真理は時の娘」からきている。

→『殺人は女の仕事』小泉喜美子/光文社文庫/2019年
→『マジカル・ヒストリー・ツアー』門井慶喜/角川文庫/2017年
→『時の娘』ジョセフィン・ティ/小泉喜美子/ハヤカワ文庫/1977年

 

『殺人は女の仕事』小泉喜美子

翻訳家でもある著者は、女性探偵ものの名著『女に向かない職業』(P.D.ジェームス)や古典ミステリの名著『時の娘』(ジョセフィン・ティ)などの翻訳で知られている。
8編の短編集。はじめに大胆な設定が示される。「美わしの思い出」では、孫が祖母を殺す場面からはじまる。「殺人は女の仕事」では、はじめの場面で主人公が知人の妻に殺意を抱く。なんとも強烈な出だしだ。短いセンテンスで小気味よく進み、結末には余韻を残す一捻りが控えている。


殺人は女の仕事 (光文社文庫)

殺人は女の仕事
posted with amazlet at 20.03.02
小泉 喜美子(Koizumi Kimiko
光文社文庫 2019年 ✳︎8
売り上げランキング: 668,306

「万引き女のセレナーデ」
男は警察官からデパートの万引き対策の保安員に転職した。1週前に保安員が初犯と見て見逃した万引き女が、若い男と仲むつまじそうに女の下着売り場に現れ、再び万引きを働いた。ふたりは囮で、同じ階で大掛かりな窃盗が行われたのだ。女は警察に逮捕された。保安員と女はそれぞれが好ましく思っていたのだ。

「捜査線上のアリア」
少年は模造がんをポケットに突っ込み暗黒街の花形になる空想を抱いていた。パトカーのサイレンを聞いたときに、本物の犯罪を冒して夜の街に逃げ込みたいと思った。アパートの隣の女の部屋に、刑務所を出たばかりの男が人を殺めたと現れた。男は少年に死体の処理を手伝わせた。少年が遺体との間で殺し合いになったとことにしようと、男がナイフを少年に向けたとき、少年は模造がんを抜いて一目散に逃げた。パトカーに保護を求めた。パトカーの中で、なぜ模造がんを男に向けたのか警察に説明できないと思った。

「殺意を抱いて暗がりに」
理香子は世紀子を殺そうと片手に石を持って暗闇で待ち伏せしていた。世紀子の足音が近づいたと思い、理香子は石を振り上げて襲おうとすると、その人は逃げて行った。翌朝、朝刊には少年Bにより世紀子が刃物でめった刺しにされ死亡した記事が載っていた。少年Bは「相手は誰でもよかった」と供述した。週刊誌の記事に世紀子の殺人事件が載った。「石を持った女が怖い顔で睨んだので殺すのを止めた。その次に通りかかった女を殺した」と少年Bは答えていた。

「二度死んだ女」
月子は大病から何年か経ってカンバックした。今は三流のスナックに毛が生えたような店での出番を控えている。脱いだ服さえ置き場がないようなナイトクラブだ。
月子がステージに立っている間に盗難が発生した。月子は実際に盗まれた金額の10倍を盗まれたと老刑事に言った。そして犯人が捕まって、申告通りの額が手元に入った。老刑事は月子を初めて見たとき、美貌のジャズシンガーの母親だと確信したという。

「毛(ヘアー)」
年に数回、若い男から電話がかかってきて、寝ている良人と赤ん坊をおいて夜の街に出かける。翌朝デートを終えて帰ってくると、良人も赤ん坊も寝たままだった。自分の新しい枕カバーに1本の毛がついていた。布団をまくると新しかったシーツの上に縮れた毛が1本あった。

「茶の間のオペラ」
未亡人の小説家に、嫁いだ娘から電話がかかる。急を要するようだ。すぐに娘の嫁ぎ先のマンションに向かう。姑はべらべら喋り続け、もてなしの品々を並べる。娘は妊娠したという。それを知っておいとますることにする。エレベーターまで姑は見送りに出てきた。階段は下の方が暗く見えた。家に帰ると、嫁が見当たらない。暗い2階に向けて嫁を呼ぶ。

「美わしの思い出」
高2のあや子は小言を言われた祖母のやよいを殴って殺した。祖母は私を監視して小言を言い続けたと供述した。
あや子は学校を辞めてミュージカルのスターになるとやよいに言った。やよいはP劇団の公演会場の楽屋に乗り込む。そこで主役を務める女とかつて応援していた久方光に会う。警察に主役と光が説明にやってきた。やよいはあや子に自由にさせていたと言っていたと二人は説明した。少年院に入ったあや子は一切反省していないという。

「殺人は女の仕事」
滋賀子は編集社の編集担当。新人の小説志望の杉園伸一を紹介されたとき、心にときめくものを感じたと。そして伸一の妻こずえに会ったときに、殺したいと思った。
こずえに意地悪をしてやると志賀子は誓った。伸一にこずえの高校時代の友達から聞いた話を伝える。もちろん悪口だ。それを苦にこずえがマンションの屋上から飛び降りようとするという。→人気ブログランキング

女に向かない職業/P.D.ジェームス/小泉喜美子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫/1987年

より以前の記事一覧

2020年9月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ