ミステリ

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ

上巻には、世界各国でベストセラーになった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第9作目という設定で、作中ミステリの『カササギ殺人事件』が描かれている。

1955年、英国のサンクスビー・オン・エイヴォン村で、パイ屋敷の家政婦ブラキストン夫人が亡くなった。掃除機のコードが足に絡まり階段から落下し、首の骨を折った。警察は事故死と断定したが、住民たちは納得していない。
それは住民同士のしがらみが、住民たちに事故死ではなく殺人事件のはずだと確信させるからだ。
ブラキストン夫人が亡くなってから2週間後、パイ屋敷の持ち主サー・マグナスが飾り物の甲冑の剣で首を切断され殺された。

アティカス・ピュントは65歳、手術不能の脳腫瘍をわずらっている。ピュントの捜査により、村中の誰もが犯人でもありうる暗い過去が明らかにされる。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)
アンソニー・ホロヴィッツ
/山田蘭
売り上げランキング: 3,767
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
創元推理文庫
2018年 ✳︎10
売り上げランキング: 3,876

下巻は、時制が現在となり、アティカス・ピュント・シリーズの担当編集者のスーザン・ライランドの視線で描かれる。
スーザンは、『カササギ殺人事件』の原稿を手にするが、最終の2〜3章が抜き取られていた。実際に上巻は、中途半端なままになっている。
冒頭で、スーザンが、まとめの形でマグナス殺害の犯人を推論する。各人物の犯人としてのとしての可能性をあげつらう。
そこで、「よーし、下巻を読むぞ」と俄然モチベーションが上がるのだ。

作者のアラン・コンウェイが自筆の遺書を残して、自宅の塔から飛び降り自殺をする。
自殺するはずがないアランがなぜ遺書を残したのか。スーザンの犯人探しが始まる。
そしてスーザンは、最終作とされる『カササギ殺人事件』を書くアランの真の目的を知ることになる。

作中ミステリの犯人探しと、アラン殺しの犯人探しという、フーダニットが別のフーダニットを包み込むダブル・フーダニットの設定で話は進んでいく。ふたつのストーリーは、絡み合いながら見事に整理され、齟齬はもちろんなく強引さもない。さらに最終の2〜3章が消えた理由はなんなのか。
本書が、数々の賞に輝き、大傑作と評価されていることに納得させられた。星10。

著者のアンソニー・ホロヴィッツは、シャーロック・ホームズ財団公認を受け、ホームズ・シリーズの長編作品『モリアティー』と『絹の家』を執筆している。さらに、イアン・フレミング財団にも公認され、『007 逆襲のトリガー』を書いている。
テレビの脚本も数多く手がける英国エンターテーメント界の至宝である。

007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年

『IQ2』ジョー・イデ

ジャケ買いしてしまいそうなくらい、表紙カバーのイラストの紫とピンクが魅力的だ。
前作『IQ』では、主人公アイゼイア・クィンタベイ(IQ)の聡明さと肉体の強靭さが強調されたが、本作では、ケガを負ったり叶わぬ恋に苦悩したりする。
さらに、ギャング達の生い立ちや、脇役達の背景や、事件解決のクライマックスに時期を同じくする相棒ドットソンの妻の出産が語られ、ストーリーに厚みが増している。

舞台は、黒人とヒスパニック系とアジア系が入り乱れて覇権争いを繰り広げているロサンゼルスの暗黒街。

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
IQ2
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ジョー・イデ/熊谷千寿
ハヤカワ文庫 2019年6月 ✳10
売り上げランキング: 7,564

8年前に、交通事故を装って殺された兄マーカスの元恋人サリタが現れて、異母妹ジャニーンのギャンブル依存をどうにかして欲しいと、アイゼイアに依頼する。サリタに淡い恋心を抱いていたアイゼイアは、相棒ドットソンと行動を開始する。
アイゼイアの解決しなければならないことは、ジャニーンをギャンブル依存から脱却させること、兄マーカスの死の真相を突き止めること。ふたつの事柄には繋がりはないが、アイゼイアの頭の中ではつながっている。

サリタとジャニーンの父親ケン・ヴァンは、中国系マフィア〈三合会〉の〈14K〉の下で働いている。サリタは黒人とヒスパニックの売春婦との間にできた子供だったが、聡明さと美貌を備えていた。サリタは優秀な成績でカリフォルニア大学を卒業し、スタンフォード大学ロースクールの奨学金を勝ち取った。その後ケンブリッジに留学し、今では弁護士として活躍している。
一方、ジャニーンに対してケンは良かれと思うことをすべて与えた。それがDJのベニーと付き合うようようになり、ベニーのギャンブル好きでふたりには借金まみれになっている。

高利貸しのレオには町中に密告屋がいる。密告者は借りている金の期限を伸ばしてもらうために仲間を売るのだ。レオの手下バルサザーは2メートルを超える巨漢。レオとバルサザーはベニーをゴミ収集所に連れて行って突き落とした。その後も返済しないベニーを追い回す。

ジャニーンは父親の携帯にUSBメモリーをつなぎ情報を盗んだ。その情報からジャニーンは父親が関わる〈三合会〉が人身売買や麻薬、誘拐など、ありとあらゆる悪事に手を染めていることを知ってしまう。
USBをベニーが持ち出し、中国人マフィア〈三号会〉を脅迫して金を得ようとするするつもりなのだ。
トミーはケンから情報が漏れたことに腹を立てケンを監禁し、そこに捕まったベニーが放り込まれる。

USBは追っ手からバイクで逃げるベニーを救おうと、追跡したアイゼイアの手に入る。USBと交換にケンとベニーの釈放を持ち出すが、トミーは応じず、魔の手はサリタにも及ぼうとする。

マーカスを轢いたのはメキシコ系ギャングであることを突き止めた。そして、マーカスのバックパックに、なぜ3千ドルの現金と16gのヘロインが入っていたのかの謎が解けるとき、殺害を命令した人物が明らかになる。

IQ2/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2019年
IQ/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2018年

『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』

モンタナの山中で若い女性生物学者が殺された。近くで調査を行っていたセオ・クレイ教授に容疑をかけられ警察に連行されるが、女性を襲ったのは熊と断定され、教授は放免される。殺された女性はセオのかつての教え子・ジェニパーだった。

生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンドリュー・メイン/唐木田みゆき
ハヤカワ・ミステリ文庫 2019年4月 ✳8

生物学的なあるいは生化学的なコメントをそこかしこに挟みながら、一人称で述懐するスタイルでストーリーは進む。

ジェニパーの傷の状態から死因に疑惑を抱いたセオは、独自のルートでゲノム検査を行ったところ、ジェニパーを襲った熊はすでに死んでいた。熊の仕業に見せかけた殺人事件であると警察に告げると、まったく取り合ってもらえない。
こうしてセオの孤立無援の捜査が始まる。

セオは生物学者であると同時にコンピュータのプログラマーである。セオが開発したMAATは、無関係なデータの集まり・カオスから、事件を解決する鍵を提供してくれるAIなのだ。手がかりが希薄にもかかわらず、MAATを頼りに仮説を立てていく。
熊に襲われて事故死した若い女性は過去10年で6人いた。一連の事件はシリアルキラーによる犯行ではないかとセオは疑いだす。
セオは、人づきあいがあまり得意でない生活スキルに難がある人物という設定だが、ダイナーの美人ウェートレス・ジリアンの協力を得て、犯人を絞り込んでいく。

犯人の尻尾を掴みかけたもつかの間、セオに自らが犯人として警察に出頭しなければ、セオと親しくしている人間を次々に殺すと脅迫されるに至る。相手は常人の域を超えた凶悪犯であった。
満身創痍になりながら、犯人との壮絶な闘いが展開される。

著者アンドリュー・メインの経歴が特異だ。10代の頃よりサーカス付きのイルージュニスト・マジシャンとして活躍している。
警察署に連行されたセオの目の前に、事件現場の写真29枚が広げられ、その中の6枚をセオが選ぶと、なんで選んだのだと刑事が驚いていう。同じ事件の写真だった。この場面はカードマジックを彷彿させる。
本作は「セオ・クレイ」シリーズの第1作目で、すでに3作まで刊行しているという。

『赤い衝動』サンドラ・ブラウン

ニューヨーク・タイムズ ベストセラー リスト第1位を獲得している。
25年前、ダラスのペガサスホテルが爆破され多くの死傷者が出た。フランクリン・トラッパー少佐は瓦礫の中を逃げ惑う生存者を安全な場所に導いた。少佐がひとりの少女を助け出す場面の写真は、世界中の人びとが一度は目にしている。その少女はケーラ・ベイリーだった。
その後、何年ものあいだ、少佐は英雄として祭り上げられ繰り返しマスコミに登場した。
一方、事件で両親を亡くしたケーラは叔父と叔母に引き取られ、マスコミと一切接触することがなかった。

赤い衝動 (集英社文庫)
赤い衝動
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サンドラ・ブラウン/林 啓恵
集英社文庫 2018年 ✳8
売り上げランキング: 205,347

時の人となった少佐と幼かった息子のジョンとの間にわだかまりができた。
そして、ATF(アルコール・タバコ・火器爆発物取締局)の敏腕捜査官になったジョンがATFを辞めたことで、3年まえから少佐とは断絶状態になっている。ジョンは爆発事件には黒幕がいると睨んで独自の捜査を続けたが、それがATFに居づらくなった原因だった。

ローカルテレビ局の人気レポーターとなったケーラは、少佐へのインタヴュ―を取り付けた。少佐へのインタヴューは、事件後25周年のセンセーショナルな番組になるはずだった。少佐の家でのインタヴュー中に、少佐とケーラは強盗に襲撃される。
少佐は銃で撃たれ重傷を負い死線をさまよい、ケーラは窓から脱出してかろうじて助かった。
いったい何が起こったのか? 表向きは決着がついている爆破事件の真相が語られることを恐れた者の犯行だった。

190センチの偉丈夫のジョン・トラッパーはぶっきらぼうで行動は直線的、暴力を振るうことも厭わない。初めはその強引さを嫌っていたケーラだが、襲撃事件と爆破事件の真相を白日のもとに晒すという目的で行動を共にするようになる。やがて、ふたりは官能の世界に浸る関係になる。
ジョンは事件の真相を掌握していた。少佐がテレビに出ることになり、生放送でしかもインタヴューアーがケーラだと知って、黒幕は被害妄想に近い恐れを抱いたのだ。どうやって黒幕を表に引っ張り出しに犯行を認めさせるかだ。
なお、解説によると、原題の“Seeing Red”は「激怒する、かっとなる」という意味で、雄牛が闘牛士の赤いマントを見て暴れ出すことからきた言葉だという。ジョンの性格や激しい性描写を暗示しているのだろう。

『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン

見知らぬ女に男が妻殺しを相談するという、現実にはありそうにない設定で話がはじまるが、すんなり受け入れられるのは、著者の巧みな構成力と卓絶した筆力によるのだろう。大胆な展開と予想だにしない結末が待っている。本書はすべての章が登場人物たちのモノローグの形をとっている。映画化の話が進んでいるという。

テッドはヒースロー空港のバーでジントニックを飲みながら、ボストン行きの飛行機の出発を待っている。そこに面識のない女・リリーが声をかけてくる。
テッドはインターネット関連会社に投資し成功した実業家だ。
酔いも手伝ってか、結婚して3年になること、ボストンに住んでいること、メイン州の海辺の土地を買い新居を建てていること、建築現場で妻のミランダと建築業者ブラッドとの不倫を目撃したことを打ちあけた。

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)
そしてミランダを殺す
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ピーター・スワンソン/務台夏子
創元推理文庫
2018年2月 10✳︎

 

 

ミランダは他人を利用し、自分のルックスを頼りに生き、もらえるものをもらって満足している浅薄な女。この先、生きていても何人もの男を不幸に陥れる人生を送る。人間はいずれ死ぬのだから、殺しても何も問題がないというのが、リリーの強引な論理。

テッドはリリーに同調し、ミランダは殺さなければならないモンスターだと思うようになる。こうして奇妙な共犯関係が成立する。なぜ妻の殺害に手を貸すのかとのテッドの疑問に、リリーは全てが終わってから、話すと約束するのだった。テッドはミランダに好意を寄せ、リリーもテッドとの関係を好ましく感じている。

ストーリーが進むにつれて、殺人に痛痒すら感じないリリー、自らの欲望のために男を食い物にするミランダ、そのふたりに振り回される哀れなテッドとブラッドという構図が見えてくる。リリーとミランダは、最近話題となっているサイコパスという人格障害だろう。

同じ場面を時間を巻き戻して、別の人物の視点から語るという手法を使っている。この手法により、読者は登場人物のひとりの目では理解しがたい事象の核心部分を表と裏から見ることができるのである。→人気ブログランキング

サイコパス/中野信子/文春新書/2016年

『マルタの鷹』ダシール・ハメット

『マルタの鷹』は、アメリカの大衆向け雑誌『ブラック・マスク』に1929年9月号から1930年1月号に連載され、同年に単行本として発刊された、ハードボイルド探偵小説の嚆矢である。アウトロー探偵サム・スペードが、美女の頼みごとを引き受けたばかりに厄介に巻き込まれる。登場人物のキャラクターが見事に描き分けられていて、早いテンポで話が進んでいく。3度(1931年、36年、41年)にわたって映画化されている。
ただただ傑作と言わざるをえない。

マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マルタの鷹
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ダシール ハメット/小鷹信光
ハヤカワ・ミステリ文庫(改訳改訂版)
2012年

女はサンフランシスコの私立探偵サム・スペードに妹の捜索を依頼する。妹と駆け落ちしたというサーズビーと、サーズビーを尾行したスペードの同僚アーチャーは銃で撃たれて殺される。アーチャーの妻と不倫関係にあったスペードは警察に殺人の容疑をかけられてしまう。

妹の失踪は作り話で、しかもその女ブリジッド・オショーネシーは偽名を使っていた。オショーネシーはスペードに近づいた本当の理由を明かさない。
そのあと、スペードにカイロという男が接触してきたのは、スペードがオショーネシーから何かを聞き出しているとみたからだ。カイロはスペードに黒い鳥の装飾品を見つけ出したら5000ドル払うという。

さらに脂肪肥りのガットマンが手下にスペードを尾行させる。
このあたりでスペードの前に現れた人物たちの目的は、マルタ騎士団が所有していたという宝石を散りばめた莫大な価値がある装飾品を手に入れることだとわかる。

ガットマンはロシアの将軍が装飾品を所持していることを掴み、カイロ、サーズビー、オショーネシーを代理人として装飾品を手に入れようとしたが、3人はそれを自分のものにしようと策を弄したという。装飾品の表面には宝石を隠すため黒いエナメルが塗られていてる。
それぞれが自分が掴んでいる情報を明かさず、装飾品をめぐって探り合いを繰り広げている。

やがて、スペードのオフィスに胸に銃弾を受け血を流している男が飛び込んできて、スペードに包みを渡したあと事切れた。その包みから装飾品が出てきた。
3人も殺された事件を警察が黙っているはずがない。
スペードは、ガットマンとその手下、カイロとオショーネシーを前に、3人の殺人事件の犯人を警察に提供して、この事件に幕を降ろすことを提案する。装飾品のことが警察の知るところとなれば、事の収拾がつかなくなるというのが理由だった。
ここから、スペードと悪党たちとの駆け引き、警察の執拗な操作が佳境に入っていく。→人気ブログランキング

『日曜日の午後はミステリ作家とお茶を』ロバート・ロプレスティ

主人公のレオポルド・ロングシャンクスは50歳のミステリ作家。
「事件を解決するのは警察。ぼくは話をつくるだけ」と言いつつ、警察の捜査にしばしば口を出し、ある時は警察に制され、ある時は見事な推理を披露する。そして警察とのやりとりのなかに、作品に使えそうなギミックがないかとアンテナを張っている。
シャンクスの妻コーラはロマンス作家として売り出したばかり。結婚20年目で、適度に仲が良くジャブ程度の軽い嫌味を言いあう。
安楽椅子探偵ものあり、事件の推移を見物するだけのものあり、ショートショートあり、深刻でない内容の牧歌的な14の短篇からなるコージーミステリである。

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ/高山真由美
創元推理文庫 2018年 ✴8

・シャンクスはロマンス作家としてデビューしたコーラの雑誌インタビューに同席する。インタビューは当たり障りのない内容で進み、カフェの窓の外では詐欺事件が起こり、警察がやってきて犯人が逮捕される。「シャンクス、昼食につきあう」
・ミステリ作家のコンベンションで、素人作家が酒をおごるから謎を解いてくれと数人の作家に持ちかける。議論百出し、シャンクスが誰も使ったことのないギミックを語る。「シャンクスはバーにいる」
・誤認逮捕された知り合いを助けるためにハリウッドに乗り込み、事件の謎を解く。「シャンクス、ハリウッドに行く」
・強盗に財布を盗まれたシャンクスは、凝りに凝った罠で犯人を撃沈させる。「シャンクス、強盗にあう」
・シャンクスが住む住宅街の車上荒らしが捕まる。盗品のマシンピストルがどこの家の車から盗まれたのかシャンクスが推理する。「シャンクス、物色してまわる」
・ミステリファンが集うイベントで起きた『マルタの鷹』の初版本紛失事件。「シャンクス、殺される」
・ATMから金を引き出そうとした男のキャッシュカードが機械に飲み込まれる謎を解く。「シャンクスの手口」
・シャンクスは 先達の文章をオーディブック聴き体に染み込ませ、文章をひねり出した。それが盗作だと電話の主は言う。電話の主は先達のゴーストライターだった。「シャンクスの怪談」
・馬の誘拐事件。「シャンクスの牝馬」
・シャンクスは町の建物の前の状態も前の前の状態も、上書きされずに覚えているという特技を持っている。その記憶力が強盗逮捕に役立つ。「シャンクスの記憶」
・出身大学の図書館で殺人事件が起き、寄贈したジャンクスの本がなくなった。「シャンクス、スピーチする」
・シャンクスはタクシーの運転手に妻の善意を気づかせる。「シャンクス、タクシーに乗る」
・ウィンドウズの技術サーポートから、マルウェアに感染してると電話で言われ、パソコンの遠隔操作を促されるが、シャンクスは詐欺と気づき撃退する。「シャンクスは電話を切らない」
・シャンクスは資産家の未亡人の夫の座を狙う男に忠告する。「シャンクス、悪党になる」
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『未必のマクベス』早瀬 耕

急速に成長を遂げたIT系企業のジャパン(J)プロトコルに勤務する中井優一は、東南アジアの主要都市に交通系ICカードを普及させる仕事に携わっていた。優一は高校の同級生で同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた。優一は娼婦から「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」と告げられ、その後ことあるたびにこの言葉を思い出すことになる。

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)
未必のマクベス
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早瀬 耕
ハヤカワ文庫JA
2017年 ✳︎7

商談を成功させたものの、優一は香港(HK)プロトコルのCEOに出向させられる。HKプロトコルは仕事らしい仕事は何もない、幽霊会社である。優一が手に入れた極秘文書には、HKプロトコルの歴代COEの悲惨な最期が書かれていた。それは行方不明や自殺である。
優一はJプロトコルに対して自分がスケープゴートにされるかもしれないという恐怖を抱くようになり、周りの人間が信用できなくなる。

そんなおり、高校の同級生だった鍋島冬香が優一に宛てたUSBを入手する。
冬香は高校卒業後、大学の数学科に進み、新鋭の数学者として香港大学の准教授となっていた。そしてHKプロトコルで暗号を担当していたが、暗号解読キーに関わるミスで会社から命を狙われるようになった。冬香は優一にJプロトコルを潰して欲しいと訴えていた。そして優一に安全な場所に行くまで誰も信じてはならないと忠告した。卒業以来、優一は冬香を1日たりとも忘れたことはなかったのだ。

優一は殺られる前に手を打とうと、危うい手を使ってHKプロトコルに莫大な利益をもたらす。さらに、自分と冬香の身を守るために大胆な行動に出る。

本書は『マクベス』のストーリーが幾度か語られる。
そのあらすじは、マクベスとバンクォーは反乱軍との戦いで勝利を収める。マクベスは夫人と共謀して王を殺害し王位に就くが、精神的な重圧に耐えきれず暴政を行い、バンクォーを暗殺する。夫人は狂って死に、マクベス自身はバンクォーの家臣らの復讐に倒れる。魔女たちが狂言回しの役割をして物語は進み、マクベスは魔女たちの予言に振り回される。
ここで、『マクベス』の登場人物に、本書の登場人物を当てはめてみる。マクベスは中井優一、バンクォーは伴浩輔だろう。魔女は優一に予言めいたことを囁いた娼婦だ。では、マクベス夫人は誰なのか?それは最後の最後に明かされる。→人気ブログランキング

→『マクベス』W・シェイクスピア

『元年春之祭』 陸 秋槎

古代中国を舞台に、ふたりの少女が推理合戦を展開するフーダニットもの。
知的でおおらかでコミカルに始まるものの、話が進むにつれて非情で残酷になっていく。
著者の専攻テーマだった漢籍がところどころに挟み込まれ、前漢時代の中国にタイムスリップさせてくれる、少女コミック風のミステリ。
著者の陸 秋槎(りくしゅうさ)は、1988年、中国・北京生まれ。現在、金沢市在住。2014年、復旦大古籍研究所在学中に短編ミステリ『前奏曲』を発表し、第2回華文推理大奨賽の最優秀新人賞を受賞。2016年、本作で長編デビュー。

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)
陸 秋槎/稲村文吾 訳
ハヤカワ・ポケット・ミステリ
2018年 ✳︎6
売り上げランキング: 18,022

古例の見聞を深めるため観家に滞在していた17歳の於陵葵(おりょうき)と、観家の当主の娘・同い年の観露申(かんろしん)は、出会ったばかりなのに友情で結ばれる。露申は葵に過去の一族の凄惨な殺人事件を打ち明ける。

楚国の貴族の末裔であった観家は、漢の世に身の置き所がなく、人里離れた雲夢澤(うんぽうたく)で絶えず居を移していた。傍系の家系は雲夢を離れていったという事情がある。
葵はいくら学問を積んで武道を習得して古代の賢人の真似をしても、育ちを変えることはできないと嘆く。それなのに立派な血筋の露申のあまりの出来の悪さに失望したという。そんな露申を葵はからかったりいじめたりして激昂させたくなる。
このあたりまでは、少女コミックの小説版というノリである。

事件とは、4年前の天漢元年(紀元前100年)、かつて楚国の祭祀を司っていた名門の観家の人々が春の祭の準備をしていたさなか、露申の伯父、伯母、従弟が何者かによって殺された。しかし犯人は見つからないままになっていた。

漢籍の研鑽を積んだ聡明な葵は事件の解決を引き受けるが、目の前で新たな殺人事件が起こってしまう。
そして、葵と露申は事件の全容を解明する推理合戦を繰り広げる。事件のバックグラウンドには、観一族と豪族だった葵のそれぞれの宿命があった。→人気ブログランキング

『ブルーバード、ブルーバード』アッティカ・ロック

東テキサスの田舎町で、シカゴからやってきた黒人の男性弁護士と地元の白人女性の遺体が、町を流れるバイユーで相次いで発見される。白人が殺されてその報復として黒人が殺されるのが通常の順番であるが、逆だった。捜査にあたるのはテキサス・レンジャーに所属する黒人のダレン・マシューズ。

町には黒人の老女が経営するカフェと、大きな通りを挟んで白人の金持ちの邸宅が向き合っている。その白人はバーのオーナーで祖先はこの町を作った。
ダレンは殺された男の妻とカフェで知り合い事件を解決しようとする。黒人の公共施設利用を制限する「ジム・クロウ法」が廃止になって50年たっても、東テキサスの人種差別は以前と大して変わらない。

ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
アッティカ・ロック/高山真由美
ハヤカワ・ポケット・ミステリ
2018年12月 ✳︎10
売り上げランキング: 49,912

ダレンは伯父が黒人で初めてのテキサス・レンジャーになったという名門の出なのだが、親族同士に確執があり、ダレン自身も妻とうまくいっていない。ダレンの農場で働く管理人の孫娘に嫌がらせをするクズ白人が銃で殺され、事件に関わった嫌疑で、ダレンはレンジャーを停職中なのだ。殺された白人は過激な人種差別組織に属し、その組織の通過儀礼は黒人を殺すことである。KKKよりもタチが悪い組織だ。

被害者の女性は白人が集まるバーで働いていた。殺された男が最後に酒を飲んでいた場所だ。ふたりは話をして男は女を家に送っていった。
妻を迎えにきた夫はふたりの仲を勘ぐって逆上し男をツーバイフォーの角材で殴って殺した。そのあと数日して夫が妻を絞殺したというのがダレンの推理だ。夫は数か月前に刑務所を出所したばかりで、刑務所内で人種差別組織のメンバーと接触したのではないかとダレンは疑った。
しかし、事件の真相は単純ではなく、過去に起こった愛憎劇が複雑に絡んでいた。

6年前にカフェの女店主の夫が銃で撃たれて殺されてるが、犯人は逃亡した3人の白人男性という目撃者の証言により、事件は捜査されないままになっている。人種に絡んだ事件が起こると東テキサスの田舎町の特殊なルールがまかり通るのだ。
ダレンはテキサス・レンジャーの誇りと意地で、妥協を拒否し事件の真相を明らかにしようとする。

物語には、歌詞やジュークボックス、エレキギター、バンドマン、演奏旅行などが描かれていて、まるでBGMにブルースが流れているようだ。
犯罪における人種差別を黒人の目からあぶり出した傑作だ。本作は2018年の3つの主要ミステリ賞(米探偵クラブ賞、英ダガー賞、米アンソニー賞)を受賞した。→人気ブログランキング

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