ミステリ

2023年12月18日 (月)

スタイルズ荘の怪事件 アガサ・クリスティー

アガサ・クリスティーの初の長編であり、エルキュール・ポアロが初めて登場する記念すべき作品である。1920年、クリスティーが30歳の時に発表された。クリスティーは作家として活躍する前に薬局に勤めていたことがある。この経験がクリスティーの作品に生きていると言われている。
イギリスの法律では、一度無罪になると同じ犯罪で二度と裁かれることはないダブルジョパティの法規があり、本作はそれを狙った殺人事件である。ダブルジョパディをテーマにした映画『ダブルジョパディ』(ブルース・ペレスフォード監督、1999年)は、アシュレイ・ジャドとトミー・リー・ジョーンズが出演した。
Photo_20231218142101 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー/矢沢聖子
ハヤカワ文庫 
2003年 361頁

舞台は1920年代のイギリス。
戦傷を負ったヘイスティングズが居候しているスタイルズ荘の老資産家エミリーが、ストリキニーネで毒殺された。ヘイスティングズは友人のベルギーから亡命して間もないエルキュール・ポアロに助けを求める。ポアロは「灰色の脳細胞を働かせて」が口癖である。
スタイルズ荘には、最近エミリーと結婚した20歳も年下の夫アルフレッド、前夫の連れ子ジョンとロレンス、ジョンの妻、エミリーの友人の娘、エミリーの友人のエヴリンがいる。はじめにあらかたの登場人物が登場する。

エミリーの最新の遺言書では遺産をアルフレッドが相続することになっていた。アルフレッドは事件の夜、屋敷を出て村に一泊した。一方、エミリーは夕食をほとんど食べず、文書箱を持って早々に自室に引きこもった。彼女の遺体が発見された時、文書箱は無理やり開けられた状態だった。

捜査担当のジャップ警部は、妻の死で利益を得るアルフレッドを第一容疑者と考えた。しかし、ポアロはあまりにも疑わし過ぎるアルフレッドの行動に疑問を抱く。アルフレッドは当夜の宿泊先を明かすのを拒み、村でストリキニーネを購入したのは自分ではないと答える。ポアロはアルフレッドが毒を購入したはずがないこと、購入時の署名が彼の筆跡でないことから、警察のアルフレッド逮捕を思いとどまらせる。警察はアリバイがないジョンを逮捕する。毒薬購入時の署名はジョンの筆跡であり、毒薬の入った小瓶が彼の部屋で見つかり、付け髭と鼻眼鏡がジョンの持ち物の中から出てきたのである。

【ここからネタバレ】
しかし、ポアロは真犯人がアルフレッドであり、彼のいとこのエヴリンが手伝っていたことを明らかにする。二人は、アルフレッドが逮捕されるための偽の証拠をわざと残し、裁判になってから無罪を証明するつもりでいた。イギリスの法律では、一度無罪になると同じ犯罪で二度と裁かれることはないダブルジョパディの条項があった。

エヴリンは男に変装しジョンの筆跡を真似てサインした。ポアロがジャップ警部がアルフレッドを逮捕するのを阻止したのは、アルフレッドが逮捕されたがっていることに気づいたからである。ポアロはエミリーの部屋でアルフレッドのエミリーに対する殺意を記した手紙を発見する。殺人のあった日の午後、エミリーは切手を探していた時にアルフレッドの机の中からこの手紙を見つけた。エミリーはその手紙を自分の書類ケースにしまい、それに気づいたアルフレッドは彼女の死後に書類ケースをこじ開けて手紙を取り戻し、見つからないように部屋の別の場所に隠していたのだった。

解説で、ミステリ作家の数藤康雄が、アガサが小説家としての出発した頃のことを紹介している。〈彼女が18歳の頃に母の勧めで書いた習作を、隣人の作家イーデン・フィルポッツに読んでもらい、批評を受けたことだ。フルポッツと言えば、日本では江戸川乱歩が激賞した『赤毛のレドメイン家』を書いたミステリ作家として知られているが、その当時はミステリより普通小説の書き手として高名な作家であった。その彼が娘のようなアガサの原稿を読み、「あなたは会話にたいしたすぐれた感覚を持っている・・・・・・」と励ましの手紙を送るとともに、著作代理人の紹介までしたのである。残念ながらその時の原稿はボツになったが、1932年に刊行された『邪悪の家』の冒頭には、(中略)フィルポッツへの献辞が記されている。〉とある。そしてフィルポッツが紹介してくれた著作代理人と契約して仕事を任せた。フィルポッツから受けた忠告がアガサの作家人生に大きな影響を与えたことは間違いないと書いている。→人気ブログランキング
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スタイルズ荘の怪事件/アガサ・クリスティー/矢沢聖子/ハヤカワ文庫/2003年(2020年)
ポケットにライ麦を(新訳版)/山本やよい/ハヤカワ文庫/2020年(1953年)
葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2023年3月 4日 (土)

青春と変態 会田誠

本書は著者が描く絵画作品と似たテイストだ。下品でエロチックでグロテスクだけれど、どこか初々しさがある。
出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 』(花田菜々子/河出文庫/2020年)のなかで、紹介された。

ぼくこと会田誠は、変態で格好よくなくモテないことを自認する北高の2年生。
北高と清和女子高のスキー部が、バスに乗り合わせて、三ツ村温泉スキー場に向かっている。恒例のスキー合宿である。北高のスキー部はふだんの練習もなければ、先輩後輩の上下関係もない下手糞なスキー部である。清和高はまともな高校の運動部のようだが、何しろ女子だから、実力は似たようなものだ。
Photo_20230304085301青春と変態
会田誠
ちくま文庫 
2013年 262頁

バスの中でノートに書いていると、となり座った清和高の湯山さんに、何を書いているのかと尋ねられる。ぼくは読書をすることと、スキーがちょっと上手いくらいしか取り柄がない変態である。本書はそのノートに書いた内容がそのままストーリーになっている。
1年生から、湯山さんとぼくは「文学カップル」と呼ばれている。湯山さんは清和高一の美人だ。人気があって言い寄った男は何人もいるが、ことごとく断わられた。そんな湯山さんが気安く声をかけてくれたり、周りから「文学カップル」と呼ばれていることに、ぼくは満更でもない。

ぼくの呪わしき秘密は「トイレ覗き」である。靴流通センターの駐車場に落ちていたエロ雑誌がきっかけだった。トイレでの女性の放尿シーンを捉えた写真に惹きつけられたのだ。そこで、護国神社ならなんとかなると思い、男女共同トイレに籠ること2時間、来たのは婆さんだった。

スキー場のトイレは男女兼用で、仕切りの下が15センチほど空いている。トイレの個室に籠り覗きに成功する。ぼくは覗きをしても勃起しない。いたって冷静なのだ。2日間にわたり覗き見をして、あそこの美しさと顔の作りは一致しないことに気づいた。
湯山さんのものを見るに至り、覗きから足を洗うことにした。そして、湯山さんに恋していることに気づいた。

女子風呂覗き事件が起こったり、別れがあったり、恋が芽生えたり、振られたり、有象無象の青春の蠢きがある。

著者は本書の成分表を、「赤面24.3%/スカトロ8.3%/吐き気20.8%/スキー5.5%/純愛15.4%/涙2.1%/犯罪性12.5%/思想0.1%/お笑い11.0%/反省0%」としている。→人気ブログランキング
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2023年2月10日 (金)

黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 松嶋智左

ぶっ飛んだストーリーだ。
運転免許センターに異動して間もない野路明良は、新設された黒バイ捜査隊の訓練を指導していた。黒バイ隊は所轄や部署の垣根を超えた活動であるから、臨機応変に効率よく素早く動くことができる。白バイ隊は交通違反の取締りが主な仕事だが、黒バイ隊は犯罪を扱う。
その黒バイ隊が追跡した不審車両が事故を起こし、運転していた男が死亡した。
死亡した人物は手配犯で、持っていた免許証は偽造されたものだった。免許証は野路の所属する免許センターで作られた。
751d5bf07a9942adb858505fb86f450e 黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 
松嶋智左
祥伝社文庫 
2022年9月 347頁

かつて、白バイ隊員であった野路明良は、Y県の白バイ隊を全国一に導いた。しかし交通事故に遭い右手に軽い後遺症を負った。二輪車への思いは消えることなく、ボランティアで古巣の白バイ隊員を指導することを続けていた。それが黒バイ隊まで広がった。

免許センターの2階から転落して重症となったセンター長のロッカーから、他人の免許証が数枚出てきた。
不正免許証のデータを調べはじめた白根深雪巡査長の身の安全を気遣い、野路は深雪をバイクの後部に乗せて家まで送ることを続けた。野路と深雪の間に恋が芽生えはじめる。
深雪がパソコンで調べると、免許証作成課の誰かが不正に関わっていることを掴んだ。

不正免許証で海外に出た男を調べたところ、Y大学の元留学生だった。留学生は公安委員長の大里綾子と繋がりがあった。そんなおり大里綾子が何者かに拉致される事件が起こる。

そして新しいセンター長が就任する日、センターに勤務する全員が集合し、知事や新しい公安委員長が列席する挨拶の場に、モトクロス集団が襲来し、知事が狙われ白根深雪巡査長が銃撃されるという、あり得ない事件が起こり、しかも狙撃犯を取り逃すという失態を負う。
野路は狙撃された白根の仇をとろうと捜査に加わろうとするが、免許センターに勤める者にそのような資格はない。
しかし野路は動かずにはいられない。
バイク走行の技術から、犯人像が絞られていく。
そして、ぶっ飛んだ結末が待っている。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年1月20日 (金)

バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課 松嶋智左

文庫書き下ろしの作品。
主人公の明堂薫はバツイチ、社会人の息子がいる。
薫は、県警本部に新設された「事件課」に配属された。事件課は女性4名男性2名で構成されている。最近の広範囲にわたる事件に対応して、部課の垣根を超えて慣習に縛られることなく捜査活動というのが、作られた主旨だ。
T_20230120144301 バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課
松嶋智左
小学館文庫 
2022年11月 316頁

事件課が開設して早々に、別の警察署のトイレで首吊り遺体が発見された。遺体は入署2年目の交番に勤務する静谷永人巡査24歳だった。
薫たちが署内を調べまわることに署員たちはいい顔をしない。自殺の捜査を行うのは、今後同じようなことが起きないようにという意味と、上から命令された仕事だからという理由だと言って聞き取りを行った。

県警本部の音楽隊に所属する姉の静谷朱里から聞き取りをする。朱里は弟の死にほとんど感情を表さなかったが、音楽隊という言葉に反応して、「音楽隊ではありません。カラーガード隊です」と強く言ったという。そこに薫は疑問をもった。そこには姉弟の複雑な事情があった。
カラーガード隊とは、マーチングバンドにおいて、フラッグ、サーベルなどの手具を用いて、視覚的表現を行うパートである。朱里が属するカラーガード隊は日本一の実力があり、国際大会への出場が確実視されている。

栄人の警察学校からの同僚に話を聞くと、チクったとわかったらその人間も栄人の二の前になるという。パワハラがあったのだ。永人は警察官になってはじめての交番勤務で失態があった。半年で別の交番に移されたが、その後も執拗ないじめが続いた。

自殺の捜査に加え、ふたりの女の2件の窃盗事件の誤認逮捕が発覚した。ふたりにはアリバイがあるとの証言者が現れたのだ。伝説の刑事と謳われ若い警察官の憧れとなっている人物が課長を務める署で、失態はなぜ起きたのか。ふたりは何かを隠している。
薫たちが調べを進め謎が解明されるにつれ、署内に驚天動地の闇が潜んでいることがわかってくる。

「バタフライ・エフェクト」というタイトルが示唆するように、ふたつの一見なんの関係がない事件であるが、実は背景で繋がっていた。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年1月14日 (土)

女副署長 祭礼 松嶋智左

松嶋智左の女副署長シリーズ第3弾。
主人公の田添杏美は、1作目の『女副署長』で、日見坂署に県内初の女性副署長として赴任する。大型台風が接近する暴風雨の中、署内の駐車場で胸をナイフで刺されて警察官が殺される。この不祥事のせいで、2作目『女副署長 緊急配備』では、県北の佐紋署に左遷される。高齢者の荷物をバイクに乗って強奪する事件や山中の女性撲殺死体、警察官が頭部を殴られ重傷を負う事件が起こる。
そして、今回は、署員300人を抱える県内最大の旭中央署に転勤となった。
Ca4ce4081c284fa2a8f8066d6891a15c 女副署長 祭礼
松嶋智左
新潮文庫
2022年10月 335頁

杏美が赴任してまもなく、旭中央署にはキャリアの俵貴美佳が署長として赴任した。独身の貴美佳は副署長の杏美の日見坂や佐門での活躍を耳にしているという。杏美のいる中央署に来られてラッキーだといった。58歳の杏美は副署長になって3年になる。   

旭中央署の所轄では、6年前に、両親とともに祭に来た5才の女児が行方不明になった。事件は未解決のまま6年が経ち、祭の時期になると市民に事件への協力を呼びかけるキャンペーンが行われている。
また、2年前に男が強盗傷害事件を起こして逃走し、最近、旭中央市に舞い戻ってきているらしい。そして、男の内縁の妻が雑居ビルの屋上から転落し死亡する事件が起こる。さらに、署長がクラブを経営するハーフの男と付き合いはじめ、大事にならないうちに手を打ってくれと、杏美は同僚から進言される。キャリアには任期をまっとうして何事もなく帰ってもらわなければならない。さらにこともあろうか、事件の捜査にあたる警察官がボツリヌス菌による食中毒で倒れるという不祥事までが起こる。
そこで、杏実は県警本部に応援を頼んだ。杏美が指名したのは花野司朗警部だ。杏美が副署長として初めて赴任した日見坂署で刑事課長をしていた。「グリズリー」と杏美が密かに呼んでいる体躯も態度もでかい辣腕刑事である。

キャリアの不祥事を治め、行方不明事件を解決し、強盗傷害犯を検挙すれば、県内初のノンキャリアの女性署長が誕生すると同僚は杏美を励ます。
そして祭礼の日が近づいてくる。一向に解決しない硬直した状況に、杏美は一芝居打って出るのだった。

前2作もそうだったが、本作も同時多発的に起きた複数の事件の捜査が並行して進行するタイプのモジュラー型警察小説である。代表的な作品にR・D・ウィングフィールドの「フロスト警部シリーズ」がある。→人気ブログランキング
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女副署長 祭礼/松嶋智左/新潮文庫/2022年10月
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年6月
開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

フロスト始末
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
冬のフロスト
フロスト気質
夜明けのフロスト

2022年5月16日 (月)

ポケットにライ麦を(新訳版) アガサ・クリスティー

1953年発刊。ミス・マープル・シリーズの6作目にあたる。『そして誰もいなくなった』と同じようにマザーグースの童謡にみたてた、見たて殺人である。投資信託会社の社長レックス・フォーテスキューが毒を盛られ殺害された。レックスの上着のポケットにはライ麦が入っていた。使われた毒はイチイの実から抽出されるタキシン。
「水松(イチイ)荘」のと呼ばれるロンドン郊外のレックスの館には、レックスより30歳も年下の二番目の妻アデルとその愛人、長男夫婦、娘とその恋人、レックスの死んだ妻の姉、そして使用人たちが、複雑な人間関係のなかで暮らしていた。そこに放蕩息子の次男夫婦がアフリカから帰ってくる。
その日の朝、レックスは、妻、娘そして長男の妻の3人と朝食を共にした。 
D8e58ab99be94e379f1c9c4d0a2483da ポケットにライ麦を(新訳版)
アガサ・クリスティー/山本やよい
ハヤカワ文庫 
2020年

客間での午後のお茶の時間に、犯人の疑いがかけられていたアデルが、マフィンを手にしたまま青酸カリで殺された。そして、おどおどしていた小間使いのグラディスが姿を消し、ストッキングで首を絞められて殺された。
こうして3人が殺されたのだ。

ニール警部は家政婦のミス・タブに話を聞く。
旦那様はきわめて不愉快な方でしたから、誰が犯人であってもおかしくないとミス・タブはいう。それに商売のやり方もアコギだったから、商売相手から恨まれている。
ミス・タブは、若く知性があり、家政婦をさせておくには勿体ないと警部はいう。

長兄は看護婦と結婚というヘマをやらかした。一方、放蕩の弟は曲がりなりにも貴族と結婚したから父親は満足だった。しかも、亡くなる前に父親は長男と、激しい言い争いをしたという。

ミス・マープルは新聞を3紙買って颯爽と汽車に乗り、それを読んで水松荘を訪れた。ミス・マープルは同じ郷里の娘グラディスに行儀見習いを教えたことがあった。その娘が殺されて、犯人は悪ふざけをして、遺体は洗濯ばさみで鼻をつままれていた。それを知ったミス・マープルは激昂した。

事件の様子が、マザーグースに出てくる「クロツグミの歌」とぴったり合うと、ミス・マープルは警部に告げた。
それが告げられたのは、ストーリーの真ん中あたり。→人気ブログランキング
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ポケットにライ麦を(新訳版)/山本やよい/ハヤカワ文庫/2020年(1953年)
葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2022年5月 5日 (木)

平凡すぎて殺される クイーム・マクドネル

特徴のない面相のポールは殺人の容疑者になってしまい、おまけに命を狙われることになった。ブリジットとともに、姿の見えない殺し屋の手から逃れながら命を狙われる理由を突き止めようとする。舞台はアイルランドの首都ダブリン。
64f276b97bbd42aa84b5a5e0c57cc34b平凡すぎて殺される
クイーム・マクドネル/青木悦子
創元社推理文庫
2022年2月 502頁

ポールはボランティアとして老人介護施設で入居者たちの相手役を買って出て数年になる。相手によって、息子になるし孫にもなる、近所の若者にも、あるいは執事にもなる。
看護師のブリジットがポールに、死にかけた癌の末期患者を宥めてくれるようにとたのんだ。その患者は3年前に癌が見つかったが、すべての治療を拒否して、故郷のこの施設にやってきた爺さんだ。その爺さんがポールを誰と間違ったのかナイフで襲い、ポールの肩を刺した。致命傷にはならなかったが、爺さんはその襲撃で命を絶った。
かくして、ポールは殺人事件の容疑者候補になり、しかも何者かに命を狙われることになった。

爺さんの正体は大悪党のゲーリー・ファロンであった。警察としても関わりたくない厄介な人物だ。さらに悪いことにゲーリーの娘が3発の銃弾で何者かに殺された。
ブリジットはポールの命が狙われる原因を作った負目で、行動をともにすることになる。そんなおり、ポールの車に爆弾が仕掛けられた。

若い頃、ポールは銀行強盗のひとりに似ているという理由で、警察に逮捕されたことがある。ポールを逮捕したのは、型破りのバーニー部長警部だった。ところがポールにはアリバイ中のアリバイがあった。

いまやポールは悪党の親玉に命を狙われていて、その親玉に命を狙われたら100%助からないときかされる。なぜ命を狙われるのか。それがわからなくては話にならない。それを突き止めるべく、ポールとブリジットは悪戦苦闘するのだ。そこにバーニー警部が加わり、ストーリーはスラップスティックな展開をみせる。

映画の場面やセリフ、聖書、または小説の場面、あるいはTVゲームの場面などが頻回に引用され、著者の豊富な知識に圧倒される。さらに饒舌というか多彩で効果的な比喩がそこらじゅうに差し込まれ、ついニンマリさせられる。悲壮感がないところがいい。ノンストップで読み進むことができる。本年の翻訳ミステリ・ベストテン入り間違いなし。

著者のクイーム・マクドネルはアイルランド出身。本書は初の長編で「ダブリン3部作」の1作目だという。本書を発刊したときはコメディアンであった。ダブリンやマンチェスターを舞台としたミステリを中心に描いている。本書は2017年、アイルランドのインディペンデント出版を奨励するCAPアワードの最優秀小説部門にノミネートされた(表紙カバーの著者略歴より抜粋)。→人気ブログランキング
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2022年5月 2日 (月)

アガサ・クリスティー百科事典 数藤康雄 編 

アガサ・クリスティーの全238作品を年代順に、長編・戯曲は1頁に、短編は4行から6行ほどにまとめて紹介している。作品紹介の他に、「作中人物・あいうえお順」「アイテム・あいうえお順」「戯曲初演リスト」「映画化作品」「ドラマ化作品」「年譜」、巻末には「作品索引」が掲載されている。

Photo_20220502082401アガサ・クリスティー百科事典 
数藤康雄 編 
ハヤカワ文庫 
2004年 431頁

編者によれば、作中人物は少なく見積もっても7000人を超えるので、400人だけをピックアップしたという。作中人物ではネタバレに近い解説もみられる。それは作品を読んでわかるのであって、これから読むのであれば問題ない程度だろう。またアイテムについても同様のことがいえる。
さらに、クリスティー作品全般についての編者のエッセイ10編が、「コラム・ティータイム」として、ところどころに挟み込まれている。
アガサ・クリスティーは晩年になっても、筆力が衰えるどころかかえって上がっている稀有な作家と評価されている。このことは江戸川乱歩が最初に指摘した。

年代順に読むもよし興味があるものから読むもよし、本書はアガサ・クリスティー攻略に大いに手助けになる。
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アガサ・クリスティー百科事典/数藤康雄 編/ハヤカワ文庫/2004年
葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2022年4月19日 (火)

葬儀を終えて アガサ・クリスティー

1953年に発刊。エルキュール・ポアロ・シリーズの25作目にあたる。
イギリス、エンタビーのゴシック風大邸宅に暮らす富豪リチャード・アバネシーが亡くなった。リチャードは68歳で急死した。息子が6か月前に亡くなり弟のゴードンは戦死した。リチャードにとっては弱り目に祟り目の状況であった。
葬儀の後、参列した親族は邸宅内のエンタビー・ホールで一堂に会した。
Photo_20220419085101葬儀を終えて
アガサ・クリスティー/加島祥造 
ハヤカワ文庫 
2003年 482頁

遺言執行を務める弁護士のエントウイッスルから、遺産の分配が伝えられる。遺産はリチャードの弟ティモシー、亡き弟の妻へレン、妹コーラ、甥ジョージ、姪スーザン、姪ロザムンドの6名に均等に分配されると告げられた。遺産のほとんどを手にすると思っていたティモシーは、目もくらむばかりに狼狽えた。その席上でコーラは首をかたむけて、「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」と言い放った。コーラは子供の頃から変わっていて、思ったことをなんでも口にするところがあったから、参列者はその発言をまともに取り合わず受け流したかのようだった。しかし参列者の心にしこりのようなものを残した。この言葉があとあとまで後を引くことになる。言い方を変えると、コーラのこの言葉によって物語が成り立っているのである。

翌日、コーラは自宅で寝ているところを襲われ、斧で後頭部をズタズタにされた惨殺体で発見される。家の窓ガラスが割られていた。亡くなる3週間前に、リチャードはコーラの自宅を訪れ、何事かを話していた。

エントウィッスルは書類を作成するため、遺産相続人たちを訪問し証言を集める。エントウィッスルの調べが進むうちに、遺産相続人たちはそれぞれ金に困っていて、誰もがリチャードを殺害する動機があることがわかった。

そんなおり、リチャードとコーラの話の内容を知っているとみられるコーラの家政婦の毒殺未遂事件が起こる。
そして真相を明らかにすべく、エントウィッスルは探偵エルキュール・ポアロに調査を依頼する。

リチャードはコーラに何を話し、その秘密を知られたくない者によってコーラは殺されたのか?
ストーリーは作者の仕掛けた巧妙なトリックに翻弄され、意外な結末に運ばれていく。
さすがクリスティである。星5。→人気ブログランキング
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葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2022年3月29日 (火)

匿名作家は二人もいらない アレキサンドラ・アンドリュース

本書は今年末のミステリ・ランキングで上位に入るのは間違いない。文句なしの大傑作だ。
原題は、「Who is Maud Dixon?(モード・ディクソンは誰?)」である。そのモード・ディクソンとは、アメリカで300万部のベストセラーとなった『ミシシッピ・フォックスロット』の匿名作家のペンネームだ。あらゆるメディアでモード・ディクソンは何者か?が取り沙汰されている。
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アレキサンドラ・アンドリュース/大谷瑠璃子 
早川文庫 
2022年 536頁

作家を志望する26歳のフローレンス・ダロウは、2年前にニューヨークの出版社に編集アシスタントとして入社した。フローレンスは母親から職を変えるようにせっつかれている。編集アシストなど辞めて不動産関係か銀行関係の仕事の就くようにと再三電話で言われている。母子家庭で育ったフローレンスは、フロリダ大学を優秀な成績で卒業し地元で勤めたが、小説家になることが諦めきれずにニューヨークに出てきて、編集アシスタントになった。

作家になるチャンスを掴もうと上司とベッドを共にするが、焦るあまりストーカー行為に走ってしまい、フローレンスは解雇され、上司およびその家族への接近禁止命令が裁判所から言い渡されたのだ。

職を失ったフローレンスに手を差し伸べたのは、別の出版社のグレタである。
グレタは、匿名作家モード・ディクソンのエージェントである。モード・ジャクソンのアシスタントにフローレンスを推薦したのだ。

フローレンスがハドソン駅に着くと、モード・ジャクソンがオンボロのレンジロヴァーで迎えにきていた。本名はヘレン・ウィルコックスと名乗った。ヘレンは32歳だという。そして、1848年築の古い家に連れて行かれた。

フローレンスの主な仕事は、メールの返事書き、手書き原稿のパソコンへの打ち込み、情報の下調べなどだった。
ヘレンは悪筆だった。どうしても読めない字をヘレンに訊ねると、自分で想像しなさいとヘレンは怒った。そして次第にフローレンスが下書きを勝手に書き換えてしまうようになった。
フローレンスはヘレンの描いている作品は魅力がないと感じた。ヘレンの文章を書き換えることで、ヘレンのアシシタントを超えて共同執筆者になったような気分になった。その書き換えた部分をヘレンは気づかないのか、なんの反応もないのだ。

そんな折、ヘレンは次の小説はモロッコが舞台だという。フローレンスがモロッコの下調べを始めると、突然、ヘレンはモロッコに2週間滞在するのでローレンスも一緒に来るようにという。
そして舞台は、ストーリーが二転三転するモロッコに移る。
上昇志向の強いフロレンスとサイコパス風の行動をとるヘレンの対決は見ものだ。

著者のアレキサンドラ・アンドリュースは、1985年生まれ。マンハッタンのアッパーイーストサイドの恵まれた環境で育った。子どもの頃からアガサ・クリスティなどが大好きだった。大学では比較文学を専攻し、卒業後はジャーナリスト、ファッションブランドのコピーライター、編集者として働いた。2014年に雑誌の編集者と結婚し、夫に同行してパリで生活していた2017年に小説を書きはじめた。現在は夫とふたりの子どもとともにブルックリンに在住し、次の作品を執筆中だという(解説からの抜粋による)。→人気ブログランキング
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