ミステリ

マイ・シスター、シリアルキラー オインカン・ブレイスウェイト

舞台はナイジェリアの首都ラゴス。
アヨオラはフェミをナイフで殺した。アヨオラから「殺しちゃった」との連絡が入り、姉のコルデがフェミのアパートに駆けつけた。コルデは看護師だから、殺人現場の証拠隠滅の知識と技術がある。部屋を消毒し終えたあと、姉妹はフェミの遺体を車で運び出し、橋の欄干から川に突き落とした。
3df2f8d8848740aa801a54f6ff6be741マイ・シスター、シリアルキラー
オインカン・ブレイスウェイト/粟飯原文子 
ハヤカワ・ミステリ 
2021年 198頁

姉妹は暴君のような父親とエキセントリックな母親のもとで育った。父親が一家に与えた数々の災難が明らかになっていく。これらはアヨオラに精神的なトラウマとなっていた。家族には父親という闇があった。
幼少の頃からコルデはアヨオラの面倒をみてきた。コルデは母親にアヨオラに災難が降りかからないようにフォローをするのが、お前の役目だと言われきた。アヨオラは肌の色が薄く美人なのでモテる。一方コルデは母親にそっくりで、体が大きくて色が濃く、美人ではない。
アヨオラは男を引きつける魅力を持った女性に育った。そして幾人もの男と付き合ってきた。

フェミは180cmもある大男で、激昂したからアヨオラは怖くなって、持っていたナイフで心臓を3回刺したという。実はアヨオラの殺人はフェミで3人目だ。
今回同様、これまで、コルデは母親の命令に従い殺人の証拠隠しをしてきた。

能天気なアヨオラがコルデの勤める病院にふらりと現れて、コルデがアヨオラをタデ医師に紹介する羽目になった。コルデはタデに密かに心を寄せている。アヨオラがタデに目をつけたことがコルデにとっては気になってしょうがない。二人がいい仲になって、その挙句アヨオラがタデを殺してしまうかもしれないという不安だ。
しかし、コルデの不安は現実のものとなり、タデはアヨオラにのめり込んでいく。
一方、警察が動き出す。

著者は1988年にナイジェリアのラゴスで生まれ、ロンドンに移住した。ロンドンとラゴスを行き来し、英国キングストン大学で法律と創作の学位を取得した。2012年にラゴスに戻り、出版社で編集の仕事に携わりながら短編小説を発表し高い評価を受けていた。
長編小説を書くかたわら自らの楽しみのために、気ままに本書を書いたという。そんな軽い気持ちで書いた本書は、スピード感があって魅力的である。
出版されるや瞬く間の世界が注目するところとになった。
2019年のロサンゼルス・タイムス文学賞、アンソニー賞最優秀新人賞、アマゾン・パブリッシング・リーダーズ賞を受賞、ブッカー賞の候補、女性小説賞の最終候補、全英図書賞(犯罪・スリラー部門)を受賞した。30言語での翻訳が予定されているという。→人気ブログランキング
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木曜殺人クラブ リチャード・オスマン

ユーモアが漂いちょっと人を食った感じの語り口は、R.D.ウィングフィールドのフロスト警部シリーズを彷彿とさせるが、フロスト警部シリーズがウリの下品なところはない。ユーモアは、イギリスのミステリの一つの特徴だという。
アガサ・クリスティの連作短篇『火曜クラブ』やアントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』で使われた、推理好きが集まって事件の謎解きを行うというパターンが使われている。
2a290b6e4cac4ac6afdef46722c21256木曜殺人クラブ
リチャード・オスマン/羽田詩津子 
早川書房 
2021年9月 494頁

木曜殺人クラブは、いまや寝たきりになった元警部のペニーとエリザベスがはじめた。当初は、警察の未解決事件のファイルをペニーが持ち出して、エリザベスと事件を推理した。
いまのクラブのメンバーは、エリザベスのほかに元看護師のジョイス、元労働運動家と元精神科医がいる。
ジョイスの手記がところどころで挟み込まれ、物語の進みを整える役割をしている。

彼らは高級リタイアメント・ビレッジのクーパーズ・チェイスで暮らしている。クーパーズ・チェイスには300人ほどがいて、その中心にはいまは使われていない女子修道院の建物がある。

高齢者が増え続け介護業は成長産業である。
そんなご時世を背景に、イアンと共同経営者のトニーは、古い家を買い取りリニューアルして売り大儲けしてきた。野心家のイアンはトニーをクビにして、改装費が安いボグダンにトニーの仕事を回そうとしている。そんなことすればトニーはイアンを殺すだろうと、ボクダンはいう。
ところが、イアンではなくてトニーが自宅で撲殺された。さらに衆目の前でイアンが毒殺された。

木曜殺人クラブの面々は事件に首を突っ込もうとする。
情報源をどうするのか。マーガレットとジョイスはハンドバッグが盗まれたと警察署にかけ込み、地区担当のドナ巡査から情報を得ようとする。ドナ巡査は高級老人住宅でしばしば講演している。まんまとうまくいって、エリザベスはドナ巡査とチャットで情報を交換する関係を築いた。
ドナ巡査はフロスト警部を彷彿とさせるどこかとぼけたクリス警部を巻き込み、警察がもつほとんどの情報が木曜殺人クラブに伝わるという仕組みが出来上がってしまう。

本書のテーマはあくまで殺人事件の犯人探しであるが、もう一つのテーマは老いだ。老人たちには波乱の過去がある。主要登場人物の過去が語られ物語は奥行きと広がりをみせる。

著者のリチャード・オスマンは1970年生まれ。英国のテレビ司会者・プロデューサー。本書は著者のはじめての作品で、全英図書賞の年間最優秀著者賞を受賞した。そのほか、エドガー賞最優秀長篇賞、国際スリラー作家協会最優秀長篇賞、バリー賞最優秀新人賞、アンソニー賞最優秀新人賞などにノミネートされ、高い評価を得ている。
日本では、『ミステリ読みたい!2022年度版』第3位、『週刊文春』ミステリーベスト10海外部門第4位など、上位にランクインしている。→人気ブログランキング
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自由研究には向かない殺人 ホリー・ジャクソン

著者はイギリス・バッキンガム出身の29歳の女性。子どものころから物語を描きはじめ、15歳で最初の小説を書き上げた。デヴュー作の本書は2019年に刊行され、英米でベストセラーになった。2020年のブリティッシュ・アワードのチルドレン・ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞。英国カーネギー賞の候補になった(カバーの著者紹介を改変)。
『このミステリがすごい』では2位、『週刊文春』ミステリーベスト10(海外部門)では2位と評価が高い。
カバーのイラストにはジャケ買いを誘う魅力がある。
B8405da49a054051bc971cc8076207cb自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン/服部京子訳 
創元推理文庫 
2021年8月
582頁

ピップ(あるいはピッパ)は頭脳明晰で快活な17歳の娘。夏休みが明けると、リトル・キルトン・グラマースクールの最終学年になる。ピップは夏休みの自由研究に、リトル・キルトンで起こった殺人事件を選んだ。
そのほかに、ケンブリッジ大学への願書の作成のために、マーガレット・アトウッドについての論文をまとめなくてはいけない。

その殺人事件とは、5年前にキルトン・グラマースクールに通う17歳の美貌のアンディが行方不明となり、その後アンディのボーイフレンドだったサルが自殺した事件である。
サルがアンディの携帯電話を持っていて、サルの爪にアンディの血痕が付着していた。彼女の車のダッシュボードにはサルの指紋が付いていた。サルが犯人と断定され事件に終止符が打たれた。
しかしアンディは行方不明のままだ。

ピップにはサルの無罪を証明しようとする理由がある。かつて義理の父親がナイジェリア人だということでいじめを受けたときに、1年上のサルが助けてくれたことがあった。それ以来、ピップにとってサルはヒーローだった。

ピップは自由研究という隠れ蓑を使って、事件を正面切って調べ直そうと考えた。サルの弟ラヴィが協力を申し出た。ラヴィも兄は犯人ではないと思っているが、殺人犯の弟があれこれ聞き回ろうとしても拒否されるだけだ。

サルの携帯電話からわかったことは、サルはアンディに何かやめて欲しいものがあったこと。それと、サルが「ぼくだ。ぼくがやった。すみません」と父親に送ったテキストは、誰か別の人間が打ったものだ。サルはピリオドを使わない。

ピップの身の危険を顧みない体当たりの捜査(取材と呼んだ方がいいかもしれない)で、アンディの過去の悪事が暴かれるにつれて、アンディが殺されてもしょうがなかったとピップは考えるようになる。

ネット社会を反映して、携帯電話やインターネット、SNSが物語の中心にある。
テーマはシリアスだが、17歳の快活な主人公の目を通して描かれているので暗くなく爽やかなところと、構成が緻密であるところが、本書の魅力だ。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良 松嶋智左

警察小説のカテゴリーで才能を発揮する松嶋智左の文庫書き下ろし最新作。文庫書き下ろしは、『女副署長』『女副署長 緊急配備』に続き3冊目である。
著者の略歴は、〈元警察官、女性白バイ隊員。退職後小説を書きはじめ、2005(平成17)年に北日本文学賞、2006年に織田作之助賞を受賞。2017年『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』で島田荘司選、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。〉(新潮社、著者プロフィールによる)
B5bdb98b6f684ed4806d1580b0e15974開署準備室 巡査長・野路明良 
松嶋智左
祥伝社文庫
2021年9月

関東のとある県の市町村合併に伴い、5階建ての警察署が新築された。開署式を4日後に控えた姫野署では、野路明良(のじあきら)たち開署準備室のメンバーが準備に追われている。

一方、近隣の山中で頭蓋骨に陥没骨折のある白骨死体が発見された。12年前に、現金輸送車が3人組の強盗に襲われ5億円が強奪される事件が起こった。犯人の河島葵・隼の姉弟は逮捕されたが、逃げたもう一人の共犯者は逮捕されていない。

野路は後輩が運転する車に同乗していて交通事故に遭い長く入院した。運転していた後輩は亡くなった。野路は卓絶なバイクテクニックにより、全国白バイ安全運転競技会の優勝者となり、警察官から英雄視されていた。その事故で野路は利き手の指がうまく利かなくなり、また後輩を死なせたという良心の呵責から、辞表を提出したが引き止められたのだった。そして、開署準備室に配属された。野路とともに準備室で働く山部礼美巡査は警察学校で優秀な成績を修めて卒業しているせいか、上下の関係に無沈着で生意気である。

白骨死体が発見された所轄の水戸署では本格的な捜査が始まる。白骨死体は河島姉弟の共犯者の男であることが判明した。
刑を終えた葵がまず出所しアパートに住みはじめた。やがて隼も出所し葵とアパートで暮らしはじめる。捜査班は、姉弟が5億円をどこかに隠していてそれを手に入れようとするに違いないと二人を監視している。

キャリア警視である宇都宮沙織が開署準備室長の任につき、準備室に配属された最年長の飯尾は現金強奪事件の捜査員だった。ここで、12年前の事件と開署が間近に迫った姫野署がつながる。
宇都宮警視が準備の進捗状況を視察に姫野署に現れ、野路や山部巡査は緊張のなか応対する。そんなおり、山部の夫が何者かに暴行を受け瀕死の重症で病院に運ばれる事件が起こる。
さらに、開署2日前になって、署内の調整中の監視カメラに人影のような怪しい像が映る。手分けして署内を捜査したが、異変は発見されなかった。
そして、いよいよ開署当日を向かえる。

警察署の人間関係や事件の捜査の様子を重層的に描き、見事な群像劇が展開されている。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

凍える牙 乃南アサ

著者は本書で直木賞(1996年7月)を受賞した。
今からおよそ30年前、当時はほとんどジェンダーについて意識が払われていない時代だった。警察署という圧倒的な男性優位の職場で、バツイチの女性が窮屈で不愉快な思いを強いられながら奮闘する姿が描かれている。
547fa4e2725d4f8baae87a9fa149ab5e凍える牙 女刑事 音道貴子
乃南アサ
新潮文庫
2000年

1月の冷える深夜に、ファミリーレストランで客が突然炎に包まれ亡くなった。火は1階から上に広がり、6階建てのビルを飲み込んだ。警視庁立川中央署の滝沢保は火災現場に覆面パトカーで向かった。ベルトのバックルから発火したとなれば、相当に手の込んだ他殺だ。死者1名、負傷者22名。

特別捜査本部が設置され、機捜隊に属する主人公の音道貴子は捜査班への編入を命じられた。捜査本部の規模は約100名という驚きの人数だ。それだけ、この事件を早く解決しようとする中枢幹部の思惑が伝わってくる。

美形の部類で背が高い貴子は、次のように思っている。〈女というだけで、好奇の眼差しを向けられたり、侮られたりすることに、いちいちめくじらを立てていては、とても刑事は務まらない。〉
貴子はずんぐりむっくりの中年男滝沢保とコンビを組まされた。相手は渡された名刺を受け取り一言「でかいな」と言ったきり、自己紹介もなく名刺も渡されなかった。せいぜい弱みを見せないようにするしかない。

死体は腹部が炭化していて気道にも熱傷があり、生前に焼かれたことは確かで、さらに右大腿と左足首に、比較的新しい咬傷があった。かなり大型の犬などに噛まれた跡だ。

滝沢は女とコンビを組んだことで、やりにくいったらありゃしねえと悪態をついた。滝沢は女を信じていない。滝沢なりのその理由は、第1に女は嘘をつく。感情が先走る。第2に女のデカは認めていない。男の仕事だ。第3にトイレひとつにしたって面倒臭い。第4は同僚たちがざわめいたこと。

そして若い男女が大型犬に咬み殺される事件が起こる。発火装置で殺された男と、大型犬に噛みつかれて殺された男女の関係が謎を解く鍵となる。捜査はその大型犬を探すことで、明かりが見えてくる。
終盤の貴子が操るバイクの走行シーンは本書の見どころだ。
1990年代のジェンダーに対する意識はこんなものだったなと思い出しながら、読み進んだ。→人気ブログランキング
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女副署長 緊急配備 松嶋智左

田添杏美(たぞえあずみ)は懲罰人事で、県北に位置する佐紋署に左遷された。海岸に面する佐紋町は県の中心から車で3時間のところにある。懲罰人事の引き金となったのは、第一作『女副署長』(新潮文庫 2020年)で起こった殺人事件である。杏実が副署長として赴任した日坂署の敷地内で、迫りくる台風のなか警部補が殺されたのだ。
本書は、殺人犯を捜査するミステリであるとともに、警察組織の内部で起こる人間関係の軋轢を描く群像劇でもある。狭い町のドメスティックな事件を扱っているが、前作に勝るとも劣らぬ傑作である。元警察官で白バイ隊員の勤務経験がある著者ならではの視点は斬新だ。
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松嶋智左 Matsushima Chisa  
新潮文庫 
2021年 368頁

佐紋署では、署長が怪我で入院したため杏美が署長代理を兼務することになった。急遽、警察署協議会が開かれ、そのあとの懇親会を官舎で開くという。警察署協議会には警察のトップと町の重鎮が名を連ねている。町の重鎮が警察の案件に何かと関わってくる土地柄なのだ。杏美は署の外で宴会をすることを主張した。

杏美の脇を固める登場人物はそれぞれが事情を抱えている。シングルマザーの木崎亜津子は、総合病院の堀尾院長から駐車違反の揉み消しを依頼され、仕方なく書類を偽造した。甲斐祥吾は認知症の父親を抱えているが、マスコミ対応で家に帰ることができない。
さらに、杏実の因縁の人物が佐紋町にいた。来年定年を迎える伴藤弘敏は、30年前、杏実と同じ交番に勤務していた。伴藤の怠慢により高齢女性が交通事故で亡くなった。正義感に溢れる杏実はそれを許すことができず、上司に報告した。逆恨みした伴藤は、杏実のありもしない異性関係の噂を流し、婚約破棄に至らせたのだ。それを機に伴藤は出世の道が遠のき、杏実は独身を貫き女性として異例の出世を遂げて副署長になった。伴藤は10年前に駐在勤務を願い出て、妻と子どもと共に佐紋町にやってきたのだ。

佐紋町は面積280平方キロ、人口2万弱、佐紋署員総数66名で所轄を見守るには限界がある。そんな佐紋町に立て続けに事件が起こる。

はじめは隣接署管内で起こったひったくり事件だった。緊急配備が発令されたが、バイクに乗って高齢者の荷物を奪った犯人は捕まっていない。
そして、標高200メートルの小牧山の納屋で女性の撲殺死体が発見される。さらに、怪しい人物を尾行していた警察官が頭部を殴られ重傷を負う。

そして、殺人事件の指揮を執るために県警から辣腕の刑事課長・花野司朗が乗り込んできたのだ。グリズリーのような迫力のある体躯と容姿の花野は、前作『女副署長』の殺人事件の捜査で、ことごとく杏実と対立した。
花野の指示は杏実の予想を超えるものであったが、それが気に入らない。ところが花野の打つ手は次々と当たり、事件の核心に近づいていくのだった。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

台北プライベートアイ 紀 蔚然

プライベートアイとは私立探偵のこと。
台北市に登場した新探偵を拍手をもって迎えたい。
司馬遼太郎の小説の一節や宮崎駿の『トトロ』の話が出てきたり、日本風のカフェが出てきたり、横溝正史や江戸川乱歩が引用されたりして、いたって親日的なのだ。
この小説のクライマックスは主人公と連続殺人犯とが闘うハードボイルドなシーンである。著者は先進国におけるシリアルキラー論に言及し、それと対比して台湾人論を展開している。本書は台湾の社会文化論の内容を含んでいる。
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紀 蔚然(き・うつぜん)/船山むつみ 
文藝春秋 
2021年 383 頁

50歳がらみの劇作家で大学教授の呉誠(ウー・チェン)は、妻に愛想をつかされ離婚し、大学を辞め演劇界とも縁を切り、マンションを売ってうらぶれた臥龍街に引っ越した。呉誠が退路を絶って私立探偵としてやっていこう決めた、そのきっかけとなったのが亀山島(グイシャンダオ)事件である。演劇関係者との宴会で、呉誠は酔いも手伝って仲間や後輩たちを次々に罵倒したのだ。呉誠の言葉は核心をついていたが、それは凄まじいものだった。その荒れた宴会を境に、呉誠は周りとの関係がギクシャクしだした。
呉誠は、大学に入った冬に眠れなくなり医師に薬を処方してもらい、それ以来パニック障害と戦っている

初めての依頼は林夫人からのものだった。3〜4週前からひとり娘が夫を無視しだしたという。まるで仇を見るような目で夫を見るという。その真相を明らかにするのが依頼の内容で、依頼料は3万円プラスタクシー代だ。夫の林氏は中央健康局台北支局総合サービスセンターで働いている会計監査課副課長、誇り高き公務員である。
第一の事件は尾行という探偵の初歩テクニックを駆使してなんとか片付けた。

実は呉誠が第一の依頼を捜査する間に、呉誠の家から20分の所で一人の男が死体となって発見されていた。その男を含む比較的年配の被害者3人が後頭部を鈍器で殴られ殺された。
呉誠がその連続殺人の容疑者として逮捕された。逮捕の理由は公園の防犯カメラに被害者たちと一緒に写っている画像があったからだ。
呉誠はテレビで活躍するやる気満々の弁護士、涂耀明(トォー・ヤオミン)を雇った。情報をリークした警察や、名誉を毀損する報道を行なったマスコミと真正面から闘う姿勢をとったのだ。→人気ブログランキング
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シカゴ・ブルース フレドリック・ブラウン

ミシガン湖が描かれ、シカゴのいくつもの通りやホテルやレストランやカフェが、あまた出てくる。シカゴのガイドのような本だ。
20歳の主人公エド・ハンターは、植字工の父ウォリーが勤める会社の見習いとして働いていた。エドの一人称単数の目で物語は語られる。
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フレドリック・ブラウン/高橋真由美
創元推理文庫 
2020年 332頁

エドが、楽器屋で中古のトロンボーンを買うかどうか迷っているところで夢から覚め、物語が始まる。昨夜、父は帰ってこなかった。2人の警察官が家にやってきて、父が殴られて道で倒れて死んでいたと母に告げた。昨日は給料日で財布に紙幣が入っていたはずだ。
エドは父の死を移動カーニバルにいるアンブローズおじさんに伝えた。

母のマッジは継母で、妹の14歳のガーディはエドと血が繋がっていない。
父が再婚したのはエドが8歳のときで、ガーディは4歳の鼻垂れだった。ガーディはエドをからかうチャンスを窺っている。だから自分の部屋のドアを全開にして、パジャマの上着を着ないで寝ている。

アンブローズはエドに、警察は事件をまともに捜査しないだろうから、ふたりで犯人を捕まえようと言った。また、マッジとガーディに気を許すなとも言った。
そこからふたりの地道な捜査が始まる。父が殺されたシカゴのフランクリン・ストリートの路地には、血痕とともに瓶の破片が散らばっていた。

検死審問は葬儀場で葬儀の前に行われた。40人くらいの人が集まった。
父が最後に立ち寄ったバーの店主カウフマンは、父が持ち帰りのビール4本を買って帰ったと言った。父がバーに来たとき、2人連れがバーにいて父と入れ違いに2人は出ていったという。カウフマンは知っていることを隠しているとアンブローズはにらんだ。
エドとアンブローズはカウフマンに執拗につきまとい、レイノルズというギャングが関わっていることを聞き出した。

アンブローズが語った父の過去は、エドが初めて聞く話ばかりだった。
新聞社を経営していたこと。メキシコを放浪したり、ブラックジャックのディーラーをやったり、決闘をしたり、スペインで闘牛士を夢みたり、見せ物の一座でジャグリングをしたり、演芸場の一員だったり、父は波乱の人生を歩んできたのだ。
アンブローズは父には自殺願望があったとエドに言った。

父が生命保険に入っていたことがわかり、そのことで母と妹が警察に連行された。保険金の受け取り人は母だった。父が殺されたとき母には、父の同僚に会っていたアリバイがあった。

以前、父はゲイリーという町で暮らしていて借金がかなりあったが、シカゴに出てくる前にすべてを支払った。大金を手にしたのだ。ゲイリーいるとき、ギャングのレイノルズの裁判の陪審人に選ばれたことがあった。そこに、謎を解く鍵があった。
エドはひとりでギャングのレイノルズと繋がりがある女性のアパートに乗り込み、物語は結末へと加速していく。

最後にエドは新品のトロンボーンを手にする。冒頭の中古のトローンボーンを買おうとした夢が現実になったのだ。

本書は殺人事件の謎を紐解くミステリであり、エドが少年から大人へと成長していく物語でもある。
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八百万の死にざま ローレンス・ブロック 

話の運びの上手さには脱帽するし、何しろ文章がうまい。登場人物たちが目に浮かぶように生き生き描かれ、心理描写も見事だ。タイトルの由来は、本書の発刊当時(1917年)、ニューヨークの人口がおよそ800万人だったことによる。
91bbcdaae3eb48b081842fd3fc544885八百万の死にざま
ローレンス・ブロック/田口俊樹
ハヤカワ文庫
1988年 503頁

アル中の主人公マット・スカダーは、娼婦のキム・ダッキネンからヒモと手を切りたいから、そのことをヒモに伝えてほしいと、1000ドルで依頼を受けた。マットは500ドルは成功報酬としてもらうと返した。なんという潔さだ。マットは自分の撃った弾が子どもを殺し、そのことがきっかけで警察を辞めアル中になり離婚した。

マットはヒモのチャンスという黒人に会おうとする。ヒモといってもチャンスは6人の娼婦を抱え、それぞれにアパートを与え上がりを上納させ、羽振りのいい暮らしをしている。チャンスに会いキムの話を伝えると、キムを拘束はしないし暴力は振るわない、ただキムに会って確かめるという。女が抜けても次々に新しい女が現れるから困らないという。
チャンスはキムに会い、抜けることを承諾したという。マットに興味を持ったようだとキムは言った。

ところが、数日後、キムはホテルで殺害された。惨殺事件の記事を読んでマットは怒り、そして飲んでしまった。発作を起こして救急病院に担ぎ込まれた。元妻のアニタに電話したことも、息子たちと話したことも、アル中自主治療協会の集会に行ったことも、記憶にない。

犯人はチャンスが雇った殺し屋なのか。チャンスは弁護士を伴って検察署に現れたという。キムの死亡推定時刻に、チャンスにはアリバイがあった。マットは、ミッドタウン・ノース署のダーキン刑事にチャンスのことを伝えた。
殺人犯はキムを全裸にしてナタで66箇所傷をつけたという。サイコの仕業ではないか。

チャンスはキムの殺人犯を調べるために、マットを雇いたいという。チャンスはキムが殺されたことで、商売が上がったりだという。
マットは2500ドルで仕事を引き受けた。マットはチャンスが抱えている5人の娼婦にあたってみる。娼婦の一人ずつに話を訊くが、マットはどんな些細なことも逃さない。

マットとダーキン刑事は酒場でニューヨークの犯罪事情について話している。「腐り切った、肥溜めのようなこの町に何があるかわかるか?〈8百万の死に様〉があるのさ」と刑事は言う。ニューヨークでは毎日多数の人が殺されている。

キムにはボーイフレンドがいて、キムに高価なプレゼントをしたと、マットは推理した。そんな折、別の殺人事件が起こり物語は真犯人に近づいていく。→人気ブログランキング
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探偵稼業はやめられない

雑誌『ジャーロ』に掲載された探偵ものの短編12編を集めたアンソロジー。男性探偵6、女性探偵6と気を遣っている。
難問に直面して、苦しんだりあっさり解決をしたり、さらに難しい事件が続発したり、お馴染みの探偵の行動は、とりあえず安心して読んでいられる。初めてお目にかかる探偵は、お手並み拝見というところ。いずれにしても、いい企画の短編集だ。
塩井浩平のカバーイラストもいい。
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光文社文庫 
2003年 471頁

「フォト・フィニッシュ」サラ・パレツキー(V・I・ウォーショースキー)
ミズ・ウォーショースキーが依頼されたのは、著者の得意分野である依頼人の親族に絡む事件だ。

「空の青(エアロ・アズール)」マイクル・コナリー(ハリー・ボッシュ)
全裸の若い女性の遺体が発見され、ハリー・ボッシュはFBIプロファイラーに協力を仰いだ。ボッシュが46人の容疑者から選んだ2人は、プロファイラーが選んだ2人と一致した。そしてシリアルキラーが逮捕される。ボッシュは死刑が執行される前に犯人に面会し、全裸で殺された少女の身元を聞くが答えない。その数日前にプロファイラーも犯人に面会していた。

「スカーレット・フィーバー」ジャング・レープ(ジェニー・ゴードン、C・J・ガン)
11月のテキサツ州オースチン。ジェニー・ゴードンとC・J・ガンのふたりの女性に依頼が舞い込む。祖父が遺した小さな農場をやっているビローは踊り子に一目惚れをした。10日前に姿を消した踊り子を探してくれという。

「噛み合わない視線」ジェレマイア・ヒーリイ(ジョン・フランシス・カディ)
ストーカーに悩まされている美女が依頼人だ。犯人は警察の人間かもしれないという。下着が送られてきて、そのあと大人のおもちゃが送られてきた。会社の同僚や浮浪者、こういう人たちに私立探偵を雇ったってことをわからせてほしいという。依頼人が襲われる事件が起こる。

「ほぼ完璧な殺人」キャロリン・G・ハート(ヘンリー・O)
ヘンリー・Oが新聞記者当時、辣腕のAP通信記者として一緒に事件を担当したシルヴィアから電話がかかってきた。夫のゴードンが来たからと電話が切れた。シルヴィアの豪邸に向けてレンタカーを走らせた。ところが家には誰もいなかった。そして翌朝、シルヴィアが崖から転落して死亡した新聞記事が載った。夫は一歩も外に出ていないという。シルヴィアの過去の著作が謎を解くヒントなる。

「動物病院の怪事件」 エドワード・D・ホック(サム・ホーソン)
無人の動物病院のケージに入っていた猫が首を絞められて殺された。ホーソン医師にクリスティー動物病院長から、真相を解き明かしてほしいと依頼がくる。

「温泉は飛行機で」マーシャ・マラー(シャロン・ マコーン)
カリフォルニア行きの飛行機にゴージャスな2人の女性が乗り込んできた。麻薬の運び屋ではないかとの証拠をつかむために、シャロンは一緒に飛行機に乗り込んだ。ふたりはシロだった。セスナ機からKFCのテイクアウトを入れた袋が出てきて、なかに麻薬が隠されていた。

「懺悔」ジョセフ・ハンセン(バック・ボハノン)
5年前に行方不明に女の骨が出てきて、40歳も年上の夫が逮捕された。ボハノンは捜査に走り回る。ボハノンが手に入れたのは殺された女のノート。絵心があった女が何人かの人物を描き、金銭の出納を書いていた。

「十一時のフィルム」S・J・ローザン(リディア・チン、ビル・スミス)
パトリシア・リンが殺されて犯人は逮捕されたが無罪になった。セックスの最中か後にリンは殺されたのだ。中国人好きのミッチと付き合っていた女が、ミッチはセックスがエスカレートすると暴力を振るうという。ビデオテープを撮っているはずだという。そのビデオを手に入れるためにハニートラップを仕掛けようとするが、相手は殺人犯だ。

「南部の労働者」ローレン・D・エスルマン(エイモス・ウォーカー)
妻の浮気の調査を依頼され、相手を突き止め逢瀬のモーテルを突き止めて依頼人に報告した。数日後、妻と浮気相手が同じモーテルでショットガンで射殺された。夫が捕まり自白する。
探偵ウォーカーは殺人はプロの仕事と目星をつけ、夫の自白を撤回させようとする。

「消えた死体」 ジャネット・イヴァノビッチ(ステファニー・プラム)
変態サミーが全裸で額を撃ち抜かれ地下室で死んでいた。ステェファニーとルーラは近くのセブンイレブンで警察に連絡して戻るとすでにパトカーが来ていて、死体がなくなっていた。死体は車に乗せられて悪臭を放っているところを発見された。真犯人を突き止めたが、家族に暴力を振るう町の厄介者の男を犯人に仕立るか、ステファニーたちは思案する。

「レッツ・ゲット・ロスト」ローレンス・ブロック(マカット・スカダー)
スカダーに女友達から、ポーカーをしていた5人のうち一人が亡くなったから、力になってほしいという。部屋を訪ねると4人の男がいた。遺体の胸には細身のナイフが刺さっていた。誰かが訪ねてきてフィルが出ると刺されたという。酢いも甘いも噛み分けたアル中探偵のスカダーの手腕が発揮される。→人気ブログランキング

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