ミステリ

『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー

猛暑に見舞われるオーストラリアの田舎町で起きたショットガンによる一家心中事件と、20年前に起こった少女の自殺の真相が解明される。小細工のないストーリー展開に引き込まれる。卓絶な筆力に拍手を送りたい。
2017年、ゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会賞)受賞作。

メルボルンから500キロ離れた田舎町のキエワラは100年に一度の干ばつに襲われている。住民たちはほとんど限界に達している。
主人公のアーロン ・フォークはメルボルンの財務情報局に所属する連邦警察官である。幼馴染のルークがショットガンで一家心中したと報じられる。
ルークの父親から、葬式の出席を促す手紙がアーロンに届く。そこには「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた。葬式で会おう」と書かれていた。この言葉は物語の最後まで、とれないトゲのようにアーロンを苦しめる。


渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ文庫)

渇きと偽り
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ジェイン・ハーパー/青木創
ハヤカワ・ミステリ文庫
2018年 ✳10

20年前、同じ高校に通うアーロンとルーク、エリーとグレッチェンは行動を共にする間柄だった。ある日、エリーが川の底に沈んで死んでいるのが発見された。アーロンとルークは警察の事情聴取に、兎撃ちをして一緒にいたと口裏を合わせた。アーロンは川の下流で釣りをしていたのだ。
町を暴力で支配するエリーの父親マル・ディーゴンは、父子家庭のアーロンと父親に嫌がらせを繰り返した。アーロンと父親は町に居づらくなりメルボルンに引っ越さざるを得なかった。

20年ぶりに、葬式でアーロンはグレッチェンに会い、町の近況を教えてもらう。葬式が終わったらすぐに帰るつもりだったが、ルークの死に疑問を抱く。
アーロンはレイコー巡査部長とともに非公式な操作をはじめ、住民から情報を得ようとする。
しかし、町の嫌われ者・アルと甥グラウト・ダウの嫌がらせが執拗に繰り返されるが、アーロンは引き下がらない。

灼熱地獄が続くなか、アーロンたちに対し住民がいつ牙を向くかもしれないと、グレッチェンは警告する。それほど、キエワラの町は飽和点に達しているのだ。
そんななか、アーロンはふとしたことから、ルーク事件の真犯人が思い浮かぶ。

『エレベーター』ジェイソン・レイノルズ

エレベーターが地上に着くまでの短い間の物語。
横書きで、行間が大きく空いて、文章が短く、1頁に書かれている文字が極端に少ない。
左揃えだったり右揃えだったり、文字の大きさを変えたり、ゴチックを使ったり、自由自在だ。それぞれのページの背景に異なる図柄が使われている。
短編のミステリであり、詩である。
アメリカ探偵作家クラブ賞(YA部門)、ロサンジェルスタイムス文学賞(YA部門)、ニューベリー賞銀賞など多数を受賞した。


エレベーター

エレベーター

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ジェイソン・レナルズ /青木千鶴

早川書房 2019年8月 

売り上げランキング: 22,082

15歳の弟フィルは、「愛する誰かが殺されたなら、殺したやつを見つけだし、かならずそいつを殺さなければならない」という掟に従わなければならない、と信じている。

ショーンの幼馴染のリッグスがショーンを撃ったと思う。
少し前にリッグスは、ダーク・サンズの縄張りに引っ越した。リッグスはそのギャング団に入りたがっていた。
ダーク・サンズの縄張りは、フィルのアパートから9ブロック離れたところにある。アトピーの母さんが使っている石けんを売っている店はちょうどその辺りにある。ショーンはその店に向かった。

フィルは、兄の仇を討ちに兄の拳銃をズボンの後ろに差し込んで、拳銃が隠れるように大きめのシャツを着て、勇んで8階のエレベーターに乗る。
弾が入っているかも確かめなかったし、拳銃を撃ったこともない。
エレベーターが止まるたびに、会えるはずのない人物たちが乗り込んできて、タバコが煙る密室で、過去が語られ、拳銃を持っている理由を問われ、目的を問われ、ハグされたりヘッドロックをかけられたり、拳銃の撃ち方を教わったり、仇討ちを止めろといわれたり、撃ち殺してこいといわれたりする。
フィルは地上に着く頃にはひどくビクつくようになる。

『ポップ1280』ジム・トンプソン

2001年度、『このミステリーがすごい!』1位に輝く作品の新装版。
人口(POP)がたった1280人の町、ポッツヴィルの保安官ニック・コーリーの独白でストーリーは進む。ニックは著しい心配性だと自分で語っていて、口うるさく性悪女の妻マイラとそのうすばかな弟レニーと暮らしている。ニックは自称モテる男で、愛人のローズとも元婚約者のエイミーとも付き合っている。
はじめ、ニックは能無しの保安官の印象だが、そのうちにずる賢く権謀術数に長けていることがわかってくる。
巻末には、トンプスンの評価のきっかけとなった、ジェフリー・オブライエンの『安物雑貨店のドストエフスキー』というタイトルの論文が掲載されている。


ポップ1280(新装版) (海外文庫)

ポップ1280
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ジム・トンプスン/三好基好
扶桑社ミステリー 2019年8月 ✳9
売り上げランキング: 109,663

とりあえず、ニックの心配事は町の売春宿に巣食うふたりのヒモだ。それと差し迫った保安官選挙には当選しなければ元も子もない。

ニックは、ポッツヴィルを出て郡庁所在地に向かう。保安官事務所で保安官と助手に会い、淫売宿のふたりのヒモについて相談する。
ポッツヴィルには売春婦が6人いて、その子たちは愛嬌があっていい子なんだが、ふたりのヒモが生意気な口を利き、いつ騒動を起こすかわからない。なんとか事が起きないように手を打ちたいと相談する。
相手に2倍返しをするのだと教えられる。
ニックは、その気になって、ふたりのヒモの腹を銃で撃ち、それまでの自分に対する無礼を顧みればしかたがないと考える。

検事に、相手候補に悪い噂があり町の連中なら誰でも知っているが、それを教えるわけにはいかないささやく。すると悪い噂が次々に生まれ、町中に広まる。検事の妻が誰かに話したのだ。その話が次々に悪い噂を生んで、ついに相手候補は極悪人とまでの噂になった。

その後はニックは愛人の夫を殺し、その罪を黒人になすりつける。対立候補を衆人の前で下卑た噂の釈明を求めて、完膚なきまでに評判を落とさせる。
保安官としての、仕事らしい仕事はしないで、聖書を都合よく解釈し、弱きをいじめ強きに逆らわず、邪魔者は策を弄して殺すことも厭わない。

そんな悪行が周りの人間の知るところになり、口が達者なニックは、あれこれ独善的な理屈を述べるが、もはや辻褄が合わなくなる。
闇の中に加速度を増して沈み込んでいく暗黒小説だ。読み終わるまで手放すことができない、そんな不思議な吸引力をもつ作品だ。

『三体』劉 慈錦

文化大革命では、知的な能力をもつ者は辺鄙な土地に送られ、理不尽な生活を強いられた。辛酸を舐めさせられた人物の復讐心が、人類の存亡に関わる事態を招くことになる。壮大なスケールで描く文句なしの大傑作である。

文化大革命の混乱のなか、高名な理論物理学者が年端もいかない紅衛兵から吊るし上げられている場面から始まる。しかも糾弾するのは思想転向させられた自らも物理学者である妻だ。紅衛兵の暴力により物理学者は死亡し、大学生の娘・葉文潔が残された。

2年後、文潔は内モンゴル地区の巨大な森林の建設兵団に入れられ、開墾事業に従事させられていた。そこで殺虫剤が自然を汚染し生態系を破壊することを書いた告発の書、レイチェル・カールソンの『沈黙の春』を読み、文潔は科学技術の進歩に懐疑的な考えを持つようになった。
文潔はレーダー峰の紅岸プロジェクトに加わる。プロジェクトの目的は地球外知的生命との交信であった。


三体
三体

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劉 慈欣
/大森望・吉光さくら・ワン・チャイ 訳
立原透耶 監修
早川書房 2019年7月 ✳︎10
売り上げランキング: 76

場面は40年後の現代に飛ぶ。もうひとりの主人公、ナノマテリアル開発者 の汪淼(おう・ぴょう)が参加した会議には、アメリカとイギリスの軍人とCIAのふたりも混じっていた。リストにある物理科学者たちはこの2ヶ月のうちに立て続けに自殺している。
敵の企みの根底にあるのは、〈科学技術革命は人類社会の一種の病変であり、技術の爆発的発達は癌細胞の急速な拡散と同じく、宿主の体の栄養を枯渇させ臓器を蝕み、ついには宿主を死亡させる〉。つまり科学技術の発展を阻止することが敵の目的なのだ。

汪淼は『三体』のコンピュータ・ゲームに、Vスーツを着て没頭するようになる。そのゲームの舞台は三つの太陽がある三体世界で、文明は滅亡と復興を繰り返す。このゲームは三体協会がプロデュースしたものだった。

汪淼は事の真相を探るべく、癌に侵された葉文潔に会いに行く。
40年前に紅岸プロジェクトに従事していた文潔は三体世界の存在を知り、滅亡と復興を繰り返す文明と、他の恒星系に移住しようとする彼らの計画について知った。文潔は上層部に極秘で、「私たちの文明は、もう自分で自分の問題を解決できない、だからあなたたちの力に介入してもらう必要がある」と送信したのだ。
文潔がプロジェクトに従事している間に、4光年離れた恒星からの返信はなかった。

文潔は父親を殺した紅衛兵に会うことで、宇宙の彼方からより高度な文明を、人類世界に招き入れることに揺るぎない自信をもった。そして文潔は地球三体運動の総司令官を引き受けた。
文潔の考えに心酔したエヴァンスは、父親の膨大な遺産を相続し、紅岸基地と同クラスの高度な通信機器を備えたタンカー船を造った。ところが傍受した三体世界からのメッセージを極秘にして暴走しだすのだった。

『カリ・モーラ』トマス・ハリス

舞台は移民に厳しい政策をとるトランプ政権下のアメリカ。
マイアミ・ビーチにコロンビアの元麻薬王の大邸宅が建っている。邸宅は遊び人や不動産の投機家たちが代わる代わるオーナーになり、秘密のパーティや映画撮影などの小道具がいまやガラクタとなって残されている。邸宅に3千万ドルの金塊が眠っているという情報をつかんだ悪党どもが跋扈する。


カリ・モーラ (新潮文庫)

カリ・モーラ
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トマス・ハリス/高見 浩
新潮文庫
2019年8月 ✳︎10
売り上げランキング: 3,101

カリの志望は獣医になること。 アメリカのハイスクール終了資格を取り、在宅介護の資格も取っている。医大の予科に通っていて、色々な仕事をしていて、いまは小動物保護センターの治療室の管理を任されている。なにしろトランプ政権だから、いつTPS(一次的滞在許可)を取り消されるやもしれないと移民たちは戦々恐々としている。

カリがコロンビアで反政府左翼ゲリラに拉致されたのは11歳のときだ。少女兵として訓練を受け16歳のときに、カリを暴行しようとした司令官の後頭部をライフルで撃ち抜き、部隊から脱走したのだ。
カリには俊敏な身のこなしやナイフや銃の使い方が身についている。

まずは、映画の撮影との触れ込みでハンス・ペーター・シュナイダーが手下をともなって、邸宅に乗り込んでくる。全身無毛のハンスは世界中に顧客を持つ臓器密売商で、金塊を手にした後に、カリを拉致して顧客に売りとばそうと企んでいる。なにしろ、ハンスは冷凍庫に両親を4日間閉じ込めカチカチに凍った塊を金槌で叩き割ったという経験がある。

一方、コロンビアで「十の鐘」泥棒学校を経営する犯罪組織を仕切るドン・エルストーネは、手下をつかってハンスを出し抜こうとする。

金塊の秘密の情報源は、コロンビアのバランキージャの病院に入院し、酸素マスクをつけて横たわっているヘスス・ビジャレアルだ。ヘススは情報を小出しにして両陣営から金を取ろうとしている。ヘススには悪徳弁護士のディエゴ・リーバがついていて、おこぼれをせしめようと、動き回っている。

邸宅内のハンスたちは床をくり抜いて、ドン・エルストーネたちは海から邸宅の地下に到達して、巨大な金庫を持ち出そうとするが、頑丈な金庫には爆破装置が仕掛けられていて、むやみに衝撃を加えたり開けたりすると邸宅ごと吹っ飛んでしまう。
さて、金塊は誰の手に渡るのか、またカリの運命やいかに。

本作は、ハリスの一連の作品『ブラック・サンデー』『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル・レクター』博士・シリーズ の重くのしかかるようなストーリーとは、趣がまったく異なる。
カリが飼っているオウムや、マイアミに生息する鳥たちにページを割いていて、それが心和む雰囲気を醸し出している。
著者は、南国を舞台とするエルモア・レナードの作品を彷彿とさせる、新機軸を開拓した。

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ

上巻には、世界各国でベストセラーになった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第9作目という設定で、作中ミステリの『カササギ殺人事件』が描かれている。

1955年、英国のサンクスビー・オン・エイヴォン村で、パイ屋敷の家政婦ブラキストン夫人が亡くなった。掃除機のコードが足に絡まり階段から落下し、首の骨を折った。警察は事故死と断定したが、住民たちは納得していない。
それは住民同士のしがらみが、住民たちに事故死ではなく殺人事件のはずだと確信させるからだ。
ブラキストン夫人が亡くなってから2週間後、パイ屋敷の持ち主サー・マグナスが飾り物の甲冑の剣で首を切断され殺された。

アティカス・ピュントは65歳、手術不能の脳腫瘍をわずらっている。ピュントの捜査により、村中の誰もが犯人でもありうる暗い過去が明らかにされる。


カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

アンソニー・ホロヴィッツ
/山田蘭
売り上げランキング: 3,767

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

創元推理文庫
2018年 ✳︎10
売り上げランキング: 3,876

下巻は、時制が現在となり、アティカス・ピュント・シリーズの担当編集者のスーザン・ライランドの視線で描かれる。
スーザンは、『カササギ殺人事件』の原稿を手にするが、最終の2〜3章が抜き取られていた。実際に本書の上巻は、事件は解決せず中途半端なままになっている。
冒頭で、スーザンが、まとめの形でマグナス殺害の犯人を推論する。各人物の犯人としてのとしての可能性をあげつらう。
そこで、「よーし、下巻を読むぞ」と俄然モチベーションが上がるのだ。

作者のアラン・コンウェイが自筆の遺書を残して、自宅の塔から飛び降り自殺をする。
自殺するはずがないアランがなぜ遺書を残したのか。スーザンの犯人探しが始まる。
そしてスーザンは、最終作とされる『カササギ殺人事件』を書くアランの真の目的を知ることになる。

作中ミステリの犯人探しと、アラン殺しの犯人探しという、フーダニットが別のフーダニットを包み込むダブル・フーダニットの設定で話は進んでいく。ふたつのストーリーは、絡み合いながら見事に整理され、齟齬はもちろんなく強引さもない。さらに最終の2〜3章が消えた理由はなんなのか。
本書が、数々の賞に輝き、大傑作と評価されていることに納得させられた。星10。

著者のアンソニー・ホロヴィッツは、シャーロック・ホームズ財団公認を受け、ホームズ・シリーズの長編作品『モリアティー』と『絹の家』を執筆している。さらに、イアン・フレミング財団にも公認され、『007 逆襲のトリガー』を書いている。
テレビの脚本も数多く手がける英国エンターテーメント界の至宝である。

007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年

『IQ2』ジョー・イデ

ジャケ買いしそうなくらい、表紙カバーのイラストの紫とピンクが魅力的だ。

前作『IQ』では、主人公アイゼイア・クィンタベイ(IQ)の聡明さと肉体の強靭さが強調されたが、本作では、ケガを負ったり叶わぬ恋に苦悩したりする。

さらに、ギャング達の生い立ちや、脇役達の背景や、事件解決のクライマックスに時期を同じくする相棒ドットソンの妻の出産が語られ、ストーリーに厚みを感じさせる

舞台は、黒人とヒスパニック系とアジア系が入り乱れて覇権争いを繰り広げているロサンゼルスの暗黒街。

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
IQ2
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ジョー・イデ/熊谷千寿
ハヤカワ文庫 2019年6月 ✳10
売り上げランキング: 7,564

8年前に、交通事故を装って殺された兄マーカスの元恋人サリタが現れて、異母妹ジャニーンのギャンブル依存をどうにかして欲しいと、アイゼイアに依頼する。サリタに淡い恋心を抱いていたアイゼイアは、相棒ドットソンと行動を開始する。
アイゼイアの解決しなければならないことは、ジャニーンをギャンブル依存から脱却させること、兄マーカスの死の真相を突き止めること。ふたつの事柄には繋がりはないが、アイゼイアの頭の中ではつながっている。

サリタとジャニーンの父親ケン・ヴァンは、中国系マフィア〈三合会〉の〈14K〉の下で働いている。サリタは黒人とヒスパニックの売春婦との間にできた子供だったが、聡明さと美貌を備えていた。サリタは優秀な成績でカリフォルニア大学を卒業し、スタンフォード大学ロースクールの奨学金を勝ち取った。その後ケンブリッジに留学し、今では弁護士として活躍している。
一方、ジャニーンに対してケンは良かれと思うことをすべて与えた。それがDJのベニーと付き合うようようになり、ベニーのギャンブル好きでふたりには借金まみれになっている。

高利貸しのレオには町中に密告屋がいる。密告者は借りている金の期限を伸ばしてもらうために仲間を売るのだ。レオの手下バルサザーは2メートルを超える巨漢。レオとバルサザーはベニーをゴミ収集所に連れて行って突き落とした。その後も返済しないベニーを追い回す。

ジャニーンは父親の携帯にUSBメモリーをつなぎ情報を盗んだ。その情報からジャニーンは父親が関わる〈三合会〉が人身売買や麻薬、誘拐など、ありとあらゆる悪事に手を染めていることを知ってしまう。
USBをベニーが持ち出し、中国人マフィア〈三号会〉を脅迫して金を得ようとするするつもりなのだ。
トミーはケンから情報が漏れたことに腹を立てケンを監禁し、そこに捕まったベニーが放り込まれる。

USBは追っ手からバイクで逃げるベニーを救おうと、追跡したアイゼイアの手に入る。USBと交換にケンとベニーの釈放を持ち出すが、トミーは応じず、魔の手はサリタにも及ぼうとする。

マーカスを轢いたのはメキシコ系ギャングであることを突き止めた。そして、マーカスのバックパックに、なぜ3千ドルの現金と16gのヘロインが入っていたのかの謎が解けるとき、殺害を命令した人物が明らかになる。

IQ2/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2019年
IQ/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2018年

『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』

モンタナの山中で若い女性生物学者が殺された。近くで調査を行っていたセオ・クレイ教授に容疑をかけられ警察に連行されるが、女性を襲ったのは熊と断定され、教授は放免される。殺された女性はセオのかつての教え子・ジェニパーだった。

生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンドリュー・メイン/唐木田みゆき
ハヤカワ・ミステリ文庫 2019年4月 ✳8

生物学的なあるいは生化学的なコメントをそこかしこに挟みながら、一人称で述懐するスタイルでストーリーは進む。

ジェニパーの傷の状態から死因に疑惑を抱いたセオは、独自のルートでゲノム検査を行ったところ、ジェニパーを襲った熊はすでに死んでいた。熊の仕業に見せかけた殺人事件であると警察に告げると、まったく取り合ってもらえない。
こうしてセオの孤立無援の捜査が始まる。

セオは生物学者であると同時にコンピュータのプログラマーである。セオが開発したMAATは、無関係なデータの集まり・カオスから、事件を解決する鍵を提供してくれるAIなのだ。手がかりが希薄にもかかわらず、MAATを頼りに仮説を立てていく。
熊に襲われて事故死した若い女性は過去10年で6人いた。一連の事件はシリアルキラーによる犯行ではないかとセオは疑いだす。
セオは、人づきあいがあまり得意でない生活スキルに難がある人物という設定だが、ダイナーの美人ウェートレス・ジリアンの協力を得て、犯人を絞り込んでいく。

犯人の尻尾を掴みかけたもつかの間、セオに自らが犯人として警察に出頭しなければ、セオと親しくしている人間を次々に殺すと脅迫されるに至る。相手は常人の域を超えた凶悪犯であった。
満身創痍になりながら、犯人との壮絶な闘いが展開される。

著者アンドリュー・メインの経歴が特異だ。10代の頃よりサーカス付きのイルージュニスト・マジシャンとして活躍している。
警察署に連行されたセオの目の前に、事件現場の写真29枚が広げられ、その中の6枚をセオが選ぶと、なんで選んだのだと刑事が驚いていう。同じ事件の写真だった。この場面はカードマジックを彷彿させる。
本作は「セオ・クレイ」シリーズの第1作目で、すでに3作まで刊行しているという。

『赤い衝動』サンドラ・ブラウン

ニューヨーク・タイムズ ベストセラー リスト第1位を獲得している。
25年前、ダラスのペガサスホテルが爆破され多くの死傷者が出た。フランクリン・トラッパー少佐は瓦礫の中を逃げ惑う生存者を安全な場所に導いた。少佐がひとりの少女を助け出す場面の写真は、世界中の人びとが一度は目にしている。その少女はケーラ・ベイリーだった。
その後、何年ものあいだ、少佐は英雄として祭り上げられ繰り返しマスコミに登場した。
一方、事件で両親を亡くしたケーラは叔父と叔母に引き取られ、マスコミと一切接触することがなかった。

赤い衝動 (集英社文庫)
赤い衝動
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サンドラ・ブラウン/林 啓恵
集英社文庫 2018年 ✳8
売り上げランキング: 205,347

時の人となった少佐と幼かった息子のジョンとの間にわだかまりができた。
そして、ATF(アルコール・タバコ・火器爆発物取締局)の敏腕捜査官になったジョンがATFを辞めたことで、3年まえから少佐とは断絶状態になっている。ジョンは爆発事件には黒幕がいると睨んで独自の捜査を続けたが、それがATFに居づらくなった原因だった。

ローカルテレビ局の人気レポーターとなったケーラは、少佐へのインタヴュ―を取り付けた。少佐へのインタヴューは、事件後25周年のセンセーショナルな番組になるはずだった。少佐の家でのインタヴュー中に、少佐とケーラは強盗に襲撃される。
少佐は銃で撃たれ重傷を負い死線をさまよい、ケーラは窓から脱出してかろうじて助かった。
いったい何が起こったのか? 表向きは決着がついている爆破事件の真相が語られることを恐れた者の犯行だった。

190センチの偉丈夫のジョン・トラッパーはぶっきらぼうで行動は直線的、暴力を振るうことも厭わない。初めはその強引さを嫌っていたケーラだが、襲撃事件と爆破事件の真相を白日のもとに晒すという目的で行動を共にするようになる。やがて、ふたりは官能の世界に浸る関係になる。
ジョンは事件の真相を掌握していた。少佐がテレビに出ることになり、生放送でしかもインタヴューアーがケーラだと知って、黒幕は被害妄想に近い恐れを抱いたのだ。どうやって黒幕を表に引っ張り出しに犯行を認めさせるかだ。
なお、解説によると、原題の“Seeing Red”は「激怒する、かっとなる」という意味で、雄牛が闘牛士の赤いマントを見て暴れ出すことからきた言葉だという。ジョンの性格や激しい性描写を暗示しているのだろう。

『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン

見知らぬ女に男が妻殺しを相談するという、現実にはありそうにない設定で話がはじまるが、すんなり受け入れられるのは、著者の巧みな構成力と卓絶した筆力によるのだろう。大胆な展開と予想だにしない結末が待っている。本書はすべての章が登場人物たちのモノローグの形をとっている。映画化の話が進んでいるという。

テッドはヒースロー空港のバーでジントニックを飲みながら、ボストン行きの飛行機の出発を待っている。そこに面識のない女・リリーが声をかけてくる。
テッドはインターネット関連会社に投資し成功した実業家だ。
酔いも手伝ってか、結婚して3年になること、ボストンに住んでいること、メイン州の海辺の土地を買い新居を建てていること、建築現場で妻のミランダと建築業者ブラッドとの不倫を目撃したことを打ちあけた。

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)
そしてミランダを殺す
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ピーター・スワンソン/務台夏子
創元推理文庫
2018年2月 10✳︎

 

 

ミランダは他人を利用し、自分のルックスを頼りに生き、もらえるものをもらって満足している浅薄な女。この先、生きていても何人もの男を不幸に陥れる人生を送る。人間はいずれ死ぬのだから、殺しても何も問題がないというのが、リリーの強引な論理。

テッドはリリーに同調し、ミランダは殺さなければならないモンスターだと思うようになる。こうして奇妙な共犯関係が成立する。なぜ妻の殺害に手を貸すのかとのテッドの疑問に、リリーは全てが終わってから、話すと約束するのだった。テッドはミランダに好意を寄せ、リリーもテッドとの関係を好ましく感じている。

ストーリーが進むにつれて、殺人に痛痒すら感じないリリー、自らの欲望のために男を食い物にするミランダ、そのふたりに振り回される哀れなテッドとブラッドという構図が見えてくる。リリーとミランダは、最近話題となっているサイコパスという人格障害だろう。

同じ場面を時間を巻き戻して、別の人物の視点から語るという手法を使っている。この手法により、読者は登場人物のひとりの目では理解しがたい事象の核心部分を表と裏から見ることができるのである。→人気ブログランキング

サイコパス/中野信子/文春新書/2016年

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