思想・哲学

『リバタリアニズム』渡辺靖

リバタリアニズムとは、個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的、社会的、経済的に自由を求める思想。政府の介入を極力排除し、自由と市場主義を徹底する。

自由至上主義や自由尊重主義と訳され、日本ではリバタリアンは「保守の一部」とみなされがちだが、湾岸戦争やイラク戦争には反対した。人工中絶や同性婚については国家が口を挟むべきことではないとする。
さらにレイシズムや(人種差別)ナショナリズムは個人を矮小化するとして否定し、マイノリティやLGBTへの差別に反対する。しかし、リバタリアニズムが裕福な白人男性の思想だというイメージは、人種差別に結びつきやすいことも事実であるとする。

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)
渡辺 靖
中公新書
2019年1月 ✳︎9
売り上げランキング: 3,672

著者は、アメリカのリバタリアニズムの学生サークル、理論的支柱である学者やシンクタンクやリバタリアンの集会で取材を行っている。
リバタリアニズムといっても多種多様で、政府を必要としないとするアナキズムに近い考えや、果ては政府によるベーシックインカムの支給を支持する考えもある。
きわどいところでは、自己所有権の見地から、成人間の合意に基づく身体売買、売春や自己奴隷契約、臓器売買などを容認する傾向にある。

ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、アメリカの独立こそは、社会のルールをめぐる権威づけを、王や宗教でなく、個人の契約に委ねることに成功した近代史上、唯一の事例としている。
君主や貴族による統治(保守主義)も、巨大な政府権力による統治(社会主義)もともに否定するのがアメリカの特徴である。ヨーロッパでは、保守主義、自由主義、社会主義という三すくみの対立軸によって政治空間が織りなされているが、アメリカでは保守もリベラルも自由主義を前提としている。
ピルグリムファーザーによるアメリカ建国の考え方が、リバタリアンに繋がるとする。
リバタリアンはアメリカだからこそ生まれた考え方だ。

政治的には、共和党と民主党の間にリバタリアン党が存在するが、リバタリアン党は大統領選挙のたびに得票率を伸ばしている。
リバタリアンから見たら、保護貿易主義をふりかざし、人種差別を助長する言動などをくり返すトランプ大統領はお話にならないが、アメリカ軍の派兵に反対の立場をとるトランプの方針はリバタリアンに受け入れられている。

中国にもリバタリアニズムを研究するグループが存在するが、日本にはまだないようだという。リバタリアニズムは保守や革新にとらわれない新しい政治思想である。
この考えがGAFAの暴走を許したのは間違いないだろう。

『ハンナ・アーレント』

哲学者ハンナ・アーレントの半生を描いた伝記映画である。
映画の冒頭、「ドイツ系ユダヤ人ハンナ・アーレントは、ハイデガーに師事、哲学を学ぶ。1933年ナチスの迫害を逃れて亡命先で夫ハインリヒと出会い、その後アメリカへ。物語は1960年ナチス戦犯アイヒマンが潜伏先で捕らえられたところから始まる。―」
とテロップが流れる。

ハンナ・アーレント [DVD]
Hannah Arendt
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ/パメラ・カッツ
音楽:アンドレ・マーゲンターラー
ドイツ ルクセンブルグ フランス  2012年  114分 ★★★★★

ハンナ(バルバラ・スコヴァ)は、全体主義を産んだ政治思想を研究する著名な哲学者であった。
彼女は『ニューヨーカー』誌から、エルサレムで開かれるアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、記事を書く仕事の依頼を引き受ける。
記事の執筆者として彼女ほどの適任者はいないだろう。
書いた分から雑誌に載せたいという出版社の申し出に対し、彼女は全部書き上げてからと断っている。ハンナにすれば、苦悩の末に書き上げる記事はセンセーショナルなものになると承知していて、世間の雑音に惑わされることなく、書き上げたかったのだろう。
そして1963年に、『イエルサレムのアイヒマンー悪の陳腐さについての報告』を発表する。

その内容は、まさに世界を揺るがすセンセーショナルなものであった。
まずイエルサレムの地方裁判所で行われ、アイヒマンを絞首刑と判決した裁判に正統性があるのかと問う。アイヒマンはただ上からの命令を伝達しただけであり、思考不能であったとした。凡庸な悪と根源的な悪とは異なるとし、アイヒマンは凡庸な悪に過ぎない。またユダヤ人の中には指導的な人物がいたとしている。そうでなければ600万人もの人間が殺されるはずがないとした。

ハンナはナチスの大量殺人行為を哲学的に理論づけたのである。それはモラルでは割り切れないものであった。
彼女には、恥知らず、アイヒマンと同等、傲慢、死者の魂を踏みにじる、民族の裏切り者といった、批判が浴びせられた。さらに、古くからの友人が離れていき、大学から辞職勧告されたが、批判する人は彼女のどこが間違っているのかを指摘できていないと、引き下がらなかった。
ハンナの同調者もいた。それは、最愛の夫や友人の作家メアリー、そしてハンナの講義に熱心に耳を傾けた学生たちであった。

彼女は思考することで人間は強くなれるという信念を持つに至った。
思考することは、彼女が哲学の道を歩み始めたときに、ハイデガーが繰り返し語ったことだった。皮肉にも、当時ハンナと不倫関係にあったハイデガーは、やがてナチ党員となりヒトラー総督を褒め称える演説を行っている。→ブログランキングへ

『思考の整理学』 外山滋比古

思考の整理学 (ちくま文庫)
外山 滋比古(Toyama Shigehiko
筑摩書房
1986年4月24日
ISBN 4-480-02047-0
⭐⭐⭐⭐⭐

購入したばかりの本書は増版に増版を重ね、なんと77刷、ロングセラーだ。
「東大・京大で3年連続!文庫ランキング1位」と帯に書いている。
ということは、他の学校でもそのくらいの売行きなのだろう。
本書を読んだ学生は、
「この本は、考え方の整理するのに参考になる。読んだ方がいいよ」などと同級生や後輩に手当たりしだいに紹介したと思う。
「混み入ったことは書いていないし、各項目が適度の長さで文章はわかりやすいし、実行性のあることが書いている。
なるほどと頷かせる箇所がそこら中にあって、どちらかというと薄くて、すぐに読めてしまう」
などとも紹介したものだから、どんどん読者が増えていって、ロングセーラーになった。

帯には「"もっと若い時に読んでいれば・・・" そう思わずにいられませんでした。(書店店員)」とも書かれている。
つくづく同感。

本書は、知ることよりも考えることに重点をおいている。
つまり、「グライダー」ではなくて、自ら動き回れる「飛行機」であれだ。
情報社会の現実はそうもいかないから、グライダー兼飛行機のような人になるにはどう心掛ければよいかが披露されている。

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