ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ A・J・フィン
PTSD(外傷後ストレス症候群)による引きこもりの女性精神科医が謎を解くという未聞の設定のサイコミステリ。
主人公のアナ・フォックスは38歳の小児心理学を専門にする精神分析医。自らがパニック症候をときどき起こす広場恐怖症を抱えている。要するに引きこもりだ。
ニューヨークの高級住宅地に4階建て地下1階の豪邸に住んでいる。パンチという猫が同居していて、とんでもなくハンサムな若い男デヴィットが地下室を間借りしている。
主治医が処方する抗鬱剤やβブロカーや精神安定剤をしこたま内服し、メルローの赤をがぶ飲みする。自宅の窓からニコンのカメラで、近所の住人の様子を監視する自称"スパイごっこ"の毎日を送っている。
夫は娘を連れて1年ほど前に新居に移っていった。PTSDを患った理由を含め、その辺りの事情はおいおい語られる。なにしろ文章が上手い。
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上 A.J. フィン/ 池田真紀子 早川書房 |
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 下 2018年 |
望遠カメラで周りの家を窓越しに観察しているうちに、公園の向こうの家で起こった傷害事件を目撃する。
まるでヒッチコックの『裏窓』である。アナは古いモノクロ映画のファンで、ことにヒッチコックは大のお気に入り。本書はヒッチコックへのオマージュ作品だ。メルローを飲みながら薬を服用し、テレビでDVD映画を観るものだから、現実と映画のシーンがこんがらがってしまうことがしばしばある。もちろんワインで薬を流し込むのは、主治医から固く禁じられているが、そんなことはお構いなしだ。古い映画のタイトルやシーンが次々に出てきて、著者の映画のうんちくは相当なものだ。
アナは「アゴラ」というチャットルームにログインする。アゴラは広場恐怖症のアゴラフォビアからとったもの。そこには精神的な病を抱えた人々が集まっていて、アナのアドバイスは好評なのだ。
週1回は通いの理学療法士に体のメインテナンスをしてもらい、さらにフランス語のレッスンも受けているが、外にはほぼ1年間出ていない。
アナは目撃した傷害事件を解決しようとあれこれ推理し、ついには行動を起こす。ところが、家の隣の公園で傘を持って倒れているところを発見され病院に運ばれたり、バスローブ姿でカフェに現れ客と悶着を起こしたりして、その度に警察沙汰になってしまう。
精神病を患っているアル中で、近所の家を望遠カメラで観察している気味の悪い女というのがアナについての近所の評判だ。一人暮らしの寂しさに負けて狂言で殺人事件をでっち上げ、警察に通報したのではと警官に言われ、アナは憤慨する。
周りや警察の見方が正しいのではないかと一度は思ったりもしたが、誓ってもいい、事件が起こったことは事実なのだと、自分に言い聞かせる。
ところで、表紙カバーに著者の紹介文が載っていないので変だなと思った。
巻末の解説によると、その理由は、著者は現役の出版責任者であるため本名を隠し、ペンネームは性差による先入観を避けるため中性的なイメージの名前にしたという。
また、エイミー・アダムス主演で、2019年秋公開を目指して映画制作が進められているという。→人気ブログランキング