科学

2020年5月 7日 (木)

学校に入り込むニセ科学 左巻健男

教える内容が真実であるべき学校にニセ科学など入り込む余地があるのか?と思って本書を開いた。宗教団体が絡んでいて敵は巧妙である。代表的なものは「水からの伝言」と「EM菌」だという。
Photo_20200507082201学校に入り込むニセ科学

左巻健男(Samaki Takeo
平凡社新書
2019年

「水からの伝言」とは、一部の教職員グループにより学校に持ち込まれたニセ科学。
「ありがとう」と「ばかやろう」と書いた紙を、水の入った容器に貼って凍らせると、「ありがとう」と書いた紙が貼られた氷は綺麗な結晶になるが、「ばかやろう」の方の結晶は汚いという、なんともわかりやすいもの。冷却温度によって氷の結晶の形が異なるが、書かれた文字が氷の形に影響を及ぼしたと説明する。これは手品のテクニックだ。

コンポストという箱の中に野菜くずや残飯を入れておくと、「EM(Effective Microorganisms)菌」が分解して良質の肥料になるという。EM菌は、琉球大学教授の比嘉照夫が推奨するもの。もともと「世界救世教」という宗教団体が関係した微生物資材(農業用)である。世界救世教は、国内に100万人の信者をもち、手かざしの儀式、自然農法を推奨、芸術活動を行うことを特徴とする宗教団体。

EM菌で作った肥料によって土が改良され、作物がよく育つとされたが、調べてみると他の肥料に比べて効果が弱い結果も出た。
北朝鮮がEM菌を導入し、比嘉は北朝鮮をしばしば訪れて指導していた。比嘉は「北朝鮮は21世紀には食料輸出国になる」と宣言していたが、北朝鮮はEMの使用をやめてしまった。
かつて、EM菌をネットで調べたが、すっきりした回答が得られなかったことを思い出す。現在もコンポストとともにEM菌培養液が、アイリスオーヤマが販売している。さらに、地方自治体で推奨しているところもある。
EX菌は乳酸菌や酵母などの複合体らしいが、詳細は明らかにされていない。

TOSS(Teachers' Organization of Skill Sharing 教育技術法則化運動) は、教師が自分の教え方の力量をあげ、より良い教育をし、立派な子どもたちを育てることを目標にした団体ということになっている。TOSSは「水からの伝言」を抜きにして語れないという。また、EM菌も推奨している。このようなところから、授業のノウハウを得ている小中学校の教師がいるのである。なんだか背筋が寒くなる。

ニセ科学は、科学を装い、科学っぽい雰囲気を出しているが科学ではないものを指す。ニセ科学は科学への信頼を利用してだます。→人気ブログランキング

学校に入り込むニセ科学/左巻健男/平凡社新書/2019年
給食の歴史/藤原 辰史/岩波新書/2018年

2018年9月28日 (金)

ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ

前作『サピエンス全史』は、人類の過去を歴史学のみならず政治学、生物学、心理学、哲学などの横断的な幅広い知見に基づいて書かれ、世界的ベストセラーとなった。その続編ともいうべき本書は人類の未来を予測したもの。その手法は、前作同様、話題が多方面に展開され、まるでスケールの大きなエンターテイメント小説を読んでいるかのようだ。
飢饉と疫病と戦争は、もはや人類にとって対処が可能な課題になったという。人類に降りかかる災難の多くは政治の不手際がもたらしている。人類は困難を克服しつつあり、テクノロジーをよりどころに、次のステップに進もうとしているという。ちなみに、「ホモ」とは人間、「サピエンス」は賢い人、「デウス」は神の意味である。
Image_20201124091801ホモ・デウス 上:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
2018年
Image_20201124091901ホモ・デウス 下:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
柴田裕之 訳

まずは、アルゴリズムについて。
〈アルゴリズムとは、計算し、問題を解決し、決定に至るために利用できる、一連の秩序だったステップのことをいう。アルゴリズムは特定の計算ではなく、計算をするときに従う方法だ。〉
すべての事象は、人間も含めて、アルゴリズムで成り立っているという。つまりデジタル化できて計算式で表しうるということだろう。

人類は不死と至福と神性を手に入れようとするとしている。サピエンスのアップグレードは、次のように進んでいくとする。
〈じつは、無数の平凡な行動を通して、それはすでにたった今も起こりつつある。毎日、膨大な数の人が、スマートフォンに自分の人生をより前より少しだけ多く制御することを許したり、新しくてより有効な抗うつ薬を試したりしている。人間は健康と幸福と力を追求しながら、自らの機能をまず一つ、次にもう一つ、さらにもう一つという具合に徐々に変えていき、ついにはもう人間ではなくなってしまうだろう。 〉

魂などというものは突き詰めていけば存在しない。宗教は人間が都合で考え出したもので、聖典を書きそれを多種多用に解釈した。人間至上主義は、神や宗教は人間がこの世を作り出したものだから、神を冒涜するなどと気遣う必要はないと考えるという。不老不死の手段があれば、セレブたちはあらゆる犠牲わ払って、間違いなく手を出すだろうという。

ポストヒューマンとは、ごく一部のセレブ達だけの話であり、神のように振る舞う一握りの人間のことだ。これらの超人たちは、前代未聞の能力と空前の創造性を享受する。彼らはその能力と創造性のおかげで、世の中の最も重要な決定の多くを下し続けることができる。彼らは社会を支配するという。

残念ながら、庶民は超人たちに支配される劣等カーストとなる。AIたちが人間を押しのけてほとんどすべてのことをやってしまうから、劣等カーストに属する人たちには仕事がない。その余剰の人たちはどうやって生きてゆくのか。
ゲームでもやって時間を潰すことになるかもしれないというのだが、そうもいかないだろう。→人気ブログランキング

ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ  河出書房新社 2018年
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 2016年
『ポストヒューマンSF傑作選 スティーヴ・フィーバー』山岸真編  ハヤカワ文庫 2010年

2016年6月 7日 (火)

あなたの人生の科学 デイヴィッド・ブルックス

白人の上流家庭に育ったハロルドと、うつ気味の中国系の母親と家に寄りつかないメキシコ系の父親の家庭で育ったエリカの一生をたどりながら、主に人間の意思決定の仕組みを解き明かしていく。著者は、脳科学、社会学、心理学、医学、生物学、遺伝学、政治学、経済学、ギリシャおよびドイツ哲学、小説、戯曲、映画などについての旺盛な知識に基づいて解説を加えていく。

Image_20201204102601あなたの人生の科学(上)
デイヴィッド・ブルックス
夏目 大 訳
ハヤカワNF文庫
2015年
Image_20201204102701あなたの人生の科学(下)

ジャン・ジャック・ルソーの教育学の名著『エミール』の手法を真似たという。ルソーはエミールと家庭教師のやりとりを通じて幸福とはいかなるものかを論じた。
本書の最大の目的は、人間が幸福になるうえで無意識がいかに重要な役割を果たすかを論じることだという。著者は、日常生活における私たちの行動を支配しているのは意識ではなく無意識であると、無意識の重要さを強調している。
上巻では、ハロルドとエリカが登場する前に、それぞれの両親の出会い、結婚、子育て、そして家庭環境が語られる。

大学を卒業しコンサルタント会社に入社したエリカは、頭脳明晰であっても目の前の問題にうまく対処できない同僚の男たちに愛想をつかす。エリカは一念発起してコンサルタント会社を起業し、大学院を卒業して職に就ていなかったハロルドに出会う。
ここで下巻にバトンタッチされる。

エリカはハロルドをパートナーとして雇い、やがてふたりは恋に落ち結婚する。会社の経営は順風満帆にみえたが、不況によりあえなく倒産してしまう。エリカはケーブルテレビ会社へ就職し、ハロルドは博物館に勤める。エリカが勤めた会社はM&Aを繰り返し大きくなるが、拡大しすぎて経営危機に陥る。エリカはその会社のCEOに就任し、会社を立て直す。
やがて、エリカはマイノリティ出身の優秀な人材を探していた大統領候補の陣営からスタッフとして請われ、選挙運動に加わる。候補の当選後、エリカはホワイトハウスに入り、次席補佐官や商務長官の公職で目覚しい働きをし、ダボス会議にも出席する。
一方、ハロルドはエリカのおかげでホワイトハウスのシンクタンクで働くことになる。ワシントンDCに来てハロルドが気づいたのは、社会学や心理学の最新の研究成果が、政治の世界にはほとんどといっていいほど取り入れられていないことである。
ハロルドはシンクタンクが発行する専門誌にエッセイを連載する。テーマはテロの脅威、軍事戦略、エイズ問題、アメリカの住宅問題など多岐にわたる。ハロルドの目を通じて、著者の理想の社会づくりが語られる。

ハロルドは仕事に忙殺され家を空けるエリカとのあいだに距離を感じるようになり、アルコール依存症になる。エリカは魔がさして不倫に走るが、この危機をふたりはどうにかやり過ごす。ここで著者はエリカの行動を心理学的に分析し、道徳と無意識について触れる。ある行動が道徳にかなうか否かは、直感により反射的に判断されることが多いと説く。

ふたりは引退し、ヨーロッパの名所旧跡を尋ね歩くツアーを企画して、ハロルドがガイドを務める会社を起こす。やがて、それからもふたりは引退し、著者の都合により波乱万丈の人生を送らされる羽目になったエリカは、ハロルドの最期に立ちあうのである。

本書は、早いころに熟読していれば、人生が少し違ったものになっていたかもしれないと思わせる処世の手引書である。→人気ブログランキング

2016年3月 4日 (金)

目の見えない人は世界をどう見ているのか 伊藤亜紗

見えない人は、耳の働かせ方、足腰の能力、さらに言葉の定義などが、見える人と異なる。これを4本脚の椅子と3本脚の椅子の座り方の違いで説明している。3本脚の椅子に座るにはコツがいるし、考え方を変えなければならない。
Image_20201206083901目の見えない人は世界をどう見ているのか
伊藤 亜紗
光文社新書
2015年

ドイツの生物学者であり哲学者であるヤーコブ・フォン・ユクスキュル(1864〜1944)は、1930年代に「環世界」という概念を提示した。生き物は、意味を構成する主体であり、この主体は周りの物事に意味を与えて、それによって自分の世界を構成している。この自分にとっての世界が「環世界」であるとした。
生き物は、自分にとってまたそのときどきの状況にとって必要なものから作り上げた、一種のイリュージョンの中に生きているという。つまり、そのときどきの自分の固有の空間にいるということだろう。
著者は「環世界」こそが、見えない人が捉えている世界であるとする。

見える人が見えない人にとる態度には、情報ベースと意味ベースがある。
情報ベースとは福祉のこと。見えない人はどうやったら見える人と同じように生活してゆくことができるかに、関心が集中しがちである。
意味ベースとは、見える人と見えない人が対等で、差異を面白がる関係である。
見えない人の行動を凄いという評価ではなく面白いと評価することで、お互いが対等に語り合えるという。

たとえば、見えない人の部屋は片付いている。理由は簡単、物がなくなると探すに大変だ。使ったものは必ず元の場所に戻す。頭の中のイメージに合うように物理的空間をアレンジしている。

見えない人には視点というものがないので、視点に縛られることない。見える人には視点があるから必ず死角がある。

見えない世界でサーチライトの役目をするのは足。「さぐる」「支える」「進む」というマルチな役割をしている。見えない人の体とは、サーチ能力と平衡感覚を日々鍛えている体である。説得力のある説明である。
ブラインド・サーフィン、合気道、ブライン・ドサッカーの具体的な事柄を説明する。

著者がこうした分野に興味をもったのは、専攻した「美学」によるという。「美学」は芸術や感性的な認識について哲学的に探求する、言葉にしにくいものを言葉で解明する学問である。本書では、言葉にしくい事柄をわかりやく説明している。→人気ブログランキング

2015年10月 1日 (木)

元素生活 寄藤文平

日常生活では、存在を思い浮かることが皆無に近い元素について、固苦しい化学の発想にとらわれず、脱力系のイラストで楽しんでください、そして、暮らしを元素の目線に合わせて見ると、別の世界がありますよというのが、本書の要旨。
Image_20201206164001元素生活
寄藤文平(Yorihuji Bunpei
化学同人 文庫版 
2015年

「水兵リーベ・・・」の元素周期表は、縦にグループになるように配列されている。
グループは「族」と呼ばれ、「族」の構成メンバーを髪型、髭、衣服で序列つけている。
「族」が暴走族を連想させるので、イラストにヤンキーぽいキャラクターがいて、情けない裸やブリーフ姿やふんどし姿の下っ端に見える元素もいる。
元素の特徴を捕まえた説得力のあるイラストなので、ニンマリしているうちに、この時点でとりあえずの111個の元素たちが、頭に入ってくるかもしれないという寸法。

あとがきによると、日本のほか8カ国で外国語版が発売されているとのこと。
この本を世界の人たちに紹介したい気持ちに納得。
2009年発刊の単行本の文庫化。→人気ブログランキング

2014年5月 6日 (火)

言葉の誕生を科学する 小川洋子× 岡ノ谷一夫

小説家・小川洋子と脳科学者・岡ノ谷一夫との言葉の起源に関する幅広い視点からの対話集である。
岡ノ谷は言葉の起源に「前適応説」を採用している。
「前適応説」とは、たとえば鳥の羽はもともとは飛ぶことではなく、暖かいことが適応的であったと考えられている。ところが、羽が十分に生えてきて飛ぶという機能が新たに生まれてきたというもの。
言葉も同じように、言葉とは関係のない、ほかの機能のために進化してきたいくつかが組み合わさることで、新しい機能として言葉が生まれてきたとしている。
Photo_20220513143401言葉の誕生を科学する
小川洋子(Ogawa Yoko) × 岡ノ谷一夫(Okanoya Kazuo)
河出文庫
2013年11月

人間の言葉は生殖行為を前提として生まれたとする。
つまり異性を誘うときにいろいろな歌をうたった。たくさんの音を上手に組み合わせるヤツが異性から人気があった。狩のときに歌うヤツの周りに友達が大勢集まってきた。食事のときとかいろんな状況で歌をうたう。歌をお互いに学びあい共通する部分ができてきて、歌の一部が具体的なものを示すようになり、単語のような働きを持つようになり、単語の出てくる順番みたいなものつまり文法が生まれてくる。これが岡ノ谷が提唱する「歌起源説」である。

学会の多勢が信奉しているのは「単語起源説」である。しかし単語を組み合わせ文法がどうやって生まれてくるのかが説明されていないと、岡ノ谷は「単語起源説」の欠点を指摘する。その点、「歌起源説」は歌をうたっているうちに単語も文法も出てくるという説で、説得力があると主張する。

人間以外に言葉を操作することを学ぶ動物は鳥とクジラであるという。
オウムや九官鳥は教えれば言葉や文章をしゃべる。
その理由は、小鳥たちは基本的に人間と同じ耳のフィルターを持っていて、われわれの協和音は彼らにとっても協和音だという。鳥のさえずりが、一般に人間に心地が良いのは美意識が共有できているからで、それは耳がほぼ同じ仕組みだからだという。

このほか、「ミラーニューロン」、「フェルミのパラドックス」、眼輪筋が情動の中枢から制御を受けているゆえに「目は口ほどに物をいう」、外国語を習得しづらい理由などが語られる。→人気ブログランキング
にほんブログ村

2014年3月30日 (日)

二重らせん ジェームス・D・ワトソン

<本書は、フランシス・クリックと共にDNAの二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソンが書いた。1953年に論文を科学雑誌『ネーチャー』に投稿するまでの数年間が、スピード感のある少し興奮気味の文章で綴られている。論文の発表当時、ワトソンは弱冠25歳、週末にはパーティで女の子を物色するような年頃だった。
1962年に、ワトソンとクリックはDNAのX線写真を解析したモーリス・ウィルキンズとともにノーベル生理学医学賞を受賞している。
Image_20201206162101二重らせん
ジェームス・D・ワトソン(江上不二夫/中村桂子訳)
講談社文庫
1986年

このDNAの二重らせん構造の発見にはデータの剽窃疑惑があり、その観点から本書を読むのも一興である。
疑惑とはワトソンとクリックがDNAの構造解明に、ウィルキンズの同僚であったロザリンド・フランクリンが撮影したDNA結晶のX線写真を正当でない手段で手に入れたことである。彼女が撮った鮮明なX線写真はDNAの構造を解明するには不可欠であった。
ワトソンが書くロザリンドは、かなり癖のある女性で、ウィルキンズとの関係はうまくいっていなかったという。ワトソンに対しては攻撃的で暴力をふるおうとしたこともあったと書いているが、果たしてそうだったのか。彼女は1958年に37歳の若さで亡くなっている。

ワトソンとクリックには剽窃疑惑の他にも批判される点があったと思う。
彼らはコツコツ実験を積み重ねたわけではない。ワトソンはヘモグロビンのX線写真を撮るために馬の血液を採取し凍結させる作業をしたことがあったが、失敗に終わってしまい、X線を撮る作業ができなくなった。そのことについて、無駄な実験をしなくて済んで、失敗して良かったと不埒なことを書いている。
彼はDNAの構造解明に役立ちそうな研究をしている研究者のところに顔を出し、おしゃべりをして情報を集めていた。
一方、クリックは大声で一日中でもしゃべっているような人物であると書かれている。クリックはアイディアを他の研究者に盗用されたと大騒ぎし、主任教授との仲が険悪になったこともあった。
ふたりは分子模型を業者に作らせて、ああでもないこうでもないとやって、あるときワトソンがひらめいたのが二重らせん構造だった。このキリギリス的な研究姿勢にライバルたちは反感を抱いたのではないだろうか。

本書は1968年に発刊された。草稿の段階でクリックをはじめ、ワトソンが席をおいた研究室の教授であったローレンス・ブラッグ卿、ウィルキンズ、DNAの構造の研究で先陣争いを繰り広げた物理化学者の大御所ポーリング・ライナスたちが、事実と異なるとして書き直しを求めたという。特に共同研究者のクリックは書かれた内容に対し怒りをあらわにしたという。
また、ウィルキンズとともにDNA結晶のX線写真の研究をしていたロザリンドについては、この時すでに他界していたが、記述に悪意が感じられ事実と異なるとの指摘がされた。
ワトソンは幾分修正を加えたものの、ロザリンドに関する箇所は書き換えることなくそのまま出版したという。
本書が発刊された後、本書の登場人物や伝記作家らが剽窃疑惑に言及した書籍を出版している。→人気ブログランキング

『ダークレディと呼ばれて 二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実』ブレンダ・マドックス(鹿田昌美訳/福岡伸一監訳)化学同人 2005年
『二重らせん第三の男』モーリス・ウィルキンズ(長野敬/丸山敬訳)岩波書店 2005年
『DNAに魂はあるか―驚異の仮説』フランシス・クリック(中原英臣訳) 1995年

生物と無生物のあいだ』福岡伸一 講談社現代新書 2007年

2012年5月16日 (水)

スノーボール・アース  生命大進化をもたらした全地球凍結

こんなに刺激的でワクワクさせる科学ノンフィクションには、そうお目にかかれない。
地球が誕生したのは46億年前、生物が生まれたのが35億年前、先カンブリア時代は地球が生まれてからの40億年間である。
地球の歴史の90%を占めるこの時代に、何の変化も起こらなかったとされる。
つまり、生命の進化の歴史にとって暗黒の時代である。
藻類やアメーバーのような単細胞生物が進化することなく地球上に生存していた。
カンブリア紀に入ると、多細胞生物が爆発的に出現して、凄まじい速度で進化が始まった。
なぜ、前カンブリア時代には進化が起こらなかったのか。そして、カンブリア紀になって爆発的進化が起こったのはなぜか。
__20210312141301スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結
ガブリエル ウォーカー
川上紳一 監修  渡会圭子 訳
早川ノンフィクション文庫
2011年

この謎を解く鍵は、先カンブリア時代に潜んでいるのではないかと、本書の主人公ポール・ホフマンは考えた。
その鍵とは、ポールが提唱する「スノーボールアース説(全地球凍結仮説)」である。
前カンブリア時代は地球が氷で覆われていた時代がかなり長くあったという説である。
最近あった何回かの短い氷河期のことではない。

本書は、スノーボールアース説を信念をもって提唱し続けるポールとその先駆者たち、そして同時代のこの仮説に反対の立場をとる人たち、あるいは賛同する人たちのノンフィクションドラマである。いずれも強い個性の持ち主ばかりだ。

スノーボールアース説は、主に「ドロップストーン」「炭酸塩石」「石に含まれる磁性物質」についての研究に基づいて構築されている。
ドロップストーンは氷河にえぐり取られた石であり、前カンブリア時代のドロップストーンが赤道付近で発見されている。
炭酸塩石は温かい海で作られる。炭酸塩石の層のあいだにアイスロックがあれば、その地層はある時期に氷に覆われていたことになる。
石は生まれた場所に固有の地球の磁場の特性を帯びているので、磁性を調べればその石の素姓がわかる。
先カンブリア時代の終わりに磁性の強い鉄鉱石が世界中に見られる。この原因は氷、海が凍っていれば空気から遮断される。そのあいだに海底火山から鉄分が海に溶け出し、氷が溶けて海水が空気に触れれば、一気にさびて鉄鉱石の層が生まれる。

巨大隕石の衝突による恐竜滅亡説も大陸移動説(プレートテクトニクス)も、はじめは馬鹿げたものだと思われていたが、今や受け入れられているように、スノーボールアース説もやがて受け入れられるだろうと著者はいう。→人気ブログランキング

2024年6月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ