戦争

2020年3月22日 (日)

革命と戦争のクラシック音楽 片山杜秀

クラシック音楽と戦争が強く結びついていることを、近代ヨーロッパ史の中で明らかにする。一見無関係のような戦争と芸術であるが、芸術は政変や戦争を描写し、時に兵士を鼓舞してきた。音楽はあらゆる芸術の中で特に戦争や暴力との関わりが深いという。
1756年のモーツアルト誕生から100年余りの間、激動のヨーロッパで作曲されたクラシックの楽曲と、戦争に代表される政治的な事件との関わりを考察している。
Photo_20200322083301 革命と戦争のクラシック音楽
片山杜秀(Katayama Morihide
NHK出版新書
2019年

マリア・テレジアは息子のヨーセフ2世を軍人として育てた。ヨーセフ2世が好んだのは閲兵式、軍隊行進、軍事パレードである。7年戦争の始まる年(1756年)に生まれたモーツアルトは、ハプスブルグ帝国の音楽家である。
『フィガロの結婚』(1786年)には、少年ケルビーノの軍隊入りを揶揄するような軍歌調のアリアがある。

ヨーゼフ2世は墺土戦争(オーストリアとオスマン帝国、1787年〜91年)を始める。
1783年、モーツアルトは『トルコ行進曲』を作曲した。本物のトルコ軍楽の行進曲は、『ジェッディン・デデン』という曲が有名。この曲は向田邦子のテレビドラマの『阿修羅のごとく』のタイトル・ミュジックとして使われた。
オスマン帝国のやかましい軍楽隊に負けないためにヨーロッパやロシアの音楽はどんどん音量が増えた。このことは、西洋クラシック音楽の一つの核心であると著者は主張している。

フランス国歌『ラ・マルセイエーズ』は、南フランスから駆けつけた義勇兵が歌っていた軍歌であり行進歌である。『ラ・マルセイエーズ』を歌うことで、結束し鼓舞され、フランス国民軍はプロイセン軍を退けた(1792年)。
ディッタースドルフの交響曲『バスティーユ襲撃』(1790年代)では、『ラ・マルセイエーズ』のフレーズを引用している。

戦争と革命の時代を総まとめするのはハイドンの弟子であるベートーヴェン(1770年〜1827年)である。音楽家が王家や貴族や教会のお抱えであった。それが崩れたのがフランス革命(1789年)である。その次の世代はフリーランスに近い生き方が強いられていく。
1799年、ピアノソナタ第8番ハ短調『悲愴(パテティック)』は、ナポレオンがクーデターを起こした年に作曲された。ベートーヴェンは、貴族的な訳知りの喜びや悲しみではなく、フランス革命からの新時代にふさわしい、市民、民衆、群衆にまで、ダイレクトに伝わる喜びや悲しみを探求した作曲家であるとする。

チャイコフスキーの『大序曲"1812年"』(1880年)は、ナポレオン戦争(1803〜1815年)におけるナポレオン軍のロシアからの敗退を弦楽器の響きで描写した作品。トルストイの大河小説『戦争と平和』の10年後に生まれている。
『大序曲』の祖曲となったのは、ベートーヴェンの『戦争交響曲(ウェリントンの勝利)』(1813年)である。『ウェリントンの勝利』こそベートヴェンに成功をもたらした。『ウェリントンの勝利』も『大序曲』も、断末魔状態のナポレオンを描いている。
ショスタコーヴィチの交響曲7番『レニングラード』(1941年)が直接戦争につながる音楽として最も有名。ナチスドイツがレニングラード包囲した長期戦に題材をとった。

『ラ・マルエイエーズ』も『歓喜の歌』も、みんなで連帯することで外敵や裏切り者をやっつけようとする戦争の歌であると本書は結ばれる。→人気ブログランキング

2019年7月26日 (金)

スウィングしなけりゃ意味がない 佐藤亜紀

ナチに支配されるドイツのハンブルグを舞台に、スウィング・ボーイたちの生き様を描く。ナチ政権下のドイツを説明調ではなく内側から描く筆の力は見事だ。
スイング・ボーイズは、ナチスに退廃音楽と烙印を押されたジャズにのめり込んでいるだけだ。アメリカ文化にかぶれているから、エディとかニッキーとかデュークなどと呼び合っている。ジャズを聴き、カフェで踊り狂い、酒を飲むという不良行為を繰り返す裕福な若者たちが主人公である。
Image_20201204112701スウィングしなけりゃ意味がない
佐藤 亜紀
角川文庫 2019年

語り部の15歳のエディは軍需工場の経営者の息子で、父親はナチのバッジを付けている。
エディの友人マックスはピアノが滅茶苦茶上手くて、ユダヤ人との混血の祖母がいる。ある晩、マックスはバンドが休憩タイムに入ったときに、ドビュッシーを弾いてスウィングさせた。誰もが踊らないくらいすごい演奏だった。
クーは、父親がエディの親父の会社で働いていて、ナチス・ユーゲント(青少年団)に属しているナチのスパイだ。スウィングが無性に好きでパーティがあると出かけ、ユーゲントでの地位を確保するためにゲシュタポに通報して点数稼ぎをするのだ。

ナチの大佐を父親にもつデュークはキレのあるスウィングでならす。デュークは大佐を追い出して家を焼き払ってしまうことを目標にしているような危険な男だ。

エディたちは海賊版のジャズレコード販売を開始する。BBC放送の音楽番組を録音して、トンフォリエンという機械でブランクに溝を掘る。これが結構な稼ぎになった。

裕福なカキ・ゲオルギスのヴィラで、ガーデンパーティを開くことになった。ゲシュタポに踏み込まれ、多数が検挙され収容所送りとなった。エディは捕まらなかったが、父親に自首を促され出頭した。収容所で3ヶ月間重労働に従事させられ、足が壊疽寸前となった。その後、スウィング・ボーイズの活動は下火にならざるを得なかった。

状況はどんどん悪くなっていく。ついにはハンブルグに爆撃機が飛んでくるようになり、防空壕に逃げ込むようなこともしばしば起こる。ハンブルグは人口が170万だったのが爆撃後は50万、誰が出て行って誰が死んで、誰が残っているのかを数えるのは不可能な状況になった。

末尾の章には、ナチ支配下におけるジャズについて記載がある。ハンブルグのスウィング・ボーイズは鼻持ちならない連中で、まわりから白い目で見られていたらしい。ハンブルグは裕福な町で、はじめのうちナチは裕福な家庭には手を出さなかったという。ハンブルグにはユーボートの製造工場があり、連合軍の大々的な爆撃を受けた。→人気ブログランキング

2014年9月 7日 (日)

ハンナ・アーレント

哲学者ハンナ・アーレントの半生を描いた伝記映画である。
映画の冒頭、「ドイツ系ユダヤ人ハンナ・アーレントは、ハイデガーに師事、哲学を学ぶ。1933年ナチスの迫害を逃れて亡命先で夫ハインリヒと出会い、その後アメリカへ。物語は1960年ナチス戦犯アイヒマンが潜伏先で捕らえられたところから始まる。―」
とテロップが流れる。

Image_20201208122601ハンナ・アーレント
Hannah Arendt
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ/パメラ・カッツ
音楽:アンドレ・マーゲンターラー
ドイツ ルクセンブルグ フランス  2012年  114分 

ハンナ(バルバラ・スコヴァ)は、全体主義を産んだ政治思想を研究する著名な哲学者であった。
彼女は『ニューヨーカー』誌から、エルサレムで開かれるアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、記事を書く仕事の依頼を引き受ける。
記事の執筆者として彼女ほどの適任者はいないだろう。
書いた分から雑誌に載せたいという出版社の申し出に対し、彼女は全部書き上げてからと断っている。ハンナにすれば、苦悩の末に書き上げる記事はセンセーショナルなものになると承知していて、世間の雑音に惑わされることなく、書き上げたかったのだろう。
そして1963年に、『イエルサレムのアイヒマンー悪の陳腐さについての報告』を発表する。

その内容は、まさに世界を揺るがすセンセーショナルなものであった。
まずイエルサレムの地方裁判所で行われ、アイヒマンを絞首刑と判決した裁判に正統性があるのかと問う。アイヒマンはただ上からの命令を伝達しただけであり、思考不能であったとした。凡庸な悪と根源的な悪とは異なるとし、アイヒマンは凡庸な悪に過ぎない。またユダヤ人の中には指導的な人物がいたとしている。そうでなければ600万人もの人間が殺されるはずがないとした。

ハンナはナチスの大量殺人行為を哲学的に理論づけたのである。それはモラルでは割り切れないものであった。
彼女には、恥知らず、アイヒマンと同等、傲慢、死者の魂を踏みにじる、民族の裏切り者といった、批判が浴びせられた。さらに、古くからの友人が離れていき、大学から辞職勧告されたが、批判する人は彼女のどこが間違っているのかを指摘できていないと、引き下がらなかった。
ハンナの同調者もいた。それは、最愛の夫や友人の作家メアリー、そしてハンナの講義に熱心に耳を傾けた学生たちであった。

彼女は思考することで人間は強くなれるという信念を持つに至った。
思考することは、彼女が哲学の道を歩み始めたときに、ハイデガーが繰り返し語ったことだった。皮肉にも、当時ハンナと不倫関係にあったハイデガーは、やがてナチ党員となりヒトラー総督を褒め称える演説を行っている。→人気ブログランキング

2013年12月21日 (土)

M★A★S★H マッシュ

朝鮮戦争の負傷者を手術する移動式野戦病院で繰り広げられる、ハチャメチャな生き方をする外科医たちを描いたコメディ。マッシュは移動式野戦病院(Mobile Army Surgical Hospital)の略。戦闘シーンや爆撃シーンはまったく出てこない。その分、血にまみれた負傷者を手術するリアルなシーンがこれでもかと挟み込まれている。
Image_20201130113801M★A★S★H マッシュ
監督:ロバート・アルトマン
脚本:リング・ランドナーJr.
原作:リチャード・フッカー
音楽:ジョニー・マンデル
アメリカ  1970年  116分 

131215__

スピーカーから基地内に、講演会や週末の映画の案内、性病検査の日程などの業務連絡の他に、ラジオ東京の歌謡曲やジャパニーズジャズが流れ、これがストーリーをつなげる役割を果たし、かつ、だらっとした主人公たちの生き様のニュアンスを伝えている。

131215_

移動式野戦病院に配属されたホークアイ(ドナルド・サザーランド)、デューク(トム・スケリット)、トラッパー(エリオット・グールド)の3人の軍医は腕はいいのだが、昼からマティーニを飲み、看護婦を口説き、悪戯をして、上司をコケにして、タメ口をきく。この無軌道ぶりを、新任の看護婦長(サリー・ケラーマン)と外科主任が告発状を本部に送付したことに主人公たちは報復を企てる。

規律に縛られ権威をちらつかせる「戦争バカ」に一泡吹かせるために、ベッドで絡み合う婦長と外科主任のあえぎ声を基地内に流したり、婦長・ホットリップスが本物の金髪であるかシャーワー室を壊して裸を白日のもとに晒したりする。

131215__2

さらに、ホモの気配が芽生えた巨根の歯科医師の自殺願望に手を貸すふりをして「最後の晩餐」を演出する。そのあと、看護婦に頼み込んでホモっ気を鎮静させる夜のお相手役をやってもらうのだった。

 

131215_x

 

議員の子供の胸に弾が撃ち込まれ、その手術に博多に渡り、手術の成功を引き合いに出して将軍を屁扱いして、遊郭・ゴルフ三昧の日を送る。なにしろ腕がいいから怖いもの知らずなのだ。

131215__4

 

告白状に書かれた無軌道ぶりを視察にきた大佐に、アメリカンフットボールの話を持ちかけると、告発状の真偽をそっちのけで、フットボール談義に花を咲かせ、ついには隊対抗の試合が行われることになる。試合当日、前半はベタ負けして油断させ、後半に掛け金を釣り上げてから、元プロの脳外科医を投入し逆転する作戦がまんまと当たるのだった。

 

そんな中、ホークアイの帰国が決まると、この馬鹿げた日常から抜け出すことが、あたかも心残りであるかのよう名そぶりでキャンプを去るところシーンで、スピーカーは映画の出演者の名前を次々と告げる。

これといったストーリーがあるわけでない。軍医たちの日常が描かれる軍医日記のようなもの。本作により映画史の1ページが確実にめくられたのだ。→人気ブログランキング

【ロバートアルトマン監督作品】
今宵、フィッツジェラルド劇場で』A Prairie Home Companion (2006)
バレエ・カンパニー』The Company (2003)
ゴスフォード・パーク』Gosford Park (2001)
『Dr.Tと女たち』Dr T and the Women (2000)
『クッキー・フォーチュン』Cookie's Fortune (1999)
『相続人』The Gingerbread Man (1997)
『カンザス・シティ』Kansas City (1996)
プレタポルテ』Prêt-à-Porter (1994)
『ショート・カッツ』Short Cuts (1994)
『ザ・プレイヤー』The Player (1992)
『ウエディング』A Wedding (1978)
『ビッグ・アメリカン』Buffalo Bill and the Indians, or Sitting Bull's History Lesson (1976)
『ナッシュビル』Nashville (1975)
ロング・グッドバイ』The Long Goodbye (1973)
M★A★S★H マッシュ』MASH (1970)

 

 

2012年12月 5日 (水)

コールド マウンテン

南北戦争を背景にした純愛の物語。
牧師の父と共にエイダ(ニコール・キッドマン)は、ノースカロライナのコールドマウンテンに引っ越してくる。
インマン(ジュード・ロウ)は、エイダと一度だけ口づけを交わし、必ず戻ってくると約束して、南北戦争(1861~1865年)に南軍兵士としてジョージア州に出征した。
Image_20210131083501コールド・マウンテン
Cold Mountain
監督:アンソニー・ミンゲラ
脚本:アンソニー・ミンゲラ
原作:チャールズ・フレイジャー
製作:ルバート・バーガー/ウィリアム・ホーバーグ/シドニー・ポラック/ロン・イェルザ
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン/ハーヴェイ・ワインスタイン/ボブ・オシャー/イアイン・スミス
音楽:ガブリエル・ヤレド
製作国:アメリカ合衆国   2003年 154分

1

戦争が始まって3年が経った1864年、友人を殺され自らも重症を負ったインマンは傷が癒えると、捕まれば死罪に問われるのを覚悟で軍を脱走した。故郷のコールドマウンテンでインマンの帰りを待つエイダに会いたい一心で、徒歩で旅を続けた。

2

戦争は国を荒廃させ人を疲弊させる。秩序を失った軍人たちの一部は、民家に押し入り食べ物を略奪し強姦を繰り返すようになっていた。

一方、エイダは女性と子供と老人だけが残されたコールドマウンテンで、ひたすらインマンの帰りを待っていた。
そんな中、病弱な父親が亡くなると、エイダは明日の食べ物にも事欠く苦境に陥いり、痩せ細っていった。

3

見るに見かねた隣人のサリー(キャシー・ベイカー)は、ルビー(レネー・ゼルウィガー)を連れてきて、ルビーはエイダと一緒に暮らすようになる。ルビーはエイダに生きる術を教える。
ふたりは力を合わせ、家の周りの柵を直し、野菜を植え、牛の乳搾りをし、パイを焼き、という自給自足の生活が始める。エイダは徐々にたくましくなっている。
ニコール・キッドマンは、こういう可憐で弱々しいかと思わせておいて実はたくましい役柄を、上手にこなす女優だ。

その頃、インマンは黒人を妊娠させて追放された牧師(フィリップ・シーモア・ホフマン)と出会う。フィリップ・シーモア・ホフマンのダメ牧師ぶりがぴったりだ。
気の良さそうな農夫に招かれて夕食を食べさせてもらったはいいが、インマンたちは義勇軍に売り飛ばされてしまう。脱走兵には賞金がかけられているのだ。
なんとか義勇軍から逃げおおせたインマンは、そのあと未亡人のセーラ(ナタリー・ポートマン)に助けてもらい、さらに老婆マディ(アイリーン・アトキンス)に負った傷を治療してもらう。そうして体力を回復したインマンは、再びコールドマウンテンを目指すのだった。

そしてインマンはついにコールドマウンテンに戻ってきた。

4

ひと癖あってタフで魅力的な女性ルビーを演じたレネー・ゼルウィガーが、アカデミー賞助演女優賞を受賞した。→人気ブログランキング

2012年9月 5日 (水)

ハート・ロッカー

2004年、灼熱のバグダット。
爆破装置の処理中に亡くなった前任者の後釜に、ジェームス2等軍曹(ジェレミー・レナー)が任務につく。
待ち遠しい任務終了までの日数が画面にテロップで現れる。

1209062

__20210219083501ハート・ロッカー
原題:The Hurt Locker
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
音楽:マルコ・ベルトラミ/バック・サンダース
製作国:アメリカ合衆国  2009年  131分

爆弾処理班はジェームスのほか、サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とエルドリッジ特技兵(ブライアン・ジェラティ)、ふたりはジェームスをサポートする役目だ。

ジェームスの爆弾処理のやり方は大胆、時には防護服を脱いでしまう。彼はスイッチが入ったら怖いもの知らずになる。彼は爆弾処理の能力がずば抜けて優れていることは確かだ。そうした型破りなやり方は、ほかのふたりを危険に巻き込むこともあり、サンボーンは殺意を抱くほどだ。

1209061

三人は任務中に砂漠でイギリス人傭兵と出会ったあとに、はるか彼方から狙撃され傭兵が殺される。銃撃戦は長時間に及び、それを乗り切ったことで三人は信頼を築き上げるのだった。

やかて基地内でビデオを売っていた少年が、腹部に爆弾を埋め込まれる手術を受けて死んでいるところをジェームスは発見する。ジェームスたちは憤りを感じるが、人違いであることが判明する。
爆弾を仕掛ける見えない敵は、なんでもありの卑劣な手段でジェームスたちに挑んでくるのだ。

爆弾処理の情報が漏れていると感じたジェームスは、ふたりとともに路地を捜索する。ところが、ジェームスがエルドリッジを誤って撃ち負傷をさせてしまう。これでエルドリッジは、太腿は砕けたがアメリカに帰ることができる。

1209063

最後は、広場で時限爆弾を体に巻きつけられた男が助けを求めている。しかし、いくつもの鋼鉄製の鍵がついていて、ジェームスは外すことができない。「済まない」と謝りながら男から遠ざかるのだった。

任務を終えて妻と息子の元に帰ったジェームスは、料理の手伝いをしながら戦場の話をするが、妻の反応はない。戦地では任務終了を望んんでいたはずなのに、アメリカでの平凡な家庭生活はジェームスにとって生きている実感が希薄だ。
そして、ジェームスは再び招集され、意気揚々と戦場に降り立つのだった。

「Hurt Locker」は、アメリカ軍の隠語で「苦痛の極限地帯」「棺桶」を意味する。
本作は、アカデミー賞で9部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、編集賞、音響効果賞、録音賞の6部門を受賞した。 元夫のジェームス・キャメロンの『アバター』との間でアカデミー賞を激しく争った。→人気ブログランキング

2012年8月21日 (火)

アバター

惑星パンドラで、人類側が進める計画は、ナヴィ族居住地の地下に眠る膨大な埋蔵量の鉱石を手に入れるというもの。主人公のジェイク(サム・ワーシントン)の役目は、DNAを操作して(シガニー・ウィーバー)作られたアバターのボディーに入りナヴィ族になりすまし、彼らの情報を収集することである。
Image_20210218111301アバター
原題:Avatar
監督:ジェームズ・キャメロン
脚本:ジェームズ・キャメロン
製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー/ジョシュ・マクラグレン
製作総指揮:コリン・ウィルソン/レータ・カログリディス
製作国:アメリカ合衆国   2009年  162分

しかし、ジェイクは任務中に仲間とはぐれ野生動物に襲われるが、ナヴィ族の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に助けられる。そして、ネイティリにナヴィ族の生き方を学んでいくうちに、彼女を愛するようになる。
やがて、ジェイクは人類の傲慢さに気づき、ナヴィ族の自然と共に生きる生き方を選択するようになる。

3

計画が思惑通りに運ばない人類側は業を煮やし、ナヴィ族に総攻撃をかけるのだった。
人類軍の兵器は、オスプレイ仕様の飛行機、トランスフォーマー仕様の巨大ロボット、飛行空母という、アメリカ軍を彷彿とさせるもの。
一方ナヴィ族の方は、広大な自然の中を俊敏に飛び回る飛行動物や疾走する馬様動物にまたがり弓矢や剣で対抗しようとする。

4

ナヴィ族には勝ち目がなさそうに思えるのだが、パンドラの生態系は有機的につながっていて、ナヴィ族を優位にする。
そして、ジェイクはトランスフォーマーを操る大佐(スティーヴン・ラング)と対決するのだった。

5

ジェームス・キャメロンが「どうだ凄いだろう」と投げかけた、そんな意気込みが伝わってくる映画だ。
自然破壊と戦争に警鐘を鳴らしているという。

本作は、第82回アカデミー賞で、9部門にノミネートされた。
しかし、作品賞、監督賞などの主要部門は、キャメロンの元妻のキャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』が受賞し、『アバター』は、撮影賞、美術賞、視覚効果賞の3部門だけの受賞となった。
ところが、『ハート・ロッカー』のプロデューサーが選考委員に、作品賞は『アバター』ではなく『ハート・ロッカー』に投票してほしいと呼びかけたメールを送っていたことが判明したという、おまけがついた。→人気ブログランキング

2012年8月 8日 (水)

告発のとき

軍警察を退職したハンク(トミー・リー・ジョーンズ)のもとに、イラクから帰還したマイクが軍に戻ってこないと連絡が軍から入る。72時間以内に軍に戻らなければ、脱走兵としての重い懲罰が課される。
Photo_20210225124001告発のとき
原題:In the Valley of Elah
監督:ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス
製作国:アメリカ合衆国  2007年  121分

120808

ハンクは基地のあるフォートラッドを訪れ、マイクの仲間たちから情報を得ようとするが、手掛かりはマイクの残した携帯電話だけだった。
次に、情報を求めて地元警察に出向くと、同僚のセクハラに辟易している女刑事エミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)が、ハンクに協力を申し出るのだった。
そんな矢先、軍の敷地内で、切断され焼け焦げた遺体の一部が発見され、マイクであることが判明する。

1208082 

現場を調べたハンクはエミリーに、マイクはほかの場所で殺されて軍の敷地内に運ばれたことを告げる。
ハンクのそうした推理の強引さに、はじめは反発を覚えたエミリーだったが、次第に信頼するようになる。

1208083

そして、携帯電話の動画が修復され、イラクでのマイクの心の闇が明らかになっていく。
戦場が人間を変えてしまったのだった。

愛国法が制定されて以来、正面から政府を批判できなくなった。
そこで、監督ハギスは、警察署内の壁に飾られたブッシュの写真をチラリと映し出す細工をしている。
ミリオンダラー・ベービー』を書いたハギスらしい骨太の作品だ。

原題の「In The Valley of Elah」は、旧約聖書の「サムエル記」に記載されているダビデとゴリアテが戦った場所とのこと。
羊飼いのダビデが尻込みするイスラエル軍の兵士の代わりに、ベリシテ軍の巨漢の兵士ゴリアテに戦いを挑んだ。
ダビデの武器は杖とパチンコと石。
ダビデがパチンコで石を放つと、石はゴリアテの額に命中した。ダビデはゴリアテの剣を奪い、首をはねてとどめを刺したという。
この故事にちなんで、弱小な者が強大な者を打ち負かす喩えとして使われるそうだ。
この話を、ハンクはエミリーの幼い息子に聞かせる。→人気ブログランキング

2012年7月 4日 (水)

サラの鍵

夫と娘とパリで暮らすアメリカ人女性記者ジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)は、45歳で妊娠する。知らせを受けた夫の反応は、思いもよらない反対だった。
Photo_20201205082201サラの鍵
原題:Elle s'appelait Sarah/Sarah's Key
監督:ジル・パケ=ブランネール
脚本:ジル・パケ=ブランネール/セルジュ・ジョンクール
原作:タチアナ・ド・ロネ
音楽:マックス・リヒター
製作国:フランス 2010年

1207042

そんななか、彼女は夫の祖父母から譲り受けて住んでいるアパートに、1942年のパリのユダヤ人迫害事件(ヴェルヴィヴ事件)で、ドイツの強制収容所に送られたユダヤ人家族が住んでいたことを知る。

1207041

その一家の長女で10歳の少女サラ(メリュジーヌ・マヤンス)が、収容所から逃亡していた。一斉検挙の朝、サラはすぐに戻れると信じて、弟を納戸に隠して鍵をかけた。
サラはパリ郊外の老夫婦に家にかくまわれ、とりあえずの身の危険から解放される。やがて弟を隠したパリのアパートに行き、鍵で納屋を開け弟の消息を知るのだった。
その後、サラは老夫婦の養女となり、成人すると家を出てアメリカに渡ったのだった。

一方、ジュリアの夫は娘とのスカイプを使ったテレビ電話でやり取りする。
娘が見つめる画面に父親の後ろで下着姿の女性がウロウロしている。
妻が込み入った深刻な事件にのめり込んでいるというのに、夫はいたって能天気なのだ。

1207043

一時は、堕胎手術を決意し入院したジュリアだったが、手術の寸前に知らされたサラの消息が、彼女を翻意させる。
ジュリアの調査は、サラの人生の結末を知るにいたるところまで進む。

「ヴェルヴィヴ事件」とは、1942年7月16日、ナチス占領下のパリで、フランス警察によりユダヤ人1万3000人が検挙されドイツの強制収容所に送られた事件。ヴェロドローム・ディヴェール(Velodrome d'Hiver)、略してヴェル・ディヴ (Vel d'Hiv) は、パリにあった冬季競輪場のこと。収容されたユダヤ人には、5日間食べ物も飲み水も与えられなかったという。この事件に対してフランス政府は1995年まで「ヴィシー政権はフランスではない」として責任を認めようとしていなかった。
しかし、ヴィシー時代の歴史を直視してこなかったことを反省する動きも出てきたという。→人気ブログランキング
(→『黄色い星の子供たち』 2010年)

2012年6月 5日 (火)

『大いなる陰謀』

大いなる陰謀 (特別編) [DVD]
原題:Lions For Lambs
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
音楽:マーク・アイシャム
製作:アメリカ   2007年

ブッシュ政権下、共和党の有力上院議員のジャスパー・アーヴィング(トム・クルーズ)のインターヴューに大物女性ジャーナリストのジャニーン・ロス(メルリストリープ)が向かう。
ロスは8年前に、アーヴィングを共和党の期待の星と書いたことがあった。
アーヴィングはロスに、泥沼化するアフガニスタンにおける戦況を打開する新作戦の情報をリークするという。アーヴィンの狙いは、好意的な記事を書いてもらい世論を味方につけたいというもの。
与えられた時間は1時間、アーヴィンとロスは丁々発止のやりとりをする。
実は、すでにその作戦は、10分前に敢行されていた。
インタビューを終えたロスは、アヴィーンに利用されるだけではないかと疑惑を抱き、記事を書くことを躊躇する。

いっぽう、カリフォルニア大学のマーレー教授(ロバート・レッドフォード)は、最近学業に身の入らなくなった学生に、自分の教え子であるふたりが志願してアフガニスタンに赴いた話を聞かせる。
ふたりは何事にも無関心を装うことの愚かさに気づいたのだった。

アフガニスタンでは、高地占領作戦を遂行する少数精鋭部隊が、ヘリコプターで前線に向かう。しかし、地上からの敵の攻撃でマレー教授のふたりの教え子はヘリコプターから振り落とされる。負傷して雪に埋まり動きのとれないふたりに、敵が接近していく。

この作戦でアフガンの戦況が有利に運ぶという設定が、いまひとつ真実味にかける。

3つの話がリンクして進行していき、占領作戦の結末が3つを結びつける。
アメリカの抱える矛盾を描いた社会派政治ドラマ。
トム・クルーズとメリル・ストリープのバトルともいえる言葉の応酬が見もの。

2024年6月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ