短篇

『頼むから静かにしてくれ 1』 レイモンド・カーヴァー

レイモンド・カーヴァーは、ありふれた日常を、策を弄さずに、短いセンテンスで簡潔に描いている。独特の味わいをかもし出すミニマリズムが、カーヴァーのスタイルだ。
短編小説のアメリカ52講』(青山 南著)にショッキングなことが書かれていた。〈1998年、ニューヨーク・タイムズ紙に、カーヴァーの作品のほとんどは、ゴードン・リッシュとの合作だったと、D・T・マックスが調査記事を発表した(8月9日付)。リッシュは、1969年から77年まで、『エスクァイア』の凄腕の編集長だった人物である。カーヴァーの作品にはリッシュの手がかなり入っていて、それは改竄にも等しい。カーヴァーはリッシュが手を加えることを嫌がったという。〉
著者が書いているように、カーヴァーの作品には、長さが違うふたつのヴァージョンがあったり、タイトルがふたつあったりなどの違和感があったが、カーヴァーとリッシュとの関係がわかると理解できる。
それにしても、「改竄にも等しい」といわれる作品群に、どう向きあったらいいのか、カーヴァー・ファンとしては複雑である。

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)
レイモンド カーヴァー/村上春樹訳
中央公論新社
2006年1月

「でぶ」fat
私はリタにダイナーで、でぶの男にサーブした話をする。
でぶの男はときどきプフッと音をたてる。シーザーズサラダとボールいっぱいのスープ、ラムチョプ、サワークリームをかけたベイクトポテト、そしてスペシャルデザートを注文した。パンとバターは4回運んだ。プフッといいなからきれいに平らげた。
家に帰ってシャワーを浴びてベッドに横たわると、恋人がことに及ぼうとすると、自分が突然でぶになったように感じがして、恋人がどんどん小さくなっていく気がした。
そんな話をリサにした。

「隣人」Neighbors
その夫婦には、隣に住む夫婦が自分たちよりも充実した輝かしい生活を送っているように思えた。隣の夫婦が旅行に出かけるので、猫の世話と芝生の水撒きを頼まれた。
他人の生活の場を目の当たりにすると、性的に興奮するのか夫は妻をいつもより求めた。夫は隣の家の戸棚を開けたり、ウィスキーを飲んだり、夫の服を身につけたり、エスカレートしてその妻の下着を身につけたりしていた。
妻が鍵を燐家のなかに置き忘れたまま扉を閉めてしまう。

「人の考えつくこと」The Idea
夫と私は、隣の家の中を覗く男が現れるのを待った。覗いている男が見ているのは、服を脱ぐ女だろう。ベッドルームの電気が消え、男が家の脇に沿い戻ってきて、残った灯りも全部消えた。「マーケットであの女に会ったら思っていることを言ってやる」と私は息巻いた。
そのあと、夫と私は夜食を食べて夫はベッドに入った。夜食の後片付けをしていると蟻が列をなして流し台のパイプのところにいた。そこに殺虫スプレイを撒いた。
「最低の女」と、私ははつぶやいた。「なんてことを思いつく女だろう」。もっとひどいことも言った。

「そいつらはお前の亭主じゃない /ダイエット騒動」They're Not Your Husband
男は、妻がウェートレスとして働いている24時間営業のコーヒーショップに寄ってみた。ふたりの男が妻の後ろ姿を見て太りすぎだと言っている。
仕事から帰った妻に痩せたらどうかと提案すると、妻はダイエットに取り組み4キロ減らした。
仕事場で急に痩せたのはどこか悪いのじゃないかと言われたと妻が言う。そいつらはお前の亭主じゃないんだ、余計なことをいうなと男は言う。
ある夜、妻の働くコーヒーショップに立ち寄り、夫は妻でないウェートレスに、あのウェートレスの感じが変わったとさりげなく言う。さらに、夫は隣の男の客にどう思うと妻のことを尋ねる。そのうちにウェートレスが妻に「あの男は変だ」と言い出す。妻は亭主だと明かす。

「あなたお医者さま?」Are You A Doctor ?
女から会いたいとアーノルドに電話がかかる。電話番号はベビーシッターのメモに書かれていたという。よく日その女の家に行くと子どもがママは薬を買いに行ったという。女が帰ってきて、あれこれ話し、アーノルドは何も問題のないことを知り帰る。家に帰るといつものことだが妻から電話がかかってきた。妻はいつののアーノルドらしくないという。アーノルドはドキドキするのを感じた。

「父親」The Father
生まれて間もない赤ん坊を3人の姉妹と母親と祖母が取り囲んでいる。赤ん坊が誰に似ているかという話から、父親が誰に似ているかと話題は広がる。
椅子に座っていて振り向いた父親の顔は蒼白だった。

「サマー・スティールヘッド(夏にじます)」Nobady Said Anything
思春期の男の子の1日を描いた作品。弟との喧嘩に始まって、ズル休み、巨大な坂のを捕まえて家に持ち帰ったというのに、母親は気持ち悪いから捨てろというし、父親は気が狂ったかと罵る。

「60エーカー」SixtyAcres
誰かが土地に入って猟をしていると、電話があった。リーはうっすら積もった雪の中を、銃を携え車で出かけた。着くころにはいなくなっているだろうと思いながら。ところが、コートのポケットに獲った鴨をつっこんでいるふたりの子どもがいた。そいつらに銃を向け鴨を奪い、姓名を聞き気がしてやった。
家に帰ると妻に土地を鴨撃ちのクラブに貸そうかと言い出す。妻は貸すだけだよねと確かめるように繰り返す。

「アラスカに何があるというのか?」what's In Araska ?
マリファナ用の水パイプを買ったという夫婦にさそわれて、カールとメアリ夫婦は出かけていく。カールは新しい靴を買った。メアリが見つけた仕事の都合でアラスカに行くことになるかもしれない。マリファナを吸ったあと、4人がなんとか理性を保とうとする様が描かれる。

「ナイトスクール」Night School
私がバーでビールを飲んでいると、「車を持っている」かと2人組の女が話しかけてきた。ふたりは、州立大の夜の購読クラスの学生だという。私も同じ大学の授業を受けていた。ふたりはビールをおごってくれて、購読クラスの先生の家に行こうと私を誘った。
車は実家にある。バーを出て歩いて家に着くと、車は仕事で母が使っている父がという。
しばらく、外にふたりを待たせていると、「あのインチキ野郎」という声が聞こえた。

「収集」Collectors
雨の降る日、前に住んでいた夫人がアンケートに答えて、懸賞に当選したので景品を届けにきたと男が訪ねてきた。男は家に強引に入ってきて、バッグを開けその景品を組み立て始めた。なんのかんのと言いながら、帰った方がいいのではないかという忠告を無視して、出来上がったのは真空掃除機。そして、吸塵の性能を証明するかのように、掃除を始める。カーペットに液体を撒き散らし吸引する。
1ドルも払えない、金がないと男に伝えた頃には、掃除機をバッグの中にしまいこんでいた。男は、最後に、この掃除機は要りませんかと訪問の目的を明らかにした。

「サンフランシスコで何をするの?」What Do You Do In San Francisco?
私は郵便配達員だ。
この田舎町では、その夫婦のように職にもつかずぶらぶらしている人間を見かけなかった。夫婦は3人の子どもと、サンフランシスコから越してきたという。妻は絵を描いていた。夫も似たようなことをしていた。
男は郵便受けの名前を変えなかった。
まず妻が出て行った。数日して夫の母親が子どもを連れていった。
その後、夫は毎日のようの郵便物の配達を待っていた。ある日、くるくるとした女文字で書かれたポートランドからの封書を手渡すと、夫は顔面蒼白になった。そして、男はそこからいなくなった。その後、彼の奥さんだったり彼宛の手紙が届くことがあると、1日保管してから差出人に送り返す。それが仕事だから。。

「学生の妻」The Student's Wife
彼がリルケの本を朗読していると妻は彼の枕に頭を乗せたまま眠ってしまった。
そのうちに目覚め、夫にサンドイッチを作ってくれるように頼む。サンドイッチを食べたところで、夫が眠りにつくと、妻は起きて動き回り、さめざめと涙を流した。→人気ブログランキング

『短編小説のアメリカ52講』青山 南

アメリカは短編小説王国だという。本書は、NHKラジオ講座『英会話』のテキストに連載していた文章をまとめたもの。本として出版するさいに多くの注を書き加えた。文庫にする際その注をすべて本文に組み込んだという。

ウォレス・ステグナーによると、「アメリカの発明品が短編であり、特産品が短編である」(『偉大なるアメリカの短編小説』1957年)という。また、アイルランドの作家・フランク・オコナーは、短編小説はアメリカの"a national art of form"であると言った。なぜ短編小説はアメリカの国民芸術なのか?

アメリカが短編小説王国であるのは、オコナーによると、アメリカが"a submerged population group"から成り立つ国であるからだという。アメリカには、「人目につかない人たち」「隅っこに追いやられている人たち」がたくさん住んでいる。「不親切な社会で途方に暮れ、親切な社会など標準どころか例外であると思い知らされてきた先祖」、すなわち移民を先祖とする人が多いアメリカだからこそ、短編が栄えたというわけである。 短編には、社会からはぐれた者が、社会の隅っこをとぼとぼと歩いているところが描かれているという。

短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史 (平凡社ライブラリー)
青山 南
平凡社ライブラリー 2006年9月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

『ザ・ベスト・アメリカン・ショート・ストーリーズ』がスタートしたのは1915年。エドワード・J・オブライエンがはじめた。
その理由は、映画や絵画や詩に対抗して、短編小説が質の低いものになってはいけないという危機感と、これがアメリカの短編だ、と誇れるような短編のサンプル集を作らねば、という使命感だったという。
1919年には、『O・ヘンリー賞受賞作品集』が刊行されている。

1980年代に、アメリカ短編小説界のルネッサンスがあった。
そのひとつは、1983年に、イギリスの文芸誌『グランタ』が、アメリカ短編小説の潮流の変化を伝えている。それは「ダーティ・リアリズム」という言葉に集約される。「ニューヨーカー的」な、お高くとまったテイストから脱却し、なんでもありになったということである。
もうひとつは、女流作家の台頭であり、その後、アフリカ系アメリカ人に門戸が開かれていないことが問題となった。このふたつの流れが、アメリカ短編小説界に起こったルネッサンスとされている。

小説家を志す者が大学の創作科の講座で学ぶというケースは、いまのアメリカではすっかり定着しているという。創作科の嚆矢はアイオワ大学で、1939年のことだが、いまや400を超える大学に創作科がある(2005年現在)という。
創作科という講座は、長いこと、胡散臭い目で見られてきた。それは、作家になるためには才能なり天分が必要で、文章の書き方の教育を受けたからどうこうなるものではない、という考えが根強いからだ。
アイオワ大学創作科を出て小説家になるのは1%でしかない。

アイオワ大学の案内書によれば、出版社や批評家からそれなり評価を得ている現役作家たちの、なんと1/4から1/3が、大学となんらかの形で関わったか、いまなお関わっているという。旅のガイドブックには、アイオワ・シティを舞台とした現代小説が、50以上もあると書かれているとのこと。

1998年に、レイモンド・カーヴァーの作品のほとんどはゴードン・リッシュとの合作だというショッキングな記事が、『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載された。リッシュは1969年から77年まで『エスクァイア』の編集長だった。カーヴァーの作品にはリッシュの手がかなり入っていて、それは改竄にも等しいという。
最初の頃はともかく、カーヴァーはリッシュに辟易していたという。
カーヴァーの作品には、長いヴァージョンと短かいヴァージョンのある作品とか、中身は同じなのにタイトルが異なる作品、などの不可解な点があるが、それはカーヴァーとリッシュとの関係がもたらしたのだ。→人気ブログランキング

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介

擬似科学を容易に受け入れてしまう人間社会の危うさがテーマ。事件を追いかけるジャーナリストの「わたし」が俯瞰的視点で語る。
著者の多岐にわたる豊富な知識、奔放な発想力、そして卓絶な表現力に脱帽である。

彼女がエスパーだったころ
宮内悠介
講談社
2016年4月

「百匹目の火神」The Biakiston Line
火を使うことを人から教えられたニホンザルの能力が、猿たちの間に広がっていき、猿による放火事件が起きた。空き巣のあと、火をつけたのだ。
猿たちは日本各地で集団放火事件を起こす。共時性の願いが伝播した現象と説明された。
人々は猿を殺傷したが、ニホンザルは天然記念物である。法律が障害となり対策は後手に回った。ある日、雨が止むように猿の放火が終焉する。
「彼女がエスパーだったころ」The Discoveries of Witchcraft
スプーン曲げで有名になった千晴は、大学の物理学教授と結婚した。
ところが、千晴の不在時に夫が非常階段で足を滑らして転落死した。超能力者とされた千晴に疑いがかかり、魔女狩りの事態にまで発展する。
「ムイシュキンの脳髄」The Seat of Violence
バンドのリードボーカルの網岡はなにかにつけ逆上した。
同棲相手で、同じバンドのベース担当のかなえは、網岡に対するオーギトミーに反対した。手術後、天使のように変わってしまった網岡に、かなえは違和感を感じた。
そして、網岡はかなえと別れ郷里に引退した。
オーギトミーの普及に努める医師を批判するフリージャーナリストが殺害される。
「水神計画」Solaris of Words
放射能汚染水に「ありがとう」と声をかければ浄化される話。
「薄ければ薄いほど」Remedy for the Remedy
ごくごく薄めてしまえば毒も薬になるというホメオパシーの疑似科学性が暴露される。
「沸点」The Budding Point
世の中を変えるには、一部の人たちが変わればいい。ある人数の人々が変われば、それが転換点(ティッピング・ポイント)となって、世の中は変わるという。

彼女がエスパーだったころ/講談社/2016年4月
アメリカ最後の実験/新潮社/2016年1月

『嵐のピクニック』本谷有希子

ブラックで可愛らしく、予想をはるかに超える展開の11の短編集、大江健三郎賞受賞作(第7回、2013年)。賞には賞金はなく、ご褒美は英語や独語への翻訳出版だそうだ。それにしても、著者の文体をまねた大江健三郎の解説文はどうしたんだろう、浮いちゃっている。

『アウトサイド』 いくつかのピアノ教室へ通ったものの、バイエルすら終わっていない私に、新しいピアノ教師は優しく教えてくれた。その甲斐あってめきめき上達したが、ピアノ教師の狂気によって一変する。

嵐のピクニック (講談社文庫)
嵐のピクニック
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本谷 有希子
講談社文庫
2015年5月 ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

『私は名前で呼んでいる』会議中にカーテンの膨らみが気になり出しから始末が悪い、会議そっちのけで目がカーテンにいく。部下のプレゼンアド耳に入らない。
『パプリカ次郎』市場で野菜を売っているパプリカ次郎の屋台を吹き飛ばし、銃声が響かせて何人かの人がいく。そのあと市場の人々が後片づけをすることの繰り返し。 『人間袋とじ』足の指をしもやけを利用してくっつける話。
『哀しみのウェイトトレイニー』オーガニックストアでレジ打ちをしている妻が、夫が見ていたテレビに映るボクサーの肉体を見て、一念発起、筋トレジムに通うようになり、 筋肉ムキムキになっていく。
『マゴッチギャオの夜、いつも通り』サル山に入れられたチンパンジーがサルたちの洗礼を受ける。見守る若いサル・マゴッチギャオとの交流を描く。
『亡霊病』入賞したコンクールの授賞式でスピーチの順番が回ってくると、亡霊病の発作が迫ってる。
『タイフーン』 バス停で母と僕と汚い服を着たおじさんは、嵐の中傘をさして交差点で信号待ちしている男の人を見ている。人々は次々に傘で空に舞い上がっていった。
『Q&A』 創刊からの連載Q&Aのコーナーが終わることになり、最後の13の質問に答える。
『彼女たち』 恋人と決闘することになり彼女に連れられて河原にやってくると、同じ事情の男女が続々現れた。
『How to burden the girl』 高い塀に囲まれた家に住んでいた女は5人の弟と親父さんを悪の手下に殺されたが。。
『ダウンズ&アップス』 売れっ子デザイナーは対等の口をきく若者が気に入って雇った。やがて、デザイナーは気持ちのいいお世辞を聞いていないことに気がついた。対等な話をする若者にイラつくようになった。
『いかにして私がピクニックシートを見るたびに、くすりとしてしまうようになったか』 試着室に入った客が店の服をすべて試着しても試着室から出てこない。翌日に持ち越し試着室ごと建物の外に出たのだが。。

→『嵐のピクニック』
→『異類婚姻譚』2016.01.26

『大いなる不満』セス・フリード

それぞれが、意表を突く設定だから、つじつまが合わなくなりはしないかと不安を抱かせるが、気づけばずるずると著者ならではの世界に引きづり込まれている。そして最後に宙ぶらりんのままに放り出されたりする。

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)
大いなる不満
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セス・フリード(藤井 光訳)
新潮社
2014年5月 ★★★★★

「ロウカ発見」発見されたミイラをめぐり、研究室内の人間関係は奇妙に変化する。
「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」数多くの死者を出すピクニックが毎年繰り返される。
「ハーレムでの生活」王と多数の美女がいるハーレムに暮らす醜い男の話。
「格子縞の僕たち」火山口に投げ入れられるカプセルにサルを入れるのが仕事。
「征服者の惨めさ」スペインの南米侵略、征服者の悲哀を描く。
「大いなる不満」エデンの園で、猫がオウムをライオンがクジャクや子羊が本能をあらわにできないでいる。
「包囲戦」悲惨さがエスカレートしていく包囲戦を描く。
「フランス人」20年前、中1の劇で演じたフランス人役が新聞に載ったこと。
「諦めて死ぬ」親族が事故で次々死んでいく青年の話。
「筆写僧の嘆き」古英語詩のでたらめ極まりない写本を、くり返す僧たち。
「微生物集」ー若き科学者のための新種生物案内 微生物に見える存在の強引さと情けなさ。→人気ブログランキングへ

『フィッターXの異常な愛情』蛭田亜紗子

タイトルから偏執的な内容を想像しそうだけれど、まったく違う。
起承転結にビシリとはまった連作短編の恋愛コメディである。

広告代理店に勤める32歳の独身OL國枝颯子(さつこ)は会社に向かう交差点の真ん中でノーブラに気づいた。今日会うクライアントは手強い。ブラジャーをしていないことを見破られて、だらしないと烙印を押され破談になるかもしれない。
目に入ったランジェリーショップに入った。

フィッターXの異常な愛情
蛭田 亜紗子(Hiruta Asako)
小学館
2015年4月 ★★★★

応対したのが、まさかの男のフィッター伊佐次耀。
伊佐次は颯子の高校卒業以来の不摂生な生活をズバズバと言い当てた。
そして勧められるブラジャーを着け商談にむかった。
今までなら難敵クライアントに嫌味を言われっぱなしだったが、颯子は自説をまくし立てた。それが功を奏して商談成立。
その後も伊佐次の勧める下着を身につけ、仕事も人生も良い方向にいくかと思われたが。。

『モダン The Modern』原田マハ

MoMA(ニューヨーク現代美術館)に関わる人物を主人公にした5つの短編集。
キュレーターでもある著者のアートに対する造詣の深さが、各作品に滲み出ている。

モダン
モダン
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原田 マハ
文藝春秋
2015年4月 ★★★★☆

『中断された展覧会の記憶』
MoMAの理事会は、東日本大震災の原発事故の後、ふくしま近代美術館に展示されている『クリスチーナの世界』の引き上げを決定する。杏子ハワードは「作品にはなんの損傷はない」と報告が届いているにもかかわらず引き上げるのは、放射能に対する偏見に他ならないと思った。杏子は福島に向かう。

『ロックフェラー・ギャラリーの幽霊』
監視員のスコットが注意を払っているのは作品ではなく、作品を見ている人(ヴィジター)たちである。作品に悪さをしないかと見張るのが仕事である。そして、若い男のヴィジターから声をかけられる。

『私の好きなマシン』
ジュリアン・トンプソンは8歳のときに、MoMAで開かれたマシンアート展で展示されていたベアリングが大好きになった。人目につかずに役に立っていて美しいものに惹かれるようになり、工業デザイナーの職に就いた。
あるとき、後に世界で爆発的に出回るパーソナルコンピュータのデザインを依頼された。

『新しい出口』
親友でライバルの同僚を、WTC(ワールドトレードセンター)にデリバリーを頼んだばっかりに、死なせてしまった。それからアシスタント・キュレーターのローラはPTSDになった。
ローラは、自らと亡くなった友人が深く関わった「ピカソ・マチス展」を閲覧することで、新しい出口を見つける。

『あえてよかった』
日本からMoMAに1年間の研修にきている森川麻実はつい謝ってしまう。28歳のシングルマザー・パティに、その癖を指摘された。
デザインストアのショーウインドウに飾られた箸が交差してに並べられていることに違和感があるとパティに伝えたが、理解してもらえたかどうか。→ブログランキングへ

→【2013.10.04】『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(集英社新書)

『満願』米澤穂信

本書は、『2015年度版 このミステリーがすごい!』国内編第1位に輝いた。第27回山本周五郎賞を受賞している。
警察物、フーダニット、ホラー風、因果応報物、藪蛇物、倒叙物というバライティーに富んだ6篇が収録されている珠玉の短編集。
構成もマクガフィンの使い方も実に上手い。

満願
満願
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米澤穂信
新潮社
2014年3月

「夜警」
警官に向かないと思っていた後輩警官が殉死した。警官は妻のノドに刃物を当てた嫉妬深い夫に発砲したが、切りつけられ致命傷を負った。葬式のあと、警官の兄から弟の性格について知らされ、発砲した理由を推察する。
「死人宿」
勤務先のパワハラによって佐和子は退職し姿を消した。2年後、主人公は佐和子に会いに行く。佐和子は自殺者が訪れる死人宿として有名な温泉宿で仲居として働いていた。風呂の脱衣場で遺書を発見した佐和子は主人公の協力を仰ぎ、遺書の主を調べはじめる。
「柘榴」
美しい母と仕事せず家にほとんど寄り付かない駄目な父が離婚することになる。二人の娘の親権をめぐり調停となる。
「万灯」
商社マンの主人公はバングラデシュでの天然ガス採掘の交渉に奥地に向かう。権利を得るためには殺人も辞さない。
「関守」
山道のカーブでいくつもの車転落事故が起こる。主人公は山道に面したさびれたドライブインの老女店主に事故について取材する。そしてどんでん返しが。
「満願」
畳屋は仕事が次第になくなり借金を重ねる。畳屋の妻は夫の借金を盾に関係を迫る金融業者を包丁で刺し殺した。学生として畳屋の2階に下宿していた主人公は弁護士となり妻の弁護を引き受けるが、実刑となってしまう。そして出所をむかえた。→ブログランキングへ

『氷平線』桜木紫乃

オール讀物新人賞(2002年)を受賞した「雪虫」ほか5篇。
道東の厳しい気候のなかで、男女が織りなすねじた関係と、錯綜するまわりを描いている。
この後、著者が取り上げるテーマが本書に網羅されている。

氷平線 (文春文庫)
氷平線 (文春文庫)
posted with amazlet at 14.12.24
桜木紫乃
2012年4月(単行本2007年)

「雪虫」
達郎は両親が勧めるフィリピン女性を妻に向かえ酪農を継いだ。達郎は婿をとった高校の同級生の四季子と寄りを戻した。四季ちゃんは、ひとの奥さんなんだからねと母親に釘を刺されても、龍郎は止ようとは思わない。
「霧繭」
真紀は和裁師として土地の呉服問屋の仕事を請け負うようになった。真紀はかつて問屋の専務と深い仲だった。専務と関係があった問屋の女将との微妙な立場となる。
「夏の稜線」
東京育ちの京子は酪農の研修先に嫁いだ。娘が生まれると姑の態度が一変した。姑から嫌味を言われない日はない。優しい夫から息子に変貌した夫には愛情が失せた。よそ者扱いされる京子は妬みと噂と中傷が飛び交う狭い世界で窒息しそうになる。
「海に帰る」
親方から床屋を引き継いだ男と水商売女との愛。
「水の棺」
女性歯科医は上司と別れて僻地の診療所に転職する。数年後、診療所は村人たちの全幅の信頼を得るようになる。一方、上司の評判は地に落ちていた。
「氷平線」
誠一郎は理不尽な父親から逃れるために、猛勉強をして東大に入り、財務省に入省する。税務署長として故郷に錦を飾り、房子と再開し深い関係になるが。

ホテルローヤル/桜木紫乃/集英社/2013年
氷平線/桜木紫乃/文春文庫/2012年
硝子の葦/桜木紫乃/新潮社/2010年

『昨夜のカレー、明日のパン』木皿 泉

出だしの3話までは押さえ気味の展開で、4話の『虎尾』からギヤがワンランク上に入り、「さすが本屋大賞2位」と思わせる。それぞれが一つの話として帰結していて、さらに互いにリンクし合ってひとつの物語になっている。
人生訓のような文章が、ところどころに出てきて、なるほどとうなづかせる。

昨夜のカレー、明日のパン
木皿 泉 (Kizara Izumi
河出書房新社
2013年4月 ★★★★

7年前に夫・一樹を亡くした28歳のテツコと一緒に暮らす天気予報士のギフ(義父)の、ふたりが主人公である。そのふたりの暮らしぶりを描き、隣の引きこもりの女性を描いたのが、第1話の『ムムム』。
引きこもりになってしまったキャビンアテンダントが脱却する話『パワースポット』。テツコがギフに紹介した山ガールとギフが登山にいった話『山ガール』。一樹の3歳年下の従兄弟・虎尾の恋の話『虎尾』。懐が深いんだか抜けているんだか、テツコに求婚した岩田が、詐欺にあった話『魔法のカード』。ギフと妻・夕子の話『夕子』。岩田が同居するギフとテツコの関係を理解する『男子会』。最後の『一樹』は一樹と捨て犬を拾った少女の話で、『昨夜のカレー、明日のパン』がタイトルとなった理由が明かされる。

なぜテツコはギフの家から出ていかないのか、テツコに出ていって欲しくないとギフが考えるのはいいとして、なぜテツコにプロポーズした岩田までもがテツコとギフの関係を崩さない方がいいと考えるのか、そうした人間関係のあやが巧みに描かれている。→ブログランキングへ