短篇

世界堂書店 米澤穂信 編

発刊される本が必ずといっていいほど話題になる編者が集めた短編は、一味違う。個性的な話が集められている。巻末の各短編に対する編者の一言が効いている。
Image_20200725160001世界堂書店
米澤穂信 編
文春文庫
2014年

「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナー ル 多田智満子〔訳〕フランス
老いて盲となった光源氏が寂れた庵に居を移した。
そこを訪れた 花散里は百姓女に化けて源氏に抱かれたが、実は道で迷ったのではなく、情けを受けようとの魂胆できたと打ち明けると、「立ち去れ」と帰される。次に大和国の人妻と偽って近づき、源氏と女たちとのやりとりの数々を聞き出すが、唯一話に上らなかったのが花散里との関係だった。忘れてしまったのか。あるいは。。
著者は誤解しているようだ。『源氏物語』で有力な実家を持たず美しくもないとされているのは末摘花であり、花散里ではない。

「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ 西崎憲 〔訳〕イギリス
ジスカ氏は骨董品や宝石の小商いをしていた。扱う商品の来歴をでっち上げる才能、つまり口からまことしやかな嘘八百が泉の如く湧きでる。「破滅の種子」という尖晶石の指輪を金を払わず手に入れると、その所有者が死んでしまうとジスカ氏はいう。
骨董屋のでっち上げ噺が現実のものとなって、持ち主が変わるたびに、指輪の値段はつり上がっていく。やがて破格の金額となって、ジスカ氏の息子が父親にプレゼントしようと買う。

「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」キャロル・エムシュウィラー 畔柳和代 〔訳〕アメリカ
部屋のなかに自分の分身ともいえる人間がひっそり暮らしているという不気味な設定。その女性は分身が暮らしていることを知らない。実際は別人の存在を認知していて、知らぬふりをしていることもありうる。

「いっぷう変わった人々」レーナ・クルーン 末述弘子〔訳〕フィンランド
インカは立ち歩きをしているうちに宙に浮く。家族たちはインカが宙に浮いているところを他人に見られるのを恥ずかしく思っている。
これを自在にできるわけではないが、宙に浮くのは底抜けに気持ちがいい。医者は才能だというが、家族たちは小児病だと思っていた。
合唱隊に入るととても歌の上手いハンノがいた。ハンノは影がなかった。さらにアンテロという鏡に姿が映らない少年が登場する。そして3人は変わっている同士が集まるオリジナルクラブを設立した。3人は助け合って、大人になっていった。

以上の4編を含む15編が収録されている。→人気ブログランキング

ジゴロとジゴレット サマセット・モーム

モームは通俗小説家というレッテルが貼られている。あえてそう呼ばれる作家はモーム以外にそうはいないだろう。通俗小説は、日本でいえば純文学、つまり哲学的な要素をもつ小説より下に見られがちである。最近はそういう考え方が少数派になってきているが、モームが活躍した20世紀前半は、その傾向が強かった。モームは、人間の深層心理を難しい言い回しを使わずにさらりと書いてしまう、その筆さばきに驚くばかりだ。
モームの人物をたたみかけるように表現する。まるでそこに人物がいるようだ。「マウントドラーゴ卿」で、卿を診察する医師について、その見た目を書いている。死神のようではあるが信頼がおける医師が、今まさに診察しようとする姿が浮かんでくる。
ストーリーは二転三転し、思わぬ結末に到達する。まさに通俗作家と呼ばれるにふさわしい。本書はぶっ飛ぶくらい面白い。

Image_20200704112201 ジゴロとジゴレット
サマセット・モーム/金原瑞人
新潮文庫
2015年 10✳︎

「アンティーブの三人の太った女」The Three Fat Women of Antibes
未婚と寡婦と独身の三人の女はアンティーブで痩せようと努力をしているが、経過は思わしくなかった。そこに寡婦となったリサが加わった。リサはブリッジがうまく決してゲームに貪欲ではないという、三人の女の条件をクリアした。ところが、リサはいくら食べても太らない体質で、バター、生クリーム、フライドポテト、フォアグラ、シャンペンと、三人の前で遠慮することなく食べる。しかもブリッジが強い。ついに、三人はやけ食いに走るのだった。

「征服されざる者」The Unconquered
アネットは道を聞きにきたドイツ軍人のハンスに犯され身籠ってしまう。3か月後、ハンスは絹の靴下を買ってアネットの家を訪れたが、アネットに罵られた。ハンスはチーズと豚肉を持って再び訪れる。父母はハンスを信頼し、ハンスは父母に歓待されるようになる。ハンスはアネットが身ごもったことを知ると、旗色が変わり、アネットを思慕するようになる。アネットはハンスを拒否し続ける。

「キジバトのような声」The Voice of The Turtle
新人小説家と会う羽目になった。無礼で、自己主張が強く、仲間の作家を軽蔑していた。社交辞令でリヴィエラの別荘に誘ったところ、実際にやってきた。イギリスを離れるのは初めてだという。プリマドンナの恋物語を書きたいという。そこで、プリマドンナとの晩餐をセッティングした。出来上がった本を読んでプリマドンナが怒る。罵詈雑言を口にするが目は怒ってない。

「マウントドラーゴ卿」Lord Mountdrago
精神科のオードリン医師には、噂が噂を呼び治療費が高いにもかかわらず、患者が押しよせるようになった。
保守党のマウントドラーゴ卿は40歳前に外務大臣になり3年が経っている。欠点は家柄の伯爵位を鼻にかけることだった。
マウントドラーゴ卿は、公式のパーティでズボンを履いていなかった夢を見たという。翌日、下院のロビーで労働党のグリフィス議員が卿の下半身に目をやり笑ったのだという。次の夢は、議場で演説を始めると、舌を出して歌を歌うグリフィス議員がいたという。
医師は、一連の夢はマウントドラーゴ卿がグリフィス議員を莫迦にし続けたことが原因であるとし、グリフィス議員に謝罪するようにいう。それはできないとマウントドラーゴ卿は医師の要求を突っぱねた。

「良心の問題」A Man with a Conscience
流刑地の中心、フランス領ギニアのサン・ローラン・デュ・マロニは美しい町だ。ここに送られる受刑者のうち2/3は殺人犯である。受刑者に話を聞く。
殺人を冒したことを対して悪いと思ってない。こんなところに送られたと、殺した相手を恨んでいる始末だ。妻殺しの男の述懐がはじまる。

「サナトリウム」Sanatorium
サナトリウムは残酷なところだ。いずれ出てこられる人、死期が間近い人、長年白黒がつかずに暮らす人が、長期にわたって日常を共にする。患者同士が結婚することで、患者たちの死生観に変化をもたらす。

「ジェイン」Jane
ミセス・タワーの義理の妹・ジェインが27歳年下の青年と結婚した。夫のデザインする服を着て髪を切り見違えるようになったジェインのパーティには、有名人が集まってくるようになった。その魅力は奇抜なデザイン洋服の着こなしと話が面白いことだった。その話の中身とは。

「ジゴロとジゴレット」Gigolo and Gigolette
リヴィエラのカジノの出し物で、18メートルの飛び込み台から火を放ったプールに飛び込む技を披露していたステラは、その昔、弾丸娘と呼ばれてサーカスで危険な技を得意としていた老女の言葉を聞いて、怖気づく。→人気ブログランキング

月と6ペンス/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2014年
ジゴロとジゴレット/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2015年

『殺人は女の仕事』小泉喜美子

翻訳家でもある著者は、女性探偵ものの名著『女に向かない職業』(P.D.ジェームス)や古典ミステリの名著『時の娘』(ジョセフィン・ティ)などの翻訳で知られている。
8編の短編集。はじめに大胆な設定が示される。「美わしの思い出」では、孫が祖母を殺す場面からはじまる。「殺人は女の仕事」では、はじめの場面で主人公が知人の妻に殺意を抱く。なんとも強烈な出だしだ。短いセンテンスで小気味よく進み、結末には余韻を残す一捻りが控えている。


殺人は女の仕事 (光文社文庫)

殺人は女の仕事
posted with amazlet at 20.03.02
小泉 喜美子(Koizumi Kimiko
光文社文庫 2019年 ✳︎8
売り上げランキング: 668,306

「万引き女のセレナーデ」
男は警察官からデパートの万引き対策の保安員に転職した。1週前に保安員が初犯と見て見逃した万引き女が、若い男と仲むつまじそうに女の下着売り場に現れ、再び万引きを働いた。ふたりは囮で、同じ階で大掛かりな窃盗が行われたのだ。女は警察に逮捕された。保安員と女はそれぞれが好ましく思っていたのだ。

「捜査線上のアリア」
少年は模造がんをポケットに突っ込み暗黒街の花形になる空想を抱いていた。パトカーのサイレンを聞いたときに、本物の犯罪を冒して夜の街に逃げ込みたいと思った。アパートの隣の女の部屋に、刑務所を出たばかりの男が人を殺めたと現れた。男は少年に死体の処理を手伝わせた。少年が遺体との間で殺し合いになったとことにしようと、男がナイフを少年に向けたとき、少年は模造がんを抜いて一目散に逃げた。パトカーに保護を求めた。パトカーの中で、なぜ模造がんを男に向けたのか警察に説明できないと思った。

「殺意を抱いて暗がりに」
理香子は世紀子を殺そうと片手に石を持って暗闇で待ち伏せしていた。世紀子の足音が近づいたと思い、理香子は石を振り上げて襲おうとすると、その人は逃げて行った。翌朝、朝刊には少年Bにより世紀子が刃物でめった刺しにされ死亡した記事が載っていた。少年Bは「相手は誰でもよかった」と供述した。週刊誌の記事に世紀子の殺人事件が載った。「石を持った女が怖い顔で睨んだので殺すのを止めた。その次に通りかかった女を殺した」と少年Bは答えていた。

「二度死んだ女」
月子は大病から何年か経ってカンバックした。今は三流のスナックに毛が生えたような店での出番を控えている。脱いだ服さえ置き場がないようなナイトクラブだ。
月子がステージに立っている間に盗難が発生した。月子は実際に盗まれた金額の10倍を盗まれたと老刑事に言った。そして犯人が捕まって、申告通りの額が手元に入った。老刑事は月子を初めて見たとき、美貌のジャズシンガーの母親だと確信したという。

「毛(ヘアー)」
年に数回、若い男から電話がかかってきて、寝ている良人と赤ん坊をおいて夜の街に出かける。翌朝デートを終えて帰ってくると、良人も赤ん坊も寝たままだった。自分の新しい枕カバーに1本の毛がついていた。布団をまくると新しかったシーツの上に縮れた毛が1本あった。

「茶の間のオペラ」
未亡人の小説家に、嫁いだ娘から電話がかかる。急を要するようだ。すぐに娘の嫁ぎ先のマンションに向かう。姑はべらべら喋り続け、もてなしの品々を並べる。娘は妊娠したという。それを知っておいとますることにする。エレベーターまで姑は見送りに出てきた。階段は下の方が暗く見えた。家に帰ると、嫁が見当たらない。暗い2階に向けて嫁を呼ぶ。

「美わしの思い出」
高2のあや子は小言を言われた祖母のやよいを殴って殺した。祖母は私を監視して小言を言い続けたと供述した。
あや子は学校を辞めてミュージカルのスターになるとやよいに言った。やよいはP劇団の公演会場の楽屋に乗り込む。そこで主役を務める女とかつて応援していた久方光に会う。警察に主役と光が説明にやってきた。やよいはあや子に自由にさせていたと言っていたと二人は説明した。少年院に入ったあや子は一切反省していないという。

「殺人は女の仕事」
滋賀子は編集社の編集担当。新人の小説志望の杉園伸一を紹介されたとき、心にときめくものを感じたと。そして伸一の妻こずえに会ったときに、殺したいと思った。
こずえに意地悪をしてやると志賀子は誓った。伸一にこずえの高校時代の友達から聞いた話を伝える。もちろん悪口だ。それを苦にこずえがマンションの屋上から飛び降りようとするという。→人気ブログランキング

女に向かない職業/P.D.ジェームス/小泉喜美子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫/1987年

なにかが首のまわりに チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ

アフリカ人の視点で、日常の瑣末な出来事や心の襞を巧みに描く。鋭い感性で綴られた知性あふれる文章は読む者を引き込む。ストーリー・テラーと呼ばれるにふさわしい。デビュー以来、旺盛に生み出された作品は、数々の文学賞〈O・ヘンリー賞(2003年)、コモンウェルス賞(2005年)、オレンジ賞(2007年)、米国批評家協会賞(2013年)〉などを受賞している。
本書は、2009年に出版された短編集の翻訳であると同時に、訳者が日本で独自に組んだ短編集『アメリカにいる、きみ』『明日は遠すぎて』から6編ずつを選び加筆修正した上で文庫化したものである。どの作品も複数回読んで、その度に新しい発見がある。
著者は、TEDトークの『男も女もみんなフェミニストじゃなきゃ』と題する講演で、「ジェンダーのことはいまも問題があるから改善しなればと思うすべての人がフェミニストだ」と述べて、「フェミニスト」という言葉のイメージを塗り替えた。

なにかが首のまわりに (河出文庫)

チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ
くぼたのぞみ
河出文庫 2019年7月 ✳︎10
売り上げランキング: 38,259

「セル・ワン」
はじめは母親のジュエリーを盗んだ。犯罪者となっていく美形の兄を妹の目線で語る。

「イミテーション」
夫が浮気していると電話で伝えられた。夫はナイジェリアのラゴスにいて、妻はフィラデルフィアで二人の子どもと暮らしている。夫はクリスマスシーズンにフィラデルフィアにくる。妻はラゴスに戻ると夫にいう。新しいハウスボーイが雇われるとき、家にいたいからと理由をいう。

「ひそかな経験」(「スカーフ」を改題)
ラゴス大学の医学部に通うチカが、市場で暴動に遭遇し、異教徒の女と一緒に逃げ込んだのが廃屋。女は暴動を「悪魔のしわざ」という。
外の騒ぎが落ち着くと、乳飲み子がいる女は乳首が乾燥してひび割れるという。ココナツバターを塗るといいとチカは伝える。
チカが外に出ようと窓によじ登ったときに腿に創を負った。女のスカーフを借りて縛った。暴動が収まって別れしなに、スカーフをもらった。

「ゴースト」
71歳の元大学教授が年金のことを訊ねるために大学に行ったときに、かつての同僚に出会った。戦争に巻き込まれて死んだと思われていた。
色あせた大学町で、支給されることのない年金を待ちながら、どのような生活を営んでいるのかと、かつての同僚は訊く。

「先週の月曜日に」
夫がユダヤ人で妻がアフリカン・アメリカンの息子のベッビー・シッターになった主人公の、微妙な女心が描かれる。アメリカ留学時のベビー・シッターの実体験をもとに描いたという。

「ジャンピング・モンキー・ヒル」
アフリカ出身の若手作家のワークショップに参加するため、ウジュンワはケープタウン郊外のジャンピング・モンキー・ヒルに来ている。8人の参加者は短編を最初の1週間で仕上げ、2週目はそれぞれの作品を合評するというスケジュールだ。
主催者のエドワードが、ウジュンワを色目で見ているとみんなが気付いているという。
ウジュンワの作品が論評される。高学歴の女性の話だ。パワハラに対抗して職場を去るという結末に現実味がないというエドワードは言う。
そのサジェッションにウジュンワは憤慨したが、結末を訂正してもいいかなと思ったというのが結末。
幾重にも仕掛けがある傑作だ。実際に、著者はアフリカ出身の作家を集めたワークショップを毎年開催しているという。

「なにかが首のまわりに」(「アメリカにいる、きみ」を改題)
アメリカに渡ったナイジェリアの女性が白人の学生とつきあう。
首に何かが巻きつくような感じがしてそれが薄れる頃、家に手紙を書いた。父親が5か月前に亡くなったことを知った。学生は6ヵ月以内に戻らなければグリーンカードの権利をなくすからと、何度も念を押す。

「アメリカ大使館」
難民ヴィザを発行してもらうために、ラゴスにあるアメリカ大使館の列に何時間も並んでいる。
女性は、昨日子どもを埋葬し、一昨日ジャーナリストの夫を国外に逃走させた。その前の日、彼女の生活はいつもと変わりなく、車で勤め先の小学校から帰宅した。その夜、男3人が夫を探して家に乱入してきた。帰り際に息子を銃で撃った。
列のすぐ後ろの若い男から、面接官の目をまっすぐ見ること、口ごもらないこととアドバイスを受けた。息子が殺されたことを何度も訴えるが、面接官は自分の命が狙われている証拠を示すようにという。O・ヘンリー賞受賞作。

「震え」
部屋のドアを大きな音で叩いたのはナイジェリア人の男だった。ナイジェリアで航空機が墜落し、ナイジェリアのファーストレディが死んだ。で、一緒に祈りたいという。男がウカマカの手をとって祈ると、彼女は自分が震えるのがわかった。ウカマナがつき合っていた男がその飛行機に乗っているかもしれない。
ドアを叩いた男はペンテコステ派で、ウカマカはカソリック。男はゲイだと告白した。ユーモアとペーソスが感じられる作品。

「結婚の世話人」(「新しい夫」を改題)
ナイジェリア人の医者と結婚し、ニューヨークに着いた。翌朝キスをされて市場のゴミの山の臭いがした。両親が死んでおじさんに育ててもらい、数週前におじさんに紹介された相手だ。アメリカに住むナイジェリア人で医者だぞと、掘り出し物のような言い方だった。
前に結婚していたことを知らされて嫌になったが、行くところがない。

「明日は遠すぎて」
18年前に、アメリカに住む兄妹がナイジェリアの祖母の家で過ごした夏の悲劇を綴る。〈おばあちゃんが、蛇ってのは「エチ・エテカ(明日は遠すぎて)」っていわれてるんだ、ひと咬みで10分後には、お陀仏だからね、といった。〉というのがタイトルの出どころ。

「がんこな歴史家」
近代化するナイジェリアをひとりの女性を通して綴る。
ンワムバはひとりっ子のオビエリカと結婚した。流産をくりかえすンワムバは夫にに第2夫人をもつことを勧めたが、夫は意に介さなかった。ンワムバは男の子を産みアニクウェンワと名づけた。オビエリカが突然死んだ。葬儀のあいだにオビエリカの従姉妹たちが、象牙を持ち去った。その後も従姉妹たちがオビエリカの土地を奪おうとした。
ウワムバは従姉妹たちとの訴訟に勝てるようにと、息子を教会に通わせ英語を習得させた。息子は英語が話せるようになり、英語力のおかげで土地を取り戻せた。ところが息子は異教徒のキリスト教徒になってマイケルと名乗るようになった。息子はンワムバに胸を隠すように言った。
息子が選んだ嫁にンワムバは決して優しくしないと決意したが、人懐っこい優しい嫁に目をかけるようになった。ムワンバはイボ族の女たちがするように陶器を作った。男と女の孫が授かった。ンワムバはグレイスと名づけられた赤ん坊を抱いたときに、目をきらきらさせて、ンワムバの目をじっと見たので、夫のスピリットが戻ってきたと思った。ンワムバはグレイスをアファメナフと名づけた。「わたしの名前は失われることはないだろう」という意味だ。グレイスは歴史家となって本を書き、数々の賞を受賞した。グレイスは祖母がつけてくれた名前に改名することにした。アファメナフは暮れなずむ光の中、祖母のベッドの傍に座りながら、陶器づくりで肥厚した祖母の掌を握っていた。
本作で「アメリカ大使館」(2003年)に続き、2度目のO・ヘンリー賞(2010年)を受賞している

なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

『馬を愛した男』テス・ギャラガー

著者の初めての短編集。発表当時、絶賛されたという。
訳者の解説によれば、アイデアの多くは著者の母親の話からという。母親はストーリーテーラーだ。
テス・ギャラガーは、1943年にワシントン州ポート・エンジェルスという太平洋に面した林業の町で生まれた。父親は木こりをはじめとする肉体労働に従事していた。ポート・エンジェルスが舞台になったと思われる作品もいくつかある。
テスはワシントン大学を卒業後、自分に文学の才能があると目覚め、陸軍のパイロットであった最初の夫と別れ、アイオワ大学創作科に学んだ。1974年に詩集『Stepping Outside』刊行し、詩人として頭角を現した。その後1980年から1990年の間、シラキュース大学に籍を置き、教鞭をとっている。
テスは、1979年にレイモンド・カーヴァーと暮らしはじめ、1986年に本書を刊行した。1988年にはカーヴァーと結婚したが、2ヶ月後にカーヴァーは亡くなっている。テスはカーヴァーに勧められて小説を書きはじめたという。作品には詩人のセンスが光る言葉が散りばめられれている。
前妻とのいざこざについて書かれた作品や、激しい性格の弟について書いた作品など、実際に身の回りで起こったことからヒントを得て書いた作品がいくつかある。そのひとつ、祖父からの一家のクロニクルを書いた本書のタイトルとにもなっている「馬を愛した男」は傑作だ。含意のある読後感が残る秀作が揃っている。

馬を愛した男
馬を愛した男
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テス・ギャラガー/黒田絵美子
中央公論社
1990年 ✳︎9

・ジプシーの血を引く大酒飲みだった曽祖父のこと、ジプシーの血が強烈であること、最期の父との魂の交流のこと、娘の自分が父とよく似ていること。「馬を愛した男」
・治安が悪い地区に住宅を買った。夫がホームレスに声をかけたところ、家に現れるようになった。隣の家主はホームレスの男に銃を突きつけ、空に向けて銃を撃った。その場面を車中で見ていた妻に対しても、家主は威嚇の言葉を吐いた。「死神」
・隣人のジュエルは家を夫バードの名義にしたばかりに、バードに家を追い出されることになった。ジュエルの妹はバードの女のプードルをさらってカリフォルニアに連れて行った。ジュエルは夫の車をぶち壊し、夫の手に渡ることになった家に火をつけた。私とジュエルは、カリフォルニアに向かった。「遡求権」
・訪問販売の女性が、霊媒師の話をして連絡先をおいていった。訪問販売を快く思っていない夫が帰ってきて、霊媒師の名刺を見て当たるはずないと言ったが、興味深々そう。「テレピン油」
・離婚の話が進んでないようだ。潰瘍で入院しているロバートに奥さんが見舞いにきたという。ひどい服装だったので、デパートで服を買ってやったという。煮え切らないロバートに奥さんのもとに戻ればと言うと、愛しているという。「なすがまま」
・ぼやけた世界を見ることが好きな少女の眼鏡へのこだわり。「眼鏡」
・72歳のミス・ニックスは赤ん坊の頃、無法者のガンマンに抱き上げられた。無法者は泣きさけぶ赤ん坊で、保安官から顔を隠して事なきを得たという。そのミス・ニックスを友人とふたりで介護した話。「ジェシー・ジェイムズを救った女」
・受取人を前妻との子どもにした夫と、受取人を夫にした妻とのいざこざ。「受取人」
・夫もホーマーと同じで酒が好きだった。ホーマーは悪い仲間と加わって惨めな死に方をした。夫が酔っ払って暴言を吐いたことがあった。それ以来、夫婦仲は冷え沈黙の夜を過ごしている。「悪い仲間」
・手に負えない弟の暴言に対して夫がなにか言ってくれてもいいのにと妻は不満に思った。しかし男の危険はそこらじゅうに転がっている。夫は温和で臆病者だ。危険に真正面からぶつからなくてもいいと妻は思った。「いくじなし」
・ヘミングウェイが自殺したりアイヒマンがエルサレムで裁判にかけられた頃、町の新聞社で働き始めた17歳のわたしが、一緒に働いたヤクザな男の話。「やけくそ」
・43年も会わなかった少女時代の親友に会いにく。首尾よく会えたが。。「娘時代」→人気ブログランキング

ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー/橋本博美 新潮社 2008年
馬を愛した男』テス・ギャラガー/黒田絵美子 中央公論社 1990年

『ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー

詩人であるテス・ギャラガーはレイモンド・カーヴァーに勧められて小説を書きはじめたという。テスはレイの晩年の10年を共に過ごし、レイが亡くなる2か月前に入籍している。ユーモアとペーソスが入り混じった傑作ぞろいだ。
離婚を経験しレイと死別したテスの実生活を反映して、離婚や死別のバックグランドを抱えた女性が主人公の作品がいくつか見られる。前作『馬を愛した男』に比べると、温和な印象を受ける。
芭蕉の句を自分の墓石に刻もう思うシーンや仏教の教えが出てきたり、良寛の歌が引用されたりして、日本の古典に興味を持っていることがうかがわれる。
巻末には、本書のために訳者が選択した母との対談と父について書いた2編のエッセイが収録されている。

ふくろう女の美容室 (新潮クレスト・ブックス)
ふくろう女の美容室
posted with amazlet at 19.03.02
テス・ギャラガー/橋本博美
新潮社
2008年 ✳︎10

 

・水恐怖症の女は美容室の隣で洗髪されている男の横顔を見て、胸の高鳴りを覚える「ふくろう女の美容室」。
・製材場の雇い主だった男と従業員だった男は落ちぶれた境遇で出会う。「むかし、そんな奴いた」
・美容室の老猫が始末され、残った猫が客の少女の首に爪をたて傷を残した。「生きものたち」
・離婚した妹から娘の養育を頼まれたが、妹は資産家と再婚し娘を取り戻しに来た。その後、姉が亡くなった。姉の夫は新聞の死亡広告に、遺族として自分の名前と妹の娘の名前を書いた。「石の箱」
・ローマの未亡人からの訴状をもって現れた男に、夫の死を知らせずに、夫の墓の住所を教える。「来る者と去る者」
・38歳の未亡人が護身用の銃を買うかどうか迷う。「マイガン」
・自分でネクタイを結べない隣に住んでいた作家の思い出。カーヴァーをモデルにしたらしい。「ウッドリフさんのネクタイ」
・「キャンプファイヤーに降る雨」は、妻の同僚だった盲目の男が妻を亡くして家に泊まりにくる話。カーヴァーの「大聖堂」で書かれている同じエピソードを書いた。
・スーパーのレジで、突っかかってくる女に、言い返したルビーはふと娘の座右の銘「人はみな、御仏」が思い浮かんだ。夫が釣ってきたニジマスをさばいていて、癇癪女とのやりとりは本気で腹を割ってやりあったのだと、思った。「仏のまなざし」
・夫宛の女からの手紙の束を見つけた妻は、様々なことに対して祈るようになる。「祈る女」
・「聖なる場所」には、園芸愛好家の母とテスの庭仕事をめぐる対話が記載されている。日本語の「庭」の意味は「聖なる場所」だ。
・「父の恋文」では、母への何通もの恋文によって父が徴兵を免れたことが書かれている。→人気ブログランキング

ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー/橋本博美 新潮社 2008年
馬を愛した男』テス・ギャラガー/黒田絵美子 中央公論社 1990年

『日曜日の午後はミステリ作家とお茶を』ロバート・ロプレスティ

主人公のレオポルド・ロングシャンクスは50歳のミステリ作家。
「事件を解決するのは警察。ぼくは話をつくるだけ」と言いつつ、警察の捜査にしばしば口を出し、ある時は警察に制され、ある時は見事な推理を披露する。そして警察とのやりとりのなかに、作品に使えそうなギミックがないかとアンテナを張っている。
シャンクスの妻コーラはロマンス作家として売り出したばかり。結婚20年目で、適度に仲が良くジャブ程度の軽い嫌味を言いあう。
安楽椅子探偵ものあり、事件の推移を見物するだけのものあり、ショートショートあり、深刻でない内容の牧歌的な14の短篇からなるコージーミステリである。

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ/高山真由美
創元推理文庫 2018年 ✴8

・シャンクスはロマンス作家としてデビューしたコーラの雑誌インタビューに同席する。インタビューは当たり障りのない内容で進み、カフェの窓の外では詐欺事件が起こり、警察がやってきて犯人が逮捕される。「シャンクス、昼食につきあう」
・ミステリ作家のコンベンションで、素人作家が酒をおごるから謎を解いてくれと数人の作家に持ちかける。議論百出し、シャンクスが誰も使ったことのないギミックを語る。「シャンクスはバーにいる」
・誤認逮捕された知り合いを助けるためにハリウッドに乗り込み、事件の謎を解く。「シャンクス、ハリウッドに行く」
・強盗に財布を盗まれたシャンクスは、凝りに凝った罠で犯人を撃沈させる。「シャンクス、強盗にあう」
・シャンクスが住む住宅街の車上荒らしが捕まる。盗品のマシンピストルがどこの家の車から盗まれたのかシャンクスが推理する。「シャンクス、物色してまわる」
・ミステリファンが集うイベントで起きた『マルタの鷹』の初版本紛失事件。「シャンクス、殺される」
・ATMから金を引き出そうとした男のキャッシュカードが機械に飲み込まれる謎を解く。「シャンクスの手口」
・シャンクスは 先達の文章をオーディブック聴き体に染み込ませ、文章をひねり出した。それが盗作だと電話の主は言う。電話の主は先達のゴーストライターだった。「シャンクスの怪談」
・馬の誘拐事件。「シャンクスの牝馬」
・シャンクスは町の建物の前の状態も前の前の状態も、上書きされずに覚えているという特技を持っている。その記憶力が強盗逮捕に役立つ。「シャンクスの記憶」
・出身大学の図書館で殺人事件が起き、寄贈したジャンクスの本がなくなった。「シャンクス、スピーチする」
・シャンクスはタクシーの運転手に妻の善意を気づかせる。「シャンクス、タクシーに乗る」
・ウィンドウズの技術サーポートから、マルウェアに感染してると電話で言われ、パソコンの遠隔操作を促されるが、シャンクスは詐欺と気づき撃退する。「シャンクスは電話を切らない」
・シャンクスは資産家の未亡人の夫の座を狙う男に忠告する。「シャンクス、悪党になる」
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『変わったタイプ』トム・ハンクス

名優トム・ハンクスの短編集。
ユーモアがあって温かく巧みだ。話の筋を悲惨な方向にもっていくと予想しながら読んでいると、決して悲惨にはならない。悲惨な方向に舵を切れば物語は容易に終結するが、そうしない。著者は妥協しないのだ。名優の文章は些細なことを徹底的に描き出す。神は細部に宿るだ。題材はバリエーションに富んでいて、半分の作品がスラップスティックに展開する。
多くの作品でタイプライターが登場するのは、著者が年代物のタイプライターの収集家だからだ。それがいい味を出している。

「アラン・ビーン、ほか四名  Alan Bean Plus Four」は、最近日本でなにかと話題を提供しているネット通販会社のちょび髭社長が契約したという、月を回って帰ってくるルートの宇宙旅行の話である。本作は、著者が主演の映画『アポロ13号』(1995年)にヒントを得ているだろう。本作が2014年に雑誌『ニューヨーカー』に掲載されて、小説家としてデビューした。はじめから、実力が認められていたということだ。
『ニューヨーカー』の位置付けについて、村上春樹は次のように述べている。〈僕にとって、『ニューヨーカー』という雑誌は、長いあいだにわたって、ほとんど伝説か神話に近い聖域に属するものであった。〉掲載されたときは、どの賞をもらったときよりも嬉しかったという(『象の消滅』)。

本書には13編の短編のほか、〈ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」〉と題した架空のローカル紙のコラムという体裁をとった4編が挟み込まれている。これがほのぼのなのだ。

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス)
変わったタイプ
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トム ハンクス/ 小川高義
新潮社 
2018年8月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 1,802

高校の同級生だった女性と出会う。一緒に住むことになり、その猛烈なフィジカル・エクササイズに付き合わされる。はじめはジョギング、次にスキューバダイビング、もちろんセックスも、そして南極行き。いけるところまでついていこうとするが、とても無理。「ヘトヘトの三週間   Three Exhausting Weeks」

雪のイヴ、父親はクリスマス・プレゼントを買って車に隠しておく。サンタがプレゼントを持ってくるという話を、妻と長男とグルになって下の二人の子どもに信じこませる。子どもたちがベットに入ったところで、車からプレゼントを運び出す。
話は、第一次世界大戦のヨーロッパ戦線に飛ぶ。戦友と年に1回、クリスマス・イブに電話で話し、生還できた喜びに浸るのだ。「クリスマス・イヴ 1953年  Christmas Eve 1953」

俳優の端くれロリー・ソープは『カサンドラ・ランパート3』に出演したおかげで、銀行に預金ができた。しかも経費なしで豪勢なヨーロッパ旅行ができる。
一緒にプレスツアーを回る主役のウィラ・サックスが、マーケティングを担当したアイリーンに電話をかけてくる。「ダサイ受け答えしかできないロリーをなんとかして」と。突然、フィラが夫と離婚することになった。夫が商売女ともめてマリファナ所持で拘置されそうだという。
「結局、映画に出ていたロリーって誰だっけ、みたいな男なのよ」とアイリーンにいわれて、特別待遇は終わる。「光の町のジャンケット  A Junket in the City of Light」

父と大学生のカークは、久しぶりにマーズ海岸でサーフィンを楽しむことになった。カークはサーフボードで脚に裂創を負ってしまう。父を探すと髪の長い女とスタバのコーヒーを飲んでいた。血を流しながらもカークは邪魔をしない。
「ようこそ、マーズへ  Welcome to Mars」

8月に、ベットは3人の子どもとともにグリーン通りに引っ越してきた。別れた夫が養育費を払うことになったので経済的な不安はない。となりの独身の中年男がハムをもって挨拶にきた。今夜は、忙しいですか?その言葉にベットは引っかかった。露骨な誘いと思ったのだ。「グリーン通りの1ヵ月 A Month on Green Street」

アリゾナからNYに出てきたスーは、安アパートのソファーに寝場所を確保した。アパートを提供している女とルームメートは、7週間すぎてスーを厄介者扱いするようになった。履歴書をタイプで打とうと図書館に出かけたときに、アリゾナの劇団の総監督をしていた同性愛者のボブにばったり会う。
ボブの指導で業界で通用する履歴書をタイプで打つ。と、運が開けていく。「配役は誰だ Who's Who?」

10歳になろうとするケニーは父と継母と兄姉とくらしている。週末、ケニーと過ごすのため赤いスポーツカーで母がむかえにきた。翌日ミニゴルフをふたりで楽しみ、前に暮らしていた家を見に行った。帰りは母の友だちが飛行機に乗せてくれるという。飛行機の操縦桿を握らせてもらってご機嫌なケニーだったが、着陸した場所は毛に\乃家からはるかに離れた場所だった。「特別な週末 A Special Weekend」

男と別れた女は、メソジスト教会のガレッジセールで筺体がプラスチックのタイプライターを買った。スペースキーが機能しないので修理にもっていくと、店の老店主はすぐにまた動かなくなるという。女性はタイプライターについて質問し、店主はそれに応え、タイプライターを出して紙を挟み、機能を講釈してくれる。そこで、ヘルメス2000スイス製を買った。アパートに帰ってノイズレスのタイプを打つ、「心の中で思うこと」と。
タイプライターを知り尽くしているからこそ書ける作品だ。「心の中で思うこと These Are the Meditations My Heart」

タイムトラベルもの。悲惨な結末をそう感じさせない。
「過去は大事なもの  The Past Is Important to Us」

コメディ映画の脚本。
「どうぞお泊まりを  Stey with Us」

ギリシャからアメリカに船で密入国したブルガリア人の話。アッサンはジョニー・ウォーカーの赤2本で船の機関長と話をつけなんとか乗船できた。機関長はアッサンは密入国してなんとかやっていけるとにらんでいる。
アッサンはフィラデルフィアのギリシャ国旗を立てている事務所を訪れた。上着とズボンを用意してくれて、英語教室を紹介してくれた。そしてギリシャ料理のコスタスの店に行って雇ってもらうようにと、アドバイスを受けるのだが。。「コスタスに会え  Go See Costas」

ボーリングでパーフェクトを出し続ける友人スティーヴ・ヴォンと3人の仲間の話。
「スティーヴ・ヴォンは、パーフェクト Steve Wong Is Perfect」→人気ブログランキング

『明日は遠すぎて』チママンダー・ンゴズィ・アディーチェ

本書には、著者の2冊目の短編集『なにかが首のまわりに』に収録されている12編のうちの6編と新作3編を加えた9編が納められている。
近代化のもたらす矛盾に翻弄される人びとや、近代化と消えゆくアフリカの風習の煩わしさとこだわりのはざまで生きていく人びとが描かれている。

明日は遠すぎて

明日は遠すぎて
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チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ
河出書房新社
2012年  ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 541,188

18年前に、アメリカに住む兄妹がナイジェリアの祖母の家で過ごした夏の悲劇を「きみ(妹)」という二人称で綴る。
〈おばあちゃんが、蛇ってのは「エチ・エテカ(明日は遠すぎて)」っていわれてるんだ、ひと咬みで10分後には、お陀仏だからね、といった。〉というのがタイトルの出どころ。「明日は遠すぎて  Tokorrow Is Too Far」

部屋のドアを大きな音で叩いたのはナイジェリア人の男だった。ナイジェリアで航空機が墜落し、ナイジェリアのファーストレディが死んだ。で、一緒に祈りたいという。男がウカマカの手をとって祈ると、彼女は自分が震えるのがわかった。ウカマナがつき合っていた男がその飛行機に乗っているかもしれない。
ドアを叩いた男はペンテコステ派で、ウカマカはカソリック。男はゲイだと告白した。ユーモアとペーソスが感じられる作品。「震え  The Shivering」

6年間アメリカに留学していた娘はナイジェリアで結婚式を挙げることになった。娘の変わりように母親は戸惑い、ふたりの意見はことごとく食い違った。娘は母親を太ったブルジョアと呼んだ。披露宴が始まると、プランナーが母親に、娘が最初のダンス曲を「スイート・マザー」に変えたと告げた。ナイジェリアの結婚披露宴ではダンスが延々と続く。ダンス曲の選定には気を使うし、その順番も重要であるという。「クオリティ・ストリート Quality Street」

夫がユダヤ人で妻がアフリカンアメリカンの息子の、ベッビーシッターの微妙な女心が描かれている。アメリカ留学時のベビーシッターの実体験をもとに描いたという。「先週の月曜日に  On Monday of  Last Week」

渋滞に巻き込まれた。となりの車の派手な髪型をした金持ちそうな女がこちらをにらんでいる。という前置きがあって、チクワドの妻子ある男との不倫が語られる。給仕や運転手や門番のチクワドを無視する態度に、男の妻の存在を感じていた。それに苛立つチクワドは、渋滞でにらんでいる女が妻ではないかと思いはじめる。「鳥の歌  Bird Song」

オビンゼに大学時代のガールフレンドから、ナイジェリアに帰ったら会いたいというメールがきた。裕福な暮らしができるようになったオビンゼは、妻とともに首長のパーティに出席している。妻とは心が通っていない。パーティから早く帰って、メールの返事を無性に書きたくなった。新しいことが起こって欲しいと思った。長編『アメリカーナ』の一部。「シーリング  Ceiling」

アフリカ出身の作家のワークショップに参加するためウジュンワはケープタウン郊外のジャンピング・モンキー・ヒルに来ている。8人の参加者は雑誌に載せる短編を最初の1週間で仕上げ、2週目はそれぞれの作品を合評するというスケジュールだ。
文中には、ウジュンワが書いている短編が差し込まれている。
主催者のエドワードが、ウジュンワを色目で見ているとみんなが気付いているという。
ウジュンワの作品が論評される。高学歴の女性の話だ。パワハラに対抗して職場を去るという結末に現実味がないというエドワードは言う。
そのサジェッションにウジュンワは憤慨したが、結末を訂正してもいいかなと思ったというのが結末。
幾重にも仕掛けがある傑作だ。実際に、著者はアフリカ出身の作家を集めたワークショップを毎年開催しているという。「ジャンピング・モンキー・ヒル Jumping Monkey Hill」

はじめは母親のジュエリーを盗んだ。犯罪者となっていく美形の兄を妹の目線で語る。「セル・ワン Cell One」

近代化するナイジェリアをひとりの女性を通して綴る。
ンワムバはひとりっ子のオビエリカと結婚した。流産をくりかえすンワムバは夫にに第2夫人をもつことを勧めたが、夫は意に介さなかった。ンワムバは男の子を産みアニクウェンワと名づけた。オビエリカが突然死んだ。葬儀のあいだにオビエリカの従姉妹たちが、象牙を持ち去った。その後も従姉妹たちがオビエリカの土地を奪おうとした。
ウワムバは従姉妹たちとの訴訟に勝てるようにと、息子を教会に通わせ英語を習得させた。息子は英語が話せるようになり、英語力のおかげで土地を取り戻せた。ところが息子は異教徒のキリスト教徒になってマイケルと名乗るようになった。息子はンワムバに胸を隠すように言った。
息子が選んだ嫁にンワムバは決して優しくしないと決意したが、人懐っこい優しい嫁に目をかけるようになった。ムワンバはイボ族の女たちがするように陶器を作った。男と女の孫が授かった。ンワムバはグレイスと名づけられた赤ん坊を抱いたときに、目をきらきらさせて、ンワムバの目をじっと見たので、夫のスピリットが戻ってきたと思った。ンワムバはグレイスをアファメナフと名づけた。「わたしの名前は失われることはないだろう」という意味だ。グレイスは歴史家となって本を書き、数々の賞を受賞した。グレイスは祖母がつけてくれた名前に改名することにした。アファメナフは暮れなずむ光の中、祖母のベッドの傍に座りながら、陶器づくりで肥厚した祖母の掌を握っていた。「がんこな歴史家  The Headstrong Historian」
本作で「アメリカ大使館」(2003年)に続き、2度目のO・ヘンリー賞(2010年)を受賞している。→人気ブログランキング

なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

アメリカにいる、きみ チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

著者はナイジェリア出身の女性。鋭い感性で綴られた知性あふれる文章は読む者を引き込む。ストーリー・テラーと呼ばれるにふさわしい。デビュー以来、旺盛に生み出された作品は、数々の文学賞〈O・ヘンリー賞(2003年)、コモンウェルス賞(2005年)、オレンジ賞(2007年)、米国批評家協会賞(2013年)〉を受賞している。
本書は翻訳者が選抜した日本オリジナルの短編集で、著者のアドバイスを受けたという。

「アメリカにいる、きみ」
きみという二人称で書かれている。
きみはナイジェリアからアメリカに行き公立のカレッジに通うことになったが、おじさんの性的要求を拒んでコネチカット州の小さな町のレストランに転がり込んだ。
大学へは通えず、給料とチップの半分を故郷に仕送りしたものの、手紙は書かなかった。白人の学生と付き合うようになり、やがて両親に紹介され好意的に迎えられた。
首に何かが巻きつくような感じがしてそれが薄れる頃、手紙を書いた。父親が5か月前に亡くなったことを知った。恋人は、6月以内に戻らなければグリーンカードの権利をなくすからと、何度も念を押した。


アメリカにいる、きみ
アメリカにいる、きみ

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チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ
河出書房新社 2007年 ✳︎10
売り上げランキング: 47,238

「アメリカ大使館」
難民ヴィザを発行してもらうために、ラゴスにあるアメリカ大使館の列に何時間も並んでいる。
その女性は、昨日子どもを埋葬し、一昨日ジャーナリストの夫を国外に逃走させた。その前の日、彼女の生活はいつもと変わりなく、車で勤め先の小学校から帰宅した。その夜、男3人が夫を探して家に乱入してきた。帰り際に息子を銃で撃った。
列のすぐ後ろの若い男から、面接官の目をまっすぐ見ること、口ごもらないこととアドバイスを受けた。息子が殺されたことを何度も訴えるが、面接官は自分の命が狙われている証拠を示すようにという。O・ヘンリー賞受賞作。

「見知らぬ人の深い悲しみ」
チネチェルムは9年前に起こった恋人の悲劇的な事件から人が変わってしまった。
それを乗り越えようと、ロンドンでデートすることになった。同じナイジェリア人のオディンはハンサムで、話はいい具合に盛り上がっていく。長い名前を省略してオディンと名乗っているといった。それを知って付き合うのをやめた。

「スカーフ-密かな経験」
市場で暴動に巻き込まれ無人の家に隠れると、市場に店を出している女と一緒だった。チカはアメリカの医大に通ってると自己紹介した。モスリムの女は子どもが5人いて、授乳のため乳首のひび割れで悩んでいるという。
チカが外に出ようと窓によじ登ったときに腿に傷を負った。女のスカーフを借りて縛った。暴動が収まって別れしなに、スカーフをもらった。

「半分のぼった黄色い太陽」
ビアフラ戦争をテーマにした作品。同名の長編小説がある。
内戦で邸と身分を奪われた裕福だったイボ族の一家を描いている。

「ゴースト」
71歳の元大学教授が年金のことを訊ねるために大学に行ったときに、かつての同僚に出会った。戦争に巻き込まれて死んだと思われていた。
往時の勢いをなくして色あせた大学町で、支給されることのない年金を待ちながら、どのような生活を営んでいるのか知りたいと、その男は訊く。

「新しい夫」
ナイジェリア人の医者と結婚し、ニューヨークに着いた。翌朝キスをされて市場のゴミの山の臭いがした。両親が死んでおじさんに育ててもらい、数週前におじさんに紹介された相手だ。アメリカに住むナイジェリア人で医者だぞと、掘り出し物のような言い方だった。
前に結婚していたことを知らされて嫌になったが、行くところがない。

「イミテーション」
妻はアメリカに住んでいる。夫は50人の有力なナイジェリア人実業家の1人に数えられるほど成功している。夫は仕事や休暇でときどきフィラデルフィアの自宅に帰る。ナイジェリアの家に女が出入りしているという噂を聞いた。ママ友は今更国には戻れないという。子ども達をあの中に混ぜることはできないという。
妻はナイジェリアに帰って暮らしたいと夫に言う。

「ここでは女の人がバスを運転する」
ケンは安アパートに住んでいて、稼いだ金のほとんどは仕送りしている。
ある朝バスに乗ると黒い肌の女性運転手がにこやかに話しかけてきた。ケンの生活は張り合いのあるものへと一変する。

「ママ、ンクウの神さま」
主人公はアメリカの大学でアフリカ文学を教えている女性。父親はイボ族、母親はイギリス人。
父親の郷里の祖母のもとで休暇を過ごした幼き日を綴る。

なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

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