短篇

ショート・カッツ

  Short-cutsショート・カッツ
映画公開のあとに出版されたペーパーバック(1994年)
Short-cutscinemaレイモンド・カーヴァーの作品をもとに描いたオムニバス映画
監督:ロバート・アルトマン
アメリカ 1993年 187分

「隣人」(Neighbors『頼むから静かにしてくれ』より)
夫婦には、隣に住む夫婦が自分たちよりも充実した輝かしい生活を送っているように思えた。隣の夫婦が旅行に出かけるので、家の鍵を渡され猫の世話と芝生の水撒きを頼まれた。他人の家庭生活の現場を目の当たりにすると性的に興奮するのか、夫は妻を求める。夫は隣の家の戸棚を開けたり、ウィスキーを飲んだり、夫の服を着たり、その妻の下着を身につけたりしていた。
妻が猫に餌をやりに家に入り、引き出しの写真をまじまじと見てる。そして、妻は鍵を燐家のなかに置き忘れたまま扉を閉めてしまう。

「そいつらはお前の亭主じゃない /ダイエット騒動」(They're Not Your Husband『頼むから静かにしてくれ』より)
男は、妻がウェートレスとして働いている24時間営業のコーヒーショップに寄ってみた。ふたりの男が妻の後ろ姿を見て太りすぎだと言っている。帰えってきた妻に痩せたらどうかと提案してみた。妻は4キロ減らした。急に痩せたのはどこか悪いのじゃないかと言われたと妻が言う。そいつらはお前の亭主じゃないんだ、余計なことをいうなと男はいう。
ある夜、妻の働くコーヒーショップにより、別のウェートレスにもう一人のウェートレスな感じが変わったと男はいう。隣の男にどう思うと妻のことを尋ねる。そのうちに別のウェートレスが、あの男は変だと言い出す。妻は亭主なのと明かす。

「ビタミン」(Vitamins『大聖堂』より)
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄る。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「頼むから静かにしてくれ」(Will You Please Be Quiet, Please?『頼むから静かにしてくれ』より)
ふたりは大学の同級生でふたりとも教師の職を得、それまでは、順風満帆といっていい暮らしだった。
2年前のパーティーのときだ。妻が男と消えた。
夫はそのことについてそのあと何度も問い詰めた。怒らないから本当に、あの夜何があったのか言ってくれと。
本当のことを話したら、破局がくることを妻は感じている。

「足もとに流れる深い川」(『愛について語るときに我々の語ること』)
夫と友人ふたりは、釣りに出かけた。そこで若い娘の全裸死体を発見したものの、引き返すことなくテントを張り2日間そこで釣りをしたりポーカーをしたりウィスキーを飲んだりして過ごした。
3人は事情聴取を受ける。それ以来夫は不機嫌のままだ。
私は葬式に出る。そこで犯人が捕まったことを知らされる。この町の子どもだという。
家に帰ると夫がウィスキーを飲んでいた。息子はまだ帰ってきていない。ふたりは息子が帰ってくるまでの間に急いでことを済ませることで意見が一致する。

「何か役に立つこと」 (A Small, Good Thing『大聖堂』より)
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。
パン屋から電話がかかってきた。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ジェリーとモリーとサム /犬を捨てる」(Jerry and Molly and Sam『頼むから静かにしてくれ』より)
勤めている会社がレイオフを発表する前に、月200ドルの家賃の家を借りてしまった。
男は浮気をしていた。彼はすべてこのとについて自分でコントロールする力を失いつつあった。
犬を捨てなければならない。小便は垂れるし、そこら中を噛む。秩序を取り戻すためには、犬をこの家から追い出さなければならない。

「収集」(Collectors『頼むから静かにしてくれ』より)
雨の降る日、前に住んでいた夫人がアンケートに答えて、懸賞に当選したので景品を届けにきたと男が訪ねてきた。男は家に強引に入ってきて、バッグを開けその景品を組み立て始めた。なんのかんのと言いながら、帰った方がいいのではないかという忠告を無視して、出来上がったのは真空掃除機。そして、吸塵の性能を証明するかのように、掃除を始める。カーペットに液体を撒き散らし吸引する。
1ドルも払えない、金がないと男に伝えた頃には、掃除機をバッグの中にしまいこんでいた。男は、この掃除機は要りませんかという。

「出かけるって女たちに言ってくるよ」(Tell the Women We're Going『愛について語るときに我々の語ること』より)
ビルとジェリーは子供の頃からの無二の親友だった。ジェリーは高校を中退してスーパーマーケットに勤めた。ビルは卒業後、工場に勤め州軍に入った。ビルは22歳の時に結婚した。ビルとジェリーは
休日になるとホッとドッグを焼き、子供達を簡易プールで遊ばせビールを飲んだ。ジェリーは「出かけると女たちにいってくるよ」と言って玉突きに二人で出た。娯楽センターにつき、ビールを飲んで玉突きをした。
帰りに自転車に乗っている二人の娘を見かけ、ジェリーは声をかける。はじめは相手にされないがそのうちに名前を聞き出す。自転車を降りて小山を登り始めた。ジェリーとビルは追いかけるように娘に近づく。
ジェリーの姿が消え、石で片をつけた。

「レモネード」(Lemonade)
散文のような詩。
ジム・シアーズは本棚を作るために壁のサイズを測りにきた。半年ばかり経って本棚が届けられ、設置されたあとで、ジムの代役で父親のハワードがうちのペンキを塗りにきた。ジムは息子を川で亡くし、そのことで自分を責めていて、立ち直れないでいる。レモネードを入れた魔法瓶を車まで取りに行かせなければよかったと、何百回となく何千回となく口にした。息子の死体はヘリコプターに吊り上げられ、だらんと両手を広げて水滴を周りに飛び散らせていた。子供は父親の前に運ばれ、優しくそっと置かれた。→人気ブログランキング
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/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

ミステリー作家の休日 小泉喜美子 

どんでん返しや息詰まる駆け引きが、肩の力が抜いた歯切れのいい文体で綴られる。著者は歌舞伎と外国ミステリーに詳しい。歌舞伎物が1遍、歌舞伎『弁天小僧』を下書きにした作品が1遍ある。
Cb71b6b9ef71496194443e232d05969dミステリー作家の休日
小泉喜美子 
光文社文庫 
2019年 ✳︎8

「ミステリー作家の休日」
初冬の夕方、女流推理小説家の家に電話がかかってきた。相手は「殺す。お前ら二人を殺す。明日の午後」と言って一方的に電話を切った。再び電話が鳴ったとき、女史は受話器を取らなかった。夫は留守だ。
缶詰のボルシチにアレンジを加えたツマミでウイスキーを飲んでいると、再び電話が鳴った。一度切れてまた鳴りはじめたとき、受話器を取って「この糞馬鹿野郎」と叫んで切った。
2回目3回目4回目の電話が誰からかかってきたかを推理する。『九マイルは遠すぎる』を例にとって女史は解説する。出版社の担当者は、そのエピソードを書いてみたらどうかという。

「昼下がりの童貞」
局長室にふんぞり返って葉巻に火をつけた初老の男に、新入社員の頃の話を訊きたいと新米の青年記者は言った。
戦後すぐの頃に、男は横浜支局に学生アルバイトとして雇われた。ちょっとした英語をゆくゆくはしゃべりたいと思っていたが、仕事は買い物の使い走りと新聞のバックナンバーの整理、広告文を東京本社まで届けることだった。
本社に向かう途中、手にしていた5枚の原稿が風に持っていかれ、洋館の庭で5枚目を見つけた。そこで女に声をかけられ、お茶を飲んでいくように言われた。そこまで聞いて、記者は面白い話だから記事にしましょうという。
男はその屋敷に女子高校生がいたことにした。

「ダイアモンド」
将来有望な野球選手が9回表2死二三塁でピンチヒッターに立ち三振に倒れた。
その足で喫茶店に入ると、女性がなんで9回裏をやらないのかと、息巻いている。野球選手は説明したがわかってくれない。女性は舞台俳優だという。劇は殺人も起きないし警察も出てこないそれでミステリだと舞台俳優はいう。
その舞台女優との仲は発展したが、父親が大の野球嫌いであった。野球選手が彼女の家に行くと、恋敵の舞台監督が彼女の家にいた。カーラジオから緊急ニュースが流れ、父親がプレイしているゴルフ場で爆発が起こったという。ゴルフ場に駆けつけると、父親はいなかった。そもそも父親はゴルフ場の会員でないという。家に戻ってくると、父親のベンツから野球少年たちが降りてきた。そして、父親は妻と妻の両親からプロ野球選手のになることを反対された過去を話した。野球選手と舞台女優は結婚して、今のところ幸せに暮らしている。

「青い錦絵」
歌舞伎『弁天小僧』を下書きにしている。
おれと女の二つの視点で描かれる。
夏の夜に、おれは潜水服とシュノーケルに身を包んで南伊豆の海岸小岩場にいる。親父は時化で溺死し、そのあと母親も死んだ。ツノダシという深海魚を捕獲して、それを鑑賞するための水槽や細々とした付属品を売って生活が成り立っている。
岬の白い家、そこには美人の女が一人で住んでいて、誰とも付き合わない。水槽と周辺機器と生きた魚を売りつけると、言い値で買ってくれた。
女は男の魂胆を見抜いている。酒を飲ませて男が持参したウエットスーツを着させてシュノーケルをつけて、窓から海に転落させた。そして、男が設置した水槽も窓から捨てた。

「紅い血の谷間」
兄の千也は歌舞伎の女形として称賛をあつめているが、弟の千二郎はできが悪いと、もっぱら噂されている。千二郎は、バーに行ってジョージアナにいつもの『紅い河の谷間』をリクエストをして、ウイスキーのソーダ割りを1杯だけ飲むそれが楽しみだった。
初日を数日後に控えた夜、千二郎は「あの子を養子にしたときは」という、父母の話を聞いて愕然とした。
千也は婚約者に逢いに行くときに、車で人影を轢いたが、そのままやり過ごした。そして、千也は車で壁に激突し自殺した。
ここから話は急展開する。養子だったのは千也の方で、千二郎は実子だった。はてさて、すべてを継いで重圧に耐えて生きていけるのだろうか。ジョージアナとの関係はどうなる?

「本格的にミステリー」
ミステリー作家の美幽子が自殺した。教えてくれたのは千果子だった。3人は同じ大学のグループだった。
千果子によれば1週間前から行方がわからなくなって、同棲相手が失踪届けを警察に出していた。湖のほとりで女の投身自殺があった。同棲の男は忙しいからいけないと断ったらしい。死体が上がったわけではなくて、所持品がおかれていたという。
3人はミセス・レイ主催のポプリ展覧会の会場での、3人のエピソードが語られる。
そして6か月後、美幽子の遺体は発見されていない。出張から帰ってきた夫にミセス・レイのポプリの匂いが鼻をくすぐった。

「あじさいの咲く料理店」
紫陽花が見事なフランス料理店の話。雇われシェフの独白の形で物語が進む。
オーナーとおかみさんが田舎に紫陽花亭というフランス料理店を開くと、オーナーが病気で亡くなった。そこに私が入った。徐々に繁盛し、オーナーが植えた7本の紫陽花が毎年見事に咲いた。ある日オーナーの弟が店に現れ、食事をした。そのうちに仲間のヤクザを連れてきて飲食するようになり、客は店を敬遠するようになった。
そのうち弟が姿を見せなくなった。ごろつきの弟がいなくなった翌年、7本の紫陽花の1本だけ色が違って咲いた。それが噂になり、ついに警察が庭を掘り返したが、死体は出てこなかった。

「パリの扇」
パリで実業家岩井原平次郎氏夫人が危うく殺されかけた事件について話す。
1930年代のパリ。ぼくは新進演出家としてパリで勉強していた。レヴュー団の花形だった23歳の彼女が、その3倍の年齢の男の後妻として嫁いだのだ。船でアメリカを経由して新婚旅行を兼ねてパリに着いた。パリの一流ホテルで2人を迎えた。そこに、男装の麗人海野都も現れた。
そしてぼくは3人をエスコートすることになった。本場のレヴューでの駝鳥の大羽根扇かざした踊り子たちがコーラスする様に感激していた。ぼくはそうした踊り子たちが身につけているものを買い込んでいた。
下宿に寄ってみますかという誘いに3人が乗った。3人をもてなしていると隣に住むアルベールとフランス語を教えてもらっているガストンが現れた。そこで岩井原が1週間「R」に泊まっているから遊びに来てくれと、社交辞令を口にした。これが、ことの発端だ。
翌日、警察から岩井原夫人が襲われて怪我をしたと連絡が入り、「R」ホテルにに駆けつけた。結局は、件のフランス人2人が岩井原氏に対する同性愛行為の未遂を、岩井原夫人に目撃されたことに動転し、夫人を殴ったというものだった。→人気ブログランキング

殺人は女の仕事/光文社文庫/2019年
ミステリー作家の休日/光文社文庫/2019年 
女には向かない職業/P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳/ハヤカワ文庫/1987年
時の娘/ジョセフィン・ティ/小泉喜美子/ハヤカワ文庫/1977年

煙草屋の密室 ピーター・ラヴゼイ

短編集の中にはハズレの作品がまま紛れ込んでいることがあるが、本書はそれがない。珠玉作の集合体である。設定は変幻自在。アイロニーあり、セクシーあり、シニカルあり、ユーモアあり、もちろんどんでん返しは当たり前、地に足がついていて、濃厚である。

Photo_20210507134301煙草屋の密室
ピーター・ラヴゼイ/中村保男・他
ハヤカワ文庫
1990年 

「肉屋」
肉屋の冷凍庫に週末から閉じ込められた人物が凍死する。月曜日の朝に、肉屋の店員が2人出勤してきて、いつも朝早く出勤して開店の準備をする老店員が出勤してこないから、出店の準備を始めるが勝手がよくわからない。
店主のビューは、週末から1週間マジョルカ島に旅行に出かる前に、老店員が冷凍庫を開けっぱなしにしていたことで説教をしていた。
2人の店員が冷凍庫から肉を出そうとすると冷凍庫に錠前が取り付けてあって鍵が見当たらない。糸鋸で錠前を切って冷凍庫を開けるとビューが凍死していた。
老店員は店主に長年使えてきたのに報われていないことで、2人は錠前を隠し口裏を合わせることにした。2人の店員の思惑どおり、警察は店主が誤って冷凍庫に残されたことで決着したように見えた。ところが、老店員が出勤してきて話は意外な結末をむかえる。

「ヴァンダル族」
外でヴァンダル(文化破壊者)族が騒いでいた。
ミス・パーメンターは、アルテミス画廊に個展を開く相談したいので、人を送るように依頼すると、若造がやってきた。ミス・パーメンターは扉を開けるべきか躊躇した。
その若造イアロウは 20歳の時に母が死んで、30年以上父の世話をしてきて誰もできなかったことをしてきたのだと言った。
亡くなったミス・パーメンターの姉のマギーは有名な陶芸家だった。姉の個展を開くために、これまでに70個以上を買い戻したという。部屋にはミス・パーメンターにより貝殻がくっつけられたマギーの作品が並んでいた。あれはもう芸術作品ではないと言って部屋を後にするイアロウの頭に、鈍器が振り下ろされる。

「あなたの殺人犯」
ミセス・ダバナンは、バリー古書店の奥の部屋で陶器の立像を見た。バリーは殺人者コーダーの像だと説明した。翌日、コーダーの像はオークションでは、おそらく1000ポンドは下らないとミセス・ダバナンは知り合いからの情報を伝えた。
ミセス・ダバナンはフランスのオルレアンでバカンスをひとりで過ごすという。バリーは1000ポンド以上を手にすると見込んで、自分もオルレアンで過ごすからと、オルレアンで会う日を約束した。コーダー像はミセス・ダバナンに言ったとおり1125ポンドの値がついた。
バリーはオルレアンでミセス・ダバナンと何回か昼食を共にするが、夫人がうまく交わし一線を超えることはなかった。金が残り少なくなったとき、バリーは夫人の部屋に押しかけ迫った。「あなたを選んだのは、一緒にいて安全だと思ったからです」と言われて、バリーは逆上した。
バリーは警察の質問に当たり障りなく答え家に戻ることができた。家には美術商からの小包が届いていた。そこには、コーダー像とともに、夫人の「出展主にお返しください」との伝言が添えられていた。

「ゴーマン二等兵の運」
ゴーマン二等兵は7回脱走して7回捕まった。ドイツからの爆弾なぞ怖くなかった。自分は死なないという自信はあった。ゴーマンにとって、敵はヒットラーではなく 憲兵隊だ。憲兵に促されて外に出たとき爆弾を見舞われた。ゴーマンと手錠で繋いだ憲兵と一緒にいたプラムリッジ二等兵は死んだ。プラムリッジの認識票と自分の認識票と取り替え服も頂き、憲兵とプラムリッジ二等兵を手錠で繋いだ。これで完璧だ。そして、ゴーマン二等兵と憲兵の死体が発見されたが、プラムリッジ二等兵の遺体は発見されなかった。プラムリッジの服には金は一銭もなく鍵が二つあった。一つはロッカーの鍵。もう一つは自宅の鍵だろう。
外で音がしたので、アバベルに確かめるように言われたハーカー伍長は、ベッドから降りて棍棒を持って玄関にいった。ゴーマンの頭蓋骨めがけて棍棒を振り下ろした。

「秘密の恋人」
33歳のパムは保健所の診療部の受付係だった。クリフというシードル販売員と親密になった。2人はそれぞれバツイチであることを打ち明けた。クリフは2週間ごとにヒアフォードに滞在した。そして、パムの家に泊まっていった。クリフは料理の腕がこれほど素晴らしくなかったら外食していただろうと言った。
ある日、パムをトレーシーという女性が訪ねてきた。月曜にクリフが通ってきてセックスをするというのだ。そして火曜日にパムのところで手料理を味わう。
ふたりはクリフを殺害することにした。トレーシーは肥料工場に勤めているという。パムの役目は死亡診断書を手に入れることだ。
土曜日にトレーシーがニコチンを持って現れた。2人は作戦を練った。そして翌日、クリフから電話があり今日ヒアフォードに行っていいかときた。パムは土曜日に妹がここで死んでしまい、何もかも1人で処置しなくてはならないから大変だと答えて。パムはなにを差し置いてもあなたが欲しいのと答えた。

「パパに話したの?」
バーナードのサリーへの恋文が、4歳の息子ジョナサン・ワインディングによって、村じゅうの家に配達された。バーナードが警察学校に入ってサリーと付き合っていた頃の手紙だ。その手紙が村人によって、次々とワインディング家に届けられてきた。ジョナサンはサリーに彼女の手紙で郵便屋さんごっこをやったことを白状した。戻ってこない手紙があった。バーナードが沈み込んでいたときに、彼女の肉体的魅力を語り満たされぬ欲望をぶちまけた散文詩のような、今のサリーにとってきゃっと叫びたい内容の手紙だ。
手紙を返してこないのはかつてバーナードと付き合っていたルビーだ。サリーがルビーの部屋に忍び込んで、手紙を探していると、ルビーが戻ってきて部屋に忍び込んだことを散々なじられた。
ジョナサンはワインディング家の郵便受けにも手紙を配達したのだ。そして、帰ってこない手紙にはチャールズ皇太子の記念切手が貼ってあった。君からのラブレターに珍しい切手が貼ってあったらマイケル(ジョナサンの兄)にあげることにしたと、バーナードが言った。

「湯槽」
新居に女王様の浴室を夫ウイリアムは作った。中から戸を引けば、ひとりでに鍵がかかるシステムだ。メラニーは中から戸をひいた。
21歳のメラニーは56歳のウイリアムと結婚して、新婚旅行から帰ってきたのが1週間前。
メラニーは特注の2メートルの長さのある浴槽に横たわって、本を読んでいる。ウイリアムの本棚にあった『計画的殺人』というタイトルの本だ。そこには、新婚旅行から帰ってきた妻が風呂で死に至る話が書いてある。新婚旅行の訪問先といい新居の住所といい、本に記載されている通りだった。

「アラベラの回答」
アラベラの質問に対する雑誌の「お悩み相談」の回答が、時系列に並んでいる。
雑誌は、アナベルに恋愛作法を伝授し、アナベルが結婚すると妻としてのたしなみを指南する。ベラドンナ点眼薬は猛毒だから使わないようにと警告する。結婚後約2年で夫は激しい譫妄と痙攣に見舞われ亡くなる。雑誌は2年間の喪の服し方を伝え、後半は植物を育てることを勧めた。
アラベラは階下の画廊の主人につきまとう女性の撃退法を相談する。そして雑誌は、上階の窓から落下してきた植木鉢が女性の頭を直撃し死に至った事故を伝える。

「わが名はスミス」
イギリス行きの飛行機で、隣の男がイギリスは初めてかと話しかけてきた。42歳で心臓病を抱えているという。エヴァはイギリスに住んでいると答えた。カリフォルニアに葡萄園を2つ持ってるが、3年前に妻が突然いなくなったという。天涯孤独の身になった。イギリスには先祖を探しにいくという。ありふれたスミスという名前だから苦労する。
エヴァがそれをジャネットに話すと、昼休みに国民戸籍局で調べるという。ジャネットは国民戸籍局でジョン・スミスにあい、自分がジョンの探している4人の曽祖父の孫の可能性があることを匂わせた。そのあとジャネットが会社に出てこなくなった。
エヴァはエッジカムに行って教会を訪ねた。 すると司祭は2人の男女が訪ねてきたが、事実を話さなかったという。ジョン・スミスの祖父は精神病で非常に凶暴だったという。息子も同様の病気だった。息子には妻がいて乳飲児を抱えてアメリカに移住したという。

「厄介な隣人」
州庁の会計課首席事務官のギルバートの隣に引っ越してきたストックは、長髪を束ねた髪型で園芸店から斧を買って包んでもらわなかった。妻のジョーンは隣の家でコーヒーをご馳走になったという。56人も隣の家に集まってパーティを開いた。ある日公園でギターを鳴らして歌っているストックを見かけた。ストックの妻は通行人が投げる小銭を集めて木の鉢に入れているのだ。ストックに収入があるとすれば国から施しを受ける権利はないと、ギルバートは社会保障課に通報した。
ストックはリンゴの木を斧で倒して、1週間かかってその木を燃やした。次に園芸店に行くと、ストックはシャベルを買ったという。庭に大きな穴を掘り、ジョーンが尋ねると核ルターを作っているのだという。ギルバートは核シェルターが自分の土地の地下に入り込んでいるに違いないと思い込んだ。隣の家との境界にギルバートは穴を掘り何かを見つけ、破壊し出した。それは電線のメインケーブルだった。

「ベリー・ダンス」
ヤスミンはベリー・ダンスを夏祭りで披露してもらいたいと言われた。夏祭りの2週間前、アンジェラがわたしを夕食に招待した。アンジェラと同棲している組織委員長のダンカンも同席した。食事が終わって、ダンスを披露すると絶賛された。オークションで競り落とした人に、お望みの場所でその人だけのダンスをヤスミンが披露するという案を、ダンカンが提案した。事件が起こりそうな設定だ。
夏祭りは大盛況のうちに終わり、せりも100ポンドの値をつけた人物の手に落ちた。そして連絡がきた。
ダンカンに館に連れて行かれ、そこにはダンカンの伯父だという老人が待っていた。降圧剤が見当たらないという。ヤスミンの踊りに興奮したら血圧が上がって死んでしまう。ダンカンの企みだった。ところが、アンジェラが現れてダンカンの胸を刺した。ダンカンがヤスミンに気があると勘違いしたのだ。ノーマン伯父さんは、ぴんぴんしていて、週2回のベリー・ダンスを見物している。

「香味をちょっぴり」
女流探偵小説家のクアンが開くパーティに現れた辛口の書評家のフレッチャーの書評に義義を唱えた。クアンの新作を「香味なき10年1日如き調理法」と酷評したのだ。
クアンは私の小説は事実を土台にしているといった。フレッチャーは「あの小説はとんでもない無理がある。15人もの人が1人の男に恨みを抱き、一致団結してその男を殺すなんていうのは、まったくの幻想ですよ」といった。
クアンはそこで、パーティの参加者を1人ずつ紹介した。フレッチャーに作品を酷評された15人だった。参加者はそれぞれ致死量の毒薬を持参し、執事によって毒薬は飲み物の中に入れられたという。クアンは乾杯の発声をフレッチャーに命じた。フレッチャーは乾杯と叫び、手に持ったウイスキーを飲み干したが、15人は誰も杯を掲げなかった。

「処女と猛牛」
アリスンは教区司祭の娘、トムはパブの親父の倅。トムは小学生のときにガキ大将で、アリソンは質素な身なりだったが、村の若い男は誰もが胸を焦がした。一方、ルーファスは優等生であり、中等学校では生徒長に選ばれカレッジに進学した。何かとアリソンにちょっかいを出したが、アリソンは相手にしなかった。アリソンとトムの関係はいい方向に進んでいた。
ある日パブに男と占い師の女が現れ、トムの父親がトムとアリソンを占ってくれと頼んだ。似合いのカップルであり、猛牛と処女の組み合わせだといった。それに対してルーファスがお笑い種だと言ったものだから、トムが逆上しルーファスに掴みかかった。親父と村人が止めに入りことなきを得たが、その夜以来、ルーファスが行方不明になった。
その後トムとアリソンが結婚した。2年経って、ルーファスの遺体が発見された。トムがトラクターで轢き殺したと自白した。トムは11年服役してアリソンの元に帰ってきた。村人たちは2人を語るとき、処女と猛牛として語った。
占い女が当時の占いについて語った。「本当は彼が乙女座で、彼女が牡牛座なの」

「見つめている男」
ドナは新婚旅行で撮った写真にこだわっていた。ドナはジェイミーをつなぎとめておく、安心できる材料を探し求めていた。ふたりはジョージ王朝風の邸宅に住んでいた。ドナは自分が無一文の三流女優であることを告白した。ジェイミーは少し狼狽えたように見えた。旅行中に撮った写真を見ると、違う場所で撮った3枚の写真に同じ男が写っていた。
ジェイミーは前妻のフィオーナは殺されたと打ち明けた。フィオーナを殺した犯人は、ジェイミーに恨みを持っていたのではないかとジェイミーはいう。
ジェイミーがフランス出張に出かけるという。テムズ川の向こう岸に新婚旅行の写真に写っている男がいたという。フランスには会社の方針でドナ連れていくことができないジェイミーはいった。
ジェイミーを航空で見送るとあの男が目に入った。直に問い詰めると思い違いだという。
家に戻って部屋に入ると門の前に車が止まり、例の男が呼び鈴を押していた。ドナは無視したが、車は門の前に泊まったままだった。
夜になって寝入ってしまうと、目の前にジェイミーが立っていた。ジェイミーがドナの首を絞めようとしたとき、ジャイミーの体の力が抜けた。あの男がジェイミーの頭を鈍器で殴ったからだ。男は前妻の家族に依頼された私立探偵だった。ジェイミーはフランス出張というアリバイを細工して、前妻を殺したのだ。

「女と家」
夫のトムが銀行のベンザンス支店の支店長の話を持ちかけられたというのに、断ろうと思っていると、聞いてアニタは慌てた。アニタの必死の説得にトムは折れた。ベンザンスの不動産屋には2人の希望にそう住宅がなかった。
アニタが新聞広告で希望にそう物件を見つけた。その持ち主スパイス氏は、2人の生活スタイルを根掘り葉掘り訊くのだ。そして、引っ越した。ところがトムが鉱物探しをしている最中に穴に落ちて首の骨を折って亡くなった。警察は事故と判断した。
アニタは菓子店でスパイス氏に会った。そしてアニタの車にスパイス氏を乗せて、家をどのように使っているか見たいという要望に答えた。

「煙草屋の密室」
煙草屋の2階を借りている切手商のメシターを警察が調べにきた。メシターはそこに住んでおらず週に2回郵便物を取りに来るだけだ。煙草屋のブレードは警察とともに2階の部屋に入った。家具も何もない。鍵がかけられた部屋があった。ブレードの許可を得てメシターは鍵を取り替えたという。その日は捜査令状がないから捜査はここまでだ。
郵便物を取りに来たメシターの話によれば、1世紀以上前に、ミスEDという女性が、消印のついた切手で化粧室の壁を覆いたいので、使用済みの切手を送ってくれるようにとの新聞広告を出していた。ミスEDが借りていた部屋が煙草屋の2階であるというのだ。壁紙で隠された無数の切手をある程度剥がしたから、あとはブレードに譲るという。
警察が来てメシターはそこら中の新聞にこの話を載せたという。そして古い切手を大量に売り捌いた。メシターは価値のない古い切手に細工を施して、大量に売り捌いたという。→人気ブログランキング

煙草屋の密室/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫/1990年
マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫 /1986年

大聖堂 レイモンド・カーヴァー

訳者は、巻末に「解題」というタイトルで、各短編のあらすじと解説を書いている。レイモンド・カーヴァーという作家を掘り出して、日本に紹介するのだからという意気込みで。。
カーヴァーが描くのは、決して着実な人生を送っている人々ではない。虐げられた人々だ。カーヴァーはちゃんとしたくても、ちゃんとできない人の苦悩を描いている。
本書は全米批評家協会賞およびピューリッツアー賞候補となった。訳者は「大聖堂」が大傑作とするが、「熱」も劣らず傑作である。
Be30496f95b940d2a084b61c5934fcad大聖堂
レイモンド・カーヴァー/村上春樹
中央公論新社
2007年

「熱」
妻のアイリーンが同僚の教師と駆け落ちした。途方に暮れたカーライルは幼いに2人の子どもを抱え奮闘した。ベビーシッターの当たりが悪くさんざんな目にあった。夏休み中は子どもの面倒をみることで手がいっぱいだった。3か月経って、アイリーンが電話をかけてきた。スピリチュアルな言葉を口にし、駆け落ち相手の男の母親ミセス・ウェブスターをベビーシッターに雇ってはどうかという。翌朝、カーライルが勤めに出る前に、ミセス・ウェブスターが現れた。ミセス・フェブスターは家事も子どもたちの面倒も完璧にこなした。カーライルは気持ちが落ち着き授業に身が入るようになった。
この後カーライルは高熱を出す。ミセス・ウェブスターの看病のおかげでカーライルは回復する。
ところが、ウェブスター夫妻は引っ越さなければならないことになった。止むに止まれぬ事情に、カーライルは納得せざるを得なかった。

「羽根」
夫婦は夫の同僚の家に招待された。クジャクがいて赤ん坊がいた。赤ん坊はひどく不細工で、食事が終わると臭いクジャクを家の中に入れることになった。帰りにクジャクの羽根を何本かもらった。その後、夫婦は同僚の家を訪れていない。

「シェフの家」
夏、アル中だった夫が戻ってきてくれという。夫はシェフの家に住んでいた。マス釣りをしたりして夏を過ごした。シェフの娘と子どもが帰ってきて住むから、出て行ってくれという。夫の計画は台無しになった。

「保存されたもの」
サンディーの夫は解雇されたあと、ソファーで過ごすようになった。
そんなとき冷蔵庫が壊れた。サンディーは競売で冷蔵庫を手に入れようと思い立ち、新聞の広告を夫と2人で目を通した。その夜の7時から近くで納屋競売があることがわかった。サンディーは父と競売に行ったことを思い出していた。あわてて調理したポークチョップを食べようとテーブルに着こうとしたとき、テーブルから水が滴り落ちていた。

「コンパートメント」
マイヤーズはフランスのストラスバーグの大学にいる息子に会いに行く。息子と暴力沙汰になり、そのことが妻との離婚に拍車をかけたとマイヤーズは思っている。マイヤーズがいるコンパートメントに男が乗ってきて、何を話しているかわからなかった。男は眠った。用を足しにトイレに行って帰ってくると、コートのポケットに入れておいた息子への土産の時計がなくなった。男かそれとも誰かが入ってきて盗んでいったのか。躊躇していると、男は停車した駅で降りた。こんなコンパートメントにはいたくないとコートを着て列車の端に行った。帰ってくるとコンパートメントが見つからない。停まっている間に切り離されたのかもしれない。小柄で浅黒い肌の人たちでほぼ満員のコンパートメントの男が、マイヤーズに入れと手招きする。男たちは席を開けてくれた。マイヤーズはそこに座った。ストラスバーグに向かっていないかもしれないと思いながら、眠りに落ちた。

「ささやかだけれど、役に立つこと」
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、一時夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。パン屋から電話がくる。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ビタミン」
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて、金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄った。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「注意深く」
アル中から脱却しようと、ロイドはひとり暮らしできる住まいに移った。朝食にドーナッツを食べシャンペンを飲んだ。2週間経って11時頃妻が訪ねてきた。朝から耳の穴が耳垢が詰まって気になっていた。妻がハンドバックから出てきた爪切りをふたつに分解して、ナイフのような部分にティッシュを巻きつけて、耳垢をとろうした。トイレに行かせてくれと頼んで、便器の後ろに隠したシャンパンを飲んだ。妻は大家からサラダオイルをもらうという。妻は大家からベビーオイルを借りてきた。それを温めて、横に寝転んで耳の穴にベビーオイルを入れて十分経って、耳からオイルが出てきてそれをタオルで押さえていた。聞こえるようになった。
妻は帰っていった。シャンパンを抜いて、反対の耳が耳垢で詰まるのではないかという不安に襲われた。ベビーオイルを入れたコップを洗いシャンパンを注ぎ、飲むと脂っぽかった。表面に油が浮いていた。それを捨てて、瓶に口をつけて飲んだ。大して異様なことと思われなかった。窓の外を覗くと、光線の角度から3時ごろだろうと見当をつけた。

「ぼくが電話をかけている場所」
フランク・マーティン・アルコール中毒療養所に入って、JPと近しくなった。
JPは取り止めもなく話し続けている。煙突掃除のロキシーが好きになり、ロキシーと結婚し掃除一家の一員となった。子どもが生まれて、望み通りだったが、酒の量が増えていった。ビールがジントニックになった。水筒にウォッカを詰めて仕事に出た。
大晦日に妻に電話したが誰も出なかった。ガールフレンドに電話をかけようとして途中でやめた。悪態をつく男の子との間に何か悪いことが起こってるのは聞きたくないと思った。
元旦になると、JPの妻が面会にやってきた。2人は仲がいい。JPがロキシーと初めて会ったとき、JPがロキシーに頼んだように、わたしはロキシーにキスをしてくれないかと頼んだ。ロキシーは快くやってくれた。
わたしは電話をしようと小銭をポケットから引っ張り出した。まずガールフレンドに電話しよう。

「列車」
夜遅くミス・デントは無人の駅舎にたどり着いた。這いつくばった男の頭に銃を突きつけたばかりだった。そこから逃げるように駅舎に向かったのだ。やがて靴を履いていない白髪の老人と厚化粧の女が駅舎に入ってきた。女は不満をぶつけている。老人は煙草を取り出したがマッチが見つからず、ミス・デントに目を向けたがミス・デントは首を横に振った。女が話しかけてきたので、ミス・デントは銃を持っていることから話を始めようかと思った。そこに列車がやってきた。数人の客は、乗り込んでくる3人に目をやった。老人と女は並んで座り、ミス・デントはその後方の席に座った。そして列車は走り出した。

「轡」
アパートと美容院をやっている私のところへ、一家4人がミネソタから引っ越してきた。農家だったという。夫はどこかに勤め妻は近くのレストランに勤めた。美容院にやってきて、農業をやめなければならなかった理由を話す。それは夫が馬を飼い、競馬レースに手を出したからだという。
数ヶ月して一家がアパートから出て行った。部屋には馬具が残されていた。
馬具は否応なく家族を自分の思う方向に向かせるという。

「大聖堂」
妻の古い友人の男が家に泊まる。男は盲人だ。妻が酔い潰れてしまい、不貞腐れている夫と盲人はテレビを前にしている。TVは大聖堂を映し出している。夫は盲人に大聖堂がどんな形をしているか、説明する。そしてふたりで、大聖堂の絵を描き始めるのだった。→人気ブログランキング

/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

おばちゃんたちのいるところ 松田青子

幽霊のおばちゃんたちが悩み多き現代人のもとに現れ、手助けしようとする。化けて出るには意志が強くなくてはかなわない。脱力してユーモアに富んでいる。
本書は、17編の連作短編からなる。巻末に作品のモチーフ一覧が示されていて、モチーフは落語が多い。
Image_20210101114901おばちゃんたちのいるところ
松田青子(Matsuda Aoko
中公文庫
2019年(単行本2016年)

米国TIME紙が選ぶ2020年の必読書100冊に、本書が選出された。
本書の他に、『乳と卵(らん)』(川上未映子)、『JR上野駅公園口』(柳美里)、『地球星人』(村田紗耶香)が選ばれた。何が起こったのだろう。翻訳者の功績だろうか、選考委員が変わったのか。

恋人に二股をかけられて振られ自殺したおばちゃんが、坊主頭をやめて、幽霊らしく髪を伸ばし始めようとする。(歌舞伎『娘道成寺』)
リストラされた新三郎のもとに灯篭を売りつけようとするセールスレディが現れる。(落語『牡丹灯籠』)
毎夜訪ねてくる骸骨を風呂に入れてマッサージしてもらうのが至福の時だ。(落語『骨つり』)
子どもの頃から嫉妬心が旺盛で「悋気しい」娘だったおばちゃんは有望な幽霊として幽霊派遣会社から嘱望されている。(落語『猫の忠信』)
おばちゃんたちと流れ作業で線香の不良品をはじく仕事をする男。(落語『反骨香』)
汀(てい)さんが現れて、汀さんの会社の線香を焚いていると会いたい人に会えるという。金木犀の匂いがわからないアレルギーの女が一番会いたいのは愛猫のミケ。汀さんはなんとかすると言って帰った。(落語『反骨香』)
仕事の能力が高いきつね目のクズハは狐の化身である。能力を隠して生きてきたことで男にも女と同じ天井が見えてきたことを知る。(落語『天神山』)
有名ホテルの本館が改築されるにあたり、座敷童の婆さんに汀さんは一時的にでもうちに来てくれないかと声をかける。(座敷童)
ふたつの仕事をこなすシングルマザーの夜留守番をする息子を見守るおばちゃん。(民話『子育て幽霊』)
八百屋お七の祀られている神社の御朱印帳書きの娘は習字がうまい。(八百屋お七)
お菊さんが営む雑貨屋に注文していた皿が9枚届くが1枚足りない。それを届けに男が現れて話がはずむ。(落語『皿屋敷』)
姫路城に住みついている富姫の1日は、観光客のスリッパのたてる音で始まる。(戯曲『天守物語』)→人気ブログランキング

おばちゃんたちのいるところ/松田青子/中公文庫/2019年
コンビニ人間/村田沙耶香/文春文庫/2018年
JR上野駅公園口/柳美里/河出文庫/2017年

世界堂書店 米澤穂信 編

発刊される本が必ずといっていいほど話題になる編者が集めた短編は、一味違う。個性的な話が集められている。巻末の各短編に対する編者の一言が効いている。
Image_20200725160001世界堂書店
米澤穂信 編
文春文庫
2014年

「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナー ル 多田智満子〔訳〕フランス
老いて盲となった光源氏が寂れた庵に居を移した。
そこを訪れた 花散里は百姓女に化けて源氏に抱かれたが、実は道で迷ったのではなく、情けを受けようとの魂胆できたと打ち明けると、「立ち去れ」と帰される。次に大和国の人妻と偽って近づき、源氏と女たちとのやりとりの数々を聞き出すが、唯一話に上らなかったのが花散里との関係だった。忘れてしまったのか。あるいは。。
著者は誤解しているようだ。『源氏物語』で有力な実家を持たず美しくもないとされているのは末摘花であり、花散里ではない。

「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ 西崎憲 〔訳〕イギリス
ジスカ氏は骨董品や宝石の小商いをしていた。扱う商品の来歴をでっち上げる才能、つまり口からまことしやかな嘘八百が泉の如く湧きでる。「破滅の種子」という尖晶石の指輪を金を払わず手に入れると、その所有者が死んでしまうとジスカ氏はいう。
骨董屋のでっち上げ噺が現実のものとなって、持ち主が変わるたびに、指輪の値段はつり上がっていく。やがて破格の金額となって、ジスカ氏の息子が父親にプレゼントしようと買う。

「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」キャロル・エムシュウィラー 畔柳和代 〔訳〕アメリカ
部屋のなかに自分の分身ともいえる人間がひっそり暮らしているという不気味な設定。その女性は分身が暮らしていることを知らない。実際は別人の存在を認知していて、知らぬふりをしていることもありうる。

「いっぷう変わった人々」レーナ・クルーン 末述弘子〔訳〕フィンランド
インカは立ち歩きをしているうちに宙に浮く。家族たちはインカが宙に浮いているところを他人に見られるのを恥ずかしく思っている。
これを自在にできるわけではないが、宙に浮くのは底抜けに気持ちがいい。医者は才能だというが、家族たちは小児病だと思っていた。
合唱隊に入るととても歌の上手いハンノがいた。ハンノは影がなかった。さらにアンテロという鏡に姿が映らない少年が登場する。そして3人は変わっている同士が集まるオリジナルクラブを設立した。3人は助け合って、大人になっていった。

以上の4編を含む15編が収録されている。→人気ブログランキング

ジゴロとジゴレット サマセット・モーム

モームは通俗小説家というレッテルが貼られている。あえてそう呼ばれる作家はモーム以外にそうはいないだろう。通俗小説は、日本でいえば純文学、つまり哲学的な要素をもつ小説より下に見られがちである。最近はそういう考え方が少数派になってきているが、モームが活躍した20世紀前半は、その傾向が強かった。モームは、人間の深層心理を難しい言い回しを使わずにさらりと書いてしまう、その筆さばきに驚くばかりだ。
モームの人物をたたみかけるように表現する。まるでそこに人物がいるようだ。「マウントドラーゴ卿」で、卿を診察する医師について、その見た目を書いている。死神のようではあるが信頼がおける医師が、今まさに診察しようとする姿が浮かんでくる。
ストーリーは二転三転し、思わぬ結末に到達する。まさに通俗作家と呼ばれるにふさわしい。本書はぶっ飛ぶくらい面白い。

Image_20200704112201 ジゴロとジゴレット
サマセット・モーム/金原瑞人
新潮文庫
2015年 10✳︎

「アンティーブの三人の太った女」The Three Fat Women of Antibes
未婚と寡婦と独身の三人の女はアンティーブで痩せようと努力をしているが、経過は思わしくなかった。そこに寡婦となったリサが加わった。リサはブリッジがうまく決してゲームに貪欲ではないという、三人の女の条件をクリアした。ところが、リサはいくら食べても太らない体質で、バター、生クリーム、フライドポテト、フォアグラ、シャンペンと、三人の前で遠慮することなく食べる。しかもブリッジが強い。ついに、三人はやけ食いに走るのだった。

「征服されざる者」The Unconquered
アネットは道を聞きにきたドイツ軍人のハンスに犯され身籠ってしまう。3か月後、ハンスは絹の靴下を買ってアネットの家を訪れたが、アネットに罵られた。ハンスはチーズと豚肉を持って再び訪れる。父母はハンスを信頼し、ハンスは父母に歓待されるようになる。ハンスはアネットが身ごもったことを知ると、旗色が変わり、アネットを思慕するようになる。アネットはハンスを拒否し続ける。

「キジバトのような声」The Voice of The Turtle
新人小説家と会う羽目になった。無礼で、自己主張が強く、仲間の作家を軽蔑していた。社交辞令でリヴィエラの別荘に誘ったところ、実際にやってきた。イギリスを離れるのは初めてだという。プリマドンナの恋物語を書きたいという。そこで、プリマドンナとの晩餐をセッティングした。出来上がった本を読んでプリマドンナが怒る。罵詈雑言を口にするが目は怒ってない。

「マウントドラーゴ卿」Lord Mountdrago
精神科のオードリン医師には、噂が噂を呼び治療費が高いにもかかわらず、患者が押しよせるようになった。
保守党のマウントドラーゴ卿は40歳前に外務大臣になり3年が経っている。欠点は家柄の伯爵位を鼻にかけることだった。
マウントドラーゴ卿は、公式のパーティでズボンを履いていなかった夢を見たという。翌日、下院のロビーで労働党のグリフィス議員が卿の下半身に目をやり笑ったのだという。次の夢は、議場で演説を始めると、舌を出して歌を歌うグリフィス議員がいたという。
医師は、一連の夢はマウントドラーゴ卿がグリフィス議員を莫迦にし続けたことが原因であるとし、グリフィス議員に謝罪するようにいう。それはできないとマウントドラーゴ卿は医師の要求を突っぱねた。

「良心の問題」A Man with a Conscience
流刑地の中心、フランス領ギニアのサン・ローラン・デュ・マロニは美しい町だ。ここに送られる受刑者のうち2/3は殺人犯である。受刑者に話を聞く。
殺人を冒したことを対して悪いと思ってない。こんなところに送られたと、殺した相手を恨んでいる始末だ。妻殺しの男の述懐がはじまる。

「サナトリウム」Sanatorium
サナトリウムは残酷なところだ。いずれ出てこられる人、死期が間近い人、長年白黒がつかずに暮らす人が、長期にわたって日常を共にする。患者同士が結婚することで、患者たちの死生観に変化をもたらす。

「ジェイン」Jane
ミセス・タワーの義理の妹・ジェインが27歳年下の青年と結婚した。夫のデザインする服を着て髪を切り見違えるようになったジェインのパーティには、有名人が集まってくるようになった。その魅力は奇抜なデザイン洋服の着こなしと話が面白いことだった。その話の中身とは。

「ジゴロとジゴレット」Gigolo and Gigolette
リヴィエラのカジノの出し物で、18メートルの飛び込み台から火を放ったプールに飛び込む技を披露していたステラは、その昔、弾丸娘と呼ばれてサーカスで危険な技を得意としていた老女の言葉を聞いて、怖気づく。→人気ブログランキング

月と6ペンス/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2014年
ジゴロとジゴレット/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2015年

殺人は女の仕事 小泉喜美子

翻訳家である著者は、女性探偵ものの名著『女に向かない職業』(P.D.ジェームス)や古典ミステリの名著『時の娘』(ジョセフィン・ティ)などの翻訳で知られている。
8編の短編集。はじめに大胆な設定が示される。「美わしの思い出」では、孫が祖母を殺す場面からはじまる。「殺人は女の仕事」では、はじめの場面で主人公が知人の妻に殺意を抱く。なんとも強烈な出だしだ。短いセンテンスで小気味よく進み、結末には余韻を残す一捻りが控えている。
Photo_20201106083801殺人は女の仕事
小泉 喜美子(Koizumi Kimiko
光文社文庫 2019年 ✳︎8

「万引き女のセレナーデ」
男は警察官からデパートの万引き対策の保安員に転職した。1週前に保安員が初犯と見て見逃した万引き女が、若い男と仲むつまじそうに女の下着売り場に現れ、再び万引きを働いた。ふたりは囮で、同じ階で大掛かりな窃盗が行われたのだ。女は警察に逮捕された。保安員と女はそれぞれが好ましく思っていたのだ。

「捜査線上のアリア」
少年は模造がんをポケットに突っ込み暗黒街の花形になる空想を抱いていた。パトカーのサイレンを聞いたときに、本物の犯罪を冒して夜の街に逃げ込みたいと思った。アパートの隣の女の部屋に、刑務所を出たばかりの男が人を殺めたと現れた。男は少年に死体の処理を手伝わせた。少年が遺体との間で殺し合いになったとことにしようと、男がナイフを少年に向けたとき、少年は模造がんを抜いて一目散に逃げた。パトカーに保護を求めた。パトカーの中で、なぜ模造がんを男に向けたのか警察に説明できないと思った。

「殺意を抱いて暗がりに」
理香子は世紀子を殺そうと片手に石を持って暗闇で待ち伏せしていた。世紀子の足音が近づいたと思い、理香子は石を振り上げて襲おうとすると、その人は逃げて行った。翌朝、朝刊には少年Bにより世紀子が刃物でめった刺しにされ死亡した記事が載っていた。少年Bは「相手は誰でもよかった」と供述した。週刊誌の記事に世紀子の殺人事件が載った。「石を持った女が怖い顔で睨んだので殺すのを止めた。その次に通りかかった女を殺した」と少年Bは答えていた。

「二度死んだ女」
月子は大病から何年か経ってカンバックした。今は三流のスナックに毛が生えたような店での出番を控えている。脱いだ服さえ置き場がないようなナイトクラブだ。
月子がステージに立っている間に盗難が発生した。月子は実際に盗まれた金額の10倍を盗まれたと老刑事に言った。そして犯人が捕まって、申告通りの額が手元に入った。老刑事は月子を初めて見たとき、美貌のジャズシンガーの母親だと確信したという。

「毛(ヘアー)」
年に数回、若い男から電話がかかってきて、寝ている良人と赤ん坊をおいて夜の街に出かける。翌朝デートを終えて帰ってくると、良人も赤ん坊も寝たままだった。自分の新しい枕カバーに1本の毛がついていた。布団をまくると新しかったシーツの上に縮れた毛が1本あった。

「茶の間のオペラ」
未亡人の小説家に、嫁いだ娘から電話がかかる。急を要するようだ。すぐに娘の嫁ぎ先のマンションに向かう。姑はべらべら喋り続け、もてなしの品々を並べる。娘は妊娠したという。それを知っておいとますることにする。エレベーターまで姑は見送りに出てきた。階段は下の方が暗く見えた。家に帰ると、嫁が見当たらない。暗い2階に向けて嫁を呼ぶ。

「美わしの思い出」
高2のあや子は小言を言われた祖母のやよいを殴って殺した。祖母は私を監視して小言を言い続けたと供述した。
あや子は学校を辞めてミュージカルのスターになるとやよいに言った。やよいはP劇団の公演会場の楽屋に乗り込む。そこで主役を務める女とかつて応援していた久方光に会う。警察に主役と光が説明にやってきた。やよいはあや子に自由にさせていたと言っていたと二人は説明した。少年院に入ったあや子は一切反省していないという。

「殺人は女の仕事」
滋賀子は編集社の編集担当。新人の小説志望の杉園伸一を紹介されたとき、心にときめくものを感じたと。そして伸一の妻こずえに会ったときに、殺したいと思った。
こずえに意地悪をしてやると志賀子は誓った。伸一にこずえの高校時代の友達から聞いた話を伝える。もちろん悪口だ。それを苦にこずえがマンションの屋上から飛び降りようとするという。→人気ブログランキング

殺人は女の仕事/光文社文庫/2019年
ミステリー作家の休日/光文社文庫/2019年 
女には向かない職業/P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳/ハヤカワ文庫/1987年
時の娘/ジョセフィン・ティ/小泉喜美子/ハヤカワ文庫/1977年

なにかが首のまわりに チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ

アフリカ人の視点で、日常の瑣末な出来事や心の襞を巧みに描く。鋭い感性で綴られた知性あふれる文章は読む者を引き込む。ストーリー・テラーと呼ばれるにふさわしい。デビュー以来、旺盛に生み出された作品は、数々の文学賞〈O・ヘンリー賞(2003年)、コモンウェルス賞(2005年)、オレンジ賞(2007年)、米国批評家協会賞(2013年)〉などを受賞している。
本書は、2009年に出版された短編集の翻訳であると同時に、訳者が日本で独自に組んだ短編集『アメリカにいる、きみ』『明日は遠すぎて』から6編ずつを選び加筆修正した上で文庫化したものである。どの作品も複数回読んで、その度に新しい発見がある。
著者は、TEDトークの『男も女もみんなフェミニストじゃなきゃ』と題する講演で、「ジェンダーのことはいまも問題があるから改善しなればと思うすべての人がフェミニストだ」と述べて、「フェミニスト」という言葉のイメージを塗り替えた。
Image_20201115115801なにかが首のまわりに
チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ
くぼたのぞみ
河出文庫 2019年

「セル・ワン」
はじめは母親のジュエリーを盗んだ。犯罪者となっていく美形の兄を妹の目線で語る。

「イミテーション」
夫が浮気していると電話で伝えられた。夫はナイジェリアのラゴスにいて、妻はフィラデルフィアで二人の子どもと暮らしている。夫はクリスマスシーズンにフィラデルフィアにくる。妻はラゴスに戻ると夫にいう。新しいハウスボーイが雇われるとき、家にいたいからと理由をいう。

「ひそかな経験」(「スカーフ」を改題)
ラゴス大学の医学部に通うチカが、市場で暴動に遭遇し、異教徒の女と一緒に逃げ込んだのが廃屋。女は暴動を「悪魔のしわざ」という。
外の騒ぎが落ち着くと、乳飲み子がいる女は乳首が乾燥してひび割れるという。ココナツバターを塗るといいとチカは伝える。
チカが外に出ようと窓によじ登ったときに腿に創を負った。女のスカーフを借りて縛った。暴動が収まって別れしなに、スカーフをもらった。

「ゴースト」
71歳の元大学教授が年金のことを訊ねるために大学に行ったときに、かつての同僚に出会った。戦争に巻き込まれて死んだと思われていた。
色あせた大学町で、支給されることのない年金を待ちながら、どのような生活を営んでいるのかと、かつての同僚は訊く。

「先週の月曜日に」
夫がユダヤ人で妻がアフリカン・アメリカンの息子のベッビー・シッターになった主人公の、微妙な女心が描かれる。アメリカ留学時のベビー・シッターの実体験をもとに描いたという。

「ジャンピング・モンキー・ヒル」
アフリカ出身の若手作家のワークショップに参加するため、ウジュンワはケープタウン郊外のジャンピング・モンキー・ヒルに来ている。8人の参加者は短編を最初の1週間で仕上げ、2週目はそれぞれの作品を合評するというスケジュールだ。
主催者のエドワードが、ウジュンワを色目で見ているとみんなが気付いているという。
ウジュンワの作品が論評される。高学歴の女性の話だ。パワハラに対抗して職場を去るという結末に現実味がないというエドワードは言う。
そのサジェッションにウジュンワは憤慨したが、結末を訂正してもいいかなと思ったというのが結末。
幾重にも仕掛けがある傑作だ。実際に、著者はアフリカ出身の作家を集めたワークショップを毎年開催しているという。

「なにかが首のまわりに」(「アメリカにいる、きみ」を改題)
アメリカに渡ったナイジェリアの女性が白人の学生とつきあう。
首に何かが巻きつくような感じがしてそれが薄れる頃、家に手紙を書いた。父親が5か月前に亡くなったことを知った。学生は6ヵ月以内に戻らなければグリーンカードの権利をなくすからと、何度も念を押す。

「アメリカ大使館」
難民ヴィザを発行してもらうために、ラゴスにあるアメリカ大使館の列に何時間も並んでいる。
女性は、昨日子どもを埋葬し、一昨日ジャーナリストの夫を国外に逃走させた。その前の日、彼女の生活はいつもと変わりなく、車で勤め先の小学校から帰宅した。その夜、男3人が夫を探して家に乱入してきた。帰り際に息子を銃で撃った。
列のすぐ後ろの若い男から、面接官の目をまっすぐ見ること、口ごもらないこととアドバイスを受けた。息子が殺されたことを何度も訴えるが、面接官は自分の命が狙われている証拠を示すようにという。O・ヘンリー賞受賞作。

「震え」
部屋のドアを大きな音で叩いたのはナイジェリア人の男だった。ナイジェリアで航空機が墜落し、ナイジェリアのファーストレディが死んだ。で、一緒に祈りたいという。男がウカマカの手をとって祈ると、彼女は自分が震えるのがわかった。ウカマナがつき合っていた男がその飛行機に乗っているかもしれない。
ドアを叩いた男はペンテコステ派で、ウカマカはカソリック。男はゲイだと告白した。ユーモアとペーソスが感じられる作品。

「結婚の世話人」(「新しい夫」を改題)
ナイジェリア人の医者と結婚し、ニューヨークに着いた。翌朝キスをされて市場のゴミの山の臭いがした。両親が死んでおじさんに育ててもらい、数週前におじさんに紹介された相手だ。アメリカに住むナイジェリア人で医者だぞと、掘り出し物のような言い方だった。
前に結婚していたことを知らされて嫌になったが、行くところがない。

「明日は遠すぎて」
18年前に、アメリカに住む兄妹がナイジェリアの祖母の家で過ごした夏の悲劇を綴る。〈おばあちゃんが、蛇ってのは「エチ・エテカ(明日は遠すぎて)」っていわれてるんだ、ひと咬みで10分後には、お陀仏だからね、といった。〉というのがタイトルの出どころ。

「がんこな歴史家」
近代化するナイジェリアをひとりの女性を通して綴る。
ンワムバはひとりっ子のオビエリカと結婚した。流産をくりかえすンワムバは夫にに第2夫人をもつことを勧めたが、夫は意に介さなかった。ンワムバは男の子を産みアニクウェンワと名づけた。オビエリカが突然死んだ。葬儀のあいだにオビエリカの従姉妹たちが、象牙を持ち去った。その後も従姉妹たちがオビエリカの土地を奪おうとした。
ウワムバは従姉妹たちとの訴訟に勝てるようにと、息子を教会に通わせ英語を習得させた。息子は英語が話せるようになり、英語力のおかげで土地を取り戻せた。ところが息子は異教徒のキリスト教徒になってマイケルと名乗るようになった。息子はンワムバに胸を隠すように言った。
息子が選んだ嫁にンワムバは決して優しくしないと決意したが、人懐っこい優しい嫁に目をかけるようになった。ムワンバはイボ族の女たちがするように陶器を作った。男と女の孫が授かった。ンワムバはグレイスと名づけられた赤ん坊を抱いたときに、目をきらきらさせて、ンワムバの目をじっと見たので、夫のスピリットが戻ってきたと思った。ンワムバはグレイスをアファメナフと名づけた。「わたしの名前は失われることはないだろう」という意味だ。グレイスは歴史家となって本を書き、数々の賞を受賞した。グレイスは祖母がつけてくれた名前に改名することにした。アファメナフは暮れなずむ光の中、祖母のベッドの傍に座りながら、陶器づくりで肥厚した祖母の掌を握っていた。
本作で「アメリカ大使館」(2003年)に続き、2度目のO・ヘンリー賞(2010年)を受賞している→人気ブログランキング

なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

馬を愛した男 テス・ギャラガー

著者の初めての短編集。発表当時、絶賛されたという。
訳者の解説によれば、アイデアの多くは著者の母親の話からという。母親はストーリーテーラーだ。
テス・ギャラガーは、1943年にワシントン州ポート・エンジェルスという太平洋に面した林業の町で生まれた。父親は木こりをはじめとする肉体労働に従事していた。ポート・エンジェルスが舞台になったと思われる作品もいくつかある。
テスはワシントン大学を卒業後、自分に文学の才能があると目覚め、陸軍のパイロットであった最初の夫と別れ、アイオワ大学創作科に学んだ。1974年に詩集『Stepping Outside』刊行し、詩人として頭角を現した。その後1980年から1990年の間、シラキュース大学に籍を置き、教鞭をとっている。
テスは、1979年にレイモンド・カーヴァーと暮らしはじめ、1986年に本書を刊行した。1988年にはカーヴァーと結婚したが、2ヶ月後にカーヴァーは亡くなっている。テスはカーヴァーに勧められて小説を書きはじめたという。作品には詩人のセンスが光る言葉が散りばめられている。
カヴァーの前妻とのいざこざについて書かれた作品や、激しい性格の弟について書いた作品など、実際に身の回りで起こったことからヒントを得た作品がいくつかある。祖父からの一家のクロニクルを書いた「馬を愛した男」が、本書のタイトルとなっている。
Image_20201113112701 馬を愛した男
テス・ギャラガー/黒田絵美子
中央公論社
1990年 ✳︎9

・ジプシーの血を引く大酒飲みだった曽祖父のこと、ジプシーの血が強烈であること、最期の父との魂の交流のこと、娘の自分が父とよく似ていること。「馬を愛した男」
・治安が悪い地区に住宅を買った。夫がホームレスに声をかけたところ、家に現れるようになった。隣の家主はホームレスの男に銃を突きつけ、空に向けて銃を撃った。その場面を車中で見ていた妻に対しても、家主は威嚇の言葉を吐いた。「死神」
・隣人のジュエルは家を夫バードの名義にしたばかりに、バードに家を追い出されることになった。ジュエルの妹はバードの女のプードルをさらってカリフォルニアに連れて行った。ジュエルは夫の車をぶち壊し、夫の手に渡ることになった家に火をつけた。私とジュエルは、カリフォルニアに向かった。「遡求権」
・訪問販売の女性が、霊媒師の話をして連絡先をおいていった。訪問販売を快く思っていない夫が帰ってきて、霊媒師の名刺を見て当たるはずないと言ったが、興味深々そう。「テレピン油」
・離婚の話が進んでないようだ。潰瘍で入院しているロバートに奥さんが見舞いにきたという。ひどい服装だったので、デパートで服を買ってやったという。煮え切らないロバートに奥さんのもとに戻ればと言うと、愛しているという。「なすがまま」
・ぼやけた世界を見ることが好きな少女の眼鏡へのこだわり。「眼鏡」
・72歳のミス・ニックスは赤ん坊の頃、無法者のガンマンに抱き上げられた。無法者は泣きさけぶ赤ん坊で、保安官から顔を隠して事なきを得たという。そのミス・ニックスを友人とふたりで介護した話。「ジェシー・ジェイムズを救った女」
・受取人を前妻との子どもにした夫と、受取人を夫にした妻とのいざこざ。「受取人」
・夫もホーマーと同じで酒が好きだった。ホーマーは悪い仲間と加わって惨めな死に方をした。夫が酔っ払って暴言を吐いたことがあった。それ以来、夫婦仲は冷え沈黙の夜を過ごしている。「悪い仲間」
・手に負えない弟の暴言に対して夫がなにか言ってくれてもいいのにと妻は不満に思った。しかし男の危険はそこらじゅうに転がっている。夫は温和で臆病者だ。危険に真正面からぶつからなくてもいいと妻は思った。「いくじなし」
・ヘミングウェイが自殺したりアイヒマンがエルサレムで裁判にかけられた頃、町の新聞社で働き始めた17歳のわたしが、一緒に働いたヤクザな男の話。「やけくそ」
・43年も会わなかった少女時代の親友に会いにく。首尾よく会えたが。。「娘時代」→人気ブログランキング

ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー/橋本博美 新潮社 2008年
馬を愛した男』テス・ギャラガー/黒田絵美子 中央公論社 1990年

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