サスペンス

逃げるアヒル ポーラ・ゴズリング

ポーラ・ゴズリングのデビュー作。
シルベスター・スタローンの映画『コブラ』(1986年)の原作。巻末の解説で温水かおりは、あまりにも原作とかけ離れた映画の出来に「台なし」と映画を酷評している。
本書にはテーマが2つある。ひとつは命を狙われる美人OLクレアと、クレアの身辺警護を担当するマルチェック警部補との恋の物語である。もうひとつは連続殺人犯の逮捕に翻弄される警察と殺人犯との熾烈な闘いである。

Image_20200917115101 逃げるアヒル

ポーラ・ゴズリング/山本俊子
ハヤカワ文庫 1990年 ✳︎9

サンフランシスコの広告代理店に勤める30歳のクレアは、公園で書類を落とした男に声をかけたことで、命を狙われることになる。クレアの命を狙うのは、かねてからマルチェック警部補が追いかけてきた連続殺人犯のエジソン。
クレアはライフルで狙撃され、アパートの冷蔵庫が爆破されたが、幸い軽症で済んだ。
警察が用意した隠れ家にクレアは連れていかれ、複数人で警護をすることになった。
命を狙われる理由が納得できず、マルチェックに対し高慢な態度を取ってきたクレアは、同じ屋根の下で暮らす機会が生まれたことで、態度を軟化させる。

エジソンは仲介人を介して仕事を受けている。仲介人はエジソンの顔を知らない。ところがクレアがエジソンの顔を見てしまったのだ。エジソンはクレアがニューヨークの広告会社に勤めていたときに、広告のレイアウトを担当する下請け業者だった。
エジソンは罠をしかけてクレアの命を奪おうとする。

警護するマルチェックはベトナムで狙撃兵だった。PTSDに悩まされ、おまけに軍病院では完治したとされたマラリアが再発するというハンディキャップを抱えている。

新聞に「連続殺人犯の起こす事件のやり口がずさんになってきている」という、エジソンを挑発する記事を載せる。さらに、マルチェックとクレアが結婚したという嘘の記事が新聞に載ると、マルチェックの予想どうり、エジソンが反撃に出た。それぞれの住まいを爆弾で爆破したのだ。

ふたりの新婚旅行を警護する複数の私服警察官がキャラバン隊を組織した。
エジソンをおびき出すという作戦が、いつの間にかマルチェックとクレアがエジソンに追い詰められる構図になってしまう。

そして、ラストは雨が降り冷たい風が吹く嵐の森で繰り広げられる、夜の銃撃戦だ。→人気ブログランキング

新訳 アンドロメダ病原体 マイクル・クライトン

『アンドロメダ病原体』は、1969年にアメリカで出版された。現実に起こりうるテーマを、当時の最先端の知識と斬新なアイデアを駆使して描かれている。
宇宙からもたらされた猛毒の病原体に立ち向かった科学者たちの5日間を活写した作品である。1971年に映画化されている。本書の出版から50年が経ち、IT技術が著しい進化をとげた今でも、十分に受け入れられる内容である。
なおアンドロメダの呼称は、アンドロメダ星座やアンドロメダ銀河とはなんら関連ない。

新しい生物兵器を作り出すことを目的として、宇宙空間の微生物を回収する人工衛星からのカプセルが、アリゾナ州ピードモントに落下した。カプセルを回収しようと軍用車で向かったふたりから、人々が死んでるとの連絡があったあと、通信が途絶えた。

Photo_20200805084201アンドロメダ病原体 新訳

マイクル・クライトン/朝倉久志
早川書房
2012年 10✳︎

ワイルドファイア計画のミッションは、カプセルを回収し、住民46名と軍人2名を死に至らしめた病原体の正体を突き止めめることと、病原体を封じ込めることである。
ワイルドファイア計画のメンバーは、細菌学者のストーン、微生物学者のエヴィット、病理学者のバートン、外科医のホールの4名。

4人はヘリコプターでピードモントに向かった。人々はパジャマ姿で外で死んでいた。苦しんだ様子はなく、ハゲタカがついばんだ箇所からの出血は見られない。
円錐型のカプセルの周りにペンチとタガネが転がっていた。遺体をメスで開くと血液は凝固していた。生後2か月の赤ん坊とひとりの老人が生き残っていた。

ワイルドファイア計画の建物は5レベルに分かれている。レベルが上がるごとにクリーン度が増し、外界と遮断程度も強化されていく。病原体(「アンドロメダ病株」と命名される)が漏れれば、核爆発で研究所は病原体ごと消し去られる。

ユタ州でファントム機がの墜落した。墜落寸前、パイロットはゴムが溶けていくと言った。コックピットの中のゴムがすべて溶けていた。
さらにアリゾナ州で男性巡査が疫病発生の直前にピードモント通過し、その後、発狂し銃でカフェの客を撃ち殺し自らも命を絶った。

アンドロメダ病原体についてわかったことは、病原体は2ミクロンの細菌のサイズであり、空気によって伝播される。呼吸によって肺に吸引され、そこから病原体は血液に侵入し、血液が凝固し死を引き起こす。抗凝固剤は無効。死体からは感染しない。

X線結晶構造解析から病原体は六角形の結晶であることがわかった。培地不要、炭素と酸素と日光があれば成長できる。爆弾を落としたら核爆発の膨大なエネルギーを吸収して、とんでもないことになる。すでにピードモントには核爆弾が投下され感染源を消滅させたはずだ。
ところが、不幸中の幸いか、大統領が命令を先延ばしにしていたのだ。ピードモントには核爆弾が投下されていなかった。

泣き叫ぶ赤ん坊とアスピリンを多量に服用しメチルアルコールを飲んでいた老人が助かったのはどういう理由なのか?
そんな中、研究所が汚染され自動爆破装置が作動してしまった。爆破を阻止することはできるのか。→人気ブログランキング

パーキング・エリア テイラー・アダムス

読み出したら止まらない息つく暇がない本書のようなサスペンスを、和製英語でノンストップ・サスペンスというそうだ。本書は年末の翻訳ミステリ・ランキングでトップテンの上位にくい込むだろう。映画化も間違いなしだ。

クリスマスイブの前日、雪の降る中、母の膵臓癌の手術に駆けつけようと、女子大生のダービーが愛車のホンダ・シビックで、コロラドからユタに向った。途中、スリップしてボンネットから湯気が噴き出し、ワナパ・パーキング・エリアで足止めさせられた。パーキング・エリアの雪に埋もれたバンの中に、犬用ケージに少女が監禁されていた。ワナパとは小さい悪魔という意味だ。

Photo_20200715083801パーキング・エリア

テイラー・アダムス/東野さやか
ハヤカワ・ミステリ文庫
2020年6月 ✳10

パーキング・エリアのビジターセンターに居合わせたのは、50代後半の獣医だというエド、その妻サンディ、ソルトレーク工科大学の学生だというアシュリー、それとイタチのような顔をした口呼吸のラーズの4名。
間の悪いことに、ダービーのiPhoneはメモリがあとわずかで、しかも山の中で電波環境が著しく悪いときている。

誰が誘拐犯なのか。パーキング・エリアに、除雪車がたどり着くまで6~8時間かかると、ラジオから途切れ途切れに聞こえた。新しい情報ではトレーラーが雪で滑って道路を塞ぐという事故が起こった。一晩、ビジターセンターに閉じ込められるということだ。

ダービーは両親の離婚が決まってから生まれた。母親との間は必ずしもうまくいっていない。それはさておき、ダービーはこうと決めたらいてもたってもいられない性分だ。
早とちりや、ドジを踏んだりして窮地に追い込まれることがあるけれども、ダービーは決意した。今夜のうちに、この場で、雪に閉ざされた小さなパーキング・エリアで、夜が明けて除雪車が到着する前に、自分の力でなんとかすると。
誰が何の目的で少女を監禁しているのか。次々に驚愕の真実が明らかになっていく。

撒き餌または布石あるいはマクガフィンが散りばめられている。そういうことだったのか、そう繋がっていたのか、そことそこが結びつくのか、死んだと思ったら死んでいなかったとか、ジェットコースターのようにストーリーが展開する。星10の面白さだ。→人気ブログランキング

『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット

東西冷戦の時代、反政府的とみなされ出版を阻止された『ドクトル・ジバコ』を、CIAはソビエト連邦の国民に読ませようと画策する。著者のボリス・パステルナークと愛人のオリガ、CIAのタイピストや諜報員たちの多視点一人称の文体で綴られる。
本書の原稿はオークションにかけられ、クノップ社が日本円で2億円の値をつけて落札したという。初版で20万部が刊行された折り紙付きの作品である。

それぞれの章を語る人物の役割や立場が各章のタイトル名になっている。例えば「タイピストたち」「ミューズ」など。ページが進むと、古いタイトル「ミューズ」は棒線で消され「矯正収容された女」などと更新されていく。

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あの本は読まれているか

ラーラ・プレスコット/吉澤康子
東京創元社
2020年 ✳︎10

ソ連では共産主義体制に批判的な文化人や芸術家は拘束され矯正収容所に送られた。共産革命は特権階級を皆殺しにすることだ。
パステルナークが執筆中の『ドクトル・ジバコ』に体制批判の箇所はないかと、当局は神経を尖らしていた。パステルナークの愛人オリガは、作品を清書し、出版社との渉外役を一手に引き受けていた。当局はオリガを拘束し、作品に反政府的箇所がないかと聞き出そうとする。
はっきりした証拠のないまま、オリガは矯正収容所に5年間入れられることになった。
過酷で悲惨な収容所での生活が始まった。しかし、スターリンが亡くなったことで、オリガは刑が3年に短縮されて戻ってきた。

一方、ワシントンではイリーナがCIAのタイピストとして雇われる。ソ連を脱出する前にイリーナの父は拘束され、その後矯正収容所で亡くなった。妊娠していた母親はひとりでアメリカにたどり着きイリーナを生んだ。
CIAはイリーナをタイピストよりも諜報員としての素質を評価したのだ。イリーナにはベテラン諜報員のサリーが指導役にあてがわれた。

CIAソ連班のミッションは、『ドクトル・ジバコ』をひとりでも多くのソ連国民に読ませること。そのためには、原稿を手に入れロシア語で印刷し、ソ連国内に送り込まなければならない。
世界的名声を得ているパステルナークの『ドクトル・ジバコ』は、西側の出版社にとっては、是非とも手に入れ出版したい作品である。パステルナークはオリガの留守中にイタリアの出版社に原稿を渡してしまった。

西側の多くの人々がパステルナークを擁護すれば、なんとかなるかもしれないというパステルナークたちの甘い期待はあえなく潰えた。パステルナークはソ連作家委員会から除名処分を受けた。

イタリア語で出版された『ドクトル・ジバコ』は瞬く間にベストセラーとなった。
CIAはロシア語版『ドクトル・ジバコ』をどうやってソ連に持ち込もうとするのか。

1958年に、ノルウェーのノーベル賞委員会は、パステルナークをノーベル文学賞受賞者として発表したが、ソ連当局の圧力により辞退を余儀なくされた。

1965年には、アメリカ・イタリアの合作で、同名の映画作品(デヴィット・リーン監督)が公開された。挿入歌の哀愁ただよう「ララのテーマ」はあまりにも有名である。
1985年からゴルバチョフ政権が進めた多方面の改革「ペレストロイカ」によって、1987年にソ連で『ドクトル・ジバコ』が刊行された。→人気ブログランキング

『ガットショット・ストレート』ルー・バーニー

主人公は40歳を超えたシェイク。シェイクは若い娘ジーナに引っ張られて大金を手にしようとするが、ジーナは自由気ままな予測をはぐらかす行動をとる。

刑務所を出たばかりのシェイクは、300キロ先のロサンジェルス行きのバスに乗った。LAに着くと、アレクサンドラがリムジンで迎えに来ていた。
アルメニアで生まれたアレクサンドラは、山岳地帯の部族軍の棟梁に嫁入りしたのが16歳の時。20歳の頃には夫を殺して、近隣の競合部族全員を崩壊させた。その後アメリカに移住し、10年後にはLA中のアルメニア人ギャングを手中にした、美貌の女傑である。

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ガットショット・ストレート

ルー・バーニー/細美遥子
イースト・プレス
2014年 ✳︎8

 

 

シェイクはアレクサンドラに仕事をもらう。車でヴェガスに行って、相手に車を渡しブリーフケースを受け取り、飛行機でLAに戻ってくるという運び屋の仕事だ。ヴェガスへの途中でトランクに人が詰め込まれていることに気づく。ジーナが手錠をはめられてトランクにいた。
シェイクは相手に車を渡しブリーフケースを受け取るが、悪党の〈クジラ〉は女がいないことに気づき手下にシェイクを探させる。

ブリーフケースの中身が金になる切手らしいと知ったジーナは、シェイクを出し抜いてブリーフケースを持ち出し、金に替えようとする。ジーナが古物商にブリーフケースを持っていくと、中身は切手ではなく包皮だという。価値は最低でも500万ドル、しかし買い手はいないという。

ところで包皮とはなんだ?男性器の皮のミイラ化したものとのことだが、なんでそんなものに価値があるのだろう。マニアにとってはキリスト教にまつわる垂涎の聖遺物で、パナマに住むローランド・ジーグラーなら高額で買うはずだという。

ジーグラーは亡命者で、アルメニア人マフィアに詐欺用の会社作りに手を貸している。大勢の老人を騙して金を奪い取った犯罪者である。連邦捜査官が一旦は捕まえたが、不渡りの小切手を書いて保釈されそれ以降は、見た者も話を聞いた者もいないというお尋ね者である。

そして、場面はパナマ・シティに代わる。パナマ行きの飛行機に搭乗するのは、ジーナから包皮入りのブリーフケースをだまし取った古物商のマーヴィン・オーツ。そしてタッグを組んだシェイクとジーナ。さらにアレクサンドラと〈クジラ〉とその取り巻きの3組だ。そこにパナマ・シティの安いレストランでお見合いの合コンに出席するテッドというオタク男も紛れ込む。

パナマでの包皮入りブリーフケースの争奪戦に加え、偏屈で大金持ちの犯罪者ジーグラーと、誰がどう接触するかが見ものである。

悪党どもが非道の暴力沙汰を繰り広げると思いきや、南国の陽気と大らかさに包まれて暴力はなりを潜め、どういうわけか勧善懲悪の方向でこじんまりとまとまってしまうのは、どうにも期待が外れた。→人気ブログランキング

11月に去りし者/ルー・バーニー/加賀山卓朗/ハーパーBOOKS/2019年
ガットショット・ストレート/ルー・バーニー/細美遥子/イースト・プレス/2014年

『BUTTER』柚木麻子

実際に起こった殺人事件を下敷きにしたサスペンス。グルメ小説でもある。
梶井真奈子(カジマナ)は、出会い系サイトで知り合った40代から70代の金持ちの独身男から結婚を餌に金をだまし取って殺した。3件の殺人事件の被疑者として収監され裁判を控えている。カジマナが逮捕間際まで書き続けた美食と贅沢三昧のブログが話題になった。肥っていて美しくもないカジマナがなぜモテたのか、世間では疑問の声が挙がっている。


BUTTER

BUTTER
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柚木麻子(Yuzuki  Asako
新潮文庫 2020年 ✳︎9
売り上げランキング: 7,821

大手出版社の広報部に勤める33歳の町田里佳は、『週間秀明』を担当するの優秀な記者である。背が高く痩せている里佳は、女子高時代には下級生から人気があった。社会に出てからも、その体型を保つよう食べ物には興味をもたない生活を送ってきた。里佳はマスコミへの登場を拒んでいるカジマナにインタヴューをしようと思い立つ。

大学時代からの親友の伶子は、カジマナがブログに載せていた料理のレシピを教えて欲しいと手紙に書くようにアドバイスした。それが功を奏してカジマナからインタヴューを承諾する手紙が届く。

カジマナが許せないものはマーガリンとフェミニストだと言う。そして里佳にバター醤油ご飯を勧める。里佳はカジマナの言うとおりにバターしょう油ご飯を食べ、ブログに書いてある高級フランス料理店で食事をし、恋人と泊まったホテルを深夜に抜け出してラーメンを食べ、カジマナに絡めとられていく。
里佳はカジマナの取材を始めてから体重が5キロ、10キロと増えていった。

里佳は、殺されたとされる男たちはカジマナの料理を食べて不摂生な生活を送って自ら寿命を縮めたのではないか。カジマナは無罪ではないのかとさえ考えるようになる。すべてを知るために伶子とともにカジマナの郷里に向かった。
伶子はカジマナの母親も妹も変だという。家族に殺人罪の容疑者がいるのに、自信満々で教育論を語る母親は頭がいかれている。妹も都合の悪いことは語っていない。

そしてカジマナから記事執筆の許可が下りる。センセーショナルな記事は脚光をあび、里佳はカジマナの呪縛から解き放たれたかに思われたが、物語はそこで終わらない。

サスペンスとしての出来は大いに称賛する。しかし実際の殺人事件を下敷きにしフィクションとして作品を仕上げたのだから、殺人犯の郷里は架空の町にすべきだろう。→人気ブログランキング

BUTTER/新潮文庫/2020年
ランチのアッコちゃん/双葉社/2013年

『ブラック・サンデー』

ブラック・サンデー [DVD]
ブラック・サンデー [DVD]
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Black Sunday
監督:ジョン・フランケンハイマー
脚本:アーネスト・レーマン/ケネス・ロス/アイヴァン・モファット
原作:トマス・ハリス
音楽:ジョン・ウィリアムズ
アメリカ 1977年 143分

原作は、あのシリアルキラーのハンニバル・レクター博士を世に送り出したトマス・ハリスの同名小説。パレスチナ過激派「黒い9月」は、大義なき個人的理由によりアメリカに復讐しようとする男を利用して、多数の罪なき人々を殺戮しようとする。それを阻止するモサドプラスFBIの死闘が描かれている。
「黒い9月」は、ミュンヘンオリンピックの開催中の1972年9月に、選手村を襲撃し、イスラエル人選手を人質にして殺害した実在したテロ集団である。この人質事件は、スティーヴン・スピルバーグによって、映画化された(『ミュンヘン』2005年)。

ベイルートの「黒い9月」のアジトをモサドが襲撃する。その時、ガバコフ少佐はシャワーを浴びていた女闘士ダーリアを目の前にしながら殺さなかった。いままで殺し屋として何人も殺してきたはずなのに、なぜか引き金を引かなかった。痛恨のミスを犯したのだ。このことが後々、ガバコフたちが苦しめられる大量殺人テロ事件につながっていく。ダーリアは、もちろん「黒い9月」の主要メンバーだった。

無差別大量殺人をダーリアに提案したのは、ベトナム戦争で捕虜となったマイケル・ランダーである。4年間の屈辱的な捕虜生活を送ったあと、帰国した彼を待っていたのは、妻の裏切りと世間の冷たいた仕打ちだった。そして、マイケルは祖国アメリカに復讐しようと考えるようになった。
彼が思いついたのは、フットボールの最高峰、スーパーボウルのスタジアムでプラスチック爆弾を使った22万発のライフルダーツを発射しようというもの。スタジアムに集った大統領を含めた人間を飛行船で空から襲撃し、皆殺しを計画した。

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しかし国内でプラスチック爆弾を入手するのは困難で、マイケルは「黒い9月」の手を借りることにしたのだ。
大量殺人マシン・ライフルダーツを作製するマイケルに、ダーリアは何かと世話をする。

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一方、カバコフ少佐はアメリカ国内での「黒い9月」の不穏な動きを察知、正体不明の男の影を追ってアメリカに渡る。テロ集団が仕掛ける大量殺戮計画をモサドとFBIが阻止しようとする。
ここから、追う者と追われる者の死闘が展開される。

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飛行船を奪い取ったマイケルとダーリアはスタジアムにたどり着けるのか、ガバコフはライフル発射を阻止できるのか。手に汗を握る飛行船をめぐる攻防が繰り広げられる。

 

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1970年代以降、いつ大規模テロ事件が起こっても不思議ではない世界情勢で続いてきた

『007 逆襲のトリガー』アンソニー・ホロヴィッツ

ゴールド・フィンガーを飛行機から放り出して事件の決着をみたあと、ボンドは味方についたプッシー・ガロアをアメリカから連れ出した。ガロアは、もともと犯罪組織を率いる名うての女盗賊である。Mはガロアを連れてきたことに難色を示している。


007 逆襲のトリガー (角川文庫)

007 逆襲のトリガー
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アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子
角川文庫 2019年5月
✳︎10
売り上げランキング: 176,868

ボンドの次の仕事は、1週間後にドイツで開催されるカーレースでイギリスの英雄ランシー・スミスを、スメルシュ(ソビエト連邦政府の秘密組織)の魔の手から守ること。ボンドは、カーサーキットの所有者ローガン・フェアファックスからレーシングカー運転の特訓を受ける。レース前にガロアはボンドの前から姿を消し、アメリカに帰国した。

ボンドはレースが始まってすぐに、自ら運転するレーシングカーを刺客の車に接触させてクラッシュを引き起こし、刺客に重症の火傷を負わせた。こうして任務を全うした。ボンドは、レース会場でスメルシュの長官ウラジミール・ガスパノフ大佐とアメリカで最も裕福な韓国人とされるシン・ジェソンが会話を交わしているところを目撃し、きな臭いものを感じた。

レース後、シンの所有するブロンサルト城で、レーサーやレース関係者やレーサーを追い回すグルーピーを集めてのパーティが開かれた。パーティ会場を抜け出して、ボンドはシンの情報を盗み出そうと執務室に入り、ジェパティ・レーンと鉢合わせとなる。
ジェパティはアメリカ財務省に属する秘密捜査局の人間だった。机の上には米国のロケットや宇宙基地の写真が置かれていた。警備員に見つかり、城の屋上から極寒の湖に飛び込み、なんとか逃げおおせた。

時は、1957年、アイゼンハワー大統領時代だ。宇宙を制するものは世界を制すると言われた時代。ソ連がアメリカのロケット打ち上げに妨害工作をしようとしている。
打ち上げ後、不測の事態が生じたとき、ロケットを爆破するための非常ボタンを死の引き金(トリガー・モーティス)と呼んでいる。
おりしも、ヴァージニア州のワロップス島ではロケット発車の準備が着々と進められていた。

ボンドとジェパティはシンに捕らえられてしまい、シンからマンハッタン爆破計画を聞かされることになる。そしてロケット発射まで30時間と迫った。果たして、トリガー・モーティスは引かれるのか、ふたりはシンの魔の手から逃れることができるのか、はたまたマンハッタン爆破計画を阻止できるのか。

イアン・フレミング財団は、絶好の書き手に目をつけたものだ。
英国テレビ界で輝かしい業績を上げているホロヴィッツだから、イアン・フレミングの跡目にと、財団が白羽の矢を当てた。ホロヴィッツは世界的ベストセラー『カササギ殺人事件』の著者だ。さらに、シャーロック・ホームズ財団公認のホームズ・シリーズの長編を2編を書いている。

007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年

『ザ・プロフェッサー』ロバート・ベイリー

学部長の理不尽な方針により大学を追われた老教授が、娘一家を交通事故で亡くしたもと恋人の要請を受け、教え子とともに運送会社の悪徳経営者を相手どって裁判に挑む。相手側のなりふり構わない隠滅工作に敢然と立ち向かう、勧善懲悪のリーガルサスペンス。

実際に、アラバマ州タスカルーサにあるアラバマ大は、アメリカンフットボールの名門校である。かつて活躍したプレーヤーは、今でも町で一目おかれる人物たちである。
物語は、68歳になるトーマス(トム)・マクマトリーが主人公。かつてディフェンスの名プレイヤーであり、アラバマ大学が全米チャンピョンに輝いたときのメンバーである。現在、トムはアラバマ大学の教授として証拠学の権威であり、トムが率いる模擬裁判チームは3度の全国優勝を誇っている。

ささいなことで激昂した学生のリックに殴られたトムが、リックの腕をつかんだ動画が youtube に流れ、トムが暴力をふるったとされ窮地に立たされる。トムの授業で学生が虐待を受けたと申告し、さらに女子学生と不適切な関係にあるとでっち上げられる。
トムに最後通告を言い渡したのは、最近アラバマ大学の顧問弁護士に就任したかつての教え子であるタイラーであった。

ザ・プロフェッサー (小学館文庫)
ザ・プロフェッサー
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ロバート ベイリー/吉野弘人
小学館文庫 2019年3月 ✳︎8
売り上げランキング: 4,848

トムは実際の裁判には長年携わっていない。また3年前に妻を乳癌で亡くし、最近大学を不本意なから辞めさせられ、さらに膀胱癌が見つかり、すっかり意気消沈している。そこで、トムはかつてトラブルがあった教え子のリックを紹介する。リックは事故があったヘンショーの出身である。

被告の弁護士はアラバマ州で最も勝率の優れた弁護士として君臨する、トムを大学から追放することに策を労したタイラーだった。一方、リックは弁護士に成りたてのヒヨッコである。

運転手に法定速度を無視した運転を強要していた運送会社は、証拠となる書類を燃やし、原告に有利な証言をしようとする関係者を買収したり、脅したり、あるいは口封じのために殺したりしていた。
裁判は被告有利に運ぶかに思われたが、トムの過去の栄冠やリックの土地の利が陪審員たちに効果的に影響し、被告側の悪行にほころびが生じるのだった。→人気ブログランキング

 

 

『マルタの鷹』ダシール・ハメット

『マルタの鷹』は、アメリカの大衆向け雑誌『ブラック・マスク』に1929年9月号から1930年1月号に連載され、同年に単行本として発刊された、ハードボイルド探偵小説の嚆矢である。アウトロー探偵サム・スペードが、美女の頼みごとを引き受けたばかりに厄介に巻き込まれる。登場人物のキャラクターが見事に描き分けられていて、早いテンポで話が進んでいく。3度(1931年、36年、41年)にわたって映画化されている。
ただただ傑作と言わざるをえない。

マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マルタの鷹
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ダシール ハメット/小鷹信光
ハヤカワ・ミステリ文庫(改訳改訂版)
2012年

女はサンフランシスコの私立探偵サム・スペードに妹の捜索を依頼する。妹と駆け落ちしたというサーズビーと、サーズビーを尾行したスペードの同僚アーチャーは銃で撃たれて殺される。アーチャーの妻と不倫関係にあったスペードは警察に殺人の容疑をかけられてしまう。

妹の失踪は作り話で、しかもその女ブリジッド・オショーネシーは偽名を使っていた。オショーネシーはスペードに近づいた本当の理由を明かさない。
そのあと、スペードにカイロという男が接触してきたのは、スペードがオショーネシーから何かを聞き出しているとみたからだ。カイロはスペードに黒い鳥の装飾品を見つけ出したら5000ドル払うという。

さらに脂肪肥りのガットマンが手下にスペードを尾行させる。
このあたりでスペードの前に現れた人物たちの目的は、マルタ騎士団が所有していたという宝石を散りばめた莫大な価値がある装飾品を手に入れることだとわかる。

ガットマンはロシアの将軍が装飾品を所持していることを掴み、カイロ、サーズビー、オショーネシーを代理人として装飾品を手に入れようとしたが、3人はそれを自分のものにしようと策を弄したという。装飾品の表面には宝石を隠すため黒いエナメルが塗られていてる。
それぞれが自分が掴んでいる情報を明かさず、装飾品をめぐって探り合いを繰り広げている。

やがて、スペードのオフィスに胸に銃弾を受け血を流している男が飛び込んできて、スペードに包みを渡したあと事切れた。その包みから装飾品が出てきた。
3人も殺された事件を警察が黙っているはずがない。
スペードは、ガットマンとその手下、カイロとオショーネシーを前に、3人の殺人事件の犯人を警察に提供して、この事件に幕を降ろすことを提案する。装飾品のことが警察の知るところとなれば、事の収拾がつかなくなるというのが理由だった。
ここから、スペードと悪党たちとの駆け引き、警察の執拗な操作が佳境に入っていく。→人気ブログランキング

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