藤原道長(東山紀之)が、一条天皇の心が自らの娘・彰子に向くようにと、彰子に仕える売れっ子作家の紫式部(中谷美紀)に『源氏物語』を書くように促すとこらから始まる。
道長の望みは、一条天皇の中宮である彰子に御子を産ませ、その子が帝の位につき、外戚として権力を握ること。「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思ヘば」と詠んだ道長は、世の中を自分の思い通りにしようとする野心家であった。歴史は道長の思い通りになった。
中宮とは「帝の妻」という地位の女性たちのことである。
源氏物語 千年の謎
監督:鶴橋康夫 脚本:川崎いづみ/高山由紀子 原作:高山由紀子『源氏物語 悲しみの皇子』→『源氏物語 千年の謎』(角川文庫) 音楽:住友紀人 日本 2011年 136分
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こうした、紫式部と道長を中心にした現実の話と、『源氏物語』でくり広げられる光源氏と女性たちの話が、並行してあるいは絡み合って進んでいく。
当時、女性はすだれの奥にいたり扇子で顔を隠したりして、年頃の女性の顔は直接拝めない、いわばイスラム的な制約があったはずなのだが、その辺りは省略されて、適宜おおっぴらに顔を晒している。
桐壺帝の御子である光源氏(生田斗真)は3歳で生みの親である桐壺の更衣が病死したために、桐壺帝の中宮の藤壷に育てられる。
光源氏には母への強烈な思慕があり、それがこの映画の重要なテーマとなっている。光源氏の生みの親である桐壺の更衣と育ての親である藤壷を、真木よう子が一人二役で演じている。
光源氏は桐壺帝の御子でありながら帝に家臣として仕える。
美男子の誉れ高い光源氏はとにかくモテる。
そんな光源氏は葵の上(多部未華子)を娶るも、妻だけを愛するような男ではないから、帝の亡き兄の妻であった六条御息所(田中麗奈)と深い仲になる。六条御息所は漢文をたしなむ教養と気品のある女性である。
ところが、六条御息所は嫉妬深い女で、光源氏が手を出した夕顔(芦名星)に、生霊として取りついてしまう。光源氏の子供を身ごもった葵の上をも呪い殺そうとするが、陰陽師・安倍清明(窪塚洋介)が登場し、生霊と化した六条御息所を封じ込めるのである。
自らの運命を悟った御息所は、光源氏を諦め、近江の寺に入るのだが、御息所を追って寺を訪れた光源氏は門前払いをくう。モテ男はアフタケアも怠りない。
光源氏の母への思慕は、帝の留守中に育ての親である藤壷に手を出すという、神をも恐れぬ禁断の恋にまで発展する。藤壺が母に似ているという、信じ難い理由で迫るのである。
とは言っても、この時代はいとこと同士の結婚は当たり前。一夫多妻制であるし、夜這いにより男女の関係が成り立つ状況にあり、光源氏が継母である藤壷に手を出すというのは、「ちょっとやりすぎだわね」くらいの認識なのかもしれない。
レイプ文学とも称される『源氏物語』に記載されている、光源氏と女性とのあまたの交情からすれば、この程度のことは序の口と言ったところだろう。
一方、現実では『源氏物語』が大評判となり、道長の思い通り彰子は一条天皇の御子を身籠り男の子を出産する。道長は紫式部のお陰と感謝の言葉を口にするのだが、式部の心は晴れない。
「その後の光源氏はどうなるのか」と再三訊ねる道長に、式部は「これからも良いことも悪いことも続きます」と、それは道長のこれからでもあると思わせるような意味深長な答えを返す。
夫に先立たれた紫式部は道長のお手つきであったという説と、光源氏のモデルは道長という説があり、本作はそれらを採用している。→人気ブログランキング
『誰も教えてくれなかった「源氏物語」の面白さ』林真理子×山本淳子/小学館新書
『紫式部の欲望』 酒井順子/集英社文庫
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