女性論

2023年2月15日 (水)

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 花田菜々子 

主人公は33歳の女性。別居中の夫と、月に1回会って話し合いをしている。
大学時代からサブカルチャーにどっぷりと浸かり、卒後は水商売で金を稼いだ。10年前から下北沢の「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードに勤め、やがて店長になった。ヴィレッジヴァンガードは入社当時の魅力がなくなっている。
尊敬する上司に対面で本を紹介する機会があり、そのときの興奮と面白さが忘れられず、人に会ってその人に合った本を紹介するという目的で、出会い系サイト「X」に登録した。それを著者は修業と呼んでいる。
作為的な発想だが、それでも引き込まれるのは、著者の攻める姿勢だろう。
0a24e5908f7f4a15b42a8cb5c63081c2 出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと
花田菜々子 
河出文庫 
2020年 248頁

4人目まではろくでもないやつばかりだった。
とりあえずセックスって言ってみるやつ。結婚しているけど、俺はセックスしても問題ないと言ってくるやつ。30分の時間いっぱい手品とポエムを発表するやつ。年収5千万と嘘をつくやつ。メチャクチャなやつばかりだった。このあたりは予測どおりだ。

5人目は巨人の松井のような体格のいい男性。本をすすめているならコメント欄に推奨した本の紹介と理由を書いた方がいいと、アドバイスされた。松井のような男は「X」の創立からのメンバーで、「Xポリス」のようなことをやっているという。マルチ商法とかネットワークビジネスや宗教の勧誘を摘発するという。
最近は、おとなしい新規登録者ばかりで盛り上がりに欠けるという。個性的な著者は期待される有望株だという。

次は遊び回ってる女性と会った。話が弾み、また会おうと約束したが、その後会っていない。
医大生に会った。世界を旅するのが夢で、沢木耕太郎の『深夜特急』『荒野へ』が愛読書だという。ケルアックの『オン・ザ・ロード』を紹介した。

そして、サイト「X」のランキングで、有名企業家や古株に混じって著者が人気ベストテン入りするようになった。

カリスマ書店ガケ書房のオーナーに会いたいと思った。
20歳代の中頃に、京都のガケ書房を訪れたときの感激が忘れられない。その後年に2〜3回、ガケ書房を訪れていた。思いの丈をメールに書いて、ガケ書房の店長に送った。そして店長に会う。

ビブリオバトルのようなイベントを企画した。主催者の3人がゲストに本を紹介し合うイベントである。その日、祖父の通夜と重なってしまった。家族の中で不良なのは祖父と著者だった。2択で悩んだら自由な生き方の方を選択しろと言っていた祖父の教えにしたがって、通夜はすっぽかした。イベントは大成功だった。

紹介する本には、ひと言の紹介文やちょっとしたサマリがつけられているところがいい。
著者は、2022年9月に高円寺に書店「蟹ブックス」をオープンさせた。→人気ブログランキング  
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2022年10月15日 (土)

娼婦の本棚 鈴木涼美

著者は、大学生時代にAVに出演し、そのあとキャバクラ嬢をしながら東大の大学院を卒業して、フリーのライターになった。本書は書評でありエッセイでもある。性風俗で働きクスリもやって気づいたら30歳代後半になっていた。知り合いには自殺をしたり、行くへ不明になった者もいる。そういう人生を送ってきたもののまともでいられたのは、読書のおかげだという。
本書のメインテーマは、オンナノコからオンナになるまでの精神的に不安定な時期の葛藤である。思春期の自身を分析し見つめ直す、そのような内容の書籍が多く取りあげられている。
迫力満点の表紙カバーは「娼婦だったけど、文句ある」と言わんばかりである。
3c60afbeb80d41fe80529da381aa501a娼婦の本棚
鈴木涼美
中公新書ラクレ
2022年 253頁

著者が紹介する本は以下の20冊。
『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル/『”少女神“第9号』フランチェスカ・リア・ブロック/『悲しみよ こんにちは』サガン/『いつだってティータイム』鈴木いずみ/『Pink』岡崎京子/『性的唯幻論序説 改訂版「やられる」セックスはもういらない』岸田秀/『蝶々の纏足』山田詠美/『わが悲しき娼婦たちの思い出』ガルシア・マルケス/大胯びらき』ジャン・コクトー/『遊女の対話』ルーキアーノス/『ぼくんち』西原理恵子/『大貧帳』内田百聞/『シズコさん』佐野洋子/『夜になっても遊びつづけろ』金井美恵子/『私家版 日本語文法』井上ひさし/『モダンガール論』/『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』鷲田清一/『桃尻娘』橋本治/『モモ』ミヒャエル・エンデ/風の谷のナウシカ』宮崎駿

これらのなかで、特に気にかかるのは以下の2冊。
『”少女神“第9号』の項には、「オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間を、パステルカラーのジーンズやヒョウ柄のソファーや M&Mの緑色のチョコやダイエットソーダで彩りながら、9篇の物語にしたのがフランチェスカ・リア・ブロックの『”少女神“第9号』です」と書いている。→『“少女神“第9号』

もうひとつは、『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』である。ファッションついての哲学的な論考の書である。
本項では、「ファッションにはそういう意味で、初めから不良性が、いかがわしさがつきまとう。もともと等身大のファッションなんてありえないのであって、つねに背伸びするか、萎縮するか、つまりサイズがずれてしまうのが人間だ」という鷲田清一の文章で結んでいる。→人気ブログランキング
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娼婦の本棚/鈴木涼美/中公新書ラクレ/2022年 
AV女優、のち/安田理央/角川新書/2018年
職業としての地下アイドル/姫乃たま/朝日新書/2017年

2022年6月14日 (火)

赤毛のサウスポー ポール・R・ロスワイラー

18歳の赤毛のレッドが大リーグでピッチャーとして大活躍する様を描く。
著者は、小説家になる前はスポーツライターだったという。野球に造詣があり描写がきめ細かく現実味がある。
解説は沢木耕太郎が書いている。

主人公、レッド・ウォーカーの父親は、ナショナル・リーグの名投手で殿堂入りしている。その父にレッドは幼児期から野球の英才教育を受けていた。
9歳のときにリトルリーグに挑戦すると、レッドの技量がはるかに優っていて相手にならなかった。投げては相手を総なめし、打撃では弾丸ライナーを放った。
15歳のとき、通う高校の野球チームで投げて、7人のうち6人を三振に切ってとり、打っては大飛球を飛ばした。父親は監督にレッドを高校のチームに入れるつもりはないと言った。レッドをスカウトの目に止まらないようにした。
Photo_20220614142501 赤毛のサウスポー
ポール・R・ロスワイラー/稲葉明雄 
集英社文庫 
1979年 404頁

父親は、18歳になるレッドを友人であるポーロランド・ビーバースのダスティ監督に、託したいと思っていた。契約書にサインするまでは、女であることを知られないようにする作戦だった。それはまんまとうまくいった。

ところが、キャッチャー以外のチームメートからそっぽを向かれ、選手から誓願書が出された。誓願書には次のように書かれていた。「われわれはここにレッド・ウォーカーの即時追放を要求する。すなわち、彼女のチームにおける存在は、われわれ大リーグ野球選手の品位を落とし不名誉を与えるものと考えるからである」署名は20あった。

しかし、オープン戦が始まるとレッドは抑えの切り札として抜群の成績を収め、徐々にチームメートの信頼を勝ち取っていく。手玉に取られた相手チームの打者たちは、男の面子が丸潰れで、面白くない。
石頭のコミッショナーはレッドを認めようとしなかった。
黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンに対する扱いと同じだ。

ペナントレースに入って、レッドの活躍がビーバスの選手を奮い立たせ、西地区の首位に立ち続けのだ。
そして、レッドはオールスターの監督推薦に選ばれたのだ。その時点で、9勝1敗14セーブの見事なだった。オールスターではナショナルリーグが勝ち、レッドは勝利投手になった。
後半戦も、ビーバースは好調だった。このままいけば地区優勝は間違いなしといわれた。
ところが、そうは問屋が卸さない。
レッドは不祥事に巻き込まれてしまう。
傑作だ。→人気ブログランキング
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2022年6月 2日 (木)

その名を暴け ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー

『ニューヨーク・タイムズ紙』の女性記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが、ミラマックスの創始者でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラと性暴行を調査して、それを記事として公表する過程が描かれている。ドナルド・トランプ、ハーヴェイ・ワインスタイン、ブレッド・カバノー最高裁判所判事の3人の性暴力が主に取り上げられているが、そのなかで最も多くのページが割かれているのは、ワインスタインだ。
038e3d2466bf4016a38c49e87ba54934その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い
ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー
古屋美登里 
新潮文庫 
2022年5月 603頁

2016年、『ニューヨーク・タイムズ』に入社したミーガンが命じられたのは、大統領選の記事を書くこと。トランプは女性に対して性的暴力の常習犯だった。ワシントン・ポスト紙が2005年の「アクセス・ハリウッド」(NBCのエンターテイメント系情報番組)から録音テープを入手した。トランプの「なんだってやれる。あそこを掴むことも…」という録音テープが明るみに出たのだ。
トランプは男同士の与太話(ロッカールーム・トーク)であると弁明したものの、被害を受けた女性が名乗り出て記事になると、トランプは訴えると言い出し、被害者がトランプ支持者の嫌がらせを受けるようになった。

1979年、ミラマックス社を弟ボブと起こしたワインスタインは、ハリウッドで若手の監督や俳優を世に送り出し、アカデミー賞を獲得するような作品をいくつも手掛け、輝かしい実績を残していった。しかし、女性に対する酷い扱いが噂された。2015年、ニューヨーク市警に、イタリア人モデルからワインスタインに体を弄られたとの訴えがあったが、結局起訴されずに終わった。

ワインスタインは訴えられそうになると莫大な示談金を払い、示談書に黙秘義務を明記して被害者を沈黙させた。示談金を払った相手は8人から12人に上ることがわかってきた。
ミラマックス社に勤めていた女子職員が突然辞めるケースがいくつかあった。ワインスタインは、女子職員に対して暴言を吐き性的な要求をしていたのだった。

ジョディとミーガンは、被害者にメールを送り電話をかけ面会して、ワインスタインをの悪行を暴いていった。そして、ついに記事として掲載できるところまでに漕ぎ着けた。
記事を掲載すると通告されたワインスタインの狼狽ぶりが事細かく記載されている。

『ニューヨーク・タイムズ』の記事がネットに公開されると、続いて『ニューヨーカー誌』に、ローナン・ファローの告発記事が掲載された。これらの告発記事によって、『ニューヨー・タイムズ』をはじめ他の報道機関に、性的虐待を受けたという女性の告白が殺到した。ウェートレス、バレエ・ダンサー、家政婦やベビーシッターといった家庭内労働者、工場労働者、グーグルの従業員、モデル、看守などが声を上げた。そして#MeeToo 運動につながっていった。大物政治家や有名テレビ司会者、有名シェフ、コメディアンなど次々に告発され消えていった。
2020年3月、ワインスタインはニューヨーク最高裁判所にて禁錮23年の判決をけた

2018年9月、トランプ大統領が最高裁判事候補に任命したブレッド・カバノー判事が最高裁判所判事の候補になったとき、クリスチャン・ブレイジー・フォードは名乗り出ようと思った。高校生のときにレイプされかけたのだ。その後フォードはスタンフォード大学の心理学の教授となったが、PTSDに悩まされている。
しかし迂闊に名乗りを上げれば、共和党の猛攻撃を喰らうことになる。カバノーには他にも女性虐待を加えていたはずだとフォードの弁護団は推測していた。ところが、ひとりも被害者を見つけ出すことができなかった。フォードは告発するかどうかの選択に迫られた。公聴会の前に公開することはなかった。
ところが、公聴会の4日前にふたりがカバノーに性的虐待を受けたと名乗り出たが、結局、上院の採決で賛成50:反対48で、カバノーは最高裁判事になった。

最後の章では、本書に登場した被害者のうち12人が、カリフォルニア州の女優グウィネス・バルトローの自宅に集まり、集団インタビューが行われた。女優のアシュレイ・ジャド、トランプタワーで働いていたときにトランプに突然キスされた女性、ミラマックスのロンドン支社でワインスタインのアシスタントをしていたローラ・マッデン、同僚のゼルダ・パーキンス、マクドナルドの従業員、フォード教授など、そして弁護士たちが集まった。

本書を原作として、マリア・シュラダー監督が指揮をとり、レベッカ・レンキュビチ脚本で、ミーガンをキャリー・マリガン、ジョディをゾーイ・カザンが演じて映画化され、2022年11月に全米で公開予定である。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い/ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー/古屋美登里/新潮文庫/2022年5月

2022年2月 1日 (火)

プロレス少女伝説 井田真木子

第22回(1991年)大宅壮一ノンフィクション賞受賞作(同時に受賞したのは家田荘子の『私を抱いてそしてキスして エイズ患者と過した一年の壮絶記録』)。
有名なエピソードだが、立花隆はこの作品を「どうでもいいことを巧みに描いた典型」『文藝春秋』(1991年5月号)と評した。
Photo_20220201084401プロレス少女伝説
井田真木子 
文春文庫 
1993年 350頁

著者は、1983年、女子プロレスの観客に異変が起きていることに気づいたという。
中年男性の他に、小学生も混じえたローティーンの少女の一群を見るようになった。そして、あっという間に中年男性と少女たちは数で拮抗するようになっていった。そしてヤジを飛ばす男たちに少女たちは「カエレ」コールを浴びせるようになった。
つまり、エロ目線で女子プロレスを観ていたオヤジたちが、女子プロレスラーをヒーローと称えるローティーン女子の熱狂的なプロレス愛に、試合会場からはじき出されたのだ。
この後、ティーンエイジャーの少女たちの間で女子プロレスが熱狂的なブームとなる。

著者は80年代に活躍した4人のヒロインたちに直接インタビューを行なって、本書を書き上げた。
その4人とは、中国籍だった天田麗文、白人の父親と先住民族の母親から生まれたアメリカ国籍のデブラ・アン・メデューサ・ミシェリー、柔道の日本チャンピオンだった神取しのぶ、そしてライオネル・飛鳥と組んでクラッシュ・ギャルズとして空前の人気を博した長与千種である。

日米の女子プロレスの歴史に触れている。
アメリカでは、女子プロレスは男子プロレスの前座的なものでしかなく、つけ足しであり、性的な見せ物の要素が強く、そこから発展しなかった。
日本には江戸時代から女相撲という人気の興行があり、男の大相撲から興行差し止めの願いが出されるほど人気があったという。そうした素地が、日本の女子プロレスを独自に発展させたと著者は分析している。

ところで、タイトルが『プロレス少女伝説』と、なぜ「少女」なのか。多くの女子プロレスラーがプロレスと関わったのは10代である。そして20歳代後半で引退していく。さらにファンの年齢は、少女に属するものだった。「少女」にした意味はそこにある。

立花隆の論評は続く。「私はプロレスというのは、品性と知性と感性が同時に低レベルにある人だけが熱中できる低劣なゲームだと思っている。そういう世界で何が起きようと私には全く関心がない」と続けた。
いくらなんでもの論評だが、これはあるパーセントの人が抱くプロレスのイメージだろう。プロレスを蔑視している人はいる。

最近プロレスを観ることはないが、力道山に歓喜しプロレスごっこで遊んだ団塊の世代の私は、プロレスに恩義があると思っている。プロレスには演技の部分が多数あることは、当時の小学生にすらバレていた。それでも大人も子どもも熱狂したのである。要は試合のストーリーに観客を納得させるものがあればいいのだ。それだけだ。→人気ブログランキング
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2020年7月 7日 (火)

女帝 小池百合子 石井妙子

最初に、2016年の都知事選のエピソードが語られる。
公開討論会で鳥越俊太郎が「わたしのこと『病み上がりの人』と言いましたね」と問い詰めると、小池百合子はいけしゃーしゃーと「言ってません」と突っぱねたという。このエピソードが小池百合子を象徴している。つまり、平気で嘘をつくという性癖である。

小池百合子はカイロ大学を首席で卒業した才媛という触れ込みでテレビに登場し、経済番組のキャスターとして人気を集めた。その後、政治家に身を転じ、日本新党、新進党(自由党)、自民党と政党を渡り歩き、環境大臣、防衛大臣を歴任した。閣僚から外されると、自民党の反対を押し切って東京都知事選に立候補した。その後、自民党を除名されるも、希望の党の党首となって都知事選で圧勝し、次期首相候補といわれるまで権力の階段を登っていった。
ところが、希望の党への民主党からの入党希望者の人選をめぐって、「(安保、改憲で一致しない人は)排除する」と述べた。この「排除する」という言葉を発したことで、小池は求心力を失っていった。

Image_20200707154201 女帝 小池百合子
石井妙子
文藝春秋
2020年 ✳︎10

著者は、小池がカイロで過ごした5年間のうちの2年間、同居していた早川(仮名)さんを取材している。小池を訪ねてアパートにはしょっちゅう男が現れたという。
ペルシャ語は口語と文章体が異なり、文章体を読みこなすのはエジプト人でも大変なことで、日常会話がやっとできる程度の語学力ではカイロ大学の進級は不可能だという。ましてや、勉強をほとんどしなかった小池が卒業できるわけがないという。
今回の取材の後、小泉さんはカイロの地で身の危険を感じ、日常生活をまともに送られないほど怯えたことがあったという。

著者は、小池が週刊誌などで公開した卒業証書や卒業証明書について、細かく分析している。飛行機事故に2回遭遇しそうになって免れたエピソードは、事故の日時と小池が搭乗したとする飛行機とを調べてみると、時間的な齟齬があるという。また卒業を記念してピラミッドの頂上で着物を着てお茶を立てたとする2枚の写真について、疑問を投げかけている。なにしろ小池は胡散臭いことこの上ない。
小池の卒業についてカイロ大学に問い合わせると、小池が在籍した文学部ではなく日本語科の係が対応し、卒業してますと答えるという。エジプトは軍事政権下にあり、日本からODAによる無償の多額の金が入っている。小池はエジプトをしばしば訪れ要人と会っているという。そんな人物の過去をほじくり返したところでエジプトになんらメリットはない。

小池の手法はその組織のトップに近づき、その人物の承認を得たかのような言動で組織を引っ掻き回す。自分の功績はどんな小さいことでも大々的に喧伝する。選挙公約は反故にする、かけられた恩を仇で返し、被った被害は倍にして返す。同僚や部下を下に見て平気で無視したり馬鹿にしたりする。だから周りからの信頼はえられない。

著者は、緻密な取材と冷静な分析と落ち着いた確かな文章力で、小池の半生を明らかにした。小池をここまでにしたのは、小池の嘘を追求しきれなかった日本のマスコミであり、男が牛耳ってきた日本の政治構造であるという。
小池の生き様は、有吉佐和子の『悪女について』の主人公を彷彿とさせる。このような人物が都政のトップにいつまでもいていいのだろうか?というのが正直な感想である。
第52回(2021年)大宅壮一ノンフィクション賞受賞。→人気ブログランキング
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2020年4月16日 (木)

パンティオロジー 秋山あい

著者はパンティのイラストを描いている。
そう自己紹介して、相手に手持ちのパンティから、セクシー、リラックス、お気に入りの3枚を選んでもらい、パンティにまつわる思いを語ってもらう。夫や交際相手のことも訊ねていて、文章からはパンティ提供者の私生活がかいま見える。

33名の対象者は、国籍も人種も、年齢もバラバラ。著者はフランスと日本を行き来しているので、いきおい日本人とフランス人が多いが、アメリカ、イタリア、ポーランド、イランなど多岐に渡る。

Image パンティオロジー

秋山あい
集英社インタナショナル
2019年 ✳︎10

 著者が描くパンティのイラストは写真と見紛うがごとくに写実的である。

真新しいものもあるが、大半は中古物件の佇まいが漂うものである。イラストには、パンティとそれを身につける人物から感じ取ったものを著者が咀嚼して具現化した小宇宙がある。パンティは生きていると言わざるを得ない。
著者が命名したパンティオロジーという造語は深遠な学問の響きがあり風格を感じさせる、ユーモアあふれる単語だ。
帯の「パンティは女心の充電器である」は的確なキャッチコピーであるが、匹敵するしっくりくるフレーズをひねり出したい。「パンティは女心のスイッチである」はいかがだろう→人気ブログランキング

2018年11月27日 (火)

男も女もみんなフェミニストでなきゃ チママンダー・ンゴズィ・アディーチェ

原題は「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS」、邦題の『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』は、肩肘張らずに誰にでもわかるようにフェミニズムを説いている内容にぴったりである。
本書は、著者のTEDxEuston( 2012年12月)での、「WE SHOULD ALL BE FEMINISTS」と題したスピーチに加筆したもの。
2009年7月の同じくTEDxEustonでのスピーチ「シングルストーリーの危険性」も、センセーションを巻き起こした。その内容は、欧米諸国のアフリカに対するステレオタイプな見方に異議を唱えたものだ。
本書は、男女間の固定観念に縛られるのはやめようというのが趣旨である。それは、アフリカに対する見方を変えるべきだとする姿勢と一貫性がある。
Image_20201115120701男も女もみんなフェミニストでなきゃ
チママンダー・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ
河出書房新社 2017年

ビヨンセが「FLAWLESS」(2014年)の歌詞に、TEDxEustonでの著者のスピーチの一部をそのまま使った。〈女の子には小さくなれと教えてしまうのです。大志を抱いてもいいけれど、大概にしたほうがいい。成功を目指してもいいけれど、あまり成功しすぎると男の立場を脅かすことになるから気をつけて。・・・・・・〉
Diorが夏のファッションショー(2016年)で、「WE SHOULD ALL BE FEMINITS」と書かれたTシャツを着たモデルを登場させた。
スウェーデン政府が、本書を冊子にして16歳の子どもたち全員に配布した。
というように、世界が著者に同調したのだ。

著者は、辞書では、フェミニストとは、社会的、政治的、経済的に両性が平等だと信じる者であるとし、まずは子育て世代や教育者に、ひいてはすべての人びとにフェミニズムを実践してほしいと訴えている。
著者の結論は次のようだ。
〈わたし自身の、フェミニストの定義は、男性であれ女性であれ、「そう、ジェンダーには今日だって問題があるよね、だから改善しなきゃね、もっとよくしなきゃ」という人です。〉→人気ブログランキング
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なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴーズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出文庫/2019年
男も女もみんなフェミニストでなきゃ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2017年
アメリカーナ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2016年
明日は遠すぎて/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2012年
半分のぼった黄色い太陽/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2010年
アメリカにいる、きみ/C・N・アディーチェ/くぼたのぞみ/河出書房新社/2007年

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女の機嫌の直し方/黒川伊保子/集英社インターナショナル新書/2017年
沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択/サラ・パレツキー/山本やよい/早川書房/2010年

2018年10月19日 (金)

女ぎらい ニッポンのミソジニー(文庫) 上野千鶴子

なんでこんな良書が文庫にならないのかと、嘆いたのが2週前。
それが伝わったかのように、『女ぎらい』の文庫が朝日文庫として出版された。オリジナルが文庫部門のない紀伊国屋書店からの出版なので、また、オリジナルを手がけた編集者にただならぬ思入れがあって、再三の文庫化のオファーを著者もオリジナル本編集者も断ってきたという。なるほどそういうことだったのか。
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上野千鶴子
朝日文庫
2018年 392頁

ミソジニーの主犯は紛れもなく男であるが、共犯者は女だ。男にとっては「女性蔑視」、女にとっては「自己嫌悪」として働く。ミソジニーは重力のように蔓延していて、男も女もミソジニーから逃れられない。

ミソジニーは、「ホモソーシャル」「ホモフォビア」「ミソジニー」の三点セットで成り立っているというのが本書のキモである。文庫には、「諸君!晩節を汚さないようにーセクハラの何が問題か?」と「こじらせ女」の項が追加され、一層、迫力を増した内容になっている。
「諸君!・・・」では、ミソジニーを語るとき、最近日本で頻発するセクハラ関連事件を看過するわけにはいかないというのが著者の姿勢だ。
ハリウッドで起こったセクハラの「#Me Too」運動は、日本でもささやかではあるが引き継いでいる。その実例を列記し、もちろんミソジニーが根底にあるとする。
「こじらせ女子・・・」では、『女子をこじらせて』(雨宮まみ著 2015年文庫化)についての紹介が主な内容になっている。AVを通して理解に難渋する女性のミソジニーが語られている。

巻末にある自らのミソジニー体験を踏まえた中島京子の解説文が、本書を一段と引き立たせている。
本書は、ミソジニー、セクハラ、フェミニスト関連の、間違いなく教科書である。→人気ブログランキング
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女ぎらいーニッポンのミソジニー(文庫)上野千鶴子/朝日文庫/2018年
女ぎらいーニッポンのミソジニー上野千鶴子/紀伊国屋書店/2010年
西城秀樹のおかげです森奈津子/ハヤカワ文庫JA/2004年
無頼化する女たち 水無田気流
関係する女 所有する男 斎藤 環
母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか 斎藤 環
女の機嫌の直し方/黒川伊保子/集英社インターナショナル新書/2017年

2018年10月 4日 (木)

女ぎらい ニッポンのミソジニー 上野千鶴子

ギリシア語に由来するミソジニー(misogyny)は、日本語では、女嫌い、女性嫌悪、女性蔑視が当てられる。
男女の有り様をミソジニーという観点から解き明かした名著。センセーショナルで核心をついたこのような良書が文庫にならないのは残念だ(と嘆いたのもつかの間、この文章を書いた翌週に文庫が出版された)。

男は女を蔑視し女に嫌悪感を抱いていて、女も女という属性を無意識のうちに嫌悪しているという。ミソジニーは男女にとって非対称に働く。男にとっては「女性蔑視」、女にとっては「自己嫌悪」として働く。
男も女もミソジニーから逃れられない。それは病理ではなく生理であるという。ミソジニーは重力のように蔓延していて、あまりにも自明であるために意識することすらできない。改めて考え直さなくては気づくこともないという。
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上野 千鶴子
紀伊國屋書店
2010年

まずは、文豪たちのミソジニー度をその女性遍歴から分析する。
女好きが看板だった吉行淳之介は、ミソジニー度が高いから女をとっかえひっかえできたという。一方、商売女としか付き合わなかった永井荷風は、ミソジニー度は低いとする。ふたりは女性蔑視の手順が違うだけだという。

男性学者が女性を論じるときに、不用意に使う単語や言い回しに、ミソジニー的発想が顔を出す。著者はそうした動かぬ証拠を列挙して、著名な社会学者たちを小気味いいくらい次々に血祭りにあげていく。こうした男性学者のミスは、ミソジニーが重力ようなものだから仕方がないのかもしれない。

著者はアメリカの文学研究家でジェンダー論・クィア理論を専門とするイブ・セジウィックの助けを借りて考察を進めたというが、そのセジュウィックによれば、女性蔑視こそが男性性の確立なのである。男と認め合った者たちの連帯は、男になり損ねた者と女とを排除し、差別することで成り立っている。

ミソジニーには、女性蔑視ばかりではなく、もうひとつの女性崇拝という側面がある。
性の二重構造とは、男向けの性道徳と、女向けの性道徳が違うことをいう。たとえば男は色好みであることに価値があるとされるが、女は性的に無垢で無知であることがよしとされる。
近代の一夫一婦制が、タテマエは相互の貞節をうたいながら、ホンネでは男のルール違反をはじめから組み込んでいたように、男のルール違反の相手をしてくれる女性が別に必要となる。その結果、女性を二種類の集団に分割することとなった。それが「聖女」と「娼婦」、「妻・母」と「売女」、「結婚相手」と「遊び相手」などの、二分法である。

後半は、女性のミソジニーについて論じている。
女子校文化のダブルスタンダードとは、男ウケする価値と女ウケする価値は違う。凛々しく「男らしい」少女がクラスのヒーローになったり、笑いを取るのがうまい少女が人気者になったりするが、女ウケする女はけっして男ウケしないことを彼女たちはよく知っている。

ここで酒井順子の『負け犬の遠吠え』に触れる。
女には、女が自分の力で獲得した価値と、他人(つまり男)が与えてくれる価値のふたつがあり、前者より後者の方が値打ちが高いと思われているからこそ、結婚していない女は「負け犬」と呼ばれる。なぜなら結婚とは、女が男によって選ばれた登録書だからだ。

女性のミソジニーを語るなら「東電OL事件」を避けて通れないという。
1997年3月、売春婦が絞殺死体で発見された。その女性が慶応大学卒で東京電力の総合職女子社員だった。なぜエリート女子社員が売春婦に身をやつしたのか。
殺された女性は、父親を尊敬していて父親のような立派な人間になろうとしていた。それが父親の急死で、父親の代わりになって母親や妹の面倒をみなければならないと決意した。しかし男でない以上、父親の代わりにはなりえない。そんな女としての自分を罰したい。それが売春に走った理由であるという。
殺されたOLの生き様に共感する女性が少なからずいるというから驚きだ。→人気ブログランキング

→『女ぎらいーニッポンのミソジニー(文庫)』上野千鶴子/朝日文庫/2018年
→『女ぎらい―ニッポンのミソジニー』上野千鶴子/紀伊国屋書店/2010年
→『西城秀樹のおかげです』森奈津子/ハヤカワ文庫JA/2004年
→『無頼化する女たち』 水無田気流
→『関係する女 所有する男』 斎藤 環
→『母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか』 斎藤 環

2024年5月
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