スリラー

2019年2月19日 (火)

フランケンシュタイン メアリー・シェリー

しばしば誤解されるが、フランケンシュタインは「怪物」を生み出したスイス人科学者の名前である。「怪物」には名前が与えられていない。本作は、1813年にイギリスの女性作家メアリー・シェリーが発表したゴシック・スリラー小説である。SF小説の嚆矢とも位置づけられている。
Image_20201120153301フランケンシュタイン
メアリー・シェリー /芹澤恵
新潮文庫
2014年

イギリスの北極探検家が姉に宛てた手紙の形をとっている。探検家は、北極海で衰弱したヴィクター・フランケンシュタインを助け、ヴィクターの話を手紙に綴って姉に送る。

ヴィクターはドイツの大学で学び、「理想の人間」を作ろうと、墓を暴き死体をつなぎ合わせて怪物を作り出す。未完成の状態で怪物は実験室を逃げ出す。
怪物はドイツの片田舎で暮らす父子3人の生活を観察し、善意と寛容を学ぼうとする。森で拾った鞄から出てきた『失楽園』『プルターク英雄伝』『若きウェルテルの悩み』を読み、それぞれの感想を述べるくだりは、知性を得て、純粋な心もとうとする怪物の心情が表われている。
風貌はおぞましいほど醜悪で、身体つきは並外れてでかい怪物が、一家に認めてもらおうと姿を現すが、追い払われてしまう。
自分が認められないことに絶望し、ヴィクターに復讐しようと、ヴィクターの弟を絞殺し、その犯人としてフランケンシュタイン家の従順な女中に濡れ衣を着せ処刑に追いこむ。
さらに、ヴィクターの無二の親友を殺し、ヴィクター自身が殺人犯と疑われ牢獄に放り込まれてしまう。
怪物の心境は、揺れ幅が極端なのだ。

孤独な怪物は寂しさを紛らわす伴侶を作ってくれるように、ヴィクターに頼む。ヴィクターは一時は作ろうとしたものの、伴侶が邪悪な心を持つやもしれず、さらに子孫を残すこととなれば邪悪な一族となるやもしれない。そのような約束を請け負ったことを後悔し、約束を反故にする。

やがて、ヴィクターは兼ねてから結婚の約束をしていた最愛の人と結婚するが、新婚旅行の宿に現れた怪物に新妻が殺されてしまう。さらに度重なる不幸に見舞われたヴィクターの父親も、心痛に耐えかねて亡くなってしまう。

愛する人をことごとく失ったヴィクターは、ジュネーブを出て怪物を殺害するために、北へ向かう流浪の旅に出る。そして北極海で遭難し探検家の船に拾われる。
すべてを語り終えた、ヴィクターは船上で息を引き取る。
怪物が船に現れ、自分の創造主であるヴィクターの死をいたく悲しむ。怪物は北極圏に向かい、その後人間界には二度と現れなかったのである。
愛と悲しみと残酷さに満ちた物語である。→人気ブログランキング

2013年6月11日 (火)

ジャッキー・ブラウン

ジャッキー・ブラウン(パム・グリア)が三流航空会社のスチュワーデスの安っぽい制服に身を包み、空港の動く歩道の上を右から左に移動するバストショットが、延々と映し出されて映画は始まる。ジャッキーの肌は褐色に輝き、溢れんばかりの色気が漂う。彼女はそのまま空港で逮捕される。
原作は『ラブラバ』の作者で名をはせるエルモア・レナードの『ラム・パンチ』。彼は本作の製作総指揮に名を連ねている。
Photo_20201119083101ジャッキー・ブラウン
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
原作:エルモア・レナード  『ラム・パンチ』(角川文庫)
アメリカ  1997年  154分   

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監督タランティーノは若かりし頃、パム・グリアの大ファンで、彼女を自慰の対象にしていたという。タランティーノから直接に言われたどうかはわからないが、そんなことを知ってしまった主演女優の気分はいかばかりか。誇らしく思えるものなのか、気持ち悪いと思うものなのか。もともとB級映画のセクシー路線で売り出した主演のパム・グリアは、太っ腹そうなので、「そうなだったの」といってウインクぐらい返したかもしれない。そう感じさせるところが彼女の魅力だ。

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武器密売人オデール(サミュエル・ジャクソン)の資金の運び屋をしているジャッキーは刑務所から出所したばかりだった。やっと今の職を得て安い給料でなんとかしのいでいたのに、再び刑務所に入れば、出所したときには職がないくらい切羽詰まってしまう。なにしろスチュワーデスとしては歳も歳だ。

ここで、ジャッキーは起死回生の手を打つことにした。
彼女の身柄を引き取りにきた保釈金融業者のマックス(ロバート・フォスター)を抱き込んで、警察とFBIと取引して罪を逃れ、オデールの金を横取りしようと画策した。
パム・グリアとサミエル・ジャクソンがかぶっている「Kangol」のベレー帽が気になる。つい、かぶってみたいと思うくらいに、ふたりとも似合っている。

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一方、オデールの相棒ロバート・デ・ニーロが演じる落ち目のヤクザのルイスは、オデールの女ブリジッド・フォンダに、彼のドジぶりをののしられて逆上し彼女を撃ち殺してしまう。映画界の血統書つきのブリジット・フォンダを黒人が囲う蓮っ葉な女として登場させ、しかもあっさり殺されてしまう役柄に配するところが、いかにもタランティーノらしい。

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事が計画通りに進み、まんまと大金を手にしたジャッキーはマックスに一緒に暮らそうと誘うが、彼はもう歳だからとやんわり断る。この場面は、タランティーノがかつてお世話になったパム・グリアに個人的な感謝の意を込めて、マックスに「ピリオド」を打ってもらったと、とれなくもない。
本作は監督の思いが込められた大人の恋愛物語でもある。タランティーノは正直者だ。→人気ブログランキング  

オンブレ/新潮文庫/2018年3月
ラブラバ/ハヤカワ・ミステリ/2017年
ラム・パンチ/角川文庫/1998年(『ジャッキー・ブラウン』DVD)
ミスター・マジェスティック/文春文庫/1994年

2013年3月 5日 (火)

ブラッド・シンプル

本作は『ノーカントリー』(2007年)で、アカデミー賞作品賞と監督賞を受賞したコーエン兄弟の兄ジョエル・コーエン監督の初作品である。
のちに監督は本作の主人公アービー役のフランシス・マクドマードと結婚しているなど、何かと話題性に富んだ作品である。
中国映画『女と銃と荒野の麺屋』(チャン・イーモウ監督、2011年)は、この映画をリメイクしている。

D653777ebee9401f9553d6062d7b78c4ブラッド・シンプル
Blood Simple
監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
音楽:カーター・バーウェル
アメリカ  1985年  99分

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テキサツ州の田舎町に、ポツンとある酒場の経営者マーティ(ダン・ヘダヤ)は、アビー(フランシス・マクドーマンド)と従業員レイ(ジョン・ゲッツ)が浮気をしていると疑い、私立探偵のフィッセル(M・エメット・ウォルシュ)に調査を依頼する。
マーティはケチで傲慢、周りからは嫌われている。

アビーは夫からパールグリップの銃を貰ったとレイに話す。この銃がストーリーの流れの中で重要な鍵となる。
彼女はマーティを撃ってしまうそうだとレイに話す。ここで、レイはアビーがマーティを殺すかもしてないと思ったのだろう。

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フィッセルはふたりの不貞の現場を抑えマーティ報告し金を手にするが、傲慢なマーティの上から見下す態度が気に入らない。

マーティに詰問されたレイは酒場を辞めることになる。
レイが未払分の給料2週間分を要求するが、強欲なマーティは不倫の対価として支払いを拒否した。そんなことでは、怒りが収まらないマーティは、妻とレイの殺害をフィッセルに依頼する。ここから物語は大きく動き出す。

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ところが、フィッセルはふたりを殺したように見せかけ、マーティから依頼料をだまし取るだけでなく、アビーのバッグから盗んだ銃でマーティを撃ち、金庫の有り金を持ち去るのだった。

未払い分の給料を手にしようとマーティとの交渉に酒場に現れたレイは、撃たれたマーティを発見して、アビーの仕業だと早合点し、マティを運び出す。

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一方、アビーは血液のついた衣服や車の座席の血液から、夫を撃ったのはレイであると思い込んでしまう。
レイがアビーに事情を説明しているところに、愛用のライターを置き忘れたフィッセルが舞い戻ってきて、酒場は殺し合いの場になるのだった。

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BGMにカントリーが流れると、残忍な場面が和む効果がある。
殺人が起こるものの、どこかコメディのテイストが感じられる作風である。
コーエン兄弟がただ者でないと感じさせるインディーな姿勢が本作でも貫かれている。→人気ブログランキング

2013年3月 4日 (月)

女と銃と荒野の麺屋

コーエン兄弟の処女作『ブラッド・シンプル』(1985年)のリメイク版。
荒野にぽつんと店主ワンの中華麺店がある。中華麺店には、リーと大柄なジャオ、小柄な女のチェンの3人が住み込みで働いている。
774e80dbe3c9422e8fb55e49586cbe35女と銃と荒野の麺屋
A Woman, a Gun and a Noodle Shop
監督:チャン・イーモウ
脚本:シュウ・チェンチャオ、シー・チエンチュアン
音楽:チャオ・リン
製作国:中国  2011年  90分

強欲なワンは、従業員の給料を払わず私腹を肥やすような男である。
ワンは10年前に金で買った妻(ヤン・ニー)を虐待し、その妻は気の小さいリーと不倫をしている。

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ある日、妻はペルシャからきた行商人から拳銃を購入する。
もうちょっと破壊力がある大砲もあると言って、その行商人がぶっ放した大砲は荒野めがけて飛んで行き、爆発音を轟かせた。
その音を聞きつけて警察隊が大挙してやってきて、ワンの店に入る。

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ここで、リーとジャオとチェンが、警察隊員に振舞う麺を作り始める。
ピザを作るように指でくるくる生地を回すパフォーマンスを見せたあと、きしめんのように幅広く切った麺を茹でて丼に入れ、唐辛子をのせ、その上から煮えたぎった油をかけて出来上がり。警察隊員たちはそれをうまそうに食べた。
麺屋らしい場面はここだけである。

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ワンから賄賂を受け取った副隊長のチャン(スン・ホンレイ)は、銃と不倫のことをワンに密告する。妻と従業員の裏切りに激昂したワンは、チャンにふたりの殺害を依頼する。

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樹木一本生えていない赤茶けた荒野、漆黒の闇に叢雲から顔を出す月の冷たい光、そして麺屋が交互に映し出され、シュルな映像のなかに、殺人ゲームが展開する。

強欲で残忍でゾンビのような死にぞこないの店主、死の恐怖におののくコケティッシュな妻、あくまで臆病な間男、大柄な男と小柄な女のコミカルな使用人コンビ、そして金に目が眩んだ冷徹な殺人鬼が織り成す、B級度満点の楽しさを味わわせてくれる作品である。→人気ブログランキング

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