http://misyuramen.cocolog-nifty.com/tsundoku/2025/11/post-536584.html ホラー: 人生はスラップスティック

ホラー

2026年3月12日 (木)

スティーヴン・キング

 スティーヴン・キングの立ち位置は紛れもなくモダン・ホラーである。アメリカのごく平凡な町で日常の描写を詳細にかつ執拗に行うとことが、キングの特徴である。モダン・ホラーは、現代のテクノロジー社会や都市生活において、個人の内面におけるストレスや不安から生じる恐怖を描くジャンルである。一方、クラシック・ホラーは、1920年代から1980年代前半までに発表された、人間の根源的な恐怖を描いた名作群であり、ドラキュラやフランケンシュタインなどのモンスター、ゴシックな雰囲気、心理的恐怖、そして後のホラーへの影響力の深さが特徴である。ホラー以外もキングの守備範囲は驚くほど広い。映画の原作を挙げると、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、『ショーシャンクの空に』(1994年)、『グリーンマイル』(1999年)などの大作を手掛けている。最近では、『ランニング・マン』(2026年1月)と『サンキュー、チャック』(2026年5月)はキングによる。

 キングは『死の舞踏』(ちくま文庫 2017年)のなかで、根本的な考えに「ホラーには寓意性がある」としている。怪物は怪物そのものではなく、現実にわれわれが恐れている何かのメタファーであるという。優れたホラーは寓意であり象徴なのだ。キングは恐怖には3段階あるとする。第1段階は嫌悪「リヴィルジョン」、ウゲッとなる生理的不快さ、一番低劣な怖さである。第2段階は恐怖「ホラー」、ゾッとする感じである。暗闇、墓場、幽霊屋敷、得体の知れないものがいそうな怖さだ。怖いもの見たさはこの段階で起こる。第3段階は戦慄「テラー」、致死に限りなく近い悲鳴が上がるような体験である。キングはクラシック・ホラーの『吸血鬼ドラキュラ』、『ジキル氏とハイド』、『フランケンシュタイン』を例に挙げて、モンスターを分類している。第1段階は吸血鬼、これはセックスの恐怖だという。第2段階は「人狼」、ジキルとハイドのように、普通の人が隠している狂気である。第3段階は名前のないものである。『フランケンシュタイン』の人造人間に代表される。ちなみに、「フランケンシュタイン」は人造人間の製作者の博士の名前である。その他に幽霊がいる。このホラーとテラーという用語は、ゴシック小説の大家と呼ばれたイタリア人作家のアン・ラドクリフ夫人が、2世紀前に言い出したものであるという。
 ホラーの帝王と呼ばれ、モダン・ホラーの創始者でもあるキングの受賞歴は華々しい。世界幻想文学大賞(1982年、1995年、2004年)、ヒューゴー賞(1982年)、オー・ヘンリー賞(1996年)、ブラム・ストーカー賞(1988年、1996年、1997年、1999年、2007年、2009年)、日本推理作家協会賞・翻訳部門(2025年)など、数々の文学賞を受賞している。
 キングの作品は半端のない長さの作品が多い。文庫本3、4冊に相当する作品がざらにある。2020年に読んだ『アンダー・ザ・ドーム』(2013年)は、厚い文庫本4冊分であった。そのあらすじは、アメリカ東部の人口2000人の田舎町が、ある日突然目に見えないドームに覆われてしまう。外界から完全に隔離された町の住民は脱出と生存をかけ、ドームの謎の解明に挑むことになる。
 キングの作品の多くが映画化またはテレビドラマ化されている。同じ作品が焼き直しされて採用されている場合もある。多作家であると同時に着眼点がユニークであるから、勢い映画の原作に採用される機会が多くなる。これまでの単行本の発刊数は70冊を超え、映画化作品は70点以上である。

 キングは1947年生まれ、生誕地はメイン州ポートランド、メイン州はアメリカ東海岸の最北部に位置しカナダと国境を接する。ここで唐突だが、キングの作品群は登場人物に人種に著しい偏りがあることに触れたい。主人公たちはことごとく白人である。有色人種はほぼ登場しない。そんなキングの生まれた街ポートランドは、有色人種がほとんどいない白人の街であるという。作品の人種的な偏りは批判の的になっているが、キングはどこ吹く風である。
 キングが2歳の時、父親ドナルドはタバコを買いに行くと言って家を出たまま失踪している。その後母親は祖父母の面倒をみながら、朝から深夜まで働き、息子2人を育てあげた。キングは地元のメイン大学を1970年に卒業して、1971年に大学の図書館でのアイバルト中に知り合ったタビサ・スプルースと結婚した。教師の職に就くが給料が安くて教職のみでは生活ができないので、放課後はクリーニング店で働き、夜は執筆に勤しんだ。その成果が『キャリー』である。1973年『キャリー』のペーバーバック版が40万ドルで売れたことによって、本格的に作家デビューを果たした。『キャリー』は、いじめに遭っていた少女が超能力で復讐を遂げる物語である。1973年に本格的に作家の活動に入り2作目の長編『呪われた町』(1975年)を完成させた。吸血鬼の恐怖が町を崩壊させる物語である。
 1974年の秋、キングはメイン州を離れてコロラド州ボルダーに移り住み、滞在中にコロラドを舞台とした『シャイニング』を書く。1975年の夏、メイン州に戻り居を構え、ボルダーを舞台とした『ザ・スタンド』を書き上げる。また『デッド・ゾーン』も同じ時期に書かれている。
 1976年にメイン州バンゴアに移り住み、『IT』の構想を練りはじめる。文庫本4冊の『IT』 は1986年に発刊される。殺人ピエロが恐怖を招く物語である。1977年の秋、キングは英国に移住して、本格的なゴースト・ストーリーを創作しようとするが挫折した。帰国後『クージョ』(1981年)を完成させている。その内容は、狂犬病に感染した巨大なセント・バーナード犬が、田舎町で親子を恐怖に陥れるストーリーである。1980年代の半ばから、以前からのアルコール依存症に加えて薬物依存症になり、妻から「治療を受けるか家族と別れるか」との選択を迫れて、治療を選び依存症を克服した。
 『書くことについて』(小学館文庫 2013年)の最終章の「あとがき」には、キングが交通事故に遭遇したことが書かれている。 1999年6月19日、散歩中に危険運転常習者の男性が運転するヴァンに轢かれて下腿に複雑骨折を負う。驚くべきことに男はこれまで交通違反で10回以上つかまっている。救急車を待つ間、最終的には救急ヘリで高次の救急病院に搬送されるのだが、加害者とのんびりと話す場面を書いている。
 1985年2月9日、バンゴアの地元新聞紙上で、キングはリチャード・バックマン名義で1977年から84年にかけて5冊の本を出したことを認めた。その記事を目にしてあわてふためいたのはキングの読者たちである。あわててバックマンの本を注文したが、後の祭り。『ハイスクール・パクニック』(1977年)、『ロードワーク』(1981年)、『バトルランナー』(1982年)はすでに絶版、『死のロングウォーク』(1979年)は版を重ねていたのでいくらかの在庫があったものの、これもじきに完売した。最新作の『痩せゆく男』(1984年)を除いては、もはやバックマンの4作品は通常のルートでは手の入らない幻に書物と化していたのである。
 1974年に『キャリー』でデビューして以来半世紀が経過するが、その間現在に至るまでベストセラー作家のNo1に君臨してきたキングは、旺盛な作家活動を続けている。キング自身が述べるように、「自分の誕生日と独立記念日とクリスマス以外の毎日書き続けている」ために絶えず新作の長編のストックが2、3本ある状態らしい。それに加えて、未収録の短編やエッセーが数多くあるという。「それが腐らないうちに出荷したい」とキングは語るのだが、腐らならいうちとは旬のうちにという意味で、たとえば時事ネタは遅れれば腐ってしまう。
 キングの作品には批判が寄せられることはまれではない。アメリカの学校で最も検閲されている作家はキングである。「ペン・アメリカ」は、2024年から2025年にかけて6.870冊の本の撤回を予測しており、最も多く禁止された作家はキングである。キングの作品は累計206冊の禁止処分を受けているという。
 ベストセラーの作家の場合、読者を少々欲求不満にしておいた方が売り上げがよいということで、出版社はキングに年1冊以上を出版することを許さない。出版したがりのキングは、出版社の機嫌を損ねないように限定盤という少部数形式で、出版してきたという。だが、未発表の作品が次第に溜まっていく。作品が腐らないうちに出荷されるためには、ペンネームが必要だったのである。キングにはリチャード・バックマンのほかにもジョン・スウィゼンというペンネームがある。このペンネームを使って書いたのはホラーでなくて犯罪小説だった。
 かつては、ホラー小説の登場人物と言えば青い顔をしてオカルト文献の目録を作成するオタク図書館員やら老隠遁者と相場は決まっていた。多くのホラー作家は、エドガー・アラン・ポーのスタイルに従って作品をエキゾチックに華やかにする。おかげで、一般の読者は初めの2、3ページでついていけなくなってしまう。キングは伝統的なゴースト・ストーリーのキャラクター像を一新させたのである。キングは普通の人々を登場人物に仕立てるのが実にうまい作家だ。

 キングの愛読書の1冊に、英国のノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングの代表作『蝿の王』(新潮文庫 1975年)がある。20年前に『蝿の王』をネットで申し込むと、日焼けした汚い文庫本が送られてきた。1万円を超える機構本である。その後2017年に、誠に迷惑なことに、『蝿の王』の新訳版が早川書房から「ハヤカワepi文庫」の1冊として出版された。わが本棚でひときわ輝きを放っていた『蝿の王』が、新訳本の出現で輝きに陰りが見えたことは、はなはだ残念である。
 最近、劇場で『ランニング・マン』を観た。原作はスティーヴン・キングすなわちリチャード・バックマン名義になっているが、まさにキングらしい展開の作品であった。キングらしいというのは、主人公に災難がこれでもかというほど執拗に降りかかってくるという意味である。
キングは2026年も弛まず大好きな執筆に勤しんでいることだろう。

 

参考図書)
『スティーヴン・キング論集成 アメリカの悪夢と超現実的光景』風間賢二 青土社 2021年
『ランニング・マン』スティーヴン・キング リチャード・バックマン名義 酒井昭伸訳 扶養社ミステリー 2025年
『書くことについて』スティーヴン・キング 田村義進訳 小学館文 2013年
『死の舞踏 恐怖についての10章』スティーヴン・キング 安野玲訳 ちくま文庫 2017年

 

2026年2月 9日 (月)

HELP/復讐島

HELP/復讐島
112分/PG12/アメリカ
原題:Send Help
配給:ディズニー
劇場公開日:2026年1月30日 ☆4

予告編

抜群に面白い。リンダの受けた侮辱の数々は、あだや軽々と流せない。たっぷりと、仕返ししなければならない。

Hukusyuuj コンサルタント会社の戦略チームで働くリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、数字に強く、なによりも有能である。しかし、父親の会社を継いで新たに上司になったブラッドリー(ティラン・オブライエン)は、パワハラ気質で仕事はできるが不器用なリンダは目をつけられてしまう。リンダの手柄を平然と横取りし、ささいなミスを執拗に責め立て、時にはセクハラまがいの言動で彼女を侮辱する。リンダに約束されていた副社長の椅子は、ブラッドリーに反故にされてしまう。
「バンコクに同行して、見返してみろ」とたきつけられる。

  

Help1ブラッドリーのプライベートジェットで上司たちとバンコクに出張中、飛行機事故でリンダとブラッドリーは無人島で二人きりになってしまう。
絶体絶命のピンチのなか、リンダはかつて趣味で身につけていたブッシュクラフト(サバイバル技術)の知識を駆使し、火を起こし、真水を確保し、食料を調達しながら、無人島に順応していく。
一方、足ケガして回復を待っているブラッドリーは、以前と変わらず鼻持ちならない上から目線で命令を繰り返している。
「忘れるな、ボスは俺はだ。俺のため働け!」と叫ぶブラッドリーに、リンダは「もうオフィスはないのよ。誰も助けに来ないのよ」と冷酷に告げる。

Help リンダははじめ甲斐甲斐しく彼を助けようとするが、しかし、傲慢さを捨てないブラッドリーの態度に彼女の中で何かが「プツン」と切れてしまい、「ここでは、私の命令が絶対よ」と宣言する。決定的な逆転劇である。彼女の心の奥底に溜まっていた復讐心が溢れ出す。

 

【ここからネタバレ】
ある日、救助ヘリの音が聞こえた瞬間、リンダは戸惑い表情の見せたのは、「救出されること」を、まだ早いと思っていたからだ。救助されることは「復讐劇の終わり」を意味する。復讐心は一度火がつくと止めるのが難しい。リンダはかつての加害者以上に冷酷なモンスターへと変貌していく。

映画のラストのシーンでは、救助されて文明社会に戻ったリンダは「英雄的なサバイバー」として称賛される。一方、ブラッドリーは、島での身体的・精神的なダメージにより、廃人のようになってしまう。

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2025年9月 5日 (金)

夜明けまでに誰かが ホーリー・ジャクソン

語り手は高校生のレッドフォード・ケニー。
2人の大学生と4人の高校生が乗った長さ31mのキャンピングカーが、ノースカロライナのキャンプ場に向かっていた。途中、道に迷い、携帯の電波も届かなくなり何者かによって、タイヤと燃料タンクが撃ち抜かれてしまった。狙撃犯からのメッセージは6人のうちひとりが「ある秘密」を知っている。その秘密を突き止めて明かせ。逃げようとしたら撃つ。

Photo_20250905105901

夜明けまでに誰かが
ホーリー・ジャクソン 
創元推理文庫 
2025年7月

 

 

車内にいるのは、レッドほか、レッドの親友のマディ、同級生のサイモン、学校は違うがアーサー、それとマディの兄で大学生オリヴァーとそのガールフレンドのレイナ。この中の誰かが、狙撃犯の求める秘密を知っているのか。タイムリミットは夜明けだ。狙撃犯は、秘密を抱えているひとりがそれを明かせば、解放してやると言う。

オリヴァーの母親キャサリンは地区検事補である。現在マフィアの内部分裂起きた殺人事件を担当している。容疑者は特定され証人もいるが、証人は保護プログラムで匿名性は担保されている。容疑者はそれを聞き出し証人を消したいのではないか。

脱出しようと試みる彼らだったが、一転、風向き変わる。
なぜ、狙撃者は自分たちの行動を的確に封じることができるのか。スパイがいるのではないか。 6人がそれぞれを疑い始める。6人の性格は、常に周囲に引け目を感じ、母を失くした衝撃から立ち直れないでいるレッド。お調子者で露悪的なサイモン。レッドのそばいて彼女を気遣うアーサー。常にレッドのことを思いやっているマディ。年長者である責任感を持ちつつもオリヴェーに逆らえないレイラ。そして、エキセントリックで自分の非を認めず独善的なオリヴァー。

キャンピングカーの中の緊迫感が次第に昂まっていく。オリヴァーは自分のプランはうまくいくと思っている。そのくせ、失敗したら他の人のせいという彼のスタンスには周りがイライラさせられる。キャンピングカーから脱出を試みるが、ことごとく失敗する。
一方、サウスカロライナ病院前でライフルによりキャサリン地区検事補が射殺される。犯人は逮捕されていないが、計画的な暗殺と思われている。

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2020年5月20日 (水)

深夜勤務(ナイトシフト1) スティーヴン・キング

死の舞踏』の冒頭に、〈ホラーが読まれる理由と、ホラーを書く理由について『ナイトシフト』のかなり長めのはしがきで分析を試みている。〉と書いてある。そのはしがきを要約すると。。

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深夜勤務(ナイトシフト1)

スティーヴン・キング/高島文夫
扶桑社ミステリー文庫 1988年

 


ホラー小説に惹かれるのはまともじゃない不健全だという偏見がある。
そんな不健全だと思われている恐怖小説をなぜ書くのか。
誰もが心の底にフィルターをもっていてそれにひっかるもの、それがサイドビジネスというものになっていく。趣味と呼んでもいい。そのフィルターに引っかかるものが、著者にとって恐怖というやつである。それを集めなんとか活用しようと考えている。

次に、人はなぜそのような小説を読むのでしょうかという、恐怖小説を読むのは健全ではないという前提での質問がくる。
興味を引くことは人それぞれだということ。事故を起こした車の脇を通るときに、徐行して覗こうとするのは普通の行為である。
それは性の目覚めに伴うあの疚しさに似ているという。

恐怖小説作家が批判の矢面に立たせられてきたのは、いつも縁起でもないニュースをもたらすからだ。
一流の文学作品にも恐れや死や恐怖そのものを扱った作品は数多くある。ホラー映画は、高校生たちの親に対する不満を爆発させたものである。偉大な恐怖映画は必ずと言っていいほどの寓意性がある。

ホラーの真髄は読者や聞き手を、これまでにもなかったし今後もあり得ないような世界に迷い込ませて、しばらくの間は魔法にでもかけられたような気分にさせる。そういう物語でなくてはならない。

本書に収録されている短編は、
「地下室の悪夢」「波が砕ける海の浜辺で」「やつらの出入口」「人間圧搾機」「子取り鬼」「灰色のかたまり」「戦場」「トラック」「やつらはときどき帰ってくる」「呪れた村〈ジェルサレムズ・ロット〉」の10編。→人気ブログランキング

ファインダー・キーパーズ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
死の舞踏 /ちくま文庫/2017年
アンダー・ザ・ドーム1~4/文春文庫
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
書くことについて
ミザリー
キャリー キャリーDVD
幸運の25セント硬貨
ビッグ・ドライバー
1922
第四解剖室
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
深夜勤務(ナイトシフト1)

2020年4月24日 (金)

アンダー・ザ・ドーム スティーヴン・キング

10月の晴れた日に、アメリカ・メイン州の人口2000人の小さな田舎町「チェスターズミル」が突然ドームに覆われた。町は徐々に「悪」に支配されていく。ドームは誰の仕業なのか。町はどうなるのか。男性優位の白人至上主義、暴力あり拷問あり殺人ありのキング・ワールドが展開される。文庫本4冊の長編。
本作は、2013年6月から2015年9月の間、39話がアメリカCBSテレビで放映された。

訓練中の飛行機やトラックや車がドームに激突し、乗っていた人々が即死したのは、ほんの序の口だった。

正義の象徴だった警察署長は、ドームに触れたことでペースメーカーが爆発し、あっけなく死んでしまった。
一方、町をわがものにしようと企んでいたビッグ・ジムは、早速ノータリンの副署長を操って、町のゴロツキ4名を特別警察として採用させた。その中にはビッグ・ジムの息子ジュニアも含まれていた。ジュニアは知り合いの娘2人を殺したばかりだった。

地方紙「デモクラット」を編集するジュリアの携帯電話が鳴り、電話の主はワシントンDCのコックス大佐だった。大統領は、チェスターズミルに戒厳令を発令し、イラク兵士だったコックのバービーを総司令官任命し、さらにドームに風穴をあけるためミサイルを発射すると伝えてきた。【1】

Photo_20200424142601 アンダー・ザ・ドーム【1】
スティーヴン・キング/
白石朗(Shiraishi Rou
文春文庫
2013年
2_20200424142601 アンダー・ザ・ドーム【2】
3 アンダー・ザ・ドーム【3】 4 アンダー・ザ・ドーム【4】

ビッグ・ジムはバービーの総司令官就任なぞ鼻にもかけない。ミサイル計画は当然失敗するものと確信している。ビッグ・ジムの予想通り2発のミサイルは火事を引き起こしただけだった。

ビッグ・ジムに放送局での麻薬製造を止めるように直訴した牧師と、公金の不正流用と麻薬販売の証拠を突きつけた警察署長夫人は、あっさり殺されてしまう。
さらに、医師助手のラスティは、病院や学校その他から盗まれたプロパンガスボンベの返還を求めたが、軽くあしらわれた。

ビッグ・ジムは食料を配給制にしようとスーパーマーケットを閉鎖するが、押しかけた町民は暴徒と化し掠奪行為に走った。バービーとラスティが騒動でケガをした町民の手当てにあたっていると、特別警察官がバービーを4人の殺人容疑で逮捕し、警察署地下の拘置所に収監してしまう。【2】

新聞社が放火された。ビッグ・ジムの策略でバービー支援者による仕業と仕組まれた。

ビッグ・ジムはドームを愛していた。盗んだプロパンガスを各家庭にすべて配り終わり、麻薬工場の設備を破壊して倉庫に火をつけ、犯行をバービーの仲間のせいにしてバービーを裁判にかけ、警察隊の銃殺刑に処すまでは、ドームが存在し続けて欲しいとビッグ・ジムは願う。

ブラックリッジ山に向かったラスティたちは、山頂に近いところでドーム発現装置と思われる金属の板状のものを発見したが、それはビクとも動かなかった。

ビッグ・ジムは不整脈を起こし病院に駆け込み、ジュニアは脳腫瘍でふらふらになって病院に運び込まれた。
ラスティはビッグ・ジムに不整脈の治療と引き換えに、町政委員の座を退くように迫るが、バスルームに二人の特別警官が潜んでいた。ラスティは殺人未遂および公務執行妨害その他で拘置所にぶち込まれた。【3】

ドームに覆われてからまだ1週間も経っていないというのに、空気はひたすら汚染され、食料をはじめとする物資がどんどんなくなっていく。そんな中、町民の自殺が相次いだ。

正義を貫こうとして解雇された警察官たちは、町民総会が開かれている間に、バービーとラスティを拘置所から奪還する計画を立てた。

町民総会でのビッグ・ジムの演説が始まる。秘密の実験のためバービーがドームを仕掛け、麻薬の製造を行い、という話がスピーカーを通じて流れた。 町政委員のひとりが反対意見を述べたが、特別警察官によって射殺された。

病院を抜け出し警察署の地下にたどり着いたジュニアは、バービーめがけて発砲するが、脳腫瘍のせいで片目が見えず朦朧としているため狙いが外れる。 駆けつけた元警察官によりジュニアは射殺され、バービーとラスティは晴れて自由も身となった。そしてブラックリッジ山を目指した。

町政委員長のアンディは妻と娘を亡くし自暴自棄になっていた。プロパンガスのボンベを隠してあるラジオ局に立てこもったアンディと、同じく妻を亡くしたブッシーはマリファナを吸引しハイになり、神の啓示を受けたと騒いだ。
ビッグ・ジムは警官隊にラジオ局の襲撃を命じ銃撃戦がはじまった。
アンディとブッシーは警察官をマシンガンでむかえた。そして警察隊が撃った弾丸がプロパンガスに引火し、600本のプロパンガスボンベが次々に爆発する大惨事に発展した。想像を絶する爆発力で町全体を炎が襲った。火の手は町の中心に達し、メインストリートに沿って広がっていく。外からみると、まるでドームの内側で核爆発が起こったよう見えた。
ドーム内は爆風が吹いた。炎に酸素を供給するための風だ。町中の多くの人々が爆発で命を落とした。

ドーム内の酸素が尽きかけている。ジュリアとバービーはなんとかブラックリッジ山の発生装置にたどり着こうとしている。そして結末をむかえる。【4】→人気ブログランキング

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死の舞踏 /ちくま文庫/2017年
アンダー・ザ・ドーム1~4/文春文庫
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2020年4月18日 (土)

死の舞踏 恐怖についての10章 スティーヴン・キング

キングは、本書はホラーというジャンルのあり方を概観するもので、自伝ではないとしながら、ラジオ、テレビ、映画、小説におけるホラーの代表作を、自分の体験を絡めて語っているので、多分に自伝の要素がある。饒舌さといつ戻るかわからない脱線にめげずに読み進まないと、本書を読み終えることはかなわない。

まず本書に通底する根本的な考えに「ホラーには寓意性がある」とする。怪物は怪物そのものではなく、現実にわれわれが恐れている何かのメタファーであるという。すぐれたホラーは寓意であり象徴なのだ。
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死の舞踏
 

スティーヴン・キング/安野玲
ちくま文庫
2017年
✳9

キングはホラーを解説するためのいくつかの分類を示す。
まずは恐怖には3段階あるとする。第1段階は嫌悪(リヴィルジョン)、「ウゲッ」となる生理的不快さ。一番低劣な怖さだ。
第2段階は恐怖(ホラー)、ゾッとする感じ。暗闇、墓場、幽霊屋敷、得体の知れないものがいそうな怖さだ。怖いもの見たさはこの段階で起こる。
第3段階は戦慄(テラー)、致死に限りなく近い、悲鳴が上がるような体験である。

ホラー小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』『ジキル氏とハイド』『フランケンシュタイン』を例に挙げて、モンスターを分類する。
第1は吸血鬼、これはセックスの恐怖だという。第2は「人狼」、ジキルとハイドのように、普通の人が隠している狂気である。第3は名前のないもの。『フランケンシュタイン』の人造人間に代表される。ちなみに、「フランケンシュタイン」は人造人間(名前はない)の製作者の博士の名前である。その他に、幽霊がいる。

キングはホラーとは秩序の崩壊を恐れる気持ちだという。秩序がアポロン(理性と知性の力の象徴)的、秩序を破壊して起こる混沌をディオニソス(感情と肉体の無秩序な有働の象徴)的とする。テクノロジーの恐怖を表現する映画の大半にこの二面性がある。このギリシャの神のたとえは何回か語られる。ホラーの真髄を掴み取った概念なのだ。

ホラー映画の究極の真実、それはホラー映画は死を愛していないということ。そう見えるものもあるが、愛しているのは実は生だという。醜さや死を繰り返し語ることで生を賛美しているとする。いやはや凄まじい飛躍だ。さらに、ホラー文化が暴力の原因だと非難する風潮に対し、ホラー文化が惨劇を生むのではなく、ホラーは鏡に過ぎないという。

14世紀に中世ヨーロッパで黒死病(ペスト)が大流行した時、人びとは半狂乱で踊り続け、それを「死の舞踏」と呼んだ。タイトルはそこからきている。教会はメメント・モリ(死を忘れるな)と唱えた。死によって身分や貧富の差なく、無に統合されるという死生観である。死に近づくことで人びとは生を実感する。キングは、ホラー文化は「死のリハーサル」だという。
人びとがお金を払ってまでホラーを求める理由はそれだとする。→人気ブログランキング

キングはホラー小説を書く理由を、短編小説集『深夜勤務』のはしがきに書いている。
それを要約する(→『深夜勤務』はしがき)。

キャリー   キャリーDVD
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ジョイランド
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アンダー・ザ・ドーム1~4/文春文庫
セル 上下 新潮文庫
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
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ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
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ビッグ・ドライバー
1922
第四解剖室
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
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ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
深夜勤務(ナイトシフト1)はしがき
深夜勤務(ナイトシフト1)

書くことについて
死の舞踏 /ちくま文庫/2017年

2017年11月 5日 (日)

第四解剖室 スティーヴン・キング

本短篇集に収録されている「黒いスーツの男」は、雑誌『ニューヨーカー』に掲載するさい、編集者のサゼッションで結末を曖昧にしたという。それはそれで良かったと著者は付記で書いている。
結末が悲惨すぎると、『ニューヨーカー』には載せられないという事情だったらしい。なにしろ『ニューヨーカー』は都会派の洗練された記事がウリの雑誌だった。結末を変えたことが功を奏したのか、「黒いスーツの男」は O・ヘンリー賞(1996年)の1等賞を受賞した。『短編小説のアメリカ52講』(青山 南著)に、本作品がO・ヘンリー賞に選ばれた経緯が書かれている。

第四解剖室 (新潮文庫)
第四解剖室
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スティーヴン・キング/白石朗他 訳
新潮文庫 2004年
売り上げランキング: 303,330

「第四解剖室」Autopsy room four
生きたまま解剖されるまでの恐怖を描く。

「黒いスーツの男」The man in the black suit
9歳のときの話。兄が蜂に刺されて死んだのは1年前だった。
川に釣りに出かけた。いつもはついて来る愛犬はその日に限ってついてこなかった。
体長19インチのカワマスを釣った。父に教えられた通りはらわたを取り、処理した。
居眠りして眼を覚ますと、コート着た男が現れ、母が蜂に刺されて死んだという。アナフィラキシーショックで。。
男に襲われカワマスを奪い取られそうになった。
そこに父が現れる。

「愛するものはぜんぶさらいとられる」All that you love will be carried away
アルフィーは冬のモーテルに入った。目的は自殺だ。
死を覚悟した男が最後に行う日常的なこと。

「ジャック・ハミルトンの死」The death of Jack Hamilton
銀行強盗を決行したアウトローたちの友情物語。なかなか死なない男を描く。

「死の部屋にて」In the deathroom
処刑をまじかに控えた男の目に映ったのは、シーツに隠された電気ショックを与える拷問の機械だった。
モーリス・ラヴェルのバレー音楽『ポレロ』のように、徐々に処刑の恐怖が昂まっていく。

「エルーリアの修道女」The little sister of Eluria
ファンタジー長編『ダーク・タワー』の外伝。→人気ブログランキング

ミスター・メルセデス
ジョイランド
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ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
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ダークタワー III 荒地 下
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書くことについて
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夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
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2017年7月27日 (木)

ミザリー スティーヴン・キング

映画はキャシー・ベイツ扮するイカレた中年女が売れっ子小説家を監禁して、思いどおりの小説を書かせるというストーリーだった。

巻末の訳者による解説には、キングは執拗で暴挙に出るかも知れない熱狂的なファンに悩まされた経験をもとに、本作のアイデアにたどり着いたという。さらにキングは、ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンと一緒に写真におさまり、ご丁寧にも、その写真にサインをしているという。チャップマンはジョン・レノンと写真に収まったのち引き金を引いたのだ。

Image_20201123164401ミザリー
スティーヴン・キング/矢野浩三郎 訳
文春文庫
1990年

ポール・シェルダンは『ミザリーものでない』小説を書き上げた開放感にひたり、シャンペンをがぶ飲みしながら愛車をぶっ飛ばして西に向かった。雪道で事故を起こし骨盤と両脚を派手に骨折し瀕死の状態となった。ポールの狂信的な愛読者アニー・ウィクルスはポールを車から引きずり出して自宅に連れて帰り、点滴を施して治療したのだった。事故は2週間前だった。

がっしりした体つきのアニーは、6時間ごとにコデイン2錠をポールの口に突っ込む。
やがてポールは、アニーはポールの作品の熱烈な愛読者であること、アニーが大量の薬を持っていること、自分がコデイン中毒になっていること、アニーが異常な女であることを知った。

ポールは、『ミザリーの子供たち』でミザリーを死なせ、シリーズを完結させたばかりだった。ポールが書き上げた『高速自動車』の原稿を読んだアニーは下品だと言う。さらに『ミザリーの息子たち』で、子どもを産んでミザリーが死ぬというストーリーに、アニーは「人殺し」と叫んで怒り狂った。

アニーはバーベキュー・グリルを部屋に持ち込み、『高速自動車』の原稿に火をつけろと迫った。ポールは、泣く泣く命令に従った。
ポールはアニーの要求に応え、ミザリーを生還させることにした。
4日間で書き終えた『続・ミザリーの子供たち』の原稿をアニーに渡すと、フェアじゃないと言う。フェアな物語に書き直せという。
もちろんポールは従わざるを得ない。アニーは気に食わなければ、ポールの足首を斧で切り落とすくらいのことは、平気でやってしまう。
こうしてポールはミザリーが生還する物語の執筆に真剣に取り組むことになる。

車椅子で移動できるようになったポールは、アニーが出かけた隙に、新聞記事をファイルしたノートを見つけた。そこには看護師だったアニーがかかわった30件を越す殺人事件の記事の切り抜きがあった。
ポールはアニーが気が狂っていると確信した。そしてアニーから逃れる方法を模索するのだった。→人気ブログランキング

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2017年6月26日 (月)

虹蛇と眠る女

北アメリカ、西アフリカ、オーストラリアに伝わる、雨を降らせる虹蛇の神話をモチーフにした作品。ニコール・キッドマンが、母国オーストラリアの作品に出演するのは、25年ぶりだという。
性に奔放な娘が原因で、家族が崩壊する過程をサスペンス・ホラー風に仕上げた作品。娘の性癖は母親から譲り受けたものだった。
50c5d0930c3447c29386df45affe4d23虹蛇と眠る女
監督:キム・ファラント
原題:Strangerland
脚本:フィオナ・セレス/マイケル・キニロンズ
オーストラリア  2015年  111分

オーストラリアの砂漠の小さな町に、マシューとキャサリン夫妻一家が引っ越してくる。引っ越した理由は、娘のリリーが妻子ある教師と関係を持ち、その土地にいられなくなったからだ。
弟のトミーは、新しい環境に馴染めず、夜中に家を抜け出して砂漠を彷徨っている。リリーは両親に反抗し町の不良たちと遊んでいる。

__4

満月の夜、トミーが家を出て砂漠に向かうと、後を追うようにリリーも家を出ていった。翌朝になっても、ふたりは帰ってこなかった。
翌日から、町をあげての大掛かりな捜索が行われるが、ふたりは見つからない。
砂漠では2~3日で死んでしまうだろう。

精神的に追い詰められた夫婦は、行きすぎた行動をとるようになる。
マシューは、リリーの相手だった教師宅を訪れ大声を出したり、リリーと関係を持ったアポリジニーの青年に暴力をふるったりした。
キャサリンは捜索にあたるベテラン警官レイを誘惑しようとし、さらに、マシューに殴られたアポリジニーの青年に手を出そうとする。
ついには、キャサリンは自らを虹蛇に差し出すかのように、夜の砂漠に出ていく。
翌朝、キャサリンは全裸で街のメインストリートに現れる。ヌードをいとわないニコール・キッドマンの意地のシーンだ。

ところで、タイトルについてであるが、原題は「Strangeland」でなんの面白みもない。邦題の「虹蛇と眠る女」には、言外に微妙な意味が含まれている。「寝る」にすれば性的な意味になるが、「眠る」には性的な意味はなく神秘的な要素が含まれてくる。
核心をつく邦題である。

「リリーのあの性格は、俺には似ていない」
子どもへの遺伝学的な親の責任を、妻のせいにするマッシューのこの一言が、本作のテーマである。
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2017年5月24日 (水)

いかしたバンドのいる街で  スティーヴン・キング

飛び跳ねるような饒舌さがキングの文章の魅力だが、それが十分に発揮されているのが「動く指」。キング節爆走といったところ。
Photo_20201113083401いかしたバンドのいる街で
スティーヴン キング
文春文庫
2006年

「献辞」
息子の処女小説『栄光の炎』がマーサのもとに小包で送られてきた。
かつて、大作家ピーター・ジェフリーズは、黒人の掃除婦マーサが勤めるホテルのスイートルームに必ず泊まり、そこで黄色い原稿用紙に小説を書いていた。
マーサはピーターの本を愛読していて、彼の著作『天上の炎』にサインを頼んだのだった。
2冊の本の献辞の下に、それぞれの著者が直筆で書かれた文字はこよなく似ていた。

「スニーカー」
ハルは音楽プロデューサー。
男子用トイレで汚れたスニーカーを見かけた。
そのスニーカーを履いている奴は誰だ。死体か?

「いかしたバンドのいる街で」
前半は、遠距離ドライブで道に迷った30代の夫婦がくり広げる主導権争いの会話が続く。
引き返そうというメアリーにクラークは男の意地を通す。
クラークとメアリーがたどり着いたところは、「ロックンロール・ヘブン」という町。町の外観はどこかで見たことがあるようだった。
テイクアウトのソーダを買いに2人でロックアブギ店に入ると、そこには、ウェートレスのジャニス・チョップリンらロッカーが数名いた。
財布を取りに車に戻ったクラークが、戻ってこないのでメアリーは不安にかられる。

「自宅出産」
島で暮らすマディー・ベイスは心配性で優柔不断。
そのマディーが結婚して妊娠した。ところが頼りにしていたロブスター捕りの夫が海に放り出されて死んでしまった。
ゾンビがホワイトハウスで、大統領夫妻を生きたまま食べてしまったとテレビは伝えている。そこからキングのドタバタ劇が展開する。
隔離された島でもゾンビ騒ぎが起こり、ゾンビの夫がマディーの目の前に現れる。

「雨期きたる」
ウィローの街では、7年ごとに1日だけ雨期がやってくる。
映画『マグノリア』のように、ヒキガエルが空から降ってくるという。《ファフロッキーズ》という現象。ただ降ってくるのではない、ヒキガエルは人を襲う。
ところで、その町で話しかけてきた老夫婦が飼っている、屁こき老犬・トビーが名脇役として登場する。

トビーで思い出したが、キングの妻タビサ・キングは通称タビーと呼ばれていて、『書くことについて』では、タビーの糟糠の妻ぶりが描かれている。タビー自身も小説家であり、ふたりの間には一女ニ男の子どもがいて、男二人も小説家になっている。息子オーエンの妻ケリーも小説家である。
そんなキング家のインタヴュー記事(Stephen King’s Family Businessが、『New York Times』(2013年8月4日)に掲載されている。→人気ブログランキング

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深夜勤務(ナイトシフト1)

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死の舞踏 /ちくま文庫/2017年
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