警察小説

2023年2月10日 (金)

黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 松嶋智左

ぶっ飛んだストーリーだ。
運転免許センターに異動して間もない野路明良は、新設された黒バイ捜査隊の訓練を指導していた。黒バイ隊は所轄や部署の垣根を超えた活動であるから、臨機応変に効率よく素早く動くことができる。白バイ隊は交通違反の取締りが主な仕事だが、黒バイ隊は犯罪を扱う。
その黒バイ隊が追跡した不審車両が事故を起こし、運転していた男が死亡した。
死亡した人物は手配犯で、持っていた免許証は偽造されたものだった。免許証は野路の所属する免許センターで作られた。
751d5bf07a9942adb858505fb86f450e 黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良 
松嶋智左
祥伝社文庫 
2022年9月 347頁

かつて、白バイ隊員であった野路明良は、Y県の白バイ隊を全国一に導いた。しかし交通事故に遭い右手に軽い後遺症を負った。二輪車への思いは消えることなく、ボランティアで古巣の白バイ隊員を指導することを続けていた。それが黒バイ隊まで広がった。

免許センターの2階から転落して重症となったセンター長のロッカーから、他人の免許証が数枚出てきた。
不正免許証のデータを調べはじめた白根深雪巡査長の身の安全を気遣い、野路は深雪をバイクの後部に乗せて家まで送ることを続けた。野路と深雪の間に恋が芽生えはじめる。
深雪がパソコンで調べると、免許証作成課の誰かが不正に関わっていることを掴んだ。

不正免許証で海外に出た男を調べたところ、Y大学の元留学生だった。留学生は公安委員長の大里綾子と繋がりがあった。そんなおり大里綾子が何者かに拉致される事件が起こる。

そして新しいセンター長が就任する日、センターに勤務する全員が集合し、知事や新しい公安委員長が列席する挨拶の場に、モトクロス集団が襲来し、知事が狙われ白根深雪巡査長が銃撃されるという、あり得ない事件が起こり、しかも狙撃犯を取り逃すという失態を負う。
野路は狙撃された白根の仇をとろうと捜査に加わろうとするが、免許センターに勤める者にそのような資格はない。
しかし野路は動かずにはいられない。
バイク走行の技術から、犯人像が絞られていく。
そして、ぶっ飛んだ結末が待っている。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年1月20日 (金)

バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課 松嶋智左

文庫書き下ろしの作品。
主人公の明堂薫はバツイチ、社会人の息子がいる。
薫は、県警本部に新設された「事件課」に配属された。事件課は女性4名男性2名で構成されている。最近の広範囲にわたる事件に対応して、部課の垣根を超えて慣習に縛られることなく捜査活動というのが、作られた主旨だ。
T_20230120144301 バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課
松嶋智左
小学館文庫 
2022年11月 316頁

事件課が開設して早々に、別の警察署のトイレで首吊り遺体が発見された。遺体は入署2年目の交番に勤務する静谷永人巡査24歳だった。
薫たちが署内を調べまわることに署員たちはいい顔をしない。自殺の捜査を行うのは、今後同じようなことが起きないようにという意味と、上から命令された仕事だからという理由だと言って聞き取りを行った。

県警本部の音楽隊に所属する姉の静谷朱里から聞き取りをする。朱里は弟の死にほとんど感情を表さなかったが、音楽隊という言葉に反応して、「音楽隊ではありません。カラーガード隊です」と強く言ったという。そこに薫は疑問をもった。そこには姉弟の複雑な事情があった。
カラーガード隊とは、マーチングバンドにおいて、フラッグ、サーベルなどの手具を用いて、視覚的表現を行うパートである。朱里が属するカラーガード隊は日本一の実力があり、国際大会への出場が確実視されている。

栄人の警察学校からの同僚に話を聞くと、チクったとわかったらその人間も栄人の二の前になるという。パワハラがあったのだ。永人は警察官になってはじめての交番勤務で失態があった。半年で別の交番に移されたが、その後も執拗ないじめが続いた。

自殺の捜査に加え、ふたりの女の2件の窃盗事件の誤認逮捕が発覚した。ふたりにはアリバイがあるとの証言者が現れたのだ。伝説の刑事と謳われ若い警察官の憧れとなっている人物が課長を務める署で、失態はなぜ起きたのか。ふたりは何かを隠している。
薫たちが調べを進め謎が解明されるにつれ、署内に驚天動地の闇が潜んでいることがわかってくる。

「バタフライ・エフェクト」というタイトルが示唆するように、ふたつの一見なんの関係がない事件であるが、実は背景で繋がっていた。→人気ブログランキング
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バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課/小学館文庫/2022年
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年
黒バイ捜査隊 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2022年
開署準備室 巡査長・野路明良/祥伝社文庫/2021年
女副署長 祭礼/新潮文庫/2022年
女副署長 緊急配備/新潮文庫/2021年
女副署長/新潮文庫/2020年

2023年1月14日 (土)

女副署長 祭礼 松嶋智左

松嶋智左の女副署長シリーズ第3弾。
主人公の田添杏美は、1作目の『女副署長』で、日見坂署に県内初の女性副署長として赴任する。大型台風が接近する暴風雨の中、署内の駐車場で胸をナイフで刺されて警察官が殺される。この不祥事のせいで、2作目『女副署長 緊急配備』では、県北の佐紋署に左遷される。高齢者の荷物をバイクに乗って強奪する事件や山中の女性撲殺死体、警察官が頭部を殴られ重傷を負う事件が起こる。
そして、今回は、署員300人を抱える県内最大の旭中央署に転勤となった。
Ca4ce4081c284fa2a8f8066d6891a15c 女副署長 祭礼
松嶋智左
新潮文庫
2022年10月 335頁

杏美が赴任してまもなく、旭中央署にはキャリアの俵貴美佳が署長として赴任した。独身の貴美佳は副署長の杏美の日見坂や佐門での活躍を耳にしているという。杏美のいる中央署に来られてラッキーだといった。58歳の杏美は副署長になって3年になる。   

旭中央署の所轄では、6年前に、両親とともに祭に来た5才の女児が行方不明になった。事件は未解決のまま6年が経ち、祭の時期になると市民に事件への協力を呼びかけるキャンペーンが行われている。
また、2年前に男が強盗傷害事件を起こして逃走し、最近、旭中央市に舞い戻ってきているらしい。そして、男の内縁の妻が雑居ビルの屋上から転落し死亡する事件が起こる。さらに、署長がクラブを経営するハーフの男と付き合いはじめ、大事にならないうちに手を打ってくれと、杏美は同僚から進言される。キャリアには任期をまっとうして何事もなく帰ってもらわなければならない。さらにこともあろうか、事件の捜査にあたる警察官がボツリヌス菌による食中毒で倒れるという不祥事までが起こる。
そこで、杏実は県警本部に応援を頼んだ。杏美が指名したのは花野司朗警部だ。杏美が副署長として初めて赴任した日見坂署で刑事課長をしていた。「グリズリー」と杏美が密かに呼んでいる体躯も態度もでかい辣腕刑事である。

キャリアの不祥事を治め、行方不明事件を解決し、強盗傷害犯を検挙すれば、県内初のノンキャリアの女性署長が誕生すると同僚は杏美を励ます。
そして祭礼の日が近づいてくる。一向に解決しない硬直した状況に、杏美は一芝居打って出るのだった。

前2作もそうだったが、本作も同時多発的に起きた複数の事件の捜査が並行して進行するタイプのモジュラー型警察小説である。代表的な作品にR・D・ウィングフィールドの「フロスト警部シリーズ」がある。→人気ブログランキング
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女副署長 祭礼/松嶋智左/新潮文庫/2022年10月
三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年6月
開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

フロスト始末
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
冬のフロスト
フロスト気質
夜明けのフロスト

2022年8月23日 (火)

三星京香、警察辞めました 松嶋智左

著者は元白バイ隊員。2005年に北日本文学賞、2006年に織田作之助賞を受賞。2017年『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』で、島田荘司選ばらのまち福山ミステリ文学新人賞を受賞。著書に『貌のない貌 梓凪子の捜査報告書』『匣の人』『女副署長』(2019年)『女副署長 緊急配備』(2021年)『開署準備室巡査長・野呂明良』(2021年)がある(表紙著者紹介より)。
元警察官の視点で描かれる警察小説は、斬新である。
5f708631695b4747af70118ffd34ad97 三星京香、警察辞めました
松嶋智左
ハルキ文庫
2022年6月 317頁

三星京香31歳は176センチ、刑事部捜査一課、後藤班の係員。
刑事部長を殴って辞表を提出し、警察を辞めた。後輩が弱みを握られ、セクハラを受けたことに義憤に駆られ手荒い行動に出た。
辞職の真相を夫にも話さないことで、夫との間が気まずくなり、離婚調停になった。娘つみきの親権を争っている。
京香についた弁護士は、京香の幼馴染で3歳年下の藤原岳人であった。岳人は体が小さくいじめられたときは、京香が庇った。
京香は岳人の所属するうと弁護士事務所のパラリーガルの面接を受けることになった。そして仮採用になったのである。
弁護士の中には警察官を敵対視する者もいる。
警察にいいイメージを持っていない芦沢夢良とペアを組み、岳人が弁護を担当する鹿野省吾が起こした暴行事件の下調べをすることになった。
そして、鹿野の情状証人の羽根木有子が姿を消したのだ。
京香と夢良が羽根木有子を追いかけて新潟県燕市に出かけた夜、岳人が殺された。
警察の捜査とぶつかり合いながら、京香は事件の核心に迫っていく。

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三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年6月
開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

2021年12月 7日 (火)

開署準備室 巡査長・野路明良 松嶋智左

警察小説のカテゴリーで才能を発揮する松嶋智左の文庫書き下ろし最新作。文庫書き下ろしは、『女副署長』『女副署長 緊急配備』に続き3冊目である。
著者の略歴は、〈元警察官、女性白バイ隊員。退職後小説を書きはじめ、2005(平成17)年に北日本文学賞、2006年に織田作之助賞を受賞。2017年『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』で島田荘司選、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。〉(新潮社、著者プロフィールによる)
B5bdb98b6f684ed4806d1580b0e15974開署準備室 巡査長・野路明良 
松嶋智左
祥伝社文庫
2021年9月

関東のとある県の市町村合併に伴い、5階建ての警察署が新築された。開署式を4日後に控えた姫野署では、野路明良(のじあきら)たち開署準備室のメンバーが準備に追われている。

一方、近隣の山中で頭蓋骨に陥没骨折のある白骨死体が発見された。12年前に、現金輸送車が3人組の強盗に襲われ5億円が強奪される事件が起こった。犯人の河島葵・隼の姉弟は逮捕されたが、逃げたもう一人の共犯者は逮捕されていない。

野路は後輩が運転する車に同乗していて交通事故に遭い長く入院した。運転していた後輩は亡くなった。野路は卓絶なバイクテクニックにより、全国白バイ安全運転競技会の優勝者となり、警察官から英雄視されていた。その事故で野路は利き手の指がうまく利かなくなり、また後輩を死なせたという良心の呵責から、辞表を提出したが引き止められたのだった。そして、開署準備室に配属された。野路とともに準備室で働く山部礼美巡査は警察学校で優秀な成績を修めて卒業しているせいか、上下の関係に無沈着で生意気である。

白骨死体が発見された所轄の水戸署では本格的な捜査が始まる。白骨死体は河島姉弟の共犯者の男であることが判明した。
刑を終えた葵がまず出所しアパートに住みはじめた。やがて隼も出所し葵とアパートで暮らしはじめる。捜査班は、姉弟が5億円をどこかに隠していてそれを手に入れようとするに違いないと二人を監視している。

キャリア警視である宇都宮沙織が開署準備室長の任につき、準備室に配属された最年長の飯尾は現金強奪事件の捜査員だった。ここで、12年前の事件と開署が間近に迫った姫野署がつながる。
宇都宮警視が準備の進捗状況を視察に姫野署に現れ、野路や山部巡査は緊張のなか応対する。そんなおり、山部の夫が何者かに暴行を受け瀕死の重症で病院に運ばれる事件が起こる。
さらに、開署2日前になって、署内の調整中の監視カメラに人影のような怪しい像が映る。手分けして署内を捜査したが、異変は発見されなかった。
そして、いよいよ開署当日を向かえる。

警察署の人間関係や事件の捜査の様子を重層的に描き、見事な群像劇が展開されている。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

2021年9月28日 (火)

女副署長 緊急配備 松嶋智左

田添杏美(たぞえあずみ)は懲罰人事で、県北に位置する佐紋署に左遷された。海岸に面する佐紋町は県の中心から車で3時間のところにある。懲罰人事の引き金となったのは、第一作『女副署長』(新潮文庫 2020年)で起こった殺人事件である。杏実が副署長として赴任した日坂署の敷地内で、迫りくる台風のなか警部補が殺されたのだ。
本書は、殺人犯を捜査するミステリであるとともに、警察組織の内部で起こる人間関係の軋轢を描く群像劇でもある。狭い町のドメスティックな事件を扱っているが、前作に勝るとも劣らぬ傑作である。元警察官で白バイ隊員の勤務経験がある著者ならではの視点は斬新だ。
Photo_20210928083201女副署長 緊急配備
松嶋智左 Matsushima Chisa  
新潮文庫 
2021年 368頁

佐紋署では、署長が怪我で入院したため杏美が署長代理を兼務することになった。急遽、警察署協議会が開かれ、そのあとの懇親会を官舎で開くという。警察署協議会には警察のトップと町の重鎮が名を連ねている。町の重鎮が警察の案件に何かと関わってくる土地柄なのだ。杏美は署の外で宴会をすることを主張した。

杏美の脇を固める登場人物はそれぞれが事情を抱えている。シングルマザーの木崎亜津子は、総合病院の堀尾院長から駐車違反の揉み消しを依頼され、仕方なく書類を偽造した。甲斐祥吾は認知症の父親を抱えているが、マスコミ対応で家に帰ることができない。
さらに、杏実の因縁の人物が佐紋町にいた。来年定年を迎える伴藤弘敏は、30年前、杏実と同じ交番に勤務していた。伴藤の怠慢により高齢女性が交通事故で亡くなった。正義感に溢れる杏実はそれを許すことができず、上司に報告した。逆恨みした伴藤は、杏実のありもしない異性関係の噂を流し、婚約破棄に至らせたのだ。それを機に伴藤は出世の道が遠のき、杏実は独身を貫き女性として異例の出世を遂げて副署長になった。伴藤は10年前に駐在勤務を願い出て、妻と子どもと共に佐紋町にやってきたのだ。

佐紋町は面積280平方キロ、人口2万弱、佐紋署員総数66名で所轄を見守るには限界がある。そんな佐紋町に立て続けに事件が起こる。

はじめは隣接署管内で起こったひったくり事件だった。緊急配備が発令されたが、バイクに乗って高齢者の荷物を奪った犯人は捕まっていない。
そして、標高200メートルの小牧山の納屋で女性の撲殺死体が発見される。さらに、怪しい人物を尾行していた警察官が頭部を殴られ重傷を負う。

そして、殺人事件の指揮を執るために県警から辣腕の刑事課長・花野司朗が乗り込んできたのだ。グリズリーのような迫力のある体躯と容姿の花野は、前作『女副署長』の殺人事件の捜査で、ことごとく杏実と対立した。
花野の指示は杏実の予想を超えるものであったが、それが気に入らない。ところが花野の打つ手は次々と当たり、事件の核心に近づいていくのだった。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

2020年12月17日 (木)

女副署長 松嶋智左

女性副署長を主人公にした本格警察小説。
著者の松嶋智左は元白バイ隊員。経験者だから身にしみているヒエラルキーの微妙な力関係を描いている。大型台風襲来の中で署の駐車場で起こる身内の警察官殺害という特異な密室事件を扱った傑作である。本書は文庫書き下ろし。
Image_20201217102401女副署長
松嶋智左 Matsushima Chisa
新潮文庫
2020年 384頁

33年のキャリアを持つ、県内初の女性副署長・田添杏美が、山際にある日見坂署に赴任してきて半年が経った頃、事件は起こった。
8月の初め、大型台風が接近する暴風雨の中、真夜中に、署内の駐車場で胸をナイフでひと突きされ警察官が殺された。

事件の捜査の先頭に立つ刑事課の強面の大男・花野課長は、「犯人はまだ署内にいる、署長といえども外に出すな」と命令する。花野の荒っぽいが犯人を確実に検挙してきた実績は、多くが認めるところだ。花野は杏美も署長も捜査の対象だという。杏美は頭に血が上った。

殺害現場の駐車場は監視カメラの死角になっていた。しかも、折からの暴風雨で血液も足跡も流されてしまった。
捜査課は全署員の事情聴取を行っている。調べが進むと殺された鈴木係長は、何人かの署員に金を貸していたことがわかった。

署員と交際している署長の娘に聴取しようとする花野に、杏美は直轄の警ら隊を署長宅の警備に当たらせ待ったをかけた。そこで、杏美と花野の間に火花が散る。警ら隊が署長や副署長の配下にあり、捜査課の花野がどうすることもできないという構図は、警察官を経験したからこそ気づくアイデアだろう。

花野は杏美に詰め寄る。かつて、杏美が別の署にいたときに、留置した被疑者の身体検査を怠って麻薬所持を見落とした若い警察官を、杏美は処分するよう上に申し出た。その警官は辞職した。花野はその若い警官を可愛がっていたという。なぜ処分を求めたかを花野は杏美に問いただした。公にされていないが、杏美には処分を訴える確固たる正義があったのだ。

署内で署員がおそらく署員に殺されるという前代未聞の事件である。県警の人間が捜査に加わる前に被疑者を挙げなければ、日見坂署の署員の面子が丸つぶれになると、杏美は思った。花野も同じ思いだろう。

外では台風が猛威をふるい、署員全員に緊急招集がかけられた。市中では道路の冠水や家屋の倒壊などの被害が出ている。河川の中州に取り残された少年の救助が行われている。

一方署内では、留置所から逃げ出し霊安室に逃げ込んだ女が署員が捕まえられた。この不祥事から殺害事件の犯人が絞り込まれていく。→人気ブログランキング
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開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

2018年3月 6日 (火)

13・67 陳 浩基

現在2013年から1967年にさかのぼる逆年代記(リバース・クロノジー)で構成された6編の連作中篇集。政治に翻弄され続ける香港社会を舞台に、ひねりの効いた設定で詳細かつ濃厚に描かれた質の高い本格警察小説。
まずは香港の簡単な歴史から。香港はイギリスとのアヘン戦争(1839〜1842年)後、イギリスの植民地となった。第2次世界大戦(1941〜1945年)の間は、日本に占領されたものの、戦後は中国に返還されず、イギリスの統治が1997年まで続いた。そして中国に返還され現在に至る。香港の住民は中国での戦争や共産主義体制から逃れてきた人々が多いという。

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陳 浩基/天野健太郎訳
文藝春秋
2017年

最初の章「黒と白のあいだの真実」は、本書の終章に相当する内容である。
1997年の香港の祖国復帰以降、警察のイメージは失墜した。警察は政府の犬と墜ち、偏った法の執行者として官憲の悪事を見逃す、政府のためのサービス業に成り果てたと、人びとは警察を批判した。
そんな逆風のなか権力におもねらず、ただひたむきに事件を解決する「やり手デカ」ロー警部が活躍する。
がんに侵されたクワンが臨終の床にいながら捜査に加わるという、奇想の設定である。
大富豪の殺人事件が起こった。館にいた5人いずれも犯人の可能性がある。5人が事情徴収で集められたのは病院の病室。
ロー警部は、がんの全身転移によって意識が朦朧としている「天眼」と呼ばれたクワン警視の力を借りたいという。クワン警視の頭にはカチューシャのような輪っかがつけられた。
ディスプレイの上半分が白地にYESの文字、下半分が黒字にNOの文字となっている。クワン警視がYES・NOで答えてくれるだけで、ロー警部たちの捜査の大きな手助けになるという。
そして、ロー警部は5名を前に事件の経過を話しはじめる。

終章「借りた時間に」は、返還される30年前の1967年の話。クワンが警察官として働き始めた年だ。
香港近代史では、労働者と資本家の間の軋轢は、中国とイギリスの国家間の軋轢に投影される。この時代はイギリスが民衆の非難の矢面に立つ。返還後は事情がまったく異なる。民衆は中国政府の締め付けに苦しむことになるのだ。

そのほか「任侠のジレンマ」「クワンの一番長い日」「テミスの天秤」「借りた場所に」のいずれも傑作である。→人気ブログランキング

2013年8月17日 (土)

64(ロクヨン) 横山秀夫

D県警で繰り広げられる組織内闘争、無能なキャリアと表向きは従順に振る舞うが裏で反発する地元組との確執、マスコミ記者と広報課との情報開示をめぐる攻防、さらに未解決の幼児誘拐殺人事件、そこに主人公自らの娘の失踪事件がからみ、スケールの大きな重みにあるストーリーがうねるように展開していく。全編を通じて息が詰まりそうな緊迫感が続く圧巻の警察小説。
Image_2020120811300164(ロクヨン)
横山 秀夫
文藝春秋
2012年

D県警では、14年前の昭和64年に起きた「翔子ちゃん誘拐事件」を「64」という符丁で呼んでいる。D県警の管轄内で起きたはじめての誘拐事件である。2000万円を奪われ7歳の少女は無残にも殺され、時効まで1年と少しと迫っている。

46歳の主人公三上義信は捜査二課で刑事としての実績を積んできた自負があった。ところが、畑違いの警務部広報官に異動を命じられる。主な仕事はマスコミ対応である。再び刑事の仕事に戻ることを願望している。広報改革に取り組んだ三上の努力が実を結びそうな矢先、交通事故を起こした女性が妊婦という理由で匿名とすることに、記者たちが猛反発した。

「64」事件の父親宅を警察庁長官が訪問するという。凶悪事件を何がなんでも解決する姿勢を世間に示すためだという。しかし父親は三上に長官の訪問を拒否する意向を伝える。一方、匿名騒動で頑なになったマスコミ各社は長官訪問の取材を拒否する姿勢を示す。三上はこのふたつの難問を解決しなければならない。

マスコミを抑えられない警務部、その陣頭指揮に立っているのは三上だ。一方、警務部は凶悪犯を逮捕できない刑事部の力量を暗に批判している。三上は刑事部と警務部に翻弄されどちらからも信用されず、またマスコミからも責められる苦しい立場に立たされている。

そんな中、「64」事件にまつわる隠蔽された警察の不祥事が書かれた「幸田メモ」の存在が見え隠れしてくる。
自身の出世と保身しか頭にないキャリアの理不尽に堪えながら、三上はマスコミとの妥協点を模索する。父親が面会拒否する理由とはなんなのか。三上は先輩や同僚、後輩に会い、情報を得ることで、事態を収集し解決する糸口をみいだしていく。→人気ブログランキング

2013年8月13日 (火)

震える牛 相葉英雄

食品偽装、BSE問題、大企業の独禁法抵触などを扱った社会派サスペンス小説。
主人公の警部補が進める捜査過程を中心に描き、それと並行して女性ジャーナリストが巨大企業のスキャンダルを追いかけ、終盤で両者が出会い犯罪の全貌が明らかにされていく。
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相場 英雄
小学館文庫
2013年

田川警部補は高卒の叩き上げ、迷宮入りしそうな未解決事件ばかりが回ってくる警視庁捜査一課継続捜査班に所属する。田川は、現場周辺を丹念に聞き込む「地取り」、事件関係者のつながりを徹底的に洗う「鑑取り」の捜査手法を得意とする。この手法で得られた情報を蛇腹の分厚い手帳に書き込み、メモ魔の異名がある。
田川家では、事件の捜査を始める前と事件が解決したときに、同僚の池本警部補を呼んで、すき焼きパーティが開かれる。
作者は、こんなところにも本作のテーマである「牛」を登場させている。

田川は発生から2年が経ち未解決となっている「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。黒づくめの目出し帽をかぶった男が「マニー、マニー」がと叫びながら店長に切りつけ売上金を奪い、刃物で客ふたりの首を刺し殺害した。初動捜査では犯人を「物盗りの外国人」に絞っていた。

一方、インターネット・ビズ・トゥディの女性記者鶴田真純は、大企業オックスマートの独禁法への抵触疑惑を調査している。
2000年に大店法が施行され、地方都市の郊外に大型ショッピングセンターが建設され、商店街は破壊されていった。
鶴田がオックスマートにこだわる理由は、妹が同社が展開するショッピングセンターの建設にからんで、不幸な亡くなり方をしたからである。

田川たちは地道な捜査を積み重ねていく中で、実は計画的な殺人事件であると断定した。殺害されたのはやくざの顔を持つ産廃業者、仙台に住む獣医師である。ふたりのつながりを探ろうと、田川たちは新潟へ仙台へと捜査の手を広げる。
一方、鶴田は食品偽装とオックスマートとの関連を調べていく。

食品偽装が浮かび上がり、オックスマート社の抱える闇、さらにBSE問題、警視庁や政界と企業の癒着の問題も絡んで、大きなスケールでストーリーは展開していく。→人気ブログランキング
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