警察小説

『64(ロクヨン)』横山秀夫

64(ロクヨン)
64(ロクヨン)
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横山 秀夫
文藝春秋
売り上げランキング: 1,048
2012年10月 ★★★★*

D県警で繰り広げられる組織内闘争、無能なキャリアと表向きは従順に振る舞うが裏で反発する地元組との確執、マスコミ記者と広報課との情報開示をめぐる攻防、さらに未解決の幼児誘拐殺人事件、そこに主人公自らの娘の失踪事件がからみ、スケールの大きな重みにあるストーリーがうねるように展開していく。全編を通じて息が詰まりそうな緊迫感が続く圧巻の警察小説。

D県警では、14年前の昭和64年に起きた「翔子ちゃん誘拐事件」を「64」という符丁で呼んでいる。D県警の管轄内で起きたはじめての誘拐事件である。2000万円を奪われ7歳の少女は無残にも殺され、時効まで1年と少しと迫っている。

46歳の主人公三上義信は捜査二課で刑事としての実績を積んできた自負があった。ところが、畑違いの警務部広報官に異動を命じられる。主な仕事はマスコミ対応である。再び刑事の仕事に戻ることを願望している。広報改革に取り組んだ三上の努力が実を結びそうな矢先、交通事故を起こした女性が妊婦という理由で匿名とすることに、記者たちが猛反発した。

「64」事件の父親宅を警察庁長官が訪問するという。凶悪事件を何がなんでも解決する姿勢を世間に示すためだという。しかし父親は三上に長官の訪問を拒否する意向を伝える。一方、匿名騒動で頑なになったマスコミ各社は長官訪問の取材を拒否する姿勢を示す。三上はこのふたつの難問を解決しなければならない。

マスコミを抑えられない警務部、その陣頭指揮に立っているのは三上だ。一方、警務部は凶悪犯を逮捕できない刑事部の力量を暗に批判している。三上は刑事部と警務部に翻弄されどちらからも信用されず、またマスコミからも責められる苦しい立場に立たされている。

そんな中、「64」事件にまつわる隠蔽された警察の不祥事が書かれた「幸田メモ」の存在が見え隠れしてくる。
自身の出世と保身しか頭にないキャリアの理不尽に堪えながら、三上はマスコミとの妥協点を模索する。父親が面会拒否する理由とはなんなのか。三上は先輩や同僚、後輩に会い、情報を得ることで、事態を収集し解決する糸口をみいだしていく。→ブログランキングへ

『震える牛』 相葉英雄

震える牛 (小学館文庫)
相場 英雄
2013年5月
売り上げランキング: 5,271
★★★★☆

食品偽装、BSE問題、大企業の独禁法抵触などを扱った社会派サスペンス小説。
主人公の警部補が進める捜査過程を中心に描き、それと並行して女性ジャーナリストが巨大企業のスキャンダルを追いかけ、終盤で両者が出会い犯罪の全貌が明らかにされていく。

田川警部補は高卒の叩き上げ、迷宮入りしそうな未解決事件ばかりが回ってくる警視庁捜査一課継続捜査班に所属する。田川は、現場周辺を丹念に聞き込む「地取り」、事件関係者のつながりを徹底的に洗う「鑑取り」の捜査手法を得意とする。この手法で得られた情報を蛇腹の分厚い手帳に書き込み、メモ魔の異名がある。
田川家では、事件の捜査を始める前と事件が解決したときに、同僚の池本警部補を呼んで、すき焼きパーティが開かれる。
作者は、こんなところにも本作のテーマである「牛」を登場させている。

田川は発生から2年が経ち未解決となっている「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。黒づくめの目出し帽をかぶった男が「マニー、マニー」がと叫びながら店長に切りつけ売上金を奪い、刃物で客ふたりの首を刺し殺害した。初動捜査では犯人を「物盗りの外国人」に絞っていた。

一方、インターネット・ビズ・トゥディの女性記者鶴田真純は、大企業オックスマートの独禁法への抵触疑惑を調査している。
2000年に大店法が施行され、地方都市の郊外に大型ショッピングセンターが建設され、商店街は破壊されていった。
鶴田がオックスマートにこだわる理由は、妹が同社が展開するショッピングセンターの建設にからんで、不幸な亡くなり方をしたからである。

田川たちは地道な捜査を積み重ねていく中で、実は計画的な殺人事件であると断定した。殺害されたのはやくざの顔を持つ産廃業者、仙台に住む獣医師である。ふたりのつながりを探ろうと、田川たちは新潟へ仙台へと捜査の手を広げる。
一方、鶴田は食品偽装とオックスマートとの関連を調べていく。

食品偽装が浮かび上がり、オックスマート社の抱える闇、さらにBSE問題、警視庁や政界と企業の癒着の問題も絡んで、大きなスケールでストーリーは展開していく。ブログランキングへ

『エコー・パーク』マイクル・コナリー

深夜、ロサンジェルスのエコー・パークの近くで、車に女性のバラバラ死体を積んでいる男が逮捕された。その殺人犯レイナード・ウェイツの弁護士から、検事に司法取引の手紙が届く。取引の内容は、レイナードが手を下した9件の殺人事件を自供する替わりに、死刑ではなく終身刑にするというもの。被害者のなかには、13年前にボッシュが担当した未解決のマリー・ゲスト事件も含まれていた。
ボッシュがゲスト事件のファイルを見直すと、そこには犯人と思われる人物からの接触があったと記載されていた。
当時、ボッシュはそのことについて知らなかった。犯人からの接触を調べていれば、犯人を逮捕できたかもしれない。その後に起こった8件の殺人事件も起こらなかったかもしれないと、ボッシュは自責の念にかられる。

おりしも地区検事局長の選挙を控えており、候補のリック・オシェイ検事はマスコミに名を売り知名度を上げたがっている。警察当局は、レイナードがゲストの遺体が埋められているところに案内するという申し出にOKを出した。

エコー・パーク(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー(古沢嘉通 訳)
2010年4月
★★★★*
エコー・パーク(下) (講談社文庫)
マイクル・コナリー
講談社
売り上げランキング: 159,578

現場に着き、崖の下で死体が遺棄された場所を確認したあと、レイナードは警官から銃を奪い、ふたりの警官を射殺し、ボッシュのパートナーであるキズにも重傷を負わせた。十分に警戒してしていたはずなのに、レイナードは逃走してしまう。

ニュースは、現場にいたオシェイ検事にとって不利な映像が削除されていた。警官がふたり殺されひとりが重症になり、容疑者に逃げられるという失態を、ボッシュのせいにしようとする工作が行なわれた。
ボッシュは、親密な関係にあるFBI捜査官のレイチェルの協力をえて、独自の推理でレイナードの行方を追っていく。
後半にはミステリの醍醐味であるキレのある展開が待ち受けている。

Photo

ハリー・ボッシュの本名はヒエロムニス・ボッシュ。この名前は、『快楽の園』などの謎に満ちたシュルレアリスムを彷彿させる絵を描いたルネッサンス期のオランダの画家からとったもの。ボッシュには社会を斜で見るようなところがあり、この一風変わった画家に通じる。

ボッシュがレイチェルと自宅でくつろぐときに流した曲は、1957年カーネギー・ホールでのジョン・コルトレーンとセロニアス・モンクの共演したもの。そのテープは箱に入って50年近く放置されていたところ、図書館の職員が偶然に発見したというお宝もの。こんなエピソードから、著者のジャズ好きが伝わってくる。

→【2016.01.14】プラド美術館展@三菱一号館

『白夜に惑う夏』 アン・クリーヴス

白夜に惑う夏 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス
玉木 享訳
東京創元社

『大鴉の啼く冬』につづく、アン・クリーブスのシェトランド四重奏の第2章。
本シリーズではシェトランドの極端な気候がたびたび触れられるが、本作でも白夜が登場人物たちに及ぼす影響が何回か語られる。

シェトランド警察署のペレス警部は恋人のフランとともに、ビディスタという町の絵画展に出でかけた。その絵画展はフランともうひとりの画家シンクレアとの共同絵画展であった。その絵画展で、絵の前で奇妙な行動をとった男が、翌朝道化師の仮面をつけたまま首吊り死体となって発見された。
ペレスは、前作『大鴉の啼く冬』と同様に、本土のテイラー主任警部と組んで捜査を開始する。被害者が島の住人でなかったことから、事件は他人事のように冷静に受け止められていた。

しかし、第2の殺人事件が起こり、島の人間関係に微妙な変化が表れてくる。
テイラーは「人を殺しておいて、翌日、しれっと嘘をつける人物といったら、誰が思い浮かびますか?」と、ペレスに投げかける。テイラーにすれば、お互いに知っているはずの狭い島で、誰が犯人かはすぐに見当がつきそうなものだというのだ。
しかし、ペレスは旧知の間柄だからこそ秘密を作りたがるということがあるのを知っている。

都会からやってきた気障な作家にフランが惹かれているのではないかと、ペレスは心が穏やかではない。ペレスとフランの恋の進展もストーリーに絡んでいる。

第一の殺人が起きたあと、著者は次のように書いている。
おそらくノイローゼ気味の観光客だろう。でなければ、酔っぱらっていたとか、ドラッグをやっていたか。一年のこの時季になると、シェトランドはそういう連中が引き寄せられてくるようだった。彼らは楽園や平穏を求めて、ここを訪れる。そして、白夜のせいで精神がますます不安定になることを知るのだ。
ある意味で本作の主役は白夜であるといえる。(2011年9月)→ブログランキングへ

【シェトランドに関するミステリ】
アン・クリーブス著〈シェトランド四重奏〉
大鴉の啼く冬』(07年7月)、『野兎を悼む春』(11年7月)、『白夜に惑う夏』(09年7月)、『青雷の光る秋』(13年3月)
シャロン・J・ボルトン著
三つの秘文字』 

『ファイアーウォール』 ヘニング・マンケル

ファイアーウォール 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル
東京創元社
2012年9月
★★★★★
ファイアーウォール 下 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル
東京創元社

スウェーデンの大御所ヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズ第8弾。

ヴァランダーの同僚は、コンピューターや携帯電話を難なく使いこなしている。彼といえば、書類を書くときにパソコンを使うが、メールは送ったことがない。ケータイは電源を入れていなかったり、その辺に置き忘れたりして、機能していない。彼は、同僚たちとの間に世代の壁を感じている。タイトルのコンピュータ用語『ファイヤーウォール』は、ヴァランダーと世間とを隔てる障壁でもあるのだ。

イースタ署にタクシー運転手を襲ったふたりの少女が連行されてきた。19歳のソニャがハンマーで殴り、14歳のエヴァがナイフで刺し、運転手は死亡した。ふたりは単なる金欲しさの犯行だと自供するが、反省する様子がない。ヴァランダーには、少年ならまだしも、彼女たちがこうした犯罪を犯すことが理解できなかった。尋問の席で母親を罵倒し殴ったエヴァに腹をたてたヴァランダーは、思わず彼女に平手打ちを食らわせてしまう。まさにその瞬間を新聞記者に撮られ、写真をマスコミに流されてしまった。
少女を殴ったことで、ヴァランダーに対する仲間の信頼が揺らいでいる。ホルゲンソン署長はまずいことになったと、ヴァランダーを責めるようにいう。彼は心の中で、ホルゲンソン署長は部下をかばうべきだ、部下を窮地に立たせるべきでないと思う。彼は、ますます孤独感を感じるのだった。

ところで、最近、独り身が辛くなったヴァランダーは、別れた妻のエバをしきりに思い出す。心の安らぎがえられる話し相手が欲しいと思うようになった。孤独に苛まれる彼は、悩んだ末に交際相手紹介所に申込書を送ることにした。

だが、そんなヴァランダーの苦悩をよそに、事件は意外な展開を見せる。ソニャが警察から脱走したのだ。そして警察の必死の捜索もむなしく、彼女は変電所で死体となって発見された。

タクシーの事件が起こった頃、スーパーマーケットのATMで残高照会したあと、ITコンサルタント会社を経営する男が突然死する。病死だと思われたその男の死体がモルグから盗まれ、かわりにソニャとのつながりを疑わせる継電器が置かれていた。
男の周辺を調べ始めたヴァランダーは、男のコンピュータに侵入するために、周囲の反対を押し切って、軽犯罪を犯した天才的なハッカーの少年の手を借りることにする。これと似た話が映画の『ニュースの天才』(03年)に出てきた。

少女たちが引き起こした強盗殺人事件が、ファイアーウォールの向こうの巨大な陰謀につながっていく。こうしたコンピューターの闇の世界を、すでに1998年当時に描いたヘニング・マンケルには、先見の明があったといえるだろう。テクノロジーは進んでも、コンピューターやネットが抱える根本的な問題は、初期の頃から変わっていない。→ブログランキングへ

2016.03.19『霜の降りる前に
2014.09.19『北京からきた男
2013.04.10『ファイアーウォール』 
2012.01.02『リガの犬たち
2011.12.20『背後の足音

『青雷の光る秋』アン・クリーブス

青雷の光る秋 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス
玉木 享訳
2013年3月
★★★★☆

本作『青雷の光る秋/Blue Lightning』 は、『大鴉の啼く冬/Raven Black』(07年)、『白夜に惑う夏/White Nights』(09年)、『野兎を悼む春/Red Bones』(11年)に続いて出版された、アン・クリーヴスのシェトランド4重奏の最終章である(カッコ内は邦訳が出版された年)。原作と邦訳のタイトルを比べてみると、邦訳のどれもがストーリーの内容を汲み取っていて味わいがある。

10月中旬、ペレス警部は、婚約者のフランを供なって故郷のフェア島に帰省した。あまりの悪天候でフェア島に向かう飛行機は激しく揺れて、フランは死の恐怖を覚えるほどだった。両親はふたりに、島のフィールドセンターで婚約祝いのパーティを予定したと告げる。
灯台を改築したフィールドセンターは野鳥観察の拠点で、春から秋にかけて島に逗留するバードウォッチャーたちの宿泊所や、島民のパーティの会場として使われていた。フィールドセンターの所長のモーリスには、年下の妻監視員のアンジェラがいて、彼女はテレビにも出演する鳥類学の有名な美人学者である。

婚約祝いのパーティは滞りなく終わるが、その夜、センターでドレス姿のままアンジェラが背中をナイフで一突きされ殺される。遺体には白い鳥の羽根が振りかけられていた。

パーティの前にアンジェラは、評判のいいセンターの料理人ジェーンに、来期からの解雇を言い渡していた。また、パーティでは、アンジェラとモーリスの連れ子・義理の娘ポピーとの口論になり、ポピーがアンジェラの自慢の長い髪の毛に、ビールを引っ掛けた。また、ペレスが調査を進めるとアンジェラの奔放な男性関係が明らかになってくる。
そんな中、第二の殺人事件が起こる。

第一の殺人は、孤島のフィールドセンターで起こったいわば密室殺人であり、犯人となりうる人物はせいぜい5~6人であるにもかかわらず、捜査が遅々として進まない。シェトランド本島からの援軍が天候のせいで遅れたこともあるが、第二の殺人が起こっても、犯人の目星がつかないことに、まどろっこしさを感じる。
実は、この捜査の遅れはシェトランド4重奏を終結させるために必要な布石であると、読み終わって気づく。
ストーリーは緻密に構成され、納得させられるシリーズの最終章になっている。

本シリーズは、それぞれが独立した話として成り立っているのでどれから読んでも良いわけだが、できれば翻訳順に読むことが推奨される。ペレスとフランは第一作の『大鴉の啼く冬』で出会っていて、作を重ねるごとに親密になっていっている。第三作の『野兎を悼む春』では新米刑事のサンディが登場していて、本作では成長をした姿を見せている。翻訳された順に読む方が、そうした関係がスムースに感じられるだろう。→映画(全般) ブログランキングへ

【シェトランドに関するミステリ】
大鴉の啼く冬』(07年7月)、『野兎を悼む春』(11年7月)、『 白夜に惑う夏 』(09年7月)、『青雷の光る秋』(13年3月) アン・クリーブス著〈シェトランド四重奏〉
三つの秘文字』 シャロン・J・ボルトン著 

『リガの犬たち』 ヘニング・マンケル

リガの犬たち (創元推理文庫)
ヘニング マンケル
柳沢由実子 訳
東京創元社
2003年月11日

1991年2月、ふたりの若い男の死体を乗せた救命ゴムボートが、スウェーデンの南海岸に打ち上げられ、イースタ署のクルト・ヴァランダーたちが捜査を開始した。
やがて、遺体の身元がラトヴィアの犯罪組織にかかわる人物と判明した。
ラトヴィアの首都リガから、調査のためにカルリス・リエパ中佐が派遣される。
ところが、リガに帰ったその日に、リエパ中佐は何者かに殺されてしまう。
そしてヴァランダー警部は、リガの警察署からリエパ中佐殺害捜査の協力のために招聘される。
スウェーデンの田舎町イースタとは勝手が違う警察の捜査体制に戸惑うヴァランダーに、地下組織から接触が図られる。

一度は帰国したヴァランダーであったが、中佐の未亡人から懇願されて、身分を偽ってラトヴィアに再び潜入する。
ヴァランダーは、いつの間にか命の危険にさらされる謀略の渦中に身を置くことになってしまった。
そうしたなかであっても、ヴァランダーは未亡人バイバに恋心をいだくという、バツイチ中年男ぶりを発揮するのだ。

旧ソ連から分離独立した直後であるラトビアの政治状況は、いまだにソ連に通じる人脈によって掌握されているというものだった。
そうした状況下で、地下に潜り命がけで自由を求め独立運動に身を投じる人々に、ヴァランダーは頼りとされる。
そこでヴァランダーが垣間見たのは、かつての社会主義大国ソヴィエト連邦が崩壊する瀬戸際で起きた、ソ連支配下の国における独立運動とそれを阻もうとする旧勢力の壮絶な戦いだった。
途中からは、もはや警察小説を離れてしまい国際政治サスペンスものの趣になる。

スケールの大きい展開のなかにも、イースタ署の警察官たちの苦悩が語られる。
スウェーデンは、手のほどこしようがないほど犯罪が先に行ってしまい、かつて経験したことのない種類の犯罪を生み出す社会になってしまった。
これは、先進国の多くが抱える共通の社会問題であり、ヴァランダーシリーズで繰り返し指摘されることである。

クルト・ヴァランダー警部シリーズ第2作目。ブログランキングへ

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2011.12.20『背後の足音

『背後の足音 上下』 ヘニング・マンケル

背後の足音 上 (創元推理文庫)
背後の足音 上
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ヘニング・マンケル
東京創元社
2011年7月
背後の足音 下 (創元推理文庫)
背後の足音 下
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ヘニング・マンケル
東京創元社

イースタ警察署に娘を捜して欲しいという母親の訴えが出された。
夏至前夜に友人と出かけて以来、行方がわからないという。
旅先から絵はがきが届いているが、筆跡は娘のものではないと母親は訴える。
事件として扱うべきなのか釈然としないものの母親の熱意に動かされて、クルト・ヴァランダーは捜査会議を招集した。

ところが几帳面な同僚刑事のスヴェードベリが無断で会議を欠席した。
不審に思ってアパートを訪ねたヴァランダーたちは、スヴェードベリの射殺死体を発見する。
どうやら彼は、若者たちが失踪した事件をひとりで調べていたらしい。
やがて、行方不明だった3人の若者の遺体が18世紀の衣装をまとったままの姿で発見された。

ヴァランダーら捜査陣の焦燥感がつのるなか、今度は新婚カップルが殺される。
いずれの犠牲者も額を一発で撃ち抜かれていた。
8人の殺害はシリアルキラーの仕業なのか、犯人は複数なのか、操作の手掛かりが見つからないまま堂々巡りを繰り返す。

スヴェードベリの個人生活を追っていくと、写真に映った謎の女性の影がちらつく。
やがて、スヴェードベリの隠された素顔が明らかになっていくにつれて、捜査の手掛かりらしきものがかすかに見えてくる。

不規則な生活と不摂生がたたって、ヴァランダーは50歳を前にして糖尿病と高血圧を宣告される。
喉は渇くし疲れやすい。車を運転していて眠くなる。夜中にふくらはぎがひき攣り、悪い夢も見る。
ラトビアの恋人とは別れたようだ。
ヴァランダーと和解することのなかった父親が亡くなって2年が過ぎ、別れた妻は再婚した。
これらのことに、吹っ切れない思いを引きずっている。
唯一の心のよりどころの娘は遠く離れて暮らしているし、友人と言える人間は数えるほどしかいない。
そんなミドルエイジ・クライシスのまったただ中に、ヴァランダーはいる。

若者たちが、格差社会のなかで確固たる基盤を失っているという先進国の抱える共通の問題が、本書の背景にある。
シリーズ第7作(原著は1997年刊)。

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『クリスマスのフロスト』 R.D ウィングフィールド

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)
R.D ウィングフィールド 芹澤 恵 訳
東京創元社
1994年9月

ロンドンから70マイル離れた田舎町のデントンで、クリスマスを10日後にひかえた雪の降る日に、娼婦の8歳の娘が行方不明になった。この事件を皮切りに、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする強盗が出没し、さらに詐欺、白骨死体の発見などの事件が次々に起こる。

折しも、主任警部が病気で倒れフロスト警部が責任者となる。
警察長の甥っ子、ロンドン仕込みの奇抜なファッションに身を包んだ新米巡査のクライヴを引き連れて、ワーカーホリック男のフロストはエネルギッシュに捜査にあたる。クライヴといえば、"肥溜め"のようなデントン警察署に配属されたことに大いに不満を感じていた。あまりの仕事の量の多さに寝不足に苛まれ不平を言いつつも、どこか憎めない人柄のフロスト警部に従うようになる。

エビ茶の色のマフラー、よれよれのコートに背広、こ汚いドタ靴が、フロスト警部のトレードマーク。さらに、煙草の吸殻を窓から捨てたり、人の机の灰皿に押しつぶしたり、署の携帯電話器を3台も返さずにためこんだり、署長の新車に自分の車をこすってしらんふりを決め込んだりと、道徳心に欠ける傍若無人ぶりだ。
そして、フロスト警部の真骨頂は、速射砲のように下ネタジョークを一日じゅうまわりに撒き散らすことだ。

ダメオヤジに仕立てすぎで、筋がぼやけるのではと心配する向きもあるが、そこはうまく構成されている。締めるところはフロスト警部とて、冗談抜きだ。

ところで、警察官という公僕の立場にある者が、真昼間にビールだのシェリーだのウイスキーを飲んで仕事するイギリスという国は一体全体どうなっているのだ。

それはさておき、フロスト警部のジョークは、スポーツ紙の中ほどにあるわいせつ紙面の内容と変わらない。このとってつけたようなニュース性ゼロの紙面がなければ、スポーツ紙の売り上げは落ちるだろう。
つまり、世の男たちはフロスト警部のジョークのようなことを、日がな一日頭に浮かべているということだ。
本書にどっぷり浸かったので、フロスト警部ばりの憚られるジョークが、ちょろっと口をついて出てしまうかもしれない。気をつけよう。→人気ブログランキング

フロスト始末
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
冬のフロスト
フロスト気質
夜明けのフロスト

『野兎を悼む春』アン・クリーブス

野兎を悼む春 (創元推理文庫)
Red Bones
アン・クリーヴス
玉木 亨訳
創元社
2011年7月
ISBN 978-4-488-24507-8

シェトランド署のペレス警部の部下、新米刑事のサンディ・ウィルソンはウォルセイ島に帰省した。
ウォルセイ島では、サンディの祖母ミマ・ウィルソンの所有するセッター農場で、大学院生のハティが中心となって遺跡の発掘調査が行われていた。
その発掘現場から古い頭蓋骨の一部が発見された。

若い頃、ミマは美しく陽気で、島中の男性から注目を集めていた。
早々と結婚したものの、夫を海の事故でなくし、その後は結婚せずに周囲が眉をひそめるような奔放な生活を送っていた。
歳をとった今は、詮索好きで島のスキャンダルに通じていて、人々に恐れられている。

ある雨の夜、サンディは発掘現場の溝に銃弾を浴びて死んでいるミマを発見する。
酒を飲んだ従兄のロナルドがウサギを狙って、誤射したと見られる死だった。
地方検察官やミマの親戚たちは、事件性のない事故として処理されることを望んでいた。
しかしペレスはその死に疑惑を捨てきれずにいた。

そうこうするうちに、サンディが再び発掘現場で自殺と見られる遺体を発見する。
ペレスはこの自殺にも疑惑の念を抱く。
このふたつの死は関係があるのか、そして発掘された頭蓋骨との関係はどうなのか。
謎解きは、終末に向ってめまぐるしくスリリングに展開してゆく。
本書はペレスと二人三脚で捜査を進めるサンディの成長の物語でもある。

【シェトランドに関するミステリ】
大鴉の啼く冬』(07年7月)、『野兎を悼む春』(11年7月)、『白夜に惑う夏』(09年7月)、『青雷の光る秋』(13年3月)  アン・クリーブス著〈シェトランド四重奏〉
三つの秘文字』 シャロン・J・ボルトン著

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