ミュージカル

2022年8月23日 (火)

三星京香、警察辞めました 松嶋智左

著者は元白バイ隊員。2005年に北日本文学賞、2006年に織田作之助賞を受賞。2017年『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』で、島田荘司選ばらのまち福山ミステリ文学新人賞を受賞。著書に『貌のない貌 梓凪子の捜査報告書』『匣の人』『女副署長』(2019年)『女副署長 緊急配備』(2021年)『開署準備室巡査長・野呂明良』(2021年)がある(表紙著者紹介より)。
元警察官の視点で描かれる警察小説は、斬新である。
5f708631695b4747af70118ffd34ad97 三星京香、警察辞めました
松嶋智左
ハルキ文庫
2022年6月 317頁

三星京香31歳は176センチ、刑事部捜査一課、後藤班の係員。
刑事部長を殴って辞表を提出し、警察を辞めた。後輩が弱みを握られ、セクハラを受けたことに義憤に駆られ手荒い行動に出た。
辞職の真相を夫にも話さないことで、夫との間が気まずくなり、離婚調停になった。娘つみきの親権を争っている。
京香についた弁護士は、京香の幼馴染で3歳年下の藤原岳人であった。岳人は体が小さくいじめられたときは、京香が庇った。
京香は岳人の所属するうと弁護士事務所のパラリーガルの面接を受けることになった。そして仮採用になったのである。
弁護士の中には警察官を敵対視する者もいる。
警察にいいイメージを持っていない芦沢夢良とペアを組み、岳人が弁護を担当する鹿野省吾が起こした暴行事件の下調べをすることになった。
そして、鹿野の情状証人の羽根木有子が姿を消したのだ。
京香と夢良が羽根木有子を追いかけて新潟県燕市に出かけた夜、岳人が殺された。
警察の捜査とぶつかり合いながら、京香は事件の核心に迫っていく。

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三星京香、警察辞めました/松嶋智左/ハルキ文庫/2022年6月
開署準備室 巡査長・野路明良/松嶋智左/祥伝社文庫/2021年9月
女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

2016年4月14日 (木)

アイム・ノット・ゼア

ボブ・ディランは、時代の変遷とともに自らの音楽性を変化させてきた。その強引とも思える変貌ぶりはファンを戸惑わせたりあるいは怒らせたりした。
初期には、プロテスト・ソングを歌うフォーク・シンガーとして脚光を浴び、脱皮してロックン・ローラーになり、あるいは映画俳優として活動し、リズム&ブルースを歌い、ゴスペルに傾倒したりもした。一時は歌わなくなったこともあった。才能が豊かすぎる飽きっぽい人なのだろう。自分のイメージが固定してしまうのを嫌い、次々とイメージチェンジし、しがみつくファンに揺さぶって振り落とし、熱狂的なファンだけが残った。
Image_20201218175401アイム・ノット・ゼア
I'm Not There
監督:トッド・ヘインズ
脚本:トッド・ヘインズ/オーレン・ムーヴァーマン
音楽:ボブ・ディラン
アメリカ 2007年 136分
数日前(2016年4月)の新聞に、ボブ・ディランが「天国への扉」と名付けた鉄の彫刻の展覧会をロンドンで開いたと載っていた。「アイオワの鉄鉱山の町で育ち、毎日鉄の匂いを嗅いでいんだ」とインタビューに答えた。ともかく多才なのだ。表現のスタイルを変えただけでディラン自身の本質はおそらく変わっていないのだろう。

『アイム・ノット・ゼア』は、『千の風になって』の歌詞のようなタイトルだ。

13111811_2本作では、ボブ・ディランという固有名詞をまったく使わずに、6つのエピソードを別の人物が演じていて、それぞれがひとつのストーリーとして成り立つ構成になっている。変幻自在なディランを描くには、こうした手法がふさわしいかもしれない。

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映画は、19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボー(ベン・ウィショー)が「なぜプロテスト・ミュージックをやめたのか?」という質問を受けている場面から始まる。このランボーが詩的な的を射たようなあるいははぐらかしたようなことをごたごた話し、いかにもディランらしい話の内容なのだが、彼は6つのエピソードをつなぐ役割を担う。

1959年、憧れのウディ・ガスリーに会いに行こうと「ファシストを殺すマシン」と書かれたギターケースを持つ黒人少年ウディ(マーカス・カール・フランクリン)は、貨物列車に乗り込み、ある黒人ブルース・シンガーの家に転がり込む。そこで「今の世界のことを歌いなさい」と女主人に助言を受け、再び旅に出る。そして入院しているウディ・ガスリーの病室にたどり着き、ギターを弾きながら歌うのだった。望みがかなったのだ。

60年代後半、プロテストソングを歌うジャック・ロリンズ(クリスチャン・ベール)は時代の寵児として脚光を浴びていた。しかしパーティでJFKの殺害犯を称えるようなことを語り、反感を買い身を隠すことになる。
約20年後、彼は教会でジョン牧師と名乗ってゴスペルを歌っていた。

ベトナム戦争が本格化した1965年、俳優のロビー(ヒース・レジャー)は、美大生のクレア(シャルロット・ゲンズブール)と出会い結婚する。しかし2人の間は次第にぎくしゃくし始める。8年後、1973年、ベトナム戦争からの米軍撤退のニュースをテレビで見ていたクレアは離婚を決意する。

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1965年、ジュード(ケイト・ブランシェット)はロックバンドを率いてフォーク・フェスティバルに出演しブーイングにさらされる。その後、彼はバンドと共にロンドンに向かい、ライブで再びロックを演奏する。
このケイト・ブランシェットが演じるディランが、もっともディラン本人に似ているところに、監督の遊び心と目の確かさ表れている。

西部の町リドルでビリー(リチャード・ギア)はひっそり暮らしていた。道路建設のため町民に立ち退き命令が下る。ビリーはその黒幕がギャレットであることを突き止め、ギャレットの演説会で彼の悪行を批判する。町民たちはその言葉で一斉に蜂起する。
そしてビリーは安住の地を求めて放浪の旅に出る。彼のギターケースには「ファシストを殺すマシン」と書かれていた。少年ウディが持っていたギターである。→人気ブログランキング

ボブ・ディラン解体新書
アイム・ノット・ゼア』(DVD)

2013年10月14日 (月)

アクロス・ザ・ユニバース

ビートルズが活躍した60年代から70年代を時間軸にして物語は進む。ビートルズの歌33曲に合わせたストーリーで構成されたミュージカル。
監督のジュリー・ティモアは1952年生まれのアメリカ人女性で、脚本も共同執筆している。本作が生まれたのは、監督がビートルズと同時代を生き、ビートルズのことなら何でも頭の中に入っている根っからのビートルズおたくだったからに違いない。
登場人物はビートルズの曲に登場する名前が使われ、ビートルズ関連のネタが随所に差し挟まれていて、どこをとってもビートルズだ。
おまけに、主人公ジュード役のジム・スタージェスはどことなくポール・マッカートニー似ではないか。
Image_20210108200501アクロス・ザ・ユニバース
Across The Universe
監督:ジュリー・テイモア
脚本:ジュリー・テイモア/ディック・クレメント
音楽:エリオット・ゴールデンサール
アメリカ  2007年  133分 

造船所で働くジュードは、「俺はこの歳になるまで、ここにいるとは思わなかった」と嘆く髪の毛が薄くなった64歳の男から最後の給料を受け取り、恋人をリバプールに残して、父を捜しにアメリカへわたる。彼は船員になりすまし、ビザなしでアメリカに上陸したのだった。このシークエンスで歌われる曲は、「Girl」「Hold Me Tight」「All My Lovinng」「I Want To Hold Your Hand」。

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父はプリンストン大学の管理人をしていた。そこで陽気な学生マックス(ジョー・アンダーソン)と出会い意気投合する。さらに、ジュードはマックスから妹ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)を紹介してもらい、互いに好意を抱くようになる。「With A Little Help From My Friends」「It Won't Be Long」「I've Just Seen A Face(夢の人)」。

マックスは両親の反対を押しきって大学を中退してしまい、ジュードを連れてニューヨークに出て行く。そして、ふたりが転がり込んだのは、メジャーデビューを目指す女性ロックシンガー・サディのアパートだった。そこにデトロイトでの公民権運動の暴動で弟を失ったギタリストのジョジョも居ついてしまう。時代は公民権運動が盛んな1960年代の中頃である。マックスはタクシーの運転手として働き、ジュードはイラストレーターとして生活が始まった。

そのアパートに、ベトナム戦争で恋人を亡くしたルーシーが、兄の徴兵書類を携えて現れる。恋人を亡くし兄の身を案じるルーシーをジュードが慰め、ふたりの間に恋が芽ばえはじめる。ルーシーは「If I Fell(恋に落ちたら)」を語るように歌う。その頃、ジョジョはセディのバンドに加わり、こちらも愛が芽生えていた。

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ジョジョの弟とルーシーの恋人の葬儀に、黒人聖歌隊が歌うゴスペル風「Let It Be」が浪々と響き渡る。迫力あるなー。「Come Together」「Why Don't We Do It In The Road?」。

マックスは徴兵を逃れる術をあれこれ尽くし徴兵検査を受けたものの、思惑は外れなんなく合格してしまう。「I Want You/She's So Heavy」。

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そんな折、セディがレコード会社と契約を結び、そのマネージャーの誘いで、ジュードたち仲間を連れてドクター・ロバート(ボノ U2)のパーティに紛れ込む。セディたちはパーティーでLSDによるトリップを体験し、さらにドクター・ロバートのサイケデリックな黄色のバスに乗ってマジカル・ミステリー・ツアーへ出かける。向かった先は、ミスター・カイトの摩訶不思議なサーカスショーだった。「Dear Prudence」「Flying(instrumental)」「Blue Jay Way」「I Am the Walrus」「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」「Because」「Something」。

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このあたりは、アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー』のためのシークエンスである。
この後、マックスはベトナムに出征する。

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一方、セディのソロデビューの話にジョジョは腹を立て、ふたりは仲たがいをしてしまう。ライブで、前半をセディが後半をジョジョが、まるで激しい口論のように歌う「Oh! Darling」は見もの。

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ジュードとルーシーの愛は育まれてったが、ルーシーが反戦活動にのめり込んでいき、ジュードはついていけない。反戦に対する立場の違いでふたりの関係は徐々に気まずくなっていく。「Strawberry Fields Forever」。

スージーの気持ちが反戦運動の活動家になびいていると勘ぐったジュードは、活動家たちの事務所に押しかけ、「Revolution」を歌いながら反戦活動家に毒づく。このことで、ふたりの間に決定的な亀裂が入ってしまう。

傷心のジュードにジョジョが「While My Guitar Gently Weeps」を歌い慰める。ルーシーが部屋を出て行った後、ジュードが街を彷徨している場面に、映画のタイトルになっている「Across the Universe」が流れ、そこに「Helter Skelter(しっちゃかめっちゃか)」がクロスオーバーして流れる。

反戦デモに参加したスージーは警察に連行され、それをなんとか阻止しようとしたジュードも拘束され、彼は不法滞在がバレてイギリスに強制送還される。

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一方、負傷して帰還したマックスは精神的なダメージが大きく、情緒不安定でトラウマと闘う入院生活を送っていた。退院したマックスは妹ルーシーの見守るなか静養する。ここで、歌うセクシーな看護婦役でサルマ・ハエックがカメオ出演している。「Happiness Is a Warm Gun」「A Day In The Life」「Blackbird」。

イギリスに帰国したジュードは元の造船所の生活に戻るが、かつての恋人は結婚し妊娠していた。彼はルーシーへの想いが断ち切れず、マックスが歌う「Hey Jude」に勇気付けられ、今度はビザを取得して渡米するのだった。

アメリカに舞い戻ったジュードはマックスの出迎えを受け、サディとジョジョがライブを敢行しようとしているビルの屋上に向かう。この屋上のシーンは、ビートルズ解散前の屋上ライブを彷彿とさせる。

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サディたちが「Don't Let Me Down」を歌い上げたとき、警官たちにライブを中断されライブを止めるが、そのあとジュードがアカペラで「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」を歌う。それに向かいのビルの屋上に登ったルーシーが応え、ハッピーエンドで幕を閉じる。ビートルズファンには堪えられない一作である。

エンドロールでは、ボノの歌う「Lucy In the Sky With Diamonds」が流れる。ボノ、サルマ・ハエックの他に、ジョー・コッカーハリー・J・レニックスディラン・ベイカーが、カメオ出演している。→人気ブログランキング

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