ミュージカル

『アイム・ノット・ゼア』

ボブ・ディランは、時代の変遷とともに自らの音楽性を変化させてきた。その強引とも思える変貌ぶりはファンを戸惑わせたりあるいは怒らせたりした。
初期には、プロテスト・ソングを歌うフォーク・シンガーとして脚光を浴び、脱皮してロックン・ローラーになり、あるいは映画俳優として活動し、リズム&ブルースを歌い、ゴスペルに傾倒したりもした。一時は歌わなくなったこともあった。才能が豊かすぎる飽きっぽい人なのだろう。自分のイメージが固定してしまうのを嫌い、次々とイメージチェンジし、しがみつくファンに揺さぶって振り落とし、熱狂的なファンだけが残った。

アイム・ノット・ゼア [DVD]

アイム・ノット・ゼア [DVD]

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I'm Not There
監督:トッド・ヘインズ
脚本:トッド・ヘインズ/オーレン・ムーヴァーマン
音楽:ボブ・ディラン
アメリカ 2007年 136分

『アイム・ノット・ゼア』は、『千の風になって』の歌詞のようなタイトルだ。

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本作では、ボブ・ディランという固有名詞をまったく使わずに、6つのエピソードを別の人物が演じていて、それぞれがひとつのストーリーとして成り立つ構成になっている。変幻自在なディランを描くには、こうした手法がふさわしいかもしれない。

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映画は、19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボー(ベン・ウィショー)が「なぜプロテスト・ミュージックをやめたのか?」という質問を受けている場面から始まる。このランボーが詩的な的を射たようなあるいははぐらかしたようなことをごたごた話し、いかにもディランらしい話の内容なのだが、彼は6つのエピソードをつなぐ役割を担う。

1959年、憧れのウディ・ガスリーに会いに行こうと「ファシストを殺すマシン」と書かれたギターケースを持つ黒人少年ウディ(マーカス・カール・フランクリン)は、貨物列車に乗り込み、ある黒人ブルース・シンガーの家に転がり込む。そこで「今の世界のことを歌いなさい」と女主人に助言を受け、再び旅に出る。そして入院しているウディ・ガスリーの病室にたどり着き、ギターを弾きながら歌うのだった。望みがかなったのだ。

60年代後半、プロテストソングを歌うジャック・ロリンズ(クリスチャン・ベール)は時代の寵児として脚光を浴びていた。しかしパーティでJFKの殺害犯を称えるようなことを語り、反感を買い身を隠すことになる。
約20年後、彼は教会でジョン牧師と名乗ってゴスペルを歌っていた。

ベトナム戦争が本格化した1965年、俳優のロビー(ヒース・レジャー)は、美大生のクレア(シャルロット・ゲンズブール)と出会い結婚する。しかし2人の間は次第にぎくしゃくし始める。8年後、1973年、ベトナム戦争からの米軍撤退のニュースをテレビで見ていたクレアは離婚を決意する。

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1965年、ジュード(ケイト・ブランシェット)はロックバンドを率いてフォーク・フェスティバルに出演しブーイングにさらされる。その後、彼はバンドと共にロンドンに向かい、ライブで再びロックを演奏する。
このケイト・ブランシェットが演じるディランが、もっともディラン本人に似ているところに、監督の遊び心と目の確かさ表れている。

 

西部の町リドルでビリー(リチャード・ギア)はひっそり暮らしていた。道路建設のため町民に立ち退き命令が下る。ビリーはその黒幕がギャレットであることを突き止め、ギャレットの演説会で彼の悪行を批判する。町民たちはその言葉で一斉に蜂起する。
そしてビリーは安住の地を求めて放浪の旅に出る。彼のギターケースには「ファシストを殺すマシン」と書かれていた。少年ウディが持っていたギターである。

ボブ・ディラン解体新書
アイム・ノット・ゼア』(DVD)

『アクロス・ザ・ユニバース』


アクロス・ザ・ユニバース [Blu-ray]

Across The Universe
監督:ジュリー・テイモア
脚本:ジュリー・テイモア/ディック・クレメント
音楽:エリオット・ゴールデンサール
アメリカ  2007年  133分  ★★★★☆

 

ビートルズが活躍した60年代から70年代を時間軸にして物語は進む。ビートルズの歌33曲に合わせたストーリーで構成されたミュージカル。
監督のジュリー・ティモアは1952年生まれのアメリカ人女性で、脚本も共同執筆している。本作が生まれたのは、監督がビートルズと同時代を生き、ビートルズのことなら何でも頭の中に入っている根っからのビートルズおたくだったからに違いない。
登場人物はビートルズの曲に登場する名前が使われ、ビートルズ関連のネタが随所に差し挟まれていて、どこをとってもビートルズだ。
おまけに、主人公ジュード役のジム・スタージェスはどことなくポール・マッカートニー似ではないか。

造船所で働くジュードは、「俺はこの歳になるまで、ここにいるとは思わなかった」と嘆く髪の毛が薄くなった64歳の男から最後の給料を受け取り、恋人をリバプールに残して、父を捜しにアメリカへわたる。彼は船員になりすまし、ビザなしでアメリカに上陸したのだった。このシークエンスで歌われる曲は、「Girl」「Hold Me Tight」「All My Lovinng」「I Want To Hold Your Hand」。

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父はプリンストン大学の管理人をしていた。そこで陽気な学生マックス(ジョー・アンダーソン)と出会い意気投合する。さらに、ジュードはマックスから妹ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)を紹介してもらい、互いに好意を抱くようになる。「With A Little Help From My Friends」「It Won't Be Long」「I've Just Seen A Face(夢の人)」。

マックスは両親の反対を押しきって大学を中退してしまい、ジュードを連れてニューヨークに出て行く。そして、ふたりが転がり込んだのは、メジャーデビューを目指す女性ロックシンガー・サディのアパートだった。そこにデトロイトでの公民権運動の暴動で弟を失ったギタリストのジョジョも居ついてしまう。時代は公民権運動が盛んな1960年代の中頃である。マックスはタクシーの運転手として働き、ジュードはイラストレーターとして生活が始まった。

そのアパートに、ベトナム戦争で恋人を亡くしたルーシーが、兄の徴兵書類を携えて現れる。恋人を亡くし兄の身を案じるルーシーをジュードが慰め、ふたりの間に恋が芽ばえはじめる。ルーシーは「If I Fell(恋に落ちたら)」を語るように歌う。その頃、ジョジョはセディのバンドに加わり、こちらも愛が芽生えていた。

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ジョジョの弟とルーシーの恋人の葬儀に、黒人聖歌隊が歌うゴスペル風「Let It Be」が浪々と響き渡る。迫力あるなー。「Come Together」「Why Don't We Do It In The Road?」。

マックスは徴兵を逃れる術をあれこれ尽くし徴兵検査を受けたものの、思惑は外れなんなく合格してしまう。「I Want You/She's So Heavy」。

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そんな折、セディがレコード会社と契約を結び、そのマネージャーの誘いで、ジュードたち仲間を連れてドクター・ロバート(ボノ U2)のパーティに紛れ込む。セディたちはパーティーでLSDによるトリップを体験し、さらにドクター・ロバートのサイケデリックな黄色のバスに乗ってマジカル・ミステリー・ツアーへ出かける。向かった先は、ミスター・カイトの摩訶不思議なサーカスショーだった。「Dear Prudence」「Flying(instrumental)」「Blue Jay Way」「I Am the Walrus」「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」「Because」「Something」。

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このあたりは、アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー』のためのシークエンスである。
この後、マックスはベトナムに出征する。

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一方、セディのソロデビューの話にジョジョは腹を立て、ふたりは仲たがいをしてしまう。ライブで、前半をセディが後半をジョジョが、まるで激しい口論のように歌う「Oh! Darling」は見もの。

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ジュードとルーシーの愛は育まれてったが、ルーシーが反戦活動にのめり込んでいき、ジュードはついていけない。反戦に対する立場の違いでふたりの関係は徐々に気まずくなっていく。「Strawberry Fields Forever」。

スージーの気持ちが反戦運動の活動家になびいていると勘ぐったジュードは、活動家たちの事務所に押しかけ、「Revolution」を歌いながら反戦活動家に毒づく。このことで、ふたりの間に決定的な亀裂が入ってしまう。

傷心のジュードにジョジョが「While My Guitar Gently Weeps」を歌い慰める。ルーシーが部屋を出て行った後、ジュードが街を彷徨している場面に、映画のタイトルになっている「Across the Universe」が流れ、そこに「Helter Skelter(しっちゃかめっちゃか)」がクロスオーバーして流れる。

反戦デモに参加したスージーは警察に連行され、それをなんとか阻止しようとしたジュードも拘束され、彼は不法滞在がバレてイギリスに強制送還される。

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一方、負傷して帰還したマックスは精神的なダメージが大きく、情緒不安定でトラウマと闘う入院生活を送っていた。退院したマックスは妹ルーシーの見守るなか静養する。ここで、歌うセクシーな看護婦役でサルマ・ハエックがカメオ出演している。「Happiness Is a Warm Gun」「A Day In The Life」「Blackbird」。

イギリスに帰国したジュードは元の造船所の生活に戻るが、かつての恋人は結婚し妊娠していた。彼はルーシーへの想いが断ち切れず、マックスが歌う「Hey Jude」に勇気付けられ、今度はビザを取得して渡米するのだった。

アメリカに舞い戻ったジュードはマックスの出迎えを受け、サディとジョジョがライブを敢行しようとしているビルの屋上に向かう。この屋上のシーンは、ビートルズ解散前の屋上ライブを彷彿とさせる。

 

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サディたちが「Don't Let Me Down」を歌い上げたとき、警官たちにライブを中断されライブを止めるが、そのあとジュードがアカペラで「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」を歌う。それに向かいのビルの屋上に登ったルーシーが応え、ハッピーエンドで幕を閉じる。ビートルズファンには堪えられない一作である。

エンドロールでは、ボノの歌う「Lucy In the Sky With Diamonds」が流れる。ボノ、サルマ・ハエックの他に、ジョー・コッカーハリー・J・レニックスディラン・ベイカーが、カメオ出演している。