対談

『日本の美徳』瀬戸内寂聴×ドナルド・キーン

瀬戸内寂聴とドナルド・キーン、96歳同士の対談集。痛快だ。
寂聴が『源氏物語』の現代語訳を出したのが20年前。言葉というのは20年くらいの周期で変わるというのが、寂聴の説。つまり、『源氏物語』の現代語訳はそのくらいの周期で、新訳が出版されている。与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子、瀬戸内寂聴ときて、昨年、角田光代が河出書房新社から出した。

日本の美徳 (中公新書ラクレ)
日本の美徳
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18歳のときにニューヨークの古本屋で、アーサー・ウエーリ訳の『源氏物語』上下2巻を49セントで購入したのが、キーンの『源氏』との出会い。北アフリカのポルトガル領のマデラという島の本屋で、『源氏物語』を見つけたことがあるという。

光源氏は女性を追いかけ回すだけでなくアフターケアもちゃんとしていて、女性を尊重する点で、西洋のドンファンとは違うと強調する。
『源氏物語』はいわば不倫の書。不倫を否定すると、日本の古典はもちろん世界文学の名作がほとんど消えてしまう。不倫を糾弾しすぎる最近のマスコミや世論に対し苦言を呈する。

川端康成が『源氏物語』の翻訳をやろうとしていると聞いた円地文子が、寂聴に「あんな、ノーベル賞をとって甘やかされている人に『源氏』の訳なんかできません。『源氏』は命がけにならないとできない。もし川端さんが『源氏』の訳を完成させたら、私は素っ裸になって銀座の街を逆立ちして歩きます」と言った。との時円地は70歳近かったという。

キーンは、谷崎潤一郎や三島由紀夫や川端康成についてノーベル賞委員会から意見を求められた。デンマークの委員が、それまで2回候補に挙がって いた三島由紀夫を左翼だと主張したという。川端康成にノーベル賞を獲らしてやったとのは自分だとうそぶいたとか。

三島由紀夫の天才ぶりを披露しあう。
「ノーベル文学賞がまず三島由紀夫を殺し、そのあと川端康成を殺した」という大岡昇平の言葉をキーンが紹介している。三島由紀夫が受賞していたら自殺はしなかっただろうし、川端康成ももう少し長生きしたのではないか。川端康成はノーベル賞を受賞したから、すごい作品を書こうとしたが書けなかった。

東北大震災の後、日本への帰化を発表したキーンに、寂聴が日本人の美徳について訊く。
『魏志倭人伝』にも書いてあるように、清潔で礼儀正しいことだという。日本人の特性を語るのに『魏志倭人伝』を持ち出すのだから恐れ入る。
もうひとつは、何が起きても立ち上がって前に進むたくましさ。戦後の復興、原爆を落とされた広島の復興、東北大震災からの復興を例に挙げている。京都が焼け野原と化した応仁の乱から、その後の日本の文化の根幹をなす東山文化を築いたところがすごいと、キーンはいう。

長生きの秘訣は、自分の好きなことを続けること、肉を食べてアルコールを嗜むこと。→人気ブログランキング

『語りあかそう』ナンシー関

対談集『無差別級』『超弩級』『超高校級』(いずれも河出書房から出版されたペーパーブック)に収録されたものから、9つの対談がピックアップされている。
どのような形であれ、ナンシー関連本がときどき出版されるのは、ファンとしては、彼女の爽やかな天才的毒舌にあらためて触れることができて 嬉しい。

9編のなかでも、with 林真理子『吉川十和子の婚約騒動では膝抜けるほど打っちゃった』は、両者がっぷり四つの丁々発止ぶりが抜群に面白い。

語りあかそう (河出文庫)
語りあかそう
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ナンシー関
河出書房文庫
2014年5月 ⭐5つ

消しゴム版画、キレのある文章、ナンシー関という人をなめたペンネーム、ナンシーに関する三つの秘密について、次のように書かれている。

棟方志功の出身地というお国柄(?)もあって、ナンシーが通う高校の授業には、版画が取り入れられていた。そんな風土だから、クラスで消しゴムスタンプが流行ったことがあって、ナンシーは断然うまかったという。

ナンシーの書く文章は、本人の分析によれば、テープに録音してなども聞き直した、オールナイトニッポンのビートたけしのしゃべりが、影響しているという。

ナンシー関というペンネームは、本名の関直美から、いとうせいこうがつけたもの。消しゴム版画家って変なのに、ナンシーという名前で、もっと変にしたいと思ったからつけたとのこと。

このあたりのことは、『評伝 ナンシー関』(横田増生著  朝日新聞出版 2012年)に、詳しく書かれている。→人気ブログランキング

ナンシー関の耳大全 77/武田砂鉄編/朝日文庫/2018年
語りあかそう/ナンシー関/河出書房文庫/2014年

『六つの星星 川上未映子対話集』川上未映子

対談は聞き手が相手の話を引き出すというパターン、つまり「インタビュー型」と、対談者がおよそ同等の立場で話すことによって話が広がったり横にそれたり、あるいは予期せぬ展開になったりする「化学反応型」があると思う。
本書は対談ではなく対話集だから、はじめから化学反応を狙っている。

六つの星星 川上未映子対話集 (文春文庫)
川上未映子(Kawakami Mieko
文春文庫
2012年9月 ★★★★

斉藤環(精神科医)とは、斎藤が自説を展開し川上を精神分析の俎上にのせようとするものだから、それはちょっと困ると川上が躊躇する。話がかみ合っていない印象がある。

福岡伸一(分子生物学者)とは、先生と生徒の関係。福岡には散文的な抱擁力あるから質問に臨機応変に応じている。生命も言葉も破壊を必要とする。新しい生命を生み出すために古いものは死滅するし、新しい文体を生むには、文章をまずバラバラにしてみるというあたりで話が一致する。

松浦理英子(作家)とは、松浦の現代語訳『たけくらべ』の話題からジェンダーの問題になり、話は化学変化を起こす。

穂村弘(歌人)とは、種村の「ワンダーとシンパシー」という尺度で話が進む。「川上さんはわりといつも同じようにしゃべるでしょう。相手が詩人でも、たぶんホステス時代のお客でも」という、川上のフラットで壁を作らない話し方を指摘する。

多和田葉子(作家)とは、ことばについて語り合う。ことばや漢字の持つ不思議なイメージをそれぞれが披露。他人の書いた文章は読みにくいのは当たり前、「読みにくかったとか読みやすかったと評するのは的が外れている」というのは納得できる。

永井均(哲学者)とは、前半では永井の哲学と倫理学についての話が進み、後半は川上の小説『ヘブン』について分析する。川上の意図するところと相手の理解が異なる点を掘り下げているところが面白い。→ブログランキングへ
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【川上未映子の作品】
〈小説〉
『愛の夢とか』(2013年 講談社)
『すべて真夜中の恋人たち』(2011年 講談社)
『ヘヴン』(2009年 講談社)→講談社文庫 
乳と卵』(2008年 文藝春秋)→文春文庫
わたくし率 イン 歯ー、または世界』(2007年 講談社)→講談社文庫
〈随筆・対談集〉
『安心毛布』(2013年 中央公論新社)
『人生が用意するもの』(2012年 新潮社)
『魔法飛行』(2012年 中央公論新社)
『ぜんぶの後に残るもの』(2011年 新潮社)
『発光地帯』(2011年 中央公論新社)→中公文庫
『夏の入り口、模様の出口』(2010年 新潮社)→『オモロマンティック、ボム!』と改題(新潮社文庫)
六つの星星 対話集』(2010年 文藝春秋)→文春文庫
『世界クッキー』(2009年 文藝春秋)→文春文庫 
『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(2006年 ヒヨコ舎)→講談社文庫 
〈詩集〉
『水瓶』(2012年 青土社)
『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』 (2008年 青土社)

【斉藤環】
関係する女 所有する男』(2009年 講談社現代新書)
母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか』(2008年 NHK出版)

【福岡伸一】
深読みフェルメール』朽木ゆり子×福岡伸一(2012年 朝日新書)
フェルメール 光の王国 (翼の王国books)』(2011年 木楽舎)
できそこないの男たち』(2008年 光文社新書)
生物と無生物のあいだ』(2007年 講談社現代新書)

【永井均】
なぜ人を殺してはいけないのか?』永井均×小泉義之(2010年1月 河出文庫)