ノンフィクション

『ニュースの真相』

2004年秋、米テレビ3大ネットワークのひとつCBSの『60ミニッツⅡ』の名物アンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が降板するに至った。当時、ブッシュ大統領は再選を目指し、民主党の候補ジョン・ケリーと競っていた。
番組のプロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、同じ年にイラクの刑務所での捕虜虐待を報じ、賞を獲得した辣腕ジャーナリストである。ダン・ラザーとは父娘のような信頼関係で結ばれている。
原作はメアリー・メイプスの手記である。

ラザーやメアリーが若いスタッフに投げかける「どんなに批判されても、メディアが質問をしなくなったらこの国は終わりだ」という言葉は何回も語られる。

ニュースの真相(字幕版)
ニュースの真相
posted with amazlet at 17.05.01
監督:ジェームス・ヴァンダービルト
原作者:メアリー・メイプス
音楽:ブライアン・タイラー
製作国:アメリカ  2015年  125分

事の発端は、ブッシュが若い頃、父ブッシュの力でベトナム戦争行きを免れたのではないかという疑惑である。ブッシュの軍歴詐称はほかのメディアも追いかけていた。メアリーのもとに、ブッシュの軍役逃れを示す1枚の書類が舞い込んだ。メアリーは書類の真偽を確かめるべく奔走するが、功を焦ったのか最後の詰めが甘いまま、ブッシュの軍歴詐称疑惑を放送してしまった。
放送後、大反響を巻き起こすが、ブロガーから「書類は偽造」と指摘され、批判が高まっていく。メアリーたちは再調査に奔走するが、書類の信憑性に疑問が残った。

170501

社の上層部は報道機関としての信用を失墜させたことで、メアリーたちを厳しく追及した。
内部調査委員会で、何人もの弁護士を前にして取材メンバーは調査を受ける。
「コピーの信憑性は?」「証言者の裏をどの程度取ったのか?」「筆跡の鑑定を行ったのか?」「なぜ、書類を真正と断じたのか?」
少しでも返答に詰まると、質問が矢のように浴びせられる。内部調査とはいえ、厳しい糾弾の場だった。

調査が終了し、弁護士たちが席を立とうとした時、メアリーは「書類の真偽」や「証言の信用性」の枝葉末節なことばかりが追求されたが、明らかにしなければならないブッシュの軍歴詐称疑惑には、少しも触れていない。何も解決されていないと調査団に噛み付く。
メアリーたちの行動は、故意に行われたものではないと判断されたが、処分は非情なだった。
メアリーたちは、圧力に屈することなくジャーナリストの矜持を貫いたが、勇み足が命取りになった。→人気ブログランキング

『フェルメールになれなかった男』フランク・ウイン

本書は美術史上における最悪の贋作事件を引き起こしたハン・ファン・メーヘレンの半生を描いたノンフィクション小説である。美術界は贋作との戦いであり、その根絶は絶望的であることを知らしめている。

第2次世界大戦が終焉した1945年7月、オランダのファン・メーヘレンは、敵国ドイツのヘルマン・ゲーリングに絵画を売った容疑で国家反逆罪を問われ逮捕された。フェルメール作とされる「姦通の女」の売買証明書が提出できなかったからだ。この絵はさる貴族の婦人からファン・メーヘレンが極秘裡に売却を頼まれたものということになっていたが、実はファン・メーヘレンが描いた贋作であった。

フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件 (ちくま文庫)
フランク ウイン
小林賴子/池田みゆき 訳 
ちくま文庫 
2014年3月

ファン・メーヘレンは、キュビズムやシュールレアリズムなどの美術史の流れに逆らうようにヴァン・ダイク風の肖像画を描いていた。写実を追求する彼の絵は古典主義の寄せ集めと批判された。生まれた時代が悪かったのだろうか。

フェルメールの作品にはまだ発見されていない宗教画が何点かあるはずだというフェルメール作品待望論に、ファン・メーヘレンは目をつけたのである。
美術評論家や鑑定家を欺くためには、フェルメールらしい題材でなければならない。さらにキャンバス、絵の具は17世紀の物でなければならないし、作品が描かれてから300年が経過している経年的変化、つまりヒビ割れがなければならない。ファン・メーヘレンは、古い絵画の修復の仕事に携わっていたことがあった。また絵の具を原料から作り出す技術を、高校の美術クラブで身につけていた。さらに、彼は実験を重ねた結果、それらしいヒビ割れを作る老化技術を編み出したのである。
(左:姦通の女  右:エマオの食事)

140410

こうして怠りなく下準備をした後にファン・メーヘレンが描いた「エマオの食事」は、当時の高名な美術評論家が真作と褒め称えたのだった。その見立てに従った研究者たち、センセーショナルに煽り立てたジャーナリズム、そして美術コレクターや愛好家たちによって、「エマオの食事」はオランダの国宝級の作品に祭り上げられてしまった。
法廷で、ファン・メーヘレンは「エマオの食事」はじめとするいくつかのフェルメール作とされていた作品を、自分が描いた贋作であると証言した。しかしオランダ美術界はその自白を受け入れることができず、ついには、ファン・メーヘレン自身が法廷で贋作を描いてみせたのだった。

本書の序説では、本題とは別の、これも世紀の贋作事件と呼ぶにふさわしいヒェート・ヤン・ヤンセンの事件に触れている。
1994年、ヤン・ヤンセンはシャガールの贋作の来歴書にスペルミスをしてしまい、それが原因でフランス警察に逮捕された。
ところが絵画の所有者が名乗り出ず、裁判を開くまで6年もかかっている。贋作者が逮捕されても、贋作を所有している人物からの協力が得られないことが多い。その理由は所有者は本物と思っているか思おうとしているからである。贋作だとすればメンツが潰れる。あるいは贋作だとしてもその作品が気に入っている、という理由で名乗り出ないのである。
ヤン・ヤンセンは、ピカソやマチス、デュフィ、ミロ、ジャン・コクトー、カーレル・アベルなどの画家の作品を偽造したことを認めている。この事件で押収された作品は1600点であったが、それは彼が20年間に製作した贋作のわずか5%にすぎなかった。「ピカソの作品総目録を開くと必ずそこに私の絵が載っている」とうそぶいたという。

著者が紹介する、バルビゾン派の画家テオドール・ルソーの次の言葉は贋作についての象徴的な言葉である。「われわれはみな、見抜かれてしまう出来の悪い贋作についてしか語れないということを知っておくべきだろう。出来のよい贋作はいまなお壁にかかっているのだから」。→ブログランキングへ

【2014.04.09】『フェルメールになれなかった男20世紀最大の贋作事件』フランク・ウイン
【2012.11.04】『真珠の耳飾りの少女』(映画)
【2012.11.02】『深読みフェルメール』朽木ゆり子×福岡伸一
【2011.12.21】『フェルメール 静けさの謎を解く』藤田令伊
【2011.11.09】 フェルメールからのラブレター展@宮城県美術館
【2011.10.28】『フェルメール 光の王国』福岡伸一