社会学

SDGsー危機の時代の羅針盤 南 博・稲葉雅紀

SDGs (持続可能な開発目標)は、2015年9月、国連で193カ国の首脳の合意のもと採択された「2030アジェンダ」の主要部分を占める。「危機の時代の羅針盤」としてのSDGsにじっくり目を通してみようというのが本書の主旨である。著者は日本の主席交渉官としてSDGs交渉を担当した南博と、市民社会からSDGsに関わってきた稲葉雅紀。
Fae85e24c0b0460088e055b17f435c29SDGsー危機の時代の羅針盤
南 博・稲葉雅紀
岩波新書
2020年 220頁

SDGsとは、〈①世界から貧困をなくすことと「持続可能な社会・経済・環境」へと変革することの二本の柱とする目標。②2030年を期限として、17のゴール169のターゲット、232の指標により世界の社会・経済・環境のあらゆる課題を取りまとめる、相互に不可分の目標。③条約のように、国連加盟国を法的に縛る者ではないが、先進国、新興国、途上国がともに取り組むものであり、実現にあたっては、「誰一人取り残さない」ことがうたわれている目標。〉である。

SDGsは持続可能なという概念と、MDG s(ミレニアム開発目標)への批判を土台にして作られた。まず、MDGsは途上国の開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置付けであったのに対し、SDGsは、開発だけでなく経済・社会・環境の3側面すべてに対応し、先進国にも共通の課題として設定している。それに伴い目標の数も8から17に増えてより包括的となった。
さらに、SDGsでは、課題を解決するために、企業の創造性とイノベーションに期待を寄せており、企業の役割が重視されている。
「持続可能な開発」とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすような開発」と定義されている。

SDGsは気候変動や経済格差の拡大等の慢性的な危機に直面した国際社会が、3年をかけて策定した危機時代の羅針盤である。外交官をはじめ、国際機関、民間企業、民間財団、市民社会、そして当事者たちが、対立や分断を乗り越えて、力を合わせて合意に達することができた。
SDGsには法的な拘束力がない、それゆえにゴールとターゲットのうち、自国に都合の悪いものは無視して、いいとこ取りができる。それにしても、すべての国連加盟国が合意に達したことは、多国間外交史上稀有なことだという。

SDGsの内容を列記すると、飢餓や貧困をなくして、すべての人に健康と福祉を、質の高い教育を受けて、ジェンダーを平等にする。安全な水とトイレを世界中に普及させ、クリーンなエネルギーを行き渡らせる。あらゆる人に働きがいのある仕事を。産業と技術革新の基盤を作り、人や国の不平等をなくす。住み続けられる街づくりを、持続可能な消費と生産パターンを確保する。気候変動対策、海の豊かさを守る。陸の豊かさを守る、平和で包摂的な社会を推進し、パートナシップで目標を達成しよう。

2019年に、SDGsの進捗状況を評価する「SDGサミット」が開かれた。国内、国家間で、富や収入を得る不平等が拡大しており、飢餓人口が増え、貧困をなくすことはおぼつかない。ジェンダー平等実現はままならない。そして国連がSDGs達成に黄信号を投げかけ、今後の10年で取り返すとなりふり構わず、2030年までの「行動の10年」を提起した。

現在、人類は地球の資源再生能力の1.69倍を使っているという。資源再生能力とは化石燃料や金属あるいは森林などのことである。持続可能な開発を続けるためには、資源の消費を1以下にしなければならない。満身創痍の地球をなんとか回復基調にもっていき、その状態を次の世代さらにその次の世代へと引き継ぐことが、SDGsのキーワード 「持続可能な」の意味するところである。
2020年から新型コロナウイルスが世界を席巻した。COVIV-19が落ち着いたあと、経済損失を急速に挽回しようと非常手段として再び安易に化石燃料に依存することにつながりかねない懸念がある。→人気ブログランキング
にほんブログ村

ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳・江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

人新世の「資本論」

人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいとして、オランダのノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、産業革命以降を「人新世」(Anthropocene アントロポセン)と名付けた。人新世は人類が地球を破壊し尽くす時代だという。著者は、人新世の危機を乗りきる手段を『資本論』をテキストにして考察する。資本主義を止め脱成長コミュニズムに移行しなければ、気候変動は止められないという。世界の注目を集めたトマ・ピケティの論理を超える処方箋を提案した。
Image_20210201102501人新世の「資本論」
斎藤幸平
集英社新書
2020年

スウェーデンの当時15歳のグレタ・トゥーンベリは、2018年にポーランドで開かれた第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)に集まった190か国の大人たちを前にして、蛇蝎のごとく訴えた。「あなたたちが科学に耳を傾けないのは、これまでの暮らし方を続ける解決策しか興味がないからです。そんな答えはもうありません。あなたたち大人がまだ間に合うときに行動しなかったからです」と核心をついた。あなたたちとは、ドイツの社会学者ウルリッヒ・プラトンとマルクス・ヴィッセンが「帝国的生活様式」と呼んだライフ・スタイルを送る先進国に住む私たちのことだ。グレタはZ世代の象徴的な人物の一人である。1990年後半から2000年に生まれたZ世代はデジタル・ネイティブであり、最新のテクノロジーを自在に操りながら世界中の仲間と繋がっている。この世代は新自由主義が規制緩和や民営化を推し進めてきた結果、格差や環境破壊が深刻化していく様を体験しながら育った。このまま資本主義を続けていってもなんら明るい展望はないと実感している。今まで人類が使用した化石燃料の約半分が、冷戦が終わった1989年以降のものだ。ベルリンの壁が崩壊し、さらにソ連が崩壊したことによって、アメリカ型の新自由主義が旧共産圏の廉価な労働力や市場に目を向けたのだ。

気候変動はどの程度の危機的状況なのか。2020年6月にシベリアで気温が36℃に達した。永久凍土が融解すれば多量のメタンガスが放出され、気候変動は加速される。北極圏の永久凍土から大量の水銀が流出したり、炭疽菌のような細菌やウイルスが解き放たれるリスクもある。科学者たちは、2100年までの気候上昇を産業革命前の1.5℃未満に抑え込むことを求めている。すでに1℃上昇しているから、すぐに行動しなくてはならない。具体的には2030年までに二酸化炭素排出量をほぼ半減させ、2050年までに0にしなければならない。もし現在のまま排出し続ければ2030年までに気温の上昇は1.5℃を超え、2100年には4℃上昇すると予測されている。このままであれば、地球は人類が生きられない環境になってしまうという。
昨年11月、菅首相が所信表面演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」にすると表明したのは、COPの試算に基づくものだ

資本主義は人間だけでなく、自然環境からも掠奪するシステムである。そして限度を知らない。資本主義は負荷を外部に転嫁することで経済成長を続けていく。そうした「外部化」がうまくいっていたあいだは、先進国に住む私たちは環境危機に苦しむこともなく豊かな生活を送ることができた。矛盾をどこか遠いところに転嫁し、問題解決の先送りを繰り返してきたのだ。「グローバル・サウス」とは、グローバル化によって被害を受ける領域ならびにその住民を指す。

国連は、国際目標として17のグローバル目標と169のターゲットからなる「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」を掲げている。後戻りできなくなるまでの時間なかで、大胆な政策が先進国で議論されるようになった。「グリーン・ニューデール政策」は再生可能エネルギーや電気自動車を普及させ、大型財政出動や公共投資を行う。そうして安定した雇用を作り出し、景気を刺激することを目指す。果たしてこんなうまい話があるのだろうか。著者は実例を挙げてグリーン・ニューデール政策は、二酸化炭素排出量を下げることができないとする。電気自動車によって削減される世界の二酸化炭素量はわずか1%である。バッテリーの大型化による製造過程で二酸化炭素を多く発生するからだ。グリーン技術はその生産過程までみると決してグリーンではない。「脱成長」の選択肢を取らない限り、解決はありえないという。資本主義の歴史を振り返れば、国家や大企業が十分な規模の気候変動対策を打ち出す見込みは薄い。SDGsもグリーン・ニューデール政策も、気候を人工的に操作するジオエンジニアリングも、気候変動を止めることができない。SDGsは、気候変動に対して何かいいことをしていると免罪符を与える現代のアヘンであると断言する。脱成長を選択せざるをえないときに、資本主義の仕組みはいくら修正しても立ち行かないのだ。

著者はトマ・ピケティの考えとの違いを明確に示している。ピケティは行きすぎた経済格差の解決策として累進性の高い課税を提唱した。その後、労働者たちが生産を自主管理・協同管理する参加型社会主義を訴えている。しかし脱成長を受け入れていないことと、租税という国家権力に依存するところが問題であると指摘している。著者は解決策をカール・マルクスの『資本論』に求めている。マルクスは晩年、地質学、植物学、鉱物学などの自然科学を研究して膨大な研究ノートを残している。過剰な森林伐採、化石燃料の乱費、種の絶滅などのエコロジカルなテーマを、資本主義の矛盾として扱うようになっていった。最終的には100巻に及ぶメガ(MEGA)と呼ばれる新しい『マルクス・エンゲルス全集』( Marx-Engels-Gesamtausgabe)の刊行が進んでいる。そこにはマルクスの研究ノート、図書館での書き抜き、アイデアや葛藤も含まれている。『MEGA』を丹念に読み解くことが、現代の気候危機に立ち向かう武器になるという。

『資本論』を、脱成長コミュニズムという立場から読み直すことが必要であるという。コミュニズムの「コモン」とは社会的に人々に共有され管理されるべき富のことである。コモンは、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財産として自分たちで民主的に管理することを目指す。脱成長コミュニズムへの変換項目として、⑴使用価値経済への転換、⑵労働時間の短縮、⑶画一的な分業の廃止、⑷生産過程の民主化、⑸エッセンシャル・ワークの重視を挙げている。資本主義の虚の部分を削ぎ落とさなくてはならない。具体的な目安は1970年代の生活レベルである。
脱成長コミュニズムの5本の柱について説明する。⑴使用価値経済への転換:マルクスは「価値」と「使用価値」という商品の属性を区別した。資本主義は価値を求めるが、必ずしも使用価値(有用性)を求めるわけではない。希少性の増大が商品としての価値を増やす。希少性を人工的に生み出すのは、ブランド化や広告である。有用性を重視する使用価値経済への転換しなければならない。
⑵労働時間の短縮:使用価値の経済に向けた転換のためには、労働時間の短縮が根本条件である。GDPには現れないQOLの上昇を目指す。
⑶画一的な分業の廃止:労働者や消費者を支配しやすい閉鎖的技術中心の経済、すなわち利益優先の経済から脱却して、使用価値の生産に重点をおいた経済に転換しなくてはならない。
⑷生産過程の民主化:知識や情報は社会全体のコモンであるべきなのだ。
⑸エッセンシャル・ワーキングの重視:現在高給を取っている職業として、マーケティングや広告、コンサルティングそして金融や保険業などがあるが、こうした職業は重要そうに見えるものの、社会の再生産にはほとんど役に立っていない。
エッセンシャル・ワーキングとは、主に医療・福祉、農業、小売・販売、通信、公共交通機関など、社会生活を支える仕事をいう。

2020年1月にバルセロナが発表した「気候非常事態宣言」は野心的であるという。2050年までの脱炭素化という目標をしっかりと掲げている。自治体職員の作文でも、シンクタンクが作成したものでもなく、この宣言は市民の力の結集である。行動計画には包括的かつ具体的な項目が240以上並ぶ。二酸化炭素排出量削減のために、都市公共空間の緑化、電力や食の地産地消、公共交通機関の拡充、自動車・飛行機・船舶の制限、エネルギー貧困の解消、ゴミの削減・リサイクルなどの全面的な改革プランを掲げている。

先送りするだけの国連のSDGsは批判されなくてはならい。トップ・ダウンではなく、バルセロナのようにボトム・アップでなければだめだ。そして著者は読者に行動を起こすようにと呼びかける。3.5%の人々が動けば何かがが起こるという。→人気ブログランキング

平成・令和 食ブーム総ざらい

本書は、平成元年(1989年)から令和2年(2020年)に至るおよそ30年間の日本の食文化のトレンドを探るものである。網羅的に語られていて、そうだった、そうだと納得させてくれる書きっぷりだ。まさに、平成・令和 食ブーム総ざらいである。
大まかな流れとしては、主に雑誌が発信していた食の情報を、ネットの普及により情報量が圧倒的に増え、グルメが定着した。平成はグルメという言葉が指す範囲が広がった時代だった。また、ブログやインスタグラムの普及により個人が発信する食に関する情報が、飛躍的に増えた。食のトレンドが次々にめまぐるしく変わっていくようになった。スイーツやパンやドリンクに光が当たった。
そして家庭料理をマスコミに登場した料理研究家を論じる。
本書はクックパッドニュースで2018年9月から始まった「平成食ブーム総ざらい!」「あの食トレンドを深掘り!」の連載がベースになっている。
Image_20210123111901 平成・令和 食ブーム総ざらい
阿古真里(Aco Mari
インターナショナル新書
2020年

第1章 情報化が進んだ30年
首都圏情報雑誌『Hanako』(1988年創刊)やグルメ情報誌『danchu』(1990年創刊)が、食トレンドを取り上げてきた。『Hanako』はティラミスを流行らせ、「デパ地下」という言葉を最初に使った。
1983年、『ビッグコミック・スピリッツ』で、グルメうんちく漫画『美味しんぼ』の連載が始まった。
1993年、『料理の鉄人』(フジテレビ系)が始った。そのあと『愛のエプロン』、『どっちの料理ショー』、SMAP×SMAPの『BISTROSMAP』と、料理バライティー番組が受け入れられた。アメリカで類似番組が作られた。
2007年には『ミシュラン東京』が発刊されている。
1998年、佐野陽光が立ち上げた『クックパッド』はレシピ・サービスの巨人に成長した。2020年3月の時点で、月間アクセス数5800万という途方もない数字になっている。

『孤独のグルメ』は、『月刊PANJA』誌上で1994年から1996年にかけて連載された。その後、『SPA!』の2008年1月15日号に読み切りとして復活し、以後『SPA!』上で2015年まで新作が掲載された。 その後映像化され、テレビ東京で放映されている。フリーの輸入雑貨商の井之頭五郎(松重豊)が全国各地に赴いて商談をしたのち、町にひっそりある庶民的な店で一人で料理を満喫するというのがパターン。
2008年、放送が開始されたテレビ東京の『男子ごはん』では、ケンタロウ、栗原心平と、二世の男性料理研究家が総菜を教えた。

2010年代、スマートフォンが普及して、フェイスブックやインスタグラムを始める人が増えた。
飲食店で出てきた料理の写真を撮ることが当たり前になってきた。もともと日本料理はヴィジュアル重視なところがある。ブログにキャラ弁が投稿され話題を呼んだ。
「インスタ映え」は2017年の新語流行語大賞の年間大賞に選ばれた。

第2章 グルメが定着していく時代
1988年6月23日号で『HANAKO』は「デパ地下」という言葉を初めて使った。
1990年代後半、生春巻きを中心にベトナム料理が流行った。
韓国ブームは3回あったが食のブームは2回であった。
2002年の日韓サッカーワールドカップ、2003年『冬のソナタ』、2004年『宮廷女官チャングムの誓い』のヒット。
今回のブームは2018年ごろから。若者受けする、チーズタッカルビ、チーズドック、韓国式かき氷など。

ふたつのチキンライス。昭和のチキンライスはケチャップ味。平成は海南チキンライス、ジャスミンライスに茹で鶏のスライスをのせたもの。シンガポール、マレーシアなどの東南アジアの料理として2010年代半ばから流行っている。
スパイシーカレーは、2010年代半ばごろから流行った。

ゴーヤが注目されたのは、2001年NHKの朝ドラ『ちゅらさん』 の大ヒットによる。
2000年代初めに、空港で売られている「空弁」が流行り始める。それは国内線で機内食を出さなくなったからである。2000年には新幹線の食堂車も廃止されている。高速道路の弁当も「早弁」と呼ばれ人気がある。
赤身肉に注目されるようになり、2013年から熟成肉ブームが始まった。
平成はグルメという言葉が指す範囲が広がった時代だった。
2006年に始まった『B-1グランプリ』(全国のご当地グルメで町おこしを目指す企画)が脚光を浴びたのは2010年頃からだ。
2007年から始まった『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ系)が始まり、さまざまなご当地グルメが紹介されるようになった。
唐揚げ専門店が増えた。ニチレイフーズと日本唐揚げ協会の調べでは、2011年から2018年の間に、唐揚げ店の店舗数が3.4倍になっている。
どこの都市にも大戸屋が進出した。

第3章 スイーツ・パン・ドリンク
1988年、イタリア料理のブームが来て「イタ飯」という言葉が生まれ、デザートのティラミスが注目された。
マカロンがブームになったのは2000代半ばだった。
2005年、ピエール・エルメ・パリの旗艦店が青山にできて話題になった。もう一つマカロンブームに貢献したブランドが、ダロワイヨ。
ティラミスで始まったスイーツのの多彩さを楽しむグルメ化は、マカロンで一つのピークに達した。外国のお菓子を受け入れるようになった。タピオカ、ナタデココ、パンナコッタ、ベルギー・ワッフル、カヌレなど。カラフルな色合いがSNSの発達と重なりブームに拍車をかけた。
チョコミント・ブームが始まったのは2016年頃から。2017年8月にバラエティ番組『マツコの知らない世界』で取り上げられて人気が加速し、その年の夏猛暑も手伝って大ブームとなった。2016年ごろから流行り出した、ビーン・トゥ・バー(Bean to Bar)「カカオ豆から板チョコまで」は、ショコラティエが原材料のカカオ豆の仕入れから関わり、焙煎、成形まで一貫生産することを示す言葉。
2007年頃から、バームクーヘンがデパ地下で人気になった。
2010年ごろから、台湾発、韓国発の頭がキーンと痛くならないかき氷が日本に上陸する。
高級パンは2013年、銀座にセントル・ザ・ベーカリーという食パン専門店ができ、行列になったことから始まる。セブン・イレブンの金の食パンも乃が美も同じ頃。1ジャンルとして定着するのか廃れるのか見守るという。
アメリカのシアトルで生まれたコーヒーチェーン店のスターバックスが日本に上陸したのは1996年。その後日本中に出店網を広げ1581店に及ぶ。映画『ユー・ガット・メール』(1998年)や『プラダを着た悪魔』(2006年)で、スタバからテイクアウトする映像が流され、人気を博していった。
1994年、地ビールの生産が解禁された。2010年代に入ると地ビールはクラフトビールと名を変えて、アメリカからブームが押し寄せた。
緑茶ドリンクの成立。
2019年、タピオカ・フィーバー、ウーロン茶や緑茶にミルクや砂糖を入れてタピオカを加える。

第4章 時代を映す食文化
平成米騒動は1993年。世界的な異常気象で日本は冷夏に見舞われ、コメが200万トン足りなくなる。タイやアメリカから米をを輸入するが、タイ米は独特の匂いが敬遠され不評であった。
2013年『英国一家、日本を食べる』(マイケル・ブース)がベストセラーになる。そこで紹介される日本食文化の独自性を、江戸時代の鎖国により培われたと著者は解説している。
同年『フード左翼とフード右翼』(速水健朗)が発刊される。フード左翼とは食に安全性を求め、フード右翼とは食に値段の安さや量を求める。
遺伝子組み換え食品の商業栽培が1996年アメリカで始まった。遺伝子組み換え食品の問題点は、安全性に疑問があること、生態系に異変を及ぼす。さらに多国籍企業により種子が独占され食糧支配につながること。
スローフード協会は1986年イタリアで設立された
在来野菜とはその土地で代々受け継がれてきた野菜のことである。鹿児島県の桜島大根、京都府の聖護院大根、神奈川県の三浦大根。作り続ける理由はおいしいからだという。
アリス・ウォータースが始めたオーガニックムーブメント。
1/3ルール、賞味期限の1/3以内に小売店に納入し、消費者が購入後1/3賞味期限のを過ぎれば廃棄するというもの。食品ロスを減らすために見直しが迫られている。
コロナ禍とベイキング。コロナで家でパンやケーキやクッキー作りが流行って、小麦粉が高騰しているという。それで、洋菓子店のケーキの値が上がっている。

第5章 家庭料理の世界
1989年、『きょうの料理』で夏休み子ども料理教室が放映された。子ども料理に注目が集まった。買い物から調理まで一人でやる。Eテレで視聴率10%を獲得した。
ここで述べるのは料理技術の平均点が下がっているということだ。
1090年代、栗原はるみが一工夫あるオシャレな料理を教えることでカリスマ主婦と呼ばれ、スターダムにのし上がった。
団塊の世代の料理研究家として、栗原はるみのほかに、山本麗子、藤野真紀子、加藤千恵などが活躍した。
熱狂的栗原はるみのファンはハルラーと呼ばれた。栗原はるみが脚光を浴びたのは1992年に出した『ごちそうさまが、ききたくて。』がミリオンセラーを記録したことによる。家庭を支える主婦が、厳しくやりがいのあるものになりうると伝えた人でもあった。

料理の基礎がなっていない人々が多くなった。そこで、子どもが作る料理をとり上げ、母親からの教えられた料理に自分の工夫を加えた辰巳芳子に触れた。
フランスの食器メーカーから発売された、カラフルな色合いのル・クルーゼがブームになる。
ミールキットの市場が活性化したのは、2013年。売り出したのは有機野菜のインターネット通販のオイシックスである。時間があったら手料理をじっくり作りたいとの願望があるからである。→人気ブログランキング

炎の中の図書館 スーザン・オーリアン

ロサンゼルス中央図書館が火事で焼け落ちた。7時間以上燃え続け、110万冊の本が燃えるか損傷した。幸い死者は出なかった。
以前より、中央図書館は消防署から20箇所もの不備の指摘を受けていた。その日(1986年4月29日)も火事が起きる前に火災報知機が誤作動し消防署に連絡している。
Image_20200529120601
炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火

スーザン・オーリアン/羽田詩津子
早川書房
2019年 ✳︎10

火事が起こった日に、年配の女性は図書館内で金髪で口ひげを生やした青年が足早に歩いてきてぶつかり、青年は動揺しているように見えたが、彼女が起き上がるのに手を貸してくれた。それから大急ぎでドアに向かったと証言した。
その男ハリー・ピークは、火事の後口髭を剃り落とし、友人に放火をほのめかす話をした。ハリーはハリウッド・スターを夢見る虚言癖が著しい人物だった。ハリーは供述をころころ変え捜査を翻弄した。状況証拠からハリーが放火犯であることは間違いないとみられたが、ふたりの宗教家がハリーと一緒にいたと証言した。この宗教者たちの証言もハリーの証言に呼応するように変わったが、起訴はされなかった。

本書は単なる火事の記録ではない。
出火原因の調査の記録、アメリカにおける図書館の歴史、ロサンゼルス市と中央図書館の黎明期から現在に至る歴史、アメリカで公立図書館が果たしている役割、世界の焚書の歴史などが、鋭い分析と明快な文章で綴られている。
著者が直接インタビューした人もしなかった人も、そしてすでに亡くなった人も、多くの人々がいきいきと登場する。
図書館がどれだけ魅力的で希望が満ち溢れている場所かを余すことなく伝え、著者の図書館への愛が行間から滲み出ている好著である。

日本とは違い地域における図書館の役割は多い。
地域で問題が起こると、図書館が利用される。工場からメタンガスが流れたとき、自宅を追い出された住民の集まる場所となった。鉛汚染が起きたとき、住民の血液検査の場所となった。
移民国家アメリカでは図書館が、福祉や教育に大きく踏み込んでいる。外国人たちの会話クラスや識字クラスが運営されている。教えるのはボランティア。電話の請求書、学校からの通知、税金関係の申請書が理解できるように手を貸し、読み書きを知らない人には個人的な手紙を読んであげ、返事を書くのを手伝うこともあるという。市民権を得る方法を週に2時間指導している。
今は、ホームレスの溜まり場になっているという。

〈図書館では時間がせき止められている。ただ止まっているのではなくて、蓄えられている。図書館は物語と、それを探しに来る人々の貯蔵庫なのだ。そこでは永遠を垣間見られる。だから図書館では永遠に生きることができるのだ。〉という言葉が印象的だ。→人気ブログランキング

学校に入り込むニセ科学 左巻健男

教える内容が真実であるべき学校にニセ科学など入り込む余地があるのか?と思って本書を開いた。宗教団体が絡んでいて敵は巧妙である。代表的なものは「水からの伝言」と「EM菌」だという。
Photo_20200507082201学校に入り込むニセ科学

左巻健男(Samaki Takeo
平凡社新書
2019年

「水からの伝言」とは、一部の教職員グループにより学校に持ち込まれたニセ科学。
「ありがとう」と「ばかやろう」と書いた紙を、水の入った容器に貼って凍らせると、「ありがとう」と書いた紙が貼られた氷は綺麗な結晶になるが、「ばかやろう」の方の結晶は汚いという、なんともわかりやすいもの。冷却温度によって氷の結晶の形が異なるが、書かれた文字が氷の形に影響を及ぼしたと説明する。これは手品のテクニックだ。

コンポストという箱の中に野菜くずや残飯を入れておくと、「EM(Effective Microorganisms)菌」が分解して良質の肥料になるという。EM菌は、琉球大学教授の比嘉照夫が推奨するもの。もともと「世界救世教」という宗教団体が関係した微生物資材(農業用)である。世界救世教は、国内に100万人の信者をもち、手かざしの儀式、自然農法を推奨、芸術活動を行うことを特徴とする宗教団体。

EM菌で作った肥料によって土が改良され、作物がよく育つとされたが、調べてみると他の肥料に比べて効果が弱い結果も出た。
北朝鮮がEM菌を導入し、比嘉は北朝鮮をしばしば訪れて指導していた。比嘉は「北朝鮮は21世紀には食料輸出国になる」と宣言していたが、北朝鮮はEMの使用をやめてしまった。
かつて、EM菌をネットで調べたが、すっきりした回答が得られなかったことを思い出す。現在もコンポストとともにEM菌培養液が、アイリスオーヤマが販売している。さらに、地方自治体で推奨しているところもある。
EX菌は乳酸菌や酵母などの複合体らしいが、詳細は明らかにされていない。

TOSS(Teachers' Organization of Skill Sharing 教育技術法則化運動) は、教師が自分の教え方の力量をあげ、より良い教育をし、立派な子どもたちを育てることを目標にした団体ということになっている。TOSSは「水からの伝言」を抜きにして語れないという。また、EM菌も推奨している。このようなところから、授業のノウハウを得ている小中学校の教師がいるのである。なんだか背筋が寒くなる。

ニセ科学は、科学を装い、科学っぽい雰囲気を出しているが科学ではないものを指す。ニセ科学は科学への信頼を利用してだます。→人気ブログランキング

学校に入り込むニセ科学/左巻健男/平凡社新書/2019年
給食の歴史/藤原 辰史/岩波新書/2018年

パンティオロジー 秋山あい

著者はパンティのイラストを描いている。
そう自己紹介して、相手に手持ちのパンティから、セクシー、リラックス、お気に入りの3枚を選んでもらい、パンティにまつわる思いを語ってもらう。夫や交際相手のことも訊ねていて、文章からはパンティ提供者の私生活がかいま見える。

33名の対象者は、国籍も人種も、年齢もバラバラ。著者はフランスと日本を行き来しているので、いきおい日本人とフランス人が多いが、アメリカ、イタリア、ポーランド、イランなど多岐に渡る。

Image パンティオロジー

秋山あい
集英社インタナショナル
2019年 ✳︎10

 著者が描くパンティのイラストは写真と見紛うがごとくに写実的である。

真新しいものもあるが、大半は中古物件の佇まいが漂うものである。イラストには、パンティとそれを身につける人物から感じ取ったものを著者が咀嚼して具現化した小宇宙がある。パンティは生きていると言わざるを得ない。
著者が命名したパンティオロジーという造語は深遠な学問の響きがあり風格を感じさせる、ユーモアあふれる単語だ。
帯の「パンティは女心の充電器である」は的確なキャッチコピーであるが、匹敵するしっくりくるフレーズをひねり出したい。「パンティは女心のスイッチである」はいかがだろう→人気ブログランキング

世界の危険思想 丸山ゴンザレス

著者は、日本や海外の裏社会やスラムや治安が悪いとされる場所で取材をしてきた。そこで出会った悪い人たちの頭の中がどうなっているのか。危険な考え方の根幹の理解に近づくことが本書の目的であるという。強面の著者は、危険な地区でよく現地の人間に間違われるという。取材には好都合だったろう。
Photo_20201117084401世界の危険思想 悪いやつらの頭の中
丸山 ゴンザレス
光文社新書
2019年

ジャマイカで殺し屋に会う。恥をかかされた女を殺して欲しいという依頼が、クライアントから電話で入る。殺し屋はその日暮らしに困るような貧乏人だった。

次に、フィリピンの邦人殺害事件に触れる。
犯人像は、警察を味方にすることができる、わずがな報酬で殺人を請け負う、刑務所に入ることも厭わないような人物であるという。フィリピンでは、交通事故で重症を負わせて治療費を請求されるより、殺す方を選ぶという。

ケニアの窃盗団の話。窃盗団は一人を除いてすべて警察に射殺された。警察の言い分は、取り調べにはひとりいれば十分。殺してしまえば調書は取らなくて済む。残業するくらいなら殺してしまうという発想である。

著者のスラムの定義は、「貧しい人たちや、問題のある人たちが密集して住んでいるエリア」。スラムには普通の人々の暮らしがある。スラムでは富を再分配しなければ、周りから襲撃されることもある。スラム社会と裏社会を同一視する人が多いが、別である。
裏社会のルールは、縄張り、ボスへの忠誠、アンチ警察である。「その通りを越えたら殺されても文句を言えない」という縄張り意識がある。忠誠心を植え付けるには、通過儀礼として、殺人の手伝いやとどめを刺させたりする。

ドラッグの最大消費地はアメリカと中国。
MDMA(エクスタシー)やコカイン、LSDはパーティドラッグとしてノリやテンションをあげるために使われることが多い。これらは線引きのこちら側にあるドラッグ。
線引きの向こう側にあるドラッグは、ヘロインとメス(覚せい剤)でるという。
向こう側に行った人たちの頭の中はやられているので、聞いても無駄であるとする。

フィリピンのドゥテルテ大統領は、麻薬中毒者、売人を逮捕し、抵抗する者の射殺を許可した。国民は大統領を支持した。ところが、麻薬ビジネスに関係していない、警察にとって都合の悪い人間も射殺されるようになり、警察に殺されるくらいなら監獄の方がマシだと、監獄が人で溢れかえっているという。

ボリビアではコカの葉は嗜好品として合法である。精製すれば麻薬になって違法になる。ボリビアでは平均月収が3万円程度、運び屋は1回30万円、捕まれば8年の刑。
運び屋は運転免許があれば誰でもできる。ところがつかまりやすい。捕まっても簡単に替えがきく。

相手を甘いと思ってナメることが、人類の持つ感情の中で最も恐ろしい危険思想だというのが著者の考え。危険思想の持ち主は、際限なく自分の感情を押し付ける権利を持っていると錯覚してしまう。相手に対する敬意のなさが原因であるとする。人気ブログランキング

ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史 カート・アンダーセン

なぜ、アメリカはドナルド・トランプを大統領に選出するようなとんでもない国になってしまったのか。本書はそれを解き明かすアメリカの精神文化史である。
 
2016年の大統領選が始まったときに、著者は本書を書き出して2年が経っていて、トランプが共和党の予備選で先頭に立ったのには驚きかつぞっとしたが、満足感を覚えたという。それは著者の理論が正しかったことが政治の場で証明されたからだ。大統領になるとトランプは、自分にとって不都合な報道を、すべて「フェイク・ニュース」と呼ぶようになった。大統領就任式の観衆数がメディアの発表と大幅に違った際には、オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)という言葉を使った。このような政治を「ポスト真実」の政治と呼ぶ。ポストには「脱」という意味があり、客観的な事実よりも個人的信条や感情が重視される政治である。

Image_20201203160601ファンタジーランド(上): 
狂気と幻想のアメリカ500年史
カート アンダーセン /山田美明・山田文
Image_20201203160701ファンタジーランド(下): 
狂気と幻想のアメリカ500年史
東洋経済新報社
2019年

著者は、アメリカではトゥルーシネス(本当らしく聞こえる嘘)、つまり直感的に物事を真実だと信じることが1960年代に爆発的に広まったと見ている。エリートを嫌悪し、科学的事実を否定し、主観的に物事を判断する傾向である。やがて、この傾向は数世紀にわたって形成されてきたことに気づいたという。
 
ピルグリム・ファーザーズは、プロテスタントのうちの急進派であるピューリタンのそのまた過激な分離派ピューリタンである。著者は、アメリカは常軌を逸したカルト教団によって建設された国であると諧謔的な言い方をする。
 
アメリカは宗教国家である。アメリカ人の70%以上がキリスト教徒で、そのうち70%はプロテスタントである。アメリカ人のうち、天国の存在を信じる人は85%、地獄の存在を信じる人は75%いるという。天国や地獄を信じるということは、取りも直さず悪魔を信じることであり、その他の摩訶不思議な出来事も信じるということである。アメリカ人はどの先進国に暮らす人びとより、はるかに強く超自然現象や奇跡を信じている。

神と進化について、アメリカ人は大体、三つに区分できるという。進化論を信じている人が1/3、神が長い時間をかけ、おそらくは進化を利用して生物を創造したと考えている人が1/3弱、そして人間やそのほかの生物はこの世が始まって以来、現在の形で存在していると確信している人が1/3以上である。
 
アメリカは熱狂的なキリスト教信者と夢想家、あるいは詐欺師とそのカモによって、まるでファンタジーランドのようになってしまったという。アメリカの狂気と幻想は次のような人びとや現象によって作り上げられていったとする。それは、セイラムの魔女裁判(1692年)、モルモン教を創始した(1830年)ジョセフ・スミス、「バーナム効果」で有名な興行師のP・T・バーナム、超越主義を主張したヘンリー・デヴィット・ソロー、異言(学んだことのない異国の言葉を話すこと)、ハリウッド、サイエントロジー、陰謀論、ウォルト・デズニー、伝道師のビリー・グラハム、ロナルド・レーガン(選挙演説でハルマゲドンという言葉を繰り返し使い、政治日程を妻のナンシーが占星術で決めていた)、絶大な人気を誇るトーク番組の司会者オプラ・ウィンフリー、トランプなどである。さらに、ワクチン不要論やホメオパシー。礼賛、銃へのこだわりやドラッグ依存、カルト的プロテスタント教団の隆盛などがある。インターネットの登場は、はびこる狂気と幻想により一層の拍車をかけた。

アメリカ人が一時的に道を外しただけならいずれ正しい道に戻ってくるが、もはやこの傾向はアメリカ国民のDNAに深く刻み込まれているという。現在、トランプの支持率はおよそ40%、共和党内では9割に達する。矛盾が持つ力で最も恐ろしいのは、繰り返し矛盾に接すると、真実を重視する感覚が鈍ることだ。次もトランプだろうか?

ちなみに、トランプはドイツ系移民の子孫であり、著者の祖先はピルグリム・ファーザーズの次にアメリカにたどり着いた清教徒であるという。→人気ブログランキング

ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史/カート・アンダーセン/山田美明・山田文/東洋経済新報社/2019年
食の実験場アメリカーファーストフード帝国のゆくえ/鈴木透 /中公新書/2019年
ノマド― 漂流する高齢労働者たち/ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子/春秋社/2018年
アメリカ/橋爪大三郎×大澤真幸/河出新書/2018年
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち/J.D.ヴァンス/関根光宏・山田文/光文社/2017
ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く/金成隆一/岩波新書/2017年
沈みゆく大国アメリカ/堤未果/集英社新書/2014年
ルポ 貧困大国アメリカII/堤未果/岩波新書/2010年
沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択/サラ・パレツキー/山本やよい/早川書房/2010年
アメリカン・デモクラシーの逆説/渡辺靖/岩波新書/2010年
現代アメリカ宗教地図/藤原聖子/平凡社新書/2009年
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて/松尾理也/新潮社新書/2006年
小説のアメリカ 52講ーこんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山南/平凡社ライブラリー/2006年
古きよきアメリカン・スイーツ/岡部史/平凡社/2004年
インディアンの夢のあと―北米大陸に神話と遺跡を訪ねて/徳井いつこ/平凡社新書/2000年

ノマド ジェシカ・ブルーダー

アメリカでは、季節労働者として重労働に従事し、キャンピングカーで移動する「ノマド」と呼ばれる高齢者が増えている。ノマドとは遊牧民という意味だ。
著者はノマドの生活を体験する目的でキャンピングカーを購入し、ビーツ(砂糖大根)の収穫やアマゾンの倉庫で働き、3年間にわたるフィールド・スタディーを行って本書を書き上げた。著者が出会ったのは60歳代から70歳代の高齢者たちだ。
リタイアした高齢者やリーマンショックで被害を被った中産階級や、離婚や病気・ケガなどの危機を乗り越えられなかった人たちや、解雇されたり事業がうまくいかなかった人たちが、住宅ローンや家賃や公共料金の支払いができなくなり、車上生活に望みをかけたのだ。
Image_20201113120001ノマド― 漂流する高齢労働者たち
ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子
春秋社
2018年 ✳︎10

仕事を求めてキャンピングカーを走らせる季節労働者は、自らをワーキャンパー(Workamper)と呼ぶ。
ワーキャンパーを採用する企業や官公庁のなかで、最も過激な求人を行ってきたのはアマゾンのキャンパーフォースだ。秋からクリスマスかけての繁忙期に、各地の倉庫でワーキャンパーを雇う。アマゾンの仕事は、時給(11.5ドル、約1300円)が高い分かなりきつい。仕事の内容は商品の梱包と仕分けだが、広い倉庫の中を毎日ハーフマラソンの距離を歩き、3か月で10キロも痩せるという。関節痛や筋肉痛に苦しむ者にはジェネリックの鎮痛剤が無料で支給される。

クリスマスが終わると、ワーキャンパーたちは次の仕事場に移動する。仕事は、農場での果物やビーツの収穫、キャンプ地の清掃、球場でのハンバーガーやビール売りなど、いずれも長時間にわたる低賃金の肉体労働だ。

ワーキャンパーは季節的な人材確保を求める雇用側にとって、きわめて便利な即戦力である。必要とする場所に、必要とするタイミングで集まってくれる。住居と一緒にやってきて、つかの間駐車パークに企業町を作るが、その町は仕事が終わればなくなる。組合が結成されるほど長時間止まることはない。また福利厚生や社会保障を要求しない。
こうした地下経済を生み出しているのは、ウェブサイトに求人広告を載せているアマゾンをはじめとする何百という数の企業だ。
企業は「雇用機会上のハンディを持つ」労働者を雇うことで、賃金の25%〜40%の連邦税控除を受けることができるのだ。

ワーキャンパーたちは、まるでスタインベックの『怒りの葡萄』のオーキーと呼ばれるオクラホマ出身の主人公たちと同じだ。『怒りの葡萄』と異なるのは、オーキーたちが目標としたのは普通の家に住むことだが、ワーキャンパーはノマド生活をその場しのぎと考えていないことだ。終の住処はキャンピングカーなのだ。

高齢になれば新しい仕事を見つけることが困難になるが、キャンピングカーとスマホがあれば、簡単に仕事が見つかるとワーキャンパーは言う。
しかし、現実は様々な困難な問題が待ち受けている。例えば仕事をしていないときの駐車スペースの確保、特に住宅地では厳しい。さらに入浴の問題、水の確保など、あるいは車の老朽化や故障、自らのケガや病気など、悩みの種は尽きない。
ノマドは非白人がほとんどいない。ここにもアメリカの人種差別が顔を出す。→人気ブログランキング

ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ

前作『サピエンス全史』は、人類の過去を歴史学のみならず政治学、生物学、心理学、哲学などの横断的な幅広い知見に基づいて書かれ、世界的ベストセラーとなった。その続編ともいうべき本書は人類の未来を予測したもの。その手法は、前作同様、話題が多方面に展開され、まるでスケールの大きなエンターテイメント小説を読んでいるかのようだ。
飢饉と疫病と戦争は、もはや人類にとって対処が可能な課題になったという。人類に降りかかる災難の多くは政治の不手際がもたらしている。人類は困難を克服しつつあり、テクノロジーをよりどころに、次のステップに進もうとしているという。ちなみに、「ホモ」とは人間、「サピエンス」は賢い人、「デウス」は神の意味である。
Image_20201124091801ホモ・デウス 上:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
2018年
Image_20201124091901ホモ・デウス 下:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
柴田裕之 訳

まずは、アルゴリズムについて。
〈アルゴリズムとは、計算し、問題を解決し、決定に至るために利用できる、一連の秩序だったステップのことをいう。アルゴリズムは特定の計算ではなく、計算をするときに従う方法だ。〉
すべての事象は、人間も含めて、アルゴリズムで成り立っているという。つまりデジタル化できて計算式で表しうるということだろう。

人類は不死と至福と神性を手に入れようとするとしている。サピエンスのアップグレードは、次のように進んでいくとする。
〈じつは、無数の平凡な行動を通して、それはすでにたった今も起こりつつある。毎日、膨大な数の人が、スマートフォンに自分の人生をより前より少しだけ多く制御することを許したり、新しくてより有効な抗うつ薬を試したりしている。人間は健康と幸福と力を追求しながら、自らの機能をまず一つ、次にもう一つ、さらにもう一つという具合に徐々に変えていき、ついにはもう人間ではなくなってしまうだろう。 〉

魂などというものは突き詰めていけば存在しない。宗教は人間が都合で考え出したもので、聖典を書きそれを多種多用に解釈した。人間至上主義は、神や宗教は人間がこの世を作り出したものだから、神を冒涜するなどと気遣う必要はないと考えるという。不老不死の手段があれば、セレブたちはあらゆる犠牲わ払って、間違いなく手を出すだろうという。

ポストヒューマンとは、ごく一部のセレブ達だけの話であり、神のように振る舞う一握りの人間のことだ。これらの超人たちは、前代未聞の能力と空前の創造性を享受する。彼らはその能力と創造性のおかげで、世の中の最も重要な決定の多くを下し続けることができる。彼らは社会を支配するという。

残念ながら、庶民は超人たちに支配される劣等カーストとなる。AIたちが人間を押しのけてほとんどすべてのことをやってしまうから、劣等カーストに属する人たちには仕事がない。その余剰の人たちはどうやって生きてゆくのか。
ゲームでもやって時間を潰すことになるかもしれないというのだが、そうもいかないだろう。→人気ブログランキング

ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ  河出書房新社 2018年
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 2016年
『ポストヒューマンSF傑作選 スティーヴ・フィーバー』山岸真編  ハヤカワ文庫 2010年

2021年9月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ