やりなおし世界文学 津村記久子
有名筋の主に翻訳本の書評を書いたもの。著者はこんなことを書いたら叱られるんじゃないかという恐れがあったが、開き直って書いたという。津村ワールド全開といったところだ。
やりなおし世界文学 津村記久子 新潮社 2022年5月 336頁 |
出だしは、『華麗なるグレート・ギャツビー』。ギャツビーの心理ゲームのその様が語られ、俄然読みたくなる。
ヴァージニア・のウルフ『灯台へ』は、1行たりとも気が抜けないと言っている。そんな手強い文体なのか。『ダロウェー夫人』を読んだ限りでは、気が抜けない手強い文体だった。
たまたま、サマセット・モームの『英国諜報部員 アシュンデン』を読みかけたところだ
った。モームは諜報員だったから、個性が豊かな人物たちが次々と現れて、その中には敵の女性スパイもいる。丁々発止のやりとりと、意外な展開が面白い。
かつて、ミステリ好きがミステリを読み始めたのはレイ・ブラッドベリからだと言った。なんでまたレイ・ブラッドベリなんだと思ったが詳しく聞かなかった。ブラッドベリはSFの長老だと思っていたので、ジャンルの違いが意外で印象に残るエピソードだ。本のタイトルを聞かなかったので、ブラッドベリの初期ミステリを集めた『お菓子の髑髏』がそうかなと思った。読んだが、どうもしっくりこない。
『やりなおし世界文学』ではブラッドベリの『たんぽぽのお酒』を傑作だと誉めている。12歳ダグラスの夏の話である。しかし、読んで面白いのだが、その面白さを文章で伝えることができないと、著者は書いている。じゃあ読んでみるか、ということで著者の書評の目論見は達せられた。
著者は中学生のときに『脂肪の塊』を読んだという友人がいて、その言い方に険があるように感じられたという。そのことが頭から離れず、読むことを避けていたというエピソードを書いている。事情は異なるが、『脂肪の塊』は娼婦の話と小耳に挟んでいて、「読まねばならぬリスト」に何十年も挙がっていたものの、つい読みそびれてしまっていたというのが当方の事情だ。それで、『やりなおし世界文学』に後押しされ、読んでみることにした。
結論をいうと、「脂肪の塊」は悲劇、「テリエ館」は喜劇で、両編とも大傑作だ。
読書に関しては中学生から、やり直したいと思っている人は結構いるんじゃないだろうか。そこをうまくついている。この『やりなおし世界文学』は、読書指南書として格が高い。→人気ブログランキング
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→ダロウェイ夫人/ヴァージニア・ウルフ/丹治 愛 訳/集英社文庫/2007年
→脂肪の塊・テリエ館/モーパッサン/青柳瑞穂/新潮文庫/1951年