現代アート

『楽園のカンヴァス』原田マハ

キュレーターとしてのキャリアがあり、印象派に造詣が深い著者だからこそ書くことができた絵画ミステリの傑作である。

大原美術館(倉敷市)の監視員を務める早川織江は、母親と娘と暮らすシングルマザーである。織江に反抗する娘は西洋人とのハーフだ。
織江のもとに、東京で開かれる「アンリ・ルソー展」のキュレーターを引き受けてくれようにと依頼が舞い込む。美術展には、MoMAが所有する門外不出だったルソーの名画「夢」を貸し出すという。


楽園のカンヴァス(新潮文庫)

楽園のカンヴァス
posted with amazlet at 20.03.16
原田マハ
新潮文庫
2014年 ✳︎10

話は16年前のスイスの国際都市バーゼルに巻き戻される。
MoMAのアシスタント・キュレーターであるティムにもとに、大富豪コンラート・バトラーから、極秘での鑑定依頼が届いた。
ティムはアンリ・ルソーの研究家であるがまだ駆け出し。宛名をチーフ・キュレーターのトム・ブラウンと間違ったのではないかという後ろめたさを引きずりながら、極秘でバーゼルに向かう。
鑑定を依頼されたもう一人の人物は、パリ大学のオリエ・ハヤカワである。
ふたりに求められたのは、ルソーの「夢」とまったく同じ構図の「夢をみる」の真贋を鑑定するというもの。毎日、指定された謎の古書を1章ずつ読み、最後に真贋を決めて作品講評を書き、その優劣で勝者を決めるというのだ。しかも、勝者には「夢をみる」の取り扱い権利(ハンドリング・ライト)が譲渡されるという。つまり真作であろうと贋作であろうと、勝った方が「夢をみる」を手中にするということである。

古書にはルソーとピカソとの交友が記載されている。さらに、ルソーが恋をした人妻ヤドヴィガやその夫、アポリネールやマリー・ローランサン、そして1900年代初頭のパリに暮らした芸術家たちが顔を出す。ピカソやアポリネールが音頭をとって、そのほかの芸術家たちも集まって、ルソーとヤドヴィカを主賓とした「夜会」の様子が描かれている。

オリエと対決するティムは、オリエに対し思慕の念を抱いていることを自覚する。ティムとオリエの背後には、「夢をみる」を手に入れようとする黒幕たちの思惑が幾重にも交錯しているのだった。

16年前、パリ第4大学留学中の織江は、新進気鋭のルソーの研究者として世界的に注目を集める存在だった。
MoMAのチーフ・キュレーターとなったティム・ブラウンは、ルソーの門外不出の大作「夢」を日本に貸し出すにあたり、その交渉相手を織江に指名したのだ。→人気ブログランキング

デトロイト美術館の奇跡/新潮文庫/2020年
美しき愚か者たちのタブロー/文藝春秋/2019年
モダン The Modern/文藝春秋/2015年
楽園のカンヴァス/原田マハ /新潮文庫/2014年

『バンクシー』毛利嘉孝

2018年10月、ロンドンのサザビーズのオークションで、バンクシーの絵が1億5千万円で落札され、その瞬間、絵がシュレッダーで短冊状に切れていくショッキングな映像がTVに流れた。
2019年1月には、東京都港区の新交通ゆりかもめ日の出駅付近の防潮扉に描かれたネズミの絵が、バンクシーの作品であるとニュースになった。本物と鑑定したのは本書の著者である。


バンクシー アート・テロリスト (光文社新書)

毛利 嘉孝
光文社新書 2019年 ✳10
売り上げランキング: 9,722

1990年代から2000年代にかけて、バンクシーはイギリスの西の港町、人口46万人のブリストルを中心に活動するグラフィック・アーティストだった。90年代のバンクシーは今のようにまったく正体不明のアーティストというわけではなく、グラフィック・アートの世界ではそこそこ名が通っていた。
バンクシーが身を隠す理由は、落書きはイリーガルだからだ。入国を拒否されたり、場合によっては逮捕され収監されたり、多額の罰金の支払いを言い渡されることもある。バンクシーは今はチームで活動している。

バンクシーが多用するステンシルという手法は、あらかじめ段ボールなどを切り抜いて型紙を準備しておいて、その型紙の上からスプレーで絵の具を吹きかけて絵を描く手法である。人に見つからないうちに短時間に描けるので実践的な手法である。
そうした手法は、他のストリート・アーティストからと「チキン」が取る方法だとも言われている。

バンクシーの活動は、アート・テロリストと呼ばれるように、いたずらであり犯罪である。言い方を変えれば既成体制に対する反骨精神の現れである。
パレスチナ自治区の分離壁に壁に「穴を開けた」だまし絵を描いた。この分離壁はイスラエルが建てたもので国連から非難決議が出されている。これをきっかけに、パレスチナの分離壁は世界中のグラフィック・ライターが作品を残す一大スポットとなっている。
2015年夏の2か月間、バンクシーはイギリスのサモセットのリゾート地にデズニーランドのパロディである不機嫌なテーマパーク《ディズマランド》を建設した。
チャーチルの銅像の頭に芝生を乗せモヒカン刈りにしたり、イラク戦争反対のCDを出したり、金を出せばなんでもできるという考えのパレス・ヒルトンのミュージックCDのパロディ版を発売したり、既成の体制を批判するものである。その活動にはイギリス的皮肉が垣間見える。

バンクシーが、2006年にブリストルの性医療クリニックの壁に描いた、窓からぶら下がる間男の絵を、残すべきか消すべきかについて、オンライン世論調査が行なわれた。その結果、97%が残すべきとした。イギリスの歴史において初めてイリーガルな絵が、「しょうがない、いいだろう」と認められる歴史的な作品になった。
ストリート・アートは多くの場合、上書きされたり消されたりして現実の世界から消えてしまう。そうした作品を積極的に残すかどうかという問題がある。→人気ブログランキング

『現代美術コレクター』高橋龍太郎

著者は精神科開業医。現代アート、特に日本人作家の作品のコレクターである。
ひりつくような同時代感覚を作家と共有できること、これが現代アートを購入するときの喜びであると、著者はいう。
著者の現代アートとの出会いは、草間彌生の追っかけからはじまった。

現代美術コレクター (講談社現代新書)
現代美術コレクター
posted with amazlet at 17.01.05
高橋 龍太郎
講談社現代新書
2016年10月

著者は自らのコレクションについて、
〈バブル崩壊後の日本という比較的アートに買い手がつかなかった時代背景のなか、購入してきた高橋コレクションは、ある程度、日本の現代アートの概要を示すものになっている気持ちもある。〉と書いている。
それゆえ、これまで、日本国内で計3回、「ネオテニー・ジャパン」(2008〜10年)、「マインドフルネス!」(2013〜14年)、「ミラー・ニューロン」(2015年)と銘打って、高橋コレクション展が行われてきた。各展覧会の名称は著者が命名している。

日本の現代アートのキーワードは、ネオテニー、職人的技巧、なぞらえ(ミラーニューロン)、貧、一瞬の美、だという。ネオテニーとは、発生学上の幼形を保ったまま性的に成熟してしまう現象のこと。

日本は美術展に集まる観客は非常に多いが、美術品の購入となると低調であるという。
現代アートの買い方で絶対損しない方法は、1作品あたり、国際価格で500万円以上、できれば1000万円以上が必要だという。金を持っていないなら、手を出すなということだ。
毎年、1万5千人くらいが、美術学校や美術の専門学校を卒業する。10年後も100年後も作品に値がちゃんと付くのは、そのうちの1人くらい。日本では作品を売るだけで食べていけるアーティストは、せいぜい50人くらいだという。

国の文化予算の低さ、現代美術に対する理解のなさ、現代美術を購入している美術館の少なさ、日本のアートシーンの風通しの悪さ、つまり、日本画、洋画、現代アートという奇妙な分け方、が日本の現代アートの発展を阻んでいるという。

日本の現代アートにコレクターとして関わっている著者の視点は、愛情に満ちていると同時に、日本の現代アートの抱える問題点を的確に分析し、有効な処方箋を示しているように思われる。→人気ブログランキング

現代美術コレクター』高橋龍太郎 2016年
"お金"から見る現代アート』小山登美夫 2015年
巨大化する現代アートビジネス』ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール 2015年
現代アート経済学』宮津大輔 2014年
キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子 2013年
現代アートを買おう!』宮津 大輔  2010年
現代アート、超入門!』藤田令伊 2009年
現代アート入門の入門』山口裕美 2002年

『"お金"から見る現代アート』小山登美夫

現代アートの悲観論を極力排除して、現代アートの前向きな部分を取り上げている。

現代アートは、抽象的だったり、あるいはメッセージ性が強すぎたり、こうあるべきだというような、美術のための美術になっていて、難解なだけであった。

“お金”から見る現代アート (講談社+α文庫)
小山 登美夫
講談社+α文庫
2015年

奈良や村上の作品は、お勉強ではなく、自分たちのリアリティつまり自分たちの中から出てきたアート、生きているアート、リアルクローズなアートである。

アートの価格には2種類ある。
プライマリー・プライスとは、ギャラリストとアーティストの間で決定される。作品がアーティストの手から離れ初めてアートマーケットに出されたときにつく価格のこと。
セカンダリー・プライスとは、市場の動きによって上がったり下がったりする価格のこと。オークションにでた場合に落札価格やコレクターが作品を手離し転売するときの価格などさまざまである。
セカンダリープライスがどんなに高くなろうと、作家にはお金は入ってこない。

どんな作品にも共通している価格設定の原則。サイズが大きくなれば値段ば高くなる。恒久性の素材で描かれたものほど値段が高くなる。ドローイングよりもペインティングの方が高くなる。

現代アートを難しくしている元凶は、作品の評価と価格が結びつかないことだ。美術館に飾られている絵画も、もともとアートは値段がついていたものであるという意識で見るのがいい。

名画・作品といわれる人気作品は、技術・感情・コンセプトの3つの要素のうちどれかが際立っている。
たとえば、セザンヌの絵は技術とコンセプトで革新的。ムンクは感情表現が優れている。
ピカソのゲルニカはコンセプトと感情表現が優れている。

コレクターに対して、嫌いだけれどすごいは買いだという。
嫌いということは強烈な個性があるはずである。好きなものばかりを集めていると、同じような作品だけを集めることになるので要注意だという。

アジアン・コンテンポラリアート・オークションについて苦言を呈し、世界最高の美術品の見本市アート・バーゼルについて紹介し、日本の現代アートの現状を解説している。

『現代アート入門の入門』山口裕美

日本の現代アートは世界の流れに大きく取り残されていて、惨憺たる状況だという。著者はアートプロデューサー。

2001年1月、村上隆が企画した「スーパーフラット展」は、アメリカでセンセーショナルに受け入れられた。2002年5月、クリスティーズのオークションで、村上隆の「HIROPON」に38万ドル(4860万円)の値がついた。
ところが、アメリカで大成功を収めた「スーパーフラット展」は、日本のマスコミではほとんど報道されず、日本の美術界で話題にされることもなかったという。
日本人は才能の突出した同胞を無視する傾向があるという。確かにそう思う。

現代アート入門の入門 (光文社新書)
山口裕美
光文社新書 2002年10月

日本の現代アートを取り巻く環境は厳しい。
アーティストが作品を作るアトリエが郊外に追いやられている。
美術館から要請されても、大作を作る大きなスペースがアトリエがない。
美術展が終わった後に作品を収納する場所がない。
そもそもキュレーター制度がなっていない。

美術館の役割の一つは、同時代のアーティストの作品を市民に成り代わってコレクションすることだが、そういう意識が美術館にない。まったく嘆かわしいことだという。
かつて、村上隆と奈良美智の個展を行った東京都美術館と横浜美術館が、彼らの作品をコレクションしなかったのは世界の常識ではありえないことだという。

日本の美術館には、教育的鑑賞、高尚な趣味、という思い込みが充満している。もっと自由に鑑賞させるべきだというのが著者の意見。

海外アート市場で、日本アーティストがバナナと呼ばれる理由は、肌は黄色いが中身は白く欧米化されていることを指す。現代アートはアーティストのアイデンティティが重要な要素になっている。日本人らしさが求められているのだ。

八方ふさがりの日本の現代アートだが、著者が期待する日本のアーティストを何人か紹介し、現代美術を展示するやる気十分な美術館を巻末に挙げている。

現代アートは不動産よりも確実に値上がりする可能性があり、10倍になるなどザラだという。それゆえ投機の対象になるので、購入しましょうと提案している。→人気ブログランキングへ

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