本屋大賞

『書店主フィクリーの物語』ガブリエル・セヴィン

1ページに1冊くらいの割合で本について触れられている。主人公のセリフだったり、比喩に使われたり、本書の中の書店での売れ筋の本だったり、怪獣のことだったり、子供用の本だったり、ともかく本が多く登場する。書店員が選ぶ本屋大賞を受賞するにふさわしい本だ。

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)
ガブリエル ゼヴィン/小尾芙佐 訳 
ハヤカワepi文庫
2017年12月 ****
売り上げランキング: 27,647

島に1軒しかない本屋の店主A・J フィクリーは偏屈な男やもめである。1年半前に妻を交通事故で亡くした。
そんなA・Jに、稀覯本が盗まれる事件と、マヤという2歳の赤ん坊が書店に置き去りにされる事件が起こった。翌日海岸に黒人女性の死体が打ち上げられ、IDカードからマヤの母親と判明した。自殺と断定された。
稀覯本の盗難は警察に届け、手続き上困難なこともあったが、マヤはA・Jが育てることになった。

マヤは人懐っこくって利発。マヤを見に島の人が本屋を訪れ、訪れる口実に本を買う。マヤのおかげで店は繁盛し、さらに、A・Jは本の営業で店をしばしば訪れていたアメリアと結婚にこぎつけた。警察署長のように、それまであまり本を読まなかった人が、本を読むようになった。

やがて、マヤの母親が自殺した理由や父親の正体が明らかになる。
それとは関係なく、マヤはすくすくと育っていく。郡の短編小説コンテストで、20の高校から40の作品が集まり、マヤの作品は上位3編に選ばれた。
母親の望みどおり本好きの少女に育ったのだ。

電子書籍の普及による本屋存続の危機という出版界が抱える問題にも、さりげなく触れている。
クリスマスにA・Jの母親がアリゾナから遊びに来て、3人にプレゼントを渡す。電子図書リーダーだった。A・Jはたちどころに不機嫌になる。アメリアは、母親に感謝の言葉をかけ、A・Jの立腹をなだめ、ふたりの間をとりなそうとする。

物語はハッピーエンドでは終わらない。
やがて、A・Jの持病である、気を失う回数が多くなって、言葉を間違うようになった。島の医者は本土の専門医に、A・Jを紹介した。A・Jの手術にはかなりの金がかかるのだった。
悲しい出来事もユーモアを交えて淡々と描いていて、落ち着いたストーリーになっている。→人気ブログランキング

『羊と鋼の森』宮下奈都

新米ピアノ調律師が、試行錯誤を繰り返しながら、人間として成長していく過程を描いた作品。ピアノは、羊の毛でできているフェルトのハンマーで鋼の弦を叩くことで音が出る。タイトルは、ピアノの調律という森に足を踏み入れたという意味。
新しい世界に踏み出したときのどうすればいいのかわからない状況で、苦悩する主人公の様子がよく表現されている。2016年(第13回)本屋大賞受賞作。

羊と鋼の森
羊と鋼の森
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宮下 奈都
文藝春秋 2015年9月 ✴︎✴︎✴︎✴︎
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ピアノに触れたこともなかった高校生の外村は、学校に来た調律師・板鳥さんの調律作業に魅了され、調律師になると決意した。
北海道の山の中で育った外村は、2年間の調律師養成の専門学校を卒業して、郷里の楽器店に勤めた。
調律に同行した日、板鳥さんから「君にとって祝いの日だから」とチューニング・ハンマーをプレゼントされ、外村はいたく感激する。

古いピアノをもう一度弾きたいという年配の女性の依頼、ドイツからの巨匠のコンサートで使うピアノの調律、ジャズピアニストの依頼に出向いた外村に見習いをよこしたとクレームがついた。オタクの若い男の依頼、双子の女子高生の依頼などを経験していく。

調律はどうしたらうまくできるようになるかと、板鳥さん質問すると、ホームランを狙ってはだめ、こつこつヒットを狙うという、わかるようでわからない説明をされた。
また、どんな音を目指しているか質問すると、原民喜の文章をあげた。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体。夢のように美しいが現実のようにしたたかな文体」と言った。文体を音に変えると、板鳥さんの目指す調律を表している。著者は、余程この文章に思入れがあるとみえ、繰り返される。

後半は双子の女子高生との触れ合いがストーリーの中心になっていく。