遺伝子

2020年11月11日 (水)

アフリカで誕生した人類が日本人になるまで(新装版) 溝口優司

南方起源の縄文人の後に、北方起源の弥生人が入ってきて、置換に近い混血をした結果、日本人は弥生人優位の現在のような姿形になった。

10万年以上前にアフリカを出た人類は、ヨーロッパ南部から中途にかけて住んでいたネアンデルタール人と交配した。アフリカ人の人を除く人々の遺伝子には、ネアンデルタール人由来のDNAが1~4%含まれている。
現代ヨーロッパ人の祖先と考えられているクロマニョン人は、ビタミンDを活性化する紫外線が必要であり、白くなっていった。
Image_20201111165801アフリカで誕生した人類が日本人になるまで

溝口優司
SB新書
2020年10月 ✳︎10

人々は6万〜5万年前までに東南アジアにたどり着き、その中の一部は、そこから北へ、別の一部は南東に向かった。南東に移動した人々は氷期にスンダランド(マレー半島、スマトラ、ジャワ、ボルネオなどの島)から、サフールランド(オーストラリア、ニュージーランド、タスマニなど)へと渡り、遅くとも3万年前頃までにオーストラリア南部に到達した。
スンダランドの人々の子孫がたどり着いた。縄文人の祖先とオーストラリア先住民の祖先は類似している。
海を越えて移動が起こるのは、氷河期で今より海面が100メートルほど低く、陸続きになっていたところがあったからだ。

北に移動した人々は、シベリア、北東アジア、日本列島、琉球諸島を含む南西諸島などに拡散した。日本列島と琉球諸島には4万〜3万年前ごろまでに到達し、日本列島に上陸した人々は縄文人の先祖となった。琉球諸島に上陸した人は港川人の祖先になった。

北東アジアに進んだ人の中には、沿海州からサハリンを抜け、北海道に渡った人たちがいたかもしれない。
シベリアに向かった人々は、遅くとも2万年前ごろまでにはバイカル湖付近に到着し、寒冷地適応して、北方アジア人の特徴を獲得した。この集団はその後南下し、3000年前頃までには中国東北部、朝鮮半島、黄河領域、江南地域などに住み着いた。この中国東北部から江南地域にかけて住んでた人々の一部が、縄文時代の終わり頃に朝鮮半島経緯で西日本に渡来し日本列島に拡散していった。

日本列島には南方起源の縄文人の後に、北方起源の弥生人が入ってきて、置換に近い混血をした結果、日本人は現在のような姿形になった。
弥生人が縄文人に置き換わった理由は、狩猟採取民と農耕民では、人口増加率が著しく異なる。人口増加率は農耕民の方がはるかに高かった。→人気ブログランキング

アフリカで誕生した人類が日本人になるまで/溝口優司 /SB新書/2020年
サピエンス異変-新たな時代人新世の衝撃/ヴァイバー・クリガン=リード/ 水谷淳・鍛原多惠子/飛鳥新社/2018年
絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたか/更科功/NHK出版新書/2018年
爆発的進化論 1%の奇跡がヒトを作った/更科功/新潮新書/2016年
サピエンスはどこへ行く

2020年10月 8日 (木)

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃  小林雅一

遺伝子工学や生命科学の分野で、過去に類を見ない驚異的な技術革新が進んでいる。
その技術革新とは、「クリスパー(正確には、クリスパー・キャス9遺伝子改変技術)」。クリスパーは遺伝子をピンポイントで切断したり改変したりを容易にできる。
従来の遺伝子組み換え技術は、100万回に1回という途方もなく低い成功率であったため、膨大なコストと時間を要した。
著者は、ここ数年間のうちにクリスパー技術にノーベル賞が与えられると予言した。それが見事に的中したのである。

 

クリスパー(CRISPR)とは「Clustered Reguraly Interspaced Short Palindromic Repeats」、日本語に訳せば「規則的に間隔を置いた短い回文の反復」である。クリスパーは、数10文字の短い回文が、一定の間隔を置いて繰り返し出現する塩基配列を指す。その間隔(スペーサー)の部分には、回文とはまったく関係がない塩基配列が存在する。
クリスパーは、過去のウイルス攻撃の爪痕であり、次に同じウイルスと接触したときに自分の敵であることを知らせるための情報である。スペーサーが、過去に攻撃を受けたウイルスのDNAの文字列である。
このスペーサーの塩基配列に食らいつき切断してしまう「分子のハサミ」Csn1遺伝子を、エマニエル・シャルパンティエ博士(スウェーデン・ウメオ大学教授)とジェニファー・ダウドナ博士(カリフォルニア大バークレー校教授)の共同チームが見つけ出し、2012年6月に『サイエンス』に発表した。
ところがクリスパーの特許を手にしたのは、フェン・チャン博士(ブロード研究所)だった。クリスパー技術の特許に関して、シャルパンティエ氏・ダウドナ氏とチャン氏の研究チームが法廷闘争を繰り広げている。
いずれにせよ、ここ数年間のうちにクリスパー技術で、ノーベル賞をこの3人が獲得するのは間違いないと、著者は予測している。

遺伝子編集の技術によって、農畜産分野では、「肉量の豊富な家畜や魚」や「腐りにくい野菜」などが開発されている。
一方、医療分野では、筋ジストロフィー、細胞移植療法、エイズ、アルツハイマー病などに対する応用、ダウン症あるいは全ゲノムが解明しているメンデル遺伝病などに対する基礎研究が始まっている。

アマゾンやグーグルなどの世界的なハイテク企業は、無数の患者から集めたゲノムデータを集積している。こうしたビッグデータを最先端AIで分析することにより、複雑な病気の原因遺伝子や発症メカニズムを解析することができる。

臓器移植の分野では、豚の臓器を人間に移植する際、問題になるのは豚のDNAに62カ所にレトロウイルスの塩基配列が組み込まれていること。これをクリスパーで除くことに、2015年10月、ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授が成功した。
チャーチ教授はクリスパー研究の第一人者で、センセーショナルな行動で有名。「骨を強化する」「心臓病にかかりにくくする」など10項目に上がる候補遺伝子を特定し、人類を強化するという計画を明らかにしている。
それは技術的に可能でも、倫理的に許されるのか?
優生学的な思想の復活につながるのではないかという危惧がある。
なお、2016年5月、日本では厚生労働省研究班は移植患者を生涯にわたって定期検査することなどの条件付きで、異種移植の実施を許可した。

遺伝子組み換え作物(GOM Genetically Modified Orgasnisms)の定義は、「バクテリア由来の外来遺伝子を、同じくバクテリア(アグロバクテリウム)の力を使って食物に組み込んだもの」。外来遺伝子には、Bt(バチルス・チュリンゲンシス)と呼ばれる殺虫性バクテリアの遺伝子や、あるいは除草剤への耐性を備えた細菌の遺伝子などがある。「感染力」や「毒性」など、ある種の危険性を持つバクテリアがGMO栽培には関与しているので規制が必要と考えられた。
ゲノム編集クリスパーを使って作成された30種類の農作物は、GMOではないとされアメリカでは規制の対象にはなっていない。

「遺伝子ドライブ」という問題がある。遺伝子工学を使ってマラリアを媒体する蚊などを駆逐してしまう技術のことだが、蚊を駆逐することで、長い目で見て生態系に思わぬダメージを与える恐れがある。一旦、破壊された生態系は元に戻らない。このため米国科学アカデミーなどが、遺伝子ドライブにモラトリアム(一時停止)をかけようとしている。しかし、ジカ熱の流行で遺伝子ドライブを行うべきだとする意見は強力である。

生殖細胞と体細胞で研究のスタンスが異なる。
体細胞をクリスパーで治療することはさしたる問題がないが、現時点で生殖細胞のゲノムを編集することは、デザイナー・ベービー(頭の良い、背の高い、容姿端麗な子)を作ることにつながる。まさに映画『ガタカ』の世界である。

遺伝子治療は、「生体外」と「生体内」がある。
ヒトの病気を動物に発症させて薬の効果や病気のメカニズムを解明する。
「生体内」は正常な遺伝子を組み込んだウイルスを異常な遺伝子を有する細胞に侵入・感染させることにより、正常な遺伝子に置き換わることを期待する。
生殖細胞の、体外受精で得た受精卵を調べ、メンデル遺伝病がないことを確認して子宮に着床させる。

生殖細胞へのゲノム編集は当面慎むべきである。体細胞へのゲノム編集は基本的に行って構わない。ただし、その際にはすでにある医療規制の枠内で行わなければならない。
「人遺伝子編集についての国際サミット」(2015年12月)での結論は、研究は「しかるべき法的倫理的な監督下に置かなければならない」。
しかし、こうした自主規制が破られるのは時間の問題だろうという見方が強い。→人気ブログランキング

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2018年9月11日 (火)

マンモスを再生せよ ベン・メズリック

ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授の研究室では、約4000年前に絶滅したケナガマンモスの再生プロジェクトが進行している。本書はプロジェクトの進捗状況やライバルチームの動向、チャーチの生い立ちや取り組んできた様々な研究について、物語風に描いている。
合成生物学分野の第一人者であるチャーチの研究室には世界中から優秀な研究者たちが常時90人ほど集まっている。チャーチが手がけた多くの研究は常に時代の最先端を行く研究である。
Image_20210126100801マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦
ベン・メズリック
文藝春秋
2018年

チャーチが取り組んできた、あるいは現在も取り組んでいる、研究のテーマには次のようなものがある。
短時間に低価格でDNA解析ができる「次世代シーケンサー」の開発。
大勢の有志のゲノムを解析してデータベース化し、病気や健康状態に特化した治療法を開発する「個人ゲノム研究計画」。
ブタにヒトの肝臓の遺伝子を埋め込み臓器移植用の肝臓を作る。
マラリアを媒介しないよう遺伝子操作された蚊を巨大なドームの中で試す(遺伝子ドライブ)。
老化に逆行するハダカデバネズミの研究。
人工合成生物の作成。(→『合成生物学の衝撃』須田桃子/文藝春秋/2018年)

具体的なケナガマンモス再生計画は次の手順で進められる。
シベリアの凍土の中に冷凍された状態で発見されるケナガマンモスのDNAの解析をする。できるだけダメージの少ない良質なサンプルが必要である。
ゲノムのうち、ケナガマンモスの特徴的な毛、耳、皮下脂肪、ヘモグロビンの遺伝子を探す。これらの遺伝子の役割をノックアウトマウスで確認したのち、アジアゾウの幹細胞に埋め込み、人工子宮に着床させるというもの。アジアゾウをケナガマンモスに近づけていこうとする計画である。

チャーチは絶滅動物のうち、なぜケナガマンモスを再生させるのかという、確固たる理由が欲しかった。ロシアの北東科学センター所長セルゲイ・ジモフの研究から、ケナガマンモス再生プロジェクトを前に進める根拠を得たのだ。
現在、地球温暖化により永久凍土が溶けつつある。永久凍土が溶ければ、そこに何万年も前から凍りついていた有機物を微生物が分解し、二酸化炭素とメタンが発生し地球温暖化が加速される。永久凍土層の崩壊を止めるためには、永久凍土を踏み固めて、温度を下げておく必要がある。その踏み固め役としてケナガマンモスをはじめとする寒冷地で生息する草食動物が必要なのだ。それがセルゲイ・ジモフのいう「氷河期パーク」である。今は戦車で踏み固めているという。
この説は説得力に欠けるが、環境保護の観点からケナガマンモス再生は意義があるというのだ。

ケナガマンモス再生計画を推し進める上で新たに見えてきたことがある。
それはゾウのDNAに隠された癌への抵抗力である。ゾウやクジラなど巨大な動物には癌が発生しにくい。これは癌治療に結びつく謎が隠されている可能性がある。
もう一つは、悪性のヘルペス・ウイルスによりアジアゾウが絶滅の危機に瀕していることがわかった。チャーチたちはゾウのヘルペス・ワクチンを作ろうとしている。→人気ブログランキング

マンモスを再生せよ/ベン・メズリック/文藝春秋/2018年
合成生物学の衝撃/須田桃子/文藝春秋/2018年
ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃/小林雅一/講談社現代新書/2016年
マンモスのつくりかた/ベス・シャピロ/筑摩書房/2016年
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016年

 

2018年1月 4日 (木)

がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か NHKスペシャル取材班

がん細胞の遺伝子を解析して、その結果をもとに行われる治療は「プレシジョン・メディシン(精密医療)」と呼ばれる。
本書は2016年11月に放送された番組『NHKスペシャル』に、2017年7月における最新情報を加味したものである。

がん遺伝子とは正常な細胞が持っている遺伝子の中で、変異する(傷がつく、DNA配列が変わる)と、細胞の異常増殖を引き起こす遺伝子のこと。がん抑制遺伝子とは細胞のがん化を抑制する遺伝子。正常な細胞ががん細胞に変わるきっかけとなるのは、がん遺伝子やがん抑制遺伝子にできた傷である。

がん遺伝子は、傷がつくことで遺伝子変異が生じて、異常なタンパク質が作られるようになり、このタンパク質が原因となって、異常な細胞増殖がはじまる。これががんの誕生である。
現在までに数100のがん遺伝子、100前後のがん抑制遺伝子がみつかっている。

51yxiut2tbl_sx320_bo1204203200_がん治療革命の衝撃―プレシジョン・メディシンとは何か
NHKスペシャル取材班
NHK出版
2017年

分子標的薬が標的とする分子は、主にがん細胞の異常増殖を促している異常たんぱく質である。分子標的薬はその異常たんぱく質と結合して働きを抑え込み、がん細胞の増殖を止める。
あるいは、がん細胞に栄養を運ぶ新たな血管を作る分子の働きを抑えて、がん細胞を兵糧攻めにするタイプ、また最近では、複数の分子を標的にするマルチターゲット薬と呼ばれる分子標的薬も開発されている。
分子標的薬のメリットは、効果が期待できるかどうか、治療の前に予想がつきやすいことである。しかし、分子標的薬は使い続けるとがんが耐性を獲得して、早ければ半年、長くとも数年で効かなくなることが多い。

がん細胞には正常な免疫細胞の攻撃を止める攻撃ブレーキボタンを押す機能がある。免疫チェックポイント阻害剤は免疫細胞のブレーキボタンをがん細胞から守る役割をもつ。免疫チェックポイント阻害剤の優れている点は、効き目が長く持続することである。
免疫チェックポイント阻害剤には劇的な効果があるため、がん治療にパラダイムシフトをもたらす新薬として注目されている。
現在、日本で保険が適応される免疫チェックポイント阻害剤は、オプジーボ(一般名ニボルマブ)、ヤーボイ(イピリムマブ)、キイトルーダ(ペンブロリズマブ)の3剤。

アメリカで動き出した次世代のプレシジョン・メディシンは、人工知能を使うというもの。がんに関する論文は世界で年間10数万件が発表され、1日では数百になる。IBMが開発したワトソン・ゲノミクスは、これらの情報をを学習し、患者のデータを入力し治療スケジュールを決める。その時間はわずか2〜3分だという。

プレシジョン・メディシンによりがん治療の考え方が根本から変わる。薬選びは臓器別から遺伝子変異別となる。がん治療は「あと5年で劇的に変わる」という。

がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ•ムカジー/早川NF文庫/2016年

2017年3月26日 (日)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 橘 玲

ベールをかぶされてうやむやにされていること、誤解されて認識されていること、有名な学説が間違いであったこと、宗教などによってねじ曲げられていること。
これらについて、遺伝進化学、進化心理学、認知心理学、犯罪心理学、統計学、脳科学などの分野の論文や著作を紹介し、タブーを表沙汰にしたのが本書である。
扱っているテーマは広範囲わたり、データに対する解説が明快でわかりやすい。
Photo_20201203081701言ってはいけない  残酷すぎる真実
橘 玲
新潮新書  2016年

知能や容姿、犯罪者としての素因や病気(精神病も含む)、性格(こころ)までもが、遺伝子で決まるという、身も蓋もない現実を見せられる。
この現実を突きつけられて動揺するのは、教育関係者とフェミニストと子育て中の親たちだろう。

解説されたテーマを列挙すると、
・3歳児を対象とした調査で、刺激により脈拍数が増加しない子どもは反社会的な素因がある。
・同じく発汗しない子どもは良心を学習しない。
・黒人は平均より1SDくらいIQが低い。
・アシュケナージ系ユダヤ人(ドイツあたりに住んでいた)は知能が高い。→キリストで賤業とみなされた金貸しをユダヤ人は職業とした。金貸しは、計算が得意でIQが高いことが求められた。ユダヤ人同士の結婚が繰り返され、代を経るごとにIQは少しずつ高くなっていった。
・繰り返し性犯罪を犯す人物や遺伝的に犯罪者の素因を持つ人物が特定できる。
・顔の横幅が広い人は面長の人より攻撃的である。(→『サイコパス』)
・美人はブスに比べ生涯3600万円多く稼ぐ。ブスは平均的な女性に比べ1200万円損をする (『美貌格差』ダニエル・S.ハマーメッシュ 東洋経済新報社 2015年)
・ボーヴォワールは「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」と書いたが、この仮説は社会実験によって否定されている。
・フロイトのエディプス・コンプレックスはデタラメ。
・旧石器時代の人類は集団内の女を男たちで共有する乱婚だった。彼らは別の部族と出会うと女を交換し、新しく集団に迎い入れた女は乱行によって歓迎される。
・男性が、短時間で射精するのは、女性が大きな声を上げる性交が危険だからだ。
女は大きな声をあげることで他の男たちを興奮させ呼び寄せる。女は一度に複数の男と効率的に性交し多数の精子を膣内で競争させることができた。その為には、よがり声だけでなく、連続的なオルガスムが進化の適応になる。
・別の家庭で育てられた一卵性双生児の類似性から、心における遺伝の影響は極めて大きい。
・別々の家庭で育った一卵性双生児はなぜ同じ家庭で育ったと同様によく似ているのか、子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない。子どもたちは、友だちのなかでグループの掟に従いながら遺伝的要素を土台として自分のキャラを決めていく→人気ブログランキング

2016年11月25日 (金)

マンモスのつくりかた ベス・シャピロ

映画『ジュラシック・パーク』(1990年)のなかで、琥珀に閉じ込められた蚊の腹部から血液が採取され、恐竜のDNAが抽出される。抽出されたDNAをカエルのDNAで補完したのち、ワニの未受精卵に注入し孵化させ、クローン恐竜が誕生する。このようなことは可能なのか。
著者は米国の進化生物学者。カリフォルニア大サンタクルーズ校の准教授。専門は古生物のDNA解析。20世紀初頭に絶滅したアメリカリョコウバトや、3700年前に絶滅したとされるマンモスのDNA解析の第一人者である。
脱絶滅(de-extinction)の試みについての議論は、喧々諤々であるという。
本書では、脱絶滅に関して「科学」と「空想科学」を切り離すことを目指すという。
Photo_20201120135601マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる
ベス・シャピロ/宇丹貴代実
筑摩書房
2016年

脱絶滅の対象となる種は慎重に選択されるべきだ。
復活に成功したときに、個体群にふさわしい生息地があり、餌動物や食料があり、捕食者は排除されていると同時に、食物網を不安定にさせないような食物連鎖が働き、病気・寄生体・汚染は取り除かれていて、その種がもともと生息していた環境に気温や降水のパターンが近く、自給の個体群を許容できる広さがあるかなどを、クリアしなくてはならない。結構、条件は厳しいのだ。
厚かましい条件だが、絶滅を引き起こした張本人の人間の生活を脅かされないことも求められる。

以上の条件に照らしあわせると、マンモスは脱絶滅に適している。
すでに、ロシアのシベリア北東部にあるロシア科学アカデミー北東科学局は、脱絶滅が成功したあかつきにマンモスが住む更新世パークを準備しているという。

マンモスが寒冷地に住んでいたおかげで、保存状態の良い骨からDNAの分析ができる。
マンモスの最近縁種はアジアゾウで、およそ500万〜800万年前に枝分かれした。変化の速度がほかの哺乳類とほぼ同じとするなら、この種間はおよそ7000万箇所の遺伝子の相違があると予想される。これはゾウのゲノム全体のうちの2%未満だが、それでも7000万は途方もない数だ。
凍土の中から発見される保存状態の良いマンモスから抽出されるDNAといえども、7000万のゲノムの変更点を到底訂正できないだろう。とすれば、核移植によるクローン作製は今のところ難しい。現在可能なのは、マンモスの遺伝子の断片が組み込まれたゾウを作製することだという。

マンモスの形質や行動を復活させるのに必ずしもマンモスのクローンを作製する必要はない。たとえば、マンモスの毛深さを指定(コード)するDNA配列を突き止めたうえで、ゾウのゲノム配列に組込み、ゾウをもっと毛深くすることは可能である。もちろんマンモスを復活させることと同じではないが、その方向へ一歩進むことではある。
そんな大雑把なことでいいのかと思うが、そのあたりが今のところの限界なのだ。

今後も、著者たちによりマンモスのゲノム解析は地道に続けられるだろう。そして、クローン種作成の技術的なハードルはどんどん下がっていくに違いない。
なお、2016年中にマンモスのクローンを作製すると宣言している勇敢な学者が複数いて、しのぎを削っているという。→人気ブログランキング

マンモスを再生せよ/ベン・メズリック/文藝春秋/2018年
合成生物学の衝撃/須田桃子/文藝春秋/2018年
ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃/小林雅一/講談社現代新書/2016年
マンモスのつくりかた/ベス・シャピロ/筑摩書房/2016
6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986

2016年11月10日 (木)

サイボーグ化する動物たち  エミリー・アンテス

バイオテクノロジーが、どのように動物たちにかかわっているかがテーマ。著者は旺盛な探究心で、会社や研究機関を訪れ担当者にインタビューし、それらの動物たちに会いに行く。原題は、『Frankenstein's Cat』。
Photo_20201222142801サイボーグ化する動物たち
ーペットのクローンから昆虫のドローンまで
エミリー・アンテス/西田美緒子 訳
白揚社
2016年

最初のテーマは遺伝子組み換えである。米国では、サンゴやイソギンチャクのDNAを埋め込んだ観賞用の光る魚が、ペットショップで売られている。FDA(米食品医薬品衛生局)が許可した米国初の遺伝子組み換えペットである。
例えば、成長が早いサーモンや、人間にアレルギーを誘発する遺伝子をなくした猫を作ろうとしている。
ファーミングは単純な遺伝子操作によって、ヤギの乳やニワトリの卵から、人間の病気を治すための薬を抽出する方法のことである。

遺伝子組み換えの動植物を販売する際には、FDAやEU当局の許可が必要である。規制当局は遺伝子組み換え動物の販売を容易に許可しない。また、ミュータントたちが研究室から抜け出すかもしれないことにも目を光らせている。

愛するペットを亡くした飼い主にとって、クローンは福音ともいえる技術だが、成功の確率が著しく低い上に、遺伝子が同じでも表現形が同じとは限らないのだ。ペットのクローンは今のところ商売にならない。
しかし、すでに何頭かのクローン牛が、米国最大の酪農産業博覧会で優勝していて、これらは種牛として活躍している。また、2012年には、国際馬術連盟がクローン馬を許可したという。

地球上にいる哺乳動物の1/4近くが絶滅の危機に瀕し、両生類ではおよそ1/3、鳥類では1/8が同様の状態であるという。動物の個体数は、最も多かった時点に比べて89%も減少してしまった。歴史上では5回の大絶滅が知られていて、5回目の大絶滅では恐竜が消え去った。多くの科学者は今が6度目のはじまりだと確信している。
冷凍動物園と呼ばれるDNAバンクは、マイナス225度に保たれている。大惨事が襲う前に、遺伝的多様性を保存しようとしているのである。

マグロ、ウミガメ、ゾウアザラシなどの海洋生物に、情報収集機器(タグ)を取り付け、データを集めている。データの解析から動物たちの知られざる生態が明らかになっている。

肢体が不自由な動物に、人工の装具をつけるリハビリテーションの分野がある。
漁船の網にひっかかり尾をなくしたイルカに、世界初の人工の尾びれをつけた。これを映画にしたのが『イルカと少年』(2011年)。
あるいは、去勢手術を受けた犬に人工睾丸をつける。これまでに49の国で25万匹以上が、CTI社の偽の睾丸が用いられたという。

猫やラット、甲虫や蛾やゴキブリに、電子機器を移植して自在に動かそうという試みがなされている。

最終章では、動物たちの権利と福祉について、心理学者ハロルド・ハーツォグの意見を紹介している。「(悩める中間域にいる人々は、)動物を心から愛しながら、たまには資源、物体、道具としての役割を負わせることもよしとする。動物を大切に扱うべきだと確信しながら、医学研究への利用禁止は望まない。家畜を人道的に飼育してほしいと気づかいながら、肉食をすっかりやめたくない。・・・私には、悩める中間域は完璧に筋が通っているという確信がある。モラルの窮地に陥るのは、大きな脳と寛大な心をもつ種では避けられないことだからだ」
著者は、動物の福祉を追求するために最新技術を活用すべきだと結論づけている。→人気ブログランキング

6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015年
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016年
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016年
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986年

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