半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 クリス・ミラー
チップウォー(半導体戦争)はどのような状況なのか? 現在、最先端の半導体を大量に生産することができる企業は、台湾積体電路製造(TSMC)、サムソン、インテルの3社である。そのうち、先端ロジック製品の90%をTSMCが押さえている。なぜこのような偏った状況にあるのか?
本書には、1940年代の真空管から始まり現在に至る半導体の歴史を詳細に描かれていて、それらの疑問に答えてくれる。ちなみにロジック半導体は、スマートフォンやパソコンに搭載され電子機器の頭脳の役割を担う。
半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 クリス・ミラー/千葉敏生 ダイヤモンド社 2023年 552頁 |
半導体産業の初期、米国の半導体を使った電化製品を日本が作り米国に売るという構図のうちは、競合関係はなかった。日本は半導体産業に力を入れ、半導体の生産が急速に伸びていった。その後、データの一時的な保持に使われるDRAM (Dynamic Random Access Memory ディーラム)の生産をめぐって、日米は半導体戦争に突入する。その結果日本は厳しい制裁を課され、さらに日本の金融危機と相まって、1992年にDRAMの生産で日本はトップの座から引きずり下ろされた。敵の敵は友という考え方のもとに、米国は韓国のサムソンを支援した。
インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアは、1965年に自らの論文に「半導体の集積率は18か月で2倍になる」と書いた。この経験則は「ムーアの法則」として、2010年代まで通用し、半導体の性能は目覚ましい進歩を遂げることになる。1990年代以降、半導体の製造だけを専門に行う企業の「ファウンドリ」と、工場を持たずに設計だけを行い生産を完全に他社にアウトソーシングする企業の「ファブレス」が、隆盛するようになる。ムーアの法則を成し遂げるには、微細な形状をチップに刻み込めるより高い精度のリソグラフィ装置がもとめられた。米国企業はオランダのリソグラフィ装置メーカー のASMLを、ニコンやキャノンに変わる信頼できる取引先として扱った。今や、世界の主な半導体製造会社の80%がASML社のリソグラフィ装置を使っている。半導体の設計や製造には莫大な資金とイノベーションが必要であるため、半導体の水平分業化が進みサプライチェーンは複雑化していった。
米国の半導体会社テキサス・インスツルメンツでキャリアを積んだモリス・チャンは、1985年に台湾政府から招聘され、TSMCを設立した。TSMCは中国と価格で競争しても勝ち目がないので、最先端の半導体を製造する選択肢しかなかった。ファウンドリとしてのTSMCの成功は、米国の半導体産業とのつながりが決定的な要因であった。
最先端の半導体を設計するだけでも、コストは1億ドルを超えることがある。最先端のロジック半導体の製造工場を建築するには200億ドルの費用がかかるが、数年で時代遅れになってしまう。
中国の半導体は、その大半が別の国でも製造できる。ロジック半導体などの先進的な半導体に関していえば、中国は米国のソフトウェアや設計、米国・オランダ・日本の装置、韓国や台湾の製造にまるまる依存している。中国政府は「中国製造2025」を打ち出した。中国の半導体輸入率を、2015年の85%から2025年までに30%まで減らす構想だ。つまり中国は半導体の自給自足を目標に掲げた。オバマ政権は、半導体産業を私物化するために、1500億ドル(およそ20兆円)の産業政策を認めないと中国指導部に主張するといった。しかし、そんな苦言が通用するはずもない。多国籍で複雑なサプライチェーンで成り立っている産業において、技術的な自立を実現することは、世界最大の半導体大国である米国にとってさえ、絵に描いた餅である。しかし中国はそれを達成しようと目論んでいる。
今やチップウォーは、中国対、米国・台湾・韓国・日本・オランダなどの自由主義国家という構図になっている。中国は技術的にも生産設備にも、設計に必要なソフト面でも大いに遅れをとっている。中国が追いつこうにも非常に厳しい道のりが待っている。劣勢を一挙に覆すために、中国は喉から手が出るほど台湾の半導体産業を手に入れたい。最悪のシナリオであるが、台湾有事についても本書は触れている。
本書は言及していないが、2022年8月に日本の主要企業8社が出資してロジック半導体などの国産化に向けて「ラピダス」が設立された。TSMC、サムソン、インテルに割って入ろうとしている。→人気ブログランキング
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