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『人工知能の「最適解」と人間の選択』NHKスペシャル取材班

本書は、TV番組NHKスペシャル『人工知能 天使か悪魔か2017』(2017年6月放送)の取材が元となっている。その内容は、将棋の名人と人工知能との対戦「電王戦」を紹介しながら、人間を超える能力を社会のいたるところで発揮する人工知能の現状を追っている。

まずは将棋。2017年4月1日、名人とポナンザの電王戦が行われた。
これまで見たこともない手を指してくる存在に対しては、人間であれ、コンピュータであれ感動を覚えると、名人は言う。
ポナンザは今までに700万局をこなしている。人間が1年に3000局打つとしても、700万局はおよそ2000年かかる計算である。2連敗を喫した名人はポナンザは将棋における神に近い存在だという。

人工知能の「最適解」と人間の選択 (NHK出版新書)
NHKスペシャル取材班
NHK出版新書
2017年11月
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2017年2月、AIタクシーという「乗車需要予測システム」が公開された。
地域を500m四方の区画に分け、エアリアごとに向う30分間の客数の予測を数字で示す。NTTドコモが、富士通、富士通テンなどとともに開発した。東京23区での予測精度は92.9%である。
本システムを使うと、新米ドライバーで20%の売り上げ増となったという。

アメリカでは18歳以上の人口のうち1/3が犯罪者だという。刑務所に収容されているのは200万人。犯罪を起こす可能性のある人物を見出す方法はないか、あるいは再犯リスクの高い犯罪者を判別できないかは切実な問題なのだ。これらの予測を人工知能が行っている。
犯罪者は人工知能に人生を左右されることに納得がいかないという感想を述べている。

将棋やタクシーなどの限定された機能に特化した「弱い人工知能」は、社会の様々なところでその力を発揮し始めている。一方、「強い人工知能」と呼ばれる汎用性人工知能はまだ「夢のプロジェクト」であり、ひとたび実現すれば社会をとてつもない規模で変革する原動力になると期待されている。

歴代の大統領が軒並み汚職で逮捕されている韓国では、国家運営にAI政治家を導入しようとする計画が持ち上がっているという。
人工知能はどんな人間より完璧でなおかつ慈悲深くなれる。
行き詰まった民主主義を変えるのは人工知能しかないとまで言い切る研究者もいる。

人工知能が登場する業界は瞬く間に変貌し後戻りはできないということを、理解しなければならない。
人工知能がスマートに最適解を導き出せるようになればなるほど、人間の曖昧で非効率的な解を尊いものとする可能性が強まってくるのではないかという。→人気ブログランキング

人工知能の「最適解」と人間の選択/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊/井上智洋/文春新書/2016年

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』 ジョン・ロンソン

著者はネットリンチにあった人物やネットリンチを仕掛けた人物に直接会って話を聞いている。
過去には、犯罪者に手かせ足かせをして晒し者にする、という公開羞恥刑が各国に存在したが、およそ180年前に廃止された。ところが、最近SNSの普及で公開羞恥刑が復活しているという。著者は、ネットリンチを公開羞恥刑というキーワードで解明しようとする。

まず著者は自らの経験を披露する。
著者はツイッターの成りすましに悩まされた。犯人の3人と面会し、そのやりとりをYouTubeにアップロードしたところ、犯人たちに対する非難が寄せられ、成りすましが止んだという。3人の職業はネットに関する研究者だった。著者はこのエピソードで、ソーシャルメディアは攻撃される武器にもなるし、身を守る武器にもなることを知ったという。

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書)
ジョン・ロンソン/ 夏目大 訳
光文社新書  2017年2月

著名なノンフィクション作家のベストセラー本に、出典がはっきりしないボブ・ディランの言葉がいくつかあると指摘された 。けっきょく捏造だった。そのほか他人のブログからの盗用もあった。
捏造の暴露記事が発表されるや、ジャーナリストはネットで徹底的に叩かれ、雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライターの職を辞さざるをえなくなった。そして、彼はキャリアも地位もすべてを失った。

ネット企業の広報部長である白人女性が、イギリスからアフリカに向かうトランジェントで、人種差別的なツイートを流した。「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」
ファーストクラスに乗っていると書いたことも反感を買ったのかもしれないが、彼女はネットリンチにあい、職を失い社会的に抹殺された。
攻撃する者にとって、 彼女が本当に特権階級であるかどうかはどうでもいい。実際、彼女は特権階級でもなければ、人種差別主義者でもなかった。ただ、そう見さえすれば十分なのだ。

公開羞恥刑を受けた後に、立ち直る機会を得た人もいる。
ナチスの制服を着た複数の女性とのSM乱交プレーを、新聞に暴露された国際自動車連盟の会長の例がある。
彼は反論する。セックスの時は誰もが多かれ少なかれ妙なことをするものではないだろうかと。
「どれほど恥ずかしいことがあっても、堂々としていれば大丈夫」ということを証明したお手本のような人物である。
男性が合意の上でセックスしている限り、セックススキャンダルは攻撃されないことは、次の事例でも示される。かつてアメリカのメイン州で69名の売春の顧客リストが公開され、裁判で罰金刑が課せられたが、公開羞恥刑にさらされた人物はいなかった。

著者はネットリンチの実態を次のように解説している。
今どういう行為が恥とみなされ攻撃を受けるかは、ツイッターなどSNSのユーザーたちの考えに大きく左右される。SNSのユーザーの多くがこれは許せないとみなし、排除に動けば、標的になった人間は破滅してしまう。何を許せないとするかには一定のコンセンサスがあるが、司法の判断やマスメディアの主張はそれにはほとんど影響を与えない。だからこそ非常に恐ろしいとも言える。

ネットリンチの怖いところは、一定のコンセンサスがあるといっても不確定であり、一旦起こったら歯止めがきかないということだ。
著者はネットリンチを防ぐ方法を模索したが、解決策はなさそうだという結論に達する。→人気ブログランキング