脳科学

『キレる!』中野信子

著者は、キレるを、手がつけられないくらい興奮して相手を罵倒するから、強く自己主張するくらいまでの広いスペクトラムでとらえている。
キレることは自分の存在感を示すことで決して悪いことではない。テレビの司会者や文化人や、政治やビジネスの世界で成功している人は、怒るべきときにきちんとキレることができる人だという。

キレる!: 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」 (小学館新書)
中野 信子
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瞬間湯沸かし器のようにすぐにキレたり、積もり積もった怒りが大爆発するキレ方は、損するキレ方である。得するキレ方は、自分の感情を素直に受け止め、できるだけストレスが小さくなるようなタイミングを逃さずキレる。伝えたいことを伝えたいタイミングで過不足ない熱量で表現する。

一方、言い返さない人はいじめの対象となる。キレない人は搾取される。社会で生き抜きサバイバルするためにも、上手にキレるスキルを身につけて欲しいという。

キレると、攻撃的なホルモンであるノルアドレナリンやアドレナリンが分泌される。
前頭葉はキレる自分を抑えたり、相手の気持ちを理解したり、自分の行動を決める理性を司るところ。
老人がキレ易いのは、前頭葉に働きが落ちて感情のコントロールができにくくなるため。怒りを抑制するブレーキがかかりにくくなる。
良いことは忘れてしまうが、危険なこと悪いことは身を守るために覚えている。疑い深くなるのはこの記憶の問題だという。

安心ホルモンであるセロトニンを分泌させるために、その材料となるトリプトファンを摂取するとよい。よく肉を食べている年配の方は健康だというが、それはトリプトファンを摂っているからだという。

キレる人との付き合い方としては、系統的脱感作法というのがある。はじめは会社の前まで行き、次には会社の中に入り、そしていよいよキレキャラの上司に、「スーツにホコリがついています」と声をかけて、肩についているホコリを払うロールプレイを練習して、トライするというもの。
あるいは、アンダードッグ効果を狙って、相手に踏み込まれたくない領域を示す。
キレる相手とは言葉尻を捉えてやりあわない。

「アサーション」とは、相手も尊重した上で、誠実に、対等に、自分の要望や意見を相手に伝えるコミュニケーションの方法論のことで、感情を伴うと言いづらくなる時への対処法として有効である。
アサーション・トレーニングのポイントは、わたしを主語にして相手のと摩擦を伝える。相手を主語にすると相手を責める表現になってしまうという。

『チョムスキーと言語脳科学』酒井邦嘉

ノーム・チョムスキーの提唱する言語理論は、コペルニクスの地動説やダーウィンの進化論やアインシュタインの相対性理論に匹敵するという。ただ残念なことに未だ確立されていない。

チョムスキーの説には2つの新しい点がある。それは、言語学という文系の分野に理系の発想を持ち込んだこと、人間には言葉を理解する秩序が生まれながらに備わっていることである。

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チョムスキー以前の言語学は、実際に発語されたり書かれたりした文の集積データ(コーパス)の再現を目指したり、そこから累計パターンを抽出していた。人工知能で言語処理の主流になっているのは、コーパスを集めて統計的に分析することによって、次に現れそうな単語を予測して先読みさせる技術である。しかしこの手法には限界があるとする。

構造主義言語学は、表面的な構造を分類していくことで、文を外側から構造として捉えて分析しようとする。ところがチョムスキー理論では、文を生み出す(目に見えない)構造を内側から作ろうとした。奥底にある自然法則を探ろうとするから、サイエンスになるという。

「プラトンの問題」を説明できるかどうかが、言語理論として正しいかどうかの試金石になる。子どもは少ない言葉の刺激(「刺激の貧困」という)で聞たこともないような文を話せるようになる。オウム返しの模倣だけでは、そのようなことができるようになるとは考えにくい。そうした能力の問題提起を、「プラトンの問題」といい、古代ギリシャから現代に至るまで連綿と問われ続けてきた。

この問いに初めて答えたのがチョムスキーであった。生後間もない脳は決して白紙の状態ではなく、あらかじめ言葉の秩序、すなわち「普遍文法」が組み込まれていると考える。すると、刺激が貧困であっても言語の獲得が可能になり、見聞きしたことのない文まで生み出せるようになる。

チョムスキーはバラス・スキナーの著書『言語行動』に対して、批判論文を書いたことによりその名を広く知られるようになり、「言語生得説」を打ち立てることになった。スキナーの「行動主義心理学」は、人間が言葉を使うようになるのは外からの刺激の反応であり、後天的な学習の結果であるという。

1950年に誕生したチョムスキーの理論は、今なお誤解され非難に晒されている。
人間はコミュニケーションをとるために言語が発達したのではない。人間の言語は、進化の過程で、脳にたまたま「普遍文法」という働きが備わった結果、思考やコミュニケーションに使われるようになったにすぎないのである。チョムスキーが進化論を否定したというのは誤解である。

チョムスキーについての批判で、途中で何度も理論が変わるというものがあるが、チョムスキーは最初から究極の言語理論を作ろうとしたのではなく、その出発点と方向性をまず示して、自らの理論の開拓を行ってきた。

著者は文法中枢が脳内に存在することを、fMRIを用いた実証実験によって明らかにしようとする。著者は自分が生きている間にどこまで真理に近づけるかわからないが、チョムスキニー理論を信じて一つ一つ石を積んでいくと決意を述べる。

行動分析学入門ー人の行動の思いがけない理由/杉山尚子/集英社新書/2005年

『シャーデンフロイデ』中野信子

本書のテーマは、人間性(とくに日本人の)を裏側から覗くと見えてくるのはなにかである。シャーデンフロイデ(Schadenfreude)とは「他人の不幸を喜ぶ」というドイツ語。他人が失敗したときに、思わずわき起こってくる喜びの感情のことだ。「ざまあみろ」という感情であり、「隣(他人)の不幸は鴨(蜜)の味」ということわざのことであり、ネット・スラングの「メシウマ(他人の不幸で飯が旨い)」に相当する感情のことである。

シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)
中野信子
幻冬社新書   2018年1月

ほとんどすべての人間は、目立つ人が失敗することを社会正義だと信じているという。人の脳はだれかを裁きたくなるようにできている。
自分だけが正しくて、ズルしている誰かが許せない。そんなやつに対して暴力をふるっても構わない。そんな心理状態で起こされる行動がサンクション(制裁)である。
不謹慎な人を検出して攻撃するのが、シャーデンフロイデという感情と考えることができる。サンクションが起こりやすいのは、大きな天災があった場合だという。

社会的排除の標的となる人に共通するのは、「一人だけいい思いをしていそうだ」「得をしていそうだ」「一人だけ異質だ」という条件を持つ。誰もがこの条件に当てはまるから、誰でも標的になりうる。相手の不正を許さないのは、協調性の高い人である。

日本人が集団の協調性を尊ぶのは、稲作と災害の多さによる。稲作も災害からの復興もお互いの協力がないとうまくいかない。そうした遺伝子をもつ人が淘汰されて残ってきたのだろうという。

ネットで行われているのは、悪いところを無理やりにでも見つけ出して悪者を設定し、我が身は大勢が支持するはずの正義を代表する立場において、悪者を容赦なく攻撃する。
向社会性が強い人にとって愛と正義は最も重要なもの。しかしそれによって不寛容な社会が作り出されることもある。愛と正義のために、合理的な解決法が見えなくなってしまう。

著者は、戦争ほど非人道的なものはないというのは逆ではないかと主張する。人として守るべき道を進んでしまうからこそ、違う道を進んでいる人を許せず、争いに発展する。戦って生き延びてきた祖先のDNAを継いだ人間は戦うことが大好きで、戦うことによってしか発展し、生き延びることができなかったというのが根拠である。

あらゆる紛争は干渉している側が愛と正義に立脚しているという認識を持っているという。ネットで日々起こっている不寛容のスパイラルに警鐘を鳴らす。→人気ブログランキング

シャーデンフロイデ  他人を引きずり下ろす快感/ 幻冬社新書/2018年
サイコパス/文春新書/2017年
ヒトは「いじめ」をやめられない/小学館新書/2017年