読書

2023年2月15日 (水)

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 花田菜々子 

主人公は33歳の女性。別居中の夫と、月に1回会って話し合いをしている。
大学時代からサブカルチャーにどっぷりと浸かり、卒後は水商売で金を稼いだ。10年前から下北沢の「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードに勤め、やがて店長になった。ヴィレッジヴァンガードは入社当時の魅力がなくなっている。
尊敬する上司に対面で本を紹介する機会があり、そのときの興奮と面白さが忘れられず、人に会ってその人に合った本を紹介するという目的で、出会い系サイト「X」に登録した。それを著者は修業と呼んでいる。
作為的な発想だが、それでも引き込まれるのは、著者の攻める姿勢だろう。
0a24e5908f7f4a15b42a8cb5c63081c2 出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと
花田菜々子 
河出文庫 
2020年 248頁

4人目まではろくでもないやつばかりだった。
とりあえずセックスって言ってみるやつ。結婚しているけど、俺はセックスしても問題ないと言ってくるやつ。30分の時間いっぱい手品とポエムを発表するやつ。年収5千万と嘘をつくやつ。メチャクチャなやつばかりだった。このあたりは予測どおりだ。

5人目は巨人の松井のような体格のいい男性。本をすすめているならコメント欄に推奨した本の紹介と理由を書いた方がいいと、アドバイスされた。松井のような男は「X」の創立からのメンバーで、「Xポリス」のようなことをやっているという。マルチ商法とかネットワークビジネスや宗教の勧誘を摘発するという。
最近は、おとなしい新規登録者ばかりで盛り上がりに欠けるという。個性的な著者は期待される有望株だという。

次は遊び回ってる女性と会った。話が弾み、また会おうと約束したが、その後会っていない。
医大生に会った。世界を旅するのが夢で、沢木耕太郎の『深夜特急』『荒野へ』が愛読書だという。ケルアックの『オン・ザ・ロード』を紹介した。

そして、サイト「X」のランキングで、有名企業家や古株に混じって著者が人気ベストテン入りするようになった。

カリスマ書店ガケ書房のオーナーに会いたいと思った。
20歳代の中頃に、京都のガケ書房を訪れたときの感激が忘れられない。その後年に2〜3回、ガケ書房を訪れていた。思いの丈をメールに書いて、ガケ書房の店長に送った。そして店長に会う。

ビブリオバトルのようなイベントを企画した。主催者の3人がゲストに本を紹介し合うイベントである。その日、祖父の通夜と重なってしまった。家族の中で不良なのは祖父と著者だった。2択で悩んだら自由な生き方の方を選択しろと言っていた祖父の教えにしたがって、通夜はすっぽかした。イベントは大成功だった。

紹介する本には、ひと言の紹介文やちょっとしたサマリがつけられているところがいい。
著者は、2022年9月に高円寺に書店「蟹ブックス」をオープンさせた。→人気ブログランキング  
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2022年12月23日 (金)

未読王購書日記 未読王

埃にまみれてシミができ変色したどうみても読みそうにない本を処分した。その中には、後で買うことになる『カジノ・ロワイヤル』(イアン・フレミング/東京創元社/1963年)と『ミステリ・ハンドブック』(早川書房編集部編/ハヤカワ・ミステリ文庫/ 1991年)が含まれていた。『未読王購書日記』(未読王/本の雑誌社/2003年)が見当たらないので、処分した中に入っていたかと思ったが、本棚の隅に捨てようかどうか迷っているグループの中にあった。
Photo_20221223140701未読王購書日記
未読王
本の雑誌社
2003年

『未読王購書日記』は、タイトルどおり、ただただ著者が古書やたまに新刊本を購入し、それにちょっとした日常の出来事をくわえた、なにが面白いのか説明し難い本だ。なにしろ処分しようと思った本だ。未読王の正体は男性であることは間違いないが、住んでいるところが名古屋くらいしか情報が漏れていない。というのははるか昔の話で、今はオフ会を主宰しているらしい。

未読王はむちゃくちゃ本を買いこむ。すでに所有している本を、ダブりとわかっていてもトリプルかもしれないと思っても構わず買う。どうかしているのじゃないかと思うくらい無茶をする。将来古本屋でもやるつもりなのか。ターゲットは多くがミステリやSFである。10冊に3冊くらいはタイトルに記憶のある本が出てくるが、あとは知らない本ばかりだ。未読王の本に関する知識は並ではない。所有書籍数が2万冊を超えているとのことなので、未読王は買った本を覚えきれないし、ましてや読むことなど到底叶わないと開き直り、ダブリもトリプルもやむをえないと言い訳をする。本の内容については、ほぼ触れていない。なんともいえない魅力とそしてパワーに満ちた本である。不思議なことに奇書『未読王講書日記』のページをめくると俄然本を買いたくなるのだ。

おそらく未読王は買うこと自体が楽しいのであって、買う本を選ぶときの高揚感に抗すことができないのだろう。購入を決めた本をレジへ持っていって金を払い自分の所有物になったことに、極上の幸福を感じるのだろう。その幸福感もせいぜい続いて数日だ。わたしも同類だから想像がつく。購書依存症なのだ。買った本はしばらく身の回りに置いておく。だから鞄の中は買ったばかりの本と読みかけの本が何冊も詰まっている。わが購書の黄金律は「手に入れたいと思った本は躊躇なく買う」で、ミステリ好きだが特にジャンルは決まっていない。もちろんダブりもトリプルもある。

2万冊はどこに収納しているのだろう。倉庫でも借りているのだろうか。わたしの場合、未読王の四分の一ほどだが、同居者からは増える本に散々嫌味を言われてきた。それはなんとかやり過ごしている。
ところで、『カジノ・ロワイヤル』と『ミステリ・ハンドブック』を買い戻した理由である。『カジノ・ロワイヤル』には、ジャームス・ボンドがレストランの前菜に鰐梨を食べるところが出てくる。鰐梨とはアボカドのことだというのをどこかで読んで、それを確認しようと思った。『ミステリ・ハンドブック』は、取り上げられている「読者が選ぶミステリ・ベスト100」つまり「オールタイムズ・ベスト100冊」を読んでしまおうと思い立ったからだ。
こうしてわたしのスラップスティックな購書ライフは続く。→人気ブログランキング
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2019年10月19日 (土)

読書会入門 人が本で交わる場所 山本多津也

最近、読書会がブームだという。
著者は、2006年、仲間4人で読書会をはじめた。最初に選んだ課題本はカーネギーの『人を動かす』。それまでに受講した経営セミナーでは味わったことのない充足感と高揚感に包まれ、インプットだけでなくアウトプットすることの効果を実感したという。
以後、月に1回、定期的に開催している。ミクシーでコミュニティを立ち上げると参加者が増え、2年で会員数は1000人を超すようになった。
82020d25b6d84c5296eec85c13b97cb8読書会入門 人が本で交わる場所
山本 多津也 (Yamamoto Tatsuya
幻冬社新書
2019年9月 182頁

「猫町倶楽部」と名付け、その分科会として映画を語る「シネマテーブル」、美術や音楽芸術一般を扱う「藝術部」、性愛をテーマとする「猫町アンダーグラウンド」、哲学を扱う「フィロソフィア」を立ち上げた。
仮面を付けたり浴衣を着たりのドレスコードを課したり、ゲストを呼んだり、温泉旅行に出かけたりした。
そうした参加者を集めるため努力が実り、今や1年間の参加人数は約9000人、年間イベント回数は200回の巨大読書会コミュニティになった。
猫町倶楽部ではすでに60組のカップルが結婚しているという。

読書会は課題本型を採用している。参加者6~8人で一つのグループを作り、司会役としてファシリテーターを選ぶ。参加者1人ずつに自己紹介と作品の気になったことを話してもらう。1度の読書会で1時間半~2時間をかける。

課題本は、極力、古典や名著を選ぶ。もう一つは、脳が汗書く本、自分だけでは読み終えることが難しい本を、選書することにしているという。基本的に、ベストセラーやエンタメ小説が課題本になることはない。

参加者は参加費と懇親会費を払い、ゲストを呼ぶ場合は料金が上乗せされる受益者負担。ただし、運営はすべてボランティアが行い、3回以上会に出席した経験がある人をサポーターと呼び、その中からボランティアを募る。
会運営の方針は、合議制にせず、テーマは著者がすべて決める。会則を明文化しない。来る者は拒まず、会員の囲い込みをしない。
参加者に課せられることは、他人を批判しない。もうひとつ、ネットで議論しない。ネットでは議論が苛烈になり過ぎる。→人気ブログランキング
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読書会入門 人が本で交わる場所/山本多津也 /幻冬社新書 /2019年9月
翼を持つ少女 BISビブリオバトル部 上下/山本弘/創元SF文庫/2016年
猫町倶楽部のサイト

2018年5月16日 (水)

翼を持つ少女 BISビブリオバトル部 山本 弘

ビブリオバトルをテーマにしたライトノベル。
ビブリオバトルとは、本について意見を戦わせたり語り合うことが、新たな読書に向かわせるという考えのもとに、立命館大学の谷口忠大によって考案された知的書評合戦のこと。
【ビフリオバトルの公式ルール】ビブリオバトル普及委員会
知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト
1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2.順番に一人5分間で本を紹介する。
3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
4.全ての発表が終了した後に、「どの本が一番読みたくなったか」を基準とした投票を参加者全員で行い、最多得票を集めた本を『チャンプ本』とする。

本書の主人公、伏木空(ふしきそら)は、中学生の時に、好きな男子にラブレターを送ったことが原因で、いじめられるようになった。
いじめを知っている生徒がいない高校へ進学したかった空は、公立高校へは進学せず、私立の美心国際学園(BIS)に入学した。BISは制服がなく髪の色も自由、おおらかな校風なのだ。
空は無類のSF好き。そんな空が同じクラスの埋火武人(うずめびたけと)に誘われて入部したのが、ビブリオバトル(BB)部である。
女性のSF好きは珍しいが、空のSFに対する知識も情熱も生半可なものではない。

武人は埋火酒造の御曹司で、武人の祖父の蔵書にはSF小説が多数あった。武人はSFにはまったく興味がなくノンフィクションしか読まなかったが、空の影響でSFに目を向けるようになる。

Photo_20201203083901 翼を持つ少女 上 
BISビブリオバトル部1
山本 弘
創元SF文庫
Photo_20201203084001 翼を持つ少女
BISビブリオバトル部1
創元SF文庫
2016年

ビブリオバトルのデビュー戦で散々な結果に終わっった空が悔やんでいると、武人は空を諭した。
「ビブリオバトルで選ばれるのはあくまでチャンプ本であって、チャンピオンではない。チャンプの栄誉はその発表者ではなく本に与えられる。発表者の良し悪しを競っているわけじゃない。あくまで、本が主役なのだ」と。
というのは建前で、チャンプ本をプレゼンテーションした選手は、当然、勝利の栄誉に浴する。

BIS高のBB部の色の黒い混血の女子部員が、双子沢高校社会学研究会の部員から、人種差別的な言葉を投げかけられた。この事件が発端となって、両校はビブリオバトルで戦うことになった。

空は出場しない予定だったが、やる気満々で自分から出場を志願した。空が取り上げた本は、本書で何度か取り上げられるエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』。フェッセンデン博士が実験室内に宇宙を作り出すSFの短篇である。

本書にはビブリオバトルのほかにもうひとつのテーマがあり、それは人種差別である。
関東大震災時の朝鮮人の虐殺について語られ、この事件にこだわりすぎるきらいがある。また、性的な描写も掲載され話題にのぼった『アンネの日記 増補版』がバトル本に取り上げられている。
なにしろ、144冊の本について触れられていて、本好きには見過ごせない内容になっている。本好きというのは、本のタイトルが並んでいるだけで、その本を読んでみたいと思うもなのだ。→人気ブログランキング

翼を持つ少女
『世界が終わる前に』
『幽霊なんて怖くない』
『君の知らない方程式』

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