環境問題

2022年3月23日 (水)

グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす 森川潤 

著者は、新たにエネルギー業界の盟主に躍り出てきた企業を「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼ぶ。いずれも10〜20年前に、再エネへと舵を切った企業である。そして今、時代が追いつき、彼らは世界のエネルギー変革の主役となっている。
日本ではグリーンジャイアントは生まれていない。
5a4ced4fd5a54eb28e70d81ef783f9d4グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす
森川潤 
文春新書 2021年

世界の石油会社大手が、再生可能エネルギーを扱う会社に株価で抜かれている。欧米では、政治、エネルギー、金融システム、イノベーション、若者のライフスタイルから資本主義の再構築まで、気候変動をめぐる一つの物語として共有されているという。

日本は先進国に10年遅れ、それを追いかけている状況。京都議定書の再調印を拒否したこと(1998年)、東日本大震災(2011年)さらに太陽光発電バブル(2019年)が遅れを引き起こした。
2012年、野田政権下で再生可能エネルギー特措法が施行された。2019年、異様に高価格で買取が行われることとなり、参入すれば誰でも稼げる太陽光バブルをもたらした。
そもそも、日本政府には地球温暖化を他人事と捉えているような姿勢が感じられるという。

中国は2060年までにカーボンニュートラルを宣言しているが、最大のCO2排出国であり、逆に再生エネルギーでも世界最大の規模を兼ね備え、原発も建設をし続けている。

デンマークのオーステッド社は、もともと石油会社だったが、2008年に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を宣言した。オーステッド社は世界の洋上風力事業者のトップであり続けている。デンマークは、2025年までにカーボンニュートラルを宣言しており、2023年までに石炭火力を全廃することも明言している。約7兆円に上る時価総額は、日本の電力10社を足した額を上回る。

アップルは2030年までにカーボンニュートラルを目指す。サプライヤーは再エネ100%で部品や素材を製造しないと、アップルに使ってもらえない。
さらに踏み込んだのがマイクロソフトである。1975年創業以来、電力をはじめ排出してきたすべてのCO2をゼロにするという。CO2除去技術に10億ドルを4年間にわたって投資するという。ミレニアム世代やZ世代は、『エシカル(Ethical)消費』という環境や社会に良いことをして企業しか応援しなくなり始めている。

欧州メーカーはこぞって電気自動車(EV)への移行を宣言している。フォルクスワーゲンは2030年までに7割を、欧州販売のスウェーデンのボルボは2030年までに、イギリスのランドローパーは2036年までに、メルセデス・ベンツは今後すべての新型車をEVとするとしている。
しかし、充電池を製造する際に排出されるCO2はかなりの量になる。EVであるテスラのモデル3の方がガソリン車であるトヨタのRAV4と比べて、製造段階で2倍近くのCO2を排出している。CO2排出量は、モデル3が3万3000キロ走行した時点でRAV4と並ぶという。
中国はガソリン車では性能の良い車を作ることができないから、EV車の開発を国家戦略としている。年間2500万台の新車売上台数を誇る、世界最大の自動車市場である。

インポッシブル・バーガーとビヨンド・ミートはアメリカの代替肉の会社。牛のゲップのメタンガスは二酸化炭素よりも温室効果をもたらす度合いが遥かに強い。ミレミアム世代以下の若者は自分達にも気候変動の責任があるとして、代替肉を食べている。

スウェーデン発の代替乳製品生産会社オートリーは、植物性のオーツミルク(燕麦性ミルク)」を展開するメーカである。オートリー社によると、牛乳に比べ1リットルあたりで温室効果ガス排出量を80%、土地使用を79%、エネルギー消費を60%削減することができるとしている。オートリーはコーヒーとの相性が良い。米国ではスターバックスがオートリー製品を全店で展開することとなった。
牛肉も食べるけれど、できるだけ量を減らして植物肉を食べるというフレキシタリアンが増加している。

ビル・ゲイツは気候変動をめぐるあらゆる分野のイノベーションに投資をしている。
ゲイツの原発ベンチャー「テラパワー」では、ナトリウム(水素ではなくナトリウムを用いる小型原子炉)の開発が行われている。ナトリウムとはテラパワーが手がける新型原発の名前であり、ワイオミング州での建設が決まった。
ナトリウムの発電能力は従来の100万キロワットと比べ35万キロワットと少ない。さらにウランの濃縮濃度が5〜20%と従来の5%より高いものを用いる。ウランの濃縮度が低いほど使用後の放射性廃棄物が増える。ナトリウムでは原子炉の冷却に水を使わずナトリウムを使う。ゲイツは複雑さがヒューマン・エラーを起こす原因と考えている。

世界のトレンドはSMR(Small Modular Reactor)と呼ばれる小型原発だ。SMRは工場で作られ、現地での備え付けは簡単な工事だけで済むという。

日本は、2030年までにCO2の削減を50%を目指し、実際には46%の削減を公言した。原発を最大限活用していくことになるだろう。コンパクト原発の建設の議論も出てきている。
日本は原発に対する議論を避けてきたせいで、著者はこの目標は達成困難とみている。目的を達するには2030年30基ある原発を80%稼働させなければ不可能であるという。

著者は日本の体質の弱点をこう分析する。日本は1990年前後の成功体験から抜け出せず、その仕組みを変えたくない、という意識が根底にある。気候変動をめぐる議論も同じである。→人気ブログランキング
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2021年10月10日 (日)

グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ 明日香壽川

著者は、東北大学教授。エネルギー・温暖化問題の科学・技術や政治経済的な側面を研究している。
「グリーンニューディール」とは、再エネと省エネの導入による景気の回復及び雇用拡大と温暖化防止である。「グリーンリカバリー」とは、「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済停滞からの復興を、気候変動対策とともに進める」というような意味合いで使われる。
本書は、2050年までに、本気でカーボンニュートラルにするにはどうしたらよいかについて書かれている。
01e8504bfe0d44999718447f00b6ab58グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ
明日香壽川(Asuka Jusen)
岩波新書 
2021年6月 260頁

気候変動に伴うジャスティス(正義)という言葉にも説明がいる。
環境正義とは、⑴一人当たりの温室効果ガス排出量が少ない途上国の人々が、一人当たりの排出量の多い先進国の人々よりも、気候変動によって大きな被害を受ける(途上国は気候変動の影響を受けやすい第一次産業が主要産業である)。⑵先進国の中でも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが、より大きな被害を受ける。⑶今の政治に関わることができない未来世代がより大きな被害を受ける。どれも定量的な事実である。

温暖化対策を阻害しているのが、温暖化懐疑論。
つまり、温暖化していない。CO2排出は温暖化と関係がない、温暖化してなにが悪いというもの。こうした人たちは、⑴化石燃料会社の関係者⑵情報リテラシーが低い人⑶反対することで経済的利益をうる人などである。

多くの人々が、1.5℃以下の気温上昇を抑制する場合は2030年までに世界全体で50%、ジャスティスを考えれば先進国は100%近くCO2排出量を減らす必要があることを知らない。温暖化対策に関心がある人でも知らない人は多い。

多くの研究者にとって京都議定書(1997年)は、大きな期待であり希望であった。京都議定書の第一約束期間が終わる直前の2010年、アメリカ、カナダ、ロシア、日本は京都議定書の延長に反対した。
日本政府が反対したのは、東京電力を代表とする電気産業、新日鉄(現日本製鉄)に代表される製鉄業界、トヨタを代表する自動車産業が温暖化対策に消極的だったからである。
環境立国になりえた日本は、あえてリーダーシップを取らない普通の国になった。

日本は省エネの先進国だというのは間違いである。1990年ごろまでは確かに省エネの先進国であったが、その後は先進国で最低レベルである。もうひとつ温暖化対策先進国というのも間違いである。世界56カ国と比べると、日本は最下位グループに属している。
さらに、日本は2050年カーボンニュートラルを宣言したものの、現行の目標や政策の大きな変更は認められず、政治家も官僚も企業も、2050年のカーボンニュートラルはどうでもいいと思っている感がある。
こういう誤解は政府が抱える御用学者が政府につごのいい情報を流布するから起こる。

米国エネルギー情報局によると、既に多くの国や地域で、太陽光や風力が最も安い発電技術であり、国によっては既存の火力発電所の運転コストよりも安くなっている。原発の競争力は著しく低下する。
米国で新しい原発の発電の平均コスト(初期建設コストと運転コスト)は、新しい風力や太陽光による発電設備の平均コストの4倍である。
さらに、原発にとって問題なのは、運転コストが再エネの平均コストと同レベルになりつつあることだ。

IEA(国際エネルギー機関)の2020年の報告書によれば、「原子力と石炭火力よりも再エネや省エネの方が、温暖化対策としてのコストは小さく、雇用創出効果は大きい」という。
これは、「原発が経済という意味でも温暖化対策という意味でもベスト」という日本政府の議論を真っ向から否定するものである。

日本で原子力発電や火力発電が廃れない理由は、原子力ムラ、火力発電ムラを潰さないための政策がとられているからだ。
10年間も稼働しない原子力発電所を抱えている電力会社が危機に陥らないのはなぜか?原発が温暖化のためでないとしたら、何のためか。それは中国が途上国の原子力発電所の建設を目論んでいる。対中技術覇権維持である。

欧州や米国では、産業界にエネルギー転換は避けられないものという覚悟がある。企業は政府との条件闘争に入っている。日本ではそのような状況にない。どうせ政府はいつものように口先だけだろうと思っている。ゆえに真剣な議論をしない。それが日本の現状である。

パリ協定の2050年にカーボンニュートラルを達成するとは、地球全体での目標であり、途上国も早期に温室効果ガスの排出をピークアウトする必要がある。 
温室効果ガスの排出削減問題は、突き詰めると「現世代と将来世代との間で、有限の温室効果ガス排出量を、何らかのルールのもとで正義や公平性を考慮しながら分配する」という命題に帰結する。
このようなジャスティスの問題を解決するためには、個人の努力だけでは不可能で、社会システムの変革が必要である。

今の社会システムを維持したい人々は、「個人のライフスタイルを変えよう」という耳あたりの良いフレーズをメディアなどで流す。個人が変わるのは重要なものの、多くの場合、このようなフレーズは、個人の問題に転嫁するすることで、社会システムのチェンジを阻止することを目的とした目眩し戦術でしかない。そのことに気づかず、無意識に騙されている人は非常に多い。

社会システムを変えるパイロットスタディがウェールズで行われている。
2015年ウェールズで制定された「未来世代の豊かさと幸せに関する法」は、政府や地方自治体などのすべての公的機関での意思決定において、未来世代の利益が十分に考慮されているかの検討を義務づけた法律である。
この法律は、社会、環境、経済そして文化という四つの側面から「豊かさと幸せ」を考え直し、より良い意思決定によって、未来世代だけでなく現代の貧困、教育、失業などの複雑な問題を解決することを目的としている。→人気ブログランキング
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グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ/明日香壽川/岩波新書/2021年
ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳・江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

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