グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす 森川潤
著者は、新たにエネルギー業界の盟主に躍り出てきた企業を「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼ぶ。いずれも10〜20年前に、再エネへと舵を切った企業である。そして今、時代が追いつき、彼らは世界のエネルギー変革の主役となっている。
日本ではグリーンジャイアントは生まれていない。
グリーンジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす 森川潤 文春新書 2021年 |
世界の石油会社大手が、再生可能エネルギーを扱う会社に株価で抜かれている。欧米では、政治、エネルギー、金融システム、イノベーション、若者のライフスタイルから資本主義の再構築まで、気候変動をめぐる一つの物語として共有されているという。
日本は先進国に10年遅れ、それを追いかけている状況。京都議定書の再調印を拒否したこと(1998年)、東日本大震災(2011年)さらに太陽光発電バブル(2019年)が遅れを引き起こした。
2012年、野田政権下で再生可能エネルギー特措法が施行された。2019年、異様に高価格で買取が行われることとなり、参入すれば誰でも稼げる太陽光バブルをもたらした。
そもそも、日本政府には地球温暖化を他人事と捉えているような姿勢が感じられるという。
中国は2060年までにカーボンニュートラルを宣言しているが、最大のCO2排出国であり、逆に再生エネルギーでも世界最大の規模を兼ね備え、原発も建設をし続けている。
デンマークのオーステッド社は、もともと石油会社だったが、2008年に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を宣言した。オーステッド社は世界の洋上風力事業者のトップであり続けている。デンマークは、2025年までにカーボンニュートラルを宣言しており、2023年までに石炭火力を全廃することも明言している。約7兆円に上る時価総額は、日本の電力10社を足した額を上回る。
アップルは2030年までにカーボンニュートラルを目指す。サプライヤーは再エネ100%で部品や素材を製造しないと、アップルに使ってもらえない。
さらに踏み込んだのがマイクロソフトである。1975年創業以来、電力をはじめ排出してきたすべてのCO2をゼロにするという。CO2除去技術に10億ドルを4年間にわたって投資するという。ミレニアム世代やZ世代は、『エシカル(Ethical)消費』という環境や社会に良いことをして企業しか応援しなくなり始めている。
欧州メーカーはこぞって電気自動車(EV)への移行を宣言している。フォルクスワーゲンは2030年までに7割を、欧州販売のスウェーデンのボルボは2030年までに、イギリスのランドローパーは2036年までに、メルセデス・ベンツは今後すべての新型車をEVとするとしている。
しかし、充電池を製造する際に排出されるCO2はかなりの量になる。EVであるテスラのモデル3の方がガソリン車であるトヨタのRAV4と比べて、製造段階で2倍近くのCO2を排出している。CO2排出量は、モデル3が3万3000キロ走行した時点でRAV4と並ぶという。
中国はガソリン車では性能の良い車を作ることができないから、EV車の開発を国家戦略としている。年間2500万台の新車売上台数を誇る、世界最大の自動車市場である。
インポッシブル・バーガーとビヨンド・ミートはアメリカの代替肉の会社。牛のゲップのメタンガスは二酸化炭素よりも温室効果をもたらす度合いが遥かに強い。ミレミアム世代以下の若者は自分達にも気候変動の責任があるとして、代替肉を食べている。
スウェーデン発の代替乳製品生産会社オートリーは、植物性のオーツミルク(燕麦性ミルク)」を展開するメーカである。オートリー社によると、牛乳に比べ1リットルあたりで温室効果ガス排出量を80%、土地使用を79%、エネルギー消費を60%削減することができるとしている。オートリーはコーヒーとの相性が良い。米国ではスターバックスがオートリー製品を全店で展開することとなった。
牛肉も食べるけれど、できるだけ量を減らして植物肉を食べるというフレキシタリアンが増加している。
ビル・ゲイツは気候変動をめぐるあらゆる分野のイノベーションに投資をしている。
ゲイツの原発ベンチャー「テラパワー」では、ナトリウム(水素ではなくナトリウムを用いる小型原子炉)の開発が行われている。ナトリウムとはテラパワーが手がける新型原発の名前であり、ワイオミング州での建設が決まった。
ナトリウムの発電能力は従来の100万キロワットと比べ35万キロワットと少ない。さらにウランの濃縮濃度が5〜20%と従来の5%より高いものを用いる。ウランの濃縮度が低いほど使用後の放射性廃棄物が増える。ナトリウムでは原子炉の冷却に水を使わずナトリウムを使う。ゲイツは複雑さがヒューマン・エラーを起こす原因と考えている。
世界のトレンドはSMR(Small Modular Reactor)と呼ばれる小型原発だ。SMRは工場で作られ、現地での備え付けは簡単な工事だけで済むという。
日本は、2030年までにCO2の削減を50%を目指し、実際には46%の削減を公言した。原発を最大限活用していくことになるだろう。コンパクト原発の建設の議論も出てきている。
日本は原発に対する議論を避けてきたせいで、著者はこの目標は達成困難とみている。目的を達するには2030年30基ある原発を80%稼働させなければ不可能であるという。
著者は日本の体質の弱点をこう分析する。日本は1990年前後の成功体験から抜け出せず、その仕組みを変えたくない、という意識が根底にある。気候変動をめぐる議論も同じである。→人気ブログランキング
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