桜の科学 勝木俊雄
今まさに、日本列島を桜前線が北上するなか、桜の木が全国的に伐採されるというニュースが流れている。たとえば、2022年3月には横浜市の海軍道路の200余本の桜が、道路の拡張工事に伴い伐採されると報じられた。植樹から約50年が経ち桜は老木となり、昨年は台風により倒木したことがあったという。ソメイヨシノの寿命は50年なのか?
桜の科学 日本のサクラは10種だけ? 新しい事実、知られざる由来とは 勝木俊雄 SBクリエイティブ株式会社 2018年 191頁 |
染井吉野(本書では漢字で表記している)は染井吉野の花粉では結実できない。それゆえ結実させるには、他の種類の桜の花粉を交配させることになる。そうすると父親の特徴が表に出て、染井吉野ではなくなってしまう。染井吉野を増やすには、挿木や接木、取木で増やす方法で行われてきた。染井吉野がクローンであるというのはここからきている。
染井吉野は、はじめ数輪咲いたあと8割が咲く満開には1週間くらいかかる。染井吉野の場合、すべて同じ遺伝子を持つクローンなので、開花時期のタイミングが揃う。それゆえ一斉に咲くといわれるのである。
染井吉野は明治時代に存在が確認された。その特徴は、成長が早いこと。1年で2メートル以上となり、10年で10メートルに達するという。20メートルくらいになると成長が止まる。成長が止まると、樹木は古い枝を落とし新しい枝を出すが、染井吉野はそれがうまくいかない。古い枯れ枝が目立つようになり、花の鑑賞価値も下がる。そのせいで染井吉野は短命といわれるのではないかという。
韓国の済州島が染井吉野の原産地であるといわれたことがある。国際的には済州島説は否定されているが、韓国では今でも支持されている。染井吉野は野生種ではなくエドヒガンとオオシマザクラ種間雑種である。しかしどこで雑種が生じたかは諸説あり、誕生の場所は確定されていない。
サクラの管理に「桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿」は、サクラは切るとその部分が腐りやすく、ウメは余計な枝を切らないと、翌年花がうまく咲かない違いからいわれる言葉である。その言葉どおりであるが、サクラの古い枝は切ったほうがいい場合もある。
本書にはこうした項目が50ある。
著者は、1967年生まれ。1992年東京大学農学部卒業、農学博士。現在国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所多摩森林科学園 チーム長。樹木学、植物分類学、森林生態学が専門。20年以上サクラを研究している。著書に『桜』(岩波新書)、『生きもの出会い図鑑 日本の桜』(学研プラス)などがある。(本書の著者紹介より抜粋)→人気ブログランキング
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