SF

『亡霊星域』アン・レッキー

舞台は、遠未来の銀河系。前作の『叛逆航路』をかいつまんで紹介すると、
いまや、惑星間国家ラドチが人類世界の大半を支配している。ラドチは従わない惑星を武力で併呑することを繰り返し巨大化してきた。併呑された惑星民にとって、ラドチに対する遺恨の念は拭いきれないものとなっている。
ラドチ圏を3000年前から支配する絶対皇帝アナーンダ・ミアナーイは、何千もの肉体を持ち、ラドチ圏のあらゆるところに存在している。それが、穏便な方のアナーンダとそうでない方のアナーンダに分かれ、敵対しはじめたのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
亡霊星域
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アン・レッキー
赤尾秀子 訳
創元SF文庫  2016年4月
売り上げランキング: 28,309

主人公のブレクは、2000年前の兵員母艦〈トーレンの正義〉で、あまたの属躰を統率する立場にあったAIであり属躰でもあった。20年前の事件で、〈トーレンの正義〉の属躰はブレクはひとりになった。
属躰とはラドチが侵略した惑星の人間にAIをインプラントし戦闘用に改造したものである。
ブレクの正体を知っているのは、前作で極寒の地で行き倒れになっていたところをブレクが助けたセイヴァーデンだけである。セイヴァーデンは生まれもいいし、気品も備わった艦長にふさわしい人物であると、ブレクは評価している。

本作は、艦隊指揮官の立場にあるブレクが、〈カルルの慈(めぐみ)〉の艦長として、辺境の地アソエクの星系に赴任するところからはじまる。ブレクは、セイヴァーデン副官と新米副官のティサルワットを従えている。ブレクはティサルワットの不手際を強引な方法で修正させた。

ところで、ラドチ圏の特徴的な習慣として、ラドチーナは男女の区別はなく、ジェンダーを意識しない。三人称の呼称は「彼女」が用いられる。性別の意識がないかわりに、人種や家系や階級、宗教や社会的地位などによる差異が、きわだっている。礼儀をわきまえているとかそうでないとか、上下関係によって起こる感情の齟齬が、重大事として扱われるのである。

前作でオマーフ宮殿での暴動事件の後、星系間ゲートは封鎖され軍艦以外は星系の外に出ることも情報のやりとりもできない状況になっている。
600年前にラドチに併呑されたアソエクの星系には、4つの星系間ゲートがあり、ひとつは無人の星系に続くゴーストゲートである。
アソエクはステーションと呼ばれるドームで囲われた緑と湖がきれいなガーデンと、それを支えるアンダーガーデンから構成されている。
ブレクは下層民の居住地区アンダーガーデンに宿泊して、下層民の窮状を知ろうとする。→人気ブログランキング

アソエク星系に以前から駐留している軍艦〈アタガリスの剣〉の艦長は、艦隊司令官のグレクに従わざるをえないことが大いに不満なのだ。
大茶園主に不当な労働条件を強いられる労働者や、不当な扱いをうける下層民の生活を改善しようと、ブレクは行動するのだが、反発を買うことになる。また有力者の子弟が起こした性的虐待が、思わぬ事故に発展する。

『星群艦隊』
亡霊星域
叛逆航路

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介

擬似科学を容易に受け入れてしまう人間社会の危うさがテーマ。事件を追いかけるジャーナリストの「わたし」が俯瞰的視点で語る。
著者の多岐にわたる豊富な知識、奔放な発想力、そして卓絶な表現力に脱帽である。

彼女がエスパーだったころ
宮内悠介
講談社
2016年4月

「百匹目の火神」The Biakiston Line
火を使うことを人から教えられたニホンザルの能力が、猿たちの間に広がっていき、猿による放火事件が起きた。空き巣のあと、火をつけたのだ。
猿たちは日本各地で集団放火事件を起こす。共時性の願いが伝播した現象と説明された。
人々は猿を殺傷したが、ニホンザルは天然記念物である。法律が障害となり対策は後手に回った。ある日、雨が止むように猿の放火が終焉する。
「彼女がエスパーだったころ」The Discoveries of Witchcraft
スプーン曲げで有名になった千晴は、大学の物理学教授と結婚した。
ところが、千晴の不在時に夫が非常階段で足を滑らして転落死した。超能力者とされた千晴に疑いがかかり、魔女狩りの事態にまで発展する。
「ムイシュキンの脳髄」The Seat of Violence
バンドのリードボーカルの網岡はなにかにつけ逆上した。
同棲相手で、同じバンドのベース担当のかなえは、網岡に対するオーギトミーに反対した。手術後、天使のように変わってしまった網岡に、かなえは違和感を感じた。
そして、網岡はかなえと別れ郷里に引退した。
オーギトミーの普及に努める医師を批判するフリージャーナリストが殺害される。
「水神計画」Solaris of Words
放射能汚染水に「ありがとう」と声をかければ浄化される話。
「薄ければ薄いほど」Remedy for the Remedy
ごくごく薄めてしまえば毒も薬になるというホメオパシーの疑似科学性が暴露される。
「沸点」The Budding Point
世の中を変えるには、一部の人たちが変わればいい。ある人数の人々が変われば、それが転換点(ティッピング・ポイント)となって、世の中は変わるという。

彼女がエスパーだったころ/講談社/2016年4月
アメリカ最後の実験/新潮社/2016年1月

『叛逆航路』アン・レッキー

ネヴュラ賞・ヒューゴー賞をはじめとする7冠に輝く話題作である。
遠未来の銀河系が舞台。人間は銀河系に広く居住している。
巻末に用語集あり。

本作にはユニークな設定がふたつある。
そのひとつは、ラドチ圏に暮らす人間のラドチャーイは性差を気にしないので、三人称単数は「彼女」が使われる。ところがラドチャーイ以外と会話をするときは、性を意識せざるを得ない。主人公のブレクがそのことを気にするあまり、言葉の選択に迷う場面がときどきあるのが面白い。
もうひとつのユニークな点は、レヴューの最後に記載する。

叛逆航路 (創元SF文庫)
叛逆航路
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アン・レッキー/赤尾秀子
創元SF文庫
2015年11月
売り上げランキング: 28,832

ブレクが、極寒の惑星にある酒場の近くに倒れていたラドチャーイのセイヴァーデンを助けるところから、物語ははじまる。セイヴァーデンは1000年前に死んだと思われていた。

アナーンダ・ミアナーイは、約3000年前から現在に至るまでラドチ圏を支配している皇帝である。
人間のふりをしているブレクの正体は、約2000年前に建造された戦艦〈トーレンの正義〉の装備のひとつであるAI・属躰(アンシラリー)である。
約1000年前、17歳のセイヴァーデンが、〈トーレンの正義〉の副艦長として着任した。やがて〈ナスタスの剣〉の艦長に昇進し転出したが、惑星ガルゼットの呑併さいに〈ナスタスの剣〉は破壊され、セイヴァーデンは行方不明となった。

今から19年前に〈トーレンの正義〉が、全乗組員ともに行方不明になる事件が起こった。
現在と19年前の出来事が交互に継ぎ目なく語られ、ストーリーは進んでいく。
はじめのうちは、腐れ縁で仕方なく一緒に行動するブレクとセイヴァーデンだったが、徐々に友情が芽生えていく。もちろん、わたし・ブレクからみたセイヴァーデンは、彼女である。

ラドチが併呑した属国との関係、ラドチの文化、家系による優遇、ラドチャーイのヒエラルキー、ブレクが仕えた副艦長の死、アナーンダの専制統治に対する不満、反乱・惨殺事件などが描かれている。
そして、ブレクがアナーンダに復讐しようとする理由は何かが、徐々に明らかにされていく。

ユニークな設定のもうひとつは、ブレクの素性は属躰(アンシラリー)と呼ばれるAIであり、複数で自我を共有している集団人格である。かつてブレクは20の体をもっていた。ラドチ圏を支配するアナーンダも何千もの体をもち、同時に何百か所にも存在すると設定されている。
ということは、アナーンダもブレクと同じようにAIなのだろうか?という疑問が浮かんでくる。しかし、解決されないまま物語は終わる。
謎は続編の『亡霊星域』『星群艦隊』にもちこされる。

『ストーカー』アルカジイ&ボリス・ストルガツキー

地球外生命体との接触がテーマ。
生命体がなんの目的で訪れたのか、これから何が起こるのか、手がかりがまったくないまま物語は進んでいく。

〈来訪ゾーン〉は地球に6箇所あり、そのひとつがソビエトのとある町・ハーモントにある。〈ゾーン〉に潜り込み、持ち出せるものはなんでも手当たり次第に持ち出してくる向こう見ずな連中のことを、ハーモントではストーカーと呼んでいる。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
ストーカー
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アルカジイ ストルガツキー ボリス ストルガツキー/深見 弾 訳
ハヤカワ文庫
1983年2月

ストーカーはいい稼ぎになることもあるが、死と隣り合わせの危険な仕事であり、そもそも違法だ。
主人公のレッドとともに〈ゾーン〉に入ったキリールは、突然なくなった。両脚が腐った奴もいる。起こらずピンピンしている者もいる。家族が原因不明のひどい目に会うこともある。レッドの娘〈モンキー〉は口をきけなくなった。父親はボケた。

〈ゾーン〉には来訪者が潜んでいるのかいないのか、塵芥や腐敗物がだらけだったり、火山のように熱いところがあったり、不潔で危険極まりないところ。しかし地球には存在しないお宝が眠っている。

レッドは再び〈ゾーン〉に潜り込むが、命からがら脱出した。
不条理はなにも解決されないままだ。

『幼年期の終り』アーサー・C・クラーク

人類の進化に対するアイロニー。
ある日、巨大宇宙船の一群が、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、ローマ、ケープタウン、東京、キャンベラなどの大都市に現れた。
ある国がミサイルを発射したが、宇宙船は無傷であり、その国は崩壊させられた。
地球外生命体はオーバーロード(上帝)と呼ばれ、その代表であるカレルレン総督により、地球は支配されはじめた。しかし、オーバーロードの目的は明らかではなかった。
やがて人類は中空に停止し続ける宇宙船を、太陽や月と同じような天体として受け止めるようになった。

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))
幼年期の終り
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アーサー・C・クラーク
福島正美 訳
ハヤカワ文庫 1979年4月 ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

宇宙船が地球に現れてから5年が経過し、国同士の争いは起こらなくなり、地球は平和になった。
そして、ついにカレルレン提督が人類の目の前に姿を現した。
その姿は、皮に似た強靭な翼、短い角、さかとげのある尻尾を備えた巨体だった。人類が悪魔ととらえる姿とそっくりであった。

宇宙船が飛来して50年経つと、世界は単一国家になり、科学の発達はなくなった。
ひょんなことから、一流のピアニストであり天文学を学ぶジャンは、地球から40光年離れたオーバーロードの生まれ故郷を知ることになった。
ジャンはオーバーロードの帰還船に潜り込んで密航する計画を立てた。
オーバーロードの国に着いて戻ってくるまでに、ジャン自身には2か月の時間しか経たないが、地球では80年が経過する勘定になるのだ。
カレルレンは、定例会見で帰還船に紛れ込んだ人間がいたことを発表した。

やがてオーバーロードの目的が見えてきた。
地球は放っておけば滅びた。それをわれわれは救ったのだと。人類に危害を加えるためでも交流するためでもなく、人類を幼年期から青年期に進化させるための手助けをするために来たのだという。
しかし、最後に、オーバーロードが抱えるアイロニカルな進化の問題が明らかになる。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック

最終世界大戦の後、アンドロイドと人間の見分けがつかなくなった世界が舞台。
人間とはなにかを問いかける作品である。
放射線で汚染された荒廃した地球に取り残されたのは、他の惑星へ移住できない負の事情を抱えた人たちである。生きた動物を飼うことがステータスとなっている。
主人公のリックは電気羊を飼っていて、本物を飼うことが望み。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
フィリップ・K・ディック/朝倉久志 訳
ハヤカワ文庫 1977年3月
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

下級警察官のリックは、火星から脱走してきたお尋ね者の人型アンドロイドを殺して賞金を手に入れる賞金稼ぎである。同僚のディブが、脱走したアンドロイドに脊椎をレーザー銃で撃たれて負傷した。脱走した8人のうち2名はすでに廃棄処分になり、残るは6名。リックはデイブの情報を手掛かりに追跡捜査を開始する。

リックはオペラ歌手のプリスを仕留めようとしたところ、逆にレーザー銃を突きつけられ、リックが所属する警察署とは別の警察署に連行さる。危うく有罪にされそうになるが、なんとか逃げ切った。

世界最大のアンドロイド・メーカー、ローゼン協会の娘18歳のレイチェルから、アンドロイド殺しの手助けをしたいとの申し出があった。レイチェルは感情移入度テストで、アンドロイドと判定されている。
アンドロイドと関係を持つことは禁じられているにもかかわらず、リックはレイチェルの誘いにのってしまう。
そして、自ら感情移入度テストを受けると、芳しい成績とは言いい難い結果だった。リックは迷いを感じはじめた。

その後、リックはプリスのほか2人を仕留める。
いよいよアパートの立てこもった最後の3人をやっつける段になった。3人は、放射能で脳をやらたピンボケのイジドアをアゴで使っていたが、これが裏目に出てしまい、リックに殺される。

リックは懸賞金で、やっと望みの本物の山羊を手に入れるが、何者かに殺されてしまう。

見分けがつかない人間と人型アンドロイドの違いを著者はどう描き分けているのか。リックにしても、不満ばかり並べる妻にしても、ピンボケのイジドアにしても、相手を思いやる気持ちがある。つまり優しさがあるということだ。アンドロイドは自分や自分たちの利益を追求するだけで、思いやる気持ちは希薄である。
先の見えないリックの人生、分裂症気味の登場人物あるいはアンドロイドたち、そして解決しない結末を、さらりとした表現で描いている。

『星を継ぐもの』ジェームズ・P・ホーガン

本作のすごいところは、実際に長年にわたり答を見いだせずにいる人類の進化の謎に、説明をつけてしまうことである。
月面で真紅の宇宙服を着込んだ男の遺体が発見される。ルナリアンのチャーリーと名付けられたその遺体は死んでから5万年以上経過していると推定され、人間と同じ特徴を兼ね備えていた。

星を継ぐもの (創元SF文庫)
星を継ぐもの
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ジェイムズ・P・ホーガン /池 央あき訳
創元SF文庫 1980年 ★★★★★
売り上げランキング: 626

さらに、月の裏側で地下200フィートに建設された基地の廃墟が発見される。
その基地からは、ルナリアンの男女のばらばら遺体や食料とみられる魚や野菜も発見された。魚は地球上のものではなかった。

火星と木星の軌道の中間に、ルナリアンが住んでいた惑星ミネルヴァが存在していたことが判明する。
地球が最後の氷河期が最盛期にさしかかろうとした頃、それは太陽系全体にまたがる寒冷現象が起こった時期であり、ミネルヴァは生命滅亡の危機に瀕していた。この事態を回避するために、チャーリーよりずっと前の時代に、ルナリアンは他の惑星に移住する計画を実行していた。
チャーリーの手記が解読され、ミネルヴァが惑星間にまたがる全面的な核戦争で破壊されことが推測され、さらに、ルナリアンが月に到達した時期に、月面での大規模な核戦争が起きたとの結論に達した。チャーリーはその戦争で亡くなったのだ。

一方、木星の最大の衛星ガニメデの氷の底深くから、2500万年前の巨大宇宙船が発見された。その宇宙船の乗組員は人間とは似ても似つかぬ巨大な知的生物ガニメアンであった。さらに、まるでノアの方舟のように、太古の地球上の動植物が積み込まれていた。
ガニメアンの骨格とミネルヴァ産の魚の間には進化上の一致が見られた。

物理学者、生物学者、言語学者、技術者たちの懸命の解析が行われ、諸説が飛び交うが、どれもつじつまが合わず謎は深まっていくばかりであった。
そして30人ほどの研究スタッフを集めての会議で、調査委員会の責任者のひとり、原子物理学者のハントが謎を解き明かしてみせる。

『ニューロマンサー』 ウィリアム・ギブソン

サイバーパンクSF・ブームの引き金となったメモリアルな作品である。
日本をバックグラウンドの一部に設定しているのは、著者夫人が日本人に英語を教えていたことの影響だという。

ケイスは電脳空間(サイバースペース)カウボーイとして一流だったが、今は千葉市(チバ・シティ)の棺桶(コフイン)ホテルに寝泊まりする無頼(ゴロツキ)にまで落ちぶれている。
数年前まで、ケイスはマトリックスと呼ばれる共感覚幻想の中に、肉体を離脱した意識を投じる特注電脳空間デッキに没入(ジャック・イン)して、アドレナリン全開で活動していた。しかし、ケイスはカウボーイの掟を破り、雇い主の情報を売る裏切りを働いてしまう。その報いとしてソ連製の真菌毒(マイコトキシン)を注入されて、ジャック・インできない体になった。それを紛らわすため薬を使っている。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
ニューロマンサー
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ウィリアム・ギブソン/黒丸 尚訳
ハヤカワ文庫SF 1987年

そこに、救いの手を差し伸べるアーミテジが現れて膵臓を買い与え、手術が施され、ケイスは依存症から立ち直った。ところが、ケイスの大動脈には15個の毒嚢が埋め込まれ、任務をやり遂げるまで、アーミテジたちの手の内にいることになる。
ケイスの相棒である剃刀女モリイは、反射神経を神経外科的に加速して戦闘機能を持つ生体に改造されている。ケイスはモリイの肉体のなかに移行することを試みる。ただしケイスが何かできるわけではない、モリイのやることを一方通行で感じ取るだけだ。

アーミテジの後ろには、冬寂(ウィンターミユート)というAI(人工知能)がいることがわかった。冬寂は同族企業テスィエ=アンシュプール(T=A)によって創造された。
ケイスは冬寂の指示に従い、モリイとともにT=Aの本拠である自由界(フリーサイド)にいき、その機密部分に侵入を試みる。そして、ケイスはT=Aによって作り出された冬寂とは別の高度AIの存在を知る。冬寂はそのAIとの接触を求めていたのだ。
ふたつの高度AIが遭遇することで、起こることとは。。

『服従』ミチェル・ウェルベック

分裂に向かう欧州連合を再結束させるには、いかなる方策があるのか。本書の答はイスラム教への服従である。
本書にはイスラム原理主義者にとって、バラ色の未来予想図が描かれているにもかかわらず、2015年1月7日にフランスで本書が出版されると、著者のミチェル・ウェルベックはイスラム過激派に命を狙われ、警察の保護下におかれたという。
それまで再三イスラム教を批判していながら、預言者を気取るのは許せないということなのだろう。
ウェルベックは1998年に『素粒子』を発表して以来、いくつもの問題作を手がけてきた。

服従
服従
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ミシェル ウエルベック  大塚 桃 訳
河出書房新社
2015年9月 ★★★★★
売り上げランキング: 612

2022年のフランス大統領選挙で、移民排斥を訴える右派の候補がトップになり、イスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベスは僅差で2位となった。決選投票で、ファシストかイスラムのどちらと組むかを迫られた左派と中道派は、イスラムの方がマシと判断した。
この結果、ベン・アッベスが圧倒的な勝利を収めフランスはイスラム化への道を進んでいくことになった。

主人公のフランソワは、ソルボンヌ=パリ第3大学の教授。19世末のフランスの代表的なデカダン作家ジョリス=カルル・ユイスマンスの研究者である。日常に流されて生きている独身の中年男。
大学は封鎖されフランソワは職を失うが、暮らすに困らない額の年金を手にすることになる。政権のバックには巨額のオイルマネーがあるのだ。

連合政府は好意的に評価された。
変わったことといえば、女性の肌の露出が極端に少なくなり、体の線が目立つ服は見られなくなったこと。テレビからはエロティックな要素が消えた。
また犯罪は激減した。
女性が労働市場から姿を消し、家族手当が大幅に引き上げられた。失業率は低下した。
そして義務教育は12歳までになった。
欧州連合に、トルコを加える交渉が始まり、モロッコも加える構想が出てきた。
ベン・アッベスの野望はオスマン帝国を築くことである。

フランソワは、大学の同僚だったスティーブに出会う。
スティーブは、大学管轄の広い宿舎に住み、給料はかつての3倍、すでに結婚し来月には2番目の妻を娶ることになっている。ランボーがイスラム教に改宗したという不確かな史実を教えているのだろう。

フランソワにも古典叢書編纂の仕事が舞い込んできた。ユイスマンスを担当することになった。
フランソワはユイスマンス研究の第一人者として丁重に応対されるようになるだろう。
そして、改宗すれば裕福な暮らしが待っている。複数の若い妻を娶ることもできるだろう。フランソワはそれも悪くはないと思うようになっていた。→人気ブログランキングへ

『火星の人』アンディ・ウィアー

火星にひとりとり残された男の話にもかかわらず悲壮感がないのは、主人公が陽気でひたする前向きだからだ。日記形式で綴られる日々の生存の記録が、宇宙に関する豊富で緻密な知識に裏打ちされていて、リアリティがありつい引き込まれてしまう。

火星の人
火星の人
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アンディ・ウィアー  小野田和子訳
2014年8月
早川書房  ★★★★★
売り上げランキング: 329

人類史上3度目の米国有人火星探査計画アレス3は、ミッション6日目をむかえた。
船外活動中にクルーは激しい砂嵐に襲われ、マーク・アトニーはただひとり火星に取り残される。他のクルーはマークは死んだものと判断し、彼らにも危険が迫っていたため、あわてて地球への帰途についた。

マークにとって幸いだったのは、彼自身がメカニカル・エンジニアでしかも植物学者であったことだ。加えて、無類に陽気な男だった。
予備の食料は早々と底をつきそうだが、何年も持ちそうなビタミン剤を見つけた。マークはジャガイモ栽培を思いつく。ハブ内に畑をつくり、水を作り、暖房装置を修理し、二酸化炭素処理措置を修理しと毎日を忙しく過ごす。
余暇には、クルーたちが残していった70年代のテレビドラマ、ロック、アガサクリスティのミステリを引っ張り出してきて、気分転換するのだ。

やがて、マークは起死回生のアイデアで通信装置を復活させNASAと連絡を取るようになる
地球は大騒ぎになり、大統領が声明を発表し、特集番組が組まれる。姿こそ見えないものの、まるで映画『トゥルーマン・ショー』(1998年)のように、マークの日常は世界の人びとの関心事となる。
やむなくマークを火星に置き去りにして地球に帰還中のクルーたちは心が穏やかではない。
こうして、火星とNASAと宇宙船を舞台にして、話は後半に進むのである。→ブログランキングへ

【本書で使われている宇宙・火星関連用語】
アレス計画:火星探査ミッション(地球・火星間はおよそ8ヵ月かかる)
ハブ:居住スペース
ヘルメス:母船
ソル:火星の1日、地球より39分長い
MAV:火星上昇機
MDV:火星下降機
EVA:船外活動
JPL:ジェット推進研究所
RTG:放射性同位体熱電気変換器
ソジャーナ:火星面探査車
マヌーバ:宇宙船の軌道を変えるための推進システム