SF

『宇宙船ビーグル号の冒険』A・E・ヴァン・ヴォークト

本書は、1950年に発刊されたA・E・ヴァン・ヴォークトの長編SF小説『The Voyage of Space Beagle』の新訳版。それまでに発表した4つの中編を合わせて長編に仕立てている。
日本では本書が、ヴォークトの代表作とされているが、本家のアメリカではそうした評価はないという。

科学者と軍人合わせて1000人の乗組員を擁する巨大宇宙探査船なかで繰り広げられる権力争いを縦軸に、未知の宇宙生物との攻防を横軸に描くスペースオペラの古典である。
人間と宇宙生物の二つの視点で描かれているので、読み手は探査船を襲う生物の思惑を知ることができる。この手法は本書を特徴づけている。

宇宙船ビーグル号の冒険【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト/沼沢洽治
創元SF文庫
2017年7月 ✳︎10

肩から太い触手を生やした巨大猫型宇宙獣のケアルには哀愁が漂う。ケアルは惑星の住民同士の絶滅戦争に耐えて生き残った実験動物なのだ。
リーム鳥型星人のテレパシー文明に接触したビーグル号の乗組員は大混乱をきたす。
何千年もの昔、故郷の星の爆発で隆盛を誇った種族は滅び、不死身の緋色の怪物イクストルは宇宙空間をさ迷っている。イクストルは原子構造を変化させてビーグル号の堅い外壁を通り抜け船内に入り込み、卵の孵化場となる人間〈グウル〉を見つけ出そうとする。
ビーグル号が渦状星雲に入ろうとしたところで、乗組員の五感に刺激が送られてきた。銀河をおおいつくすほど成長した巨大ガス状生命アナビスの生息域に足を踏み入れたのだ。その瞬間からアナビスの存亡をかけた死闘に巻き込まれる。

謎の宇宙生物と戦う一方、船内では権力争いがくり広げられている。
物理学や科学や地質学などの部長たちから見れば、総合科学(ネクシャリズム)部のグローヴナーは若造であり、総合科学は得体の知れない格下の新興の学問なのだ。しかし専門家の狭い視野では、ビーグル号が遭遇する難敵を蹴散らすことはできないだろう。グローヴナーは次第に力をつけていく。
グローヴナーの良き理解者である考古学者の苅田は、「末期農民型」社会という単語を使って敵の状況を言い表す。それはとりもなおさず、船内で繰り広げられている権力闘争を揶揄しているのである。→人気ブログランキング

『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー

しばしば誤解されるが、フランケンシュタインは「怪物」を生み出したスイス人科学者の名前である。「怪物」には名前が与えられていない。本作は、1813年にイギリスの女性作家メアリー・シェリーが発表したゴシック・スリラー小説である。SF小説の嚆矢とも位置づけられている。

フランケンシュタイン (新潮文庫)
メアリー シェリー
新潮文庫
2014年
売り上げランキング: 11,917

イギリスの北極探検家が姉に宛てた手紙の形をとっている。探検家は、北極海で衰弱したヴィクター・フランケンシュタインを助け、ヴィクターの話を手紙に綴って姉に送る。

ヴィクターはドイツの大学で学び、「理想の人間」を作ろうと、墓を暴き死体をつなぎ合わせて怪物を作り出す。未完成の状態で怪物は実験室を逃げ出す。
怪物はドイツの片田舎で暮らす父子3人の生活を観察し、善意と寛容を学ぼうとする。森で拾った鞄から出てきた『失楽園』『プルターク英雄伝』『若きウェルテルの悩み』を読み、それぞれの感想を述べるくだりは、知性を得て、純粋な心もとうとする怪物の心情が表われている。
風貌はおぞましいほど醜悪で、身体つきは並外れてでかい怪物が、一家に認めてもらおうと姿を現すが、追い払われてしまう。
自分が認められないことに絶望し、ヴィクターに復讐しようと、ヴィクターの弟を絞殺し、その犯人としてフランケンシュタイン家の従順な女中に濡れ衣を着せ処刑に追いこむ。
さらに、ヴィクターの無二の親友を殺し、ヴィクター自身が殺人犯と疑われ牢獄に放り込まれてしまう。
怪物の心境は、揺れ幅が極端なのだ。

孤独な怪物は寂しさを紛らわす伴侶を作ってくれるように、ヴィクターに頼む。ヴィクターは一時は作ろうとしたものの、伴侶が邪悪な心を持つやもしれず、さらに子孫を残すこととなれば邪悪な一族となるやもしれない。そのような約束を請け負ったことを後悔し、約束を反故にする。

やがて、ヴィクターは兼ねてから結婚の約束をしていた最愛の人と結婚するが、新婚旅行の宿に現れた怪物に新妻が殺されてしまう。さらに度重なる不幸に見舞われたヴィクターの父親も、心痛に耐えかねて亡くなってしまう。

愛する人をことごとく失ったヴィクターは、ジュネーブを出て怪物を殺害するために、北へ向かう流浪の旅に出る。そして北極海で遭難し探検家の船に拾われる。
すべてを語り終えた、ヴィクターは船上で息を引き取る。
怪物が船に現れ、自分の創造主であるヴィクターの死をいたく悲しむ。怪物は北極圏に向かい、その後人間界には二度と現れなかったのである。
愛と悲しみと残酷さに満ちた物語である。→人気ブログランキング

『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター

アイデアがこれでもかというくらい盛り込まれていて、ストーリーはかなり強引に進む。1956年に発表されたSFの古典。
スティーヴン・キングは、『ジョウント』というタイトルで、テレポテーションに関するSFホラーの短編を書いている。本書に敬意を払うかのように、作中で『虎よ、虎よ!』について言及している。『神々のワードプロセッサー』(扶桑社ミステリー文庫 1988年)、『ミスト 短編傑作選』(文春文庫 2018年)に収録されている。

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
虎よ、虎よ!
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アルフレッド・ベスター/中田耕治
ハヤカワ文庫
2008年

25世紀。人類にはテレポテーション(ジョウント)の能力が備わっていた。移動の能力は個人によって差があり、移動の範囲は惑星上に限られ宇宙を移動することはできないとされていた。
ジョウントにより人々の生活は激変し、古い秩序は壊れ、社会は著しく荒廃していた。
金星、地球、月、火星からなる内惑星連合と、木星、土星、冥王星の衛星からなる外衛星同盟との間で戦争が起こっていた。

火星と木星の中間地点で、戦闘艦からの攻撃を受けた、プレスタイン財閥の宇宙船《ノーマッド》が漂流していた。《ノーマッド》に、唯一生存していたのは本書の主人公ガリー・フォイル三等航海士である。
漂流して約半年がたったときに、プレスタイン財閥の輸送艇《ヴォーガ》が《ノーマッド》の近傍を航行したが、フォイルが放った信号弾を無視して飛び去っていった。
《ノーマッド》の無視を命令したのは誰なのか。フォイルはプレスタインへの強烈な復讐心を持つようになる。

《ノーマッド》をなんとか修理し地球に向かったフォイルは、火星と木系の間に広がるサルガッツ小惑星帯の野蛮民族に捕らえられ、本書のタイトルともなっている、顔全体に虎のような模様の刺青を彫られてしまう。
フォイルはサルガッツ人のロケット艇を奪って脱出し、内惑星連合の宇宙海軍に救助され地球に戻ってくる。
フォイルは苦難に遭遇するたびに、超人的な肉体と精神を兼ね備えていく。

一方、地球では、《ノーマッド》に積まれている2000万クレジットの膨大な白金と、戦争を一気に終わらせてしまうほどの破壊力を持つ物資の「パイア」を手に入れようと、フォイルの行方を追う者たちがいる。
それは、イグアナのような容貌をもつプレスタイン財閥の当主・プレスタイン、孟子の子孫である内惑星連合中央諜報局ヤン・ヨーヴィル大尉、原子爆発の事故にあい、自らが放射能を発する天才科学者のソール・ダーゲンハムの3人の怪物たちである。

物語には個性的な3人の女性が登場する。まずは、地球に帰還したばかりのフォイルにジョウント能力の再教育を施す美貌の黒人女性ロビン・ウェンズバリー。
フォイルは捕らえられ思想犯の教育施設・洞窟病院に送られるが、そこで「ささやきライン」を通じて知り合いとなり、病院からふたりで脱走することになるジスベラ・マックイーン。
そして、アルビノで目が不自由で氷の心を持つプレスタイン家の令嬢、オリヴィア・プレスタインである。

《ノーマッド》に積み込まれている2000万クレジットの白金はどうなるのか?「パイア」とは一体なんなのか?その威力は?
フォイルは、全身全霊を傾けて荒廃しきった世界を救う手段を模索するのだった。→人気ブログランキング

『西城秀樹のおかげです』森 奈津子

表紙カバーの椅子に腰掛けたセーラー服の少女とその右手に持っている器具を見れば、本書の内容はおよそ想像がつく。性倒錯や同性愛をテーマに、あっけらかんとした陽気な内容のSF短編集である。第21回(2000年)日本SF大賞にノミネートされた。
著者はクィア理論の実践者だという。クィア理論とは、性的マイノリティ(LGBT)から見て、性的マジョリティの考え方が正しいかを疑ったり、歴史上、クィアがどのように扱われてきたかを分析したりする理論のことである。クィアとは「queen」のことで、「奇妙な」という意味。
本書はそのクィア理論をまさに実践する内容である。

西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫JA)
森 奈津子
ハヤカワ文庫JA
2004年

「西城秀樹のおかげです」
地球が殺人ウイルスに襲われ、残されたのは日本人の男女2人だけ。
なぜ2人だけが生き残ったのか?当時日本で流行っていた「YMCA」を歌っていたからだという。元の楽曲は米国で男性ゲイを鼓舞する歌だという。そして、2人は人類の未来を決める選択を迫られる。
「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」
地球行きシャトルの事故で亡くなった兄夫婦から、時子が受け継いだのはいくばくかの財産とアンドロイドのハンナ。10歳の遺児・絵美里を慰めるようとハンナに命ずるが、ハンナは兄夫婦に寵愛されたセクサロイドだった。
「 天国発ゴミ箱行き」
若い男は死後の世界にいる。人生プランナーが3通りの来世を男にプレゼンテーションするが、その中に、本書の著者・森奈津子の人生が含まれたという、自虐ネタ。
「悶絶!バナナワニ園!」
苦痛こそが快楽のマゾヒストの囚人の話。
「地球娘による地球外クッキング」
庭に洗面器ほどのUFOが落ちてきた。親指ほどの緑色の宇宙人の死体が2体。宇宙人をテンプラにして食べようとする。
「タタミ・マットとゲイシャ・ガール」
地球で最後の金髪の女吸血鬼が罠にはまり、電脳空間で蚊にされてしまう。蚊は山田家に忍び込み若い娘の血を吸い、もとの姿に戻ろうとする。
「テーブル物語」
天板の四角に女性器、脚に男性器が彫刻されたテーブルの物語。
「エロチカ79」
「後生だから」とは、呪縛プレイのはじまりの言葉であった。→人気ブログランキング

『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部 上下』 山本弘

ビブリオバトルをテーマにしたライトノベル。
ビブリオバトルとは、本について意見を戦わせたり語り合うことが、新たな読書に向かわせるという考えのもとに、立命館大学の谷口忠大によって考案された知的書評合戦のこと。

【ビフリオバトルの公式ルール】ビブリオバトル普及委員会
知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト
1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2.順番に一人5分間で本を紹介する。
3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
4.全ての発表が終了した後に、「どの本が一番読みたくなったか」を基準とした投票を参加者全員で行い、最多得票を集めた本を『チャンプ本』とする。

本書の主人公、伏木空(ふしきそら)は、中学生の時に、好きな男子にラブレターを送ったことが原因で、いじめられるようになった。
いじめを知っている生徒がいない高校へ進学したかった空は、公立高校へは進学せず、私立の美心国際学園(BIS)に入学した。BISは制服がなく髪の色も自由、おおらかな校風なのだ。
空は無類のSF好き。そんな空が同じクラスの埋火武人(うずめびたけと)に誘われて入部したのが、ビブリオバトル(BB)部である。
女性のSF好きは珍しいが、空のSFに対する知識も情熱も生半可なものではない。

武人は埋火酒造の御曹司で、武人の祖父の蔵書にはSF小説が多数あった。武人はSFにはまったく興味がなくノンフィクションしか読まなかったが、空の影響でSFに目を向けるようになる。

BISビブリオバトル部1 翼を持つ少女 上 (創元SF文庫)
創元SF文庫
2016年
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BISビブリオバトル部1 翼を持つ少女 下 (創元SF文庫)
創元SF文庫
2016年
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ビブリオバトルのデビュー戦で散々な結果に終わっった空が悔やんでいると、武人は空を諭した。
「ビブリオバトルで選ばれるのはあくまでチャンプ本であって、チャンピオンではない。チャンプの栄誉はその発表者ではなく本に与えられる。発表者の良し悪しを競っているわけじゃない。あくまで、本が主役なのだ」と。
というのは建前で、チャンプ本をプレゼンテーションした選手は、当然、勝利の栄誉に浴する。

BIS高のBB部の色の黒い混血の女子部員が、双子沢高校社会学研究会の部員から、人種差別的な言葉を投げかけられた。この事件が発端となって、両校はビブリオバトルで戦うことになった。

空は出場しない予定だったが、やる気満々で自分から出場を志願した。空が取り上げた本は、本書で何度か取り上げられるエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』。フェッセンデン博士が実験室内に宇宙を作り出すSFの短篇である。

本書にはビブリオバトルのほかにもうひとつのテーマがあり、それは人種差別である。
関東大震災時の朝鮮人の虐殺について語られ、この事件にこだわりすぎるきらいがある。また、性的な描写も掲載され話題にのぼった『アンネの日記 増補版』がバトル本に取り上げられている。
なにしろ、144冊の本について触れられていて、本好きには見過ごせない内容になっている。本好きというのは、本のタイトルが並んでいるだけで、その本を読んでみたいと思うもなのだ。→人気ブログランキング

翼を持つ少女
『世界が終わる前に』
『幽霊なんて怖くない』
『君の知らない方程式』

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド

南北戦争を数10年後にひかえたアメリカの南部諸州が舞台。アメリカの暗黒の歴史を、SFの要素を加味して描き出す。

女奴隷のコーラは、シーザーに誘われてラヴィーとともにランドル農場を脱走した。途中で野豚狩りの白人たちに出くわしラヴィーが捕まった。コーラは逃げおおせたが、少年と格闘したさいに重傷を負わせ、白人殺しのお尋ね者として手配されることになった。
ランドル農場の主人は、シーザーとコーラの2人に高額の懸賞金をかけ、執拗に連れ戻そうとする。捕まれば、他の奴隷たちの見せしめに、とびきり派手な拷問と死が待っているのだ。コーラの想像を絶する過酷な逃亡劇が描かれていく。

地下鉄道
地下鉄道
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コルソン・ホワイトヘッド/谷崎由依 訳
早川書房  2018年12月
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コーラはアフリカから連れてこられて3代目の奴隷で、身寄りがない。母のメイベルが8歳のコーラを置き去りにして農園から脱走したからだ。メイベルは未だに捕まっていない。
コーラをはじめ、脱走を持ちかけたシーザー、サウス・カロライナでコーラに隠れ家を提供した白人の妻エセル、2メートル近くもある大男の奴隷狩り人リッジウェイの、ファミリー・ヒストリーが綴られている。ファミリー・ヒストリーが描かれることによって、物語に深みが出ている。
リッジウェイがコーラを執拗に追いかけるのは訳がある。ランドル農場で脱走を成功させた唯一の人間がコーラの母親である。コーラが引き継いでいる特別な血を、根絶やしにする必要があるのだ。

地下鉄道には、駅があり機関士と呼ばれる人物がいて、機関車が走っていることになっている。しかし、実際には鉄道があるわけではなく、地下鉄道は逃亡奴隷たちを逃がすためのネットワーク(秘密結社)のことである。ネットワークにかかわっていることが知られてしまえば、処刑される。
地下鉄道に乗ることができたからといって、奴隷州から脱出できるとは限らないが、地下鉄道は逃亡奴隷にとって北に逃れる唯一の手段なのだ。

ピューリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。さらに英ブッカー賞の候補でもあった。→人気ブログランキング

『紙の動物園』ケン・リュウ

本書は、2015年に発刊された『紙の動物園』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)を、文庫2冊に分割したものの1冊。
ケン・リュウの短篇は説明を極力省いてストレートに表現される。そのため、展開にスピード感がある。テーマはSFの枠を越えて幻想的な世界にも広げている。非凡な才能だ。中国系アメリカ人らしいシノワなテーマが選ばれている。

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)
紙の動物園
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ケン・リュウ/古沢嘉通 編訳
ハヤカワ文庫
2017年4月
売り上げランキング: 10,467

「紙の動物園」
父は中国人の母をカタログで買ってコネチカットの片田舎に連れてきた。母は僕に折り紙で動物たちを作ってくれた。
大学生の頃、母は癌で亡くなった。
社会人になり、箱に入った動物の折り紙を見つけた。虎の折り紙は中国語で書かれた僕宛の母の手紙だった。そこには、中国の家族のこと、母が父に買われるまでのこと、コネチカットに来てからのこと、幼い僕のこと、思春期の僕のこと、母の願いが書かれていた。
「月へ」
北京の暑い夏、泣き叫ぶお前をおぶって木をよじ登り月に着いた。月は涼しく、お前は泣き止んだ。ところが田舎者の我々は歓迎されていないようだった。
お前はいま中国系難民のための弁護士をしている。月はアメリカのことだ。
「結縄」
5年前、ト・ムというアメリカの好青年が村に来て、写真を撮り、草花を採取し、村人から情報を得て金を払った。
干魃になると、村人に信頼されたト・ムは干魃に強い稲の作付けを勧めた。予想を上回る収穫が得られたものの、種籾には特許がついていた。
「太平洋横断海底トンネル小史」
日本から米国に通じるの海底トンネル掘削の話。
「心智五行」
細菌が完璧に駆除された高度文明社会に属するタイラは、宇宙船の故障により未調査の惑星に不時着する。原住民の看病により一命をとりとめめたタイラの腸に、細菌叢(フローラ)が形成され、タイラは冒険的に衝動的になり恋をする。→人気ブログランキング

他2篇、「愛のアルゴリズム」「文字占い師」。

→『紙の動物園
→『もののあわれ』

『宇宙探偵 マグナス•リドルフ』 ジャック・ヴァンス

本短篇集に収録されている作品は、主に1948年から1952年に発表されたと「訳者あとがき」で紹介されているが、古さを感じるどころか斬新ですらある。訳者の才も関係すると思うが、AIすら存在する現在に斬新と感じられるのは、時代を先取りするアイディアがそこらじゅうに散りばめられているからだ。

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)
ジャック ヴァンス
浅倉久志・酒井昭伸  訳
国書刊行会
2016年

マグナス・リドルフは、白髪・白髭でスラリとした体型の哲学者然とした中年過ぎの男。悪党どもは「老いぼれ山羊」と陰口を叩く。
頭脳明晰で、身に降りかかる難題や危機を、常人なら想像だにしない方法で切り抜ける。それだけでは収まらず、悪人どもに再起不能のダメージを与えて締めくくる。
マグナス・リドルフは、分不相応な巨額の投資を行い投資した分を回収できないことがしばしば。収支はいつも赤字で、金をかせぐためにTCI(地球情報局、テレストリアル・コー・オブ・インテリジェンス)に依頼される、非公式エージェントとしての活動する。言ってみれば宇宙をまたにかけたその日暮らしの探偵稼業である。

登場するのは、魑魅魍魎のごとき異星人と人間。
異星人たちの奇怪な姿がなんとも不思議な味わいを醸し出す。
意表をついた奇妙ながらリアルな異世界を舞台に、異星人たちと癖の強い人間たちが織りなす物語には、著者特有の気障な風あいが加味されている。→人気ブログランキング

収録されているのは以下の10篇。
「ココドの戦士」「禁断のマッキンチ」「蛩鬼乱舞」「盗人の王」「馨しき保養地」「とどめの一撃」「ユダのサーディン」「暗黒神降臨」「呪われた鉱脈」「数学を少々」

『スペース・オペラ(ジャック・ヴァンス・トレジャー)』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2017年
宇宙探偵マグナス•リドルフ』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『奇跡なす者たち』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2011年

『一九八四年』[新訳版] ジョージ・オーウェル

2017年1月20日に、ワシントンDCで行われた大統領就任式に集まった聴衆の人数を、トランプ政権の報道官が、史上最高と水増しして発表した。メディアは、聴衆が著しく少ないのはテレビ画面を見れば明らかであると報道した。
これに対して、トランプ政権の最高顧問の一人が、報道官の報告は嘘ではなく「代替的な真実(Alternative Fact)」と説明した。事実を平然とねじ曲げたこの発言に、アメリカの有権者はトランプ政権にオーソン・ウェルズの『一九八四年』で示された全体主義の影を感じとったのだ。
そして、本書は Amazon.com の「書籍ベストセラー20」にランクインした。それが日本にも飛び火したわけである。
原作の発刊は1949年。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
一九八四年[新訳版]
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ジョージ・オーウェル/高橋和久
ハヤカワepi文庫 2009年7月
売り上げランキング: 637

主人公のウィンストン・スミスは39歳。
オセアニアで3番目に人口の多い地域の首都ロンドンに住んでいる。ウィンストンは報道、娯楽、教育および芸術を管理する真理省記録局に勤めている。仕事は歴史の改竄。
何年も前から戦争が続いていて、週に20発か30発のロケット弾がロンドンに打ち込まれている。地方都市には原爆が投下された。

大きなピラミッド型の真理省の建物の壁には、「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なり」という党のスローガンが書かれている。真向かいの建物に貼ってあるポスターには「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」と書かれている。
人びとは町中に設置されたテレスクリーンで見張られている。各家庭にもテレスクリーンが設置されていて管理されている。
厳重に監視され、あらゆることが〈ビッグ・ブラザー〉に強制される社会。子どもたちは親たちを非正統派の兆候が見えないかと監視している。
子どもたちの行動は、1960年代後半から中国全土で起こった文化大革命を彷彿とさせる。社会の構造は現在の北朝鮮と重なる。

古い新聞や書物は回収され破棄される。国にとって都合の悪ことは消し去られるのだ。
言葉はすべてニュースピーク言語に統一されつつある。世界的文学作品はニュースピーク言語に置き換えられていき、言葉の意味は狭められて、副次的な意味は削除されていく。
こうして、〈ビッグ・ブラザー〉の意図する形に国は造り変えられている。

ウィンストンはジュリアという若い娘と親しくなり、ふたりは密会を重ねる。
やがて、ウィンストンは革命組織「ブラザー同盟」とコンタクトをとるようになるが、何年も前から彼を監視していた男がいたのだ。
ウィンストンは思考警察に捕まり、過酷な拷問を受け洗脳されていく。→人気ブログランキング


『地球の静止する日』ハリー・ベイツ 他

過去に映画やテレビの素材となった物語を、再度、大手映画会社でリメイクの企画が持ち上がったものを選んだアンソロジー。選者は訳と解説を担当する尾之上浩司。

「地球の静止する日」ハリー・ベイツ
3ヶ月前、旅行船が博物館に現れ、旅行船から主人・クラートゥと巨大なロボット・グナットが降り立った。クラートゥが狙撃されるという、人類にとって恥辱となる事件が起きてしまう。
礼を尽くした葬式が行われたが、グナットはまったく動かなくなり、あまりの重量で動かすこともできなかった。博物館に突き刺さった船もグナットもそのまま展示されている。
写真記者のクリフは、博物館が閉館するまでテーブルの下に隠れていて、館が閉まり誰もいなくなると、グナットの写真を撮った。昨日と今日の2枚の写真を比べるとグナットはわずかに動いているのだ。
やがてグナットは夜になると派手に動き回っていることが分かった。

地球の静止する日 (角川文庫)
地球の静止する日
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ハリー・ベイツ 他
角川文庫  2008年

「デス・レース」イブ・メルキオー
ニューヨーク=ロサンゼルス間カーレースは、最短距離で時間だけを稼ぐレースではない。人を轢殺すと犠牲点が加算される。レーサーのウィリーはメカニックのハンクを乗せて出発した。
着実に犠牲点を加算していくが、ウィリーは犠牲点を稼ぐことを躊躇した。そのことが原因で車中で喧嘩になり事故に。。

「廃墟」リン・A・ヴェナブル
街は破壊されたが、ヘンリーは待望のひとりで本を読める時間を持つことができたと喜んだのもつかの間、次の爆発が起こった。

「幻の砂丘」ロッドサーリング&ウォルター・B・ギブスン
1948年、クリストファーは幌馬車隊の隊長としてオクラホマからカリフォルニアに向かった。途中、水がなくなりかけ、クリストファーが西に向かおうとすると、隊員の大方は引き返すという。クリストファーは水を求めて砂漠の縁に向かった。そこで、クリストファーは時空の歪みに入り込む。

「アンティオン遊星への道」ジェリィ・ソール
ジャーナリストのキース・エラスンは星間移民船に乗ることになった。
今回は2回目。1回目の移民船では暴動が起こり、多くの死者を出した。キースは監視役を頼まれたのだ。
レッドマスクはアタッシュケースを盗み、女を暴行した。
結成された自警団は銃を奪われ金品が盗まれる事件にまで発展したが、レッドマスクは捕まり処刑される。
船内で不満を持ちがちな乗客の怒りをレッドマスクに向けさせ、発散させるために仕組まれた狂言だった。

「異星獣を追え!」クリフォード・D・シマック
ヘンダーソンは逃亡した狡猾で恐ろしい殺戮マシーンの異星獣"プードリイ"を探している。夜明け前に"プードリイ"を探しだして殺さなければならない。幼生を再生してからでは遅い。ヘンダーソンはプードリイが子孫の生産を行う場所として選ぶのは、動物園だと思った。異星獣との壮絶な戦いが繰り広げられる。

「見えざる敵」ジェリイ・ソール
この惑星で、3隻の小型宇宙船と24名の人員をすでに失っているが、戦った痕跡はない。
ラザリが緊張症に罹り暴れ出した。捕縛されたが、隔離部屋の壁に頭を打ちつけて亡くなった。
コンピュータ解析を進めると、アリソンは人間が消えた原因をつかんだ。
アリソンはラザリの葬儀を中止すべきだ、葬儀を行えば参列者が犠牲になると司令官に訴えた。その提言に司令官は従わなかった。
そして惨劇は起こった。

「38世紀から来た兵士」ハーラン・エリスン
第7次大戦のただ中、兵士クァーロはワープして地下鉄のホームに降り立った。目の前で心臓発作を起こした老人を助けようと近づくと、「そいつが撃った」と指さされ、クァーロは捕まった。
クァーロの持っていたブランデルマイヤー(光線銃)が調べられた。継ぎ目のない造りでエネルギーの供給源がなく、遠距離攻撃も可能な武器だった。
クアーロをどうあつかべきか議論される。

「闘技場(アリーナ)」フレドリック・ブラウン
国の戦いを代理戦争で決着をつけようとする話。
カースンは青い砂の上に裸で寝ていた。冥王星の軌道の外側で一人乗りの偵察機に乗っているときに、敵の偵察機と遭遇した。そのあと記憶がない。
気がつくとカースンはドームの中にいた。戦争の仲介者と名乗る声が心の中で聞こえてきた。戦火の上がっていない辺域からお前と侵略者の1人を選び出したという。
勝った者の種族だけが生き残こる。
侵略者の赤い球体がカースンの前に現れた。しかし、弾力性のあるバリアーに隔てられている。
カースンの停戦協定案に対し、球体から強烈な憎悪の思念波が送られてきた。
石が投げ込まれ、カースンと球体の死闘がはじまる。

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