SF

『宇宙探偵 マグナス•リドルフ』 ジャック・ヴァンス

本短篇集に収録されている作品は、主に1948年から1952年に発表されたと「訳者あとがき」で紹介されているが、古さを感じるどころか斬新ですらある。訳者の才も関係すると思うが、AIすら存在する現在に斬新と感じられるのは、時代を先取りするアイディアがそこらじゅうに散りばめられているからだ。

Photo宇宙探偵 マグナス•リドルフ

ジャック・ヴァンス
浅倉久志・酒井昭伸  訳
国書刊行会
2016年


マグナス・リドルフは、白髪・白髭でスラリとした体型の哲学者然とした中年過ぎの男。悪党どもは「老いぼれ山羊」と陰口を叩く。
頭脳明晰で、身に降りかかる難題や危機を、常人なら想像だにしない方法で切り抜ける。それだけでは収まらず、悪人どもに再起不能のダメージを与えて締めくくる。
マグナス・リドルフは、分不相応な巨額の投資を行い投資した分を回収できないことがしばしば。収支はいつも赤字で、金をかせぐためにTCI(地球情報局、テレストリアル・コー・オブ・インテリジェンス)に依頼される、非公式エージェントとしての活動する。言ってみれば宇宙をまたにかけたその日暮らしの探偵稼業である。

登場するのは、魑魅魍魎のごとき異星人と人間。
異星人たちの奇怪な姿がなんとも不思議な味わいを醸し出す。
意表をついた奇妙ながらリアルな異世界を舞台に、異星人たちと癖の強い人間たちが織りなす物語には、著者特有の気障な風あいが加味されている。→人気ブログランキング

収録されているのは以下の10篇。
「ココドの戦士」「禁断のマッキンチ」「蛩鬼乱舞」「盗人の王」「馨しき保養地」「とどめの一撃」「ユダのサーディン」「暗黒神降臨」「呪われた鉱脈」「数学を少々」

『スペース・オペラ(ジャック・ヴァンス・トレジャー)』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2017年
宇宙探偵マグナス•リドルフ』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『奇跡なす者たち』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2011年

『一九八四年』[新訳版] ジョージ・オーウェル

2017年1月20日に、ワシントンDCで行われた大統領就任式に集まった聴衆の人数を、トランプ政権の報道官が、史上最高と水増しして発表した。メディアは、聴衆が著しく少ないのはテレビ画面を見れば明らかであると報道した。
これに対して、トランプ政権の最高顧問の一人が、報道官の報告は嘘ではなく「代替的な真実(Alternative Fact)」と説明した。事実を平然とねじ曲げたこの発言に、アメリカの有権者はトランプ政権にオーソン・ウェルズの『一九八四年』で示された全体主義の影を感じとったのだ。
そして、本書は Amazon.com の「書籍ベストセラー20」にランクインした。それが日本にも飛び火したわけである。
原作の発刊は1949年。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
一九八四年[新訳版]
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ジョージ・オーウェル/高橋和久
ハヤカワepi文庫 2009年7月
売り上げランキング: 637

主人公のウィンストン・スミスは39歳。
オセアニアで3番目に人口の多い地域の首都ロンドンに住んでいる。ウィンストンは報道、娯楽、教育および芸術を管理する真理省記録局に勤めている。仕事は歴史の改竄。
何年も前から戦争が続いていて、週に20発か30発のロケット弾がロンドンに打ち込まれている。地方都市には原爆が投下された。

大きなピラミッド型の真理省の建物の壁には、「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なり」という党のスローガンが書かれている。真向かいの建物に貼ってあるポスターには「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」と書かれている。
人びとは町中に設置されたテレスクリーンで見張られている。各家庭にもテレスクリーンが設置されていて管理されている。
厳重に監視され、あらゆることが〈ビッグ・ブラザー〉に強制される社会。子どもたちは親たちを非正統派の兆候が見えないかと監視している。
子どもたちの行動は、1960年代後半から中国全土で起こった文化大革命を彷彿とさせる。社会の構造は現在の北朝鮮と重なる。

古い新聞や書物は回収され破棄される。国にとって都合の悪ことは消し去られるのだ。
言葉はすべてニュースピーク言語に統一されつつある。世界的文学作品はニュースピーク言語に置き換えられていき、言葉の意味は狭められて、副次的な意味は削除されていく。
こうして、〈ビッグ・ブラザー〉の意図する形に国は造り変えられている。

ウィンストンはジュリアという若い娘と親しくなり、ふたりは密会を重ねる。
やがて、ウィンストンは革命組織「ブラザー同盟」とコンタクトをとるようになるが、何年も前から彼を監視していた男がいたのだ。
ウィンストンは思考警察に捕まり、過酷な拷問を受け洗脳されていく。→人気ブログランキング

『地球の静止する日』ハリー・ベイツ 他

過去に映画やテレビの素材となった物語を、再度、大手映画会社でリメイクの企画が持ち上がったものを選んだアンソロジー。選者は訳と解説を担当する尾之上浩司。

「地球の静止する日」ハリー・ベイツ
3ヶ月前、旅行船が博物館に現れ、旅行船から主人・クラートゥと巨大なロボット・グナットが降り立った。クラートゥが狙撃されるという、人類にとって恥辱となる事件が起きてしまう。
礼を尽くした葬式が行われたが、グナットはまったく動かなくなり、あまりの重量で動かすこともできなかった。博物館に突き刺さった船もグナットもそのまま展示されている。
写真記者のクリフは、博物館が閉館するまでテーブルの下に隠れていて、館が閉まり誰もいなくなると、グナットの写真を撮った。昨日と今日の2枚の写真を比べるとグナットはわずかに動いているのだ。
やがてグナットは夜になると派手に動き回っていることが分かった。

地球の静止する日 (角川文庫)
地球の静止する日
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ハリー・ベイツ 他
角川文庫  2008年

「デス・レース」イブ・メルキオー
ニューヨーク=ロサンゼルス間カーレースは、最短距離で時間だけを稼ぐレースではない。人を轢殺すと犠牲点が加算される。レーサーのウィリーはメカニックのハンクを乗せて出発した。
着実に犠牲点を加算していくが、ウィリーは犠牲点を稼ぐことを躊躇した。そのことが原因で車中で喧嘩になり事故に。。

「廃墟」リン・A・ヴェナブル
街は破壊されたが、ヘンリーは待望のひとりで本を読める時間を持つことができたと喜んだのもつかの間、次の爆発が起こった。

「幻の砂丘」ロッドサーリング&ウォルター・B・ギブスン
1948年、クリストファーは幌馬車隊の隊長としてオクラホマからカリフォルニアに向かった。途中、水がなくなりかけ、クリストファーが西に向かおうとすると、隊員の大方は引き返すという。クリストファーは水を求めて砂漠の縁に向かった。そこで、クリストファーは時空の歪みに入り込む。

「アンティオン遊星への道」ジェリィ・ソール
ジャーナリストのキース・エラスンは星間移民船に乗ることになった。
今回は2回目。1回目の移民船では暴動が起こり、多くの死者を出した。キースは監視役を頼まれたのだ。
レッドマスクはアタッシュケースを盗み、女を暴行した。
結成された自警団は銃を奪われ金品が盗まれる事件にまで発展したが、レッドマスクは捕まり処刑される。
船内で不満を持ちがちな乗客の怒りをレッドマスクに向けさせ、発散させるために仕組まれた狂言だった。

「異星獣を追え!」クリフォード・D・シマック
ヘンダーソンは逃亡した狡猾で恐ろしい殺戮マシーンの異星獣"プードリイ"を探している。夜明け前に"プードリイ"を探しだして殺さなければならない。幼生を再生してからでは遅い。ヘンダーソンはプードリイが子孫の生産を行う場所として選ぶのは、動物園だと思った。異星獣との壮絶な戦いが繰り広げられる。

「見えざる敵」ジェリイ・ソール
この惑星で、3隻の小型宇宙船と24名の人員をすでに失っているが、戦った痕跡はない。
ラザリが緊張症に罹り暴れ出した。捕縛されたが、隔離部屋の壁に頭を打ちつけて亡くなった。
コンピュータ解析を進めると、アリソンは人間が消えた原因をつかんだ。
アリソンはラザリの葬儀を中止すべきだ、葬儀を行えば参列者が犠牲になると司令官に訴えた。その提言に司令官は従わなかった。
そして惨劇は起こった。

「38世紀から来た兵士」ハーラン・エリスン
第7次大戦のただ中、兵士クァーロはワープして地下鉄のホームに降り立った。目の前で心臓発作を起こした老人を助けようと近づくと、「そいつが撃った」と指さされ、クァーロは捕まった。
クァーロの持っていたブランデルマイヤー(光線銃)が調べられた。継ぎ目のない造りでエネルギーの供給源がなく、遠距離攻撃も可能な武器だった。
クアーロをどうあつかべきか議論される。

「闘技場(アリーナ)」フレドリック・ブラウン
国の戦いを代理戦争で決着をつけようとする話。
カースンは青い砂の上に裸で寝ていた。冥王星の軌道の外側で一人乗りの偵察機に乗っているときに、敵の偵察機と遭遇した。そのあと記憶がない。
気がつくとカースンはドームの中にいた。戦争の仲介者と名乗る声が心の中で聞こえてきた。戦火の上がっていない辺域からお前と侵略者の1人を選び出したという。
勝った者の種族だけが生き残こる。
侵略者の赤い球体がカースンの前に現れた。しかし、弾力性のあるバリアーに隔てられている。
カースンの停戦協定案に対し、球体から強烈な憎悪の思念波が送られてきた。
石が投げ込まれ、カースンと球体の死闘がはじまる。

『亡霊星域』アン・レッキー

舞台は、遠未来の銀河系。前作の『叛逆航路』をかいつまんで紹介すると、
いまや、惑星間国家ラドチが人類世界の大半を支配している。ラドチは従わない惑星を武力で併呑することを繰り返し巨大化してきた。併呑された惑星民にとって、ラドチに対する遺恨の念は拭いきれないものとなっている。
ラドチ圏を3000年前から支配する絶対皇帝アナーンダ・ミアナーイは、何千もの肉体を持ち、ラドチ圏のあらゆるところに存在している。それが、穏便な方のアナーンダとそうでない方のアナーンダに分かれ、敵対しはじめたのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
亡霊星域
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アン・レッキー
赤尾秀子 訳
創元SF文庫  2016年4月
売り上げランキング: 28,309

主人公のブレクは、2000年前の兵員母艦〈トーレンの正義〉で、あまたの属躰を統率する立場にあったAIであり属躰でもあった。20年前の事件で、〈トーレンの正義〉の属躰はブレクはひとりになった。
属躰とはラドチが侵略した惑星の人間にAIをインプラントし戦闘用に改造したものである。
ブレクの正体を知っているのは、前作で極寒の地で行き倒れになっていたところをブレクが助けたセイヴァーデンだけである。セイヴァーデンは生まれもいいし、気品も備わった艦長にふさわしい人物であると、ブレクは評価している。

本作は、艦隊指揮官の立場にあるブレクが、〈カルルの慈(めぐみ)〉の艦長として、辺境の地アソエクの星系に赴任するところからはじまる。ブレクは、セイヴァーデン副官と新米副官のティサルワットを従えている。ブレクはティサルワットの不手際を強引な方法で修正させた。

ところで、ラドチ圏の特徴的な習慣として、ラドチーナは男女の区別はなく、ジェンダーを意識しない。三人称の呼称は「彼女」が用いられる。性別の意識がないかわりに、人種や家系や階級、宗教や社会的地位などによる差異が、きわだっている。礼儀をわきまえているとかそうでないとか、上下関係によって起こる感情の齟齬が、重大事として扱われるのである。

前作でオマーフ宮殿での暴動事件の後、星系間ゲートは封鎖され軍艦以外は星系の外に出ることも情報のやりとりもできない状況になっている。
600年前にラドチに併呑されたアソエクの星系には、4つの星系間ゲートがあり、ひとつは無人の星系に続くゴーストゲートである。
アソエクはステーションと呼ばれるドームで囲われた緑と湖がきれいなガーデンと、それを支えるアンダーガーデンから構成されている。
ブレクは下層民の居住地区アンダーガーデンに宿泊して、下層民の窮状を知ろうとする。→人気ブログランキング

アソエク星系に以前から駐留している軍艦〈アタガリスの剣〉の艦長は、艦隊司令官のグレクに従わざるをえないことが大いに不満なのだ。
大茶園主に不当な労働条件を強いられる労働者や、不当な扱いをうける下層民の生活を改善しようと、ブレクは行動するのだが、反発を買うことになる。また有力者の子弟が起こした性的虐待が、思わぬ事故に発展する。

『星群艦隊』
亡霊星域
叛逆航路

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介

擬似科学を容易に受け入れてしまう人間社会の危うさがテーマ。事件を追いかけるジャーナリストの「わたし」が俯瞰的視点で語る。
著者の多岐にわたる豊富な知識、奔放な発想力、そして卓絶な表現力に脱帽である。

彼女がエスパーだったころ
宮内悠介
講談社
2016年4月

「百匹目の火神」The Biakiston Line
火を使うことを人から教えられたニホンザルの能力が、猿たちの間に広がっていき、猿による放火事件が起きた。空き巣のあと、火をつけたのだ。
猿たちは日本各地で集団放火事件を起こす。共時性の願いが伝播した現象と説明された。
人々は猿を殺傷したが、ニホンザルは天然記念物である。法律が障害となり対策は後手に回った。ある日、雨が止むように猿の放火が終焉する。
「彼女がエスパーだったころ」The Discoveries of Witchcraft
スプーン曲げで有名になった千晴は、大学の物理学教授と結婚した。
ところが、千晴の不在時に夫が非常階段で足を滑らして転落死した。超能力者とされた千晴に疑いがかかり、魔女狩りの事態にまで発展する。
「ムイシュキンの脳髄」The Seat of Violence
バンドのリードボーカルの網岡はなにかにつけ逆上した。
同棲相手で、同じバンドのベース担当のかなえは、網岡に対するオーギトミーに反対した。手術後、天使のように変わってしまった網岡に、かなえは違和感を感じた。
そして、網岡はかなえと別れ郷里に引退した。
オーギトミーの普及に努める医師を批判するフリージャーナリストが殺害される。
「水神計画」Solaris of Words
放射能汚染水に「ありがとう」と声をかければ浄化される話。
「薄ければ薄いほど」Remedy for the Remedy
ごくごく薄めてしまえば毒も薬になるというホメオパシーの疑似科学性が暴露される。
「沸点」The Budding Point
世の中を変えるには、一部の人たちが変わればいい。ある人数の人々が変われば、それが転換点(ティッピング・ポイント)となって、世の中は変わるという。

彼女がエスパーだったころ/講談社/2016年4月
アメリカ最後の実験/新潮社/2016年1月

『叛逆航路』アン・レッキー

ネヴュラ賞・ヒューゴー賞をはじめとする7冠に輝く話題作である。
遠未来の銀河系が舞台。人間は銀河系に広く居住している。
巻末に用語集あり。

本作にはユニークな設定がふたつある。
そのひとつは、ラドチ圏に暮らす人間のラドチャーイは性差を気にしないので、三人称単数は「彼女」が使われる。ところがラドチャーイ以外と会話をするときは、性を意識せざるを得ない。主人公のブレクがそのことを気にするあまり、言葉の選択に迷う場面がときどきあるのが面白い。
もうひとつのユニークな点は、レヴューの最後に記載する。

叛逆航路 (創元SF文庫)
叛逆航路
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アン・レッキー/赤尾秀子
創元SF文庫
2015年11月
売り上げランキング: 28,832

ブレクが、極寒の惑星にある酒場の近くに倒れていたラドチャーイのセイヴァーデンを助けるところから、物語ははじまる。セイヴァーデンは1000年前に死んだと思われていた。

アナーンダ・ミアナーイは、約3000年前から現在に至るまでラドチ圏を支配している皇帝である。
人間のふりをしているブレクの正体は、約2000年前に建造された戦艦〈トーレンの正義〉の装備のひとつであるAI・属躰(アンシラリー)である。
約1000年前、17歳のセイヴァーデンが、〈トーレンの正義〉の副艦長として着任した。やがて〈ナスタスの剣〉の艦長に昇進し転出したが、惑星ガルゼットの呑併さいに〈ナスタスの剣〉は破壊され、セイヴァーデンは行方不明となった。

今から19年前に〈トーレンの正義〉が、全乗組員ともに行方不明になる事件が起こった。
現在と19年前の出来事が交互に継ぎ目なく語られ、ストーリーは進んでいく。
はじめのうちは、腐れ縁で仕方なく一緒に行動するブレクとセイヴァーデンだったが、徐々に友情が芽生えていく。もちろん、わたし・ブレクからみたセイヴァーデンは、彼女である。

ラドチが併呑した属国との関係、ラドチの文化、家系による優遇、ラドチャーイのヒエラルキー、ブレクが仕えた副艦長の死、アナーンダの専制統治に対する不満、反乱・惨殺事件などが描かれている。
そして、ブレクがアナーンダに復讐しようとする理由は何かが、徐々に明らかにされていく。

ユニークな設定のもうひとつは、ブレクの素性は属躰(アンシラリー)と呼ばれるAIであり、複数で自我を共有している集団人格である。かつてブレクは20の体をもっていた。ラドチ圏を支配するアナーンダも何千もの体をもち、同時に何百か所にも存在すると設定されている。
ということは、アナーンダもブレクと同じようにAIなのだろうか?という疑問が浮かんでくる。しかし、解決されないまま物語は終わる。
謎は続編の『亡霊星域』『星群艦隊』にもちこされる。

『ストーカー』アルカジイ&ボリス・ストルガツキー

地球外生命体との接触がテーマ。
生命体がなんの目的で訪れたのか、これから何が起こるのか、手がかりがまったくないまま物語は進んでいく。

〈来訪ゾーン〉は地球に6箇所あり、そのひとつがソビエトのとある町・ハーモントにある。〈ゾーン〉に潜り込み、持ち出せるものはなんでも手当たり次第に持ち出してくる向こう見ずな連中のことを、ハーモントではストーカーと呼んでいる。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
ストーカー
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アルカジイ ストルガツキー ボリス ストルガツキー/深見 弾 訳
ハヤカワ文庫
1983年2月

ストーカーはいい稼ぎになることもあるが、死と隣り合わせの危険な仕事であり、そもそも違法だ。
主人公のレッドとともに〈ゾーン〉に入ったキリールは、突然なくなった。両脚が腐った奴もいる。起こらずピンピンしている者もいる。家族が原因不明のひどい目に会うこともある。レッドの娘〈モンキー〉は口をきけなくなった。父親はボケた。

〈ゾーン〉には来訪者が潜んでいるのかいないのか、塵芥や腐敗物がだらけだったり、火山のように熱いところがあったり、不潔で危険極まりないところ。しかし地球には存在しないお宝が眠っている。

レッドは再び〈ゾーン〉に潜り込むが、命からがら脱出した。
不条理はなにも解決されないままだ。

『幼年期の終り』アーサー・C・クラーク

人類の進化に対するアイロニー。
ある日、巨大宇宙船の一群が、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、ローマ、ケープタウン、東京、キャンベラなどの大都市に現れた。
ある国がミサイルを発射したが、宇宙船は無傷であり、その国は崩壊させられた。
地球外生命体はオーバーロード(上帝)と呼ばれ、その代表であるカレルレン総督により、地球は支配されはじめた。しかし、オーバーロードの目的は明らかではなかった。
やがて人類は中空に停止し続ける宇宙船を、太陽や月と同じような天体として受け止めるようになった。

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))
幼年期の終り
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アーサー・C・クラーク
福島正美 訳
ハヤカワ文庫 1979年4月 ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

宇宙船が地球に現れてから5年が経過し、国同士の争いは起こらなくなり、地球は平和になった。
そして、ついにカレルレン提督が人類の目の前に姿を現した。
その姿は、皮に似た強靭な翼、短い角、さかとげのある尻尾を備えた巨体だった。人類が悪魔ととらえる姿とそっくりであった。

宇宙船が飛来して50年経つと、世界は単一国家になり、科学の発達はなくなった。
ひょんなことから、一流のピアニストであり天文学を学ぶジャンは、地球から40光年離れたオーバーロードの生まれ故郷を知ることになった。
ジャンはオーバーロードの帰還船に潜り込んで密航する計画を立てた。
オーバーロードの国に着いて戻ってくるまでに、ジャン自身には2か月の時間しか経たないが、地球では80年が経過する勘定になるのだ。
カレルレンは、定例会見で帰還船に紛れ込んだ人間がいたことを発表した。

やがてオーバーロードの目的が見えてきた。
地球は放っておけば滅びた。それをわれわれは救ったのだと。人類に危害を加えるためでも交流するためでもなく、人類を幼年期から青年期に進化させるための手助けをするために来たのだという。
しかし、最後に、オーバーロードが抱えるアイロニカルな進化の問題が明らかになる。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック

最終世界大戦の後、アンドロイドと人間の見分けがつかなくなった世界が舞台。
人間とはなにかを問いかける作品である。
放射線で汚染された荒廃した地球に取り残されたのは、他の惑星へ移住できない負の事情を抱えた人たちである。生きた動物を飼うことがステータスとなっている。
主人公のリックは電気羊を飼っていて、本物を飼うことが望み。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
フィリップ・K・ディック/朝倉久志 訳
ハヤカワ文庫 1977年3月
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

下級警察官のリックは、火星から脱走してきたお尋ね者の人型アンドロイドを殺して賞金を手に入れる賞金稼ぎである。同僚のディブが、脱走したアンドロイドに脊椎をレーザー銃で撃たれて負傷した。脱走した8人のうち2名はすでに廃棄処分になり、残るは6名。リックはデイブの情報を手掛かりに追跡捜査を開始する。

リックはオペラ歌手のプリスを仕留めようとしたところ、逆にレーザー銃を突きつけられ、リックが所属する警察署とは別の警察署に連行さる。危うく有罪にされそうになるが、なんとか逃げ切った。

世界最大のアンドロイド・メーカー、ローゼン協会の娘18歳のレイチェルから、アンドロイド殺しの手助けをしたいとの申し出があった。レイチェルは感情移入度テストで、アンドロイドと判定されている。
アンドロイドと関係を持つことは禁じられているにもかかわらず、リックはレイチェルの誘いにのってしまう。
そして、自ら感情移入度テストを受けると、芳しい成績とは言いい難い結果だった。リックは迷いを感じはじめた。

その後、リックはプリスのほか2人を仕留める。
いよいよアパートの立てこもった最後の3人をやっつける段になった。3人は、放射能で脳をやらたピンボケのイジドアをアゴで使っていたが、これが裏目に出てしまい、リックに殺される。

リックは懸賞金で、やっと望みの本物の山羊を手に入れるが、何者かに殺されてしまう。

見分けがつかない人間と人型アンドロイドの違いを著者はどう描き分けているのか。リックにしても、不満ばかり並べる妻にしても、ピンボケのイジドアにしても、相手を思いやる気持ちがある。つまり優しさがあるということだ。アンドロイドは自分や自分たちの利益を追求するだけで、思いやる気持ちは希薄である。
先の見えないリックの人生、分裂症気味の登場人物あるいはアンドロイドたち、そして解決しない結末を、さらりとした表現で描いている。

『星を継ぐもの』ジェームズ・P・ホーガン

本作のすごいところは、実際に長年にわたり答を見いだせずにいる人類の進化の謎に、説明をつけてしまうことである。
月面で真紅の宇宙服を着込んだ男の遺体が発見される。ルナリアンのチャーリーと名付けられたその遺体は死んでから5万年以上経過していると推定され、人間と同じ特徴を兼ね備えていた。

星を継ぐもの (創元SF文庫)
星を継ぐもの
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ジェイムズ・P・ホーガン /池 央あき訳
創元SF文庫 1980年 ★★★★★
売り上げランキング: 626

さらに、月の裏側で地下200フィートに建設された基地の廃墟が発見される。
その基地からは、ルナリアンの男女のばらばら遺体や食料とみられる魚や野菜も発見された。魚は地球上のものではなかった。

火星と木星の軌道の中間に、ルナリアンが住んでいた惑星ミネルヴァが存在していたことが判明する。
地球が最後の氷河期が最盛期にさしかかろうとした頃、それは太陽系全体にまたがる寒冷現象が起こった時期であり、ミネルヴァは生命滅亡の危機に瀕していた。この事態を回避するために、チャーリーよりずっと前の時代に、ルナリアンは他の惑星に移住する計画を実行していた。
チャーリーの手記が解読され、ミネルヴァが惑星間にまたがる全面的な核戦争で破壊されことが推測され、さらに、ルナリアンが月に到達した時期に、月面での大規模な核戦争が起きたとの結論に達した。チャーリーはその戦争で亡くなったのだ。

一方、木星の最大の衛星ガニメデの氷の底深くから、2500万年前の巨大宇宙船が発見された。その宇宙船の乗組員は人間とは似ても似つかぬ巨大な知的生物ガニメアンであった。さらに、まるでノアの方舟のように、太古の地球上の動植物が積み込まれていた。
ガニメアンの骨格とミネルヴァ産の魚の間には進化上の一致が見られた。

物理学者、生物学者、言語学者、技術者たちの懸命の解析が行われ、諸説が飛び交うが、どれもつじつまが合わず謎は深まっていくばかりであった。
そして30人ほどの研究スタッフを集めての会議で、調査委員会の責任者のひとり、原子物理学者のハントが謎を解き明かしてみせる。